RELEASE THE SPYCE ~満ちたる月の兄妹~   作:サク&いずみーる

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バイト探し続けてたら元号変わりそう。




EPISODE:004 Strategy

 〜モモside〜

 

 

 

 

 

 

 今日は師匠とカフェに来ました!疾風先輩も一緒、なんだけど…

 

「なんで、そんな格好を…?」

 

「あぁこれ?こうでもせえへんと見れんやろ、人多いし」

 

 先輩は見た目が全く変わっていた。

 師匠と同じ青い髪は短くして、ふちがない楕円形の眼鏡をかけている。パーカー姿のラフな私服はいつも制服姿か、ツキカゲ装束を纏うところしか見たことがない私にとって新鮮さを感じさせた。

 

 知的だけど優しそうな雰囲気…何も知らなかったら、変装とも先輩とも思えなかった。師匠の親戚って言われても疑わなかったと思う。

 

 ちなみに、この姿の時は"半蔵門冬芽(とうが)"と名乗っているらしい。……ちょっと妬けちゃう。

 

「私がこれを飲み終えるまでに、誰か1人新しい連絡先をゲットしてきなさい」

 

「えっ?」

 

 それって、ナンパと言うのではないでしょうか…?

 

「話術の訓練。修行は第2段階に入ったの」

 

 辺りを見回しても、知り合いは見当たらない。ということは…

 

「そこら辺の人から…ですか?」

 

「それ以外にどないな手があるんや…ほれ、早よせんとユッキーが飲み干してまうで?」

 

「はわわわわ……!?」

 

 慌てて立ち上がって、道行く人を観察する。

 目つきの悪そうなサラリーマン、あの人は厳しいし…いかにもセレブなおばさまっぽい人、この人は怖そう…はっ!学校の制服が同じで大人しそうな人、この人なら…!

 

「あ、あの〜ちょっとよろしいですか!?」

 

「は…はい」

 

 深緑の髪はおかっぱで、栗色の瞳に丸眼鏡の女の子は少し困ったように応じてくれた。

 

「決して怪しい者じゃ…ないんですけど、ちょっとお話をいたしたく…」

 

 あ〜ダメだぁ…クラス替え初日で誰にも話しかけられなかった私には厳しいよぉ…全く話が出てこない…すると、女の子の方から話を切り出してきてくれた。

 

「空崎高校の人…ですよね?」

 

「そ、そうそう同じ学校同じ学校!あの〜…何年生ですか?」

 

「2年生…ですけど…」

 

「じゃあ同じだ!私、C組の源モモっていうんだ!」

 

「A組の北斗凪です…」

 

 女の子──北斗凪ちゃんに、私は畳みかけるように頭を下げた。こういう時は勢いが大事っ!

 

「よければ友達になってくれませんか!?」

 

「えっ!?は…は…はい……」

 

 と、なんとか友達になって、連絡先もゲットできた。

 

「れ…連絡先ゲットしてきました〜!…はっ!?」

 

「遅すぎるわ」

 

 師匠はとっくにコーヒーを飲み終えて、パフェを食べていた。

 

「かかっ、頑張ってはいたんやけどなぁ。『決して怪しい者じゃない』ってセリフは怪しい奴の決まり文句やろ?」

 

「うっ…聞こえてたんですか?」

 

「耳の良さには自信があるんよ」

 

 サンドイッチを頬張りながら先輩は笑った。師匠は考えるようにパフェと先輩を見比べて言う。

 

「1度モモに手本を見せたらどうかしら、疾風」

 

「マジか」

 

「拒否するようなら、そのサンドイッチ代は自分で払ってもらうわよ」

 

「んぐっ!?げほっ、ごほっ…っあ"ー、どうりで『何か頼んでいいわよ』なんて言うわけやわ…」

 

 喉に詰まらせかけてむせた先輩に水を渡すと、一気にコップは空っぽになった。

 

「で、どうなの?」

 

「どうって、拒否権ないやん……はいはい、やりますよー…はぁ、じゃあ源」

 

「はい?」

 

 先輩は道行く人たちを指さした。

 

「こん中から好きに選んでみ?誰でもええよ、怖そうな人でも絡みにくそうな人でも。ハードル高くても怒らへんから」

 

 急に言われても…あっ。

 

