もしエル キャラコメンタリー!   作:天星

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軽音部編3 軽音楽部の会計騒動

「はいどうも皆さんこんにちは! かのんです!

 第22回キャラコメンタリー始めます!」

 

「今回は日常回Aだが、最初はうっかりBのつもりで書いてるからちょっと混ざっているな」

 

「それでは、『軽音楽部の会計騒動』、VTRスタート!」

 

 

 

 

  皆さんこんにちは……エルシィです……

  今日は、悲しい事がありました。

  とても、とても悲しい事。

 

  ……そう、『夏休みの終わり』……です。

 

  ……え? 大した事無いって? 何を言ってるんですか!!

  あれだけ長かった夏休みが終わってしまったんですよ!! 凄く大変な事です!!

  あともう一年くらい続いてくれれば良かったのに!!

  ……あれ? そうなると夏休み中にまた夏休みが始まって……永遠に休める?

  凄い! 凄いです!! 私、もしかして頭が良いですか!?

 

 『というわけで結さん、この学校のエラい人に夏休みを延長するように頼んでください!!』

 『一体何が『というわけ』なのかは分かりませんが……学校として必要な授業日数は決められているので無駄だと思いますよ?

  万が一できたとしても他の長期休暇が削れたり、休日祝日が潰れるだけでしょう』

 『そ、そんなぁ!!』

 

 

 

「夏休みがもっと続いてほしいというのは同意するが、流石に無茶だな」

 

「私の場合は……夏休みでもそれ以外でもあんまり差は無いかな。

 夏休み中は学生向けのイベントがちょっと増えるけど、無いなら無いで別の仕事が入るだけだし」

 

 

 

 

 『よーし、全員準備完了だな。

  さあやるぞ!!』

 

  ちひろさんの掛け声に合わせて皆で楽器を構えます。

  精一杯頑張りましょー! えいっ!!

 

 バキッ!!

 

 

「全く、エルシィの奴また何か壊したのか」

 

「エルシィさんだからねぇ……楽器はもっと大事に使ってほしいよ」

 

 

 

 『あ、あの……』

 

  私が考え込んでいると後ろから控えめな声が聞こえてきました。

 

 『ん? どした結?』

 『……さっきの音、どうやら私のようです』

 

  振り返って確認してみると……ドラムの表面が破れているのが見えました。

 

 

 

 

「……え、えっと……経年劣化なら仕方ないよね!」

 

「そ、そうだな。真面目に練習してて楽器が壊れるなんてよくある事だな!」

 

(……酷い手のひら返しを見た。姉様が泣くぞ)

 

 

 

 『楽器って結構高いよねぇ……』

 『そうですね……』

 『結は一応お嬢様だけど、自由に使えるお金ってあんまり無いんだよね?』

 『一般家庭のお小遣いと同じくらいは何とか確保しましたが、少々厳しいです』

 『となると……皆で稼ぐか?』

 『えっ? さ、流石にそれはどうでしょうか……? バイト等で稼ぐにしてもかなり大変ですし、そのお金を私の為に使うというのは……』

 『『ワタクシの為』じゃなくって部活の皆の為だよ。ドラムが無かったら皆が困るんだから』

 『そうですよ! 皆の為なら私頑張っちゃいますよ!』

 『私は陸上部の方もあるからあんまり稼げないかもしれないけど……なるべく頑張るよ』

 『み、皆さん……』

 

 

 

「バイトで稼いで楽器を買うというのは『けいおん!』のオマージュだな。

 あっちはドラムではなくギターだったが」

 

「バイトかぁ……麻里さんのお店のバイトとかいいかもね」

 

「うちの店、そこまで人手に困ってないんだがな。4人も人増やすのは絶対無理だろう。

 まぁ、エルシィがいつもの手伝いに給料を要求するのは簡単かもな。

 事情を話せば母さんだって嫌とは言わんだろう」

 

 

 

 

 『パーツを買い替えなんてケチくさい事言わずに1セット買うぞ! 目標は……とりあえず10万くらいか? そうなると1人あたり平均2万だから……』

 『一ヶ月あたり1万円、時給800円のアルバイトであれば週に3時間ほど働けば何とかなりそうです。

  あくまでも平均値でですけど』

 『あれ、意外と何とかなりそうな……よし、やってやるぞ!』

 『『『おー!!』』』

 

 

 

