破壊神の転生体に転生したそうです   作:ぴんころ

1 / 7
第一章 元々の世界
第一話


 山中を駆ける。

 

 己の生存を勝ち取るため。己がこれから巻き込まれるとわかっている”原作”と呼ばれる物語。その終点に待ち受ける世界そのものの消去(リセット)を原作のように食い破るために。

 今の己にも可能な、本来の武器の形状に合わせての訓練を、誰の目も届かないこの街中からは外れた山の中にて行う。

 

「これ、でーーーっ!」

 

 二本の木刀を使い、想像上の敵手の居合をいなしながらカウンターの一撃を叩き込む。仮想訓練の相手には困らない。毎日のようにその相手を夢に見るのだ。ジルオルなんていう疫病神が取り付いていて、その記憶を毎日のように彼の視点で、その時に彼が思っていたことまでも追想して戦いの映像を見続ける。とは言っても彼の存在が俺が訓練をする理由なので、彼のおかげで訓練の相手には困らない事実には感謝の気持ちなど一片も湧いてこない。

 

 仮想訓練の相手として生み出されている相手の名はルツルジ・ソゾア。復讐の神にして世刻望という少年の物語において最初の山場となる相手の転生前の姿。その力を完全に引き出す張本人を仮想訓練の相手にすれば、劣化にしかなれない転生体が相手であっても何ら支障はなく戦えるはずだ。

 

 俺が俺となった時点で緩んでいた封印。そういった特殊な力を感じ取るのは難しいのだが、内側から響く声に従って呼び出した力ーーー永遠神剣と呼ばれるそれを具現化する。正確には木刀をマナを行使して補強し、一時的に己が契約している永遠神剣「黎明」に近い強度にまで引き上げる。それ以上の行使をしては確実に感づかれる。これですら、おそらくはギリギリ。俺が原作に比べてマナ操作がへっぽこで引き出せる力がしょぼいゆえにできること。

 

「まずっーーー!」

 

 そんなことを考えていたからだろうか。夢想の内でいなしたはずの斬撃がいなしきれず、この肉体に届いたのは。別に勝てるわけではないのだが、普段であればもう少し粘れた。それを理解しているからこその舌打ちであり、これが実戦であれば死を免れない深さの傷となっていたであろうことからため息をつく。

 

「これで三回、か」

 

 それが、今日の仮想訓練における死亡回数。今日になってから妙に雑念が多く感じる。いいや、妙なというほどのことではない。理由ははっきりとしている。けれどその理由は己にはどうしようもないもの。時の流れによって絶対的にやってくる代物なのだから。

 

「でも、だからって止めるわけにはいかない」

 

 時の流れによってやってくることになる俺の憂鬱は、もうすぐそこにまで迫っている。物部学園という高等学校の二年生になった。学園祭の時期が近づいてきている。今日、俺のクラスで喫茶店をすることが決まった。着々とその時は近づいていることがはっきりと示されたのだ。

 

「もう一回……やる時間はないか」

 

 足りない。足りないのだ。修練が。時間が。ありとあらゆる全てが。この十年、いずれ来たる時のために常に自らを鍛え上げてきた。けれどまだ足りない。最後に相対する者は子供が思いつく程度の訓練で十年鍛えてきたからといって結果につながるほど甘い存在ではない。もっと、それこそ最低でも千年単位の時間が欲しい。

 けれど、そんな泣き言を言ってもどうにもならないと理解しているから、それ以上は口にはしない。そして、一度敗北し戦闘が途切れたタイミングで、ようやく周囲が暗くなってきていたことに気がついた。

 

「……帰るか」

 

 両親はすでにいない。フリーのカメラマンとして戦場を巡っている最中に行方不明になった。行方不明とは言っているが、もう誰もが死んだと思っている。

 今は一人暮らしである以上、別に深夜までやっていても問題はないはずなのだが、遅くまでやっていると一応は存在する幼馴染と昔引っ越してきたとある人物が色々と口出しをしてきて面倒なことになる。

 

「ああ……」

 

 天を仰いで呻く。なんで俺がこの人間になったのかと天に御坐すという神を呪う。

 よくある「巻き込まれないように」なんてことが決して通用しない存在。ピンポイントに狙われる張本人である世刻望なんて人間に。

 

 

 

 

 

