もしエル キャラコメンタリー!   作:天星

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リミュエル編 欠落者達の理想論

「はいどうも皆さんこんにちは! かのんです!

 第28回キャラコメンタリー始めます!」

 

「リミュエル編、だな。

 時期としては体育祭の後であり、中間テストの前。一応原作と同じだな」

 

「それじゃあ行ってみよう。

 VTRスタート!」

 

 

 

 

  体育祭も無事に終わった。でも、お祭り期間はまだまだ続く。

  次の行事はプロフェッ……面倒だから普通に言おう。中間テストだ。

  その次が舞校祭こと文化祭だ。自由に見て回る時間があるかは分からないけど、それでも楽しみだ。 

 

  今日が体育祭明けの月曜で、来週月曜からテストが1週間あって、テスト終了から1週間後の週末に舞校祭。

  3週間後が楽しみだ。

 

 

 

「二次創作において『原作の設定をどの程度改変するか』というのは筆者の裁量に委ねられているわけだが……この辺の日程はあまりいじらなかったようだな。

 まぁ、単にいじる必要が無かっただけかもしれんが」

 

「舞高際が週末になるっていう地味な改変があるけどね」

 

「改変と言うより単なるミスだけどな。まぁ、分かりやすくて助かるが」

 

 

  ※

 原作ではウルカヌス編が日曜。同じ日にマルス編開始、翌日(月曜)にマルス編終了。

 火曜にミネルヴァ編開始、木曜朝に終了。

 同日にWお見舞いイベントからのちひろ編開始。金曜に前夜祭。ちひろ編終了。

 土曜にメルクリウス編開始と同時に舞校祭も開始。同日夜に終了。

 日曜に舞校祭終了、後夜祭。

 

 結論。舞校祭は土曜日と日曜日。

 

 

「…………あ、あれ?」

 

「…………結局何曜日だったんだろうと今確認してみたようだが……実はちゃんと週末だったんだな」

 

「いやいやいやいや、待って待って待って待って。ちょっと待って!

 遡ったらどうなるの?」

 

 

  ※

 原作ではウルカヌス編が日曜。

 前日(土曜)に多重下校イベント。

 金曜に5人同時攻略開始。

 木曜夜に同時攻略の覚悟を決める。朝には歩美やちひろに絡まれる。

 水曜にかのんが刺されて女神編が開始する。あとテスト終了。

 

 

「…………原作の桂馬くん、『女神を、一週間以内に見つける!!』とかキリッとした顔で言ってたよね」

 

「……顔は映ってないから表情は分からないが……まぁ、そうだな」

 

「……実際には最後の女神を出すまでに10日かかってたんだね」

 

「ま、まぁ大丈夫だ! 時間制限の根拠はかのんの呪いだからな!

 そいつは5日目の日曜に解いてるからな! 大丈夫だ!」

 

「割とギリギリな気もするけど……まぁ、いいか。どうせ別世界の出来事だし」

 

 

  ※

 桂馬が堂々と1週間って言ってたから女神編全体が1週間だと完全に勘違いしてました。

 今更発見があるとか……神のみは奥が深い……?

 

 

 

 『テスト前だってのにエリーは余裕そうだな~』

 『ふっふっふっ……私、気付いてしまったんですよ』

 『お、何だ? 新しい勉強法か何かか?』

 『それはですね……勉強しても大体の科目で赤点なのは変わらないから別に勉強なんてしなくても良いんじゃないかって事です!!』

 『……そ、そっかぁ……そっち方向に悟りを開いてしまったのか……』

 

 

「真理だな」

 

「真理だね。こう考えるとエルシィさんが妹として入学してきたのは駆け魂隊の隊員としては完全な悪手に見えるよ。

 一緒に居たいだけなら透明化して一緒に居れば全く問題ないし」

 

「一応、聞き込み調査がしやすいというメリットはあるがな。

 そう考えると悪手とは言えないか。

 エルシィが透明化して自由に行動できた所でメリットなど無いからな」

 

「……確かに!」

 

 

 

 

  外パンに行く道中の廊下、大きな掲示板が目に入った。

  いつもは学校からの連絡事項が書かれた地味なプリントが張られているだけだけど、舞校祭の少し前のこの時期だと違うようだ。

  各部活の個性溢れる掲示物が張られている。クラス企画のものも張られているみたいだね。

  あ、茶道部の展示もある。抹茶とお菓子、1杯100円だって。麻美さんもやるのかな?

