もしエル キャラコメンタリー!   作:天星

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檜編 虚像を打ち払って

「はいどうも皆さんこんにちは! かのんです!

 第29回キャラコメンタリー始めます!」

 

「檜編だ。一時はカットされる危険もあったが……書いた方が都合が良くなったから書いたようだ」

 

「なんて身も蓋もない事を……

 それでは、VTRスタート!」

 

 

 

  間章 運命変革の兆し

 

 

「ん? ああ、そうか。ここからか」

 

「最初の1話だけ章が分かれてるけど、檜さん攻略編のプロローグだよね」

 

「内容としては檜編とも言い難いし、通常攻略編はリミュエル編で終わったようなものだから今までとは違う感じを出してみたらしい」

 

「へ~。それじゃあコメントしていこっか」

 

 

 

  倉川灯ことリミュエルの攻略もどきを終えた数日後、僕は普通にエルシィと一緒に学校に来ていた。

  至って普通の光景のはずなのだが何故かレアな気がする。

 

 『あと少しでに舞校祭ですね! がんばりましょ~!!』

 『お~! 私たちのバンドの晴れ舞台だ! やってやるぞー!!』

 『いよいよって感じだね。私も頑張るよ!!』

 

 

 

「私にとっては完全にレアな光景だよ。

 一緒に学校に居る事はほぼ無いから」

 

「章の導入に『朝の教室』を使うと自然と軽音の話題になるはずなんだが……エルシィが居なかったり、体育祭で忙しかったりしたせいで実に7章ほど遡らないと軽音の話題は見あたらないようだ」

 

「えっ、そんなに……?」

 

「お前が軽音の話をしてる場面ならあるんだけどな

 まぁ、エルシィなんて所詮は脇役だからな」

 

「タイトルに名前まで入ってるのに……」

 

  ※

 タイトルを意訳すると『もしエルシィが女神ミネルヴァだったら』。つまりエルシィは女神。

 本作において女神なんて所詮は脇役。

 故にエルシィは脇役。

 

 完璧な三段論法ですね(白目)

 

 

 

 『あの、桂馬君、今大丈夫かな?』

 

  机の上に手鏡を置きながら話しかけるとかいう奇抜な事をやってきたのは勿論麻美だった。

  女神サマからの話か? 一応聞いてやるか。

 

 『手短に』

 『相変わらず扱いが軽いのぅ……まあええわ。

  妾からの神託じゃ。心して聞くがよい』

 『御託は要らん。サッサと内容を言ってくれ』

 『お主は神託を何だと思っとるんじゃ?

  え~、ゴホン。どうやら近いうちに何か大きな事件が起こるようじゃ。

  妾たち女神に関係する事件がな』

 『ほぅ? で、それはいつ頃でどんな事件なんだ?』

 『分からんぞよ』

 

 

 

「痒い所に手が届かない能力だよなぁ……」

 

「せめてもうちょっと具体的な事が分かれば良いんだけどねぇ……」

 

「ちなみにだが、この時言っていたのは『エルシィが刺される事件』の事らしい。

 女神編が始動する大きな事件だったな」

 

「……そうだね」

 

 

 

  女神の件で事件がおこる。

  女神関係で……そうだな、1つだけどうするべきか迷ってる案件があった。

  ……何か致命的な事件が起こる前に『あの事』を言っておくべきなのか?

 

 『む? それはいかんぞ桂木よ』

 『な、何だ? 突然どうした?』

 『詳しくは分からぬが、お主の方から凶兆の気配が膨れ上がった。

  何をしようとしたのか妾には分からぬが、今考えていた事は止めておいた方が良かろう』

 『……お前、意外と有能だったんだな』

 『意外ってどういう事じゃ! 意外って!!』

 

 

「この時に言いかけた事はエルシィの件だ。

 ディアナに対しては言うつもりは全く無かったか、アポロには言っておくべきだろうかと迷っていたら……こんな感じになった」

 

「もしこの時に言ってたらどうなってたんだろうね?」

 

「色々と考えられるが……なんやかんやあってエルシィが刺されずに済み、そのせいで女神探しが発生せず、ヴィンテージの計画が完成してジ・エンド。

 そんな感じだろう」

 

「そこは回避して欲しかった……っていうのは個人的な我侭だよねぇ。う~ん……」

 

「……これはどっか別世界の中二病の言葉だが、『喜劇は常に等価の悲劇を要求する』とかなんとか。

 正確には等価ではないんだが……まぁ、そこは置いておこう」

 

「……あの時にエルシィさんに庇われたから、今の関係がある。

 結局は無事で居られたんだし、少しは前向きに捉えておくよ」

 

 

 

   ……本編スタート……

  何故、この世にはテストというものがあるのでしょうか……?

  あんなもの、存在しない方がみんな幸せになれる気がします!

