「はいどうも皆さんこんにちは! かのんです!
第26回キャラコメンタリー始めます!」
「楠編だな。
確か攻略の自覚が無いままに終わってた回だったな」
「そうだったねぇ……」
「あと、筆者の悪ノリが加速した回でもあるな」
「……そうだったねぇ……
それじゃ、VTRスタート!」
始まりは、岡田さんに告げられたある言葉だった。
『護身術……ですか?』
『ええ、護身術。
最近物騒だから、そういうのの心得を学んでおきましょうっていうのが流行ってるのよ』
『どこからそんなものが? と言うかそんな事やってたらアイドルに物騒なイメージが付いてきませんか?』
「筆者さんは一体どこからこんな発想を引っ張り出してきたんだろう……」
「そうだなぁ……
確か、美生編を引いた時点で檜編がカットされる可能性が浮上して……
その辺の段階で女神編導入の流れを組み立てて……
…………お前がフィオーレを倒す為の理論武装を組み立ててる最中に思いついたようだな」
「……悪魔を単独撃破って、我ながら凄い事やってるね……」
「この章ではスタンロッドとか買ってたみたいだが、それもフィオーレを倒す為に用意したようなものだからな。
しっかりと武装して、魔力と理力の力を得て、武術の基礎を身につけてればまぁ楽勝だろうと判断したようだ」
「うわぁ……」
「ちなみに、フィオーレを返り討ちにして捕縛する事はストーリー上の必須イベントではない。せいぜい手傷を追わせて追っ払うだけでも十分だ。
その程度で満足しなかったのは……やはり筆者の自己満足だな」
『何をとぼけた顔してるの。あなたいつもスタンガン持ち歩いてるでしょ』
『あ、アンタそんなもん持ち歩いてるの!?』
『えっ? そうでだけど……こんなのちょっとしたアクセサリーだよ。武装だなんてとんでもない』
『どこの界隈にそんな物騒なアクセサリーがあるのよ!!』
「まったくも~、棗ちゃんも大げさだよね」
「いや、スタンガン持ったアイドルとか明らかに物騒だぞ?
護身用に持っておく事自体は否定しないが、ちょっとした事で振り回すのは言語道断だ」
「そ、そんなっ! 桂馬くんの事だけは信じてたのに!!」
「信じてるからこそ変だと思った事は率直に言うべきだな。
その程度で亀裂が入るような脆弱な関係ではあるまい」
「それはそうだけど……う~ん……本当に大したものじゃないんだけどなぁ……」
『ただ、一つ興味深い情報があってね。
その道場の当主がなんと女子高生らしいのよ』
『それは……随分と珍しいですね。ご当主が、ですよね?』
『ええ。しかも、舞島学園に通ってるらしいわ』
『舞島学園? どこかで……
って、まさかかのんが通ってる学校ですか!?』
『その通り! というわけでかのん?』
『はい?』
『ご当主本人に何とか話を付けられないかしら?』
『……あの、岡田さんなら分かってる事だと思うけど一つ言わせてください』
『何かしら?』
『いくらご当主本人と話した所で結果は変わらないのでは……?』
『それはそうだけど……ダメ元で良いから、やってみてくれない?』
『はぁ、まあいいですけど……』
「こうして楠編に至ると。
色々と強引な所はあるがな」
「そう言えば、読者さんからの感想で『木梢町まで探せば丁度いい道場があった』っていうのがあったね」
※木梢町
若木先生の神のみの1つ前の連載作品である『聖結晶アルバトロス』の舞台となる町。
主人公の母親が道場の主……だったハズ。
アルバの世界は神のみとかなのはとかKOIとかと違ってガチガチのバトル物なので不用意に行ったらエラい事に巻き込まれてた可能性もある。
まぁ、それはそれで鍛えられたかもしれないケド。純粋な金属の敵とか電気を凄く良く通しそうだし。
う~ん、でも通しすぎると逆にダメージ低くなるかな。モノバイル達に電気が効くのか……う~ん……
※更に補足
アルバトロスで出てくる異世界の生命体『モノバイル』は設定上は単一元素により身体が構成された生物。
そんな連中がどうやって生命活動をしているのかは非常に謎だが……塩素のモノバイルが気体の身体を生かした攻撃をしてきたりしてるので比喩表現とかではなく本当に単一元素の生命体っぽい。
また、周期表を見れば分かるように単一元素の物体なんて殆どが金属なので電気を非常に良く通す。
