「はいどうも皆さんこんにちは! 中川かのんです!
第11回キャラクターコメンタリー、始めていきましょう!」
「今回は2本分。
まずは日常回B『偽アイドルとアイドルと』からだ」
「内容としては、エルシィさんと棗ちゃんの初遭遇だよ。
アイドルしてるエルシィさんをじっくり眺めるのは何気に初めてだね」
「そうなのか? テレビで確認したりとかは……」
「それくらいならあるけど、カメラマンさんが有能だと正確な情報が伝わってこないから」
「……そういうものか」
「そういうものだよ。
それじゃ、VTRスタート!」
『はい皆さんこんにちは! 今日はこのパーフェクトな替え玉であるこの私が主役ですよ!!』
『今から私が語るのは、七香さんを攻略していた時に起こった事!』
『そう、私の大事な『先輩』との出会いのエピソードです!!』
「…………パーフェクト?」
「完璧という意味で使っているわけが無いから……アレだ。きっと獄語の翻訳ミスだろう」
「100歩譲ってそうだったとして、元の意味は一体何だったんだろう」
「…………さぁな」
『おはようございます!!』
『あらおはよう。今日からそっちのキャラなのね』
『? キャラ……?』
『何でもないわ。それじゃあミーティングを始めるわよ』
『はいっ!』
「この時点で岡田さんには薄々勘付かれてるね」
「薄々と言うか、偽物だって事は勘付かれているな。
完全な正解に到達していないが」
「そうだね……」
「普通に考えたら大騒ぎになるんだが……そこはご都合主義だな。
強引に理由を考えるのであれば……お前が相当信頼されてて、『何かとてつもない事情がある』と察してくれているとかか?」
「ど、どうだろう……」
『実は、うちと仲良くしてる事務所のアイドルがこっちに研修に来るのよ』
『研修、ですか?』
『ええ。研修って名目だけど、『ちょっと売れてるくらいで調子乗ってる奴が居るんでシメて欲しい』って頼まれたのよね』
『は、はぁ……あの、売れてる事は良い事ですよね?』
『それはそうだけど、才能があってもっと上を目指せるはずなのに慢心しちゃってるらしいのよ。
だから気合を入れ直して欲しいってさ』
「う~ん……棗ちゃんの話、だよね?」
「今後の展開から考えると間違いなくそうだな」
「棗ちゃんって上昇志向の塊みたいな子なんだけどな。
この時点で変な行き違いが発生してるんだね」
「岡田さんが連絡と取ってるのはあくまでも相手のマネージャーだろうからな。
どうやらマネージャーとアイドルとの相性は相当悪いみたいだな」
『ここが中川かのんの居る事務所? ずいぶんとみすぼらしい場所ね』
『……え?』
「うわぁ……棗ちゃんったらいきなり喧嘩売ってるよ」
「仲の悪いマネージャーから無理矢理ここに送られてきたわけだからな。
色々と必死だったんだろうな」
『今一番の人気だって言うから何か得られるかもしれないと思ったけど、とんだ期待はずれだったわね。
はぁ、時間の無駄だわ』
『ちょ、ちょっと待ってください! まだ何もしてないのにどうしてそこまで言われなきゃならないんですか!』
『うるさいわね。本物のアイドルだったら会った瞬間にビビっと来るような本物のオーラを持ってるはずよ。
それが無いアンタは、所詮は運が良かっただけの紛い物よ』
『うぐっ!』
「おかしいな。ただの暴言のはずなのに完全に的を射ているよ」
「もし本物のお前が居たらどうなってたんだろうな……」
「もし私の事を認めてくれても……棗ちゃんて素直じゃないからなぁ。
ツンデレしながらも何か言われそう」
「……メルクリウス、ちょっと音声変えて台詞読めるか?」
(私は音声合成ソフトではないのだがな。台詞は……分かった。
『まぁ、私の成長の役に立ちそうって事は認めてあげるわ。
勘違いするんじゃないわよ! アンタの方が上だって認めたわけじゃないんだからね!』
こんな感じか?)
