もしエル キャラコメンタリー!   作:天星

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七香編 敗北の価値観

「はいどうも皆さんこんにちは! 中川かのんです!

 第10回キャラクターコメンタリー、始めていきましょう!」

 

「七香編だ。

 ほぼ100%かのんが担当した攻略になる」

 

「確かあの時は……桂馬くんが手出しできない状態だったね」

 

「ああ。振り返るとしようか」

 

「それじゃ、VTRスタートだよ!」

 

 

 

 

 『ねえ桂馬くん、ちょっと頼みたい事があるんだけど……』

 『何だ? また勉強か?』

 『ううん、今回はそっちじゃなくて仕事関係だね。

  桂馬くんって将棋はできる?』

 

 

「原作を知ってる読者さんならこれだけで次の攻略対象が誰か分かるね」

 

「これで七香じゃなかったら詐欺だな」

 

「だね」

 

 

 

 『将棋が絡むギャルゲーは何点か持っているんだが……』

 『……問題が、あるんだね?』

 『ああ、バグだらけでな。

  酷いものなんか王手しただけでフリーズする上に相手が五歩とかやってくる』

 

 

「一応確認するけど、『五歩』っていうのは縦一列に歩が5個並んでる状態の事だよね?」

 

「ああ。一応説明しておくと『二歩』の時点で反則負けになるからまともな将棋であれば絶対にお目にかかれない」

 

「……と言うか、縦列は9マスしか無いんだから歩を5個も置いたらギチギチになるよね?

 そんな窮屈な場所に歩を打つ意味が分からないんだけど……」

 

「奇遇だな。僕も全く分からない。

 最初に見た時はビビったよ」

 

 ※

 将棋における『歩』のコマは前に一歩前進する事しかできない。

 そして、将棋のルールとして『自分のコマが既にある場所には移動できない』というものがある。よって、歩の目の前に自分のコマがあったらその歩は何もできない。

 同じ縦列に5個も置いたら確実に1箇所は何もできない状態になる。完全に邪魔だ。

 まぁ、相手のコマの動きを邪魔する事はできるから完全に無駄というわけじゃないけど……真っ当な判断ができる人による将棋なら二歩三歩くらいならまだしも五歩になる事はまず無い(気がする)

 

 

「……ところで桂馬くん。

 王手したらフリーズするのにどうやって勝ったの?」

 

「相手に投了させた。

 ただ、五歩からも分かるようにAIが相当アホだからかなり苦労した。

 明らかに負けてる状況でも無駄にコマを打ったり動かしたりするからな。

 仕方ないから相手の王将以外を全部取って、逃げ道を完全に封鎖して『投了』しかできないようにしてやった」

 

「えっ、王手を一切使わずに全駒したの?

 それって相当大変だったんじゃないの……?」

 

「相手がアホだからな」

 

 

 

 『よし、じゃあ始めるぞ』

 『よろしくお願いします!』

 『…………』

 『…………あの、桂馬くん?』

 『……どうやって並べるんだ?』

 『知らないの!?』

 『フッ、君達はそんな事も知らないのかね』

 『あの、どなたでしょうか?』

 『フフッ、まあ初めてここに来る君が知らないのも無理は無い。

  僕は田坂、田坂(たさか)三吉(さんきち)だ。この部の主将を努めさせてもらっているよ』

 

 

「神のみ世界では極めて珍しい『原作マンガ内でフルネームまでしっかりと登場する男キャラ』だ。

 これに該当するのは僕と、ノーラの禿バディ、うちの父さんと爺ちゃん、後は過去編のうららの爺さんと、美生や結の父親くらいだな」

 

「うわっ、少なっ!」

 

「名字や愛称だけなら多少は増える。

 英語教師の児玉。

 美生の運転手の森田。

 結の運転手の岡本。

 原作者の前作から使いまわされてる不良のリョーくん。

 ……そんな所か?」

 

「それでも少ないね……」

 

「ギャルゲーに男なんて要らん! という事だろうな」

 

 

 

 『たのもー! ここで一番強い奴を出しぃ!!』

 

 

「七香さん登場シーンだね。

 原作における心のスキマの原因がまだ出てきてないから当然駆け魂は居ないよ」

 

