「はいどうも皆さんこんにちは! かのんです!
第23回キャラコメンタリー始めます!」
「青山美生編だな。舞校2年の呪いや2年の呪いが騒がれていた時も一向に引けず、今更ようやく登場したようだ」
「それじゃ、VTRスタート!」
エルシィさんは、またもや地獄の特訓に旅立った。
『……またなのか』
『うん。矯正し切れなかったって岡田さんが悔しがってたからね。万全の準備を整えてもう一度トライするらしいよ』
『完全に別人扱いされてるな……』
『……うん』
「本来ならかのんはアイドル業が相当忙しいわけだが……本作では何かと理由を付けて動かせる状態にしているな」
「エルシィさんの最初の特訓は長瀬先生を攻略してた時の事だっけ」
「そうだな。あの時は『エルシィ縛り』としてそういうイベントにしていたが……今回は特に何も考えてないな。多分」
『天界か。僕はゆっくりとゲームしていたいんだがな』
『ホントだよね。良く分かんないいざこざに私たちを巻き込まないで欲しいよ』
『……そう言えば、ごたごたしてて訊き忘れてたんだが……
お前に女神は居ないんだよな?』
『……なるべく正確に答えるなら『分からない』っていうのが一番近いかな。
少なくとも自分の感覚では『居ない』けど、女神様が全力で隠れてるって言い張る事もできるし』
『確かにそういう風に言う事もできるか。分かった。
少なくとも自分で感じ取れないなら構わん』
「本当に嘘は吐いてないんだな」
「記憶はあったから、だからこそ私自身も断定できてなかったよ」
「ところで、ここで『記憶が戻ってないから居ない』と言い張る事もできたよな? どうしてそうしなかったんだ?」
「理由はいくつかあるけど……大きな理由は2つかな。
1つは単純に『記憶が無い』っていう理由だけだと女神が居ないと断定できない事だね。
女神の覚醒が不完全だと記憶の復元も不完全かもしれないし。
2つ目は、ハッキリと『記憶は無い』って言いきっちゃうと逆に疑われる気がしたんだよね。
完全な記憶喪失ならまだしも、部分的に記憶が無い人がその事をハッキリ自覚できるとは思えないし。経験が無いから完全に想像だけど」
「確かにな……違和感を覚えて問い詰めるくらいはしたかもしれん」
……お昼休み……
『じゃ、外パンと学食どっちが良い?』
『外パン?』
そとぱん……どこかで聞いたことがあったような無かったような……
話の流れから察するに学食か何かだろうか? いや、学食ではないのか。じゃあ一体何だろう?
「当時の私は外パンすら知らなかったんだね……」
「ああ、これな。実はそうでもない」
「え? どゆこと?」
「この話を書いてる最中にふと気になって過去の話を調べてみたら結編でお前がモノローグで外パンについて言及している箇所があったそうだ。
大して重要な箇所でもないんでササッと修正したらしい」
「そんな事してたんだ……」
「過去描写のサイレント修正とか、結構な禁じ手だが……まぁ、この後のギャグ描写を際立たせるためだけの修正であり物語の本筋には全く影響しないから良しとしたらしい」
『桂馬くん、あのお店の名前って何て読むんだろう? デメテラ?』
『『デメテル』だな。確か豊穣の女神とかそんな感じだったはずだ』
『よ、よくそんなサラッと出てくるね……』
『神話を元ネタにしたゲームはありふれてるからな。
堕天使とか神とか女神とか』
「当時の後書きでも言ってたハズだが、原作者の若木先生はどこまで考えてこの描写をしていたんだろうな」
「本当にしっかりと伏線が練られていたのか、単純に神様繋がりの名前にしただけなのかは謎だね。
それこそ本人にでも訊いてみないと」
『あ、あのパン食べた事ある!』
『……ああ、そうか。そう言えばアイツに頼んで買ってきてもらった事があったか』
『そう言えばそうだったかもしれない。
