RELEASE THE SPYCE ~満ちたる月の兄妹~   作:サク&いずみーる

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EPISODE:002 Burning Heart

『半蔵門先輩とも会話できちゃった♡』

 

『しあわせ』

 

『え!マジで!おめでとう!』

 

 結愛とLINEで話して、改めて喜びと実感が湧いてくる。

 

「半蔵門先輩…♪嬉しい嬉しい……!えへへ♪」

 

 ベッドに顔を埋めて足をバタバタ、喜びを噛みしめる。我ながら随分と顔が緩んでそう。人には見せられないや。

 顔を上げた拍子に視界に時計が入る。9時…もう連絡がきてもいい頃なのに…

 

「歩さん遅いなぁ…何かあったのかな?」

 

 なんとなく嫌な予感がして、思わず昔のことを思い出す。

 

──『本職は任務に戻ります』

 

──『いってらっしゃい!』

 

 あの一言がお父さんと交わした最後の会話になった。

 お父さんはあの後、事件に巻き込まれて殉職した。

 

───もし、歩さんも同じようなことになってしまったら?

 

 そう考えたら、私の行動は速かった。家を出て、自転車を飛ばして歩さんの匂いを辿る。

 運がよかったみたいで、お母さんはぐっすり眠ってた。"嫌な予感がする"って理由は1人で夜の街に出るには不十分過ぎるもんね。確か、歩さん…

 

──『扇町の方を見回って休憩だから』

 

 って言ってたよね?よーし…!

 

「扇町っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩さんの匂いを追ってここまで来たけど、やっぱりいない。自転車漕ぎ過ぎて疲れた私は、郵便局の近くの階段に腰かけた。

 

「はぁ…歩さんの匂い、確かにするんだけどな…」

 

 半分くらい諦めかけた時、春にしては少し冷えた風が私の頬を撫でた。その風に乗って、歩さんの匂いも少し流れてくる。

 

「ふんふん…あっちだ!」

 

 匂いを追うと、少し先に倉庫地帯がある。そこに、誰かいる。1人、2人じゃなくて…もっと大勢。

 

「何……?」

 

 頭のどこかで引き返した方がいい、という声が聞こえた気がした。

 でも、やっぱり好奇心には逆らえない。身を隠しながら、倉庫地帯に入っていく。コンテナの影に隠れて見てみると、2人の婦警さんが捕まっていた。しかも、1人は歩さん──!?

 

「サツに見つかるなんてねぇ…これだから、お前たちとの取引は嫌なんだよ」

 

「ど…どどどどどうしよう……」

 

 あからさまにマズい感じ…これ絶対、犯罪的な何かが行われてる現場じゃん!

 

「そ、そうだ!警察っ」

 

 私が通報しようとした時。

 刃物のような金属音が聞こえた。

 

「さっさと片付けて逃げましょ」

 

 ううん、筋骨隆々な女の人が本当に刃物を取り出して、歩さんに近づいている。

 

「ふふ〜ん、クッキング開始♪」

 

 どうしよう!?これじゃあ、連絡入れてる時間もない…また体が動かなくなる。

 また…こうやって固まってるだけなの?

 

 

 本当にそれでいいの?

 

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いや、ダメだ……

 

 

 

 ここでまた固まってちゃ………ダメだ!

 決意を固めろ、源モモっ!

 

 そう念じると、金縛りにあってたみたいに動かなかった体が言うことを聞くようになった。

 よし、あとは…!

 

 パシャパシャッ!

 

 場違いな私のスマホのシャッター音にそこにいた全員の視線が集まる。

 

「警察呼んでます!顔もバッチリ撮りましたから!」

 

 これで歩さんたちは一時的にでも助かる。でも、その後はどうすれば…

 

「まだいたか…」

 

「あたしに任せなさいィ!」

 

「うわぁ!?警察呼んでますって!?」

 

 考えてる暇もない、早く逃げなきゃ!

 迷路みたいに入り組んだコンテナを抜けて、曲がって、どうにか振り切ろうとするけど…

 

「な〜かなか逃げ足速いじゃな〜い!?」

 

 見た目の割に筋肉の女の人の動きが速い。撒いても撒いても追ってくる。

 

「誰か助けてぇ〜‼︎」

 

 あ、次を抜けたら広い所に出られる…それなら!

