「ヨウタ、これでどうかしら?」
「あー、うーんと、そうですねえ」
翌日、俺は一昨年に発売された『バートン教授のマリモでも分かる生物学』という本を読みふけりながらアクアのチェスの相手をするという剛技を成していた。
「ここのクルセイダーをここにだして王手で」
「ふふん。バカねヨウタ!さっきめぐみんにやられた戦法を使ってあげるわ!『テレポート』!」
「……『テレポート』で1ターン使ったのでここの冒険者で王を取ります。俺の勝ちですね」
「なんでよー!ねぇおかしいわよ、なんで本を読みながらコマが刺せるのよー!」
アクアに揺さぶられながらも本は読み続ける。
へぇ、エルダートレントの枝を焚き付けにして紅茶を淹れるとハイな気分になれる……か。
……絶対やばいやつだろソレ。
「ふふん。次は私の番ですね。私の戦略に驚かないでくださいね?」
「『エクスプロージョン』」
「…………」
盤を整えた瞬間ひっくり返されためぐみんが、無言で首を絞めてくる。
やめてよ、あなたいつもこんなんでしょ。
モンスターと出会った瞬間ちゅどんするじゃん。
と、紅茶を淹れようと立ち上がったときであった。
『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!冒険者の皆さんは、ただちに装備を整えて冒険者ギルドに集まってください!』
「よし、逃げるわよ」
「逃げましょう」
「ちょっと待ってくださいよ!」
◇
「逃げるのよ!なるべく遠いところに逃げるの!」
「オイ待て説明しろよ。なんか召集がかかったみたいだぞ。装備整えてさっさと行こうぜ」
「カズマったら何を言ってるの?ひょっとして、デストロイヤーと戦う気?」
めぐみんがカズマにデストロイヤーとは何かを説明する。
デストロイヤーは、それが通るとアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる、大物賞金首、と。
「なあ、それはめぐみんの爆裂魔法じゃどうにかならないのか?」
「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています」
カズマは何やらダクネスがいないことに気づき、ダクネスも逃げる気なのかと顔を歪める。
と、その時ベストタイミングで全身鎧を着こんだダクネスがやってきた。
「すまない、遅くなった!……ん、どうしたカズマ、早く支度をして来い。ヨータも、それで大丈夫なのか?」
「大丈夫です。俺は元から軽装備なので」
「お前ら!ダクネスとヨウタを見習え!長く過ごしたこの屋敷と愛着は無いのか!ほら、ギルドに行くぞ!」
目の奥をキラキラに輝かせ、リーダーとして二人に指示するカズマ。
ちなみにこの屋敷では1日しか過ごしていない。
◇
「お集まりの皆さん!本日は、緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます!皆さんが最後の砦です、よろしくお願いします!」
テーブルを寄せ集めて即席の会議室を作り、ギルド職員が地図を広げた。
「さて、それでは。まずは、現在の状況を説明させて頂きます!……えっと、まず、機動要塞デストロイヤーの説明が必要な方はいますか?」
カズマや俺、その他数名の冒険者が手を上げる。
それを見て、職員がデストロイヤーについての説明を始めた。
話が終わった後にメモ用紙を一度見てみると、こう書かれていた。
・クモみたいな形
・馬より速い
・まどうきんぞくを使っているからすごく堅い
・小さいお城みたいな大きさ
・八本の足
・踏まれたらひき肉。ミンチ。
・ま力結界が張られてるからま法はまず効かない
・空からのこうげきはバリスタが弾く
・ゴーレム何体もいる
・速い、強い、安い、上手い
・中にけんきゅう者がいるかも?