あの時食べた焼きそばパンに卵をとソースを混ぜた感じのあれ凄く美味しかったよ。また食べたいって思ってたんだ』
『オムそばパンの事だな。ソースはオリジナルらしいぞ』
『確かにあのソースは凄かった。
何種類もの調味料を混ぜているにも関わらず香りを良い塩梅に抑え、あくまでメインである焼きそばと卵の引き立て役に徹してた。
その上で、二つの具材とパンとを調和させるかの如く……』
『わ、分かった分かった。とにかく食おう。な?』
『うん!』
「オムそばパンに対する筆者の悪ノリが始まった瞬間だな」
「だって美味しかったんだもん!! 詳しい解説は本文でやってるから省略するけど美味しかったんだもん!!」
「はいはい。
ちなみにだが、今後出てくる『オムそばパンに発狂してる組』と『そうでない組』は女神の宿主か否かという分類と全く同じだったりする」
「えっ、そうなの?」
「美生の判定が少々怪しいが、貧乏人が普通に美味しく味わっているだけなので発狂はしていない。
よって、発狂組はお前と結とハクア、そうでないのは僕と麻美と美生になる」
「何でそんな変な事に……?」
「最初は全く意識せずに書いていたが、途中から気付いてそういう反応にしたらしい。
強引に理由を捏造するなら『実はあのパンには魅了魔法がかかっていて、女神の宿主はそれを弾いた』とかにしてもいいが……まぁ、単なる筆者の遊び心だな」
※
本編では出てきてないけど天理も普通に大丈夫そう。ホットドッグで発狂するルートは没になってたし。
エルシィも「わ~、美味しいですね~」くらいだと思うし、ミネルヴァさんも「ふむ、美味ですね」くらいだと思う。
『鎮まりなさい! そこの庶民たち!』
『あっ、青山さんだ!』
『青山美生!? あの青山中央産業の社長令嬢の!?』
『外パンに来るなんて何事だ?』
「モブ連中が何でこんな説明口調なんだとか、そういう事は気にしてはいけない」
「そんな事言われたら逆に気になるよ」
『ふぅん、ヘンな物が売っているな。オムそばパンだと? 1つ貰おうか』
『かしこまりました。君達、退いてくれ!』
ちょっ、あと1歩で私が買えるはずだったのに!
はぁ、まあいいか。待つのが1人増えるだけだし。
『オムそばパン1コかい? 100円だよ!』
『ではこれで』
『1万円? そんなお釣り無いよ。小銭は?』
『悪いが、生まれてこの方小銭なんて持ったことが無い』
『ええっ?』
『ではこうしよう。この金で買えるだけのオムそばパンを貰おう』
「美生の台詞の『ふぅん』という部分はどっかの社長を思い出しながら書いていた……というのは完全な余談だな」
「そんな細かい台詞なんかよりも! オムそばパンが買い占められちゃうよ!! 何とかしないと!!」
「……あのパン、本当に魔法がかかってるんじゃないだろうか?」
『100コも無いよ。69コとそのお釣りくらいならあるけど?』
『では全て貰おう。釣りなど要らない』
『いや、こっちとしてもお釣りを貰ってくれないと困るんだけど……』
『そのような端金は不要だと言っている。早くパンをくれ』
『はぁ……分かったよ。箱はサービスで貸したげるけど、後でちゃんと返しておくれよ』
『良いだろう。では失礼する』
こうして、オムそばパンは売り切れた。私たちの目の前で……
「100個ジャストなのも不自然なんでこうやって改変してみたらしいが、69個という残りの在庫を把握しているのも不自然ではあるな」
「オムそばパンのおばちゃんならその日に最初に用意してた数は勿論、既に売った個数も把握してて当然だよ!!」
「……メルクリウス、かのんに変な呪いか何かがかかってないか調べてくれないか?」
(……少々信じ難いが、特に問題は無いようだ)
『って、ちょっと待ちなさい!!』
『ん? 何か?』
『何か? じゃないよ! 横入りした挙句に買い占めって悪質過ぎるよ!
