俺はさえない勘違い大学生だった。なぜこうなってしまったのか。そうだ。全てはあれがきっかけだ。
二浪のすえ大学に入学してまだ間もないころ、新入生歓迎会でのことだ。特に入りたいサークルもなく適当に行ったテニスサークルの歓迎会がすべての間違いであった。マンモス大学ということもあり、会場(といっても大学内のカフェを貸し切っているだけだが)に到着したころには多くの新入生がいた。
おお。このサークルについてはよく知らなかったが、可愛い子もいっぱいいるじゃん。超絶美人の子は無理だとしても、これならそこそこの彼女はできるかもしれない。人生初の彼女。そして大学生ともなれば、あんなことやこんなことの1つや2つもするだろう。
実家は同じ県内で大学までは余裕で通うことはできたけど、親を説得して半ば無理やり下宿をして良かった。これから起こりうる楽しい大学生活に胸を躍らせていたのを今でもよく覚えている。
「おぉ、よく来たな。こっちこいよー。」
おそらくサークルの先輩であろう。少しチャラい気がするが、髪を茶髪に染めていてザ・大学生という感じである。
一方、俺はというと高校の時は無口キャラを極めていた。友達はいなかったわけではないが、ごくわずかだということは間違いない。女の友達は、もちろん誰一人としていない。
だから何が何でも大学デビューをしてやろうと思っていた。幸い、この大学に知り合いはいない、はずである。最初さえよければ何とかなるだろう。
「う、うぇ~い。ど、ど、どもっ、よろしくしゃっすー!」
「お、おう。よろしくな。まぁ、適当に座ってくれ。」
決まった。これは決まった。イケイケ大学生が使う用語は9chで調査済みだ。ノリがいい後輩として先輩に気に入ってもらえたら合コンとかにも引っ張りだこであろう。
一瞬、場が凍った気もするが気のせいだな。なんせ俺は念願の大学デビューを果たしたのである。可愛い女の子と、むふふふ。
「おう新入生。俺は隆弘っていうんだ。タカって呼んでくれよな。」
隣に座った先輩が話しかけてきた。
「う、うっす。俺、
うん。完璧な挨拶だ。
「ねぇ、なにあいつの態度。やばくない?顔きもいくせに。」
「ほんとにあんなんを相手にする女がいると思ってんのかな。ギャハハ」
ん? 何かこそこそ話が聞こえるが多分俺のイケメンさに惚れたのかな。
「おい、ちょっと耳貸せよ。面白いこと思いついた。」
「いいじゃんそれ、傑作だわ。」
サークル内でもチャラいと評判のアキラがサークル長のリョウに耳打ちする。
「おう。智也とか言ったな。今日ちょうど合コンあるんだわ。8時に駅前集合な。」
「ま、まじっすか。あざーす。じゃ、ちょっと俺、支度するんでもう帰りますわ。」
まだ15時である。お前は準備に何時間かかるのかという話だ。
その場にいた全員は笑いをこらえつつも智也を見送った。
「「「「ぎゃははははは」」」」
智也の姿が見えなくなると同時に一斉に笑いが起こる。
そりゃそうである。
智也のダサい服装、寝癖と見間違われるようなワックス付きのボサボサ頭。それにあのどこぞの田舎のヤンキーかと思われるような喋り方と歩き方。大学デビューを図っているのは火を見るよりも明らかである。
「つか、アキラたちあいつに何する気なのよー。」
アキラの彼女であるミカが尋ねる。
「良いからお前も8時に駅前な。」
「え、アタシもー?まじかよー」
と言いつつ素直に受け入れる。ミカもまた腹黒いのだ。
そんなことは知らず智也は急いでいた。何せ合コンに着ていく服がないのである。急いで買いに行かなければならない。
智也は近くの服屋にやってきた。智也が知っている店といえば、いつも母親とよく来る大手格安店だけである。安かろう悪かろうの精神だ。あまり良い素材のものは置いていない。もちろん素材の良し悪しどころかセンスもないものにとっては服なんぞ着られたら万事オーケーである。
「す、すみません。服とズボンが欲しいんですけど……。」
ここにいる以上、衣類を探しに来ているのは当たり前だ。服屋に行って魚を探すものはいない。
店員は少し怪訝そうな顔をして聞き返す。
「どのようなものをお求めでしょうか?」
「合コン用の服をください。」
「はぁ、合コン…。」
店員の顔からは困った表情がうかがえる。
「そ、そうですね。このようなものはいかがでしょうか。」
すこし店内を歩いてから、店員がある服を指し示す。前にはよくわからない英字プリントが、後ろには髑髏マークが描いてある。そして胸元には服と一体になってチェーンが付いている。先には十字架のネックレス。これが合コンの服というのか。
「おぉ、なかなか良いですね。」
「それは良かったです。次はパンツですね。」
「え、パンツ? いえいえ、僕が欲しいのはズボンです。」
あわてて訂正する智也。さすがに初めての合コンでお持ち帰りができるとは思わない。いや、もしかしたらということもあるかもしれない。一応パンツも新調しておくか。
「あ、すみません。やっぱりパンツもお願いします。」
「えっ?」
「えっ?」
ようやく店員の理解が追いついた。
「パンツとは下着の方でしょうか?」
「はい、当たり前じゃないですか。」
「か、かしこまりました。それではこちらへどうぞ。」
智也は買い物を終えて店を後にした。合コン用の服を買えたので満足な様子である。時刻は18時前。
よし、買い物も終わったし時間もまだ余裕があるな。シャワーを浴びてから行こう。パンツも履き替えなければならないしな。
家に到着した。
すぐさまシャワーを浴びる智也。浴び終えるとすぐに髪を乾かす。サラサラのストレートヘア……ではなく真逆のゴワゴワ天パである。
小中学生のころはよくこの天パをいじられたものだ。
智也は思い出にふける。
俺が暗い性格になった原因の一つはこの天パのせいだぞ。でも今では合コンに誘われるぐらいだもんな。時代がやっと俺に追いついた。大学生とならばパーマをかけている人などそこら中にいるはずだ。だれも天パのことをいじるやつなんていない。
そうこうしているうちに髪が渇き、適量のワックスを手に取る。もちろん大学に入るまではワックスなどつけたことがなかった。ワックスのイメージといえば一部の不良ご用達といった感じだった。智也はちょい悪を演出している自分に酔っているのである。
よし、こんな感じ、っと。うん、ワックスなんてものは高校時代まではつけたことがなかったがネットで勉強した甲斐があったぜ。特に今日はいつもより決まっているな。
端から見たら寝癖と区別がつかない髪型だということに気が付く由はなかった。ワックスの量が多いのか、ゴワゴワとした天パは、照かりを得て一層不潔感をさらしている。それに気が付かない智也はナルシストが入っている分、余計にたちが悪い。
さぁ、そろそろかな。おっと、これでは少し早く着いてしまうな。楽しみで早く来すぎた、ではまだまだガキだと思われてしまう。二浪したのでもう二十歳だ。ここは大人の余裕とやらを見せたいところだから、あえて少し遅れていこう。