「うわ~、凄く言いそう」
『はい、もうちょい立ち位置を左に!
もっとスマイルで!
手の商品のロゴが見えるようにして!』
『は、はいっ!』
「グラビアの撮影だね」
「このイベントは原作13巻から持ってきたようだ。
エルシィの仕事なんで、可能な限りケチ付けたらしい」
「……エルシィさん、まさかとは思うけどこの仕事を『指定された衣装に着替えて、カメラマンの指示に従ってポーズを取る』だけの仕事だなんて思ってないよね?」
「……」
『見てるだけでイライラしてくるわね。
アンタ、まさかとは思うけどこの仕事を『指定された衣装に着替えて、カメラマンの指示に従ってポーズを取る』だけの仕事だなんて思ってないでしょうね?』
『ふぇっ!? えっと……』
「……思ってたらしいな」
「……そうだね」
『ふふん、この程度もできないなんて中川かのんも大した事はないわね』
『…………』
『どうしたの? 何も言い返せないの? まあ事実だからしょうが……』
『……す』
『ん?』
『す、凄いです! 感動しました! どうやったんですか!!』
『…………はい?』
「この時点で最初の目的『先輩としての威厳を見せつける』はあの駄女神の頭からすっぽ抜けてるな」
「細かいことは気にしないのはきっと美点だよ。きっと……」
『ねぇ、岡田さん……でしたよね? ちょっと訊きたい事があるんですけど、いいでしょうか?』
『何かしら?』
『今更ですけど『ボランティア(ごみ拾い)』って、アイドルの仕事なんですか?
いや、宣伝っていう意味では悪くは無いのかもしれませんけど、あの中川かのんがやる仕事とは思えないんですけど?』
「ボランティアって仕事じゃないよな」
「筆者さん、アイドルの知識がそこまで無いから頑張って仕事を捻り出したみたいだよ。
あと、エルシィさんが活躍できるようにっていう意図もあったみたいだね」
『あ~、それね。これはオフレコで頼みたいんだけど……
実はコレ、正式な依頼なのよ。やや少なめだけどギャラもしっかりと貰ってるね』
『えっ? それってボランティアじゃないですよね……?
って言うか何の為にそんな依頼が?』
『鳴沢市の市長の政策らしいわ。
『アイドルが参加するボランティア活動』って事で街の美化を推進するとかなんとか。
あと、街の名前を有名にしたいって意図もあるらしいわ』
『……理に敵っているようなそうでないような政策ですね』
『実際に効果があるかどうかは私達の領分ではないわね。
あなた達は気にせずに清掃活動してくれれば良いわ』
「大分強引にこじつけたな」
「いや~、鳴沢市の市長さんだったらやりかねないよ。
なんたってオリンピック招致を目標に掲げてるくらいだし」
「……まぁ、寛大な心で自然な流れだとしておこう。
しかし、何でギャラが少ないんだ? ボランティアの手伝いで多額の金を取るのは何かダメそうという気がしないでもないが、それだったらそもそもそんな仕事を受けないんじゃないか?」
「う~ん……その辺の真相は岡田さんにしか分からないけど、市長に貸しを作りたかったからとか?