社長令嬢だか何だか知らないけどふざけないでよ!!』
『フン、何を言うかと思えば。
文句を言うなら私のような金持ちになってからにしろ』
『んなっ!!』
そんな馬鹿げた言葉だけを残して青山さんは行ってしまった。
『お、おい、中……じゃなくてエルシィ、落ち着け』
『わ、私の、私のオムそばパンが! 許せない!!』
『……とりあえず食堂に行こうか。そして少し休め。キャラが崩壊してるぞ』
「うわぁぁぁぁああ!!!」
「うるさい」
「だって! だってオムそばパンが!!」
「はぁ……そんなに好きなら自分で作ったらどうだ」
「ハッ、桂馬くんは何も分かっちゃいないね。
私ごときにアレが作れるとでも!?」
「……アポロを呼んだ方が良いだろうか?」
(そうだな。私も少し自信が無くなってきた。
セカンドオピニオンを仰いだ方が確実だろう)
『……はぁ、何か今更な感じの攻略対象だな』
『どういう事?』
『今回のターゲット、外見からほぼ『ツンデレ』のキャラだと察する事が可能だ』
『外見で判断したんだね……』
『ああ! 猫目で、明るい髪色で、デコが出てるツインテールで、おまけにチビな女子は、100%がツンデレだ!!』
『ツンデレなのは分かったけど、今更な感じっていうのは?』
『ああいう極端なキャラは選択肢も極端なものになりやすい。攻略のテンプレートがほぼ確立されている。
漫画に例えるなら読み切りでとりあえず攻略してみたり、連載3話目でページ数が少なくなった頃に失速を抑える為に出てくるようなキャラだ』
『いやに具体的な例えだね……』
「ホント、具体的な例えだね」
「当時もしっかりと気付いた読者が感想をくれたが、元ネタは神のみ原作と、あと読み切り版だ。
読み切り版の攻略ヒロインである
原作1巻の作者コメントにもそんな感じの事が書いてあったしな」
「そう考えるとかなり初心者向けのヒロインなんだよね……
確かに今更感はあるよ」
「実際、その場凌ぎの攻略をするだけならどうとでもなったはずだ。
トゥルーエンドではないがな」
……放課後……
『で、五位堂だったな。何の用だ?』
『結で結構ですよ。その名字はあまり好きではないので』
『ふむ……まあいいか。で、結。何の用だ?
ゲームしながらで良いなら聞いてやる』
『……まあ、桂木さんなら問題無いでしょう。
まずは場所を変えさせてください。そうですね……軽音部の部室にでも』
「かなり自然な流れで名前呼びさせてるね。
けーまくん。私の時と対応が大分違うように感じるんだけど?」
「お前の場合とは状況が違うだろ。
結は本気で名字を嫌ってたしな」
「じ、じつはね! 私もこの名字あんまり好きじゃないんだ!」
「そうかそうか。じゃあ理由を30字以内で言ってくれ」
「フッ、そんなの簡単だよ。
『私のあるべき名前は桂木かのんなんだから不満に思って当然だよ!』」
「ちょっと待ってくれ。流石に聞き取っただけだと判定できん。
えっと……?」
私のあるべ き名前は桂
木かのんな んだから不
満に思って 当然だよ!
「おお、丁度30字だ。イクステンションマークがやや強引だが」
「ふふん! どうよ!」
「……で、僕はどうすればいいんだ、かのん」
「……特に何もないよ。桂馬くん」
『お前、友達が具体的に何をやらかしたかは聞いてないのか?』
『申し訳ありません。桂木さんとエリーさんが被害を被ってた事と怒ってた事までは把握していましたが、内容までは……』
『あ~……まあいい。あいつがやった事って言うとだな……』
『私たち庶民の為のオムそばパンを買い占めたんですよ!
1コ100円なのに、小銭なんて持ってないって言って、諭吉さんを出して『コレで買えるだけ貰う』とかうらやまげふんげふん、イヤミったらしい事を!
しかも、在庫全部とお釣りを渡そうとしたオバチャンに向かって『釣りなんて端金は要らない』って!
あーもう、今思い出してもムカムカしますよ! 私のオムそばパンが!!!』
『お、落ち着けエルシィ。言いたい事は十二分に伝わってるから』
「もの凄い早口で言ってたな。しかも滑らかに」
「多少は説明を意識したけど、ほぼ本音だったからね。
一気に捲し立てるっていう表現もアニメとかでたまに出てくるから経験あるし」
「ほぼ本音だったのかこれ……
オムそばパンの何がお前をそこまで駆り立てるんだ……?」
『あの……どうかあの子を許してあげてください。ちょっと奇行が目立っただけで、根は凄く良い子なのです』
『僕は元から怒ってなどいないが……』
『そうですね……許せません!』
『えっ』
『だって、このまま許して放っておいたら近いうちに美生さんは破滅しますよ!
何としても原因を突き止めて更生させないと!!』
『え、エリーさん……ありがとうございます』
『それに、またオムそばパンを買い占められて私が食べられなくなったら嫌ですからね!』
『……そ、そうですか』
「エルシィならどっちも言いそうな台詞だな。
……いや、オムそばパンの買い占めには言及しないか?」
「そ、そんな事ないんじゃない? だってあんなに美味しいんだもん!!」
「……まぁ、お前ほどこだわらないだろうが、有り得ない話ではないか」
『と言う訳で、お兄様も手伝って下さいね!』
『ちょっと待て、何でそうなる!?』
『私が青山さんを更生させられると思いますか? 神様のお力が絶対に必要です!!』
『いや、まぁ確かにそうかもしれんが、何で僕がやらなきゃならん』
今欲しいのは、僕が積極的に関わる動機だ。
まぁ、無いなら無いで別に構わないんだが、あった方が結との会話がスムーズになるからな。
さぁかのん、何か策はあるのか?