「じゃあ、あの人で」

 

 私が指名したのはゴツめの中年のおじさん。ちょいワルというか、少なくとも積極的に話しかけたいとは思わない雰囲気の人。

 

「なら疾風、私がイチゴの段に届くまでに戻ってみなさい」

 

「や、(うせ)やろ?なぁ!?」

 

 その間に師匠はパフェに手をつける。

 

「マジかよオイっ!?くそっ…!」

 

 そう言って少し遠い位置にいるおじさんの元に走っていった。

 イチゴの段って…2段目だし、割ともうすぐなんだけどなぁ。

 

 会話は聞き取れないけど、やり取りは見える。

 怖そうな顔のおじさんに、優しい笑みで話しかける先輩。手振りも加えて話しているうちに、おじさんが目を見開いていった。と思ったら、笑顔になって堅い握手を交わして…あ、何かメモを渡された。

 笑顔で別れると、すっごい速さで戻ってきた───!!

 

「うわっ!?」

 

「かは……ッ!!はぁッ…どないなった……あと飲みもん…」

 

 私が水を取りに行く間も、肩を大きく上下させて呼吸をする先輩。パフェは───まだイチゴに届いてない!?

 

「すごい…」

 

「一応言っておくけど、ペースを変えるなんて気遣いはしてないわよ」

 

「知ってるて…そないな甘ったれたことするキャラとちゃうもん……」

 

 持ってきた水を一気にあおって空にすると、先輩は椅子にドカッともたれかかった。

 

「ぷはぁ…生き返ったわー……」

 

「なに話したらそんな一気に仲良くなるんですか?」

 

「んー、詳細は言えへんね、一般人にはプライバシーなるもんがあるから。でも強いて言えば、人は見た目で判断したらアカンっちゅーことやね」

 

 師匠も強く頷いて、驚くべき事実を口にした。

 

「あの人、別の学校の高校生よ」

 

 ……………………えっ?

 

「ええええええ!?」

 

「やっぱユッキーなら分かるか。せや、実際に話したら中年っぽい見た目の割に声は若かったんよ。おかげで自己ベスト更新」

 

「スパイたるもの、偏見や固定概念に惑わされない判断力は必須よ」

 

 うう…気をつけなくちゃ……さらに訓練はまだあった。Wasabiでやったのは……

 

 

「思っていることを顔に出さない訓練よ」

 

「今回はスペシャルゲストにラッパとカマリも来たで」

 

 机の上に座ってドンと構える、アライグマのラッパとその上のカマリ。ちょっと私も警戒気味。

 

「今から3分、何があっても驚きの表情はしないこと」

 

「了解です!」

 

 こんな向かい合った状態でそんな驚くようなこともないでしょ?な〜んて思ってたけど、それは甘々な考えだったらしく。

 

「?」

 

 なんとなく、目の前のラッパに目が止まった。緑色の小さい足が出ていて…え?そういえば、頭の上に乗ってたカマリもいない。ということは……ああああ〜!?

 

「アウト」

 

「うごふっ!?」

 

 師匠からのチョップが入った。

 

「…そこまで顔に出るって逆にすごない?」

 

 さすがの先輩も苦笑いする始末。ラッパの口から出てきたカマリはしてやったり、といった顔をしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツキカゲ基地内部の一室──"軍議の社"に訓練中の3人以外のツキカゲメンバー全員が集まっていた。

 軍議の社では主にミーティングを行う。今回は以前潜入した工場から持ち帰ったデータが一部解読できたことによる報告だった。

 

「これは……花?」

 

「……"月下香"、だと思う…書いて、あるし…」

 

 五恵の呟きに対して、深結がフォローを入れる。

 

「ゲッカコウ?」

 

「…ん…チューベローズって、花の…別名……夜、咲いて…強い香り、出すから…月下香って、いうの……」

 

「へえ〜」

 

 だが、モウリョウ絡みだった以上、ただの花であるわけではない。

 

「建造物の設計図ですが…具体的なところはまだ不明です」

 

 そう。月下香の形をした巨大な建造物についてのデータだ。

 

「モウリョウ絡みの疑いがある工場ってことで侵入してみたけど、でっかいネタ掴めたねぇ♪」

 

「モウリョウ…今度は何企んでるんだろう……」

 

