私が霧島です   作:アサルトゲーマー

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島風と雪風が揃ったからうきうきして書いた。
今は中破している。


2 しれい ヒゲ である

 霧島ちゃんの体の表面が砕け始めた。

 色素のかけらもない真っ白の肌は血の通った人の肌になり、物々しかった艤装は私とおそろいの物に変わって行く。

 ああ、私の知っている霧島ちゃんだ。

 

 艦娘が深海棲艦化すると一般にすべての記憶を失うと言われている。だが、私の目ではとてもそうは見えなかった。

 

 深海棲艦を撃沈したこと。いつものクセ。ずっと昔にやったような大ゲンカ。

 この全てが、霧島ちゃんが私の知っているままであると証明していた。

 今も霧島ちゃんは私の腕の中で、私の顔をペタペタ触りながら何度も私の名を呼んでいる。

 

「帰ろう、霧島ちゃん」

 

 振り返ると、愛しのお姉さまと榛名ちゃんが笑顔で手を振っていた。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「知らない天井ですね…」

 

 いや、一回言ってみたかったんですこれ。

 なんか比叡に抱きとめられて調子にのってベタベタ触ってたらいつの間にか気を失っていて、気が付けばこの天井である。

 

「すぴょー…すぴー…」

 

 そしてさっきから聞こえる寝息と腹の上の圧迫感。起き上がって見てみると案の定比叡がいた。

 せっかくなので撫でてみる。…うーむ、髪さらっさらやぞ。

 改めてあたりを見回すと病院の個室っぽい所だった。ここひょっとしてドックか?もっとお風呂みたいなの想像してたんだけど違ったのか。ちょっとガッカリである。

 白いカーテン、お見舞い用の椅子、なんかのキャビネット。普通の病室だな。

 

「う~ん、お姉さまぁ…すぴー」

 

 しかし比叡起きねぇ。妹は大変重たい思いをしています。だから起きてたもれ。 

 

「比叡」

「んぅ…」

「比叡、起きてください」

「すぴょー…」

「起きんかいっ」

「いてっ」

 

 霧島怒りのデコピン。比叡は目を白黒させながら飛び起きた。

 

「え?えっ?」

「おはようございます、比叡」

「あ、うん。おはよう」

 

 比叡は椅子に姿勢を正して座り直した。そして直ぐ立ち上がる。

 

「じゃなくって!霧島ちゃん!私の事覚えてるよねっ!」

「ええ、ばっちりと。こめかみに喰らった一撃はかなり利きましたよ」

「あっごめん。あれはちょっとやり過ぎだったかも…」

 

 比叡は気まずそうに椅子に座り直した。

 しょんぼり比叡が可愛い。じゃなくって。

 あれを言うためにまずは自身の最高スマイルを作り上げるのだ!スマイルチェック。1、2、よし!

 

「ただいま、比叡」

「…うんっ!おかえり、霧島ちゃん!」

 

 帰ったらまずはただいまだよね。

 

 

 

 

 それからしばらく比叡と話をした。

 記憶が穴あきチーズなんてレベルじゃなくエアインチョコレートのごとく穴だらけなこと。

 比叡と金剛と榛名のことはしっかり覚えていたこと。

 比叡の隣は私じゃないとダメだと言われた時に頭が真っ白になるほど嬉しかったこと。

 他はけっこうあやふやなこと。比叡は何度も頷きながら聞いていた。

 

「つまり、霧島ちゃんは私たちの事が大好きなんだね!」

「当然です」

「…えへへ」

 

 にへら、と比叡は笑った。こいつ可愛いぞ!

 そんなどうでもいい事を考えているとノックもしないで部屋の中に誰かが入ってきた。

 天龍だった。またの名をフフ怖系眼帯の軽巡おっぱいさん。

 

「よお霧島、体はどうだ?」

 

 まさか天龍から労いの言葉が出るなんて!内心超びっくり。嬉しく思いながら返事をする。

 

「上々ですね。ところで」

「ん?」

 

 天龍は優しい眼差しで私を見ていた。記憶喪失のフリでもして弄ってやろうと思ったけど良心が痛むので(あと龍田が怖いので)記憶の隅に残っているワードを口にする。

 

「天龍。私の傷が癒えたら、また演習でもしましょう」

「…へへっ、やっぱ霧島はかわんねーな!」

 

 ニカッと笑った天龍と拳同士ををぶつけ合わせる。ちょっと痛かったが友情の証だ。

 

 それから龍田が来て、暁型四姉妹もやってきて、妙高型四姉妹もやってきた。さらに雪風と島風と龍驤までやってきてもう大変。どうやら鎮守府に居る艦娘のほとんどがこの部屋にやってきたみたいだ。あと来てないのは金剛と榛名と夕張だけ。

 ってあれ?空母少なくね?それと潜水艦の存在は抹消(ターミネイト)されたの?