 

 『おいどうした、何を見て……ああ、これか』

 『うん。色んな展示があるんだね。去年は回れなかったから今年こそ回れると良いんだけど……』

 『適宜エルシィと交代すればどうとでもなるだろう』

 

 

 

「今年は、ちゃんと回る事ができていたようだな」

 

「そうだね。決着が着いたのが舞校祭1日目の午前中だったから、午後と2日目は楽しく回れたよ。

 桂馬くんと一緒にね」

 

「ああ。悪くなかったな。久しぶりにゲームできたし」

 

「ちょっと!? そこなの!? 私と一緒に回れた事じゃなくて!?」

 

 

 

 

  気がついたら足元にダンボールが置いてあった。

  いや、違うな。置いてあったわけではないようだ。

  箱の下に車輪でも付いているのか、そして誰かに操作されているのか、何もしていないのに勝手にノロノロと動き出した。

 

 『け、桂馬くん……コレ、何?』

 『……僕に訊くな』

 

 

「みんな大好きロコちゃんの登場だ。

 尤も、本作は原作とは流れが違うからコレが擬人化される事は無かったが」

 

「今はただの這い回るダンボールだね……」

 

「ただの不気味な物体が絵一つで変わる。凄い話だな」

 

 

 

 

   ……放課後……

  さて、まずは部室に入る……前に少々目立つものが置いてあるので確認する。

  例の自走するダンボール箱だ。

  箱の上面に張り紙がしてあり、『実験中さわるな』と印刷されている。

 

 『少し、調べてみるとするか』

 『大丈夫なのかなぁ……変な物入ってないよね?』

 『ソフト面はともかくハード面は大した事無さそうだし、そう変な物は……』

 

 

「……入ってたね」

 

「……入ってたな。まさかの生肉が」

 

「お肉を入れたら人間に近づくって、どんな理屈だろう?

 と言うか、リミュエルさんは一体いつからこんな事をやってたんだろう……?」

 

「確かに謎だな。囮操作自体はヴィンテージの動きが活発になってからだったとしても、生徒として前から在籍してたのか?

 原作では技術部の連中とも面識があるようだったから突然転校してきたわけでは無さそうだが」

 

「……こんな貴重な人材を遊ばせてたとも思えないよね。う~ん……」

 

 

 

 『しかしまぁ……お前ら……名前はなんじゃったかな?』

 『名前? 僕は桂木桂馬だ』

 『わ、私はエルシィです! エリーって呼んでください!』

 『ああ……そう言えばそんな名前じゃったな』

 『? 僕達の事を知っているのか?』

 『いや、お前らに関しては全く知らん。尤も、私は人の名前を覚えるのが苦手じゃから私が忘れているだけの可能性もあるが』

 『…………』

 

 

「この時、本当に私たちの事は知らなかったのかな?」

 

「らしいな。エルシィの事だけは朧げに覚えていたようだ。

 ちなみに、錯覚魔法自体は普通に効いている。その上で、『錯覚魔法が使われている事』は感じ取っていたらしい」

 

「……この近辺で活動してる駆け魂隊の事くらいは知っとくべきな気がするけど……ホント何してたんだろう。このヒト」

 

「名前を覚えるのが苦手らしいからな。

 きっと『有能な変人』として組織内でも通ってるんだろうな」

 

 

 

 『ふむ、丁度いい。少し手伝え』

 『は?』

 『こんな所に居るくらいだからどうせヒマなんじゃろう? 私の人間作りに協力せい』

 

 

 

「僕達個人の事は知らなかったようだが、『ドクロウ室長が女神関係で何かやってる』くらいは流石に知ってるだろうと判断したようだ。

 だから、かのんの錯覚魔法を見て僕達の立場は察したようだな」

 

「ホント、マイペースな人だね。リミュエルさん。

 完全に理解した上でこき使おうとしてるよね……」

 

「全くだな。サッサと説明してくれれば余計な攻略などせずに済んだのに!」

 

