お前らが読む限り、俺はその先にいる!
だからよ、読者の皆さま……!
(読むの)止めるんじゃねえぞ……!
「ああ、あああ……!?」
個室から出てきた冒険者がギョッとして恥ずかしそうに走り去っていく。
それもそのはず。
ふんわりと肩口まで伸びた薄緑の髪。
ニキビの一つもない整った顔。
そして濃紺の瞳。
そう、俺は、俺の顔は……!
「女になってるゥ!?」
髪色も、顔立ちも、全て変わっている。
そ、そうだ、息子は……!?
バッ、とショートパンツの中身を確認。
「良かった、これはあるのか……」
つまり俺は、男の娘もとい、美丈夫になったと!?
ダクネスの『堂々と入れ』ってそういうこと!?
痴女と間違われるからと!?
ゆらゆらとトイレから出てくる俺を見て、カズマはため息をつく。
「ま、モンスターにならなくて良かったな、ヨウタ」
「はい……」
「しかし、中々に良い見た目をしているな?か弱い乙女の様で、少し羨ましいぞ」
「ダクネスさん、それは褒めてるのかわかりません……」
「あの、その髪型で敬語は私と被るので止めてほしいのですが」
「意図してやったワケじゃないですよお!」
「まったく、みんなバカなのかしら?ポーションで見た目が変わったのなら、またそのポーションを使えばいいだけじゃない!」
「体に悪いから一回しか使えないんだよぉ!」
八方塞がり。
俺、これから
◇
翌日。
「……と言うことがあって、冒険者としての情報を更新しに来ました」
「……はあ、それは災難でしたね。わかりました。ヒノヨウタ、魔道具によって見た目が劇的に変わる、と。はい、もう行って大丈夫ですよ」
カズマとアクアは再度ウィズの所に寄り、スキルを教えてもらうんだそうな。
ウィズとは仲良くなりたいが、店は半ばトラウマなので遠慮したい。
「本当にどこもかしこも変わっているものだな。髪の毛すらもさわり心地がいいぞ?」
「シャンプーとリンスは気を使ってるんで」
「嘘を言うな、私達と同じ大衆浴場の物だろう。しかし、昨日はやけに男湯が騒がしかったが、何かあったのか?」
「見てわかりません?危うく痴女認定されるとこだったんですけど」
俺とダクネスは、美味しいクエストが出たらすぐに受注できるようにギルドの掲示板の前に張り付いている。
カエル肉とレタスのサラダをもさもさと頬張るダクネスは、片手で俺の髪を弄んでいた。
「そ、そうか。それは悪いことを聞いたな」
「大丈夫です、どうせ慣れなきゃいけませんし。……それにしても、この体が意外と筋肉質で助かりましたよ。胸板とかはしっかりしてました」
ダクネスさんはアニメバージョンのやけに縦長な顔ではなく、みしまくろね先生仕様の綺麗な状態。
何となくドギマギしていると、やはりと言うかなんと言うか、水色のアレがやってきた。
「ダクネスー!ヨウター!アクアさんが帰ってきたわよ痛い!」
「お前はいちいち叫ばないと喋れねえのか!ただでさえウィズに迷惑かけたんだから、もっと自重しろよ!」
……カズマの打撃を後頭部に受け、もんどりうちながら。
◇
「……ここか」
「悪くないわね。ええ悪くないわ!この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」
街の郊外に佇む一件の屋敷。
日本の一軒屋の数倍はあるだろうという大きさの屋敷は、貴族が手放した別荘だったそうな。
話を聞けば、この屋敷には悪霊が住んでいて、アクアが悪霊の討伐を引き受けたとのこと。
悪評が立ちに立っているこの家、悪霊を倒してくれたら悪評が消えるまで住んでていいよ、とのこと。
「……しかし、実際の所はアクアが墓の除霊をサボったせいで行き場を無くした悪霊が住み着いてしまった、と」
「ん?何か言いましたか、ヨウタ」
「いえ、大きなお屋敷だな、と」
嘘をつくのも慣れてきたなぁ。
つい原作のネタバレをしてしまう癖、なんとかしないと。
「───名前はアンナ=フェランテ=エステロイド。好きなものはぬいぐるみや人形、そして冒険者達の冒険話!でも安心して、この霊は悪い子じゃないわ。私達に危害は加えないはずよ!おっと、でも子供ながらにちょっぴり大人ぶった事が好きな様ね。甘いお酒を飲んだりしてたみたいよ。と言うわけで、お供えはお酒を用意しておいてねカズマ!」
「……なあ、どう思う?なんでそんな余計な設定や名前までわかるんだってツッコみたいんだが。……あいつ、本当に大丈夫なのか?俺、もしかして安請け合いしちまったのか?」
「「「……………………」」」
そんなキャラも居たなあ。
◇
時刻、変わりに変わって夜半過ぎ。
各自の部屋は既に決め、荷物も運んでいた。
原作から行くと、アクアがお酒を飲まれてキレ、勢いで除霊するはず。
わりあてられた部屋で月を見ていると、ドアをこんこんと叩く音。
こんな時間に誰だろう?
「どうぞ」
「………………」
無言で誰かが入ってくる。
窓には誰も写っていない……は!?写っていない!?
バッと後ろを振り替える。
すると、目の前にいたのは金髪と碧眼を持った美少女。
幼さが残る外見は、同じ金髪碧眼のダクネスとはかけ離れている。
「……なるほど。アンナ=フィランテ=エステロイド、で間違いないかな?」
「………………」
目の前の少女は、躊躇いがちにこくりと頷く。
よく見れば、高級感のあるラベルが貼られた酒の瓶を持っている。
「そのお酒、アクアの部屋からくすねてきたの?」
「…………」
少女は───アンナはくすりと笑うとこちらに酒瓶を差し出してくる。
一緒に飲もうよ、って?
「いたずらが好きな子だね。でも……」
「………………」
「そういう子は、キライじゃないよ」
アンナの頭を撫でたのち、グラスを二つ用意する。
その日、俺は月明かりの下、生まれて初めて酒を飲んだ。
アンナは寡黙なのかそれとも喋れないのか、とにかく一言も音声を発する事はなかったが、俺の初めての冒険、つまり白狼の討伐の話を目を輝かせて聞き入っていた。
「そこで、俺はもうダメだと確信した。けれど、どこからか声が聴こえてきたんだよ。『エクスプロージョン』って」
「……!…………!……?…………!!」
「そう。爆裂魔法だよ。神をも倒せる爆裂魔法の余波で、白狼は気絶しちゃったんだ……っと、お酒、もう無くなっちゃったね。アクアの所に返しておいで」
「………………!」
「大丈夫、また今度お話してあげるから」
身ぶり手振りを織り混ぜてくるので、彼女の感情は読み取りやすい。
アンナは空になった酒の瓶を抱えて、俺の部屋を出ていった。
……まさか、アンナに会うことになるとは。
っていうか心霊現象?なんで俺、アンナの姿が見えたの?
「これも《太陽化》のお
程よく酒が回って、よく眠れそうだ、
ふらふらとベッドに潜り込むと、俺はすぐに眠ってしまった。
ちなみに、空になった酒瓶にアクアが気づいて叫ぶのは、俺が寝付いて五分後の事だった。