……どうやって生命活動してるのかがそもそも謎なので電気なんて効かないかもしれないけど……良く通すのは間違い無いだろう。多分。
というわけで、明日は学校に行って春日さんと話してみる事になった。
あと、折角だから授業も出席しておきなさいとこ事だ。授業を受けられるのは久しぶり……でもないか。私名義では久しぶりだけど。
で、春日さんについてだけど……うちの学校の3年生であるという情報しか分からない。
明日学校で聞き込みをする事もできるけど、それだけに頼るのは不安だし、そもそも私じゃ満足に聞き込みできるかも怪しい。
なので……こうする事にした。
『もしもし?』
『もっ、もしもしっ!? か、かのんちゃんどうしたの!?』
『ちょっと教えてほしい事があって電話させてもらったんだ。今大丈夫?』
『うん! 全然完璧に大丈夫だよ! 私に分かる事なら何でも訊いて!!』
「ちひろ……まぁ、ちひろか」
「連絡の取れる人では一番適任だったよ。
師匠の事を知ってるかは分からなかったけど……ちゃんと知っててくれたみたいだね」
「そうらしいな。しっかしまぁ、何か凄く緊張してるな」
「できれば自然体で接してほしいんだけど……こればっかりは慣れてもらうしかないか」
……翌日 昼休み……
『はぁ……騒がしいな』
『かのんちゃんが来てるからトーゼンでしょ!』
「独り言に目敏く反応してきやがる」
「ちひろさんは席も近いからね。いいなぁ……
私も桂馬くんと仲良く学校生活を送ってみたいよ」
「アイドルである限りまず無理だろうなぁ……たまにエルシィになるくらいで我慢しておけ」
「そうするよ……」
……昼休み 屋上にて アポロとの会話……
『お主らのクラスのアイドルについてじゃ!』
『……あいつがどうかしたのか?』
『うむ。あの者じゃが……妙な気配を感じるのじゃ』
『妙?』
『そうじゃ。妾の勘違いでなければ冥界の魔力と天界の理力の両方を感じたのじゃ』
『理力? ああ、魔力の天界バージョンみたいなものか』
『そんな感じじゃな。どうじゃ? 凄く妙じゃろう?』
『ふむ……』
「かのんから理力を感じさせたのは筆者によるミスリードという面も大きいが……理力精製しない合理的な理由が思いつかなかったからでもある。
魔力が作れるなら理力も作れる。天界と冥界に格の違いは無いだろう、と」
「確かドクロウさんから送られたペンダントが精製の触媒? になってるんだよね」
「最初にマイクでかのんの性質をある程度読み取り、それを基に調整したデバイスがペンダント……という結局語られなかった設定があったりする。
更にそのペンダントも学習能力を持たせて最適化を繰り返すとかいう無駄に凄い設定になってる。
まぁ、ドクロウなら……と言うか地獄の技術ならそのくらいは楽勝だろう。多分」
「わ~、地獄って凄いな~」
「あと、別の理由でも理力精製は必須だな。
センサーとか箒とか、僕もお前も使ってるからな。
理力が使えないと動かないはずだし、動かなかったら何で動かないって話になるからな」
……放課後 女子空手部……
『ふぅ、ん? 誰だお前は』
『初めまして、中川かのんと申します。
あなたが春日楠さんでしょうか?』
『ん? ああ、そうだ。私に何か用か?』
『はい。今、お時間はございますか?』
『そうだな……休憩には少し早いが、まあ良いだろう。話を聞こう』
『ありがとうございます。では……』
『そういうわけなのですが……どうかご指導頂けないでしょうか?』
『……なるほど、事情は分かった。
確かに、強くなりたいのであれば私のもとへと訪ねてきたのは正解だ。
だが、身を守れれば良いという程度の中途半端な心構えの者に指導をするつもりは無い』
『やはりそうでしたか……お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした』
「案の定だね」
「『本気で強くなりたい者』なら誰でも受け入れるだろうが、そうでない者は受け入れないだろうな」
「と言うか、春日流をしっかり学んだら護身程度じゃ済まないよね……」
「…………まぁ、そうだな」
『……待て、お前は先ほど春日流を選んだ理由に『武器の取扱いも学べるから』と言っていたな』
『え? はい、そうですけど……』
『見たところ、武器の類は持っていないように見えるが……これから用意するつもりなのか?
