「…………」
「………………」
沈黙が流れる。
ダクネスは、帰ってこない。
少なくとも、縁談が決まってどうのこうのするまでは、帰ってこない。
「……もう辛抱なりません。爆裂です。爆裂しましょう。あの領主を木っ端微塵にすれば、容疑者は消えるはずです!」
「そんなことしたらそれこそ犯罪者だぞ。今は、ダクネスを待ってるしかないんだ」
「……」
「…………」
しょげて椅子に座り直しためぐみん。
机の上の、誰も手をつけていない昨日のサラダを眺めながら、アクアが心底寂しそうに呟いた。
「……ダクネス、遅いねぇ」
俺にはどうすることもできない。
俺は、原作に沿って話を進めたい。原作通りにいけば、ダクネスはまだ無事のはずだから。
結局、最後にはみんなハッピーエンド。カズマがカッコいいムーブを見せつけ、三巻が終わり……。
三巻?三巻といえば、お見合いの他にもあったような……。
「……ちょっと、出稼ぎに行って来ますね」
「こんな夜中にか?」
「えぇ。散歩も兼ねて。外泊するのでご飯は食べていてくださいね」
きっと誰も食べないんだろうな……。
屋敷を出て、ギルドとは反対の方向へ向かう。
街の、外へと向かう。
キールのダンジョン。
今は主のいないただの洞窟だが、三巻で……つまりこれから、主ができる。
この世界は原作通りにはいかない。
さっきいったダクネス嬢だって、無事だという保証はない。
だから、無事にしなければならないのだ。
この世界に来た理由が、ぼんやりと、もやがかかったように曖昧に思い出される。
キールのダンジョンの新しい主なら……見通す悪魔なら、この先がどう動くか、わかるかもしれない。
バックラーの革紐の強度を確かめつつ歩いていると、ちょいちょいと俺を手招きする存在が。
初対面のおばあさんだ。
「僕ですか?」
「そうだよ。アンタ、私の占いを受けていきなね」
「お金ないんですが」
「嘘おっしゃい、その懐に6000エリスあることはわかってるんだよ」
6000エリス。俺が持っている金額ぴったり。
「それも占いが?」
「まぁ、ね。一回50エリスだよ」
「お安い」
まあ、それなら。
50エリスのために1000エリスはらい、お釣りの950エリスを懐にしまって椅子に座る。
……せっかくまとまった金を持って来たのに、ジャラジャラ鳴ることになっちゃうなぁ。
「そんじゃ、何を占っていく?ご希望がなきゃ、未来を占うけれど」
「じゃあ、未来で」
「ふんむ。……ほう。でたよ」
早いな。
「見通す占い師が断言しよう。アンタは近い将来、強大な敵と会うことになるだろうね。それと……その敵が、アンタに塩を送る。私に言えることは……そうさね。私は占い師だけれど、結構気まぐれでやってるんだ。深く物事を考えず、自分のやりたいようにやってみるといい」
「なるほど」
「……ところで、この近くに、魔道具店はあるかい?あぁ、あとはダンジョンでもあれば嬉しいんだが」
「ダンジョンならキールのダンジョンってのが街を出てすぐのところに。……でも、魔道具店?」
「仕入れれば仕入れるほど、貧乏になっていく不思議な魔道具店さ」
「……ウィズ魔道具店かな」
「おや!それだ。ありがとう。この町にあるってわかっただけでも良かった。さぁ、おいき」
ウィズになにか用があったのだろうか。
おばあさんがお姉さんだった頃の知り合いとか?っても、えーと、スピンオフではウィズの同僚が子供を見せに来てたから、ウィズがリッチーになったのはおおまかに捉えて10年そこらにしとくとして、ウィズは20歳でリッチーになったから現在は少なくとも30代。
となると、このおばあさん、どれだけウィズとの繋がりがあっても、同じ村の出身、とかでない限りはどこまでもおばあさんだな。
ダンジョンを聞いたってことは冒険者?あ、いや、ダンジョンに潜る依頼かも……ま、考え出したらキリがない。
「ってか、塩を送るってなんだ……」
トコトコとあるいて三十分ほど。
アニメで周りの景色しか見てなかったけど、案外つくもんだな。
「……太陽化」
ボッと、胸のうちの太陽が輝き出す。
暗視効果で一気に視界が明るくなり、みなぎる魔力が煌々と我を急かす。
……急に、シリアスになるんだもんなぁ。
「『頼もう!』」
もうこの時期には居るはずだ。
見通す悪魔、バニルが。
「『頼もう!!!!』」
……あれ?
ダンジョン前でいくら声を張り上げても、その主人の声は聞こえなかった。
「『いない……のか……?』」
キールのダンジョンは主人であったキールがアクアによって浄化されたため、見つけたバニルが主人の座に立った……というのが3巻の内容だったのだが。
うーむ……いないなら仕方がない。帰るか。
おいでおいで───
……?
おいで───
響くような声が聞こえた。しかしそれはバニルではない。
少女のような、青年のような……。
ぼうっとしてくる思考はそのままに、俺の足はダンジョン内へと運ばれていった。
◇
出稼ぎに行くと行って、ヨウタは出て行った。
朝には帰ると言っていたけれど……彼は、翌日になっても帰って来なかった。
お陰で、お酒も少し変な味がします。
あーあ。
彼の冒険話は、とても楽しくて、この屋敷に住まう者として、退屈はしなかったのだけれど……。
一体彼は、どこへ行ってしまったのかしら?