 

 『どう思いますかちひろさん!!』

 『う~む、普段なら同意する所なんだが……私までそっち側に回ったら本気でエリーがヤバい事になりそう。

  そういうわけなんでこう言わせてもらおう、エリー、ちゃんと勉強しろ!』

 『そ、そんな! ヒドい!! 信じていたのに!!』

 

 

「ちひろにしてはまともな事を言うな……」

 

「前章で私がはっちゃけ過ぎたから危機感を抱いてくれたみたい。

 勉強するに越したことは無いからこのまま一緒に頑張ってほしいけど……」

 

「そこまでをちひろに要求するのは酷だろう。本来はエルシィ側だし」

 

 

 

 『まあ落ち着け。一切勉強しないってのはさすがにナシだけど、少し息抜きするくらいなら大丈夫っしょ。

  今日はバンドの方も休みだし、ちょっと遊ぼうぜ』

 『あれ? 今日はお休みでしたっけ?』

 『言ってなかったっけ? 今日は陸上部の方で何かあるらしいよ。

  歩美も京も来れなくて、3人だけでやるのも微妙なんで今日は休み』

 『そうだったんですか! う~、何しよう……』

 『そこでだ、私に良い考えがある!』

 

 

 

「……このお休みの連絡、昨日伝えられたとするならお前が聞いてたんじゃないか?」

 

「ひゅ~、ふひゅ~」

 

「口笛吹けてないぞ」

 

「実を言うとリミュエルさんの事があったんで完全にすっぽ抜けてたよ。

 でもまぁ、すぐに分かる事だから大丈夫だよね!」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 

 

 『ふっふっふっ、私の情報網によれば……何と今日、かのんちゃんが学校に来るのだ!!』

 『へぇ~、そうなんですか』

 『……あれ? 思ったより反応薄いな。アイドルだよ? うちのクラスの』

 『はい。勿論分かってますよ』

 『思ってた反応とちょっと違うけど……まあいいや。

  かのんちゃんが放課後に女子空手部の部室に来るらしいんだよ。何かの訓練の為に』

 『楠さんとの訓練ですね。今日だったんですね~』

 『あ、あれ? エリーの方が詳しい……? い、いや、きっと気のせいだ。

  そういう事だから、ちょっと見学と言うか、様子見に行ったら何か面白い事があるかな~と』

 『そ~ですね~。それじゃあ行ってみましょうか!』

 

 

「筆者がニヤニヤしながら書いてた場面だな。

 原作の状態のエルシィだったら発狂してるだろうが、本作だと身近な所に居るから全然驚いてないな」

 

「私に関する情報であれば一番通じてるよね。

 勿論、私自身と桂馬くんを除けばだけど」

 

「……僕もお前の予定とかはかなり無頓着なんだが……」

 

「……確かに。こんど私のお仕事見てみる?

 共働きっていうのはお互いの理解が必要だからね!」

 

「そもそも結婚後もアイドルが続けられるのかという疑問は置いておくとして……たまにはいいか。

 プライベートでしか関わってないから、僕の知らないお前の姿を見ておくのも悪くない」

 

 

 

 『正面から乗り込む気は全く無いよ。

  入部希望者と勘違いされても困るし』

 『それくらいだったら別に構わないのでは……?』

 『……エリー、知ってるか?

  前回の体育祭の後で女子空手部の部員数は一気に膨れ上がったんだよ』

 『そりゃあ増えるでしょうね』

 『でな、更にその数日後に再び部員数が0になったんだよ。

  ああいや、部長さんが居るから1か」

 『ほぇ? どうしてですか?』

 『……それだけ活動内容が厳しかったって事だよ』

 『ほぇ~…………』

 『入部希望と間違えられるだけでも、とんでもない目に遭いかねない。

  だから、こっそりと覗き見るだけな』

 『ちひろさんもしっかり考えてたんですね……分かりました。そっと覗き見しましょう!!』

 

 

「相当厳しかったんだろうなぁ……」

 

「師匠にしては緩かった方だよ。

 でも、希望者の方がどうも舐めてたみたいでさ。

 おおかた、ステージの上で踊ってるだけのアイドルができるくらいの部活だって思われてたんじゃないかな」

 

「舐め腐ってるな。そんな下らない事を言う奴がこの学校に居たのか」

 

「あくまでも想像だけどね」

 

「……いや待て、逆にお前と同じ経験をしてみたかったから何も考えずに入って、そして打ちのめされた可能性もあるんじゃないか?

 本格的に鍛える気がなかったのならすぐに逃げ出すのも納得だ」

 

「そう……かもね。そうだったらいいな」

 

 

  ※

 メタ的な事を言ってしまうとこんなタイミングで新キャラを出しても活かせる気が全くせず、単に邪魔になるだけだと判断したからバッサリ切り捨てました。

 かのんと意気投合する弟弟子だか妹弟子が居てくれたらそれはそれで面白そうなんですけどね。

 

 

 

 

  ドロドロドロドロ……

 

 『えっ、センサー? どこに!?』

 『おいエリー、携帯のアラーム切ってなかったのか!?』

 『いえ、これは携帯ではなく、えっと……』

 

 『ん? そこに居るのは誰だ!』

 『この音って……はぁ……』

 

 

 

「……理解、してくれたか?」

 

「……うん。こんなイベントが四六時中起きてるんだよね?