鳴沢臨海ホールみたいな大きな会場でコンサートする時の許可を貰うにも役立つし、他にも鳴沢市内での活動で色々便利なんだと思うよ」
「……オリンピック招致を掲げる規模の都市ならアイドルの活動場所としても非常に優秀なのか。
一応筋は通ってるな」
……アイドル清掃中……
「エルシィが活き活きとしてるな」
「お掃除とお料理だけは得意だもんね。自称だけど」
『うぅぅ……あづい』
『地獄の猛暑に比べたらまだまだですよ、頑張りましょう!』
『そりゃ猛暑日と比べたら暑くは無いでしょうけど。
って言うかアンタは何でそんな平気そうなのよ』
『それはですね、遮熱結界……げふんげふん、日頃の鍛錬の賜物です!』
「そう言えば当時は夏か」
「神のみの時系列を厳密に追おうとすると矛盾が発生するんでハッキリした事は言えないけど……筆者さんの想定では夏みたいだね」
※
桂馬の最初の自己紹介で『6月6日産まれの17歳』と名乗っているので物語のスタートは誕生日以降のはず。
しかし、4巻で麻里さんの誕生日(5月25日)が発生しています。
桂馬が留年してるなら矛盾はありませんが……う~ん……
あと、アニメ版ではかのん編でクリスマスライブをやっています。アニメ2期では夏服になっていたり、OVAの天理編では夏休みをやっているのでこれも矛盾点ですね。
実は来年度の夏の話だとすれば矛盾はしませんが……そうなるとちひろ達は3年生にも関わらず『2-Bペンシルズ』とかいうバンド名を付けた事に……
なお本作ではストーリー開始が6月中旬、舞校祭が11月初旬くらいのイメージで進んでいます。
「……で、肝心のこの時は具体的にいつ頃なんだ?」
「さ、さぁ……?」
※
時系列を厳密に考えると原作だけでなく本作でも矛盾が発生するので寛大な心でスルーして頂けるとありがたいです。
ああ、桂馬が17歳って名乗ってなければ4月スタートにできたのに!
『かのん……一体何してるの』
『うぅっ、スミマセン』
「エルシィが川辺のゴミを拾おうとしてずぶ濡れになった場面だな」
「エルシィさんらしいというか何というか……」
「悪魔……じゃなくて女神も風邪を引くんだろうか?」
「……どうなの?」
(ミネルヴァの肉体がどういう状態なのかイマイチ把握しきれていないが、物質として、生物として存在している以上は細菌やウィルスなどの影響は受けるだろう。
尤も、理力や魔力を使えばそういった微生物や生物モドキを力技で撃退する事も可能だ。風邪などが深刻化する事はまず無いだろうな)
「ふ~ん」
『っ! この気配は!!』
『何? どうか……』
『伏せてください!!』
『え? あぐっ!!』
「棗ちゃんに取り憑こうとしてたはぐれ魂を力技で防いだ所だね」
「エルシィのファインプレーだな」
「当時の章末でも言ってた事だけど、棗ちゃんの元ネタは私が主人公のスピンオフ『かのん100%』で出てきた『ベル・マーク・アツメ』さんだよ。
あっちでははぐれ魂を操る悪の幹部みたいな感じで出てきてたね」
「あのスピンオフ、色々とツッコミ所があるけどな。
筆者も突き詰めた設定を考察しようとして断念したようだ」
「所詮はパラレルワールドのスピンオフだから原作者さんもそこまで突き詰める気は無かったんじゃないかな……
変な矛盾が出ても困るし」
「まぁ、そうだな」
「……ゴホン。
そういうわけで、『棗ちゃんとはぐれ魂の接触』っていうイベントはあっさり決まったらしいよ。
もしエルシィさんも私も居なかったら……本作でも悪の幹部になってたのかもね」
「結局ただのツンデレになってるけどな」
「そ、そうだね……否定できない」
『姫様は今は居ないから……仕方ないですね。このくらいなら何とかなるはず!』
そう言って何事かを決意すると、中川かのんは歌を歌い出した
『♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~
♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~
♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~
♪♪♪~ ♪♪ ♪♪♪♪♪~♪~
♪♪♪~ ♪♪ ♪♪♪♪♪~♪~』
聞いたことの無い歌だ。少なくとも中川かのんの歌ではないだろう。
歌声が響くと同時に空中に居た透明な何かは少しずつ存在感を薄くしていき、しばらくすると完全に消えたようだ。
「あ、またモノローグ」
「黒田棗のモノローグだな。これも一応伏線っちゃ伏線だ。
エルシィが『中川かのんの歌ではない』歌を歌ってるっていうな」
「伏線……う~ん……」
「この時の歌はハクア編と同じく『God only knows』だ。
尤も、ハクア編でも言ったように無駄に分かり辛くしているんで気付いた奴は皆無だろうけどな」
「私の歌じゃないなら何なのかって考えて、何とか特定して……いや、無理だね」
「伏線と言うより自己満足に近いな。
……ああそうそう、『中川かのんの歌ではない歌を歌った』
これを……5週間くらい覚えておいてくれ」
「? いいけど……」
『……ふぅ、討伐完了です。やはり結構疲れますね……』
『あ、アンタ……一体……?』
『う~ん……仕方ないですね。それでは説明しましょう!
