RELEASE THE SPYCE ~満ちたる月の兄妹~   作:サク&いずみーる

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テスト終了&1000UA突破を祝して番外編です!

※元ネタはリリスパの公式スピンオフをご覧ください。

※見た時からこのネタで書いてみたいと思って、途中で「あ、技術的にもう無理」ってなった結果がこれです。



Intermission ツキカゲだって高校生なんです

 意志と才能を見出され、半蔵門雪の弟子として修行を重ねた源モモは晴れて、空崎の私設情報機関──ツキカゲのエージェントとして迎えられたのだった。

 これはそれから数日後、源モモが初任務に就く前のできごとだ。

 

 

 

 

 

 

「見て見て!じゃーん!」

 

「おーっ」

 

 モモは上機嫌も上機嫌、なんというかアゲアゲだった。やっと苦労の末にツキカゲになれたのだ。心が浮き立つのも無理はない。

 

「どう?メイちゃん、似合ってる?」

 

「そらもうバッチシ!ってこのやり取り何回やらせるんじゃ〜」

 

 八千代命はそう言いながらも嬉しそうにお菓子を口に入れている。

 確かに、浮き立って装束着てクルクルするのも無理はない。

 ないのだが…

 

「ねぇねぇ、みんなはどう思───」

 

 その問いに答える者はいなかった。みんな真面目にノートを開き、単語帳をめくり…と、まぁ勉強していた。

 

「…えーと、あれ?」

 

 特にすごいのは彼──ツキカゲ唯一の男性(イレギュラーピース)、望月疾風だ。

 元々、整っているとは言いがたい彼の漆黒の髪は掻きむしっていることでさらにボサボサ。

柚葉色の瞳には生気が見られず、口からは呪詛の如くボソボソブツブツと方程式やら英単語やらを垂れ流している。

 ちなみに疾風の弟子兼妹、深結はラボに閉じこもって薬の開発に励んでいる。

 

「っ──────────!?」

 

 …訂正、たった今、エレベーターから飛び出してきた。派手な爆発音とシノビたちと共に。

 

「どうしたんですか深結ちゃん!?」

 

「…みゅー…悪く、ないもん……!…ラッパくん、脅かす、からぁ……」

 

 それを聞いてちょっとしょげるアライグマ──犯人扱いされているラッパ。心なしか、他の2匹のシノビも呆れ顔である。

 しゃくり上げながら話す深結の情報を整理するに、こうだ。

 前に作った薬のストックを作っておこうと息巻いていた深結はモノミに手伝ってもらいながら(高いところにある材料を取るとか)やっていた。

 が、やって来たラッパが何か伝えようとしてか、深結の足首をペチペチ。集中していた深結はビックリした勢いで盛大に配分量をミス、そして今に至るということだ。カマリは途中で拾ったらしい。

 

「っていうか、それ気づかなかった深結も悪いじゃない」

 

「……ぅ」

 

 ごもっとも。

 

「あはは…」

 

「ところでモモ」

 

「ひゃいっ!?」

 

 呼びかけた雪の声のトーンは低かった。

 

「随分余裕があるようだけど、大丈夫なのあなた」

 

 それは浮かれていたモモに現実を突きつける一言だった。すなわち──

 

「3日後の期末テスト」

 

──そう。学生たちにとって忌々しき現実(テスト)だった。

 

「…期末……テスト……?」

 

「…ああ!」

 

 もう1名、忘れていた者がいた。メイである。モモは頭を抱えてうずくまってしまった。

 

「…確かに、もう…そんな時期……」

 

「どうしよう〜…入隊試験に根を詰め過ぎて全然気づかなかった…」

 

「そんなことは理由にならないわね」

 

「ですよねー」

 

 ばっさりと弟子の言い訳を両断して、雪はパフェに手をつけ始めた。今日もイチゴの気分らしい。

 

「師匠はさすがに余裕ですね」

 

「任務の直前に焦るようでは一人前のスパイにはなれないわ」

 

 ……カッコいいはずなのに、ほっぺにクリームがついているのが、どうにも締まらない。

 

「…あ、ユッキー先輩…ちょっと、だけ……」

 

 深結の要求に応じ、雪はクリームと刺さっていたポッキーを与えた。

 

「……あむっ…ん、おいし…♪」

 

「そういえば、深結ちゃんも余裕だよね。いいの?」

 

 げっ歯類の動物のようにポッキーを囓りながら、深結が頷く。

 

「………伊達に、飛び級して…ない……授業、1回聞いた、ら…全部、覚える…」

 

「この子、入試で文句なしの全教科満点を叩き出したのよ」

 