 と、考えてた私が甘かった。

 

「うわっ!?」

 

 視界が開けた瞬間、世界が逆さまに映った。理由は私の左足を掴んで宙ぶらりんにされてるから。掴んでるのは…ロボット?

 

「うーん、商品は確かみたいだねぇ?」

 

 燃えるような赤い髪の人は満足そうに言う。筋肉の人は私のスマホを取り上げると、

 

「写真は消滅ゥ♪」

 

 片手でスマホを粉々に砕いちゃった。進級祝いに買ってもらったばっかりなのに…それに最後の希望まで文字通り砕かれた気がして、悔しかった。

 

 勇気…出したんだけどなぁ……でも、嫌なことはまだ終わらない。

 

「若い娘なんて、海で溺れさせてやる!」

 

 赤髪の人がリモコンを弄ると、ロボットが海に向かって私を投げ捨てた。

 

「うわあああああああああ〜!!」

 

 迫る海を見て、『私はこれで死んじゃうのかな』という想いが湧いてきた。

 記憶が一気に頭を駆け巡る。走馬燈ってやつかな。

 

 お母さん、最期まで心配かけてごめんね。

 

 結愛、親友でいてくれてありがとう。

 

 メイちゃんと五恵ちゃん、もう少しお話したかったなぁ。

 

 深結ちゃん、1度でいいから声を聞いてみたかった。

 

──そして、半蔵門先輩。

 

 あの時、挨拶を返してもらっただけでも私は幸せでした。

 覚悟を決め──たわけじゃないけど、ギュッと目を瞑る。せめて、もっと半蔵門先輩とお話…してみたかったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トスッ。

 

 そんな音と一緒に温かい感覚が伝わってきた。明らかに水のそれじゃない。

 目を開くと、綺麗な青髪、白い肌、特徴的な右目の傷。…え?

 

「ふええ!?半蔵門…先輩!?」

 

 見間違えるはずがない。半蔵門雪先輩が、私をお姫様抱っこして飛んでる。ただ、服装がいつもの制服でも私服でもなかった。

 まるで、忍者みたいな服。

 陸に着地すると、私をゆっくり降ろしてくれた。

 

「こんばんは!いいねー、夜の空崎は」

 

「なんだ!?」

 

 聞き覚えのある声の方を見ると、やっぱり見覚えのある人たちがコンテナの上に立っていた。

 その数、5人。全員が半蔵門先輩と同じような忍者のような格好をしている。

 

「えええ!?どうして!?」

 

 混乱し過ぎて、もう私の頭が追いつかない。

 

「軍事人形の密輸現場…ですね」

 

「キメるぞ」

 

 その一言でフードを被ったままの1番小さい人以外の5人が一斉に何かを取り出して口にした。その途端、みんなの動きが速くなる。

 

「ミッション…スタート!」

 

 ぽかんと立ち尽くす私をよそに、青葉先輩やメイちゃん、ツインテールの人が大人たちと戦ってる。半蔵門先輩と五恵ちゃんは私を投げたロボットと格闘している。なんかもう映画か夢を見てる気分…

 

「モモちっ!!」

 

 メイちゃんの叫びに振り返ると、

 

「おらぁああああああ!!」

 

 鉄パイプを持った人が私に向かってくる。私はみんなみたいに戦う力はない。今度こそ終わりだ──そう思った次の瞬間、

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 ギュウンッ‼︎という音と共に、向かってきた人が見えない何かに弾き飛ばされた。

 音が止むと、目の前にバイクに乗った、同じく忍者装束の人が急に姿を現した。ただ、1つ違うのは他のみんながスカートなのに、この人だけ短パンだということ。

 

「はっはー!悪いね、到着が遅れた!」

 

 この声も、やっぱり聞いたことがある。私が聞いた時はこんなに明るい声じゃなかったけど。

 

「もちづ──」

 

「おーっと、ここでネタバレしないでくれ?言いたいことは分かったから」

 

 私の話を遮ると、望月先輩はバイクを動かし、青葉先輩を囲んでいた敵をドリフトで弾いていく。

 

「なんだよ…何なんだよッ!!」

 

 かろうじてドリフト攻撃から逃げ切った人が1人、トラックに乗って逃げようとしているのが見えた。でも、全然動く感じがしない。

 