『……良いんですか神様。そんな態度だと『あの事』をバラしますよ……?』
『あの事、だと?』
脅迫か。なるほど。一応僕が動く動機にはなるか。
『そうです、あの事です! 神様がかのんちゃんと……』
『あ~! 分かった分かった! 協力してやる!!』
「滑らかに演技が繋がるな」
「これって事前打ち合わせなんて一切してないんだよね……よく合わせられたと自分でも思うよ」
「現状と目的が頭に入ってれば互いの手の内は意外と透けるものだ。
……しかし、僕が遮らなかったら何て言うつもりだったんだ?」
「そうだね。『神様がかのんちゃんと……あれ? 何でしたっけ?』とか」
「そんなでも全く問題にならないのは流石はエルシィと言うべきなのだろうか?」
「どうしても何か言うのであれば、『神様がかのんちゃんと婚約してます!』とか。
当時は絶対に言えなかった事だけどね」
「今も人前で話す事ではないな」
……美生の家の前……
『と言うか、どうするんですかこの大量のオムそばパン!
とてもじゃないけど食べきれませんよ!?』
『仕方ないじゃないの。1万円しか持ってなかったんだから』
『いい加減に小銭の存在を認めてください! せめてお釣りくらい受け取ってください!!
あの1万円は4ヶ月分のお小遣いでしょう! 2~3日はこのパンも腐らずに保つでしょうけど、その後はどうするおつもりなんですか!!』
『フン、パンが無ければスイーツを食べれば良いじゃない』
「『パンが無ければケーキを……』というのはマリーアントワネットの発言として有名だな」
「中世の暗黒期の貧富の差を表す名言だね」
「そんな感じで筆者も使ったようだが……投稿直後にある読者から指摘を受けた。
『実はマリー様の発言ではない』と」
「えっ、そうだったの!?」
「詳しい事は各自調べてもらうとして……そんなコメントを受けて僕の反応を少しだけ修正したようだ。
まぁ、傍若無人な金持ちの台詞であり、教訓にすべき台詞である事に変わりは無いがな」
『えっ、だ、誰?』
『ふぅん、話には聞いてたけどヒドい状況だね。だいじょぶかい?』
『は、え? あ、あんた何者?』
『僕かい? 桂木桂馬だ。以後お見知りおきを』
『え、ええ……って、そうじゃないでしょうが!!
あの……その……』
「美生さんが錯乱してるね」
「初遭遇時のインパクトの強さは非常に重要だ。
それがより強ければ強いほど恋愛という名の植物はより太い幹に育っていく。
そういう意味ではある意味本作で一番成功した例かもしれんな」
※
最初は割と地味な出会いだったっていうコメントにするつもりだったのに、よく考えたら大成功してますね。
今回は恋愛を特に使わない方針で進めていたので特に工夫は凝らしてないのですが……逆に大成功するという。物欲センサーかな?
『で、結局あんたは何者なの?』
『……ここでまた名前を名乗ったら怒られそうだな』
『当たり前でしょ!!』
『じゃあ真面目に答えるとしようか。
簡単に言うと、僕は君の友達の友達だ』
『友達ぃ? 私の? 一体誰の事を言ってるのよ。
庶民が一方的に私を慕っているとかならともかく、この私と対等に付き合える人なんて居ないでしょ』
『そこまで理解しててまだ答えが出ないなんて本人に聞かれたら泣かれそうだな。
答えは五位堂結だ。君の友達だろう?』
「完全に桂馬くんのペースだね」
「情報を小出しにして続きを促させる事で話の主導権を握るというのはプレゼン等でも使われる手法だな」
「原作だとまともに会話するだけでも結構苦労してたのにね」
「原作では下手に出てたからな。本作だと対等……いや、やや上からの関係でのスタートだ。結からの事前情報が無かったらこんな真似は到底不可能だったな」
……翌日 屋上……
『屋上で食事というのもなかなかに乙なものですね。
桂木さんはいつもここなのですか?』
『ああ、雨の日とか以外はな』
『なるほど……あら? お食事はどうなさるのですか?