「原作では天理を倒す特訓の為にうちの学校に来ていたな。

 本作では……多分、普通に強い奴を探し求めて殴り込んできたんだろうな。

 単純な奴は扱いが楽だな!」

 

 

 

 『ところで桂馬くん、この2人って強かったの?』

 『ん? そこらのコンピューターのレベル99よりは強かったと思うが、僕に比べたら大したことは無いな』

 『何やと? そこのメガネ、今なんつった!』

 

 

「ナチュラルに見下して喧嘩を売ってるね……」

 

「だ、大丈夫だ。僕はこいつには負けてなかったからハクアと同じ轍は踏んでいない!」

 

「『当時は』ね。確か1回負けてたよね? 負けてなかったけど」

 

「ふ、フン。次からは負けん!」

 

「う~ん……桂馬くんにフラグが立つ可能性が一応ある……?

 よし桂馬くん。このコメンタリーが終わったら特訓だよ! 七香さんに負けたら許さないからね!」

 

「そんな事をせずとも僕が七香を好きになる事などまず無いが……少し鍛えておきたかったのは事実だ。

 やるか」

 

「うん! 七香さんよりも先に桂馬くんに勝つよ!

 塔藤先生や七香さんに鍛えられてる私を舐めないでね!」

 

 

 

  ……七香を倒した後 翌日……

 

 『失礼します、田坂主将居ますか?』

 『ん? ああキミか。どうしたんだい?』

 『昨日借りた入門書、どさくさに紛れて持って帰っちゃったので返しに来ました』

 『ああ、なるほど。役に立ったかい?』

 『はい、ありがとうございました!

  ところで、昨日はあの後大丈夫だったんですか?』

 『昨日? ああ、少々恥ずかしい所を見せてしまったね。

  一応主将として県内の有力な選手の名前は覚えていたのだが、榛原七香なんて名前は全く聞いたことが無くて油断していたら……あのザマだ。

  いや、油断していなくとも8割以上の確率で負けていただろうね』

 『は、はぁ……』

 『いやぁ、さっきまであの時の対局の棋譜を並べていたんだが、色んな意味で酷い。

  無名の選手でもあれだけの指し手が居るんだ、僕もうかうかしていられないよ』

 『そ、そうですか。

  それじゃあこれで失礼させて頂きますね』

 『フフン、また何かあったらいつでも来てくれたまえ』

 

 

「小物を改心させるのは筆者さんの癖みたいだね」

 

「前作では別の学校の小物感溢れる2-B首席を改心させて立派なライバルキャラに仕立て上げてたな。

 あと、どっかの絶望的なデスゲームの黒幕も涙もろい主人公にしてたし」

 

「うん……まぁ、改心する事は良い事だよね。きっと」

 

 

 

 『あの男はアイタッ!』

 『ふむぎゅっ!』

 

 

「七香とお前が正面衝突してるシーンだな。

 うちの筆者が『身長』のパラメータを気にし始めたのはここからだ」

 

「七香さんの方が私より10cmだけ身長が低いらしいね。

 ……同じ身長だったらキスする事になってたのかな……」

 

「それは……何か嫌だな」

 

「え? 桂馬くん今何て言ったの?」

 

「何でもない! 次行くぞ!」

 

 

 

 『す、すいません! 用事があるので帰らせてもらいます!!』

 『え? ちょっ!!』

 (戦略的撤退を選ぼう。

  開きっぱなしの部室の扉を抜け、廊下を走って近くの曲がり角で曲がる。

  そして2~3歩進んでから錯覚魔法を切り替えてUターンする)

 『そこ、退いてぇっ!!』

 『ふぇっ!? あわわっ!!』

 

 

「お前……よく咄嗟にこんな事できたな」

 

「魔法の訓練はこっそり続けてたからね。どういう使い方ができるかっていうのはいつも考えてる事だよ。

 それに、人目に付かない場所で錯覚魔法を使うのは結構頻繁にやってる事だからね」

 

「そう言えばそうか。

 本作ではお前がアイドルしてる場面はほぼ描写されてないが……裏では色々とやってる、ハズだよな」

 

「……そのハズだよ」

 

 

 

 『……どう考えても僕はラスボスの立ち位置じゃないか』

 『……ああ、確かに』

 

 

「別の心のスキマの原因が出てきたから当然のように駆け魂センサーに反応した後だよ」

 

「スキマができたからと言ってそう都合良く駆け魂が入るのか……?