「あ、望さん! お帰りなさい!」

 

「……ただいま、夕陽」

 

 家に帰ると外の時点で電気がついていて嫌な予感はしていたが、そこには思った通りの姿があった。

 

 夕陽。高嶺夕陽。正式な名前は悠久のユーフォリア。昔引っ越してきた家族の一人娘。本来ならこの時間軸には未だこの世界に存在するはずがない、エターナルの一人。

 そしてそれと同様に、彼女の両親も世刻望という男が主人公となる物語には存在しない。それなのに、今三人がこの世界に存在してしまっている。ましてや夕陽に関しては共に学校に通う仲ですらある。大前提からして崩れている現状、これから先の原作がどうにかなるなどとは口が裂けても言えない。

 

 ましてや、俺なんかがこの立ち位置にいる今は。

 

「パパとママが、望さんにって」

 

「ありがと。今度会ったら礼を言っとくわ」

 

 俺と同じように両親がいなかったからか、彼女の父親である高嶺悠人……聖賢者ユウトは俺に対して少しばかり積極的に干渉してくる。しかも、俺に関しては彼のように「家族を守る」と言った目標すらもないのだから。彼からすれば心配なのだろう。

 

 渡されたのはどうやら向こうの家庭で今日の夕飯となっていたもの。おすそ分け、ということだろう。

 

「今日も遅くまでですか? いつも何やってるんです?」

 

「……ちょっとな」

 

 内容までは語れない。むしろどうして語れるのか。俺の肩にいくつもの命がこれから先に乗ることになるんです、なんて。ただの妄言にしか聞こえない。だとしても、

 

 俺は世刻望なんだ。

 

 誰がなんと言おうと、今この世界においては俺が、俺だけが破壊神ジルオル・セドカの今代の転生体なんだ。己が永遠神剣の担い手では未だなく、まして永遠神剣という存在そのものが認知されていないこの世界で、ただ一人埒外の方法で己が永遠神剣の担い手になることを知っている異端。

 これから少し後の時間で、「光をもたらすもの」に狙われ、学園祭の準備のために学校に残っていた人物たちと共に異世界を旅して、最終的にはこの時間樹に住まう全生命を救う。そんな大層なお役目。

 

 原作のような方法ではダメだ。いくつもの奇跡に救われて、いくつもの友情に救われて、そうしてたどり着いた薄氷の勝利。ああ、そうだ。そもそも俺の救い方は原作のようなそれとは違う。その例として、俺の人格では暁とはそこまでの友情関係を築くことができていない。俺は『世刻望』というこの時間樹における希望の形の一つであっても、原作の世刻望のような男には何をどうしてもなれない。

 

「危ないことはしないでくださいね? 最近は野犬の被害が出始めたみたいですし」

 

「わかってる。死にたいわけじゃないんだ。ちゃんと危険にならないうちに帰るよ。……そういうお前もとっとと帰れよ。隣だからって言っても、そこに行くまでの一分足らずに襲われない保証はないんだから」

 

 何度も念押ししてくる夕陽を、お隣に帰るまでの間に野犬に襲われるかもしれないと無理矢理に早めに帰宅させようとしたところ、夕陽が自分の隣に視線を向ける。そこには大きめのカバンが……まさかこいつ。思い至って咎めるような視線を送る。それに苦笑いして

 

「今日、泊めてください」

 

「……最初からそのつもりかよ」

 

 ため息を吐く。彼女の両親からは信用されているのか特に何か言われたことはない。いや、あるいは母親の方が抑えているのか。とりあえず今のところは何もないが、だからと言ってそれにかまけて手を出すつもりはないし、そもそも彼女のことを好いているわけでもない。言ったら彼女の父親に殺されるだろうから言わないが、正直言って迷惑だ。できることなら彼女を放り出してまた山で修行をしてきたい。

 

「勝手にしろ」

 

 だが、それを口にして説教されることにでもなれば、彼女は決して俺から目を離さなくなるだろう予感がある。それこそ、修行を強制的に打ち切られる可能性だってあるのだ。だから、そんなことを口にする愚行はしない。

 

「俺、もう寝るわ」

 

「はい、お休みなさい!」

 