「他に何かデータ入ってた?」

 

「いえ、これくらい…ですね」

 

「…下っぱ、に……大きい情報…持たせる、なら…苦労して、ない……」

 

「そっか。よしっ、じゃあ解散!お疲れちゃんっ!」

 

 メイの一言で報告会は終わった。

 

「……月下香…『危険な楽しみ』…まさか、ね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夜にもなると、空崎の高速道路も一気に静まる。その道を走る1台の黒い高級車があった。

 運転しているのは、モウリョウ幹部とやり取りしていた文鳥の女だ。

 ちなみに、彼女の文鳥──チッチは鳥籠に入って助手席の筋肉隆々な女性(?)に預けられている。

 

「"ゲッカコウ”はどうなっている?」

 

「ベトナムで製造中、夏には仕上がります」

 

 側近の少女──テレジアが女の質問に答える。

 

「ならばよし」

 

「こちらに寝返ったツキカゲのスパイから、情報は入りましたか?」

 

「細々としたものはな。どれも本当のネタではあったようだが──見返りは金だそうだ」

 

 こちら側に寝返ったといえども、大きい情報はすぐには流れてこない。あちらもあちらで慎重に見定めているのだろう。

 とはいえ、これも立派な取引の一環。取引において信頼関係とは、品物や価格、条件よりも高い重要性をもつ。嘘の情報が1つでも流れたら、場合によっては全て水の泡となる。

 

「まだまだ信用できませんね…」

 

「何難しいこと話してんだ!」

 

 だが、その慎重なやり取りに不満と蹴りをぶつける者がいた。

 黒く長い髪を編み込んで2つに分け、腰元に垂らし、身につけている服は中国辺りのイメージを与える。年端もいかない少女…いや、幼女と言ってもいいくらいの年であろう子ども──桃源の白虎だ。幼女とはいえ、この車に乗っている以上、ただの幼女であるはずがない。

 

「負け知らずの白虎様だぞ!早く仕事させろーい!」

 

 繰り出すキックのペースがどんどん加速していく。幼い見た目からは想像もできないくらい素早く、力強いキック。

 だが、それを全て片手で受け流しているテレジアも相当な腕の持ち主であることが分かる。

 助手席に座る化粧と筋肉が凄まじい傭兵──ドルテが呆れたような表情をした。

 あまりの筋肉量に着ている赤いドレスははち切れそうだし、それを着ていなければ女性かどうかの判別すらできなかっただろう。……というか、着ていても判別が危うい。

 

「うるさいチビだな。この美しい私のようにドカッと構えろ」

 

「ああ!?」

 

 ……その美しさとはどこを指して言っているのか。

 

「お前の出番は近いさ」

 

 文鳥の女の一言で傭兵たちの騒ぎが一気に静まった。

 

「まずは協力者と会談だ」

 

 女はアクセルを少し強く踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜疾風side〜

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時、ってこういうことを言うんだろうな。

 ところで、今の俺がどこにいるか、当てられる奴いる?いないだろうけど。

 

 正解は源んちのクローゼットでしたー。いや、ちゃんとした理由あるからな?

 一緒にいたユッキーがこっそりクローゼットから這い出て、ぐっすり夢の中にいる源の柔らかそうなほっぺに例のスタンプをポンッ。

 つまり…そういうことだ。

 

「!?」

 

「顔に『めっちゃ混乱してます』って書いてあるやん」

 

「隙だらけよ。ペナルティとして今から町内1周」

 

「頑張ってやー」

 

 窓から出て行く時、源の叫びが響き渡った。ご近所迷惑だ。

 

 そんなことがあったとはいえ、源は確かに成長していた。

 その後のペナルティも最初の頃は終わるとぶっ倒れていたのに、息切れ程度になってきた。…睡眠不足で少しうとうとしていたが。

 

 最近は壁を使って駆け上がる技も成功率が上がってきたし、話術の訓練では見知らぬギャル系JKとプリクラに行けるレベル。

 射撃訓練も筋がよくなってきた。いやはや、マンガみたいに弾が全く見当違いな方向に行ってた最初の頃が懐かしい。

 あ、この前Wasabiで眠ってる源にラッパがスタンプ押しに行こうとしたら、ラッパが返り討ちになったこともあったな。

 ランニングは重り付きで走ってたし。源は比較的吸収が早いタイプだったらしい。俺もビックリ。

 