まずはですね、私は中川かのんではありません!』
『…………はぁっ!?』
『私の名はエリュシア・デ・ルート・イーマ! 地獄から来た駆け魂隊の悪魔です!!』
「エルシィさん、こんな堂々とバラしてたんだ……」
「はぐれ魂が出てきた時点であいつにとってはいつもの駆け魂狩りだったんだろうな。
記憶操作されるのが分かってたから正直に話したんだろう」
「……でも、適当に誤魔化した方が記憶操作の手間は少なくなるはずだよね……」
「いや、あのエルシィだぞ? 下手な誤魔化しをしたら余計に傷口を広げる結果になりそうだ」
「……それもそうだね」
その後、特に大したトラブルも無くコンサートは始まった。
専用の席で見させて貰ってるけど……見ててイライラしてくるわ。
歌は音程こそ外れてないものの響かせ方が足りない。
踊りは大筋は合っているけど動きにキレが無い。
カメラを意識せずに自由に歌って踊っているのでカメラ写りが悪い。
他にも色々と粗は挙げられる。偽者だからしょうがないと言えばしょうがないけど、私に言わせればとにかく下手くそだ。
「エルシィのライブ中の棗のモノローグだな」
「……何でこのクオリティで今まで誤魔化せてるんだろう……」
「ご都合主義だな。
エルシィに対する棗の評価は『歌』『踊り』そして……『演出』? の3つの項目に分かれている。
筆者はアイドルの事なんてロクに知らんからな。『IdolM@star』におけるアイドルの3つのパラメータを参考にしたようだ」
「そこが元ネタだったのこれ!?」
※
アイドルマスター、通称アイマスにおいてアイドル個人のパラメータに『ボーカル』『ダンス』『ビジュアル』の3つがあります。
ボーカルとダンスはそのままとして、ビジュアルの項目は低いとライブ中にカメラ写りが悪くなるアクシデントが発生する事があります。
なお、筆者はP○Pのアイマスしかやった事がないニワカです。ユニット? 何それ美味しいの?
『で、エルシィ。私は決めたわ』
『え? 何をですか?』
『……アンタを、徹底的にしごいてやるってね』
『ふぇ? あ、あの……どういう事なんでしょうか?』
『……バカなアンタにも分かるように、簡潔に説明するわ。
もう少ししたら私はこっちの事務所に転属して、アンタにアイドルの何たるかを叩き込んでやるわ!』
『え、えっと……一緒の事務所で仲良く働けるって事ですね! 分かりました!』
『アンタねぇ……まあいいわ。そういう事にしときましょう』
私が見ていてムカつくから、多少まともになるまで鍛えてやる。
ついでに、コイツの持つ『何か』を突き止めて自分の糧にする。
これは決してコイツの為なんかじゃない。私がやりたい事をやるだけだ。
そう、心に強く刻みつけた。
「その何かとやらは果たして掴めたのだろうか?」
「それは分からないけど、この日の最初の頃の棗ちゃんよりも今の棗ちゃんの方がずっと表情が柔らかくなってるよ。
人気も前よりも大分伸びてるみたい。
……そっちは単に岡田さんのおかげってだけかもしれないけど」
「おいおい、夢の無い事を言うなよ」
「いやでも、事務所との相性とか性格も結構大事な事だよ。
棗ちゃんの前の事務所の人とはかなり相性が悪かったみたいだし」
「……まぁ、それもそうか。
今度何かイベントがあったら顔を出してみるか」
「ま、まさか私を差しおいて棗ちゃんのファンに!?