 なので、すぐに寝ることにする。もうこれ以上の訓練を行うことは今日は不可能だし、少しでも疲労を回復したい。それに、夢の中でジルオルの記憶を追体験することができるのであれば、ルツルジの幻像をより高い精度で生み出すことにも繋がる。もう、時間がない以上は有効活用しないといけない。

 

 夕陽にはいつもの部屋を使うように指示して、俺は自分の部屋に戻る。着替える時間も面倒だ。汗をかいていて気持ち悪いが、夕陽がいる以上は朝の訓練ができないので、明日の朝にでもシャワーを浴びればいいと制服のままベッドに倒れこむ。

 

 眠りはすぐに訪れた。俺にとって最も有意義な時間。吐き気を催すような血臭を夢ながらも感じ取り、そして殺意迸る戦場にて争う二人の男の姿を捉える。

 

 

 

 

 

 そして、その光景を遠くから見ている一組の男女の姿があった。

 

「どう思う?」

 

「封印されていた、覚醒済み。どちらにせよはっきりと判断しきれないところだな。マナの残り香はあれど、それが前世に覚醒した後の代物だとしたら残滓がわずかにすぎる」

 

 踊り子のような衣装を着た緑髪の女が、顔を隠した武人に問いかける。彼から返された答えに納得した女は、ならばとこの話題から繋がる次の話へと移る。

 

「それならどうする? 覚醒しているというなら、そもそも彼がこうして力を抑える必要もないでしょうし」

 

「だが、覚醒していないことを前提にしたとしても、これまで計画していたあの数のミニオンで処理させるには、あるいは完全覚醒を促すだけになるかもしれん」

 

 女は武人の言葉にニヤリと笑う。

 

「それなら」

 

「ああ。これまでよりもミニオンを始めとした戦力の補給を急ぐとしよう。奴が覚醒する前に確実に殺しきる」

 

「旅団のメンバーが邪魔をしてくる可能性はあるけれど。それでも追いつかないほどの人数を送り込んでしまえば問題ないものね」

 

 男は頷き異を唱えることはせず、女もそれをよしとしてそれ以上話を続けない。

 

「ああ、そういえば」

 

 そして、今回の話し合いに終了の兆しが見えた時、女は一つ思い出したことを口にした。

 

「なんだ?」

 

「あの、今同じ家で寝ているあの女の子。どう見る?」

 

「足運び、体幹のブレなさから見て、ある程度は何か武道を修めているのだろう。そして、わずかながらも感じる神剣反応。あれは、おそらくはジルオルのそれをわずかばかり付着させているのではないかと見る。総じて、敵にはなりえないと思うが」

 

 それは、本当にただの世間話。ただ軽い話題程度のつもりだったのだが、男はあまりにも生真面目な答えを返すのでついつい笑いが出てしまった。ただ、それも途中までの話で、ふと思い至った想像にそれは使えるかもしれないと思った。

 

「あら、もしかしたらファイムかもしれないわよ?」

 

「それならばそれでよし、であろう? 何せ、奴が我らに抗おうと力を引き出せば、その時点で奴は仲間に殺されることになるのだから」

 

「……それもそうね」

 

 そういう意味ではないのだが、と思った女だが、それで話はおしまいとばかりに二人の姿が消えていく。夜闇の中に溶けていく二人の姿は、誰も視認することはなかった。




・転生ノゾム

世刻望になってしまった一般人。
とりあえず、将来的には何がどうあっても己を発見した「光をもたらすもの」に攻め込まれるであろうことを理解していたので、少しでも自分が生き残る確率を上げるために斑鳩沙月がいる物部学園に。
来るとわかっていて対策を取らないのは馬鹿の所業だと、望になってしばらくしてからは我流で木刀による二刀流で動きを身につけ始めた。剣術だけでいうならジルオルクラス。マナで防御するところも剣術で防ぐしかない状態なので、そうなるしかなかった。なお、頭の中で思い描くルツルジくんは主人公の中でさらに肥大化されているので原作よりも強すぎ問題がある。

・高嶺夕陽ちゃん

 以前とらのあなで行われた永遠神剣ショップにて公開されていたユーフィーの日本人名。なので本文の通り、一家揃って「聖なるかな」における元の世界にいるよ!
 実は転生ノゾムという存在のせいで世刻望が辿るはずだった叢雲のノゾムに至る運命がぼやけたのでこれはまずいとローガスが投入した奇策。成功するかは謎。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。