ヤマトの宅配便 作:黒っぽい猫
仮面ってロマンを感じる。
2023年2月18日
第16層 北西の村《フォート》
攻略組達がなぜか血涙を流しそうな勢いでボスをフルボッコにする事で、15層が攻略されてから丸二日が過ぎた日の朝。だだっ広い草原が広がり続ける16層も、無事にフィールドボスが攻略され、昨晩には迷宮区へと足を踏み入れるプレイヤーが現れ始めた頃。というか俺が足を踏み入れた。
15層とはうって変わって非常にのどかな層。朝の日差しは柔らかく、夜は爽やかな風が草原を揺らし、さわさわと心地の良い音楽を奏でる。出てくるエネミーを含め、どこか1層に似た印象を受ける。
ひょっとすると、この層は1層とリンクしていて、この層を攻略すると1層にクエストが新しく解放されるかもしれない。確か北東のマップにクエストのない一軒家があったはず。β版の時も色々とクエストが無いか検証班が動いてたっけ。
朝日に照らされた村から迷宮区の方面へのんびりと歩いていると、ふと前方に見知った顔、もとい仮面が歩いていることに気がつく。現在の時刻は午前六時半過ぎ。まだ疎らな人影の中で、ヤマトは一際目立っていた。
「あれ、キリトさんじゃないですか」
俺に気付いたヤマトは、どもどもー、と軽く手を振りながら歩いて来た。先日会った時は俺が座っていたから実感は薄かったが、改めてこう向かい合ってみるとやはり小さい。背は俺の胸元あたりまでしかない。
このゲームに年齢制限はあるが、それよりも下かもしれないとなんとなく考える。
「いやー奇遇ですね。と言っても最前線に一番近いこの村にキリトさんがいるのは当たり前ですかね」
「まあ、俺も一応攻略組だからな。俺からすればヤマトが
道の端に寄って通行の邪魔にならないようにしつつ、そこにあった石の段差に二人で腰掛ける。ひやりとした石の感触が臀部から伝わって寝起きの頭を刺激した。
「いえ、さっきまでは情報収集です。このあとは新しいお客様に会いに行くんですけど、輸送屋のお仕事はまだまだマイナーなので、殆どお仕事ないんですよねー」
ヤマト曰く、信頼できる人からさらに信頼出来る人を紹介してもらう事を繰り返して、顧客を広げていくつもりらしい。オレンジプレイヤー等の面倒な客を少しでも避けるつもりらしく、紹介される前にヤマト自身もそのプレイヤーの情報を集める等、かなり慎重に客を広げるとの事だ。ちなみにその『客』は発送側に限るらしく、受取側に制限はないらしい。受取に問題があった際、責任を負うのは発送側のプレイヤー、としている。
現在はまだ客が少ないと大袈裟に肩を落とし、落胆を示すヤマトを見ると、その振る舞いと対比されて無表情な仮面が否応無しに気になる。この前は結局聞き忘れていたため、なぜ仮面なのかも分からないままだった。
「なあヤマト、なんで仮面を付けているんだ?」
当然、顔を出さないプレイヤーも多い。ロールプレイの一貫だったり、プレイヤーの情報を隠し不要な恨みを買わないためだったり。
けれど、頭部装備としての仮面をするプレイヤーは珍しい。バンダナ系と違って視界が限られるデメリットがあるし、視界が限られる装備ならば防御力の高く隠せる範囲の広いヘルム系が人気だ。更に言えば、仮面自体がかなり希少であまり流通しない。しかも大半が気色悪いものだったり性能がイマイチだったり、マイナス要素は枚挙に暇がない。
加えて言うならば、客商売をする以上は顔を出しておいた方が信頼を得られる。顔を出していないプレイヤーでは、何かやましい事がある、と思われても仕方ないだろう。もしくは商品の持ち逃げなど。
「あ、キリトさんにはまだ説明してませんでしたね。実はこれ、輸送屋をやってる理由の一つなんですよ」
「え?」
思わぬ返答に口から驚きの声が漏れた。ヤマトは一つ首肯して、よっ、と立ち上がって俺の前に立ち、自身の仮面を指でコツコツと叩いた。
「この仮面、呪いの装備なんですよ。装備すると外れないっていう、某有名RPGと同じやつです」
「呪い……初めて聞くな」
「ですよねぇ。正直、他の人で呪いについて知ってる人まだ見かけた事ないんですよね。
装備としても微妙なので早く外せる方法を知りたいんですけども……」
仮面越しにため息が聞こえる。中で蒸れることは……フルフェイス型のヘルムでは蒸れないから、多分仮面でも蒸れないのだろう。茅場はリアリティを追求する割に、変な所で便利で、それに呪いなんていうスピリチュアルな物が存在する世界を作ったものだ。
俺は変な方向に逸れそうな思考をかぶりを振って払う。
「でもそれってかなり危なくないか? 装備してみたら呪いの装備で、外すことが出来ないってのは。もっと広く知られててと良いと思うんだが」
「……多分危険は薄いと思うので大丈夫です」
「なぜ?」
「この装備のステータス欄にちゃんと『装備時に呪い(頭)(頭部装備を外すことが出来なくなる状態)を付与』って書かれてるんで」
「いやなら装備するなよ」
「ついうっかり」
「うっかりし過ぎだろ……」
感じるはずのない頭痛を感じて頭を抑えた。装備を外すことが出来ないのはかなりのデメリットだ。特に仮面という装備が最悪だろう。今後何か優秀な装備が出て来ても装備出来ないことに加えて、常に視界に制限がかかる。