ダメだよ桂馬くん! いくら棗ちゃんでも桂馬くんは渡さないよ!」
「アイドルのファンになる事と恋愛はまた別物だと思うんだが……まあいい。
僕を取られたくないならアイドルとしての実力を見せつけてみろ」
「うぐっ……最近はちょっと本業の方がおろそかになってるからなぁ……
もう少ししたらスキャンダルも出るだろうし、何とか頑張らないと」
「おい、スキャンダルを前提にするな」
「……?
あ~そっか。入籍してもナイショにしておけばスキャンダルにならないよね!」
「言い直そう。結婚を前提にするな」
「……あ、そろそろ時間だね~。
日常編B-2『偽アイドルとアイドルと』はこれにて終了だよ。
桂馬くん、筆者さんの今回の製作秘話とか無いの?」
「製作秘話ねぇ……
黒田棗、と言うよりベル・マーク・アツメを出す予定は連載当初は皆無だったらしい。
前章の七香編を書いてる途中で『次はエルシィ回か。何か良いネタないかな~』と考えていて、エルシィがアイドルしてる話を書こうと思ったらしい。
しかし、ちょっと前に言ったように筆者はアイドルの知識は皆無だ。主にお前と、あとどっかの盗み聞きアイドルのせいでやたらと偏った知識しか無い」
「? 誰の事?」
※
盗み聞き系アイドルが主人公のギャグ漫画『高橋さんが聞いている』より。
設定上アイドルのハズだけど色々と手を伸ばしてます。
ドラマCDでは中の人がちひろと同じだったりします。
「……というわけで、アイドルしてる風景なんざ書けるわけがない。
だったらどうしようかと色々考えて……ふとベルマークの事を思い出したそうだ」
「どういう思考回路で思い出したんだろう……」
「さぁな。そういうわけでアイドル活動と言うよりも棗編という感じで書いたら上手いこといったそうだ。
……書くのは上手くいったが、質が上手くいってたかどうかは読者の皆さんの判断に委ねるとしよう」
「では次だな。次か……」
「日常回A-2『落とし神の敗北』
……うん。直球なタイトルだね」
「タイトルの通り、僕が負ける話だ。
ちなみに、投稿日は僕の誕生日だった」
「何というか……ご愁傷様?」
「誕生日プレゼントは敗北だったようだな。
さて、コメントしていくか。VTRスタート」
「画面の中の私は期末テストに向けて頑張ってる最中みたいだね。
この時は効率悪い勉強してたんだなぁ……」
「要点を絞れば学校の勉強なんて大したこと無いのにな」
「それを正確にできるのは桂馬くんだけだよ……」
『けーまくーん!』
『……今度はどんな問題だ?』
『お願いします! やっぱり時間で区切るのはダメでした! 3科目ほどをみっちりと教えてください!!』
『断る』
「桂馬くんのいじわるっ!」
「画面の僕に文句を言うな。
それに、無償の厚意が通じる仲でもないだろ。今でもな」
「……無償の好意なら通じる?」
「…………さぁな」
『もちろんタダでとは言わないよ。
教えてくれたら私は代わりにあるゲームの攻略法を教えてあげる』
『あるゲーム? 何だそれは』
『落とし神様と謳われた桂馬くんでも絶対に私に勝てないゲームだよ』
『ほぅ? 大きく出たな。いいだろう。本当に僕が勝てないゲームなら、その条件で教師役を引き受けてやる』
「カラオケだな」
「カラオケだね。行くのは桂馬くんと結さんとが入れ替わってたとき以来かな?」
「そうなるな。あの時もお互いに適当に歌ってたらしい。採点ゲームも入れてな」
「そうだよね。私の記憶でも採点してたよ。だけどさ……」
『カラオケ、だと?』
『うん。これの採点ゲームも立派なゲームだよね?』
『……そうだな。まあゲームだと言えるだろう』
『よし、それじゃあ始めよう!』
で!