お弁当の類を持っているようには見えないのですが……』
『ああ、それなら……』
『神に~さま~~!!』
僕が返事をしようとした所でかのんが屋上の扉を開けて勢いよく飛び込んできた。
顔には満面の笑顔を、そして両手には多数のオムそばパンが握られている。1人で食べるには少々多すぎる量を。
『……ご覧の通りだ』
『なるほど……しかし、実の妹をこき使うというのは感心しませんよ?』
『僕の分も買ってくるとか叫びながら止める暇すらなく突っ走って行ったんだよ……』
『……それなら仕方ないですね』
『あれれ~、どうしたんですかお2人とも。早く食べましょ~!』
「……お前、オムそばパンが絡む時だけはエルシィ並に見えるな」
「ちょっと!? どういう意味かなそれは!?」
「そのまんまの意味だ」
『っっ!? こ、これは……!』
『どーですか、結さん!!』
『……素晴らしいです。所詮は100円で売られているのでコンビニのパンとそうそう変わらないと勝手に決めつけていました。
しかしっ! 卵と焼きそばに絡みつきパンに浸透するこのソース! これはそこらの市販品とは一線を画するものです!
私は……私は今までなんと勿体ない事をしてきていたのでしょうか!!』
『分かってくれましたか、結さん。今度から一緒にオムそばパンを食べましょう!!』
『……何だコレ?』
「……やっぱり何か変な魔術かかってるんじゃないのかこれ?」
「きっとそうだよ! だから私の行動も普通の反応なんだよ!!」
(魔力も理力も身体を巡らせている今の歌姫なら軽度の精神操作くらい無意識で弾けそうなものだが)
……放課後 美生の家……
『っ! だ、誰!?』
『僕だ』
『いや、誰よ!? って、昨日のあんたか』
『その通りだ。今日は例の僕の妹も連れてきたぞ』
『妹ぉ? そう言えば昨日言ってたわね』
『君の秘密を知っている最後の1人だ。君も直接言葉を交わした方が安心できるだろう?
……そういうわけだからせめて顔だけでも見せてほしいんだが』
『っ! ダメよ!』
『? 何故だ? 鍵を開けるのが嫌でもチェーンロックくらいあるだろう?
……あるよな?』
『そのくらいあるわよ!! でもダメ!!』
「流石にチェーンロックくらいはあるらしい」
「チェーンロックって大抵の玄関のドアには付いてるけど、何か法律か何かで決まってるのかな?」
「軽く調べてみたが、法律で決まってるかどうかまでは分からんな。
ただ、調べてみてる最中にチェーンロックをアッサリと解錠するような動画なら見つけたぞ」
「え〝」
「型式によっては一瞬で解除できてしまうようなものまであるようだ。過信は禁物だな。
まぁ、この時の美生には扉を開けられない別の理由があったわけだから関係ない話だが」
『……制服が汚れた?』
『はぁ? 何を言ってるのよ』
『違うか。では怪我をした』
『っっ!?』
『当りのようだな』
『けっ、けけけ怪我なんてしてないわよ!! ただちょっと転んで捻っただけよ!!』
「確かにそれなら扉のスキマすら開けられないね」
「プライドの高いお嬢様であらせられるからな。
ありがちなシチュを適当に並べてみたが、上手いこと引っかかってくれて良かったよ」
……桂馬が湿布を買いに行った後……
『では改めて、薬局に走って行ったのが私のお兄様の桂木桂馬、そして私がその妹の桂木エルシィです!』
『ふーん、何か妙な名前ね。『えるしぃ』ってどういう字を書くのよ』
『そのまんまカタカナですよ~。
明らかに和風じゃない名前なのは……気にしないで下さい』
確か設定上は桂馬くんのお父さんの隠し子なんだよね。その設定を遵守するなら、お母さんが外国人で普通に外国風の名前を付けて、その後に名字だけを変えたってとこか。
あれ? そうなるとエルシィさんってハーフなのかな。あくまで設定上の話だけど。って言うか本当はハーフどころか完全に外国人だけど。
「隠し子か。そう言えばそんな設定あったな」
「学校の誰も知らない設定だと思うけどね。
エルシィさんが桂馬くんの妹である事は周知の事実……いや、事実ではないけど、周知されてるね。
ただ、それがどういう受け取られ方をされているのかまではちょっと分からないね」
「僕の誕生日が6月6日で、エルシィの誕生日が3月14日だったな。
1人の人間が産んだとするのは少々厳しいか?」
「9ヶ月か。健康に悪そうだけど理論上不可能ではないかな?