 桂馬くんはよく正気でいられる……っていうのは流石に言いすぎだけど、とりあえずお疲れさま」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 『おー、楠。しばらく見ない間にキレーになったわね』

 『ま、まさか……姉上……なのですか?』

 『自信無さげね。この私が春日檜サマ以外の誰に見えるってのよ』

 『……いえ、見えません。お久しぶりです姉上』

 

 

「春日檜の登場だな。

 結局本作では攻略っぽい事はしなかったからヒロインと言って良いかすら微妙な存在だ」

 

「今回本当に交流が無かったもんねぇ……恋愛攻略じゃない攻略であっても、いや、だからこそ色々と交流してたのに」

 

「しつこいようだが筆者としては前章で通常攻略編は終わったものとしていた。

 檜編は女神編の導入として書かれていて、ついでに檜の駆け魂を倒しているだけだからな」

 

「ついでで倒されるレベル4の駆け魂って一体……」

 

 

 

 

   ……姫様、透明化して追跡中……

 

  私が切り上げた事で師匠も帰宅するらしく、檜さんが運転する車に乗せてもらって帰るようだ。

  幸いな事にオープンカーだったので、飛行魔法を使って上から直接後部座席に乗り込むことができた。

  もしオープンカーじゃなかったら……最悪の場合、車の上に乗る羽目になってたかもしれない。

 

 『姉上、今まで一体どこに居たのですか?』

 『ん~、ちょっとアメリカの方にね』

 『外国にまで行っていたのですか……色々と大変だったでしょうに』

 『まぁそうね。でも、この私にかかればラクショーよ!』

 『流石は姉上ですね』

 

 

「車の上に乗るとか、大丈夫なのか?」

 

「う~ん……まぁ、飛行魔法もあるし、何とか?」

 

「……まぁ、怪我もしなかったしそもそもオープンカーだったからそこは置いておこう」

 

  ※

 原作の絵を見ると座席が2つしかないオープンカーだけど気にしてはいけない。

 

「そう言えば、当時の後書きでは中学卒業と同時にアメリカに旅に出た件についてパスポートの問題を指摘していたが……

 ある読者の方から『中学の修学旅行等が外国だったのでは?』という指摘を受けた。

 そういう事なのであれば親からの許可が下りない問題は完全に解決するな」

 

「……師匠の父親だったらそれすら許さないとか有り得そう……いや、流石に無いかな?」

 

「どうだろうなぁ。修学旅行の先がアメリカとかなら一悶着あるかもしれんが、何か武道っぽい感じの韓国や中国であれば普通に許可が下りるんじゃないか?

 勝手なイメージで言ってるだけだから実際には分からんが」

 

 

 

 『まったく古臭い道場よね。駐車場の一つや二つ作っておきなさいって話よ』

 『そもそも山の中にありますからね。道を作るだけでもかなり大がかりな工事になってしまうでしょう』

 『ん~、今度門下生総出で斧持って木を切り倒したら? 良い修行にもなって一石二鳥なんじゃない?』

 『素人が下手に手を出すと怪我をしたり土砂崩れなどの災害を招きそうですが……確かに良い修行にはなるかもしれませんね。後で検討してみましょう』

 『頼むわよ~』

 

 

「これって結局どうなったんだ?」

 

「ああ、これね。駐車場を立てるかはまだ分からないけど、道を広くするのは本当にやるみたいだよ」

 

「そうなのか。しかし、何か中途半端だな。車を通すなら駐車場は要ると思うが」

 

「まずは道を広くするっていうのがあって、その上で車が通れるくらいの広さを目安にしようとしてるみたい。

 ほら、この後檜さんが巨大化して避難する騒ぎになったでしょ? その時に道が狭くて倒れた木で塞がれちゃったらしいよ」

 

「そうだったのか!?」

 

「うん。まぁ、木は弟子の人がすぐに退けてたみたいだけど。

 そういう事もあるから、正面の入り口である石段とは別に広い道を作るんだって。

 檜さんが言ってたように良い修行にもなるし」

 

「……すぐに退かせる程度の木だったのか、すぐ退かせる弟子が異常なのか……

 ……まぁ、どっちでもいいか」

 

 

 

 

   ……姉妹の決闘……

 

  組手の開始に、審判の合図は要らなかった。お互いの動くタイミングが分かっていたのか、殆ど同時に動き出した。

 

 『うわっ、速っ!』

 『いつもの稽古と全然違うな……組手って言うより決闘じゃねこれ?』

 

  うーん、一応2人の大まかな動きは目で追えるけど、細かい動作に関してはサッパリ分からない。

  師匠、私との組手の時はあれでも手加減してくれてたんだね……

 

 『お~、少しはやるようになったじゃないの』

 『…………』

 

  檜さんはペースを崩さず余裕しゃくしゃくといった様子だ。

  それに対して師匠はなにやら怪訝そうな表情をしている。

  ……パッと見だと檜さんが優勢って事なんだろうね。

  けど、違う。檜さんは少々無理をして余裕そうに振る舞っているのに対して師匠は考え事までする余裕があるって事だ。

  師匠の5年間の修行は姉の才能を上回ったって事だね。うん、良い話だ。

 

 

「お前、これが一応目で追えるのか」

 

「え? うん。細かい動作までは分からなかったけど」

 

「いや、十分異常だからな? 僕は今見てもサッパリ分からないぞ」

 

「またまた~」

 

 

 

 

  あくまでも私の感想だけど、檜さんの方は必死……とまではいかなくても大体全力で戦ってる気がする。それに対して師匠は様子を伺うような消極的な感じだ。

  一体何を考えているんだろう……?

