破壊神の転生体に転生したそうです   作:ぴんころ

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第二話

「だからね、夕陽ちゃん。私は望ちゃんの前では弱くないといけないんだ」

 

 私は眼前に立つ少女。幼馴染である望ちゃん……世刻望ともっとも近しいであろう少女に告げる。きっと、彼女の方が近しいという事実に泣きそうな顔をしているだろうと思う。でも、これだけは誓ったことだから。だから、彼の前では弱い私でいないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「望ちゃん、夕陽ちゃん、おはよう」

 

「おはよう、希美」

 

「おはようございます、希美ちゃん」

 

 家を二人で出ると、そこには世刻望の幼馴染である永峰希美の姿が。俺がこの肉体に憑依したのは彼女を守るために永遠神剣の力を引き出した後。つまり、俺という存在が生まれたのは永峰希美によって世刻望が首を絞められて殺されかけた後のことなのだ。原作とは違う俺という存在がいることによって生まれた差異。少なくとも、永峰希美は俺に対して暴力を振るわない。ただただひ弱な女の子である。その理由など知らないし興味もない。

 

 ただ、世刻望と幼馴染でありこうして一緒に学校に向かう中であるとだけ知っておけばいい。俺からすれば彼女の存在は原作が始まった時に学生の死者を零に抑えるだけの役割を持った少女、というだけ。彼女の覚醒がイコールで死者の数に直結するのだから、彼女の覚醒キーであった「世刻望のピンチ」に近しい事態が発生した時に、彼女が俺の命を守りたいと思うような関係性を築いておく必要がある。そういう意味では殴りに来ないというのは悪い兆候かもしれない。

 

「夕陽ちゃんは宿題のことは心配してないけど、望ちゃんは今日提出の数学の課題ちゃんと終わらせた?」

 

「終わらせてるに決まってるだろ……」

 

 学園祭の準備が始まってからすでに少しの日付が流れている。もう、いつ「光をもたらすもの」がやってきてもおかしくはない。希美に抱きつく事件なんて発生しないしさせない。別にナルカナ相手に何かしらの感情を抱いたりはしないのだ。ジルオルにとって大事な相手であることが、そのまま俺にとって大事な相手につながるのかと言われれば首を横に振る。だから、夢の中で起きたことに対して自分から行動しようとしない。それよりもルツルジの動きを確認することの方が重要である。

 

「それならいいんだけど……」

 

「むしろなんでお前は俺が宿題を終わらせてないと思ったんだよ」

 

「だって、ほら望ちゃん。ずっと山の中にこもってるし……」

 

 うんうんと頷く夕陽。こいつらはバカなのだろうかと呆れて物も言えない。けれどそのおかしな心配を取り除いてしまわないとこれからもしつこいかもしれない。仕方ないのでため息をついて、いいかと前置きをしてから話し始める。

 

「そんなことをして怒られる時間の方がもったいないだろ。少しでも長くこもりたいんだったら、それこそ宿題をきっちりと終わらせてからの方が放課後を束縛されることはないから長くこもれる」

 

 むしろ、遅くまでこもっていたら文句を言うこいつらの方が、俺にとっては邪魔だ。だからと言って邪魔だと放逐すればそろそろ起きるであろう原作の一件を乗り越えることは難しい。原作を六章で終わらせるつもりではある。そうすれば理想幹神が出てくることはないし、俺たちが彼らに関わらなければナルが出てくることもないだろうから時間樹のリセットも発生しない。けれどもし、もしもそこから何かしらの原因で七章に続いてしまえばその時には彼女たちの力が必要となる。特に理想幹からの脱出においては夕陽の……エターナルの出力がどうしてもいる。だから、放逐できない。

 

 もう一度ため息を吐こうとしたところで、一人の女とすれ違う。見たことがない女だ。見た目からしてイャガの端末でもないことはわかる。けれど、永遠神剣の残滓を嗅ぎ取って、その女が歩き去る方向を見た。背中の半ばまで垂れている、夕陽のそれとは似て非なる生命の源たる海のような色の髪。先ほど一瞬見ただけではあったが紫水晶(アメジスト)の瞳はくっきりと。その美貌はまるで一枚の絵画のようと言われても納得できる人物だった。

 

 夕陽も同じものを感じ取ったのか、一瞬だけその美しさに呆けて、直後にきりりと眉をひそめてその女を警戒するそぶりを見せる。けれどすぐに俺と希美がいることを思い出して普通にあの綺麗さに驚いていると言った感じの表情になる。