「あくまでも平均で3時間か。

 平日と土曜に2時間、日曜は……8時間みっちり働くと仮定すると一週間の労働時間は20時間。

 賃金は16000円になるから2週間未満で余裕で越えるな」

 

「逆に2週間で何とかしたいと仮定すると、1週間で1万円欲しいから……100/8時間、12.5時間働けばいいんだね。

 平日に1時間、日曜に6.5時間働くのがバランス良いかな?」

 

「部活との兼ね合いもあるから歩美や京は他より稼げなさそうだがな。

 後はまぁ、そんな都合の良い時間の労働があるかという問題もありそうだ。

 だが、決して無茶ではないな」

 

 

 

 『……あのさ』

 『どうした京よ』

 『……フツーに部費を使えば良くない?』

 『『『『…………あ』』』』

 

 

 

「そ、そっか。そりゃ部費くらい出てるよね」

 

「ここで指摘するのは最初は結の予定だったが京に変更したらしい。

 個性派な連中を纏め上げている万能娘だ。これくらいはやってくれるはずだ」

 

 

 

 『部活……予算……あった、ありました』

 『……結、それいつも持ち歩いてんの?』

 『ええまあ。何かと便利なので』

 『ん~、まあいいや。それで、どうなってんの?』

 『はい。部活を立ち上げてすぐでも予算は降りるようです。

  最初の年度は丁度10万で固定、それ以降は実績や部員数に応じて増減するみたいですね』

 『要するに……買えるじゃん!!』

 『全て使ってしまうと万が一の時、例えば他の楽器が破損した時などに身動きが取れなくなるのである程度は残した方が良いですが……何とか買えそうですね。

  えっと、手続き関係は……』

 

 

 

「ルール関係に詳しい設定の結の本領発揮だな」

 

「その割には部費の事は忘れてたけどね……」

 

「存在にさえ気付ければ後は調べるだけだな。

 なお、流石に暗記まではしてなかったようだ。部活の部長とか会計ならまだしも、ただの一般部員だしな」

 

「あの、部長と会計って桂馬くんと私の事なのでは……」

 

「ハッ、幽霊部長と幽霊会計に何を期待しろと」

 

「いやまぁそうなんだけどさ……」

 

 

 

 『ありました。指定された書式の書類に品名と値段を書き、部長と会計の印鑑を押した上で事務の方に提出すれば良いようです。

  あと、購入が終わったら領収書も提出するようにと』

 『アラ? 意外と簡単そうだね。

  んじゃあまずは書類は……職員室にあるんかな?』

 『恐らくは』

 『じゃあ取ってきて、店に行って値段見て、その後に判子?』

 『手順は問題ありませんが、一つ問題があります』

 『ん?』

 『印鑑です。軽音部の部長は桂木さんですが、会計がどなたかご存知な方は居ますか?』

 

 

「面倒なルールだな。部長副部長でも十分だろうに」

 

「そう言えば私って会計らしい仕事は全くやってなかったわけだけど……大丈夫だったのかな、この部活」

 

「部費を使う機会も無かったからな。どうとでもなったんだろう。

 ちなみに、部長役はちひろが、副部長は結が仮担当してるらしいぞ。

 来年度には正式に就任するだろう」

 

「京さんじゃないんだ」

 

「あいつには個性派の連中をまとめる仕事があるからな。

 役職まで押しつけたらオーバーワークだろう」

 

「いや、その仕事って部長と副部長の仕事なのでは……? まぁ、皆が納得してるならいいけどさ。

 ……あれ? 次期会計は?」

 

「ん? ああ……そこまでは聞いてないな。

 順当に京が担当するか、あるいは麻美がどっかの役職に入ったりするかもな」

 

 

 

 

 

  ……その後 桂馬視点……

 

 コンコン

 

 『ん? 母さんか? 夕食の時間にはまだ早いようだが……』

 

  となると、エルシィか? 一体何の用だ?