 

 『ホラホラどうしたの? 全力でかかってきなさい!』

 

  檜さんがそんな台詞を放ってすぐ、決着はついた。

  檜さんの蹴りを師匠が掴み取り、そのまま床に投げつけたのだ。

 

 『……えっ?』

 

  しんと静まり帰った道場の中で、何が起こったのか分からないと呆気に取られた様子の檜さんの声が響いた。

  それに続いて、師匠の声も響いた。

 

 『姉上こそ……全力を出して欲しかったです』

 

  その絞り出すような声は、とても悲しそうだった。

 

 『……失礼します。少し、1人にさせてください』

 

 

 

「原作での決闘は楠が途中で降参したんだったな」

 

「実は師匠が勝ってたらしいけどね。

 本作では……完全に決着が着いてるね」

 

「本作の楠は原作と比べて一応強化されているらしい。

 対戦相手の感情を読み取る能力は使いこなせれば相当な武器になるだろうな」

 

「……師匠も協力者になれるかな?」

 

「いや、殴り合いが必要な読心能力なんてあっても心のスキマを埋める前に病院送りになるぞ」

 

「う~ん、ままならないなぁ……」

 

 

 

 

  さて、エルシィに何か呼ばれて、かのんのペンダントの信号を頼りに追ってきたわけだが、ロクな説明も貰えずに攻略対象を観察する事になった。

  透明化と防音をかけて道場の中に入り込むと、ザワついている門下生らしき人達と床にヘタっている女性が見えた。

 

 『エルシィ、あいつで良いのか?』

 『はい! 今回の攻略対象の春日檜さんです!

  姫様の師匠のお姉さんみたいですね』

 

 

 

「ようやく僕の登場か」

 

「そう言えば話は変わるけど、桂馬くんって携帯持ってないんだよね?」

 

「ん? ああ。必要ないからな」

 

「今度一緒に買わない? GPSとか付いてる感じの」

 

「僕の居場所が常に分かった所で何の意味も無いと思うんだが……」

 

「でも、お互いに居場所が分かってた方が何というか……恋人っぽいかなって」

 

「……そこまで重い恋人は恋人では無いと思うんだが……」

 

「ええっ!? そんなっ!!」

 

「いや、そんな驚かれてもな……」

 

 

 

 

 『どーしました? 浮かない顔ですね』

 『ん? ああ、お前か。実は……

  ……って、どうしてお前がここに居る!? どうやって入って来た!!』

 『やだなー。そんな細かい事はどうでもいいでしょう』

 『決して細かい事ではないが……お前の異常性にいちいち驚いてたらキリが無いか』

 

 

「師匠ったらまったくも~。私が異常だなんて、そんな事無いよね?」

 

「……気付いたら背後に居る後輩は明らかに異常なんだが」

 

「……えっ?」

 

 

 

 『お前はいつから居たんだ? さっきの組手も見ていたか?』

 『はい、お姉さんとの組手ですよね?』

 『ああ、その通りだ。お前は見ていて何か感じなかったか?』

 『何かと言われても……最初から最後まで師匠が優勢だったなとしか感じませんでしたよ』

 『そう見えていたのか。流石は本家だな』

 『ほんけ?』

 『ああいや、気にしないでくれ』

 

 

 

「表情だけでそこまで読み取れるものなのか」

 

「アイドルを舐めちゃいけないよ! 感情の動きくらい簡単に読めないとファンの皆さんの相手なんて務まらないよ!!」

 

「そこまで言いきったら全てのアイドルが人外と化すんだが……まぁ、流石はトップアイドルと言うべきか」

 

 

 

 

 『じゃあ……負けたかった、とか?』

 『どういう意味だ?』

 『理由までは分かりませんけど、無意識のうちに負けたがっていたのであれば全力が出せなかった事の説明はつきます』

 『……しかし、先ほども言ったが姉上は全力を出そうとしていたように感じたぞ?』

 『それなら、『勝ちたかったけど負けたかった』んでしょう』

 『待て、意味が分からないぞ。明らかに矛盾しているだろう!』

 『そうですかね? 勝ちながら負けるのは大体矛盾するけど、『勝ちたい』という気持ちと『負けたい』という気持ちが重なる事は有り得ない話じゃないと思いますよ』

 

 

 

「本作だと様々な理由で『檜は全力で勝とうとしつつも手加減してしまっていた』という筋書きで進めたが、原作だと実際はどうだったんだろうな?」

 

「どうかなぁ……原作でもあの服装なんだよね。ファスナーとかの金具が付いてて危ない上に一歩間違えると放送事故になりそうな感じの。

 その時点で結構舐めてるよねぇ……」

 

「アイドルの衣装な上に武装して戦ってるお前は何なんだと問いたいが……一応配慮はしてるんだったか?」

 

「うん。危なそうな金具は全部取っ払ってるよ。フリルとかはヒラヒラしててちょっと危ないけど……そこは仕方ないね。

 あと、激しく動いても脱げにくい服を選んでるよ。そもそもそんな衣装があんまり無いけどね。ダンスするだけで放送事故になりかねないから」

 

「……そうか。

 放送事故云々は『檜だから』で片が付くが、金具はお互いに怪我する要因になるよな。

 怪我などさせずに制する自信があったのかもしれないな。ほんの数秒で打ち砕かれただろうが」

 

 

 

 『負けたい理由ねぇ……似たような話ならゲームでもよくあるから心当たりはいくつかあるぞ』

 『えっ、ホント!?』

 『例えば……お前はトップクラスのアイドルだよな』

 『う、うん……自分で言うのもどうかと思うけど、今現在の一番人気のアイドルって事になってるよ』

 『なら尚更都合が良いな。

  一番人気って、辛くはないか?』

 『? 辛い?』

 『トップである事のプレッシャーってやつだ。

  一度トップに立つとこれからもトップである事が期待される。

  それに押し潰されそうになって逃げ出す奴はゲームで何人も見てきたし、現実(リアル)でも見たことがある』

 『もしかして、歩美さんの事?』

 『あとハクアもだな。あいつは逃げ出せずに潰れそうになってたが。

  そんな感じで『勝たなければならない』というプレッシャーから逃れる為に負けようとするのは有り得る』

 『……なるほど』

 