 これが"天性の才能"略して天才と読む系少女、深結の実態なのだ。余裕も余裕の深結をちょっと恨めしく思いながらも、モモは何とかポジティブに考える。

 

「ま、まぁ1週間あれば赤点を回避するくらい…」

 

「何言ってるのモモち」

 

 が、楓はさらにモモを追い詰める事実を無慈悲に告げた。

 

「ツキカゲのメンバーはテストで全教科70点以上取らないといけないのよ。それ未満は学業と両立できてないとみなされて、除名処分だから」

 

 "除名処分"。その言葉の意味を理解するのに要した時間は実に4秒。

『みるみる顔が青ざめる』とは、こういうことを言うのだろう。

 

「わあああもうダメだあああ!!」

 

 そりゃ、あの疾風も必死になって勉強するわけだ。

 

源モモ:ツキカゲ所属期間歴代最短記録候補。

脱退の原因:成績不振。

 

 実際に紙に書き出してみて、深結は思わず苦笑した。

 

「…なんか、いろいろ…酷い……ね」

 

「入隊直後に除名処分かあー」

 

「ひどいよメイちゃん!大体メイちゃんだって勉強してないじゃ……ん?」

 

 八つ当たり気味にメイのほっぺをムニムニと引っ張るうち、ある疑問にぶつかる。

 

──メイちゃんがまともに勉強してるところ、見たことあったっけ?

 

「メイちゃんはテスト大丈夫なの?」

 

 まさか、メイちゃんまで余裕の天才頭n「全然ダメ」

 

「ええ……」

 

 …モモと同じらしい。内心では安堵するが、除名候補が2人になって結局ピンチなのは変わらない。

 

「メイも今週はバタバタしててさー」

 

──いや、嘘つけ。

 

 そんなツッコミを楓と深結はグッと飲み込んだ。

 

「そういう時は──初さーん!アレ、お願い☆」

 

「もう、メイちゃんったら…そう言うと思って、一応持ってきてましたけど」

 

 若干呆れ気味に初芽が取り出したのは──

 

「はい、初芽特製ドリンクです」

 

「ありがとっ!」

 

 受け取った後、即座にドリンクをあおったメイ。

 

「…銭湯の…牛乳、みたいな…勢い……」

 

「モモちゃんにも渡しておきますね」

 

「これって栄養ドリンクですか?」

 

「はい」

 

 元々は張り込みなどの任務で、パフォーマンスを維持するために開発されたもので、飲むと3日は睡眠を必要としなくなるのだ。

 

「た・だ・し」

 

 初芽はモモの唇に指をそっと添えて注意する。

 

「基本的には効果の大きい栄養ドリンクです!効き目が強い分、その後の反動は覚悟しておいてくださいね?」

 

「……確か、はっちゃん先輩の時…丸1日、寝込んだ………」

 

「ひぇ……」

 

 それを何のためらいもなく使うメイ、恐るべし。

 

「疾風先輩もそれを?」

 

「……へ?…違う、よ…?」

 

 そう言って取り出したのは初芽のドリンクより小さいビン。大きさだけでなく、見た目も違う。

 初芽のは一見、栄養ドリンクと見間違えそうだが、深結のはもうビンの色が毒々しかった。

 

「…記憶上昇薬…おすすめ、しない……」

 

 使用から1週間の間、一瞬見ただけで完全に記憶できるという効果がある。

 これに至っては任務に実装されたことがない。理由はその反動が初芽のドリンクより酷いからだ。

 

「効果が切れると、その使用期間の記憶が全て抹消されてしまうんです。さらに個人差はあるかと思いますが、効果切れから3日は動けなくなります」

 

「…それに…期間中に、何か、あると……SAN値、ヤバい」

 

 なんでも、何故か使用期間中は決まって悪夢を見るらしく。いつもなら昼頃には忘れているのに、薬の効果で記憶が定着してしまい、発狂(ファンブル)寸前なのだとか。

 時折、青白い顔で『ガチ筋肉が…目の前でガチってた…アカン、吐きそ……』と言うのは気のせいではないだろう。

 

 とにかく、この薬は疾風以外にはまず使わない。

 

「…まぁ…代償、なくして…大きな、力は……手に、入らない……」

 

──結局、寝込むのは避けられないけどどうすんの?と。

 

 暗にそう言った深結にモモは半分ヤケで初芽のドリンクを一気飲みすることで答えた……。

 

「お………?」

 

「……?」

 

「おおぉ〜〜〜っ!!滾ってきたーーーっ!?」

 

「っ!?」

 

 背後に燃え盛る炎が幻視できそうな勢いで叫ぶモモに、思わず腰を抜かした深結。だが、そんなことなどうわの空。

 