  エルシィなら羽衣さんの力で鍵の複製くらい余裕でできるので、勝手に入られないうちにキリの良い所でゲームを中断して扉を開ける。

 

 『何か用か? 手短に話せ』

 『はいっ! ハンコ貸してください!』

 『断る!』

 

 

 

「即座に切り捨てたね」

 

「当然だ。あいつに判子なんて渡したら大惨事になる未来しか見えん」

 

「意図的に悪用する事は無さそうだけど……何だか想像も付かないような事件に発展しそうだね」

 

「エルシィだからなぁ……」

 

「……ところで桂馬くん。もし私が判子を貸してほしいって言ったらどうする?」

 

「当然、断る」

 

「どうして? 私を信用してないの?」

 

「それとこれとは話が別だ。

 判子を押すという行為は時に重大な責任を背負う事でもある。

 それをお前1人に被せるわけにはいかないだろう」

 

「その通りだね。やっぱり桂馬くんは最高の旦那様だよ。

 あ、でも、用事があってどうしても自分で判子が押せないとか、そういう時は遠慮なく頼ってね」

 

「ああ。そうさせてもらおう」

 

 

 

 

 

 『……おいお前ら、一体何の用だ? また贈り物とかだったらはっ倒すぞ』

 『どういう事それ! 私が選んだ靴が不満だったとでも言うの!?』

 『いや、アレはかなり重宝させてもらっている。だが、贈り物なんて頻繁にするもんじゃないだろう。

  『物さえ送っておけば言いなりになる』などと侮られてるような気分になるからな』

 『むぐっ、確かにそうかも……ゴメン桂木』

 『それに、しょーもない贈り物だったら時間の無駄だ。ゲームしてる方が遥かに有意義だ』

 『結局ゲームなの!? 台無しだよ!!』

 

 

 

「桂馬くんには軽音部の皆に大して穏便に対処するという発想は無いの!?」

 

「丁寧に接客してやる義理など無い。こっちは部長だしな」

 

「普段は仕事を押しつけてる幽霊部長なのに……いや、そういう意味じゃないのは分かってるけどさ」

 

 

 

 

 『……おい、寺田。用件を簡潔に話してくれ』

 『えっ、私? いや、良いけど……』

 

 

 

「本章の京は説明役としての有能さが際立ってるな」

 

「……この部活、京さんが居なかったらどうなってたんだろう?」

 

「個性派な連中しか居ない場合でも別に仲が悪いわけではないから普通に何とかなるだろう。

 僕と話す時にちょっと手間取るくらいで」

 

 

 

 

 『これで僕の仕事は終了だな。じゃあな』

 『あ、待って待って! まだ一つ残ってる!』

 『ん?』

 『この部活の『会計』って誰?』

 『誰ってそりゃあ……』

 

  言われて考える。

  そして思い出す。

  部活作成の申請書を書く時にちひろ達に名前を隠しやすいように一番下にあいつの名前を書いた事を。

  上から部長、副部長、会計だったので、書類上の会計役はあいつだ。

  ……そう、中川かのんだ。

 

 『っっ!!』

 『か、桂木? 大丈夫? 何か表情がめまぐるしく変わってるけど』

 

 

 

「言われるまで完全に忘れてたみたいだね。私もだけど」

 

「ああ。部活の立ち上げ当時は『部活を立ち上げる事』しか考えてなかったからな。

 まさか会計の判子が必須の場面があるとはな」

 

「私を副部長にして、麻美さんを会計にしておけばこんな苦労をする必要は無かったのかな?」

 

「いや、副部長の判子が必要な場面もあるだろうし、メタ的な事を言うとお前を巻き込む為に会計の判子が必須な設定にしているからな。

 必要な判子が2つから3つに増えるだけだ」

 

「何て身も蓋もない……」

 

 

 

 

 『もしもしー? 大丈夫?』

 『……ああ、すまない。昨日は寝てないんで少々うとうとしていたようだ』

 『一体何してたの。夏休みの宿題とか?』

 『そんなもんは最初の半日で片付けた。

  って、そんな事はどうでもいい。確か会計についてだったな?』

 『うん。誰なの?』

 『ふっふっふっ、聞いて驚け。

  軽音部の書類上の会計は……『中川かのん』だ』

 『…………えっ?』

 

 

 

「堂々と言いきったね。

 ついでに許嫁だって紹介してくれても良かったのに」

 

「そんな事を突然言っても信じる奴はまず居ないと思うが」

 

「だったら何の問題も無いね!」

 

「あくまでも当時の話であって、今だったら普通に信じられる……と言うか設定上は舞校祭の後夜祭より前にお前と付き合い始めた事を教えてるはずだけどな」

 

 

 

 