ただ、突然転校してきた上に名前が名前だから普通の妹とは受け取られてないだろうね」
……その後……
『というわけで、上手く行けば明日にでも駆け魂は出てくるよ』
『早すぎだろ。エルシィが帰ってくるのって確か5日後だよな?』
『うん、どうしようか。私単独での駆け魂撃破なんて多分絶対無理だよ?』
『僕も同意見だ。しかし、ズルズルと引き伸ばすのもなぁ』
「この辺ではお互いにエルシィの正体が暗黙の了解になっているな」
「そう言えばそうだったね。
今までの撃破が多分女神様の力だったんだろうってなってるね」
……で!……
『どなたですか……って、桂馬君!?』
『邪魔するぞ。とりあえずお前の部屋で良いか』
『えっ、あ、あの、ええええっっ!?』
『お邪魔します』
『……あ、西原さんも一緒なんだね』
「エルシィの力が使えないなら別の女神を頼るまでだな」
「そうなるね。当時居場所が判明してたのはディアナさんだけだっけ」
「アポロもまだ出てきてないし……そうなるな」
『僕が駆け魂攻略をしているのは以前教えたよな。
今回ももう少しで終わりそうなんだが……駆け魂を出した後に止めを刺す奴が今不在でな。
女神なら駆け魂を消滅させるくらいできるんじゃないかと思ったんだが……どうだ?』
『消滅……ですか。
確かに、多少力も戻っているので不可能ではないかもしれませんね』
『消滅まではいかずとも弱らせて動けなくするだけでも問題ない。
もうしばらくしたらエルシィも帰ってくるからな』
『……分かりました。そういう事でしたら協力させて頂きます。
しかし、条件があります』
『そう来たか。何だ?』
『今度の週末、天理と一緒に遊園地に行ってください』
『遊園地だと?』
『はい。鳴沢市にあるデゼニーシーという場所です。天理と2人っきりで過ごして下さい』
『ディ、ディアナ!? そ、そそそそれってまさか、デデデデートっ!?』
「デート……う~ん、微妙に妥当だから反応に困るよ」
「ディアナであればこのくらいの要求はしてくると判断したようだ。
原作でも天界や冥界が関わる大事な話をする時にデートしようとするような奴だからな」
「天界とデート、どっちが大事なのかな……?」
「筆者としてもデートが『復活する為の手段』であるなら納得できなくはないんだが……あいつ、完全に私情を挟んでいたよな。
まぁ、そんなわけで本作では対等な取引の結果によりデートに行く事になった」
「駆け魂狩り失敗の代償が命である事を考えると貰いすぎな気がしないでもないね」
「逃したら即死ってわけでもないしな。
あと、他にもハクアに勾留を頼むとかいう手もあったな。
そのくらいの貸しはあるはずだ」
『あっ、天理! 今です! アレを!』
『あっ、そうだ! あの、桂馬君、その……』
『ん? まだ何かあったか?』
『その……け、携帯の番号を教えてくれないかなって……』
『携帯? 悪いが僕は持ってないんだ』
『……えっ?』
『桂木さん!! 天理がせっかく勇気を出して頼み込んだのに、どういう事ですか!!』
『そう言われても持ってないものは持ってない。
メールアドレスならあるが?』
『あっ、それじゃあ……お願い』
『ああ。携帯貸してくれ』
「何で今更になってわざわざ……?」
「筆者がふと思いついたから入れてみたらしい。『あれ? こいつら連絡先交換してないよな……?』と」
「妙に律儀だね」
「連絡先が分かってると執筆する上でもスムーズに進められるらしい。
いくら隣の家とはいえいちいち呼びにいくのも面倒だからな」
……翌日 美生の住んでいるアパート前……
『というわけで、結を連れてきたぞ』
『どういう訳よ!! って言うか何で連れてきてんのよ!!!』
『え? だって君は言ってたじゃないか。
『絶対連れてこないで!』って』
『そう言ったわよね!? 確かにそう言ったはずよね!?』
『うん。だから、連れてこいって意味だなと』
『ふざけんじゃないわよ!! このスットコドッコイ!!』
『ご、ごめんなさい美生さん……私はそこまで嫌われていたのですね……』
『えっ? い、いや、そういう訳じゃないけど……』
『気を遣わなくても良いのです。私、無神経な事を言ってしまいましたからね。
本当にごめんなさい、ごめんなさい。
私はもう二度とここに来ません。さようなら、美生さん……』
『んなっ!! あーもう!! 待ちなさい結!!』
「結さん、役者になれるよ」
「本作の結は何故か非常に有能だからな。
原作でも有能ではあったが。それこそ僕を困らせる程に」
「……そう言えばそうだったね。
やっぱり今度岡田さんに紹介しよう」
『……私は、あなたのお父様の事をそこまで良く存じているわけではありません。直接話した事も殆どありませんからね。
ただ、凄く仲睦まじい父娘だったという事だけは存じております』
『…………』
『だから、有里さんと一番仲が良かった美生さんが『生きている』と仰るのであれば、きっと生きているのでしょう』
『……え?』
『美生さんが生きていて、有里さんが生きていると言い続けるだけで、それだけでもきっと生きているのではないでしょうか?