『ば、バカな! この僕がっ、負けただと!?』
『あのさ、どうしてそんなに自信満々だったの……?』
「……そのはずなのに、何であんなに自信満々だったんだろう……」
「……僕にも分からん。
ああそうそう、言っておくがな、僕が歌が下手というのは本作の独自設定だ!
原作の僕まで音痴だという証拠はどこにも無いっ!!」
「でも、今ここに居る桂馬くんが歌が致命的に下手なのか変わらないし、原作で音痴じゃなかった証拠もどこにも無いよ……?」
「うぐっ!」
「……でも、桂馬くんが音痴で良かったよ。
2人っきりになれる口実ができたからね!」
「はぁ、そうか。次行くぞ」
『負けた……か』
中川が出ていって誰も居ない個室に僕の独り言が響く。
最近のあいつは一部のゲームに関しては侮れない実力になってきていた。
そもそも、あいつはプロのアイドルだ。その道では天才と呼ばれるだけの才能を最初から持っている。
だから、条件次第ではいつか負けるんじゃないかとは思っていた。
だが……こんな所で惨敗するとは思ってなかったな。
もちろんあいつはこんな事で『勝った』だなんて思ってないだろう。そんな事を思う前に客観的に見て酷いらしい僕の歌をどうしようかと悩んでいた。
だが、僕は確かに『負けた』と思った。
……だから、約束は半分だけ果たすぞ。
『お前の勝ちだよ。
心の中だけで、そう呼んでおくよ。
「………………えっと……えぇぇえ……?」
「屋上でのゲームを待つまでもなく既に僕は負けていたというわけだな」
「いや、でも、そうなるとあそこまでの私の頑張りは……
いやいや。大丈夫。こんなので勝っても納得できないし!」
「だろうな。だから僕もお前の名を呼ぶのはモノローグの中だけだった」
「……もしこの時に私が告白してたらどうなってたんだろう。
あ、告白っていうのは愛の告白じゃなくて記憶の事ね」
「……さぁな。ただ……」
「ただ……?」
「……いや、何でもない」
「……?」
(……『今以上の深い関係にはなっていなかっただろう』か)
「っ!? んなっ、おまっ!?」
「メルクリウスさん、読心なんてできたんだ」
(……思いつきでやってみたが結構疲れるな。乱発はできなそうだ)
「そっか。それがいいよ。
しっかし……へ~、ほ~、ふ~ん」
「な、何だその妙な声は」
「……桂馬くん、私も大好きだよ!」
「だぁっ! 次行くぞ!」
『中川、戻ってきたか』
『うん、それで、どうしようか?』
『僕がある程度まとまった時間だけお前に勉強を教える。
で、何科目かやった後にそれにかかった時間の分だけお前は僕に歌をできるだけ教える。これでどうだ?』
『お互いにかける時間って意味では平等になるね。それで良いよ』
『よし、じゃあまず勉強から。勉強道具は持ってきてるな?』
『モチロン!』
「とりあえず2~3科目くらい教えてもらえばあとは自力で何とかなる!