 『でだ、お前たちはアイドルという職業をどう思う』

 『どう思うって、そりゃぁ……』

 『おおかた『キラキラしてる』とか『女子の憧れ』とかそんな所だろ?』

 『いや、まあ大体そんな感じだけど先に言わないでよ』

 『そういうプラスな面も間違っちゃいないが、それと同時に安定しない職業でもある。

  突然どっかの新人にファンを奪われて落ち目になる可能性もあれば妙なスキャンダルを嗅ぎつけられたりとかな。

  年も取るから定年までステージの上でアイドルとして働くなんてまず不可能だ。まぁ、これは極端な例だしステージの上がアイドルの全てというわけではないが。

  そんな感じで中川のご両親もそんな心配をした……のかは知らんが、アイドルを続ける上で条件を付けられているらしい』

 『知らないんかい!!』

 『実際会った事も無いしな。

  で、その条件というのは成績の維持だ』

 

  これは半分嘘だ。

  『成績が下がったら親から怒られる』という話は本人の口から聞いたことがあるが『アイドルを辞めさせられる』とまでは聞いてはいない。

  ただ、成績が極端に下がったら流石に辞めさせられるんじゃないだろうかと勝手に想像している。

 

 

「で、実際どうなんだ、これ?」

 

「大体桂馬くんの想像通りだよ。

 アイドルやってても学業に支障を来さないようにとか言われてる。

 アイドルを辞めろって言われた事は無いけど……極端に成績が落ちたらそうなるんじゃないかなと」

 

「本当に想像の通りだったな」

 

 

 

 

 『念のため訊いておくが、会計の判子は絶対に必要なんだな? 部長や副部長ではダメなんだな?』

 『場合によっては副部長でも何とかなるかもしれませんが……この部活は少々強引に申請を通したのですよね? 睨まねかねないことは避けたいです』

 『仕方あるまい。僕からなるべく早めに学校に来るように頼んでおく』

 『えっ、かのんちゃんの連絡先分かるの!?』

 『連絡が取れないとあいつの不定期な空き時間に合わせて勉強を教える事なんざ不可能だからな。

  そうだな……『軽音部の会計として判子が必要だ。なるべく早く部室に顔を出してくれ』

  これでいいな。送信」

 『そんな雑なメールで良いの?』

 『相手は忙しいアイドルだぞ? 用件だけ簡潔にまとめた方が助かるに決まってる』

 『う、う~ん……一理ある……のかなぁ?』

 

 

 

「……長文打つのが面倒だったから建前を用意したわけじゃないよね?」

 

「いや、特に深い意図は無かったぞ。

 と言うか、多少文章が長くなるとしてもPFPのキーボードを使えば大して手間じゃないしな」

 

「それはそうだけど……どうせメールを送ってくれるならもっとときめいちゃうようなメールが欲しいよ!」

 

「無茶を言うな! ただの事務連絡でそんな気の利いた事できるか!!」

 

 

 

 

 『あ、メールだ。ちょっと失礼します』

 『中川かのん。何か心なしか嬉しそうね』

 『え? そうかな?』

 『まさかとは思うけど男じゃないでしょうね?』

 『ん~、男子っちゃ男子だけど、恋人とかそういうんじゃないからね』

 『それなら良いけど、アイドルは恋愛禁止なのよ。そうですよね? 岡田さん』

 『…………顔良し歌良し性格良しで将棋も指せて第六感まで冴え渡っていて彼氏が居るアイドル……

  ……イケる?』

 『『イケませんから!!!』』

 

 

 

「恋人の存在が岡田さん公認になった瞬間!!

 ……ではないけどさ。流石に冗談だったみたいだし」

 

「アイドルの恋愛か。そもそも一般市民がアイドルに何を求めるかという事次第ではどうとでもなりそうだが……

 現在浸透しているアイドルのイメージや、本来の語義を考えると厳しいか」

 

「え? 語義? どういう意味があるの」

 

「お前、そんな事も知らずにアイドルやってたのか」

 

「う~ん……アイドルはアイドルだったからね。語義なんて考えもしなかったよ」

 

「まあいい。アイドルの本来の語義とは『偶像』だ。

 所謂、神を模した像の事だな。

 絶対的な存在として君臨して崇められるのがアイドルの正しい姿であるならば、やはり恋愛はすべきではないだろう」

 

「……でも、その理屈なら桂馬くんとの恋愛は大丈夫だね」

 

「ん? どういう意味だ?」

 

「だって、桂馬くんは落とし神様なんでしょ? 恋愛する相手が神様なら、何の問題も無いでしょ?」

 

「……かもな」

 

 

 

 

   ……数日後 エルシィのモノローグ……

 

  神様の家に皆で集まった次の次の日、軽音部のみんなで姫様をお出迎えする為に集まっていました!

