いいよね、好きなストーリーにしても。
かんかんかん。
「被告人、サトウカズマ、前へ!」
「…………」
ヘンテコな作りの裁判所の前に、カズマが立つ。
両手には手枷がつけられ、行動の自由を奪っていた。
「弁護人、前へ!」
「「「…………」」」
そして。
「…………」
俺は今、猛烈に嫌な予感を感じていた。
弁護人がこの3人って次点でどうにかなるとか思わないよね。
俺が本気出して弁護人しても、絶対なんかやらかすと思う……。
がしかし、やるしかないのは事実。
せっかく転生したんだから、もうこの際原作通りじゃなくてもいい。
「ではアルダープ、前へ」
「フン……」
アルダープ……この裁判の元凶が、カズマ───の、後ろの俺たちを見る。舐めるような視線だ。俺、男やで。
で、アクア、めぐみんと視線を移し……最後にダクネス。控えろ、王国の懐刀の娘ぞ。
「ではこれより、裁判を始めます。検察官側、被告人が魔王軍の手先であると感じる証拠を」
「はい」
検察官が前に出る。
名前はセナとかだったっけ?
彼氏募集中とかいう情報があった気がするけど……ルナやらセナやらララティーナやら、名前に『ナ』がつく人は行き遅れるのが決まりなんだろうか。
「被告人、サトウカズマは───」
セナが書類を読み上げ、証拠となる人々を繰り出していく。
特に変わった情報は無いかな……。
一つ。カツラギ───間違えた、クソラギキョウヤと決闘した際、彼の魔剣を奪ったこと。
二つ。その決闘でゲソラギを守ろうとした二人の少女に、『俺のスティールが炸裂する』と脅したこと。
三つ。クリスとのスティール勝負で、パンツ剥いだこと。
四つ。ダストと絡んでること。これはカズマが『ただの知り合いです』と言ったからどうでもいい。
五つ。悪霊騒ぎ、爆裂魔法、スライムを勝手に購入、エトセトラ。
ふむ。勝ったな。
「では弁護人、弁護をお願いします」
「僕が行きます」
「よ、ヨウタ……!」
セナから書類を受け取る。
あんたの証拠、ボロボロにしてやるけんね。
「一つ!アホラギキョウヤとの決闘はバカラギから仕掛けた勝負であり、その際、『負けた方はなんでも言うことを聞く』という条件で闘ったことから、魔剣を奪われても文句は言えないこと!」
「くっ……」
「二つ!その条件で闘い、景品として魔剣を選択したサトウカズマに対し、仲間の二人は『不当な闘いであるからこの勝負はナシ。よって魔剣も取ってはいけない』と喚いた!対してのサトウカズマのセリフが、『俺のスティールが炸裂する』だが……決闘においてスキルの使用が禁止とは決められていなかったため、そもそも『不当な闘い』が成立しない!そして、その理不尽な訴えに対するセリフが、『俺のスティールが炸裂する』である!このセリフは相手の武器を奪って無力化することも可能であるとの宣告で、『負けた方の言うことをなんでも聞く』という権利が魔剣に適応されないのなら、二人の武器を景品として貰うという意思である!!」
よし。論破論破。このままいこう。
「三つ!盗賊クリスとの勝負はスティール勝負!盗賊スキルのスティールは運のステータスに左右するため、サトウカズマが狙って下着を剥いだ訳ではない!スティールは、『相手の装備している物のどれかを奪う』スキルであり、下着も装備とみなされるなら、それを承知の上でスティール勝負を挑んだことになる!公衆の面前で剥いだ事に関しては、下着を奪われるかも知れないスティール勝負を公衆の面前で挑んだクリスが悪い!」
「いやまあ、たしかにそうなんだけども……うん……アタシって運がいいはずなのになんでこうなるんだろ……?」
「四つ!特になし!」
「おおいっ!!」
「五つ!パーティメンバーの失態はリーダーの失態だが……理論に基づかない証言をするなら、取り上げられた証拠は全てそれぞれの私欲によってもたらされた結果であり、サトウカズマが狙って起こした事件はほぼないことを証言する!以上!なにか意見は!」
…………。
誰も、手を上げない。
裁判長が嘘発見器の魔道具を凝視しているが、うんともすんとも言わなかった。
セナは唇を噛んでいる。が、その口からは異議は出てこない。
完全勝利。
もっと早くからそうしておけば良かった。
「で、では、サトウカズマに対する国家転覆罪の容疑は、無実に……」
裁判長がハンマーを上げた。
勝訴。誰もがそう思った。
その時。
「裁判長」
オッサンが、手を上げた。
「証人の言葉は確かに、被告人の無実性を示すものだった。しかし、ワシの屋敷に爆発物を送りつけた容疑はまだ解決していない」
アレクセイ・バーネス・アルダープ……ッ!!