……当時はそんな事を考えてたよ」
「……で、結局ああなった……と」
「……うん」
『あったあった。これだよ』
『何だこれは、『目指せ、カラオケマスター』?』
『その名の通り、訓練用のアプリだね。
音程が取れない場合の訓練方法はいくつかあるけど、今できる方法がコレ。
前後の音の高低を感じ取る『音程感』を鍛えられるよ』
「言うまでも無いかもしれないけど、こういう訓練ゲームは現実のカラオケにもちゃんとあるみたいだよ」
「ゲーム風に1つ1つステージを攻略していくのはある意味僕向けだったのかもな」
「……そのはずなんだよねぇ……
でも肝心の歌がねぇ……」
『結果……不合格! もっと頑張りましょう!』
『くっ、何故だ!!』
『桂馬くん、あの、そろそろ時間が……』
『まだだ! まだやれゲホゲホッ』
『無茶しすぎだよ。はい、お水』
『……すまん』
「筆者は今回の話を書く際にカラオケについても色々とググっていた。
当時のネットからの情報によれば、カラオケ時に飲むものは水が最適らしいな」
「ゲップが出る炭酸系は論外だし、ジュースやお茶も喉に絡みつくからね。
やっぱり水道水が一番だよ!」
「まぁ、歌う事がメインで無いなら好みの飲み物で構わんけどな」
『桂馬くん、根詰めても良くないから少し休もう?』
『ダメだ! まだクリアできて……』
『……』スッ
『ぐっ、わ、分かった。少し休もう』
「桂馬くんが焦る姿っていうのは珍しいね」
「普通に考えたらスタンガンを取り出す姿の方が珍しいはずなのにな」
「え? 何言ってるの。こんなのただのアクセサリーだよ。ありふれてるって」
「そうかそうか。そういう事にしておこう」
『桂馬くん、まさかとは思うけど、『こんなの出来て当然』なんて考えてないよね?』
『何だと?』
『桂馬くんはゲームの神様で、大抵のゲームは完璧にこなせるけど、カラオケは普通のゲームじゃない。
更に付け加えるなら、これは命懸けの攻略なんかじゃない。ただの遊び。
だから、失敗しても良いんだよ? クリアできるのが当然だなんて思わないでね』
『…………そっか。そうかもな。
悪い、手間かけさせたな』
『ううん、歌い方を教えるのが私の役目だからね』
『それじゃ、再開するか。よろしく頼む』
『うん! その意気だよ!』
「元々不可能な事ができないからといって焦ったりムカついたりする事は無いな」
「うん。誰にだってできない事はあるんだから。
桂馬くんは完璧ではない。だからこそ、私がその欠点を支える。
私だって完璧じゃない。だからこそ、桂馬くんに助けてもらう。
それが私たちの関係。そうでしょ?」
「ま、そうだな。今後も僕が何か間違えそうになったら遠慮なく言ってくれ。
僕も遠慮するつもりはない」
「うん!」
この後、そう遠くない未来に桂馬くんは念願の第一ステージを突破する事になるが、それはまた別のお話。
……ついでに、テスト勉強をしすぎた私が平均点98点を叩き出してカンニングを疑われるんだけど……それもまた別のお話だ。
「……私のモノローグだね」
「……少し、やり過ぎたか?
っていうか100点では無かったんだな」
「いや~、流石に全科目で満点は無理だったよ。五教科だけじゃなくてマイナーな科目も含んだ点数だし。
でも、今までの私の点数に比べたら大躍進だよ!」
「そもそもお前ロクに学校に行けてないもんな。
一体素の点数はどのくらいなんだ?」
「な、ナイショだよ!」
「……まぁ、いいさ。
しっかし、この程度でカンニングを疑われるものなのか?」
「それは学校次第なんじゃない? あとは私の元の成績次第か」
「本業のせいで学業が疎かになってる事を考えると常に赤点ギリギリでもおかしくは無いんだよな。実際はどうかは知らんが」
「ふぅ、終わりか」
「2本立てだけど、それぞれが短いから攻略編1本と同じくらいの分量になってるかな?」
「さぁなぁ……文字数をしっかりカウントしてるわけでもないしな」
「……さて、次回はスミレ編『大きな願いと小さな幸福』です!」
「甘味、ラーメン……うっ、頭が……」
「では、また来週~!」