「王城ごと消しとばしましょう」
それは、リリアが仲間に加わってから数日後のこと。俺たちが歩いて手にしたいくつかの情報を元に、いかにしてこの世界からの脱出を阻むプロテクトを破壊するのかという話になった時のことだった。斑鳩先輩の過激な発言に目を細める。けれど否定はしない。
「生徒たちは常に殺される側よ。この世界ではどうしようもなくものベーに閉じ込め続ける必要がある。そしてそのこと自体は、生徒たちに目撃してもらった世刻くんたちの様子からちゃんと彼らもわかってくれているわ」
けど
「納得していても、それがストレスにならない理由はない」
「その通りよ」
俺の発言に頷く斑鳩先輩。つまり可及的速やかに、この世界を覆うプロテクトを解く必要がある。そうでなくては秩序が崩壊する恐れがある。それに加えて、彼女も俺たちが情報を手にしようとしていた時のことを目撃していたらしく、仲間が殺され使役さえていたという事実に隠しきれない怒りを抱いていることが見て取れた。幸いにも、話までは聞き取れなかったようだが、それでも人里に降りられないという事実は彼らにも伝わり、それが精神を苛んでいるのだ、と。
「この国で鉾を扱っている、王族に対してクーデターを引き起こしたというダラバという男は、あの時学園を狙ったやつらの仲間とみていいわ。だからこそ、確実に消しとばす。わざわざ勝負になんて持ち込む必要はない。このプロテクトの関係上、外にプロテクトを展開する装置を持っていくのは不可能よ。私たちを逃さないために、確実に手元に置いてあるわ。そうでないと、誰がいつ裏切るかわかったものではないもの」
「それで王城ごとダラバを殺して、プロテクトの装置を破壊するってことですか」
「ええ、何か質問は?」
ぐるりと辺りを見渡した斑鳩先輩だが、特に何事もないようなのでそのまま会議は終了。ダラバに従う兵士たちも、加担している以上は見逃せないということだろう。たとえどんな事情があろうと、それは悪事に加担する言い訳にはならないと。
そしてすでに、どのような手段を取るかは決まってはいなかったが、会議が始まった時点でダラバのいる本拠地、グルン・ドレアスを目指していた。地図は、以前の隠れ里にあったのを拝借してきた。王政である以上は、彼の本拠地も王城であろうという単純すぎる思考。けれど原作では、カティマ=アイギアスを待つ必要性があったために一致していたそれを、今この時に至ってまで信用してもいいものか。確実に、カティマ=アイギアスは死んでいる。そうでなければ彼女がダラバに従う理由がない。
もうこの世界で俺がやることはない。あとは夕陽が一撃で王城ごと消しとばすらしい。そんなことを平然と言えるからこそのエターナルなのだろうが、より確実性を取るのであれば夕陽ではなくリリアに任せた方がいい。しかしその夕陽がやると宣言して、それをリリアが受け入れ、最悪の場合は自分がやると斑鳩先輩に上奏した。故に、今回の夕陽に任せるという案は可決されたのだった。
「夕陽ちゃん、大丈夫?」
リリアは、会議が終わり生徒会室を出て隣を歩く少女に話しかける。
「はい、大丈夫ですよリリアさん」
平然、などとは断じて言えない。夕陽はすでにどこか暗い表情で、今からやることを自覚していないとは思えない。それでも、彼女が自分で鏖殺すると選んだ理由がわかっていないわけではないために、リリアは何も言えない。
「そうです。……ここでちゃんと敵対している相手を殺せないと。そうじゃないと置いていかれちゃう……。大丈夫……あたしはできる……」
自己暗示までかけて、敵対勢力を鏖殺できるから心構えの問題で置いていかれることはないと証明しようとする夕陽の姿。それを、原作の「皆の妹」と呼ばれた彼女のことをテキストという形ではあっても知っているために、リリアはいい表情をしない。けれど、彼女自身が決めた以上、特に関係のない自分が口出ししてもいいとは思えないためにその言葉は彼女の耳には届かない。
「二人とも」
「望くん」
「望さん」
そこに望の姿が見られた。生徒会室から出てきた彼は、いつものように暗い目をしている。けれどそれによって、夕陽の表情がいつものように戻る。女の子の「惚れた男の前では綺麗でありたい」という見栄のようなもの。それをリリアは認識して、今もなお優しい夕陽のままであることを理解する。
「そろそろ俺は出る」
少しでも相手の恐怖を煽るため、望は今回単騎で大量のミニオンを蹴散らしながら進軍する役目を持つ。罠とわかっていても対処せざるを得ないように、ダラバのために命をかけるのを惜しむ輩が逃げるだけの時間を取ることができるように。そういった面では未だ沙月は人間味を確と残していた。
「うん、気をつけてらっしゃい」
「死なないでくださいね……望さん」
今回の目的となる王城の吹き飛ばし。それを実行するつもりならば夕陽とリリアは動くことができず、希美、沙月の二名はこの学園における重要人物にあたるので外にそう簡単に出せるわけがない。そして、望に関しては実力だけでいうなら先の夕陽、リリアの二名には劣り、重要度で言えば沙月、希美とは比べるまでもない。ましてや破壊神という厄ネタが付いていることを思えば死んでこいと命令されないだけ有情というものだった。