「す…すごい!今なら何でもできそう!!」

 

 バク転、連続の高速鉄拳、と体を動かすモモに雪の「体力の無駄遣い」という指摘が飛ぶ。

 

「よーし早速…」

 

「モモ」

 

 やる気充分で教科書を開いたモモに、さらに追い打ちをかける。

 

「勉強はもちろんだけど、日課のトレーニングも忘れないように」

 

 ………この人、結局弟子にどうして欲しいんだろうか。

 

「……っ…はいっ!!」

 

「…『師匠の鬼!!』…って、顔に…書いて、ある…」

 

「表情を出さない訓練もやり直しね。ほら、ジャージに着替えなさい」

 

 基地に降りていく師弟を見送って、深結はあらかじめ師匠(あに)から受け取っていたツナ缶を手の中で転がし、ため息をついた。

 

「……見苦しい、し…手伝お…」

 

 疾風の背に小さな体を預けて深結が覗き込む。

 

「…これ、スペル違う…"a"じゃなくて、"u"……意味、変わっちゃう…よ?」

 

「え?うぉおお!?みゅーさんっ!?」

 

 どうやら本当にいろいろヤバいらしい、疾風。

 気配察知は彼の領分だというのに、派手な爆発音を伴ってきたはずの弟子(いもうと)にそもそも気づかなかったのだから。

 

「…その、ページ…終わった、ら…寝て……?…今の、師匠…年齢制限付き、のホラー級……」

 

 言外に"相当怖い"と実の妹に言われて、傷心気味に疾風は渋った。

 

「せやかて俺、そうしたいんは山々なんやけどねぇ……これこそR18G(グロ)やろっちゅー筋肉集団と?『ホモホモしよーぜぇ〜』って逃走中やっとる夢を?エンドレスに見続けろってか!?新手の拷問やんか寝てられっかぁぁッ!!」

 

 ゔぐぇぇええええ、と叫んだ勢いと思い出した勢いで危うく胃を空にするところだったのを必死に抑える疾風は、誰がどう見ても壊れていた。

 ビクッ、と半ば怯えながらも深結は続ける。

 

「…………大丈夫、だから…信じ、()

 

 命令形で言った己の弟子の瞳に涙は浮かべど、嘘はないと見た疾風は残り2、3問を解くと、ソファーにダイブした。

 3秒も数えないうちに『ぷすー…』という見た目に反してかわいらしい寝息を立て始めた師匠を一瞥、仰向けに直してやると深結が手招きした。

 

「…はつごえ、コンビ…どちらか、かもーん…」

 

「なら、私でいいですか?師匠」

 

 初芽は一瞬迷うも、何か思いついたように微笑んで、五恵の申し出を快諾した。

 

「ええ、いいですよ♪」

 

「それで、私は何をすればいいの?」

 

「……簡単、な話…」

 

 そう言うと、深結は疾風の前髪をグイッと引っ張って持ち上げると、それによって空いたスペースを指差した。

 

──この弟子、どれだけ師匠の扱いが雑なんだろう。

 

 この場にいた全員の心情が見事に一致した中、深結は続きの言葉を紡いだ。

 

「…師匠、に"膝枕"……して、あげるの…そしたら、安眠は…できる、はず……」

 

「はぇっ!?」

 

 五恵の顔がぶわっ、と赤くなる。年頃の女の子なんだし、同性ならまだしも、異性への膝枕は恥ずかしさもあろう。

 だが、そんなの知ったことかと言わんばかりに空けたスペースを叩く。

 

「…はりあっぷ(はよしろ)…師匠、起きたら…今度こそ……限界…」

 

 そんな必死な涙目で言われたら断ろうにも断れなかった。

 ……いや、元より断るつもりもなかったが。

 やむなく五恵が指定された所に行くと、深結は満足そうに頷いて、疾風の頭を柔らかそうな太ももの上に落とした。

 

「わーお、ふーくんってばさっきよりも安らかに寝てるよ?」

 

「…これ、どっちかって言うと"変態"じゃないかしら」

 

「…それ、は言ったら……めっ…」

 

「それじゃあ、皆さん帰りましょうか♪」

 

 何かを見通したような笑みの初芽の号令で解散する一同は、何を考えたのか皆目見当もつかない五恵を残してそそくさと退出した。止める暇もなかった。

 

「えぇー…」

 

 残された五恵も言葉が出ない。だが、決して嫌な気分ではなかった。

 いつもの不良らしい不機嫌そうな表情ではなく、これが彼の本来の表情であろう、あどけない遊び疲れたような子どものような寝顔を見ていると──

 