 前と同じカフェに来て、また話術の訓練をする時、ユッキーが流れる人々をチラッと見た。

 

「今の人と、お茶を飲むくらいの仲になってみせなさい」

 

「はい!」

 

 最初の頃の慌てようが嘘みたいに、冷静に立ち上がって話しかけに行った。迷いなく、『この人!』みたいな感じで。見に行ってみたら、キャバ嬢風の人と仲良くなってるもんだから驚いたね。

 

「3分間、ポーカーフェイスを崩さないこと」

 

「はい!」

 

 この時は俺の方が危ないくらいだったかもしれない。

 

「ど、どうしてそんなに黙ってるんですかぁ?怖いですぅ!」

 

「………」

 

 ………。

 

「雪、泣いちゃいますぅ〜!」

 

「………」

 

 …………。

 

「よし」

 

「……終わったん?」

 

「ええ」

 

「さいですか…よし、源よ。俺権限でさっきのユッキーに対する感想をブチまけることを30秒間許可する」

 

「かわい過ぎですっ!!」

 

 …初っ端から飛ばすね。

 

「最初のセリフの時の涙目でハート撃ち抜かれましたあの後輩感とか弱い女の子感溢れるセリフ過ぎて黙ってることに罪悪感カンストしてますホントごめんなさいですよ!次に出たセリフなんか何ですか一人称"雪"って!顔覆ってうぅーってして泣かれたらヤバいなんてもんじゃないです『泣いちゃいますぅ』とかもう殺し文句ですよね殺しに来てますよねここまでポーカーフェイスをキープできた私って悟りの領域(ニルヴァーナ)開けちゃうんじゃないですかぁ!?」

 

「30秒経過。口つぐんで落ち着きぃ」

 

「ふぅー…とはいえ、実は1割も言えてないんですよね」

 

「マジか」

 

 まさか源の口から悟りの領域(ニルヴァーナ)なる単語が出てくるとは思ってなかった。残りはファックスで送ってもらおう。

 さて。

 

「俺もそろそろ限界みたいやね…」

 

 俺はその場にバタリと倒れた。

 

「疾風先輩!?」

 

「あん時のユッキー…涙目だけやなくて地味に上目遣いまで使おててなぁ……ギャップも相まって、ポーカーフェイスがやっとやったんや…」

 

 上目遣いに涙目。このコンボに耐え切れる猛者、いるならそいつこそが神の域に届く王者だと俺は思う。

 

「しっかりしてください、先輩!」

 

「源…アンタぁ強ぉなったよ…あれに耐えられたんや…俺が保証、する………ぁ」

 

「っ!?せんぱぁぁあああああいっ!1」

 

 俺の元に寄り添い、涙を流す源。大丈夫、彼女なら俺の意志を継いで、前に進み続けるだろう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶番はそこまででいいかしら」

 

 ユッキーはどこまでも冷ややかな目だった。

 

「というか、早くしないとあなたの秘密の「はい起きました終わりますすんませんっしたぁ!!」

 

 倒れた状態からぐるんっと体を回転させて、土下座の体勢に変わった俺……我ながら弱え。

 うん、さすがにユッキーの上目遣いを喰らっても死にはしない。確かにユッキーは美少女だが、それでもせいぜい放心程度だ。

 

「つか、源も随分ノリがよかったな?」

 

「いやぁ、これは乗らねば!と思いまして」

 

 ふむ、嫌いじゃないねその考え方。この訓練を境にちょっと源と仲良くなりつつ。

 

 その日の夜、源の部屋に仕込んだ小型カメラが本人に見破られたり。いや、訓練な?クーラーの中に仕込んでたから、そう簡単には見つからないと思ってたけど、割とあっさりだった。恐れ入ったぜ。そして……

 

「いよいよ明日はツキカゲの最終試験よ」

 

「はい!」

 

「知っとるとは思うけど、内容は校舎内で制限時間内にメイメイ──八千代命を捕まえることや」

 

「開始するタイミングはこちらから伝えるわ」

 

 刹那、ユッキーが弾かれたように動き、腕を振りかざす───が、源は自らの腕をクロスして挟み込むことでユッキーの腕を止めた。その手に握られたスタンプは文字通り、目と鼻の先だ。

 

「ホーンマに成長したなぁ」

 

「体は仕上がってるわね。その調子で試験に備えなさい」

 

「はい!」

 

 さて、明日の源はどんな面白いものを見せてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜モモside〜

 

 

 

 

 

 試験に備えなさい、かぁ…そう言われても、体調万全にしとくぐらいしかないよね?