 

 

「そう言えば、本当に今更だが……原作ではかのん編が始まる前日に『最優秀新人賞』にかのんが選ばれていたな。

 本作ではかのん編開始時……ではなく、歩美編開始の前日に賞を取ったという事にして話を進めている」

 

「本当に今更だね……私が屋上に行く前日に賞を取ってたって事だよね」

 

「ああ。だから今も少なくとも新人の中では一番人気のアイドルとして書き進めているが……あれから何か月経ってるんだ?

 エルシィに交代とかもしてたから人気が下がっててもおかしくないんだが……」

 

「……それがね、何故か人気が上がってるんだよ。何でだろうね……」

 

「……そうだなぁ……あえて真面目に考察するなら。エルシィの方が親しみやすさがあるからじゃないか。

 神を模した偶像(アイドル)としてはそんなの要らない気がするが……アイドルだからなぁ……」

 

「……結局、エルシィさんにアイドルとして負けてるって事になるよね……」

 

「いやいや、お前が積み上げてきたものプラスエルシィの実力が反映されているだけだ。

 決してお前がアイドルとして無能とかそういうわけじゃないさ」

 

「……そうだといいなぁ……」

 

 

 

 

 『……これが、あいつの願望か』

 『……『闇の種』の話を思い出すね』

 『あの時の例え話のような物理的な話ではないだろうがな』

 

  道場の方には、巨大は人影が立っていた。

  檜の姿をした、巨大な人影が。

 

 『妹よりも大きくなりたいという願望。

  妹よりも大きくあらねばならないという強迫観念。

  そんな所か』

 

 

「この辺は時間も押してるんで駆け足で進んでるな」

 

「もうしばらくしたら舞校祭で女神編だもんね。

 ケツカッチンでリスケ無理(リームー)だよ」

 

「フツーに喋れ」

 

「予定が詰まってるから一気に片付けないとね。

 何回か言ってるように、今回はもはや攻略編じゃないからご都合主義な展開が目立つね」

 

「それ言ったら全編通してご都合主義な展開は結構あるけどな」

 

「……と、とりあえず次行こっか!」

 

 

 

 

 

 『まずはお前の師匠の所に行くぞ。

  そいつと一緒に乗り込む』

 『乗り込むって、どこに?』

 『あの巨人の体内にだよ』

 『……どうやって?』

 『体に風穴開ける……ってのは厳しいから口からになるだろうな』

 『大丈夫なのそれ!?』

 『分からん……が、やるしかないだろう。

  正直な所、檜が駆け魂と完全に融合してるみたいな展開ならもうお手上げだ。あの巨体の中に本体みたいなものがあると信じるしかない。

  安心しろ。無策で突っ込む気は無い。

  エルシィ、羽衣とか結界を使って2人分の酸耐性を作れるか?』

 『う~ん、多分いけます!』

 『よし、なら大丈夫だろう。

  今度こそ行くぞ!』

 

 

 

「巨大生物の体内に乗り込む時に『風穴あけるか口から入る』というのは『ファイナルファンタジー10』が元ネタだな。

 名前を決して呼ばれない主人公が同じような問いかけをされて即座に返していた。

 まぁ、今回は風穴をあけるわけにもいかなかったんで口から一択だったけどな」

 

「……ふと思った事だけど、桂馬くんって結構守備範囲が広いよね。ギャルゲーだけじゃなくて正統派の音ゲーとかも持ってるし。

 ファイナルファンタジーって正統派のRPGだよね?」

 

「守備範囲はご都合主義で解釈してるらしいが……まぁ、そこは置いておこう。

 ただ1つ言わせてくれ。FFの10は立派なギャルゲーだ」

 

「…………えっ?」

 

「エンディング分岐こそ無いが、好感度のパラメータが存在し、それに応じて台詞等が変わる。

 好感度は仲間キャラ男女問わず全員にあるが、選択肢の関係で女性キャラの方が上げやすい。

 これはもう立派なギャルゲーだろう!」

 

「…………そ、そうかなぁ……」

 

  ※

 より正確には『ギャルゲー要素が多少入ってるRPG』くらいの表現が正しそう。

 ただ、野球ゲームすらギャルゲーと呼ぶ桂馬なら……

 

 

 

  食道のようなブヨブヨした道を通過……と言うか落下し、しばらくすると弾力のある床に叩きつけられた。

  その弾力と、僕達を包んでいた羽衣のおかげか特に怪我をする事は無かった。

 

 『うぉっと、無事に辿り着いたか。

  怪我は無いな?』

 『あ、ああ……ここは……どこなんだ? 姉上の体内なのか?』

 『その答えはYESでありNOだ。

  本当の体内なら今頃僕達は消化されている。

  この場所を一言で表現するなら、『心のスキマ』と呼ぶのが一番相応しいだろう』

 『心のスキマ?』

 『ああ。詳しい話は先に進みながらするとしよう。

  僕達が自由に使える時間はそう多くないからな』

 

 

 

「中はこんな風になってたんだね」

 

「ああ、そう言えば見るのは初めてだったか」

 

