だれが私に話しかけるの? 今までは単なる雑音だったけど今ははっきりとその声が聞こえる。だんだんと大きくなる声。初めは私の独り言だと思っていたけど、今は確実に言える。これは私ではない誰かが語りかけているのよ。
まるで私の中にもう一人居るみたい。でも二重人格ではないの。私には私という同一個体の記憶しかないし記憶がとんでいるということもない。
ふふっ。また聞こえたわ。だから私は思い切って尋ねてみたの。
「ねえ、あなたは誰?」
「ワタ…ザザザ…ワタシ…ワタシハ…
「ねぇ。よく聞こえないわ。もっとはっきりと話してちょうだい」
「ワタシ…ガガガ…ワタシハ…」
「もうじれったいわねぇ。いったい誰なのかしら」
私は夜も寝ずに考えたわ。考えすぎて発狂してしまいたいこともあったし、実際に手足も縛られたわ。みんなひどいわね。無理やり薬を飲まされ頭がぼんやりしている中、ひとつの考えが私の頭に浮かんだの。
天使様が私のことを迎えに来て下さったんだわ。
「あなたは天使様なのね。私を迎えに来てくれたのね!」
「ワタシハ…ザザ…テンシ…ザザザザ…アナタヲ…
ついに私のもとへと天使がやってきてくださった。嬉しいわ。本当に嬉しいわ。これでやっと……。
思えば前から不思議な体験をしていたのよ。なんていうか、おぼろげにだけど、周りで何かが起こっているような…なんていえば良いのか分からないけど。
感覚的にはこれ!といって分かるような大雑把なものじゃなくて、そうじゃなくて微妙な、訝しくて気味悪く照らし出されたような、そんな変化があったのよ。
一体何なんだろう。私はずっと考え続けていたの。前までは親しみのあった家も街も人も、その時は何とも言えない気分に支配されているような感じがした。周りには何度もそれを訴えた。けど、この感じをうまく説明できなくて、疑惑的で、不快で、気味の悪い緊張でいっぱいだったわ。
けどね、ようやくその答えが分かったの。なぜこんなおかしなことが起こっていたのかが分かった。こういうことだったのね。
「天使様、私を早く連れていって。私はずっとこの時を待っていたの」
ザザザザ……
「まったく照れ屋なんだから! 私に正体を見破られたから恥ずかしがって喋れないのでしょ?」
安心して私はいつでもあなたのことを愛しているわ。いいえ、あなたと私は一緒になったのよ。あなたの力は私のもの。つまりこの世の何もかもが私のもの。いい気味ね。これまで私を無下に扱ってきたからこうなるのよ。
…………ああ、うるさい。うるさい。私に話しかけるな。