 と言いたい所だが、この学校呪われてるからな……」

 

「メタ的な意味の呪いじゃない方の呪いだね。

 封印解除は10年も前のはずだけど、まだ近場に潜伏してる駆け魂が沢山居るのかな?」

 

「もしくは、封印解除された当時は肉体を捨てずに待ってたが、今頃痺れを切らして肉体を捨てて駆け魂になった悪魔かもな」

 

「あ~、その可能性もあるか。ホント呪われてるね。ここ」

 

 

 

 『くぅっ……やっぱり勝てへん!』

 『やっと終わったか。約束、忘れてないだろうな?』

 『……忘れとらん。ちゃんと約束は守る』

 『そいつは安心だ。

  それじゃあ細かい話はそいつから聞いてくれ』

 

 

「再戦は一週間後、その間はかのんを鍛える事。それが約束だったな」

 

「桂馬くんがラスボスになっちゃったからね。

 上からじゃなくて下から七香さんに近づく作戦だよ」

 

「原作だったら絶対にできなかったな。

 もしお前が居なかったら詰んでたかもしれん」

 

「う~ん……頑張ればエルシィさんでも……いや、無理か。

 エルシィさんだとコマの動きすら覚えられなさそう」

 

「2手連続で指したりとかもしそうだな」

 

「有り得そうだね……」

 

 

 

 

 『……なぁ、ちょっと聞いてもええか?』

 『え? なあに?』

 『アンタ、ずっと負けてて辛くは無いんか?』

 (私の望んだ通りのその言葉が出たその時、桂馬くんがギャルゲーが好きな理由が少しだけ分かった気がした)

 

 

「お前この時そんな事考えてたのか」

 

「そう言えばそうだったよ。

 何ていうか……自分がこういう行動をすれば相手はこういう反応をするだろうっていう予想がピッタリと当たって、それが嬉しかったんだ」

 

「まぁ、そうだな。

 選択肢に悩んで、選んで、自分の望んだ結果が帰ってくる。

 これほど素晴らしい事は無い」

 

「こういう事は相手への理解度が試されるね。

 もっと桂馬くんを理解しないとね」

 

「……ま、頑張れ」

 

 

 

 『ところで、七香さんはプロを目指してるの?』

 『ん? 言ってへんかったか?』

 『聞いてないよ』

 『んじゃあ言っとこうか。うちはプロを目指しとるんや!』

 

 

「プロ棋士かぁ……高校生でプロって何だか凄いよね」

 

「高校生アイドルのお前がそれ言うか?」

 

「いやまあそうなんだけどさ……

 何かカッコいいなって」

 

「だったらお前も目指せばいいじゃないか。プロ」

 

「いやいや、流石に私ごときじゃプロになんてなれないよ」

 

「年齢制限は19歳以下だからまだ3年は余裕がある。

 鍛えればお前ならどうにかなるだろ」

 

「う~ん……実力の問題に関しては置いておくとして、アイドルと兼業なんて無理だよ。

 アイドル辞めてまでプロを目指す気も無いし」

 

「そうか? 意外と何とかなるかもしれんぞ。

 アイドルでも将棋でもないが、声優とプロ雀士を兼業してる変り種が実在しているくらいだ」

 

「そんな人居るの!?」

 

 ※ 現実に居ます。かなり有名なギャルゲーでパッケージヒロインの声も担当した御方が。

 

「よくは知らんが、プロ棋士と言っても365日対局し続けているわけでもあるまい。

 岡田さんとよく相談してからという事になるだろうが、兼業が絶対に不可能という事は無かろう」

 

「……プロ棋士、かぁ……」

 

 

 

 『プロって事は奨励会に入るんだよね?

  推薦してくれる人はもう見つかってるの?』

 『……? 何の事や?』

 『え? えっと……ちょっと待って。

  主将さん! ちょっと本借りますね!』

 

  『受験資格は、満19歳以下で四段以上のプロ棋士から受験の推薦を得た者であることである』

 

 『……ってなってるんだけど……』

 『…………え?』

 

 

「……これ、原作ではどういう扱いになってたんだろう? 影も形も見あたらなかったけど」

 

「攻略の本筋とは関わらないからスルーされてたのかもな。

 おまけの4コマではカツ丼に夢中になって試験をすっぽかしていたが……これって推薦者の顔に思いっきり泥を塗る行為なんじゃないか?