(なんだか、ラッパみたい…それか、弟がいたらこんな感じかなぁ)

 

「ふふっ…」

 

 試しにボサボサの真っ黒な髪を撫でてみる。自分の身だしなみはまず気にしないと言っていた割に、髪の質は悪くない。

 髪を梳けば、何度か引っかかりはするものの、それが疾風の性格を表しているような気がして面白い。

 

「ふあ〜……」

 

 穏やかに眠る1つ年上の先輩を見ていたら、五恵にも眠気が移ったらしく、そのままソファーにもたれて目を閉じた。

 

 

 しばらく後、2人には毛布がかけられていた。

 

「……♪」

 

 小さな影は幸せそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後のテスト勉強。

 モモは雪による訓練と勉強を合わせた独特の方法で。

 メイはドリンクで一夜漬けならぬ三夜漬け。

 疾風は薬と深結たちの全面的なバックアップでなんとか実力をつけていった。

 

 

 そして、テスト期間も終えて少しずつテストが返されてきた。

───とうとう、全教科が帰ってきた。

 ツキカゲ総員、Wasabiに集合して結果発表である。

 

 トップはやはり、深結。全教科ほとんど満点(1問だけ落としていたが、現代文の記述で句読点を忘れるという彼女にとって、珍しく、そして痛いミスだけである)。

 トップクラスの雪、初芽。

 問題ないくらいには優秀な五恵と楓。

 問題の3人は────!!

 

「「やったぁー!ミッションクリアー!!」」

 

「ふいー……」

 

 見事突破、1つとして70点を下回る教科はなかった。

 

「モモち、おめでとう!」

 

「ありがとうごえちゃーん!」

 

 喜びを体現するようにギューッと五恵に抱きついたモモは、流れるように寝息を立て始めた。見れば、同じくドリンクを使ったメイ、深結の薬を服用した疾風も眠りこけている。

 

「ドリンクや薬の効果が切れちゃったんですね」

 

「……少なく、とも…師匠、3日、動けない……」

 

 まだ1日学校あるのに、と呟いてどう学校に言い訳するか考えながら、楓が支えているメイをチラッと見る。

 普段はあまり見ることができないくらい無防備に寝こけている。そりゃもう、口の橋によだれがわずかに垂れるくらいには。

 

「…?フーち…なんで、ペン…持って、る………?」

 

「寝顔がなんか憎たらしいから師匠の顔に落書きするのよ」

 

「……おぉ……後で、貸して……みゅーも……やる」

 

 当人らにとって、とんでもない会話である。深結はともかく、楓も師匠を何だと思っているのか。

 あと数ミリでペン先が顔に触れる──という時。

 

 ガタンッ!!

 

「……っ!?」

 

「なんの音!?」

 

 敵襲であれば、即座に対応する必要がある。深結は反射的にスパイスを手にし、口に───

 

「って半蔵さん!?」

 

───する必要はなかった。

 雪が珍しく、顔から机に突っ伏していた。本来なら心配の1つでもしたものだが、深結はその理由を知っている。

 

「どうして雪先輩まで…」

 

「…ユッキー先輩、同じやつ………飲んで、た…」

 

「モモちゃんがトレーニング中に勉強するための問題を徹夜で作ってたみたいで…」

 

 そして、同じように効果切れということらしい。

 

「半蔵さんでも、そんな無茶するんだ…」

 

「意外だね?」

 

 楓と五恵が意外そうに見つめる中、初芽は雪をモモの隣に移動させ、深結の持ってきたブランケットをかけた。

 

「そういうところは、師弟そっくりです♪」

 

 前向きにひたすら突き進むモモ。

 クールでストイックな雪。

 一見、正反対に見える2人。だが、根のところは熱き努力家であり、優しい。

 無理をしてでも手を貸してくれる。それはツキカゲにとって、なくてはならない存在だ。

 

 ……それはそれとして。

 

「これ、丸1日寝たままなんですよね…?」

 

「…師匠、に至っては……3日間…」

 

「これ、試してみましょうか?」

 

「……みゅー…落書き、する…」

 

 

 その後、眠っている3人は初芽の新作発明の餌食となり。

 3日後には散々顔に落書きされた疾風の怒号が飛んだそうだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 




さすが番外編、いつもより文字数少ないね~…
本編はそのうちですね。難航してると言いますか……

疾風くんとくっつけるヒロインっていても大丈夫ですか?(相手確定済み、妹じゃない)

  • 別にいいんじゃない?
  • むしろどんどんやれ
  • いや、ちょっとなぁ…
  • は?許さんぞ
  • どっちでもよくね?
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