  おっと、今回は姫様の事を『姫様』って呼んじゃダメって念押しされてました。えっと……ちひろさんや歩美さんに合わせて『かのんちゃん』ですかね。少しおそれ多いですけど。

 

 

「何故だろう、凄く不安になってきた」

 

「『中川かのん』に向かって姫様呼びしたらどうなってたんだろうな。

 まぁ、普通に考えたらかのんとまろんが同一人物だなんて思いもしないだろうからエルシィの言い間違いという事になりそうだが」

 

「万が一が怖いからね……結さんとか結構鋭いし、麻美さんも私の事を疑ってたみたいだからバレるのも有り得なくはなかったかも」

 

 

 

 

  そんな風に過ごしていたら廊下の方から足音が聞こえてきました。

  そしてそのままガラッと扉が開けられて待ち望んでいたかのんちゃん……ではなく、全く知らない男子が入ってきました。

 

 『おっと、人が居たのか。君達、かのんちゃんを見かけなかったかい?』

 『えっ? いえ、見てないですけど……』

 『そうか……ここにも居ないのか』

 『な、何事ですか?』

 『ああ、かのんちゃんが突然姿を消してしまってね。何かのトラブルに巻き込まれたんじゃないかと有志で探し回ってるんだ』

 『そうですか……』

 『もし無事なのを見かけたら連絡してくれたまえ。では!』

 

 

「この男子生徒は特にモデルは居ないらしい。

 イベントの内容的にも知り合いよりも赤の他人の方が書きやすかったみたいだしな」

 

「う~ん、見覚えの無い顔だよ。一応私のファンのはずだけど……」

 

「全てのファンの顔を覚えるのはお前でも無理か。いや、お前だからこそ無理か」

 

 

 

 『だ、大丈夫なのかな、かのんちゃん』

 『この学園のセキリュティはそう甘くはありません。よほどの事が無い限りは問題ないでしょう』

 『……何か結が言うと説得力がある気がする。何でだろうか?』

 

  と、ホッと一息吐いた所で今度は廊下とは反対側から物音が聞こえてきました。

  コンコンッという窓をノックするような音に反応して全員がそちらを向くと……

  ベランダに、姫様が、居ました。

  …………

 

 『って、えええええっっ!? かのんちゃん!? 何でそんな所に居るの!?』

 『お、おかしいですね、こ、この学園のセキリュティはそう甘くは無いはずなのですが……』

 『と、とにかく鍵! 鍵開けよう!』

 『はいっ! 開けます!!!』

 

 

 

「この時に想像した窓の形によって印象が完全に変わるな。

 ベランダも何もないただの窓でもかのんにとっては全く問題ではないんだが……原作11巻を確認すると普通にベランダがあるようだ」

 

「流石にただの窓から入ろうとはしないよ。できるけどさ」

 

「できちゃうんだよな。うん。

 ちなみにだが、ベランダに入ったのはどうやったんだ?」

 

「そりゃ勿論、飛行魔法でぴょーんって」

 

「……この学校の甘くないらしいセキリュティも地獄の技術の前では形無しだな」

 

 

 

 『あの、かのんちゃん? 時間って大丈夫なの……ですか?』

 『時間はそこまで余裕があるわけじゃないけど、まだまだ大丈夫だよ。多少遅れても私の同僚が何とか繋いでくれるし。

  あと、ちひろさんだっけ? 敬語じゃなくても大丈夫だよ。むしろクラスメイトに距離取られたらちょっと悲しいから……』

 『えっ、ご、ごめん』

 『ふふっ、冗談だよ。それより、話聞かせてよ。

  クラスメイトで音楽をやってる人が居るって聞いてすっごく楽しみにしてたから』

 『えっ、私たちなんてかのんちゃんに比べたらそんな大した事はないよ』

 『そんな事は無いよ。むしろ私の方こそ歌が本業のはずなのに最近色々と手を広げてるから……』

 『??』

 『……ううん、何でもない。とにかく色々と聞かせてよ』

 

 

「素の状態でちひろと話すのはここが初めてか?」

 