 

「綺麗な人だったねー」

 

 唯一希美だけは、今もなお神剣に覚醒していない影響で、あの人のことをただ純粋に綺麗な人と思っていたみたいだったが。

 

 

 

 

 

 放課後、いつものように山へと行く。持ち物は水筒とそして木刀二本だけ。それ以上のものは必要ない。どうせ遅くなれば夕陽が探しに来てお説教になるから遅くても八時程度までしかできないのだから。そこまでに脱水で倒れたりしなければいい。

 

 そう思って、最低限の荷物だけを並べて、そして気づく。

 

「……今日は修行できそうにないな」

 

 いいや、あるいは修行よりも実りのある時間になりそうだ。少し離れたところからどんどん尋常ではない速度で近づいて来るわずかばかりの神剣反応を感知してそう思う。視線は感じないが最低限、俺のことを見ている人物としてこのミニオンを送り込んで来た相手がいるだろうことはわかる。けれどミニオンに気づいている様子は見せない。できる限りは原作のように進めていき、土壇場で崩す。崩せるようになりたい。

 

 ゆえに木刀を振り続け、ただその時が来るのを待った。

 

 がさりと草むらが揺れて、振り向いた途端にその内側から野犬の姿をしたミニオンが飛び出して来る。構えてはいたが途中でミニオンの見慣れた姿になったことに瞠目し、振るわれた剣をとっさに避ける。

 

 遅い、遅すぎる。俺がただの人間であったのならば避けられなかったであろう速度。けれど永遠神剣の力を引き出せる俺からすればその速度はあまりにも遅い。俺程度では本気を出すに値しないというその姿に、その傲りに怒りを募らせるも、その怒りはすぐに収まる。むしろそれよりも今の自分の動きの方が眼に余った。

 なぜ、ミニオンが野犬の姿から人型になった程度で驚いて避けたのか。いや、確かに世刻望という一般人としては何もおかしくはなかったのかもしれない。けれど俺は、ミニオンという相手ではあっても実戦を経験することができると、暁絶との最初の物部学園での戦いの時のためにわずかではあっても経験を積めると喜んだにも関わらず、己の技量で切り抜けようとすらしなかった。それが、何よりも腹立たしい。

 

「邪魔だ死ね」

 

 滑らかに、滑るようにして距離を詰めながら永遠神剣の力を引き出して木刀に上乗せしていく。どれぐらい引き出せばいいのか、なんて全く分からず、ただ己が引き出せる量を強引に呼び出していき木刀に供給する。ぴしりと嫌な音を立てて罅割れした木刀には目もくれず、ただひたすらに引き出したマナはこれまでとは比べ物にならない。きっと、皆に気づかれた。最低限、この場で何かあったことだけは。

 

 罅が入ったことはむしろ好都合。相手の攻撃を流して流して流し尽くす。これ以上の強化を行わず、ただひたすらに木刀にダメージを与えないように受け流す技術を鍛え上げる。一切の力を受け流し切ることができるのであれば武具の損傷など気にする必要もない。ましてや、永遠神剣とは違い、簡単に砕ける代物だからこそ、これはわかりやすい指標となる。

 数十の斬撃を受け流す中、いくつもあった隙の中で最も大きな隙に際して受け流したのとは逆の手に持つ木刀で首を狙う。狙いは一刀両断。普通の木刀であっては無理でも、今の木刀ならばあるいは。マナ操作を過つことなければ無慈悲に切り裂くことが可能だろう。問題は、俺にはそこまでのマナ操作ができないということだが。

 

 そうして首元へと吸い寄せられた木刀は、それ以上は先に進まず。切断性をマナによって首を狩ることができるほどにまで高めることができなかった一品は永遠神剣によって強化された表皮にぶつかって砕け散りそうになり、そこで砕け散る直前の木刀にさらに無理やりにマナを注ぎ込んだことでその首へと破壊神としての一撃を叩き込む。巨大なエネルギーを注ぎ込まれた木刀はそれで終わり。自壊しながらも、そのエネルギーの炸裂を受けた首は一気にちぎれ、吹き飛ぶ。

 

「……っ! ……はぁ」

 

 死んだことを確認してため息を吐く。己の実力が全く足りていないことを自覚しての無様さへのため息は虚空へと消えた。

 

 

 

 

 