 

「…ぃ…ちゃん………モモちゃんってば!」

 

 あっ…全然聞こえてなかった。

 

「諸星さん!こんにちは」

 

 お肉屋さんの諸星さんがちょっと悲しそうに眉をひそめる。

 

「素通りとは冷たいじゃないか?」

 

「考えごとをしてまして…えへへ」

 

「半蔵門の道場に入門して、しごかれてるんだろ?」

 

「まぁ…あはは…」

 

 "ツキカゲに入るために道場に出入りしている"とは言えないし、"特に理由はない"だと怪し過ぎるので、表向きには"胸を張って警察官になりたいと言えるようになるため、道場に入門した"ということにしてある。……別に嘘でもないしね。

 

「ほら、これサービス!力をつけて!」

 

 そう言ってくれたのはコロッケの入った紙袋。

 

「おお〜!ありがとうございます!」

 

 コロッケを出して、毒見をする。諸星さんを疑うわけじゃないけど、一応ね。

 

「くんくん…いい香り!」

 

 混じり気のない、美味しさ100%のコロッケの匂いです!

 

「あーむっ…ん〜!やっぱり諸星さんのとこのコロッケ、美味しいです!」

 

「そらもう、仕込みが違うよ!」

 

 諸星さんは嬉しそうに胸を張った。へえ……

 

「仕込み…か」

 

 

 ──相手をどう追い詰められるかっちゅー戦略の組み方

 

 

 ──その調子で試験に備えなさい

 

 

 頭の中で何かがきらめいた。その正体は超名案、これだ!

 

「コロッケ、ありがとうございました!」

 

「お、おう」

 

 私は下準備のために学校へ駆け出した。これなら試験を突破できるかも!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験当日。もうとっくに午後なんだけど、いつ試験やるんだろう…

 

「先生、気分が悪いので保健室行って来ます」

 

「1人で大丈夫か?」

 

「はい」

 

 いつも元気の塊みたいなメイちゃんが体調崩すなんて珍しいなぁ。

 ん?何か紙が飛んできた。飛ばした犯人は五恵ちゃん。五恵ちゃんはグッ、と合図を送ってきた。畳まれた紙を開いて中身を見る。

 

『最終試験開始。時間は今から授業終了まで。ノートは取っておくね。ガンバッテ!  五恵』

 

 メイちゃんが抜けたのはそういうことか!なら私も行かなくちゃ!

 

「先生!八千代さんのことが心配なんで、見てきます!」

 

 我ながらここまで大きい声が出るものかとビックリした。それは先生も同じだったらしく、若干押され気味だった。

 

「あ、ああ。行ってきなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

 教室を出た後、猛ダッシュでメイちゃんの背中を探す。

 速く、でも授業中だからなるべく音を立てないように走る。これも師匠との訓練の成果だ。

 

 揺れるサイドテール、白い制服の背中……見えた!メイちゃんだ!

 メイちゃんは突き当たりの窓からバッ!と飛び出した。

 

「そう来たかぁ〜!」

 

 同じように窓から外へ飛び出してメイちゃんを追いかける。2か月前は見てるだけだった……けどっ!

 

 メイちゃんをうまくラウンジに追い込む。でも、体育の時間でよく見る、あの運動神経バツグンのメイちゃんをこんな…思ってたより簡単に追い込めるものなのかな…?