「ん~っと……そうなるね。

 錯覚魔法を使ってる時ならいくらでもあるけど、そうじゃない状態は初めてのはず」

 

「当時の後書きでも言っていたが、原作だとかのんが敬語で、ちひろが常態だ。

 本作でお前が敬語じゃないのは……話し慣れているからというのが一番の理由だろうな」

 

「そういう事だね」

 

「逆にちひろが敬語なのは……なんだろうな。

 アレか。原作だと突然出てきたのに対して本作だと予告してから出てきてるから心の準備ができてたのかもな」

 

「そ、そういう事なのかな……う~ん……」

 

「筆者は会話の類は頭カラッポにして直感で書いてるから、当時はそうするのが自然だと直感で感じてたわけだが……やはり確たる理由を説明するのは難しそうだな」

 

 

 

 

  結さんが持ってきた沢山の書類に判子を押しながら雑談を続ける。

  今日、私がここに来た理由は実は3つある。

  まず1つ目、今やってる通りに会計として判子を押す為。当たり前過ぎて説明するまでもなかったね。

  次に2つ目、凄く個人的な理由だけど、こうやって軽音部の皆と話してみたかったから。

  エルシィさんに変装した状態でなら何回も話したことはあるけど、私自身として話してみたかった。同じ『音楽』を頑張ってる相手として。

  そして最後。『女神を探すため』

 

 

「女神探し、か。

 記憶があって、なおかつそれを隠したかったお前としては6人全員を見つけるのは急務だったわけだな」

 

「そういうコトだね。あと4人見つけないとって考えてたはず。

 振り返ってみるとあの場に居た女神の宿主は歩美さんと麻美さんの2人だけだったから無理な話だけど」

 

「美生は当時はまだ出会ってすらいなかったか」

 

「全員は無理でも、情報を増やしておくに越した事は無いからね。

 私の持ち帰った情報も役に立ったでしょ?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 

 

  正直に言って、私たちは地獄も天界もそこまで信用していない。

  地獄は詐欺紛いの契約書を送りつけてくるような方々の集まりだ。駆け魂は放置しておいたら主に人間界に大きな影響を与えるのでそこに住む人間に狩らせるという理論は一応間違ってはいないのかもしれない。でも、やり方が悪辣過ぎるだろう。

  尤も、その問題のあるやり方のおかげで桂馬くんみたいな超人を働かせられたのだからやはり必要な事ではあったんだろうな。やっぱり悪辣だけど。

 

  一方、天界については情報がほぼ全く無い。ハクアさんのおかげで実在が確認できたっていうのが唯一の確定情報だ。それ以外にも信憑性が高そうな情報はあるけど、情報源がディアナさん1人だからねぇ……

  もう一つ重要な事がある。それは『旧地獄の封印が解けてから10年間、何もしていない』という事だ。ハクアさんが知らなかっただけかもしれないけど、仮にもハクアさんは駆け魂隊の地区長だ。特に権力は無いけど地区長だ。天界の住人が駆け魂の件で動いているなら知らされてないわけが無いだろう。

  それに、封印が解けたという事はディアナさん達『ユピテルの姉妹』が解き放たれたという事でもある。普通は保護しようと動くと思う。そんな気配が無いのは最初から保護する気などないのだろうか? あるいは……封印が解けた事に気付いてないとか、救出の準備ができてないとか? 10年も経ってそれでは無能も良い所だ。別の意味で信用できない。

  って言うか、下手すると封印かけた当時から異常はあったんじゃないだろうか? 当時の事なんて分からないけどさ。

 

 

 

「ちょっと長いが、下手に切ると意味が伝わりにくくなりそうなんでそのまま抜粋してきた。

 重要なのは一番最後の文だな」

 

「300年も前から女神が1人欠けてた可能性が濃厚だったもんね……

 今にして思えば一番重要な『互助』の女神様が抜けてたんだよね。そんなのでよく結界が保ったね」

 

「天界連中への信憑性をさらに下げる要因だな。

 300年も何もしてなかったのかコイツらっていう」

 

「エルシィさんがミネルヴァさんなのは原作者さんの没ネタなわけだけど、どういう風にするつもりだったんだろうね。

 『互助』の力が後付けの設定なら1/6が欠けただけになるからそこまで大きな影響は無さそうだけど……」

 

「原作者の手による没ルートも見てみたかったな」

 