 

「キリシマー!ティータイムにするヨー!」

「お菓子も焼いてきました!」

 

 噂をすれば影がさすというのは本当のようだ。でも榛名さんや、この人数分のクッキーとかスコーンあんの?

 

「榛名!全力で焼いてきます!」

 

 無いんですか。

 榛名が出ていくと入れ違いに、今度は夕張が入ってきた。なんでも秘書艦の仕事で遅くなったとか。

 秘書艦ってーことはアレか。提督いるよな。提督…提督…。

 

 やっべ、提督の顔思い出せねぇ。

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 鎮守府に着任して3ヶ月。日下(ひげ)提督は初めての沈没艦を出した。

 それは嵐による無線の一時的な不通が原因の事故だったが、事故と割れきれずに彼は数日を悶々と過ごした。

 金剛姉妹を捜索隊として派遣したも、彼の心にはしこりが残り続けた。いくら深海棲艦化することがあると言っても確立的にはおよそ5割と言われていて、その上助け出せる確率は2割もない。さらに言えば記憶を残したままサルベージされた例は無い。

 いくら金剛姉妹が優秀とはいえ、勝率約10%程度の分の悪い賭けに勝てるなど思えなかった。おまけに記憶が無いとなれば…。

 そんな時である。

 沈没したはずの霧島が金剛型姉妹によって助け出され、その上記憶まであるという報告が彼の耳に入った。

 その事実に驚き舞い上がりそうだったが、仕事をほっぽり出して霧島に会いに行くと間違いなくその当人から怒られるのでとりあえずは終わらせてから見舞いに向かう。仕事が終わるまで提督は悶々とした時間を過ごした。

 仕事が終わるとすぐさま秘書艦だった夕張を帰して、自分も着替えて霧島の場所に急ぐ。

 見舞い先はドックとは別にある精神病錬。怪我などではなく主に精神的な傷、いわゆるトラウマなどを治療する施設である。

 手続きを済ませて霧島に充てられた部屋の前までいくと、結構騒がしかった。

 病室で騒ぐなど言語道断!…と言いたいところだがこの精神病錬自体使われることは稀で、霧島以外に入院中の艦娘も居ないのでまあいいやと思い、彼は大きくノックをしてから入室した。

 部屋中の視線が彼に集まる。その視線は霧島の物も当然あった。

 

「霧島」

 

 彼は帽子を脱いで深く頭を下げる。そして謝罪の言葉。

 

「私の作戦のせいで君を一度沈めてしまった。すまない」

 

 霧島は困ったような顔で彼の方を見ていた。

 

「それと、戻ってきてありがとう」

 

 次に感謝の言葉を贈った。霧島はじっと彼の顔を見つめている。

 他の艦娘達は霧島をじっと見つめていた。彼女がどう返すのか固唾を呑んで見守っている。

 二秒、三秒と視線を彷徨わせ、そしてとうとう霧島が口を開いた。

 

「…どちら様、ですか?」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 …………

 

 わーお。絶対今の返答間違えた。ヒゲで三十路くらいの提督っぽい人固まってるし。

 何て名前の提督ですか?って聞くのも変だと思って丁寧っぽく言ってみたらコレだよ。みんなにガン見されてて非常に肩身が狭いです、ハイ。

 なんて考えていると金剛が耳打ちしてきた。

 

「えーっと、キリシマ。艦娘の事は全員覚えていたんデスよね?」

「はい」

 

 そりゃみんなゲームのほうで可愛がってたからね。

 

「じゃあなんでテートクの事、覚えてないデース?」

 

 ゲームだと私が提督だったからですよ、金剛さん。

 ていうかさっきの人やっぱり提督だったんだね。

 しかしそんな事を言える訳は無く、必死に言い訳を探す。幸い、顔と名前以外だったらなぜか記憶にあるし。

 

「いえ、ちょっとした冗談ですよ。私も彼に思う事はありますし…ね」

 