 

 

 『……それは何か関係があるのか?』

 『大いに関係があるね』

 『……良かろう。あ~……倉川(くらから)(あかり)じゃ』

 『倉川灯……ね。で、身長体重その他は?』

 『そんなものに興味は無いのでな。忘れた』

 『……まあいいだろう。

  それじゃあ始めようか。僕達は一体何をすれば良いんだ? 人間作りに協力しろとか言っていたが……』

 

 

「原作を確認すると本人が名前を名乗る場面は無いな。

 本作では名乗ってくれないと話が進まないからご都合主義で何とか覚えていた設定にしたが、原作だと自分の偽名を本当に忘れている可能性もゼロではない」

 

「いや、それは流石に……でも、う~ん……」

 

「振り返ってみると、おもむろに生徒手帳を取り出して読み上げるとかでも良かったかもしれないな。

 というのは筆者の弁だ」

 

「……リミュエルさんなら有り得そう……いや、生徒手帳を持ち歩いてるかも怪しいんじゃないかな?」

 

「……かもな」

 

 

 

 『その通り。こやつを舞校祭までに『完全な人間』にするのじゃ』

 『完全な人間?』

 『そうじゃ。完全な人間。正しい行いをし、強い精神を持ち、不安も無ければ争う事もしない。そんな人間じゃ』

 『ああ、完全ってそういう意味か……

  言わせてもらおう。そんなものは不可能だ』

 『何じゃと? どういう意味じゃ?』

 『貴様は先ほど『完全な人間』と言ったな。

  『完全な』ではなく『完璧な』だったり『理想の』だったりするが、そういったものを追い求める話はゲームではありふれている。

  そして、本当にそれが成功したという話は僕も聞いたことが無い』

 

 

 

「ゲームで無いなら現実(リアル)でも無い。凄い理屈だね」

 

「理想のセカイであるゲームすらできないんだ。不完全な現実(リアル)でできないのは至極当然の事だろう」

 

「……一応同意はしておくよ。

 でも、桂馬くんって前によっきゅん……だっけ? の事を理想のヒロインって呼んでなかった?」

 

「ああ。簡単な話だ。『僕にとっての』理想のヒロインであるだけだ。

 別の誰かが見れば例えば絵が変とか、そういう問題点が無数に見つかるだろう?

 いやまぁ、絵が酷いのは僕も認めている事だが」

 

「別の視点で、かぁ」

 

「どうした。何か心なしか嬉しそうだが」

 

「桂馬くんも、そういう考え方ができるんだなって。

 最初の頃は自分の価値観以外は意味は無いって感じだったのに、成長してるんだなって」

 

「……お前みたいなのと一緒に居たら嫌でもそうなるってだけだ」

 

「…………あれっ、今、桂馬くんがデレた?」

 

「はいはい、次行くぞ」

 

 

 

 『それはお前が聞いたことが無いだけではないのか? それに、ゲームに無いからといって現実に無いとは限らぬ』

 『確かにな。現実(リアル)ではバグまみれの予想も付かない現象が頻繁に起こるし、そもそも僕だってこの世界のありとあらゆるゲームを網羅しているわけではない。

  だが……それでも言えるさ。完全な人間を作る事など不可能だと』

 『……そこまで言うからには根拠があるのじゃろう? 続けよ』

 『実に、簡単なロジックだよ。

  完全でない人間には『完全』というものを真の意味で理解する事なんてできない。

  そんな状態で『完全な人間』を作るなんて不可能だ。何を作れば良いのかすら理解できていないのだから』

 

 

「情報というのは非常に非常に重要だ。

 情報があれば取れる選択肢は増え、逆に無ければ選択肢が狭まるどころか選ぶ事さえままならなくなる」

 

「いかにも桂馬くんらしい回答だね」

 

「だからこそ、記憶が無いフリをして情報を一方的に握っていたお前の奇襲は綺麗に刺さったわけだな」

 

「ふふ~ん。どうだ、参ったか!」

 

「ああ。今度は何をやらかしてくれるんだ?」

 

「さぁね~」

 

 

 

 『……なるほど、確かに。しかし、その理論だと『完全』さえ定義する事ができれば可能という事になるぞ。

  それだけであれば何も自分自身が完全である必要は無いはずじゃ。それすらも不可能と申すのか?』

 

  そんな問いに対する答えもすぐに用意できる。

  できるが……このまま進めて良いのか?