 将棋バカではあるが、いや、だからこそ将棋の師匠にそんな恩を仇で返すような真似をするとは思えん」

 

「う~ん…………」

 

 

 

 『推薦の話なんだけどさ、できれば早めに終わらせたいよね? 具体的には桂馬くんとの対決より前に』

 『ま、まあそうやけど』

 『だから、私の方でもプロの人に連絡を取ってみようかなって』

 『そんな伝手があるんか?』

 『まあ一応、ね。どうする?』

 『せやな……どんな先生を紹介してくれるんや?』

 『確か……塔藤(とうどう)光明(こうめい)先生だったかな』

 『塔藤先生!? あの塔藤先生なん!?』

 『え? た、多分?』

 

 

「塔藤先生……感想欄ではある読者さんから『おかっぱメッシュ先生』とか呼ばれてたね」

 

「この少し後に出てくるアニメのタイトル『ヒカリの将棋』からも察することができるが、元ネタは囲碁マンガである『ヒカルの碁』だ」

 

「将棋じゃなくて囲碁なんだよね……全然違う競技なのに」

 

「将棋で有名な漫画なんて思いつかなかったらしいな。探せばいくらでもあるだろうがな。

 話を続けると、ヒカルの碁の主人公の名前が『進藤(しんどう)ヒカル』、ライバルの名前が『塔矢(とうや)アキラ』だ。

 カタカナが正式名称だが、あえて漢字変換するなら『光』と『明』かな?

 それを混ぜ合わせて『塔藤(とうどう)光明(こうめい)』先生となったわけだ」

 

「……あれ? でも、元ネタの2人とも男の子だよね?

 何で塔藤先生は女性になったの?」

 

「神のみ世界に男キャラなんて要らんだろ」

 

「納得できるようなできないような……」

 

「それにアレだ。元ネタの2人の中の人はどっちも女性声優だしな!」

 

「……そういう問題なのかな……?」

 

 

 

 

 『この前オーディションに受かった将棋のアニメ。確か『ヒカリの将棋』でしたっけ?

  あの作品を監修してるプロの方とのアポを取る事ってできますか?』

 『え? まあ不可能では無いと思うけど……どうして?

  将棋を教えてもらうつもりなら……』

 『いえいえ、私の友達の友達に凄く強い人が居るので奨励会に推薦してもらいたいんです』

 『奨励会っていうとプロの事よね? 推薦が必要なの?』

 『えっとですね……』

 

 

「ところで、このアニメは一体どういうアニメなんだ?

 確か前に『内容は妙だけどしっかりと監修が付いてる』みたいに言ってたよな」

 

「え? うん。そうだね。

 ……ホント、妙な内容だよ」

 

「一体どんな内容なんだ……」

 

「えっと…………」

 

 

  ~~~~~~~~~~

 

 

「遙かな過去の亡霊、ハクラ! 今度こそ私が倒してみせる!」

「ヒャハハハハ! 威勢がいいなぁ姫サマよぉ!

 それじゃあ始めようぜ! 魂を削り合う闇の対局(デュエル)をよぉ!!」

「闇の対局(ゲーム)だろうと関係ない。私は私の将棋を貫く!」

 

「「宜しくお願いします」」

 

「まずはオレのターン! オレは角道を開けてターンエンド!」

「……」パチッ(同じく角道を開ける)

「ヘッ、引っかかったな! トラップカード発動!

 オレは自らの角を生贄に捧げ、お前の角を奪い取った上で成り駒する!

 これでターンエンドだ!!」

「……」スッ パチッ(銀で角(と言うか馬)を取る)

「な、何っ!? 奪い取った角をこうもアッサリ倒しただと!?

 くっ、なかなかやるじゃねぇか……

 オレは金を上げてターンエンドだ!!」

「…………」

 

 

  ~しばらく対局は進んで~

 

 

「……」スッ パチッ(桂馬で歩を取る)

「クククッ、ヒャハハハハハ!

 オレ様の歩を倒してくれてアリガトウよ!!」

「……?」

「そこに居た歩をお前が倒してくれた事により、オレはこの(カード)を召喚できるようになる!

 墓地(セメタリー)より復活し、顕現せよ! 死を乗り越えし恐れ知らずの歩兵よ!!」

「っ!!」

「オレはこれでターンエンドだ。ククク、さぁどうする姫サマよぉ」

 

 

 