ずる賢い……っていうかよく気付いたな!
「異議あり!コロナタイトはランダムテレポートによって転送されたものとされ、故意的に送りつけたわけでは───」
「ランダムテレポートを使ったという証拠はどこにある。通常のテレポートを使っていないという根拠は?」
「クッ……!!」
いや……これ、どうする。
どうすれば、この状況を打破できる!
「人を欺くというのは存外に簡単なものだ。被告人は犯罪など考えないような自分を偽り、デストロイヤーが来る時まで気を測っていたのだ。そう考えれば、辻褄が合うと思わんか?なぁ、そうだろう裁判長?」
「ッ───」
ピリ───と、首筋に何かが走った。
今まで船を漕いでいたアクアが急に目を見開く。
「いま邪悪な気配を感じたわ!何者かがこの裁判を邪魔しているのよ!」
「……それはつまり、神聖な裁判所で不正が行われた、と?」
「そうよ!でも安心して、私が浄化して……ちょっと!おかしな魔法を使う訳じゃないんだから離してよー!」
法定の場ではいかなる魔法を使うことも禁じられています!」
同じだ。原作と同じ、筋だ。
今の雰囲気は、絶対に勝っていたのに。
目星はついてる。マクスウェル……アルダープの契約している上級悪魔が、真実をねじ曲げて───いや、あるべき道に戻した。
『サトウカズマが裁判で勝訴する』という外れた道から、『勝てない』という道に戻したんだ。
つまりそれが、世界の引力。あるべき姿であろうとする力。
「……くそ……」
「おいヨウタ!なんか無いのかよ!」
「被告人は、有罪、よって、死刑───」
「俺は無実だあああああああああ!」
カズマが、叫んだ。
ここまでか。筋道通り、このままではダクネスが……。
「裁判長」
「む……」
「これを見てくれ」
「そっ、その紋章は……」
「この勝負、預からせて貰えないだろうか」
「そんな事がまかり通るとでも───」
「勿論、タダでとはいかない。貴殿の望みを、なんでも叶えよう」
「な、なんでも……」
ぎゅっと、拳を握る。
ダクネスが、ダスティネス家の紋章を掲げていた。
変えられなかった……勝てる裁判だったのに。
「ダクネスさん……」
「いいんだ、ヨウタ。ほら、あの下卑た視線を見ろ……あれは陵辱して嬲るような目だ。さっきから、快感でならない」
そんな……。
なにか、あるはずなんだ。もっとちゃんとした、切り札が。
切り札……が……。
「無駄な足掻きだ。私に任せろ」
「弁護人、最後に異議は」
「……特にありません」
脱力する。
「すみません、勝てませんでした」
「ヨウタ……」
「アクアさんを回収しましょう。悔しいけど、仕方がありません。ダクネスさんに任せるしかありません」
「後で合流しよう。私は手続きがあるのでな」
「……では、この裁判は仮止めとします。解散!」
悔しい気持ちを胸に抱き、俺たちは裁判所を後にした。