 

 頭の端っこで弱く、小さく引っかかる違和感を無理に振り切って、メイちゃんに仕掛ける。

 

「えいっ!」

 

「うわっ!?」

 

 タックルで体勢を崩した勢いで何回転も転がる。

 

 うぁ…目が回るぅ………

 

 反動で気を失いそうになるのを"逃げられちゃダメだ"という意地で抑え込む。

 あれ、思ってたより背が小さい?まさか…小さかった違和感が風船みたいに急激に膨らんでいく。

 

 疾風先輩は人の脈の打ち方でその人かどうか確かめるらしい。私にもそれができたら便利だと思って教えてもらった。

 まぁ、私の場合、触るんじゃなくて味覚で確かめるんだけどね。

 メイちゃんの鎖骨の辺りを舐める。

 

「ひゃあっ!」

 

 大きくなった違和感が確信に変わる。これは…

 

「危ない…実は相模さんだね?」

 

「……っ」

 

 僅かに動いたメイちゃん──ううん、相模さんの表情が大当たりだと知らせる。

 相模さんの特技はレベルの高い変装。

 

「騙されるところだったぁ〜!」

 

 本物のメイちゃんを探すためにまた廊下をダッシュする。

 変装を見破ったといっても、貴重な時間を無駄にしてしまったのも事実。本物のメイちゃんはどこに────?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹きつける校舎の屋上、その一角にメイちゃんはいた。やっぱりそうだった。

 多分、相模さんはフェイントであると同時にヒントだったんだ。

 私が"ツキカゲと分かった後の"相模さんに初めて会ったのはこの屋上。

 相模さんはメイちゃんの弟子。

 つまり、メイちゃんはそこにいる。

 

 ……これがただの深読みだったら恥ずかしい。

 

「メイちゃん、捕まえに来たよ」

 

 声に反応してメイちゃんが振り返る。その顔には軽い驚きと大きな余裕が見えた。

 

「ふっふーん、モモちやるぅ!どうせなら刺激的に行こ?」

 

 その手にはスパイス"ソラサキローレル"。葉っぱの形をしたメイちゃんの切り札。あれを使われたら追いつけない。今の私の手元にスパイスなんて───

 

 

 ──お守りに1本持っておきなさい

 

 

 そうだ。

 

 あの時もらったスパイスだ!!

 

 

「心も体も、滾らせるっ!」

 

 

 サクっ。

 

 スパイスを口にした瞬間、体に電流が走ったような感覚がした。これが、スパイスの力………力が溢れてくるっ!!

 いつもならありえない身体能力で障害物を越えて行く。前にメイちゃんが見せたパルクールみたいな動きで追い詰める。

 でも、さすがはメイちゃん。スパイスに加えて元々の運動神経の良さもあって、なかなか距離が縮まらない。

 

「スパイスキメてるのはお互い様、この距離は埋められないんじゃない?」

 

 ごもっとも。でも───!

 

「埋めるよ!」

 

 よし、予想通りに誘導できてる。あとはあのポイントに行けば……!

 

「どうやって?」

 

「仕込みが大事っ!」

 

 メイちゃんは不思議そうな顔をしてスピードを上げた。っていうか、まだ上がるの!?ここで曲がってくれなきゃ勝ち目がない…お願いっ!!

 

 

 祈りが通じたのか、メイちゃんの驚く声が聞こえた。

 

 今しかないっ!!

 

「せいやぁ〜!!」

 

 本日2度目のタックル、メイちゃんが驚いた原因__使われなくなった通路を塞ぐ古い用具のバリケードを巻き込んで、メイちゃんを捕まえた。

 こっちのメイちゃんは……ペロッ。

 

「やったぁ!この味は本物だー!」

 

「どんな味!?」

 

 授業が終わったことを知らせるチャイムが鳴り響く。本当にギリギリだったんだぁ…やった、やったよー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜疾風side〜

 

 

 

 

 いつもの屋上から、適当な理由をつけて授業を抜けたユッキーは双眼鏡で、いつも通りナチュラル且つ堂々と抜け出した俺は肉眼で試験を見届けていた。

 

「っはぁ〜!すっげぇやんなぁユッキーの弟子!」

 

 正直、あの成長と吸収速度はツキカゲでも稀だろう。

 

「昨日のうちに、使われていない通路にバリケードを築いて、そこに逃げるように誘導したのね」

 

「ユッキーと別れた後、つけたら学校戻ってなんかやっとるなとは思うてたけど…恐れ入ったぜ」

 

 完全な源の戦略勝ちだ。ユッキーは満足そうに小さく頷いた。

 

「合格」

 

 歓迎会の準備、考えるべきかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、軍議の社。

 そこにツキカゲ全員が集まっていた。新たな仲間を迎えるためだ。

 

「防刃防弾は基本として、カメラに映らないようになる隠密機能もついてます♪」

 

