「いいかアクア。今の内に言っとくが、絶対に暴れるなよ。喧嘩するなよ。魔法使うなよ。ヨウタ、もしもの時はフォロー頼むぞ」
「わかりましたー。……なんで暴れるのかは聴かないでおきます」
「助かる。マジ助かる」
俺たちは、カズマに連れられてとある魔道具店に来ていた。
看板に刻まれた文字は、『ウィズ魔道具店』と書いてある。
来たよ来たよ。
人気のウィズさん。
ポンコツ店主のウィズさん!
カズマはわめくアクアを引き連れ、店のドアを開ける。
からんからんとベルが涼しげな音を立て、店主に来客を知らせる。
「いらっしゃ……、ああっ!?」
「出たわねこのクソアンデッド!あんた、こんなところで店なんて出してたの!?ヨウタ、こんな店、神の名の
店に入ってすぐに暴れだしたアクアの頭にダガーの柄による打撃を喰らわせたカズマは怯える店主に挨拶する。
「ようウィズ、久しぶり。約束通り来たぞ」
◇
「そうですか、新しいパーティーメンバーの」
「はい、ヒノヨウタと言います。よろしくお願いしますね、ウィズさん」
ウィズの事は知っているが、会うのは初めてなので挨拶をしておく。
り、リアルで見ると心配するくらい青白いなあ……。
「このお店は何を売ってるんです?魔道具には詳しくなくて、オススメがあれば教えてくれませんか?」
「でしたら、こちらはどうでしょう?駆け出し冒険者のための、緊急テレポートのスクロールです!読み上げるだけで、半径1メートル以内の生物をテレポートさせることができるんですよ!」
スクロールは読み上げるのに時間がかかるため、読むにはある程度距離を取らなければならない。
そして、緊急テレポートが必要な事態はモンスター関係が多いのだが、読めるような距離が開いているときは素直に逃げた方が早い気がする。
……例に違わず不良品であったか。
「な、なるほど~。それはいいですね!……あっ、あのポーションっぽいのがある棚ははなんですか?」
「あちらは不思議なポーションシリーズですね。状態異常の
ちなみに状態異常、
後者のポーションについては論外だ。
丸刈りにする聖職者とかならまだしも。
話題を変えるため、俺は適当なポーションを手に取る。
「これは?」
「それは膨大な魔力を得る代わりに容姿がランダムで代わるポーションです」
「使った人はいるんですか?」
「以前買っていった人がゴブリンの容姿になり、討伐されかけていた例が……」
このポーション、モンスターにもなるのかよ。
魔力を得られるならいいかもと思ったが、失敗した時の事を考えると敬遠したほうが良さそうだ。
と、ポーションを棚に戻そうとしたそのときだった。
「ウィズー!?お茶はまだかしらー!?」
「わっわわッ!?」
バンという大きな音にそちらを向き、なんだアクアかと安堵して再度ポーションを戻そうとしたときには、俺の手にポーションはなかった。
「ああっ!?ポーションが!?」
「え?うわっ、ちょっ!」
足元に散らばった液体からしゅうしゅうと煙が吹き出て、俺を巻いている。
何事かとカズマが棚の奥から顔を出し、目を見開く。
「よ、ヨウタ……なのか……?」
「ああ、私のせいで……。私のせいで……!」
「なあに、あんたヨウタ?まさか私に新しい芸を披露するつもりじゃないでしょうね?」
待て待て、今俺はどんな容姿をしているんだ!!
ゴブリンとかシャレにならんぞ!!
視線の高さは変わっていないが、顔が変わっていたのならそれは困る。
「うぃ、ウィズさん!鏡とかあります!?」
「ああ、すみませんすみません……」
「か、カズマさん!?今、どんな見た目してますか!?モンスターとか嫌ですよ!」
「い、いや、モンスターではないけどさ……」
「骨格ごと変質してるから状態異常じゃないわねー。回復はできないわよ?」
「う、嘘だ……!」
両手両足はある。
陶磁器のように白い肌が張っている。
がしかし、必要なのは顔。
この反応……終わったか??
「と、とりあえず帰るぞ。ウィズ!スキルはまた今度教えてくれ!」
膝をつき、意気消沈した俺をカズマが抱えてウィズ魔道具店を出る。
巡回していた兵士が、カズマを、否、カズマが抱えている俺を見て追いかけてきていた。
距離があったから逃げれたが、そうか……。
俺はそんなに醜い顔になっちまったか……。
冒険者ギルドにつくと、美味しいクエストが来ないか見張っていたダクネスが
「と、とりあえずは手洗いで鏡を見てこい!いいか、よそよそしくするな、堂々と入れよ!」
と言ってきた。
重たい足を引きずり、トイレで恐る恐る顔を確認する。
……………………。
「えええええええ!?」
トイレを抜け、冒険者ギルド中に俺の声が響いた。