『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難してください。この機体は……』
警報が鳴り響く。
「……やるぞ、俺は」
沈黙の中、誰かが言った。
「……俺もやるぜ!」
「あの店は守らなきゃいけねぇしな!」
「まだやってないことがあるんだ!」
沸き上がる声。
カズマが、拡声器の魔道具を使って声を張り上げる。
『機動要塞デストロイヤーに、乗り込むヤツは手を上げろぉーっ!!』
「「「うおおおお!」」」
アーチャーが弓に縄付きのフック矢をつがえ、放つ。
アーチャーのスキルによって飛距離と正確さが補正された矢は、デストロイヤーの甲板に引っ掛かってがりっと音を鳴らす。
そのロープを、するすると上っていく冒険者たち。
「流れるような、連携」
「ヨウタ。お前はどうする。乗り込むか?」
「一緒に行かせてください。僕もこの町を守りたいです」
カズマの後ろについていき、なんとかロープを伝って甲板に出ることに成功した。
既に何人かの冒険者がゴーレムと戦闘を始めている。
と、一体のゴーレムがこちらに向かって鎚を振りかぶっていた。
ショートソードでゴーレムを押し戻し、叫ぶ。
「カズマさん!」
「なんだ!」
「ゴーレムは見たところ機械仕掛けのようです!なら、制御室があるはず!」
「!そうか……」
「そこを目指しましょう!今、そっちに行きます!」
ゴーレムの間接部にショートソードをねじ込み、てこの要領で装甲を弾き飛ばす。
繊細な部分が壊れたゴーレムは足が動かなくなり、そして冒険者に袋叩きにされた。
カズマは既に制御室への通路を見つけていたようで、たどり着いた時には一体のゴーレムと対峙していた。
「RPGゲームだと、機械相手にはこれしかないだろ!『スティール』ッ!」
カズマのかざした手から青い光が漏れ出す。
原作通りなら首がもげてるはず。
「……?ッ!マジかよ……!」
しかし、その手にあったのは首についているフレームのみ。
ダメージは微塵も与えられていないようだ。
そのままゴーレムはこん棒を振りかぶり、カズマめがけて……
「『『ソーラーガード』!』」
我の張った障壁に阻まれた。
ソーラーガード、太陽の光が無くても使えるのな。
「ヨウタ!?」
「『ここで死なれては、困るのだ……!』」
こん棒を押し返し、ソーラーガードを解いてゴーレムの首に抱きつく。
そのままゆっくりくるりと一回転すると、どうやら360度回るように作られてはいなかったらしいゴーレムの首はぶちぶちとコードの切れる音を立ててもげた。
「『良いゴーレムだ。だが、人間に似せすぎたな』ふう。さぁカズマさん、行きましょう」
あちらこちらからすげえと言う声が聞こえるが、これ爆発するからね。
早く働きなさいよ、と言う念を込めて冒険者を見ると、慌ててゴーレムを駆逐しだした。
「ヨウタさんヨウタさん、そんな重たそうな頭よく持てるわね。カズマなら重さに耐えられなくてぺちゃっよ?ぺちゃっ」
頭を投げ捨てた俺にアクアが問いかけてくる。
「伊達に冒険者やってませんから」
「おいこらヨウタ、お前まで俺をバカにするのか。俺だって冒険者なんだ、それくらい持てるに決まって……。ふんっ……」
投げ捨てた頭に飛びついてカズマが持ち上げようと奮闘しているが、原作では腕を押しつぶされた頭だ、もちろん持ち上がるはずもない。
カズマを急かして通路を通り、開けた部屋までやってきた。
そこには、ある研究者の亡骸が、独り寂しそうに椅子に腰掛けていた。
自然と、冒険者が黙る。研究者の骸骨に視線が注がれる。
だが、俺の視線は研究者ではなく、部屋の一角にひっそりと佇むもう一つの亡骸に注がれていた。
原作では、こんなのなかったはずなのに。
よく見ると、骸骨は右手に日記帳を持っている。
未知の物に対する好奇心からか、俺は骸骨に手を伸ばし、そして日記を開いていた。
デストロイヤーの事を書き始めた辺りから読む。
『○月✖︎日、デストロイヤーの整備点検をしていたら責任者のおじさんが勝手に入ってきた。反射的に隠れてしまったけど何やら思いつめているようす。酒盛りを始めたけど、愚痴を聞いた方がいいのだろうか。やめておこう。あんなハゲの愚痴なんか聴きたくないし。きっと彼女が出来ないとかで、セクハラをされて終わりでしょ』
この研究者は女だったのか。
文字が丸い。
『○月✖︎日、やばい。隠れたまま寝ちゃって朝起きたらデストロイヤーが暴走してた。え。え。え?なんでデストロイヤーが動いてんの?私何もしてないよ?そういえば、眠気で意識がなくなる前に、研究者のおっさんがタバコをふかしていたような……。まさか、動力源のコロナタイトを灰皿代わりにしたんじゃないでしょうね!?早くとめないと。研究者のおっさんも慌てている見たいだし。……でも、あれ?コロナタイトって永遠に燃え続けるんじゃなかったっけ?』
………………。
『○月✖︎日、ほんっとどうしよう!デストロイヤーの暴走は止まらないし、あれから何も食べてないし……。食料を調達しようと思ったら、トイレから出てきたおっさんと出くわした。獣じみた目つきでハァハァ言われたけど、引っ叩いたら大人しくなった。あんなハゲのおっさんで散らしたくないもん』
すぐ近くでアクアが研究者の手記を読んでいる声が聞こえる。
『○月✖︎日、もう諦めよう。大物賞金首が挽き肉になってしまった時点でもうこのデストロイヤーを止められる者はいない。
ははは、なぜでしょう。なぜ私はこんなおっさんと共に死なねばならないのでしょう。あの研究者、デストロイヤー計画の時にパンツ一丁で走り回ってたくせに今ではヒゲを撫でている。いや、「来いよ」じゃねえよ。お前と一緒にいてもなんもならんわ』
『○月✖︎日、胸を揉まれた。この際だからと言われ、うら若き乙女の胸を揉んだ!同僚に「何カップあるの」と揉まれた時とは訳が違う。ああいつ、本当に欲情してやがる!どうかお願いですエリス様、あいつに天罰を与えてください。そうでないと、私の気がすみません。私はもう泣いてきます。イケメンの彼氏に揉んでもらうつもりだったのに、こんなのあんまりだよ』
ここから先は、白紙になっていた。
俺は無言で女研究者の骸骨の額に手を当て、小さく『フレア』と呟く。
俺なりの火葬だ。
そして、もう一つやることができた。
「え?よ、ヨウタ?」
「おいちょっと待てよ、まだ手記を全部読んでな……」
「おらああああああああっ!!!!」
「「「「お、おっさんのガイコぉぉぉぉぉおおおおおツ!!!!」」」」
ローリングソバットを仕掛けられた骸骨は、頭部だけどこかへ飛んで行った。