  ~~~~~~~~~~

 

 

「……こんな感じだよ」

 

「元ネタはヒカルの碁じゃなかったのか!?」

 

「本気で将棋させる為に命を賭けさせるっていうのは物語を作る手法としてはそこまで間違ってない気がするよ。

 命を賭けさせる手段がファンタジーなせいで騒がしくなってるけど」

 

「裏賭博場での対局ではダメだったのか……?」

 

「そこは筆者さんの趣味のせいだね。

 一応、ターンを無視して連続で強そうな竜を3体も召喚したりとか、突然コマが書き換わったりとか、そういうルール違反な事は起こってないよ。

 今のところは」

 

「まともじゃないように見えてまともな事しかしてないんだな……シュールだな」

 

 ※

 元ネタは勿論『遊戯王』

 主人公に憑依する人の正体が『古代の名もなき王族(ファラオ)

 『ヒカリの将棋』の場合は主人公が女性なので、王族の女性となると女王か王女くらい?

 なので、こんな所でも姫様と呼ばれてる。

 

 

 

  ……塔藤先生宅……

 

 『先生はまだ眠いとほざ……お休みになられているので少々お待ち下さい。

  全く、だから考えなしにアポを受けるなと(ブツブツ……)

 

 

「そう言えばこんなアシスタントの人居たなぁ……」

 

「たったこれだけの台詞で普段から振り回されているであろう事が容易に想像できるな」

 

 

 『とうとうやって来アイタッ!!』

 

 

「塔藤先生のキャラ設定は割とすんなり決まったらしい」

 

「すんなり決めた結果が初登場で足の小指をぶつけるような人かぁ……」

 

「七香の攻略の事を考えたらすぐに会う必要がある。

 しかし、普通に考えたら直近の予定なんて埋まってそうだ。

 たまたま予定が空いていたという筋書きにしてもいいが、どうせならと一捻り入れて、強引に予定をねじ込んでしまうような将棋バカにしたようだ。

 単純な奴の方が動かしやすいしな」

 

「単純に『七香さんと気が合う人』っていう意味でも都合が良かったのかもね」

 

 

 

 『あの~……私も居るんですけど?』

 『え? ああ、確か棋力の判定だったわね。

  うちのアシスタントに詰将棋集を持ってこさせてるわ。

  単位時間当たりでどれだけ解けたかで大体の判定をして、その後に対局もして大まかな実力を判定するわ』

 『え? あ、ありがとうございます』

  ちなみに、どこでやれば……』

 『ああ、その辺でやってて。将棋セットも用意するから』

 

 

「お前の扱いが雑だな」

 

「そのおかげで七香さんと塔藤先生の対局を見守る事ができたけどね」

 

「見守る……と言うよりも聞き耳を立ててるな」

 

「……そうだね。おもむろに観戦するわけにもいかなかったから」

 

「……そして、会話も最後以外は無かったな」

 

「……結局殆ど詰将棋やってただけだったよ」

 

 

 

 

  パチ、パチ。

 

 『なるほど。棋譜で見た通りの実力ね。

  奨励会に入ればすぐにプロになれる……かもしれないわ』

 『え、ホンマですか!?』

 『……少し、質問に答えなさい。

  あなたは3枚の棋譜を送ってくれたけど、どうして全て『自分が負けた棋譜』を送ってきたのかしら?』

 『……それは、簡単な話です。

  アイツと……桂木との戦いがうちの実力を一番発揮できていたからです!』

 『……その実力を発揮できた戦いであなたは2日間で3回も負けてるけど、悔しくはなかったの?』

 『そりゃもちろん悔しいですよ。

  負けるのは嫌だったから、それを無かった事にしたくてまた挑んで、それでも負けて。

  本当に悔しかった。自分が嫌になった。

  ……でも、今は、それ以上に嬉しいんです』

 『嬉しい?』

 『はい、うちが負けたって事は自分はもっと強くなれる。

  そして強くなる為には、ちょっとした負けで躓いてる暇なんてあらへん!