「クソッ…!」

 

「…無駄…中のコードから、切ってある……」

 

 1番小柄な人がぽつぽつと話すと、トラックに乗ってた人を引きずり出して地面に叩きつけた。

 

「がっ…!」

 

 それだけで意識を失っちゃったみたい。見た目によらず強いなぁ…メイちゃんたちも戦ってた筋肉の人を倒して、襲ってくる人はもういない。それが分かった赤髪の人は逃げようとした。

 

「くそぉ…うっ!?」

 

 小柄な人が飛ばしたワイヤーが赤髪の人を捕まえて、地面に叩きつける。

 

「…何…?逃がして、やると……思った?」

 

 顔は見えないけど、ぽつぽつと出る声は嘲笑っているような感じに聞こえる。

 

「まっ、とりあえずコンプリート!」

 

 あ、そうだ!こんなことがあって忘れかけてた、ごめん歩さん…

 

「歩さん!大丈夫ですか?」

 

「うん…大丈……」

 

 何か飛んできて歩さんたちに当たると、2人とも首がガクッと垂れた。

 え…?まさか2人とも殺された……?

 

「この数時間のできごとを忘れてもらうだけ」

 

 私の心を読んだみたいに半蔵門先輩は持っていたものを見せた。変わった銃──スマホが変形したような形の銃の画面には"記憶消去"って書いてある。安心して、ホッと息をつく。

 

「警察も、じき来るわ」

 

 と、その時。

 

 キィイイイイイイッ‼︎とタイヤが擦れる音、でも来たのはバイクじゃなくて、もう1台のトラックだった。捕まえた赤髪の人を回収して、さっさと逃げていく。

 

「まだ仲間がいたか…」

 

「…ごめん、ミスった……っ」

 

「そんなの後、今は追うわよ!」

 

 半蔵門先輩は私を見て言った。えっ?私もですか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……えーっと、今の状況を説明します…まず、流れで巻き込まれた私は後部座席にいます。

 左はツインテールさん、右は半蔵門先輩に挟まれて。

 運転席に青葉先輩、助手席にメイちゃん。

 さらに、私たちが乗っている車を追うような感じでバイクには望月先輩、その後ろに五恵ちゃんが乗ってます。

 ちなみに、あの小柄な人は後部座席の後ろ──トランクスペースにいる。

 

 後ろから銃弾が飛ぶ。確か、大きい銃を持ってた五恵ちゃんが撃ったんだ。

 弾は弾き返されて、トラックに傷1つつかない。

 

「わお!完全防弾じゃん!」

 

 ところで…

 

「あの〜…こ、これは私の記憶も消されるとか…」

 

 さっきから銃を向けたままのツインテールさんの手を下げようとしてみる。

 

「ん!!」

 

「ひぃっ!!」

 

 やっぱりダメでした〜…

 

「………どー、どー…」

 

 小柄な人が後ろからひょこっと頭と腕を出して、物騒な手を下げてくれた。

 

「ありがとう。えーっと…」

 

 誰だか分からず、戸惑う私を見て、その人はずっと被っていたフードをパサッと取る。溢れた真っ黒な髪にはやっぱり見覚えがあった。

 

「深結ちゃん!?」

 

「………ぶいっ」

 

 誰も聞いたことがないと言われた深結ちゃんの声は、幼くてかわいらしいけど、どこか抑揚のない声だった。

 

「いいかしら?」

 

「はいっ!!」

 

 半蔵門先輩の一言で体がビクッと跳ねる。

 

「まず、ゆっくり落ち着いて。それから話をしましょう」

 

「は、はい…」

 

「あなたは八千代命に推薦されたの」

 

 まだ落ち着いてないですぅ…突然そんなこと言われても…

 

「んぐぐぬぬぬぬ……!!」

 

 ツインテールさんがまたもご立腹の様子で銃を突きつけてくる。一体何に怒ってらっしゃるんだろ…私、そろそろ泣きそうなんですけど…

 

「記憶を消すかどうかは話をしてから」

 

「へっ?」

 

 先輩の言葉を聞いて、また深結ちゃんが銃を下げさせる。

 

「私たちは空崎高校に通う学生であると同時に、平和を守る活動をしているんです」

 