 

 

 

  そういうわけで桂馬くんの方針は『女神と名乗る存在に接触できたらディアナさんに教える』である。中立と言うか現状維持というか、そんな感じだ。女神っぽい人を偶然見つけてもその人から名乗り出ない限りはディアナさんに知らせるつもりも無い。

 

 

 

「これがエルシィの事をディアナに言わなかった理由だな」

 

「エルシィさんは自称優秀な悪魔だからね」

 

「この時点でエルシィの正体に気付いてた読者も、僕が気付いてる事に気付いていた読者も居たと思うが……これで納得してくれていると助かる」

 

 

 

  だけど私は思うんだ。女神を探しておく事くらいはやってみても良いんじゃないかって。

  この先私たちが地獄や天界にどのような形で関わってくるかは分からない。決断を迫られた時に情報は多ければ多いほど良いはずだ。

  幸いな事に、この軽音部には関係者が集まってる。

  高原歩美さん、五位堂結さん、小阪ちひろさん。そして、何故か居る吉野麻美さん。そう言えば副部長だったね、麻美さん。

  桂馬くんによれば、と言うよりディアナさんによれば女神の宿主は記憶操作を免れる……可能性があるらしい。

  私としても他人事じゃなくなるよ。はぁ……

 

 

 

「ホント、他人事じゃないよ。私には女神居ないからある意味他人事だけど」

 

「僕が居ない場面の、しかもただのモノローグだから全く問題ないんだが……この溜息からお前の記憶がある事が推測できそうだな。

 記憶が無かったら溜息なんて吐かないだろ」

 

「全くだよ。記憶が無くなった事が無いから想像でしかないけど、きっと全力で女神を探すんじゃないかな。

 攻略の内容は覚えてなくても、これだけはきっと覚えてる。全力で記憶を取り戻すんだって事は」

 

「自分の中に居るかもしれない女神を探すか、あるいは誰か他の女神を譲り受けるか。他にも、天界の妙な術で記憶を復元するとか、

 とにかくそんな感じでどうとでもなりそうだもんな。可能性がありそうなだけでもお前は全力で動いただろう」

 

「うん。その通りだね。

 でも逆に溜息を吐いてた。記憶は戻っていて、なおかつ女神が邪魔だったから」

 

「実際、お前に女神は居なかったわけだが……仮に居たとしてもこの反応は成り立つな。

 こうやって見てみると意外とボロ出してるな。心の中で」

 

「桂馬くん。それはボロって言わないと思う」

 

 

 

 

 『って事は結さんは途中参加なんだね』

 『はい、その通りです。ドラマーを探していらっしゃるとの事で声をかけて頂きました』

 『ドラムには自信があったの?』

 『はい、以前は吹奏楽部で打楽器を担当していたので』

 『なるほどね。元吹奏楽部だったんだ。

  ……答えたくなかったら構わないんだけどさ、どうして吹奏楽部を辞めちゃったの?』

 『あ、その……色々とありまして、できれば訊かないで下さい』

 『……うん、家族の事情とかそんな感じかな? じゃあこの話は置いといて別の……』

 『えっ、ちょっと待ってください? まさか母を知っているのですか!?』

 

 

 

「結は完全にシロだな」

 

「原作みたいに記憶の復活が不完全な可能性もあるけど……それを考えなければ完全にシロだね。

 確か結さんは攻略中に私と会ってたよね。

 錯覚魔法も使ってない正真正銘の『私』に」

 

「と言うか、錯覚魔法が効かなかったんだったな。

 ……お前と接した時間が一番長いヒロインって何気に結なのか?」

 

「仮にそうだったとしても向こうは記憶無いからなぁ……

 あと、七香さんと師匠が現在進行形で接する時間が増えてるよ」

 

「……そう言えばそうだったな。

 どうだ? 上達してるか?」

 

「うん。将棋はアマチュアの段位を認定してもらえたし、武道の方も守りに徹すれば師匠の攻撃を捌けるようになってきたよ」

 

「……アイドルって、何だろうな」

 

「…………偶像なんじゃない? きっと」

 

 

 

 

 『あの、中川さん。ちょっと訊きたい事があるんだけど……』

 『何かな? 体重とスリーサイズ以外なら何でも答えちゃうよ~』

 『そうじゃなくて、あの、桂木君の事で……』

 『桂馬くん? 桂馬くんがどうかしたの?』

 『あの、その……お2人はどういう関係なのかと思って……』

 