  何だかトントン拍子に重要なイベントを進めている気がするんだが……単に僕が答えるだけで終わったらイベントの効果は激減する。

  ……少し遠回りするとしようか。印象が強いほど、イベントは強力になるのだから。

 

 『ではここにいる全員で考えてみようか。『完全』とは何なのかを。

  答えが得られればそれでよし。得られないなら……更に考えようじゃないか』

 

 

 

「原作では恋愛からアプローチしていったのに対して本作では哲学的な問答から始まっている。

 スピード攻略で1日で解決しないとエルシィが帰ってきたりして面倒だからな」

 

「そういう理由だったの……?」

 

「単純に書いてみたら1日で終わっただけでもあるらしいがな。

 というわけでいつもとは一風変わった攻略の開始だ」

 

 

 

 

 『では、議論を始めよう。まずエルシィ、完全とはどういう意味だ?』

 『えっ、私ですか!? 灯さんではなく!?』

 『コイツは一応さっき言ってただろう。完全な人間とは……ああいや、お前なりの答えを言ってみてくれ』

 

 

「結局コレの答えって何が正しいんだろう?」

 

「お前が言ってくれた『欠点が無い事』で大体合ってると思うけどな。

 問題は、欠点が無くなると『欠点が無い事という欠点』が発生する事だが」

 

「何その『悩みが無い事が悩みです』みたいなの」

 

「思いっきり矛盾しているが……まぁ、哲学なんてそんなもんだ。

 明確な答えを求める方が間違ってる」

 

 

 

 『では次、欠点は……無いものだからあまり深く突っ込まなくていいか。

  『あらゆる長所』とはどういう意味だ? 何が当てはまる。

  じゃあ、その意見を言った倉川。述べてみろ』

 『そうじゃな……その長所は『人間の長所』に限定して良いのか?』

 『……まあいいだろう。あらゆる概念の長所とすると範囲が広すぎるからな』

 『では、先ほども言った事じゃが……正しい行いをし、強い精神を持ち、不安も無ければ争う事もしない。そういう人間じゃ』

 『ほうほう』

 

  キーワードが黒板に書かれる。

  『正しい行動』『強い精神』『不安を持たない』『争わない』。

  これが完全な人間が持つべき長所?

 

 

「リミュエルの回答は『あらゆる長所』ではないが、代表例だな。

 もっと出せと言ってればほぼ無限に長所が出てきただろうな」

 

「流石にそれを全部否定していくのは大変そうだね……」

 

 

 

 『えっと……まずは灯さんに質問です。

  この『正しい行動』っていうヤツですけど、『正しい』って何ですか?』

 『む?』

 『数学の証明とかならまだ理解できますけど、正しい行動って一体何なんでしょう?

  それが定義できなければ『正しい行動』に意味なんてありません』

 『ふむ……説明は難しいが、定義自体は不可能ではないはずじゃ』

 

 

 

「この時僕が提示したモデルケースが『トロッコ問題』だったな。

 正確にはその亜種か」

 

「あの後調べてみたけど色々と面白い問題が並んでたね。

 

 分岐点の切り替えスイッチの前に立っていて、操作をしないと5人が死ぬ。

 操作して切り替えれば1人が死ぬ。

 

 これはあくまでも基本的なケースだけど、他にもあるみたい。

 

 分岐点なんて無いけど、線路の側に太った人が居る。

 放っておいたら5人が死ぬけど、その人を後ろから突き飛ばせばトロッコを止められる。

 

 こんな問題もあるみたいだよ」

 

「『放置して5人死ぬ』か、『手を加えた結果1人死ぬ』だから本質的には全く変わらない問題のはずだが……自分の手で人殺しをするか否かという点で大きく変わるな。

 実際の回答の比率も結構変わってくるようだ」

 

「あと、画期的な模範回答として『分岐を中途半端に操作すればトロッコが脱線して全員助かる』っていうのがあったよ」

 

「……模範回答だな。哲学の問題としては完全にアウトだが」

 