どんな形でも構わない。あなたが存在するだけであなたを通して有里さんを知る事ができる。感じる事ができる。
よく思い出してください。あなたがお父様から学んだ事は『社長令嬢』だけなのですか?
あなたが尊敬したお父様は『社長』を取ったら何も残らないのですか? そんな事は無いでしょう?
あなたの存在そのものが、有里さんが生きた証であり、有里さんが生き続けている証明なんです!』
「人が死ぬ時、それは誰からも忘れ去られた時。
……っていうのは誰の台詞だったか」
「美生さんのお父さんはもう居ない。けど、決して死んではいない、か」
「原作では『死んだ人間に囚われずに自身の人生を生きろ』というのが結論だったわけだが、それとは対照的だな。
ただ、どちらが正しいというものでもないな。死者の遺志に囚われずに生きるのも、死者の信念を支えに生きるのも人それぞれだ」
『そしてもう一つ、言わせてください!!』
『な、何よ……』
『どうして、私たちを頼ってくれなかったのですか?
私も、うららも、あなたの友達です!
悩む前に、苦しむ前に、どうして相談してくれなかったのですか!!』
『えっ、で、でも私は……その……』
『まさかとは思いますが、没落して貧乏になったから等という下らない理由ではないでしょうね?』
『うぐっ!』
『お母様ならまだしも、私たちがお金で相手を選ぶとお思いですか?
馬鹿にしないで下さいよ!!』
「この話の流れなら間違いなく白鳥うららの名前が出てくると判断して入れてみたらしい。
そう言えば僕達は結局会ってないんだな」
「過去編にしか出てないもんね。
今頃はどうしてるのかな?」
「原作25巻を見てみると背景にうららと思しき女性の写真が存在している。
そして、その写真の背景には星条旗、すなわちアメリカの国旗が入っている。
つまり、アメリカに海外留学していると考えるのが妥当だな。それこそ宇宙飛行士にでもなる為に。
……なお、筆者は読者からの指摘を受けてようやくこの写真に気付いたらしい。観察力が足りないな」
「へぇ。わざわざ海外まで行くなんて、凄い熱意だね」
「10年前はゲーム叩きつけたり家からエロ本持ち出してくるようなクソガキだったのにな。凄い進歩だ」
「く、クソガキは言いすぎじゃないかな……?」
「……ちなみに、原作ではお互いに6歳か7歳だったとはいえ『裸を見せろ』と服を剥ぎ取られかけたんだが」
「…………許せないね! 桂馬くんは私のものだよ!!」
「決してお前のものではないが、理解してもらえたようで何よりだ」
『……はぁ、私があんたに励まされる日が来るなんてね。隅っこの方で寂しそうにしてたあんたに』
『む、昔の事はあまり言わないで下さい……』
『……ありがと』
『あれ? いつも素直じゃない美生さんがお礼を……? も、もう一度言って頂けますか?』
『何でそうなるのよ!! 私がお礼言っちゃ悪いの!?』
『じょ、冗談ですよ。でも良かったです。
やっと、笑ってくれましたね。美生さんにはやっぱり笑顔の方が似合いますよ』
『んなっ!! な、ななな何言ってんのよ!!』
『本音を言っただけですよ』
「結さんがギャルゲーの主人公みたいな事言ってるね」
「男装してなくてもギャルゲーの主人公は務まるらしいな。
いや、それは決してギャルゲーとは呼ばないが」
「原作でもプレイヤーみたいな事してた、と言うかプレイヤーキャラそのものだったけど……多少キャラを変えてもそこは変わらないんだね」
『そうだ。有里さんにお線香を上げさせてもらっても宜しいでしょうか? お葬式の時以来なので』
『あ、なら僕も上げさせてもらおう』
『ちょっと待ちなさい。結はともかく何であんたまで? あんたはうちのパパの事知らないでしょ』
『確かに知らないが、君を見てれば立派な人物だった事くらいは分かるさ』
『えっ? そ、そう……それなら良いわ。勝手に上げなさい』
結の説得をさりげなく補強してみるという打算的な考えもあるが、9割ほど本音だ。
死者が生きていた証拠……か。
人が死ぬ時、必ず何かを残していくのかもな。
……あいつが消えた時も、何かを残していったのだろうか?
