その日はカズマに教えてもらい、他、ここ数日で馬小屋で寝泊まりする手続きや、連れて行ってもらった武器屋で俺の剣と楯を買った。
といっても俺は魔法……《太陽化》をメインに使って行くつもりなので、剣は安いショートソード、楯は小さくて取り回しの良いバックラーと呼ばれる物だ。
更には服屋で異世界の衣服も買った。
裾が比較的長めのシャツに薄緑のジャケット、裾の広いショートパンツとローファーという、冒険者とはかけ離れた装備だが、どれもこれもに物理耐性の魔法がかかっているらしく値段は張るが良い装備を買った。
そして、一夜が明けてギルドに集まったのだが。
「おい、もう一度言ってみろ」
怒気を孕んだカズマの声に、ギルドが静まりかえる。
「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティーにいながら、もう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前が足を引っ張ってるんだろ?なあ、最弱職さんよ?」
ぐぐぐ。この展開があるのは知っていたが、いざ目にするととても腹が立つ。
我慢だ。我慢するのだ。
カズマが我慢しているのに、俺が暴れ出したら意味が無いじゃないか。
「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ!おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんよ?」
「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおっ!!」
あ、ついにカズマが切れた。
早口で相手をまくし立て、相手の酔いを覚ますほどの迫力を纏っている。
たしか、彼の名はダストと言ったか。
名に違えぬゴミっぷりだ。親を褒めよう。
とんとんでパーティー交換の話が進み、ダストのパーティーも引きながらもパーティー交換を承諾していた。
「あの、俺はどうすれば……」
「仮とはいえパーティーメンバーなんだから、一日はコイツと同じパーティーにいろ」
「ええっ。そんな酷な事言わないでくださいよぉ。イヤですってそんなこと」
「あれっ、俺だいぶ下に見られてるな……?」
「下に見てるんですよ?何か問題が?」
ふふふ。せいぜい泣きわめくと良い。
俺はこの先の未来が分かっているからな!
「ねえ、ヨウタが怖いんですけど。あの子って意外と毒舌だったのね」
「普段の様子からは考えられないな……。それほど、ヨータにもこの件は頭にきたのだろう」
ほの暗い笑みを浮かべる俺に、アクアはすくみ上がっていた。
◇
受けたクエストはゴブリン狩り。
不本意ながらもダストに付いていく事になり、肩を落としながらも歩いていた矢先、ダストが口を開いた。
「まず、各自の冒険者カードの提示を求める。こういう戦略を必要とするクエストでは、味方のスキルを把握しておく必要がある」
「あなたに味方認定されると鳥肌が立ちますね。はい、冒険者カード」
「お、お前さん……いつの間にか入っていたが、新しいパーティーメンバーか?」
「ヒノヨウタです、よろしく」
「ふうん……?えっ、お前ルーンナイトなの。また上級職?」
「何か問題が?」
「い、いや、なんでもねぇ。じゃあ次、魔法使いのお前さん……」
返された冒険者カードをひったくるように懐に戻し、はよ問題起きねーかな、はよ泣き顔晒さねーかな、と蝶々を眺めていると。
「へえ!お前、爆裂魔法が使えるのか!そりゃすげえ!」
「フッ。我が力は神をも殺せる最強の魔法。いいでしょう、我が力を見せてやろう!!」
来た。問題ムーブの引き金。
「えっちょっ」
「『エクスプロージョン』!!!」
突如、平和な森に乱暴な破壊の権化が舞い降りる。
爆音を吹き上げながら平原にクレーターを作るその爆炎は、今日は89点をくれてやっても良いかもしれない。
「ナイス……爆裂……」
「うおおおお!すげえええ!……ん?なんかこっちに黒いのが向かって来てねえか?いや、来てるよな……」
「ああ。あの爪や牙。アレはまさしく……」
「「初心者殺し!!」」
俺には黒い点にしか見えないのだが、ブルーライトどころか機会すらろくにないこの世界の住人は、やはり視力は良いものなのだろうか。
あったな、初心者殺し。
低級モンスターであるゴブリンを狙う冒険者を狙い、その爪で敵を引き裂き、鋭い牙で肉を噛み切る黒ヒョウのようなモンスター。
「と、とりあえず逃げた方が良い!まだ距離はあるから……って、なんでそんなとこで寝てんだ?」
「さっきも言ったでしょう。我が爆裂魔法は私の全魔力を込めた最強の魔法。つまりは、全魔力が無くなれば動けなくなるのは必然。すみませんが、おぶってください」
「なんでそんなになるのに何も無いところでぶっ放した!?お、おい、とりあえず逃げるぞ!特にクルセイダーの姉ちゃんとルーンナイトの兄ちゃんは鎧も着てないんだから、早めに……おい、なんであっちを見てるんだよ?なあ、わかるだろ?俺たちにアレを討伐するのは早すぎるんだって!」
「狡猾で危険度の高いモンスターの攻撃……私に耐えられるだろうか……?力及ばず組み伏せられて知性の無い獣にあんな事やこんな事をされてしまうんじゃあ……?」
「『矮小なる獣よ、我が紅蓮の炎に呑まれるといいわ!』」
ここ数日で、この高揚感にも慣れた。
今では、すっかり感情移入が出来ている。
「『クルセイダーの硬質乙女よ。覚悟は出来ているな?』」
「覚悟が出来ていなけりゃ、こんな仕事していないさ。さあ、行くぞ!!」
「『おう!!』」
「頼むから、俺の言うことを聴いてくれえええええ!!」
底辺人間の声を背に、我と硬質乙女は迫り来る黒い獣に殴りかかるのだった。
◇
「ぐずっ……。ふぐっ……。ひっ、ひぐう……っ。あっ……、ガ、ガズマあああっ……」
泣きじゃくるアクアを慰めていると、ギルドのドアが開かれた。
そしてスッと閉められた。
「おいっ!気持ちは心底よーく分かるが、ドアを閉めないでくれよっ!」
「……えっとなにこれ。いや、大体分かる。何があったかは大体分かるから聞きたくない」
「聞いてくれよ!」
ダストがなにやらわめいている。
どうやら、この冒険の話をしているらしい。
カズマのすがすがしい笑顔とダストの泣き顔を視界に納められてスカッとした俺は、頼んでおいた野菜スティックをポリリとかじるのだった。
「めぐみん」って打とうとしたら変換されて「目愚民」って出てきてワロタ。
視力悪い人の集まりなんだろうなあ……。