……我ながらなんて纏まりのないメモだろうか。
もっと漢字使えよ、太古の知恵だぞ。
「えっと、えっと……?ヨウタ、さっき何て言ったかわかるか?」
「えっとハイ、メモです。どうぞ」
「センキュ。…………………………………………。……無理ゲー」
「俺もそう思います」
とある冒険者が、デストロイヤーを作った国はどうなったのかと聴く。
職員が、デストロイヤーの暴走で真っ先に滅んだと言う。
冒険者が、落とし穴は掘れないのかと聴く。
職員が、ジャンプした結果があると言う。
冒険者が、あっちが結界を張るならこちらも結界を張ったらどうかという案がでる。
職員が、デストロイヤーは自らの後方に付いているロケットで勢いを増して突っ込んで、結界を破った例があると伝える。
……何それ俺 知らない。
「……他に、ありませんか?」
◇
冒険者と職員が頑張って知恵を振り絞る中、俺はカズマがアクアの落書きに気づいて結界破壊作戦を思い付くのを待っていた。
それだけではなく、原作から取って追加されたようなロケットシステム。これをどうしようかも考えている。
何せ、原作には無いからなぁ。
そんな事を考えながら、らちが開かないのでカズマの袖をちょいちょいと引っ張る。
「ん?何だ、ヨウタ?」
「今する話じゃないですけど、アクアの絵、上手すぎませんか?」
「ん?確かにあいつは才能だけはあるからな……。って、なんじゃこりゃあ!?」
天使が花を手に戯れる様子は、まさに芸術。
と、カズマの注意がアクアに向いたことにより、結界を破壊する作戦が思い浮かんだようだ。
「なあ、お前、この前ウィズに魔王城の結界を壊せるはずとか言われてたよな。もしかして、デストロイヤーの結界も……」
「やってみなきゃわかんないわよー?デストロイヤーの結界なんて、それこそ運が関わって……」
「壊せるんですか!?デストロイヤーの結界を!?」
ハイ職員気づきました、勝利のフラグが立った!
「もしも結界が壊せれば、魔法攻撃が可能になります。しかし、魔導金属を壊せる威力の魔法なんて……」
「火力持ちならいるじゃないか。頭のおかしいのが」
「そうか、おかしいのが……!」
「おかしい子がいたな……!」
「おい待て、それが私の事を言っているのなら、その略し方はやめてもらおう。さもなくば、いかに私の頭がおかしいかを今ここで証明することになる」
冒険者たちがサッと目をそらす。
しかし、期待があるのか、すぐにめぐみんを希望の眼差しで見始める。
注目の的にされためぐみんは顔を赤くし、
「うう……わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない……と、思われ……」
そうぼそぼそ告げて、ストンと座ってしまった。
せめて、あと一人……。
あと一人、強力な魔法の使い手がいてくれれば……。
みんながそう、思った時だった。
「すいません、遅くなりました……!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに……!」
「貧乏店主さんだ!」
「貧乏店主さんが来た!」
魔法を極めすぎてリッチーにまでなれた、アークウィザードのウィズがやって来た!
職員がさっとウィズに作戦を伝える。
アクアが結界を破壊、そこにめぐみんが爆裂魔法を叩き込む、と。
「うーん……。それでしたら、私とめぐみんさんで左右に爆裂魔法を撃ち込むのは如何でしょう。機動要塞の脚さえ何とかしてしまえば、後はなんとでもなると思いますが……」
「では、アクアさんが結界を破壊、めぐみんさんとウィズさんで爆裂魔法を……」
「ちょっと待ってください」
作戦を纏めようとしたルナを、ウィズが手で遮る。
「爆裂魔法には詠唱が必要です。機動要塞には後方にブーストロケットがあるんですよね?詠唱をしている間に、追い付かれてしまうかもしれません」
「そ、そうですか……」
ロケットのことを忘れていた冒険者たちが一気にお通夜ムードになってしまう。
……しょうがない。なるべく原作に近くさせたいからみんなで逃げる、なんてエンドにはしたくない。
「……あの」
「……?はい、ヨータさん、なんですか?」
「俺が、デストロイヤーを受け止めます」
手を上げた俺を、みんながギョッとして見る。
「それは、どういう意味ですか?」
「言葉通りです。俺のスキルでバリアを張り、デストロイヤーをそのバリアで受け止めるんです。そこで、ダクネスや……」
いきなりの名指しに自らを指すダクネスと、回りの冒険者達を見渡す。
「重い装備を持った冒険者たちに、協力してほしいんです。吹き飛ばないように、支えて欲しいんです」
「そ、それでは万が一の時、ヨータさんが……」
「俺も、この町が好きですから」
その言葉に、冒険者たちはしぃんとする。
少しくさいかもしれないけれど、でも、この言葉は本物だから。
「……ったく、しょうがねえな!」
「かっるい装備着てる坊主がそこまで言うんだ、俺も協力してやるぜ!」
「皆さん……ありがとうございます!」
なんかヒーローみたいな扱いを受け始めた俺を、カズマは複雑そうな表情で見ていた。