 望さんがいつものように山籠りに行く中、あたしは希美さんと二人で帰路についていた。望さんの家の隣にあたしたちの家は位置している関係で、お隣のお隣というある意味では幼馴染に近い関係。きっと、この人は望さんのことが好きなんだろう、と思う。見ててもあの人のことが好きなんだってわかる。けどそれと同時に何か悲しそうな目で望さんのことを見ていることもある。

 

 なんでだろう。

 

 あたしと違って、気持ちを伝えることに何も問題がないはずなのに。

 

 あたしは、好きになった相手がいたとしても、その気持ちを伝えることができない。気持ちを伝えたとしてもその相手と生涯を過ごすことはできないのに。

 

 それがずっと前から気になっていて、そして今、問いかけずにはいられなかった。

 

 そして、問いかけたことを後悔した。

 

「私、ね」

 

 その話の始まりはまるで罪の告白のようで。

 

「昔、望ちゃんのことを殺そうとしたことがあるの」

 

 その言葉の意味は、最初はまるでわからなかった。

 

「え……希美さんが、ですか?」

 

「うん、そう」

 

 信じられない。だって、希美さんだ。望さんのことを好いているだけで、望さんみたいにこの平和な時代に、永遠神剣の戦いに巻き込まれているわけでもないのにただ己の剣術を積み上げることに邁進している修羅に微妙に足を突っ込んでいるんじゃないかと思うような人とは違う。

 

「昔、夕陽ちゃんが引っ越してくる前。望ちゃんのお父さんとお母さんが生きていた頃。その頃に、永峰家と世刻家でピクニックに行ったの」

 

 語られるのはあたしの知らない頃の二人の話。ちょっとヤキモチを焼きたくなる気持ちもあるが、今はそんな茶化す場面ではない。

 

「その時にね、野犬に襲われたの。それを望ちゃんが追い払ってくれて」

 

 ーーー気がつけば、望ちゃんの首を絞めてたの。

 

 そう語る希美さんは本当に苦しそうで、今でもそのことを悔いているのがよくわかる。話を聞くに、彼女自身どうして首を絞めようとしたのか今でもわからないままらしい。追い払ったのを見て、そして意識が飛んで、気がつけば首を絞めていた、と。

 

「それからなの、望ちゃんが今みたいに山籠りするようになったのは」

 

 きっと私に殺されるかもって危機感を覚えたからじゃないかな、とこぼす希美さん。

 

「でも……でもね、夕陽ちゃん。私がもしも、望ちゃんを殺せないくらいに弱い女の子でいたら。もしかしたら望ちゃんが昔の優しい望ちゃんに戻ってくれるかもしれない」

 

 彼女は少し先に進んで振り返る。その顔は夕焼けのせいでしっかりとは見えなかったが

 

「だからね、夕陽ちゃん。私は望ちゃんの前では弱くないといけないんだ」

 

 それこそ、告白する勇気も持てないほどに心が弱い女の子で、と。言葉もなくそう続けた彼女の声は涙ぐんでいた。

 

 男女の一世一代の大勝負である告白。それを行えるぐらいに心が強いのならばきっと、彼の心は忌避感を持つ。勇気が出たのならばあとは行動するだけなのだ。行動に移したことで、初めて勇気を持っていると周囲にわかる。告白する勇気を持った相手が、一度実行しようとした前科がある殺す、ということについての勇気だけを持てないなんて信じられないだろうから、と。

 

 それが、昔から彼女を知る身としては悲しかった。




・オリノゾムくん(略してオリムくん)

 最近の悩みはジルオルの動き以外で二刀流の見本がないこと。己を過小評価しているので「ルツルジに見切られて殺される」と今も思っている。ちなみに武器を一本にする系の動きは捨てた。二刀流の動きが基本となるのに大剣の動きまで覚えきれるか! とのこと。エクスプロード、カタストロフィ、ネームブレイカー、イモータルウィルは泣いていい。

・希美ちゃん

 かつて野犬事件の時に殺そうとしたことは覚えている。望が死にかけたその時にオリムくんが憑依したのだが、そうとは知らない希美ちゃんは「自分が殺そうとしたから、殺されないように強くなろうとし始めた」と思うしかない。しかもそれをするたびにどんどんこれまでの望ちゃんから離れていくのだ。そうして考え抜いた結果、自分が望ちゃんを殺せない弱い存在であればきっと昔の望ちゃんに戻ってくれると信じて演じる健気な子。ただその健気さが報われることはない。すでに元の望はいないのだ。こんなかわいそうな女の子にするなんて、この作品の作者には人の情がないのか!!
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