 

 

 『そんなもの、分岐に進む方が正しいに決まっておろう』

 『それで良いんだな? 5人を救う為に1人を自分の手で殺す……と』

 『それが最善じゃろう』

 『……エルシィはどうだ?』

 『えっと……実際にそんな場面に遭遇したら行動なんてできないと思いますけど……やっぱり分岐を進むべきだと思います』

 

 

 

「この辺の回答はサラサラと書けたらしい。あのリミュエルだからな。合理的な判断を下せるだろう。

 『正しい』判断なのかどうかは知らんが」

 

「……もし桂馬くんが本当のトロッコ問題に直面したらどうする? やっぱり分岐を進ませるの?」

 

「お前と同じようにやっぱり実際に直面してみないと分からないだろうが……分岐を進むべきなんだろうな。

 ただ……」

 

「ん?」

 

「……もし、その分岐の先に居るのがお前だったなら……いや、やっぱり分岐進むな。お前なら何とかしてくれるだろ」

 

「ちょっと!? どゆこと!?」

 

 

 

 『……こんなもの、どうしろと言うのじゃ?』

 『これはあくまでも例え話だ。だが、『正しい行動』がいかに曖昧なものか分かったんじゃないのか?

  お前たちは最初は1人を殺したくせに僕がちょっと言うだけで5人をアッサリと殺した。

  その時はそれが最善の行動だと思っていたんだろうな。だが、その『最善』はアッサリと変わった』

 

 

「本線には将来の大量殺戮兵器の開発者、分岐には宇宙人のスパイ。

 片方しか倒せないっていう別の問題になってたよね……」

 

「ちょっと違う情報を与えてやるだけで違う問題になるという良い例だな」

 

「この議論の目的が攻略である事を考えたら正しい事なんだけど……釈然としないよ!」

 

 

 

 

   ……その後……

 

 『行き詰まったようだな。だが、それで良い』

 『どういう意味ですか?』

 『この問題はどういうルートを辿っても必ず行き詰まるようになっている。答えを出す事は不可能なんだよ』

 『どうしてですか? と言うか、本当にそうならさっきまでの議論は一体……?』

 『では説明しよう。

  灯、お前はさっきまでは一応答えを出していたよな?』

 

  そう言いながら桂馬くんは黒板を指し示す。

  そこには例の4つのキーワードが書かれている。そして、それをかき消すように大きな×印も。

 

 『そこまで突き詰めて考えたわけではないとの事だが、それでも答えは答えだ。エルシィに否定されるまでは正しいと信じて……まではいなくとも間違いではないと思っていたはずだ』

 『……その通りじゃな』

 『しかし、今は違う。

  情報を得る事によってその答えは違うという事になった。そうだな?』

 

  灯さんは無言でコクリと頷いた。

 

 『この答えの変化な? 永遠に起こりつづけるんだよ。

  新しい情報を得る事でついさっきまで絶対的に正しいと思っていた『答え』はもう古いものになる。

  新たな答えを得る度に情報を得て再び考えて答えを得て……という無限ループに陥る事になるんだよ』

 

 

「この辺の話は、原作者である若木民喜先生の作品である『ねじの人々』を参考にしている。

 純粋理性の二律背反(アンチノミー)を筆者なりに噛み砕いて解釈したようだ」

 

「えっと……参考資料によれば、『なぜ』と疑問を感じ『答え』を得る。

 けれど、その『答え』はまた新しい『なぜ』に繋がり、その答えは古いものになる。

 それが永遠に繰り返され、答えを求める人は永遠に答えを得る事はできない。

 そんな感じみたいだね」

 

「詳しくは原作を実際に買ってみるといい。1巻に収録されてる。僕も最後にちょっと出てるしな」

 

 

 

 

 『さて、ここで質問だ。

  答えは出ないというのが答えだと理解できたわけだが……お前はどうするんだ?

  それっぽい完全を目指してそれっぽい人間を作るのか、

  永遠に出ない答えを探しつづけるのか。

  二つに一つ。お前はどちらを選ぶんだ?』

 『…………』

 『ちょっと待ってください!』

 『どうした?』

 『神様、『質問』させて下さい!