  うちは、うちは強うなりたいんです! 誰よりも!!』

 『……よろしい。はい、王手』

 

 

「そう言えば、3枚の棋譜の元ネタも『ヒカルの碁』だね。

 プロ候補生の試験を受ける為に必要になってたよ」

 

「棋譜が必要になった時に振り返ってみたら丁度僕との対局数が3回だったんでこれ幸いとばかりに活用したようだ」

 

「偶然だったんだ……」

 

「対局数が足りなかったら2枚か1枚の棋譜になってただろうな。

 もし多くなってたら……3枚くらいに絞りそうだな」

 

「……さて、本編の方の解説に話を戻すよ。

 塔藤先生は実は棋譜を見た時点で七香さんを推薦する事自体は決めてたらしいよ」

 

「そうだったのか。

 ……この対局の意味ってあったのか?」

 

「推薦は決めてたけど、名前貸しだけの推薦か、師匠として鍛えるかはこの時に決めたみたい。

 問いに対する答えを聞いて、まだまだ伸び代があるって判断したらしいよ」

 

「敗北を認められるからこそ強くなれる、か。

 紛れもなくお前の成果だな」

 

「……そうだね。少し前までの七香さんだったらあの受け答えはできなかっただろうし、そもそも負けた棋譜なんて送らないか」

 

「お前の事を悪く言うつもりはないが……お前が弱かったから、そして強かったからこその成果だろうな」

 

「何か矛盾してそうだけど……確かにそうかもね」

 

 

 

 『ふ~、今日は朝から良い対局ができたわ。

  それじゃあ私は少し二度寝してくるんでまた今度ね』

 『ちょっと待ってください!?』

 『……ああ、居たわねあなた』

 『忘れないで下さいよ!』

 『えーっと? どのくらい解けたのかしら?』

 『……コレです』

 『少ないわね……ホントにルールが分かる程度?

  六枚落ちに更に手加減を重ねるくらいが妥当かしらね』

 『とっ、とにかくよろしくお願いします』

 

 

 

「忘れられそうになったのは久しぶりだったよ……

 相手が将棋バカだって分かってたからダメージはそんなに大きくなかったけど」

 

「聞き耳を立てても会話はロクになかったから普通に詰将棋やってたんだったな。

 って事は純粋な実力を発揮してたんだな」

 

「純粋な『詰将棋』の実力だね」

 

「普通は序盤や中盤よりも詰将棋の方がずっと楽なんだがな……」

 

 

 

 『……ま、参りました』

 『え、あれ? 勝っちゃった?』

 『あ、あなた! 何で詰将棋があの程度の実力のくせに中盤戦がそんなに上手いのよ!? ふざけんじゃないわよ!!』

 『いや、あの、そう申されましても……』

 

 

 

「ここでかのんが勝つのは筆者が悪ノリしたという面も無くはないが……七香の実力を高く評価した結果だな」

 

「七香さんに鍛えられた私なら勝てるって判断だね。

 いくらプロでも六枚落ちで更に手加減してたら勝てないかぁ……」

 

「六枚落ちってそもそも相当なハンデだから、全力のプロ相手でも勝ててもおかしくないけどな」

 

 ※ 筆者はそこまで将棋に詳しいわけではないので断言はできませんが……

 

「実際はどうなんだろうね?」

 

「音ゲーに例えるなら使うボタンの半分くらいを縛るような行為だ。

 当時ならまだしも、今現在のお前相手には勝てる気がしない」

 

「それはどっち? 音ゲー? 将棋?」

 

「両方だ。

 ま、ハンデ無しならどっちも負けるつもりはないがな」

 

「そう言えば最近は女神攻略で忙しかったから普通のゲームをやる暇が無かったね。

 桂馬くん、今度どっちかやろう!」

 

「……そうだな。やるか」

 

 

 

 

   ……攻略8日目(最終日)……

 

 『……今日で僕との対局が解禁になるんだが、まさか忘れてたのか?』

 『い、いいいいや、そそそそんな事はあらへんよ?』

 『何で口調が七香みたいになってるんだ?』

 

 

「実はこれ、最初は七香さんの台詞の予定だったらしいよ。

 だけど、あの七香さんが対局の日を忘れるとは思えないから急遽私の台詞って事にしたみたい」

 

「通りで口調が七香みたいになるわけだ」

 

「関西弁を使うお茶目な私も悪くないよねっ!」

 

「……かもな」

 

 

 