「その装備、破壊するのは無理なのか?」
「耐久力無限の
「なぜそこだけ優秀……」
装備としてのステータスは微妙で、視界を制限し、装備すると二度と外せない。プレイヤーにとってはまさに呪いだろう。
「つまり、輸送屋はその呪いについての情報を集めることも目的の一つ?」
「いぐざくとりー! こうやって人脈を広げて情報収集ってことです。まったく、教会で呪いが祓えないなんて酷いですよねー。あ、でもそれを言ったら冒険の書にセーブするのも死んだ仲間の復活させるのも出来ないですね」
ヤマトの言う教会とは、おそらく10層の主街区にあった教会の事だろう。女神像のような破壊不可能オブジェクトが前方に置かれており、中には神官と名乗るNPCがいる、ステンドグラスが美しい建物。何の神を祀っているのか知らないが、その見た目からプレイヤーには教会と呼ばれている。
それはそれとして、不謹慎な事を言いながらあっはっはと軽く笑うヤマトをジトッと見つめると、流石に悪いと思ったのか笑いを引っ込めて一つ咳払いをした。
「と、という訳で、呪いに関する情報は募集中ですよ! 呪いについて知ってるプレイヤーがいたら是非教えて下さいね。呪いに関する情報は高く買いますよ?」
「残念ながら仮面の情報は持ってないけど、俺の持ってる最前線の情報はどうだ?」
「え、それはありがたいですけど、良いんですか? アルゴさんの方が絶対高く買ってくれますよ?」
「アルゴが?」
「あの人よくボッタクリだなんだ言われてますけど、アルゴさんの売る情報は安すぎますし、情報を買うときはビックリするぐらい高く買ってるんですよ?
あれ、多分採算取れてないと思いますよ。大半の情報の裏付けも自分でやってますし、かけてる時間に対しての儲け少なすぎますねー。しかも儲けなんて攻略本作るのに全部吹っ飛んでるでしょうし」
かなり意外な話だった。鼠のアルゴと言えば『五分話すと五百コル抜かれている』『守銭奴』『鼠には財布の底を食われる』『安心の情報の精度、お財布の不安』などの代名詞があるほどだ。しかも本人もそれを否定せず、笑って肯定している。
「アルゴさんが金にがめついみたいな噂、発信元アルゴさんですよ。協力したんで間違いないです」
「って、お前も広めてたのかよ!」
「いやー、紆余曲折ありまして。あ、これ他の人には秘密でお願いしますね。アルゴさんから口止めされてたんで」
「なら言っちゃダメだろ情報屋」
「おぉ、ぐうの音も出ない正論。いやまあ口止めと言っても、信頼出来る人には話しておいて良いとも言われたので。
というわけで、こんな安心出来ない情報屋には情報を売らずアルゴさんに売ることをお勧めします」
そう言うとヤマトは右手を振って──おそらくステータス画面を開いたのだろう──あ、と声を漏らす。同時、広場には七時を告げる鐘が鳴った。牧歌的で穏やかな、それでいて澄んでいて遠くまで響く、心安らぐ音だった。
「だいぶ時間経っちゃいましたね」
「あー、そろそろ俺は行くよ」
腰を上げると、座っていたせいか仮想空間にも関わらず何となく腰が痛い気がした。もちろん幻痛だが、やはりリアルでの生活の名残のようなものとしてこのようなものは多い。
「んじゃ、キリトさん攻略頑張って下さいね。新しい層が解放されるの楽しみに待ってますよ」
「すぐに解放されるからそれまでにこの層の情報集め切れるといいな」
「おっ、なかなか言いますね」
ヤマトは楽しそうに笑いながら、俺もニヤリと笑みを浮かべながら、少しずつ離れて行く。手を軽く振って別れ、俺はそのままフィールドに出た。
振り返ると、そこには朝日に照らされる街並。既に先ほどまで話していた仮面は無くなっていて、数人のプレイヤーとNPC達の店の開店準備の様子だけが見えた。
第?層 某所
「どもー、おはようございます。いやー清々しい朝ですね」
「あっはっは、情報屋やってるんですよ。頑張って探しました」
「大丈夫ですって。守秘義務は守りますから」
「まぁまぁ落ち着いて。とりあえずお話だけでも聞いてから判断してくださいな」
「あなたがリーダーさんですね? どうもはじめまして、輸送屋と情報屋やってるヤマトと言います」
「さっすが話が早い」
「ええ、両者の合意のもと荷物の運搬やりますよ。もちろん情報屋として情報を売るのもやりますよ? あ、守秘義務は守りますのでみなさんの情報も伏せます。ご安心を。値段次第ですけど」
「目的、ですか? いやー、実はこの仮面呪われてまして、装備してから外せないんですよ。説明文にちゃんと書いてあったんですけど、ついうっかり。
と、言うわけでこの呪いの解き方について知ってるプレイヤーを探してるんですよ」
「はい? いやまあ、それぐらいなら全然良いですよ。あ、そのかわり受け渡し場所は考えて下さいね」
「おっ、それはつまりサービスのご利用を決めた、と言うことで?」
「……にひひっ、では今後はよろしくお願いしますね。どうぞご贔屓に」
最後みたいな露骨なやつじゃなくて、本文にちょっとずつ伏線を張っていくのって難しいけど楽しい。いやどうせ読者様にはバレバレなんでしょうけど。
次はいつになるか未定。
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