「その名も"ツキカゲ"!戦国時代からある、悪を蹴散らす正義の組織さ!」

 

「戦っている相手は、この街に根を張っている世界規模の犯罪組織"モウリョウ"」

 

「及び、そこに協力している悪ども!」

 

「…まぁ、みんなには秘密の…スパイ活動…」

 

 "秘密"のスパイ活動って…

 

「相当派手にやってるような…」

 

 車はともかく、望月先輩と五恵ちゃんが乗ってるバイクはごまかしようがないかと…

 

「大丈夫、ホログラムで迷彩してるし!」

 

「…多分、今…パトカーの、大群に…見えてる」

 

 深結ちゃんに言われて後ろを向くと、確かにバイクの代わりにパトカーが並んでる。

 

「警察もいろいろあって協力的なのよ」

 

 人が全くいない高速道路に入ったことで、ホログラムが消えてバイク組の2人がまた現れる。

 赤髪の人が身を乗り出し、こちらに向かってロケットランチャーを向けてくる。

 

 え、ロケットランチャー!?

 

「疾風くん?」

 

『"甲賀"だっ!方向北西気味、正面!』

 

 青葉先輩の呼びかけに応じて、望月先輩が叫ぶ。それと同時にロケットが発射される。

 

 ふ、吹き飛んじゃう〜!?

 

 五恵ちゃんがロケットを打ち抜く。空中で爆発して車には当たらずに済んだ…よかったぁ…煙を抜けた後、青葉先輩はふふっ、と笑った。

 鏡越しに見えた先輩はほんわかとした笑顔。でも、今は逆に怖い。

 

「お行儀が悪いです♡」

 

 笑顔のまま、ボタンを押すと私たちが乗っている車からもミサイルが出た。何この車…さらに、

 

『同一方向、正確に』

 

 望月先輩の指示で、また弾丸が飛ぶ。

 

「うげっ!?」

 

 さっきの五恵ちゃんみたいに撃ち墜とそうと、あっちが構えていた銃を正確に弾いちゃった。

 

『因果応報、倍返しだクソったれ』

 

 おかげでトラックに全弾命中。それでも、あまりダメージはなさそうに見える。

 それにしても…

 

「すごい車…」

 

「そうなんですよ!3秒で時速100キロまで加速、緊急脱出装置もありで、これはうまく作れました!」

 

 嬉しそうに早口で説明するのも、すごいって分かったのもいいんですけど!

 

「前!前!!」

 

 高速道路で余所見しないでいただけませんか!?

 

「…ほんと、作るの…苦労した……」

 

「催涙ガス搭載もこの車のアピールポイントよ」

 

「それですそれです♪」

 

「そうではなく〜!」

 

 3人ともなんで、そこまで冷静なんですか!?と、私が半泣きで訴えている横で、

 

「ガタガタうるさいです」

 

 ツインテールさんが下ろされかけていた銃を構え直した。

 

「完全無欠の私のように…」

 

 銃弾が降り注ぎ、回避行動を取ろうと急ブレーキをかける。

 

「「うわっ!!」」

 

 その結果…何故か、ツインテールさんのほっぺにキスしていた。あれ?この味…

 

 カシャッ!

 

 カメラのシャッター音で我に返った。

 

「うぅ〜…!!」

 

「あっ!ご…ごめんね」

 

「…いいもの、撮れた……♪」

 

 カメラを切った犯人は深結ちゃんだったらしい。にしても…あの味、怒り3分の2で…残りは嫉妬?

 

「なんで写真撮ったのよ!」

 

「"師匠"と…報酬の、等価交換…そのネタ…」

 

「なっ!?消しなさい、今すぐ!」

 

「…だが、断る……」

 

 怒りはさっきの事故が原因なのは分かるけど、嫉妬…?なんで?