  さっきはダマされましたけどそうはいきませんよ!!』

 『まあいいだろう。で?』

 『神様は2択を提示しましたけど……それ以外の答えもちゃんと用意されてるんじゃないですか?』

 『鋭いな。YESだ』

 

 

 

「素晴らしい質問だったと言っておこう」

 

「ふふ~ん。これくらいは許嫁として当然だよ!」

 

「許嫁は関係があるのか……?」

 

「桂馬くんが求めているものが直感的に分かるっていうのは紛れもなく許嫁としての素質だよ。

 だからね、私が求めているものを桂馬くんの方からくれてもいいと思うの」

 

「はいはい。よくやったよくやった」ナデナデ

 

「嬉しいけどっ! 嬉しいけどちょっと違う!!」

 

 

 

 

 『それは勿論、『どうして完全を求めるのか』という事です!

  理由が分かれば代わりの手段が見つかるかもしれませんし、とにかく何か変わるかもしれません!』

 『……良い回答だ。

  目的に辿り着く為のルートは1つとは限らない。

  選択肢を総当たりしても失敗したならその前の選択肢からやり直せば良い』

 

 

 

「『答え』に問題が無いなら『なぜ』の方に問題があるという事になる。

 完璧な回答だった」

 

「そんなに深く考えてたわけじゃないんだけどね……」

 

「それでいいさ。深く考えすぎるとドツボに嵌る。

 求める答えってのは以外と身近な場所にあるものだしな」

 

 

 

 『目的と手段か……なるほど。

  その3番目の選択肢は問題なく使える。『完全な人間』を作る事はあくまでも手段じゃ』

 『それは良い事を聞いた。で、最終目的は?』

 『あえて言葉にするのであれば……世界平和、じゃな』

 『……せ、世界?』

 

 

「完璧な人間の話から世界平和に繋がるとは思ってなかったな……」

 

「完璧な人間しか居ない平和な世界か……どんな世界なんだろう?」

 

「価値観の違いがある以上はどうやっても人は衝突する。

 世界中の人間を洗脳でもして同じ価値観にしたとしても、その価値観では対応できないような問題が発生しただけで滅びる。

 完璧に平和な世界があるとしたら、暴君が圧政を敷くディストピアか、あるいは誰も人間の居ない世界。そんな所だろう」

 

 

 

 

 『だが、争いの無い世界は不可能なのかもしれんな。

  先ほどそこの……そこのが言ったように闘争心が無ければ世界の発展は訪れぬ。

  無論、争いにも種類がある。正しい発展を促す争いと、戦争のような同族を殺し合う醜い争いとが。

  しかし、さっきまでの議論であったように我々には『正しい』という事を定義する事は不可能じゃ。

  清廉に見えた争いが後に多くの人間に不幸を齎す。あるいは醜い戦争を行う事こそがより良い発展に結びつく可能性もある。

  だからと言って戦争自体を肯定するつもりは全く無い事に変わりは無いがのぅ』

 

 

 

「これが、ひとまずの結論だな。

 一応言っておくが、戦争を賛美する気は一切無い」

 

「……今の世界はどうなんだろうね。少しずつ平和な方向に向かってくれてるのかな?」

 

「……さぁな」

 

 

 

 『……ああそうだ、お主らの名前、もう一度聞かせてくれぬか?』

 『名前? 別に構わんが……』

 『助かる。私は人の名前を覚えるのが苦手でな。さっきまで自分の名前すら忘れておったくらいじゃ』

 『そりゃ相当だな……桂木桂馬だ。覚える気があるならメモでもしておくといい』

 『私もですよね? 桂木エルシィです!』

 

  僕達は改めて自己紹介した。が、灯はメモを取るような事はせずかのんの方を見つめている。

 

 『あ、あの……何でしょうか……?』

 『……そっちの名ではない。お主の『本当の名』の方じゃ』

 『本当の名?』

 

 

 

「なお、この時に名乗った僕達の本名はしっかりと覚えているらしい。

 認めた相手に対してはしっかりと覚えるようだな」

 

「名前かぁ……ふと桂馬くんに『誰だお前』って言われた時の事を思い出したよ」

 

「リミュエルも同じ事言いそうだな……」

 

 