もしそうなら、あまりお勧めはできないぞ』
『えっ、どうしてですか?』
『素人は武器を持つと強くなる等とよく勘違いをする。絶対的な間違いとも言いきれないが、慣れない武器は逆に自分を傷付けてしまう事の方が圧倒的に多い。
それに、武器を使うと痛みが伝わってこない』
『痛み?』
『ああ。拳で殴るのであれば拳にも痛みが伝わる。しかし、武器を使うとあまり伝わってこない。
そうなると、段々と『相手を傷つける』という感覚が希薄になっていくものだ。
あくまで護身に使う程度であれば重篤な症状にはならないだろうが、避けておく方が賢明だ』
「教えることはしなくても、こういう気遣いはしてくれる良い師匠だよ」
「武器を装備して弱くなるわけが無い! と言いたい所だが、護身が目的であればそういう考え方もアリだな。
武器を持つ事が全てではない。素手だと回避ボーナス付いたりするしな」
「……そーゆー問題じゃないと思う」
『その……私、一応今武器を持ってきてるんですけど……』
『何? そうは見えないがどこにあるんだ?』
『えっと、ここに』
『なっ!? ななな何だそれは!? と言うか、どこから出した!?』
『スタンガンです。どこから取り出したかは……アイドルのヒミツです♪』
『スタンガン……ああ、なるほど。そういう事か。
しかし……何だその軟弱なデザインは!!』
『え、軟弱……? 確かに武器には見えないですけど、それが売りの商品ですから』
『売り、だと? その軟弱さが……?』
『え、ええ……はい』
「武器……武器なぁ……」
「一応武器だよね。アクセサリーみたいなものだけど」
「いや、紛れもなく武器だ。猫型にしてカモフラージュした所で紛れもなく武器だからな?」
「も~、桂馬くんは大げさだな~」
(……重症だな)
『……気が変わった。少し手ほどきしてやろう』
『えっ? 良いんですか?』
『ああ。そういう武器相手の立ち回りも少し鍛えておきたいしな』
『そうですか……分かりました。宜しくお願いします!』
「この時に引き受けてくれたのは師匠が『
「そういうコトだな。まぁ、言葉通りの理由もあったようだが。
割合としては半々くらいか?」
「スタンガン相手の立ち回りかぁ……そんなのまでしっかり研究しようとする春日流って一体……」
「……春日流だからな」
……翌日……
『ふんっ、では、お前がどれだけ動けるか試そう。
私は一切反撃しないから、スタンガンを全力で私に当ててこい。勿論電気は流すなよ?』
『えっ、大丈夫なんですか? 金属部分が当たるだけでも結構痛そうですけど……』
『素人の攻撃を躱すくらい造作もない。さぁ、やってみろ』
『そうですか……分かりました。
では、行きます!!』
慣れてる動作でスタンガンを取り出し、全力で当てる。
しかし、当たる直前に腕がほんの少し引っ張られたかと思うと次の瞬間には床で仰向けになっていた。
『えっ、あれ?』
『っ!! すまない、つい手が出てしまった。大丈夫か?』
心配そうな顔をした師匠から手が差し伸べられる。
どうやら投げ飛ばされたようだ。
『……師匠、反撃しないんじゃなかったんですか?』
『それに関しては本当に済まない。お前の攻撃に脅威を感じて反射的にやってしまった』
「師匠ったらお茶目だよね~。私なんかの攻撃が脅威になるわけないのに」
「特に何の強化も無しで樹木をヘシ折る一撃だからなぁ……
いや、アレは流石にギャグ描写なのは分かってるが、スタンガンを振り慣れてる時点で既に逸般人だ」
「またまた~」
「……どうしよう、かのんがボケ過ぎてコメンタリーにならない」
(……歌姫の素の状態であっても、桂木より体力や腕力があるというイメージで書き進めていたようだ。
理力精製と魔力精製を同時に行い、低効率とはいえ無意識に身体強化をしていたわけだから……当然、脅威を感じる)
「つまり、犯人はドクロウさんだね!」
「間違ってはいないのか……?」
『では、次は私も反撃する。後遺症が残るような怪我をさせるつもりは無い。
……が、先ほどのように反射的にやってしまう可能性までは否定できない』
『えっ、大丈夫なんですかそれ……?』
『……死にたくなければ、自力で何とかしろ。
では行くぞ!』
『え、ちょっ、いきなりぃっ!?』
……その後、窮地に追いやられた私はスタンガンを投げつけて作った隙を突いてもう一つのスタンガンで師匠を気絶させる事で難を逃れた。
はぁ……死ぬかと思った。何度うっかり飛行魔法を使いそうになった事か。訓練、やっぱり止めた方が良いんじゃなかろうか……?