「うん。私はずっと外に居たからね。

 でも、意外と危険は少なそうだね。良かったよ」

 

「……まぁ、ここはな」

 

 

 

  唐突に開けた場所に出た。

  澄み渡った青空と、足首ほどの高さの澄んだ水面が広がっている。

  そして真っ正面には道場によく似た建物が1つだけ建っていた。

  心のスキマの深部とは思えない綺麗な空間だ。だが、だからこそひどく不気味だ。

 

 『ここは……?』

 『いかにもボス戦が待っていそうな空間だな。

  おそらくは、この先にアンタの姉が待っている。

  後は直接話し合ってくれ。あるいは……アンタ達の場合は殴り合った方が早いかもな』

 『…………』

 

 

「わ~……いかにもな空間だね……」

 

「原作においても心のスキマの中は混沌としていたが、この空間だけは澄んでいたな。すぐに濁ったが。

 おそらくは、幼かった頃の記憶が詰まった場所……だったんだろうな」

 

 

 

 

   ……一方その頃……

 

  檜の心のスキマの中で、姉妹が対峙していた頃。

  道場から少し離れた場所の上空では3つの人影が集まっていた。

 

 『ここは私だけで十分よ! 集まってくるな! 鬱陶しい!』

 『そんな事言われたって、地区長召集がかかったんだから来ないわけにはいかないでしょうが!』

 『そもそもコレ、うちらだけで足りるかも怪しいぞ?』

 

 

「ノーラとハクアと……誰だコレ」

 

「えっと……ノーラさんが来る前にうちの地区長だった人みたいだね」

 

「ああ、居たな。そんなの。

 しっかし、こんなタイミングで出てくるポッと出の奴なんて信用ならないな。どうせヴィンテージか何かだろ」

 

「ま、まだヴィンテージ出てきてないからね!?」

 

  ※

 改めて考えてみると突然姿を見せた悪魔なんてフィなんとかさん並に怪しい気がしないでもない。

 若木先生は実はこの時点でシャリィに密告させる事を考えていたのだろうか……? いや、考え過ぎか。

 

 

 

 『…………ノーラ、よく考えなさい』

 『考えた結果がコレよ! 今動かないと!』

 『いいえ、もう少し待ちましょうよ。

  この騒ぎを犠牲者0で乗り切ったら、その作戦の指揮者は英雄になれるわよ?』

 『っ! …………』

 『幸い、あの宿主が巨大化したのは人があまり居ない山の中。

  何か道場みたいなのがあったみたいだけど、エルシィが避難するように呼びかけたらしいからほぼ無人。突然暴れだしたとしても人的被害が出るまでには間がある。

  もう少しだけ、様子を見る余裕があるはずよ』

 『…………分かったわよ。

  但し、本当にヤバいと思ったら即座に動くわ。

  その時は邪魔するんじゃないわよ!』

 『ええ。分かってるわ』

 

 

「檜をサッサと勾留しようとするノーラをハクアが説得する場面だな。

 あのハクアにこんな理詰めの説得ができるのかという疑問はあるが……情に訴えて説得してもノーラが納得すると思えないからこうしたらしい」

 

「原作ではどんな感じだったっけ?」

 

「僕が突入していたから、そのまま勾留すると僕も死ぬ。

 そしてエルシィも死ぬぞと言われて苦い顔をしていたな。

 ……ノーラ、お前、天理編では嬉々としてエルシィ殺そうとしてたよな? というツッコミは禁止だろうか?」

 

「え、えっと……今は目撃者が居るから、とか……」

 

「それで躊躇ってくれるなら天理編でももうちょい待ってほしかったな……」

 

 

 

 

 

 『私はもう、『お姉ちゃん』なんて嫌だ!

  強さなんて要らない! 尊敬も要らない!! 何も要らない!!!』

 『セイッ!!』

 『むぎゅっっ!!』

 

  勢いよく頭を動かして檜の顔面に頭突きを叩き込んだようだ。

  そして檜が仰け反った隙を突いて拘束常態から完全に脱した。

 

 

「お~、流石は師匠。完全にマウント取られてたのに反撃したよ」

 

「実際にそんな事が可能なのかは知らんが……『まぁ師匠だし』という事で強引に進めたらしい」

 

「師匠だもんね~」

 

 

 

 『謝って許されるなら、誠心誠意謝りましょう。

  殴って気が済むのであれば、大人しく殴られましょう。

  ですが姉上、あなたは嘘を吐きましたね?

  あなたらしくもない』

 『私らしい? 知った風な口を!

  本当の私なんて、何一つ知らないくせに!!』

 『ええ。知りませんでしたよ。そんな事ならもっと早く言ってほしかった……というのは私のわがままでしょうね。

  見抜けなかった私にも、無邪気に期待し過ぎた私にも非はあったのでしょう。

  今だって、姉上の本当の姿がどんなものなのか、理解できているとは言えません。

  しかし……これだけは言えます。

  あなたは、大嘘吐きだと』

 『!?』

 

 

「原作だとこの辺は思いっきり感情をぶつけ合っていたが、本作では理詰め……とまでは言わないが、淡々と、理路整然と反論している。

 理由としては……2つだろうな。

 まず、筆者の能力不足。感情のぶつけ合い、そしてそれに伴う殴り合いを描き切る自信が全く無かったようだ」

 

「情けないと言うべきか、描ける方向に方向転換したと褒めるべきか……」

 