 これも何かと酷いね。それでも金剛は疑いの眼差しをこっちに向けてくる。仕方ない、こうなったらプラン(ばくだんはつげん)で。

 

「提督の好きな事とかちゃあんと覚えてますよ。たとえば夕張さんと深夜アニメについて話すのが好きとか」

「ちょっ」

 

 これには夕張さんも反応。そりゃアニオタですって宣伝されたようなものだもんね。でも駆逐艦の皆さん以外は知ってるんですぜ奥さん。

 

「他には、暁さんとその妹さんたちを撫でまわすのが好きとか」

「あ、あんまり言わないでほしいのです!」

 

 こんどは電ちゃんが反応。恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。かわいいぜ…。

 

「後は天龍さんに間違った知識を教えるのが趣味──」

「待って!ストップお願い!」

 

 駄目押しのあてずっぽ台詞に割り込んできたのはヒゲの提督。…ヒゲ提督?

 フラッシュバックした。こいつ日下提督だったわ。

 

「何でしょう、日下提督」

「お前やっぱり記憶あるよね!?」

「さっきまで忘れてました」

「嘘はよくないぞ!」

 

 ホントホント。機動戦艦ウソつかない。

 そしてさりげなく金剛を煙に巻くことに成功。これが頭脳プレイというものよ(暴論)

 

「それより提督」

「なんだ」

 

 私は挙手礼をした。いわゆる敬礼だ。

 

「霧島、無事とはいきませんでしたが帰還いたしました」

「…ああ、よく戻った」

 

 提督も返礼し、二人とも手を下げる。

 

「本当に、もう会えないと思っていた」

「あいにく地獄は満員だったもので」

 

 はたして艦娘が死ぬとどこに行くのかは知らないが、できれば知りたくはないかな。

 

「ははは、よく言うよ」

「うふふ~」

「あはは…ん?」

 

 三人して笑いあう。ところで三人目どっから湧いてきた。

 

「ねぇ提督~?さっき、天龍ちゃんに変な事を教えるのが趣味って聞きましたけど~?」

「………えっと、その」

 

 わーお、こんぐらっちゅれーしょーん(おめでとう)。提督には龍田さんのきつーいお仕置きがプレゼントされます。

 ずるずると引きずられて部屋を後にする提督。提督の事は忘れないよ…。

 

 しかし自分が戻るべき鎮守府はこんなにいい所なんだな。エアインチョコのごとく穴だらけの記憶でもなんとかなりそうだ。

 

「榛名!焼いてきましたっ!」

 

 ここはとっても暖かい場所だ。お茶も美味しいしクッキーも美味しい。

 

「榛名ー、これ焦げとるでー」

「全力で焼きましたっ!」

「そら焦げるわぁ」

 

 前言撤回。とっても暖かい場所で、お茶が美味しい。

 

「これ以上食べたら体重が…くうッ!クッキーが!スコーンが!私を呼んでいるわ!」

「姉さん少しは自重してくださいぃ~!」

 

 私の周りにこんなにたくさんの仲間がいる。それはすごく素敵なことだ。

 

「霧島は幸せ者です」

 

 気でも緩んだのだろうか。思わず独り言を漏らしてしまった。

 だけど喧騒にまぎれてその言葉は誰にも聞こえなかったようだ。

 良かった。だって聞こえちゃってたら恥ずかしいもんね。




・しれい ヒゲ である
アメリカのクソゲメーカーLJN(死の虹)伝説の内のひとつ。映画原作ゲームであるターミネーター2も当然クソゲであり、特にOPで表れる「むすこ ジョン である」が非常に印象に残るためLJN製ターミネーター2の代名詞みたいなものになった。

・フラッシュバック
「思い出す」という意味のゲームタイトル。操作が凄まじくピーキーでシナリオもうんこ。結局ほとんど何も思い出さずにエンディングを迎える。

・プランB
米国人お気に入りのセリフ。一番有名どころのギアーズオブウォーのセリフが印象的。「プランBはなんだ?」「あ?ねぇよそんなもん」
またの名をプランBOMB。「やれ、プランBだ」→大爆発

・地獄は満員
「竜退治はもう飽きた」が無印の頃の宣伝文句であるメタルマックスの三作目に収録されている曲。このゲームを最後までプレイした人は皆口をそろえてこう言う。「竜退治はもう飽きたって言ってんだろ!」
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