 2人をよそに、1人で思考にふける私。ある意味カオスです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、私も2人も落ち着いた頃(ツナ缶と交換という話で落ち着いたっぽい。本当にそれでいいの?)、私はずっと思っていた質問をぶつけた。

 

「あの…なんで私をスカウトするんですか?」

 

 特別なことも何もない、こんな一般市民の1人な私をスカウトしてどうするつもりなのか。もっと他にもいい人材はたくさんいるはずなのに。

 そんな疑問にはメイちゃんが答えてくれた。

 

「舌や鼻がすごくいいじゃん!さっきもキスして、なんか分かったんじゃない?」

 

「あは〜やっぱりそこかぁ」

 

 確かに、それは常人離れしてる自信があるかも。

 …何が分かったかは言わないけど。

 

「何より、婦警さんのために頑張った!」

 

 続いて出た答えは、予想外だった。ていうか、どうしてそれを?みんながいるところでは言ってないはずだし…

 

「出てきていいわよ、カマリ」

 

 その声で私のパーカーのポケットから、ぴょこんと見覚えのあるカエルが出てきた。

 

「なっ!?」

 

 全っ然気づかなかった…

 

「…カマリちゃん、おつおーつ…」

 

 カマリ、と呼ばれたカエルは深結ちゃんのもとに飛びついた。

 

「忍者の訓練を受けているカエルです」

 

「モモちが工場でみた人影って、メイたちなんだよねー。カマリをポケットに忍ばせたの!」

 

「…タイミング、としては…Wasabiで…メイメイ先輩が『我が友よ!』って…抱きついた時、ぐらい…?」

 

「そそ!ごめんね!」

 

 てへぺろっ、とメイちゃんが笑う。

 

「あなたは私たちに監視されてたのよ。だからすぐに助けに行けた」

 

「…カマリちゃん、マイク…持ってるし……?」

 

 確かにカマリは何かを掲げて胸を張るような仕草をしてる。

 えっ!?っていうことは…

 

「部屋での独り言も聞いてたんですか〜!?」

 

「…ばっちり」

 

 うわぁぁああああああああ〜!恥ずかしい恥ずかしい… ///

 ツキカゲのみんなにひとしきり笑われた後、青葉先輩が切り出してきた。

 

「ちょうど半蔵…雪ちゃんの弟子が空いてるんですよね。だから、そのポジションにどうかな…と」

 

「えっ?」

 

 私が…半蔵門先輩の弟子…?隣の先輩は黙ったまま顔つきを厳しくした。

 

「断るようなら、夕方からの記憶消すので、今すぐ決めてください」

 

 ツインテールさんが急かしてくるけど、私の心から迷いは消えてくれない。

 

「できるよモモちなら!女子高生は無敵っ!」

 

 メイちゃんは背中を後押ししてくれるけど。

 

「わ…私」

 

 商店街の人たちの顔が頭の中をよぎる。

 確かにこの街も、街の人たちも大切で守っていきたい。

 

「私は…守り、たいけど…」

 

 もう1度頭をよぎるのはロボットと、スマホを握り潰した筋肉の人の光景。

 あの光景を見て身がすくんだことを考えると、

 

「自信が……ないよ」

 

 …とても、できるとは思えない。

 

「自分は半蔵門先輩のように、武術道場の跡取りとか…そういうのじゃないですし…ツキカゲで、やっていけそうには…」

 

 もちろん、望月先輩のような強さも、深結ちゃんや青葉先輩のような頭のよさがあるわけでもない。

 ただの高校生──一般市民。そんな私が、すごい人だらけのツキカゲに入っても守っていけるとは思えない。

 

「私や師匠だって一般市民ですよ?」

 

「えっ?」

 

 単純な驚きで気の抜けた声が出た。ツインテールさんが一般市民?

 

「捕まえました!」

 

『標的が焦ってんな…攻勢に出る可能性が高い、畳み掛けるなら今じゃねぇか!?』

 

 半蔵門先輩は小さく頷いて、屋根がなくなった車の座席から立ち上がった。

 

「初めに自信がないのは、当たり前のことよ」

 

 先輩の言葉は、まだ少し混乱していた私の頭の中の霧を一気に晴らした。

 

「積み上げた努力と、その成果が自信に繋がる」

 

 その言葉と、吹きつける風をものともせずに立つ先輩の姿に、私は思わず目を見開いた。

 

「最後の手段!」

 

 トラックの荷台の部分を突き破って、あのロボットが出てきた。

 

「…チェック、メイト」

 

「えっ?」

 

「…あいつ、もう…詰んだ……」

 

 深結ちゃんの一言は現実になる。

 先輩はワイヤーの上を走った。ふらつくこと無く、真っ直ぐに。

ロボットのパンチも大きく跳んで避けた後、サクッ、と何かをかじる音が聞こえた。

 

 この匂いは…シナモン?