「そしてもう一つの理由は、楠の『感情を読み取る能力』が強化されているからだな。

 こういう攻略も可能だろうと判断したらしい」

 

「流石は師匠だね!!」

 

「いや、大元の原因はお前なんだが……まぁいいや。

 例に習って台詞回しはほぼ頭カラッポにして書いてたらしい。『あなたは嘘を吐きましたね』という台詞は自然と出てきてビビったとか何とか」

 

「その台詞、当時の後書きでも何か言ってたよね。何だっけ?」

 

「筆者の前作のヒロインの台詞だ。

 本作におけるお前の台詞である『私とゲームをしよう』と同レベルの名言……と、筆者が勝手に思ってる台詞だ」

 

「勝手に思ってるだけなんだね……イメージは何となくだけど伝わったよ」

 

 

 

 『分かりませんか? ならば分からせて差し上げましょう。

  今から私はあなたを倒します。その時にあなたはきっと理解するでしょう。

  さぁ始めましょう。

  手加減なんかしないで下さいね?

  全力で……かかってきてください!』

 

 

 

「こっちも後書きで言及されていたな。

 『手加減なんかしないで下さいね』という台詞も自然と出てきたらしいが……

 この台詞は麻雀漫画の皮を被った美少女異能力バトル漫画のメインヒロインっぽいキャラの台詞だ」

 

「えっと……筆者さんからの資料によれば、『咲-Saki-』の登場人物である『原村和』さんの台詞だね。

 正確には一字一句同じってわけじゃなくて、そんな感じのニュアンスの台詞があった……気がするらしいよ」

 

「内容としては意図的に手を抜いた主人公を叱り飛ばすものだから本作のものとは毛色が違うようだな。

 なお、楠とは中の人が同じだ」

 

  ※

 余談だが、咲のアニメ2期のメインキャラ3名と神のみ1期のヒロインから歩美を除いた3名の中の人が完全に一致しているという謎現象が発生している。

 まぁ、単純にその3名の声優の方がメインキャラを勝ち取れるほど有能ってだけで謎ではないし、ちゃんと探せばもっと一致してる作品はありそうだけども。

 これだけ揃ってれば中の人ネタで何か書けそうな気がしないでもない。

 

 

 

 『順調順調。

  ちょっと計画よりも早いけど、遅れるならともかく早まるならむしろ喜べる。

  妹との再開が良い方向に働いたみたいね。私が手を回す必要すらなくここまで進んだ。

  駆け魂が補足されて攻略対象として登録された時は少し焦ったけど……ここまで来たらもう誰にも止められない。

  ようやく、ようやく古悪魔(ヴァイス)が復活を果たす!!

  さぁ、古の悪魔の魂よ。300年の封印から目覚めなさい。

  不純なる新悪魔たち、そして愚かなる人間たちに裁きの鉄槌を!!』

 

 

 

「無駄に大物感を出してる小物のフィなんとかのシーンだ」

 

「……一応訊くけど、名前はちゃんと覚えてるんだよね」

 

「勿論だ。情報は大事だからな」

 

「じゃあ何でそんな扱いに……いやまぁ、私にとっては一応恨みがある相手だから別に良いんだけど」

 

「安心しろ。原作者公認で『何とか悪魔』って呼ばれてる。

 だからこの扱いも原作者公認だ!!」

 

「……そうなのかなぁ?」

 

 

 

 

 『これで……私の勝ちです』

 

  楠が静かに勝利を宣言して立ち上がる。

  踵を返して少し距離を取ると檜に背を向けたまま楠がこんな台詞を放った。

 

 『いやー弱かったです。そーぞうを絶する弱さでした。

  姉上がこんな軟弱者になっていたなんてしんそこガッカリです。しつぼーしました。

  ……これで満足ですか?

  あなたが言っていた通り、尊敬なんて捨て去りましたけど?』

 

  檜はまるで死んでいるかのように微動だにしない。

  楠の言葉はちゃんと聞こえているんだろうか?

 

 『違うはずだ。あなたは全然満足なんてしていない。

  だって……姉上は勝ちたがっていたから』

 

  ピクリと、檜が少しだけ動いた……ように見えた。

 

 『何もかもを投げ捨てて、平凡な人間として細々と生きていく。それもまた一つの道でしょう。

  でも、あなたはそれで満足できますか? 妹に負けっぱなしでいいんですか?

  そうだと言い張るなら、私から言える事はもう何もありません。私はまた間違えた、そういう事なのでしょうから。

  だけど、そうではないのなら、あなた自身が勝ちたいと願うなら……立ち上がってください』

 

 

 

「原作では『妹の視線があったから勝たなければならなかった』という心のスキマができていて、

 『その視線は強さに向けられているわけではない』という解決を行っていたな。

 本作ではよりシンプルに。『結局の所、檜はどうしたいのか』という話に持っていった。

 妹の視線なんて関係ないだろう? 負けたくないから、戦うんだと」

 

「檜さんって昔はあの師匠よりも強かったらしいもんね。妹の視線があったからっていうのも理由の一つだろうけど、本人の意志が無いとそこまで強くなれないよね。

 トップに立とうとする闘争心はちょっと間違えると今回みたいに心のスキマになっちゃうけど、それでも見習いたい精神だよ」

 

「原作だと負けてそこそこ満足してる気がするが……まぁ、二次創作だしな」

 

 

 

  ……一方その頃……

 

 『駆け魂の形が崩れた!?』

 『エルシィとその協力者にしてはなかなかやるじゃない。

  さぁお前たち、遠慮は要らない。勾留開始!

