「え、えっと……まずは相性の調査だ。とはいえこの季節のカエルは冬眠している。そこで、このめぐみんってロリっ娘いるだろ」
「おい、私の年齢に文句があるなら聞こうじゃないか」
「13歳は子供だ」
「ええ!?それ犯罪じゃないですか!?」
「それが、ここだともうそろそろで成人らしい……ん?待てよ?」
カズマさんは説明の途中に、俺に耳打ちしてきた。
「なあ、お前出身地は?」
「日本です」
「……やっぱりか。この世界じゃ14で成人らしいからな」
「ってことは、カズマさんも転生者ですか」
知ってるよ。
あなたの話、アニメにもなってるよ。
……口が裂けても言えないな。
調子に乗りかねんし、なるべく原作に寄せたいからね。
「チート能力は」
「《太陽化》って言うんですけど、急かされて選んだんで効果は魔法である事くらいしかわかってません。先輩は?」
「せ、先輩……!そうだな、俺もチートが欲しかったんだが……」
カズマはちらりとアクアの方を見る。
アクアは話に飽きて机に突っ伏して寝ていた。
「ついてきたのはあのアホ一人だ。打撃が効きにくいカエル相手に文字どおり殴りかかったりとか、いっつも余計な事しかしねえんだよ……!」
「……お疲れさまでぇす」
まあ、そこがライトノベルのこのすばの魅力だしね?
……ね?
◇
街の外。
アニメで良く描かれる平たい場所。
新雪が積もっていて、歩く度にぎゅむぎゅむと音が鳴る。
「まずはめぐみんの日課をしてから」
「日課?」
「……実はな、コイツ、一日に一回爆裂魔法ってのを放たないと我慢できないんだよ。しかもその魔法な、自分の魔力を全部使うんだと。なあ、本当に俺達のパーティーに入るのか?」
「無論です。美少女うんぬんではなく、カズマさんがいるこのパーティーに入りたいので」
「お、おう。じゃあ、めぐみん。撃っていいぞ!」
離れたところからめぐみんが手を振った。
そして杖をふりふり、魔法の詠唱をしているようだ。
魔力が漏れ出し、冷たい空気がパリパリと震える。
生で見る爆裂魔法。楽しみだ。
「───エクスプロージョンッ!!」
雪原に、可愛らしい声が響く。
放たれるは、声に似合わぬ魔神の鉄槌。
音の暴力が俺の耳から、体中に響き渡る。
離れたところから放たれて、さらに放たれところに着弾したこの距離でこの轟音。
胸の奥で、火が灯ったような感覚が俺の体に染み渡る。
───シュボッ
パキパキパキ……
気がつけば、俺は。
「よし、カエルが出てきたな。じゃあヨウタ、後は───」
気がつけば、俺は。
「『くくく……脆弱なるカエルどもよ。我が聖なる炎で焼ききってくれる!』」
胸の奥の炎に感化されたように、妙なことを口走っていたのだった。
◇
俺───佐藤和真は目の前の光景に唖然としていた。
「『フレア』ァァァ!」
ヨウタの様子が急に変わった。
腕に炎を纏わせてカエル相手に肉弾戦を挑んでいる。
「『ふははははは!脆い、脆いなァ!!』」
ヨウタが腕を振るう度、カエルが焼肉と化し、辺りに香ばしい匂いをまき散らす。
「『おらおらどおしたぁぁぁぁあ!』」
先ほどのどこにでもいそうな優しそうな日本男児は、もういない。
もしかして、コイツ……
「『ん?なんだ、もういないのか?』よ、よかった。なんとか勝てました!でもなんなんでしょう、急に戦闘が始まったと同時に気分が高揚して……」
「お前は二重人格者かなんかか!」
やっかいなモノに関わってしまったか!
◇
なんとか勝てた。
魔力も少しだけ残ってるし、これでどうだろうか。
胸に残るは、まるで新しい本を買って家で開けるときのような高揚感。
「どうですか?パーティーに入れそうですか?」
「まぁ及第点と言ったところでしょうか。なんせ、私たちは魔王軍幹部も倒した実力のあるパーティーです。生半可な能力じゃ私たちの戦いについて行けず、死んでしまいますからね」
「そのときは、私が生き返らせてあげるわね!凄腕アークプリーストのアクアさんは蘇生魔法も使えるのよ」
めぐみんとアクアからも好評のようだ。
期待を込めた眼差しでカズマを見ると、カズマは引きつった笑みを浮かべていた。
まるで「やっかいなモノに関わってしまった」とでも言うように。
「どうするカズマ。私が言うのもアレだが、ヨータは優れていると思うぞ。戦闘中に気を張っておけば……まぁその、アレもないだろう」
「え、あの、アレってなんですか」
「お前自分で気付いてなかったのか。戦闘中、地獄の悪魔かなんかと間違えるくらい豹変してたぞ。二重人格とかじゃないか?」
「「二重人格!?」」
そんな、まさか……二重人格って……!
「「カッコいい!!」」
「あなたもそう思いますか!表は優しそうな少年、裏は千年前に魂に封印された地獄の悪魔!これは紅魔族的にビンビンきます!」
「ですよね!カッコいいですよね!うわぁ、俺こう言うの憧れてたんですよ!」
めぐみんとは気が合いそうである。
しかしまぁ、原作通りにいくとめぐみんはカズマさんのヒロインになるわけだから、めぐみんを好きになるとかはしてはいけないだろうけど。
「悪魔臭はしないわね。封印された悪魔説はなさそうよ。どうするのカズマ?この子、普通に強いと思うの」
「…………か、仮パーティーとかどうかな……?」
「やったあ!」
こうして俺のカズマさんの(仮)パーティー入りが決まったのだった。