そうとはわかっていても、知り合いが一人で戦場に向かうことなど、ましてやその知り合いがつい最近初めて戦闘を経験したばかりの自らの好きな相手である事実を、未だ子供でしかない夕陽が受け入れられるはずがなく。けれど望を失望させないためにそんな言葉を放つのが限界。
頷いた望が遠ざかるのを見て、祈るように手を合わせる夕陽の姿だけがそこに残った。
疾走する。
街中にまで一切の減速を行うことなく、姿を視認して門を閉じようとする衛兵たちごと門を吹き飛ばして入り込む。同時に物陰から刺突の構えで突撃してきたミニオンは視認すらせずに切り捨てる。それを確認して、周囲の建物から大量のミニオンが現われ出でる。ミニオンが出てきた建物に住居も存在したことから、その家に元々住んでいたであろう人物がたどった結末を思いーーーどうでもいいことだと切り捨てる。
マナの脈動。同時に数体のミニオンが飛び込んで斬りかかってくる。跳躍して上から襲いかかるそれは左手の剣で、それと同時に正面から突っ込んでくる個体たちは右手の剣で全て同時に一刀両断。そして殺到するいくつもの赤属性の紅蓮の神剣魔法。ミニオンを隠れ蓑にしての神剣魔法こそがミニオンたちの狙い。すでに剣は振り切った後。どうあがいても避けることなど不可能であり、防御のためのマナを練り上げる時間もない。端的に言って絶体絶命の窮地を、望はその澱んだ瞳で見つめたまま、
「緩い」
両手の剣を一度消して再度出現させる。けれど右手には何も握られていない。握られた左手側の剣と、そしてその剣とは別に左手の薬指と小指に挟まれた、先ほどまで右手で握っていた剣。反発するそれら二本の剣の間に生まれた力を後押しに、本来ありえない加速を得て左手の剣を一閃させる。すでに二本の指で握っていた剣は消失し、右手に出現している。破壊神の力を乗せられた神剣による薙ぎ払いは、一切合切に破壊をもたらすにふさわしい嵐を巻き起こす。
「破壊神の力を舐めるな」
巻き起こされた破壊は神剣魔法だけではなく、さらにはその後ろから襲撃しようとするミニオンたち、さらにその後ろから殺到する神剣魔法の全てをも薙ぎ払う。犠牲を省みない多段攻撃。並の神剣使いでは一人で切り抜けることは不可能なそれを、けれど破壊神の異名を持った男の転生体である望は純粋な力のみで圧倒した。
視界にはミニオンは映らない。圧倒的なまでの力。それによりすでに街は崩壊している。すぐには人が住めないレベルの破壊を見渡して、けれど心には何も思わない。望は歯噛みする。この力をまともに収束させることのできない己に腹がたつ。ルツルジという神の特性上、己の全能力を以てしても圧倒できるとは限らない。それを倒すことを当面の目的とする以上、こんな無駄なまでの破壊を撒き散らすのではなく、ただミニオンのいる射線上のみを薙ぎ払えばよかったものを。それができないのはまだ未熟なのだと。
「次の街……」
けれど今は立ち止まるわけにはいかない。街ごとに圧倒的な、見て取れるまでの破壊を巻き起こせばダラバはどうしようもなく己を警戒する。警戒せざるを得なくなる。少なくとも、ダラバ=ウーザという神剣使いが個人で巻き起こせる破壊はこれ以下だろう。いくら己が未熟とはいえ、破壊を巻き起こすことを本領としない剣の神の転生体がそう簡単に引き起こせても困る。己に届きうる刃を持つものだと認識する必要性に駆られるはずだ。そうでなかったとしても、エヴォリアがジルオルの転生体の実力を危険視する。ミニオン……鉾を融資してもらっているのだから、彼女の言葉を無下にするわけにはいかない。
故に走る。次の街へと向けて。
望が目立てば目立つほど、彼らは無視できなくなる。それは、一つの街全体に潜むミニオンを退治した程度では足りない。いくつもの街に大量に配備されたミニオンを、全てたった一人の神剣使いが駆逐していく。そんな、圧倒的な戦果だからこそ目に留まるのだ。そして、その隙に王城に近づくものベーから夕陽が狙い撃ちにする。
そのために疾走する。いくつもの街を、住民が排されたミニオンの巣窟となった街を破壊しながら。
合わせて十に近い村、街にて暴れまわったところ、遠くから強大な神剣反応を望は感知する。以前のリリアのそれには及ばないものの、ただの神剣使いでは決して簡単には出せないであろう力。それを感知して、夕陽が狙撃したんだなと考えて、今の街にいた最後のミニオンを切り捨てる。
そうして足を止めた。
これ以上、見られている危険性のある中で力を振るう価値もない。あとは迎えが来るのを待つだけだ。来なかったら……其の時は其の時。裏切ったことを後悔させるだけだ。破壊神とまで呼ばれた力。世界の壁の一つや二つ、簡単に砕けるだろうから。
「……疲れた」
腰を下ろす。ここまで長い時間命をかけた実戦を行ったのは初めて。それも休みなしの強行軍。終わったことを認識して気が抜けたのかもしれないと望は思い、ただ終焉を告げる間抜けな鳴き声を待つのだった。
・剣の世界編
まさかの早すぎる終了。でも、こっちもかなり精神的にはギリギリの生徒たちを抱えていて、メタ的な視点でここに「光をもたらすもの」が協力しているということを知っていて、世界から出られないのはダラバのせいだと知っていて、カティマは敵方。これはもう、王城ごと吹き飛ばせという天からのお告げに違いない。やったね民衆! 王族もレストアスもいないからもうこれ以上の災難が襲い掛かることはないよ!!