 

 『お前……何者なんだ?』

 『そうじゃな……では私も改めて自己紹介しておこう。

  我が名はリミュエル、駆け魂隊の悪魔じゃ』

 

 

 

「この時、『駆け魂隊の悪魔』と名乗っているが原作で本人が駆け魂隊だと名乗っている場面は実は無かったりする」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「まぁ、人間界に来れる悪魔は駆け魂隊だけらしいし、羽衣も装備してたんで十中八九駆け魂隊だとは思うが……仕事の内容が内容なんで駆け魂隊と名乗るのは微妙にズレてる気がしないでもない」

 

 

 

 『その極秘任務の内容を聞いてもいいか?』

 『ダメじゃ。何のために極秘と付いていると思っているのじゃ?』

 『そりゃそうだよな。じゃあ……』

 『……と普通ならそう答えるが、今回だけは特別に少しだけ教えておくとしよう』

 『何だと?』

 『今やっておるのはいわゆる囮捜査じゃ。

  ダミーの駆け魂信号を発信し、近づいてきた不届き者を仕留める、というな』

 

 

 

「原作でやってた事を筆者なりに噛み砕いて説明してるんだが……コレは正しいんだよな?

 リミュエルは一体なにを以って狩る対象とそうでない対象を分けていたんだ……?」

 

「あれ? そう言えば確かに。

 原作でも桂馬くんの正体を最後まで見抜いてなかったよね」

 

「悪魔であるエルシィが近づいていれば何らかの反応を返していたかもしれんが……これでも一応契約の首輪着けてたりしてたんだがな。

 考えてみるとリミュエルが一体何をしていたのかは非常に謎だ」

 

「……案外、のんびり休んでただけだったりして」

 

「……有り得そうだな」

 

 

 

 『お前……最初から僕達が駆け魂目的で来たのが分かってたなら何で囮捜査の事を言わなかったんだ?

  今ここまで喋ってるって事は僕達が目的の相手じゃないって事はその時点で分かってたはずだよな?』

 『そんなの最初に言ったじゃろう? ヒマそうじゃから手伝ってもらった……と』

 『……つまり……ただお前の趣味に付き合わされただけか?』

 『そうなるのじゃ』

 『………………』

 『け、桂馬くん! 無言で拳を振りかぶらないで! 落ち着いて!!』

 『ええい放せ! まずは一発ぶん殴る!!』

 

 

 

「……最初から攻略ですらなかったな」

 

「私たちを協力させる為にわざとダミー信号の事を黙ってたよね……」

 

「この貸しはたっぷりと利子を付けて返してもらうとしよう」

 

 

 

 

 『……とまぁこんな感じの事があったんだよ』

 『ほぇ~、室長から特命を受けるなんて、その人はエリート中のエリートですね。

  そんなお方がこの近くに居たなんて……会いに行っても良いですかね!!』

 『やめとけ、本人曰く極秘任務中だぞ? 変な事に巻き込まれるフラグとしか思えん』

 『それもそうですね……

  ところで、その方は何というお名前だったのですか?』

 『本名かは分からんが、『リミュエル』と名乗っていたな』

 『えっ、か、神様!? 本当にそう名乗っておられたのですか!?』

 『ん? ああ。知り合いか?』

 『知り合いも何も……私の憧れのお姉様です』

 『……そう言えばあったな。そんな設定が』

 

 

 

「……そう言えばあったね。そんな設定」

 

「アレに憧れるのは止めた方が良い気がするのは気のせいではないな」

 

「……そうだね。有能ではあるんだろうけど……エルシィさんが目指すべきものではないね。

 そう言えば、ヴィンテージ倒して一応平和になったけど……会いに行ったりしたのかな?」

 

「……ミネルヴァとしては複雑だろうな。義理の姉が女神だけじゃなくて悪魔にも居る。

 奇妙な状況だな」

 

「桂馬くん、間違ってるよ! 義理の姉は人間にも居るよ!!」

 

「……更に複雑になったな」

 

 

 

 

「さて、これで終わりか」

 

「次回は檜編、『虚像を打ち払って』です!」

 

「通常攻略編の最終章、そして女神編への導入だったな」

 

「……それでは、また来週!」

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