「あれ? 誰か桂馬くんの身近でお亡くなりになった人って居たっけ?
ま、まさか桂馬くんのお父さんが隠し子の件で麻里さんの逆鱗に触れて……」
「ちゃんと生きてるから安心しろ。
これは……お前の事だ」
「えっ? あの、私、死んでないよ?」
「記憶が無くなるっていうのは死んだも同然だろ?
あの日、デゼニーシーで一緒に過ごした中川かのんはもう居ない。
……そう思っていたからな。
ま、実際にはしっかりハッキリ覚えていたようだがな」
「うっ、何というか……ゴメン」
「謝る事は無いさ。記憶が無かった事にしておいてくれたからこそ、僕もお前に気遣う事無く動く事ができた。
むしろお前の方こそ辛い思いをしただろう。その……ありがとな」
「……うん! どういたしまして。
……ところで桂馬くん。その居なくなってた私は桂馬くんに何か残してたの?」
「……さぁな」
「え~、誤魔化さないでよ~!」
『お疲れ、桂馬くん』
『最後はほぼ結の独壇場だったからあまり疲れてないけどな。
それより、ちゃんと討伐できたか?』
『うん。ディアナさんが一発で捻り潰してたよ』
『……流石は女神だな』
『自分で思っていたよりも力が戻っているようです。
天理と結婚してくれれば更に強くなれます』
『お前、隙あらば結婚を勧めるな……』
『当然でしょう。結婚とは愛が最高に高まった証、生涯添い遂げると誓った証です!
これ以上の『愛』は存在し得ないでしょう』
「あのディアナさんにしては良い事言うね」
「結婚、か。ギャルゲーだと大抵の場合はグッドエンド中のグッドエンドだが、
「えっ、桂馬くん、それはどういう意味かな?」
「何というか、ようやく下準備が終わってこれからって感じがする。
これまでも別につまらなかったわけじゃないが……これから楽しくなりそうな、そんな予感がする」
「そ、そっかぁ。良かったぁ……
でも、確かにそうだね。これは終わりじゃない。新しい始まりだから。
私も全力で楽しむよ。桂馬くん」
……後日……
『確認してきたよ。結さんはほぼバッチリ覚えてた』
『やはり、そうか。
結の記憶は失われなかったんだな?
と言うことは……』
『麻美さんの妹、郁美さんの記憶もほぼそのままの可能性が高いね』
『ああ』
「この辺は読者にも少し突っ込まれてたな。
郁美の記憶があまり操作されてないのって実は原作……と言うか小説版の通りなんだよな」
「詳しくは小説版1巻で! って言う宣伝はさておき、どうなのこれ?
記憶消去の担当……この場合はドクロウさんか。ドクロウさんの手抜きじゃないの?」
「そうだな……もうちょいしっかりとやるべきだったんじゃないかとは思う。
この手抜きのおかげで麻美の方から接触してきてくれて助かったけどな」
『そう言えば、そろそろ体育祭だね。桂馬くんは……』
『当日に腹痛と頭痛と喉の痛みと高熱に襲われて休む予定だ』
『……凄い予定だね……』
「仮病で休むにしても何もそこまで盛る必要は無いんじゃないかな?」
「あからさまな嘘の方が逆に嘘だと疑われにくいからな」
「そんな小細工で騙されてくれるのかな? あの二階堂先生が」
「……それに、病欠なら記憶を持っている女神の宿主がお見舞いに来るかもしれないからな」
「あ、確かに。それは有り得るかも。
十中八九仮病でも万が一があるからね」
「ああ。今考えたにしては中々上出来だろ?」
「今考えたの!? 台無しだよ!!」
「この辺で終わりのようだな」
「次回は……天理編って言えば良いのかな?」
「今回の駆け魂狩りの条件として出された天理とのデートだな。
その呼び方でも問題は無いが……うちの筆者は『純真の女神編』と呼んでおいたようだ。
ディアナ復活回だからな」
「それでは、次回は純真の女神編、『特異点』をお送りします!
って、これってどういう意味なの?」
「原作において、これから天界と冥界についての大事な話をしようとした時にディアナから指定された重要な場所だからな!」
「……つまり、深い意味は無いの?」
「いや、あくまでも元ネタが原作のネタというだけであってそこそこ重要な特異点ではあるようだ。
お前との攻略デートもここだったとかな」
「う~ん、分かったような分からないような……まあいいや。
それでは、また来週~!」