 

 

「夫婦です!!」

 

「当時結婚してなかった事は確定事項なんだがな……」

 

「許嫁です!!」

 

「一方通行の許嫁を許嫁とは呼ばん」

 

「じゃあ何て言えばいいの!!」

 

「……はぁ、今現在は婚約者以上の関係なのは間違い無いから許嫁って事にしておこう」

 

「う~ん……微妙に扱いが雑な事を怒ればいいのか、桂馬くんの口からしっかり認めてもらった事を喜べばいいのか……」

 

 

 

 『桂木君と教室以外のどこかで会ったことがある気がするんです。

  だけど、直接訊いてみても何も知らない風だし、エリーさんは頼りにならないし……』

 『うぐっ、ご、ゴメンなさい……』

 『だから、その、もし中川さんが桂木君と親しいなら、何か知ってるんじゃないかなって……』

 『…………』

 

 

「確かこの段階で既にアポロさんは覚醒してたよね?」

 

「そうらしいな。

 ただ、本音を言うと『朧げに記憶が戻っている』という前提で書いていて、その後強引に覚醒していた事にしたらしい」

 

「えっ、そうだったの……?」

 

「アポロやその他女神の覚醒状況とか、そんな細かい調整と把握がこの筆者にできるわけないだろ?

 ウルカヌスとマルスの宿主なんて女神編開始時にようやく決まったくらいだし」

 

「説得力があるような無いような……」

 

 

 

 

 『あの~、つかぬ事をお伺いしますが~』

 『何かな、ちひろさん』

 『結局、桂木とかのんちゃんってどういう関係なの? 何か勉強を教えてたって桂木は言ってたけど』

 『桂馬くんから聞いた通りの関係で合ってるはずだけど……

  強いて一言で表すなら『取引相手』かな』

 『……なるほど、よう分からん』

 

 

 

「許嫁って言葉は親が決めた政略結婚的な意味合いが強いからね。

 取引相手っていう言い換えは決して間違ったものじゃないと思うよ」

 

「そういう意味だったんだなこれ……」

 

「本当の意味を知らなければ何の問題も無い呼び方だね。岡田さんやファンの皆の前でも堂々と言ってもスキャンダルにならないよ!」

 

「ただの取引相手だとしても仲良くしてる男子が居るならスキャンダルになりかねないと思うんだが……まぁ、別にいいか」

 

 

 

  鞄の中に入れておいた手のひらサイズの長方形の色紙を6枚ほど取り出す。

  長い方を縦向きにして、横に3列、縦に2列並べる。微妙に正方形じゃないけどそれに近い形だ。

  その状態を1枚の色紙に見立ててサラサラッとサインを書く。

  ……よし、完成だ。

 

 

「割符のサインか。人数が6人だったからこそ使えた方法だな」

 

「継目の部分で段差ができたりするから綺麗に書くには意外とコツが要るよ。

 前日に頑張って練習したんだよ!」

 

「そんな事してたのか。

 しかし、本来なら5人の予定だったよな? 麻美がたまたま来ただけで」

 

「その時は余った1枚は私が貰ってたよ。

 私だって軽音部の一員だからね! 一応!」

 

「いや、そりゃそうだが」

 

「あ、そう言えば桂馬くんにはあげられてないね。

 サインか何か書こうか? 今なら特典として私が付いてくるよ!!」

 

「人身売買かとツッコミを入れるべきなのか?

 と言うか、僕の物だと主張する気はないが既にほぼ似たようなものだろう」

 

「ぐぬぬ……否定できない。

 桂馬くん。もしキスとかしたくなったらいつでもしてくれていいからね!!」

 

「物みたいに扱う気は無い。

 キスというイベントは重要なんだ。もっと綿密にフラグを練って、ムードを作ってからだな……」

 

「そこまで言うなら桂馬くんがしっかり計画してよ! キスまでできるデートプランを!!」

 

「……まぁ、たまにはいいか。作っておくとしよう」

 

「え、あれ? 本当に……?

 桂馬くんがデレた!!」

 

「はいはい。そろそろ〆るぞ」

 

 

 

「え~、次は青山美生編『残された絆の物語』だね」

 

「美生編か。順序のシャッフル、と言うより入れ替えが一番生きた回かもな」

 

「それでは、また来週~!」

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