(……そんな歌姫とまともにやりあえるこの武道家は異常だ。間違い無い)
「もうちょっと私を褒めてほしい。かなり頑張ったんだよ!!」
「……素朴な疑問なんだが、人に向かって躊躇無くスタンガンを振り回せるならそこらのチンピラなんて相手にならないよな?
そもそも護身術を習う意味があるのか?」
「うわ~ん、桂馬くんがいじめる!!」
(妥当な疑問だな)
「メルクリウスさんも嫌いだぁ!!」
……更に翌日 放課後……
『本日も宜しくお願いします!』
『来たか。昨日は不覚を取ったが今日はそうは行かんぞ。
さぁ、来るが良い!!』
『ちょ、ストップ! ストップです! まだ着替えてないし、昨日の続きなんてやってたら命がいくつあっても足りませんよ!!』
「師匠の方も完全にスイッチが入っちゃってるよ……」
「大丈夫大丈夫。お前なら勝てる」
「魔力と理力を使いこなせてる今なら普通に……何とか勝てるだろうけど、当時は流石に無理だよ……」
「……ちょっと待て、強化したにも関わらず『何とか勝てる』レベルなのか?」
「桂馬くん、だって、師匠だよ?」
「…………そうか」
『……どうしたんですか、師匠』
『ハッ! な、ななっ、中川!? 起きていたのか!?』
『はい、たった今……どうしたんですか? そんなに慌てて』
『ななな何の事だ? わ、私は別に慌ててなど……』
ニャ~
『……猫、居るんですか?』
『な、何の事だ? 私には鳴き声なんて全く聞こえなかったぞ?』
「猫だな」
「猫だね。
可愛いものが好きな師匠にはクリティカルヒットしてるよ」
「みたいだな。反応がエルシィ並……いや、エルシィよりも酷くなってる。
そう言えばこの猫は今どうしてるんだ?」
「えっと、女子空手部で飼う案もあったんだけどお世話とか大変だから結局野放しになってるよ。
私たちが訓練してるとちょくちょくやってきて私たちの事をのんびり眺めてるよ」
「実はお前たちの動きを観察して学んでたりしてな」
「あはは、まっさかぁ~」
※
後にあのネコは自然界最強のネコと呼ばれる事になったとかならなかったとか……
『……お前は、さっきのを見て何も思わなかったのか?』
『と言いますと?』
『……私は武道家だ。武の道というものは険しい道だ。
修行を1日休んだらそれを取り戻すのに1日では足りない。休む間も無く、脇目も振らず進みつづけ、それでも武の頂に辿り着ける者はほんの一握りだ。
だからこそ! あのような軟弱なものと戯れて時間を潰すなど……あってはならないのだ!!』
『……でも師匠、凄く良い笑顔だったような……』
『そんな事は有り得ない! あったとしても気のせいだ! 忘れろ!』
「難儀な性格だな。やりたい事は我慢せずにやれば良いものを」
「自由過ぎるのもどうかとは思うけどね。
桂馬くんは丁度いいバランスで頑張ってるよね。駆け魂攻略も、自分の趣味も、どっちも全部達成してた」
「どこがだ!! 今も僕の家には大量の積みゲーが残っているんだぞ!!