  まずは1式包魔陣で拘束しなさい!』

 

 『くっ、何て力なの!? こっちは10人がかりで陣を作ってるってのに!!

  ノーラ!! サッサと勾留してよ!!』

 『さっきからやってるわよ!! あーもう、このビン壊れてるんじゃないでしょうね!?』

 

 『キャッ!!』

 『勾留ビンが!? どうなってるのよ!!』

 『くっ、陣もダメ、勾留ビンも効かないって、どうすりゃいいのよ!!!』

 

 

 

「これだけの人数が出張ってこの程度の結界しか作れないんだな」

 

「エルシィさんの結界を見た後だと見劣りしちゃうよね。

 今のミネルヴァさんなら1人で結界を張った上で完全に閉じこめるよね」

 

(……この術式はそもそも使い方が間違っているようだな。

 より凝縮した小型の結界を直接ブチ当てて敵の体力を削るのが本来意図された使い方だろう。

 無論、こういう包囲に使えない事も無いが……効率はかなり悪そうだ。

 平和ボケした悪魔ならまだしも、角付き悪魔がこのザマでは地獄も末だな)

 

「駆け魂の対処として『とりあえず勾留』があって、その仮定で抵抗される可能性は考えてないんだろうな。

 だから、直接ダメージを与えるような方法は廃れて行ったんだろう。

 もしかすると、駆け魂を殺されたくない勢力が教科書やカリキュラムの操作をしているのかもな」

 

(……地獄も末だな)

 

 

 

 

   ……時はほんの少し遡る……

 

 『♪~♪♪ ♪♪~♪♪♪ ♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~』

 『凄いです! ちゃんと効いてます!』

 

  古悪魔(ヴァイス)の身体に大きな穴が空いた時は少し驚いたけど、相手は宿主という実体から離れた存在だから効きが良いんだろう。

  ゲーム風に言うのであれば、幽霊相手には物理攻撃は効きにくいけど魔法攻撃なら効きやすいみたいな感じかな。

  理屈はともかく、よく効いているようだ。

  いつものように完全に消滅させる事はできなくてもかなり弱らせられそうだ。そうなったらあとは上の方にいる駆け魂隊の人達に任せても大丈夫だろう。

  そう考えて私は歌いつづけた。

 

  駆け魂を真っ直ぐ見据えて、歌い続けた。

 

  だからこそ……私は気づけなかった。

  後ろの方から響いていたはずの風切り音に。

 

 

 

「……ここかぁ……」

 

「ここだ。どうする? 辛いなら軽く流すぞ?」

 

「ううん、大丈夫。

 ……ねぇ桂馬くん、私は……選択肢を間違えたのかな?」

 

「……いや、その時々での最善を選んでいた。

 この後の事は……避けようが無かった事だろう」

 

「……そっか。

 ……ありがとう」

 

 

 

 『っ!! 姫様!!!』

 

  最初に感じたのは、横からの強い衝撃。

  その直後に聞こえたのは、何かが破裂したような嫌な音。

 

  振り向いた私が見たものは……

  重なるように存在する2人分の人影と、

  エルシィさんの背中から突き出た真っ黒な刃だった。

 

 

 

「……ところで気になったんだが」

 

「えっ、何?」

 

「いや、何でエルシィはお前よりも一歩早く動けたんだろうな?」

 

「あれ? 確かに、何でだろう……」

 

(簡単な事だ。あれだけドス黒い魔力が女神に感知できない訳が無い。例え記憶が無くともな)

 

「……そういうものなのか」

 

 

 

 『今度こそその魂を消滅させ……』

 

 キィィン

 

 『……は?』

 

  空っぽになった手と、スタンロッドを振り抜いた私とを交互に見た少女が間抜けな声を漏らす。

  考える必要なんて無かった。コレは敵だ。

  まずは……仕留めてから考えよう。

 

 『っ!? 何この魔力!? あんたは一体っ!?』

 『うるさい』

 『痛っ、何コレ電気!? 何でそんな物騒なものを持ってるのよ!!』

 

 『くそっ、人間風情が、女神風情が、悪魔を舐めるな!!』

 

 『はぁ!? 羽衣を切り落とした!? ふざけんじゃないわよ!!』

 

 『あーもう! 仕方ない。覚えときなさいよ!!』

 

 『飛行魔法!? 一体どうやって……』

 『……堕ちなさい!』

 『きゃぁあああああ!!!!!』

 

 

 

 

「……お前は本当に人間かと問いたくなるシーンだな」

 

「あの時は無我夢中だったから、あんまり覚えてないんだよね……」

 

(負の感情が、魔力が爆発していたからいつも以上の実力を発揮していたようだな。

 これだけ情念の籠もった魔力を身に纏っていると心身に悪影響を及ぼしかねないが……比較的短時間だったから問題なさそうだな)

 

「そんな設定があったのか……」

 

(理力もそうだが、その発生元となる感情次第ではそういう事もある)

 

  ※

 という謎の設定を今考えてみたけど……これが生かされる日は来るのだろうか?

 

 

 

 

「ふぅ、これで終わりみたいだね」

 

「次回はいよいよ女神編……か。

 どのくらいまでコメントするんだろうな?」

 

「やっぱり分量次第、なんだろうね。

 それでは次回は『女神編"導入"』です!

 また来週~」

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