 『し、失礼します! 対局は……』

 『お、ようやく来おったか。待ってたで』

 『え、七香さんが私を待ってたんですか?』

 『ああ。何となくお前さんには見てもらいたくてな』

 『……よし、では始めるぞ』

 『ああ、よろしゅうお願いします』

 

 

「桂馬くんと七香さんの対局はこれで4局目か。

 攻略中における最後の対局だね」

 

「攻略中のはな。はぁ……」

 

 

  ……七香さん敗北後

 

 『あんた、確か桂木やったっけ?』

 『ん? ああ。そうだが?』

 『桂木、いつかあんたの事はうちが倒すかんな! 覚えときぃや!』

 

 

「……この時は、『忘れるのはお前の方だ』とか思ってたよ」

 

「私ももう2度と会う事は無いだろうと思ってたよ」

 

 

  ……後日 日曜日……

 

  ピンポンピンポンピンポーン!

 

 『ったくうるさいな。誰だ!』

 『お、ちゃんと居るやんけ。桂木ぃ、出て来ぃ』

 『お、おおおお前っ、ななな何で居るんだ!?』

 

 

「うわ~、しっかり覚えてるね」

 

「ああ。この時からほぼ毎週将棋を指すハメになった。

 くそっ、僕の神聖なるゲームタイムがどんどん削れていく!」

 

「当時の私は現場には居なかったけど、後から桂馬くんに話を聞いた時は凄くビックリしたよ」

 

「そうなのか? 記憶があるお前なら意外と驚かないような気もするが」

 

「いやいや、私の場合は協力者だったからっていう理由があったから。

 いくら桂馬くんが攻略に殆ど関わってないからと言ってまさか記憶操作が免除されるとは夢にも思ってなかったよ」

 

「……そう言えば、記憶操作のプロセスってどうなってるんだろうな?

 誰か地獄の担当者が来てやってるのか?」

 

「私もよく知らないね。

 藪蛇になりかねないからエルシィさんに訊くわけにもいかなかったし。

 う~ん……筆者さ~ん?」

 

 

 ※

 情報の隠蔽、記憶の操作などを担当する『管理局』なるものの存在がハクアの口から語られています。

 人間界に行けるのは駆け魂隊だけなので、管理局の悪魔は地獄から出ずに何らかの操作をして特定の人間の記憶を操作していると考えられます(駆け魂隊の組織内に管理局があるという可能性もあるケド)

 記憶操作を行うにしても誰にどの程度の操作を行うかを判断する為に操作前の正しい記憶を知ってる必要があるでしょう。恐らくは現場の隊員からの報告(あるいは羽衣ログ)から記憶操作が必要な人間をピックアップして操作しているのでしょう。

 しかし、本作の場合は明らかに人目に晒しちゃいかん箇所があります。駆け魂討伐とかいう人間にも悪魔にもできない偉業を成し遂げてる場面です。

 それを隠蔽する為には……ログなんて上に送らずに自分で記憶操作するしか無いですね。

 

 というわけで、本作ではエルシィが収集したログはまずドクロウ室長に送られ、それを元にドクロウ室長が記憶を操作しています。あるいは、ログをねつ造して問題ないようにしてから管理局に回したり。

 大規模な改変は厳しいかもしれませんが、小規模な記憶操作ならきっとやってくれるでしょう!

 

 この設定の副次的効果として、記憶操作が最小限になる事が挙げられます。

 七香の記憶操作が桂馬に関する事にまで及ばなかったのはぶっちゃけ室長が面倒臭がったからです。女神も居ないし。

 かのんの記憶に関しても『どっちでもいい』と判断して、面倒だからじゃあいいやとなっていました。

 

 

「……私の記憶が残ってた理由、面倒だったからなんだ……」

 

「ある意味人間らしい理由だな……いや、ドクロウ室長は悪魔だが」

 

 

 ※ あくまでも大きな理由の1つというだけです。

 

 

 

 

 

「そろそろ終わりのようだな」

 

「そうみたいだね。

 えっと、次回は……また2本立てだよ。

 『偽アイドルとアイドルと』

 『落とし神の敗北』

 以上2本をお送りします!」

 

「エルシィがアイドルしてて黒田棗と出会う話と、僕とお前とのカラオケの話だったな」

 

「そうだね。それでは、また来週~!」

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