全っ然達成できてないっ!!」
「……まぁ、その……うん。立派だよ」
『師匠は、どうしてそんなに強くなりたいんですか?』
『……私が『春日流羅新活殺術』の伝承者だという事はもう知っているんだったな?』
『はい』
『では、それがどのように受け継がれるかも知っているか?』
『いえ、そこまでは流石に調べてないです』
『なら、そこから説明しよう。
我が春日流では基本的には長男が流派の名を継いでいくのだ』
「この辺の設定は筆者の捏造だが、さほど間違ってないだろうな。
正確には、子供の中で一番強い奴が継承するルールで、その強い奴が大抵は長男だという話だが」
「あの春日流だもんねぇ……弟の下克上とか普通に起こりそう」
「だからこそ、『基本的には』なわけだな。
……後継者で揉めたら決闘とかしそうだな」
『ともかく、姉上は道場を出て行った。そして、私に他の兄弟姉妹は居ない。
だから、私が春日流を継がねばならなかった。私が強くあらねば、春日流は終わってしまう。
……これで、質問の答えになっただろうか』
あ、そうだった。お姉さんのインパクトで忘れてたけど、これって私がした質問『どうして強くなりたいか』に対する回答だった。
流派を継ぐ為に、流派を終わらせない為に、強くなければならない……か。
でも、これって質問の答えになってないよね。私の質問は『強くなりたい理由』で、師匠の回答は『強くならねばならない理由』だ。
「お前の師匠が語った理由は『必要性の理由』だったわけだが……それとは別に純粋に強くなりたいとも思ってるんだろうな」
「そうだねぇ……100%の義務感だけで修行してるわけじゃないと思うよ。
そうじゃなかったらとっくに逃げ出してるか壊れてるんじゃないかな」
「そういう意味ではある意味幸せだったのかもな」
「かもね」
『……って感じなんだけど、どう思う? 桂馬くん』
『お前、駆け魂攻略でもないのに妙な事に首を突っ込んでるな……
と言うか、何を悩んでいるんだ? そんなの簡単だろう』
『えっ、そう?』
『ああ。おそらくは非常に簡単な事だ。
確認の為にいくつか質問させてもらうぞ』
『うん』
『その師匠はうちの学校の先輩で、スラッとした背の高い黒髪ロングの美人だと言っていたな?』
『うん』
『……その時点で100%の完全な武道家と言えないだろ』
『えっ? どういう事?』
『お前もアイドルやってるなら、見た目に気を遣ってるなら分かるだろ? 髪の手入れってのはそんな簡単なもんじゃないし時間もかかる。それなのに髪を切らずに伸ばしてる時点で武道家としては怠慢だろう』
『た、確かにそうだね……』
『それにだ、武道一直線なら学校に通う必要すら無いだろう?
姉とやらが出奔したのはその師匠が中1から中2になる頃だったらしいな。1年くらい経っても姉が帰ってこなかったらそいつが道場を継ぐとかいう話になるはずだ。
跡継ぎになる事が決まった頃にはもう高校生だったとかならまだしも、その時期なら受験せずに道場に籠もる選択もできたはずだ』
『……確かに、そう考えてみると師匠の行動って無駄だらけだね』
「……もし師匠が武道一直線の効率厨だったら一体どうなってたんだろう?」
「まず、髪は丸坊主だろうな。いや、髪を武器に使う事もあるのか?」
「一体どうやって使う気……?」
「先端を結んで振り回すとかな。
他にも、髪の中に暗器を仕込むとかの使い方も可能だ。
まぁ、大抵は邪魔なだけだから潔く丸坊主にした方がメリットは大きそうだが」
「……どう転んでも酷い絵面になりそうだね。
ところで、ふと気になったんだけど……桂馬くんはどうして学校に通ってるの?」
「……母さんが、うるさいからな」
「…………そっかぁ。お義母さんに心配をかけないようにって事だね。流石は桂馬くん!」
「待て、どうしてそうなった。と言うか何かお母さんの発音が変じゃなかったか!?」
「大丈夫だよ! 私には桂馬くんの良さはちゃんと分かってるから!」
「絶対分かってないだろ!!!」
……更に翌日……
『昨日の話では、かわいいものと関われないのは『時間がもったいないから』って事でしたけど、実は違うんじゃないですか?
時間なんて関係ない。ただ単純に『かわいいものと関わってたら自分が弱くなる』とか、そんな感じの事を考えてたんじゃないですか?』
『っ、あ、ああ。その通りだ。軟弱なものと関わっていて、強くなれるわけが無い!』
『……師匠、バカですか?』
『な、何だと!? どういう意味だ!!』
『だって、バカでしょう。『かわいい』という事の何たるかを知らない師匠がどうして『関わると弱くなる』なんて断言できるんですか。
むしろ強くなれるかもしれませんよ?』
『そ、そんな事あるわけが無いだろう! バカバカしい』
『どうしてそんな事が断言できるかと言っているんですけど……このまま行くと議論は平行線になりそうですね。
というわけで、準備して来ました』
『準備だと?』
『はい。校門の前で待ってもらってるんで行きましょう』
『ちょっと待て、一体何を……』
『行ってからのお楽しみです♪』
で!