 

 もう1度出されたロボットの重そうな一撃を刀で滑るように受け流した。

その身のこなしはさっきまでとは比べものにならないくらい、鋭く、速い。

 

「はぁっ!」

 

 気合い一閃、大きいロボットは先輩の一撃で真っ二つに斬られた。ロボットの残骸が車から落ちた反動でトラックが横転した。

 

「あとは、ひと握りのスパイス」

 

 私は止まった車から降りた。外を見れば、夜が開け始めている。

 緊迫した空気から解放されたからか、半蔵門先輩のすごさを目の当たりにして驚いたからか、膝の力が抜けてへたり込んでしまった。もしかしたら両方かもしれない。

 

「積み上げた努力と…その成果…」

 

 先輩の言葉を繰り返し、自分の手を見下ろす。

 頼りない、小さな手。でも。

 

「私はまだ…何もしてない…」

 

「大切なのは意志。やるというのなら私が鍛えるわ」

 

 その言葉を聞いて、私の体の奥から何か熱いものが込み上げてくる気がした。

 

「なんだろう…?体が、ふつふつと…」

 

「それは”滾り"よ」

 

「"滾り"……」

 

 なら、先輩に教えてもらった滾り、先輩たちにぶつけよう。

 それが、私の一歩目だ。

 

「私は、この街が好きで!街のみんなが好きで!だから守りたい、そう思います!ツキカゲ、やらせてください!!」

 

 半蔵門先輩は力強く微笑んだ。

 昇る朝日はより一層輝きを増しているように見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 空崎某所にて。

 

「ううッあッ…ああっ……あ"ッ!!」

 

 1人の男が白目を向いて息絶えた。傍らには点滴のような薬が置かれている。

 もう1人の男は早々に命を落としている。

 この男たちは先日、ツキカゲが潜入した工場のリーダーと用心棒である。

 

「お前たちのような無能は、せめて新薬の実験体となって役立て。なぁ、チッチ?」

 

 女は肩に乗った文鳥に慈しむような眼差しを向ける。

 

『盗まれたデータは大丈夫かね?』

 

「あれだけでは何も分からんさ」

 

 女は鼻で笑って答えた。モニターに映る幹部の顔は見えないが、世界各国の様々な立場の人間がこの犯罪組織──モウリョウに関わっている。

 ヤクザのトップ、大企業の社長、殺し屋。中にはある国の大統領秘書もいるそうだ。

 

『忌々しいな…ツキカゲの仕業なのだろう?』

 

 モウリョウに関わる人間でツキカゲの名を知らない者はいない。

 空崎では昔からツキカゲとモウリョウが対立し続けてきた。お互いに情報が掴めていないため、戦いは平行線を保っていた。いや、どちらかというとツキカゲの方が少し有利かもしれない。

 だが。

 

「つい先程ですが、ツキカゲの人間が1人、我らモウリョウに寝返りたいと接触してきたようです」

 

 女の側近である青い瞳の少女がそう報告すると、モニターの幹部たちからどよめきが起こった。

 それは、モウリョウ側が大きく優位に立てることを意味するからだ。長い歴史の中でも前代未聞の事例であった。

 女は不敵な笑みを浮かべた。

 

「今回の計画でツキカゲは潰す。この街もろともな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「内通者、ねぇ…」

 

 空崎某所。こちらではたった今、男がヘッドホンを外し、満足そうに口元を歪めていた。

 

「なるほど?また忙しくなるってわけか」

 

 その目は獲物が罠にかかることを待つが如き、策士の眼だ。

 モウリョウの人間は1つ、致命的な勘違いをしている。

 

「潰されるのはテメェらだ、クソ組織(モウリョウども)。俺の目を誤魔化せると思うなよ?」

 

 今夜の空崎は満月だ。

 

 

 

 




思ったより早く投稿できてしまった…

本作では、Burning Heartは"滾る心"という意味のつもりで。

疾風くんとくっつけるヒロインっていても大丈夫ですか?(相手確定済み、妹じゃない)

  • 別にいいんじゃない?
  • むしろどんどんやれ
  • いや、ちょっとなぁ…
  • は?許さんぞ
  • どっちでもよくね?
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