「死んでいた気がするぅぅぅぅうううううう!!」
バッ!と飛び起きる。
定番のセリフを叫びながら目覚めた俺は冷えた体をさすりながら辺りを見渡す。
「え、なに、ずっと寝てたの、俺?」
カエルの死体はとっくに冷えていた。
うわあ……こんな長時間寝たままとか……凍死してもおかしくないぞ。
「とりあえずは、アレだ。しばらくは魔法の練習だな」
剣もない今、スキル習得時に覚えた魔法の使い方をなんとか応用するしかない。
フレアをバスケットボールサイズに留めるのに苦戦しながら、森をあるく。
正面には雪に包まれた山がある。
目撃情報だとこの辺りのはずだけど……。
ビシュッ!!
「おうふっ!!」
茂みから白い何かが俺の腹にタックルをかましてきた。
とっさの事で足がもつれ、その場に尻餅をついてしまう。
なんだ今の!?犬って比じゃねえぞ!!
「うおおおおおん」
白い犬……狼は空中に飛ぶと一回転して着地、仲間を呼んでいるのか、吠えながらのっそりと近寄ってきた。
喰うつもりか!?
「い、いやだ、『フレア』!!」
バスケットボールサイズのフレアを狼に放つ。
「がるおっ」
「新手……!?」
茂みから新しい白狼が出てきて火球を反らした。
オイ待て今どうやった───
「グルアアッ!!」
「わあああっ」
目を瞑り、腕を交差して防御の姿勢。
一秒、二秒、三秒───痛み、来ない、ナンデ?
「………?」
目を開くと、狼達はあらぬ方向を向いていた。
まるでなにかに怯えるように。
「───ロージョンッ───」
ドゴオオオオオオオ!!
「あああああああ!!」
「キャウンっ!」
「ぐる……」
一拍遅れて衝撃が肌に伝わる。
地面をごろごろと転がった後のうつ伏せの状態で首だけ動かして辺りを見渡すと、衝撃波で気絶している白狼の姿。
「…………ていっ」
「きゅっ」
跨がって白狼の喉に手を伸ばす。
んで、きゅっと絞めるだけ。
こうして俺は、棚からぼた餅的な勝利で、財産を築くことができるのだった。
「…………スゲー地味っ!!!」
◇
「ええっ!?クリアしたんですか……!?」
「ええまあ、なんとか」
死体を担いで依頼者に話した所、すごい感謝された。
それに、白狼の毛皮も持っていっていいそうな。
俺、運値が少し低いはずだよな……?
「では、冒険者カードを……すごい、本当に15匹も……。では、報酬の百万エリス、引き千エリスで九十九万九千エリスです。さすがに五十万以上の報酬は現金での手渡しが出来ないので、九十万エリスの手形をお渡しします」
手形とは、まあ簡単に言えば銀行の通帳のようなもの。
銀行へ行けばそのまま貰えるし、貯金して利子を期待するのもいいな。
残りの九万九千エリスを貰って、俺がほくほく顔でギルド酒場の席に座ると、隣から話し声が聞こえてきた。
「しかし、小一時間で十二匹。百二十万か……。稼ぎはでかいが、死んだのが割に合わないな。あの冬将軍ってのは特別指定モンスターとか言っていたな。あいつには、どれだけの賞金がかかってるんだ?ダクネスの剣が一撃で折られたりとか───」
「ご注文お決まりでしょうか?」
「あ、じゃあこの日替り定食で」
「かしこまりましたー」
「───めぐみん。あいつを爆裂………」
「爆裂魔法では倒せませんよ。見た目は人型ですが、あれは精霊ですから。精霊は本来、実体を持たない魔力の固まりみたいな存在───」
「おまたせしましたー、日替り定食でーす」
「あ、ども」
聞き耳を立てている内に定食が来た。
それにしてもあの会話、どこかで聞いたことが……?
運ばれてきたのはカエル肉のステーキ。
……喰えるのか?これ。
ごくり。
いざ、フォークを突き立てようとしたその時、俺の肩を誰かが掴んだ。
「先程からこちらの話に聞き耳を立てていたようだが、なにか用か?」
「───ッ」
振り向いた先には、金髪をポニーに纏め、碧眼でこちらを見つめる美女がいた。
体は男好きのするボンキュッボン。
全身を鎧で包んでいて───って!
「あ、あ、だ、ダスティネs」
「わ、わあああーっ!!」
「ん?どうしたのです、ダクネス。というか、その人は?」
「ら、ら、ら、ララティー」
「うわあああああ!」
「おいこらダクネス。お前ドMなだけでも厄介なんだから、これ以上迷惑をかけるな。発狂癖とかついたら俺はもうどうしたらいいんだ」
なるほど、隣のパーティーはカズマさんのパーティーだったか。
ダクネスは肩を掴む力を強くして、顔を寄せてくる。
「貴様、それをどこで知った!ま、まさか、ダスティネス家の回し者か!?」
「ち、違う違う、違います。なんとなくそうなんじゃないかなって」
「ほ、本当か……?」
「ねーえー、ダクネスー、まだー?」
「あっ、ああすまない。コイツは……その、」
「以前、ダクネスさんと冒険をしたことのある新米冒険者の
「なっ!?」
ダクネスは驚いているけど、嘘も方便。
「えっと、もしかして佐藤和真さんですか?」
「ああ、俺がカズマだ。どうした?サインならいつでもいいぞ」
「要りません。えと、お願いしたいことがございまして……」
「お、おいなんだよ、金ならないからな!?」
「おたくのパーティーに入れてください!」
沈黙。
遠巻きに見ていたルナさんが頭を抱えた。
「……今なんて?」
「えっと、パーティーに入れて欲しい、と……」
「ちょっとちょっと、この麗しいアクア様のパーティーに新米冒険者が入ろうなんて何を考えてるの?ウチは上級職かつ借金無し、私を養えるだけのお金が無いと入れないからね」
「職業はルーンナイト、借金どころか犯罪歴もありません。あの、お金でしたらここに九十万エリスの手形が……」
「これからよろしくね!仲良くやっていきましょう!」
ルナさんとカズマさんが頭を抱え、肘で机をどんと鳴らした。