『……おい中川』
『何ですかぁ?』
『……このヒラヒラした服は何だ! と言うかここはどこだ!!!』
新品のアイドル衣装を身に纏った師匠の叫び声が、私が普段使ってるレッスン場にこだました。
「『武道家系アイドル……イケる!』とは岡田さんの談だよ」
「商魂逞しいな」
「原作だとここまでじゃなかったと思うんだけど……スピンオフの方の岡田さんにかなり引っ張られてるね」
「本作の設定がそもそもスピンオフの派生だからある意味当然だな」
「おかげで色々やりやすい……っていうのは筆者さんの談だね」
……師匠視点……
少し待つと、ダンスのコーチとやらがやってきた。
無精髭を生やしたなんともやる気の無さそうな男だ。
『……で、えっと? 今日はかのんちゃんじゃなくてそっちの新人?
……あ~、まあ宜しく』
『宜しくお願いしますね』
(ちょっと待て)
中川に小声で話しかける。
(おい、アレが本当にコーチなのか?)
(言いたい事は分かるよ。確かに見た目は凄くアレだけど、コーチとしての実力は本物だよ)
(……本当か?)
(ホントホント。アイドル、ウソつかない)
(……仕方ない。やってやろうじゃないか)
「珍しく男性キャラが登場したね」
「コーチの役割を考えたら『いかにも舐められそうな感じの外見の奴』にした方が良いと判断したようだな。
雑な口調は男の方が書きやすいし、無精髭も生やせる」
「女性でも似たような事はできなくも無さそうだけど……」
「別に筆者は男を憎んでるわけじゃないからな。単に書きやすかったんだろう」
『ん~……動き自体は完璧。50点』
『な、何だと!? どういう事だ!!』
『んぁ? だから、動き自体は完璧だったからおまけして50点。
動きが悪かったらもっと下がってたよ』
『いやいや、動きは完璧だったのだろう? なら何故50点なのだ!!』
『はぁ……そっから説明せにゃならんのか』
「結論から言うと足りないものは笑顔だったわけだけど、これって元ネタがあるんだったよね?」
「ああ。『ラブライブ!』が元ネタだ。
軽い思いつきでアイドルになるだとかホザいていた主人公に対して親友が突きつけた課題が『笑顔を保ったまま腕立てしろ』だった。
お前にわざわざ説明するまでもない事だが、歌を歌いながらダンスまでして、その上で表情までコントロールするのは並大抵の事ではないな」
「わ~い、桂馬くんに褒められた!」
『師匠の言う『強さ』とはまた少し違うかもしれませんけど、ただお客さんに可愛く見せるだけであっても『強さ』は必要なんですよ。
だから、その……』
『……言いたい事は分かっている。
『軟弱なものに関わると弱くなる』というのは私の偏見だったようだ。
……すまなかった。お前の……アイドルという職業の事を侮っていたようだ』
『えっ? いえ、謝る事は無いですよ。そういう苦労を隠すのも仕事の一環と言えますし』
『そうなのか? だが、それでも謝らせてほしい』
『うーん……分かりました。私も今日は強引に連れてきちゃいましたし、それで差し引き0という事にしませんか?』
『いや、しかしそれも……まあいいか。分かった。感謝する』
『ええ。どういたしまして』
「そう言えば、アイドルらしさを前面に押し出した攻略も今回が初めてだったな」
「そうだねぇ。と言うか、『中川かのん』が攻略に参加する事自体が稀だよね。
桂馬くんと『中川かのん』には接点は無かったから」
「『西原まろん』と『エルシィもどき』なら何度も助けてもらったがな。
と言うか、そもそも攻略でもないんだよなこれ。お前の純粋な人助けであって」
「……そう言えばそうだったよ」
『さて、明日からまた修行に励むとするか。
……空いた時間に息抜きもしながら……な』
『あ、なら今度私のライブ映像でも持ってきましょうか? 今日のダンスよりもずっと難しいのを踊りながら歌ってる映像ですよ!』
『ふむ、それも良いかもな』
今日の放課後の師匠と比べて、今は心なしか穏やかな表情になっている気がする。
きっと、師匠はこれから武道家としても、女の子としても強くなっていくんだろうな。
最低限のお手入れしかしてないでこの容姿ならちゃんとお手入れすればどれほど伸びるんだろう?
そんな事を思いながらぼんやりと師匠を眺めていた。
……そして、何かドロドロした半透明のものが師匠から出てきた。
「……ホントビックリしたよ」
「何というか……お疲れ」
「ふぅ、これで終わりのようだな」
「次回は……体育祭編、スポーツフェスティバル編だね。フェスティバルロードの始まりだよ!」
「フツーに言えよフツーに」
「それでは、また来週~!」