「あ…スパイス、太ももの…ホルダー、に……入れる…」

 

 はっちゃんと深結の説明を受けながら、源はツキカゲの装束に身を包んでいく。二の腕まであるグローブに腕を通し、胸の下辺りの紐をキュッと結ぶ。

 

 ふむ、意外に実っt……ゲフンゲフン………ユッキー、睨まないでくれ。マジで怖ぇんだって。

 

 爪先をトントンと整え、マントがバサッと靡く。この姿こそ、正式にツキカゲと認められた者の証。

 

「おおっ!」

 

「これであなたも、立派なツキカゲです!」

 

「……ちょー、ぐっじょぶ」

 

「やったね!」

 

「メイの見立ては正しかった!」

 

 祝福の言葉をかけられ、満更でもない源にさがみゅは突っかかり気味に言った。

 

「まさか受かるとはね。ツキカゲではこっちが先輩だし、タメ語で話すわ、"モモち"」

 

「うん!楓ちゃん」

 

 まぁ、これがさがみゅなりの不器用なお祝いの言葉だと思っておこう。

 

「俺から1つお祝いの証をやるわ。源、お前のコードネームは"百地"──百地三太夫の百地や。そして俺は今後、お前を『みなもん』て呼ばせてもらうで」

 

「ありがとうございます!」

 

 源──みなもん、か。

 俺は少し顔が綻ぶのを感じた。

 

「ほれ、ユッキー師匠からもプレゼントがあるんやで」

 

 ユッキーが持っていたのは日本刀だ。

 薄桃色のグラデーションが美しい鞘には、舞い散る桜がデザインされている。

 

「これがあなたの刀よ。モモ」

 

 みなもんの表情が一気に引き締まる。なんせ、師匠から直々に武器(相棒)を授かるのだ。緊張もする。

 

「私の師匠も刀を使っていた。刀は極めれば、最強よ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、まぁ、そんなこんなでいろいろあった夜。

 

「師匠、走り込み終わりました!」

 

「時間通りね」

 

 みなもんが戻ってきた。テーブルの上にはユッキーが用意したごちそうが並んでいる。

 魚の煮付け、肉じゃが、筑前煮、後は漬物とおひたし的なやつとか。……てか、全部和風じゃねぇかよ。

 

「わぁ…!美味しそう!これ師匠が?」

 

 キラキラと目が輝く。なんだろう。今、一瞬犬耳とブンブン揺れる尻尾の幻覚が見えた気がする。

 

「せや。ユッキーってば上機嫌で作っとって…おーっと何もあらへんよー?」

 

 そんなハイライトが抹消された目で、こっち見なくてもいいじゃん?ユッキーのその目はマジでシャレにならない。モウリョウといい勝負だよ。

 

「ほな、俺はお暇させてもらおか」

 

「あれ、今日は師匠の家にいる日じゃないんですか?あと、その袋は?」

 

「師弟水入らずでメシ食わせたろ思うて、みなもんがおらへん間に道場使い終わったねん。こん中身は俺のメシやな」

 

 合格おめっとさん、なんて言い残して半蔵門家を後にした。

 人気(ひとけ)のなくなった街に俺のスニーカーの音がこだました。待たせちゃマズいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 誰もいない公園に2つの影が現れた。暗闇に紛れてよく分からないが、後から現れた方はベンチに挟まった紙切れを拾い上げると、そのまま立ち去った。

 車に乗り込むと鳥籠を持ったテレジアが待っていた。

 

「内通者から情報が入った。罠かもしれんが、飛び込む価値はある」

 

 被っていた老婆の仮面を破り、変装を解きながら女──文鳥の女は言った。

 

「仕掛けるぞ」

 

 "仕掛ける"──その言葉を聞いた白虎は嬉しそうに手のひらに拳を打ちつけて、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「よっしゃ出番だ!」

 

 大いなる悪の意志は静かに、そして確実に動き出していた。

 

 

 

 

 




次は番外編を書きたさが増し増し………


疾風くんとくっつけるヒロインっていても大丈夫ですか?(相手確定済み、妹じゃない)

  • 別にいいんじゃない?
  • むしろどんどんやれ
  • いや、ちょっとなぁ…
  • は?許さんぞ
  • どっちでもよくね?
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