ヤマトの宅配便   作:黒っぽい猫

5 / 8
・やっとイベントのボス戦です。展開トロくて本当にすみませんでした。

・あらすじを工事して削ったり足したりしましたが本編に支障はありません。

・ちょっと修正して蟹のサイズをデカくしました。

・途中、性別おかしくね? と思う部分があるかもしれませんが仕様です。ついでに特に深い意味もありません。後々どうでも良いような閑話が書きたいだけです。

・新元号の令和、個人的には好きです。


5.をという文字でゲシュタルト崩壊を起こしやすい

 2023年5月15日

 

 第28層 迷宮区 フロアボス部屋前 

 

 

 

「はあ……」

 

 隣から、深いため息が聞こえた。これで今日は24回目のため息。本来ならば鬱陶しいと思うのだろうが、私はどうにも心配の方が先に立っていた。

 

「あの、ヤマトさん本当に大丈夫ですか?」

 

 今はボス戦前の開けた場所での最終休止。これが終わればいよいよボスとの戦いが待ち受けているのだが、彼女がこんな様子でボス戦に臨めるのか──という心配ではない。

 

 道中での戦闘では動きに精彩を欠くどころか、敵を見つけるやいなや鬱憤をぶつけるように猛攻を繰り出していて、全く危なげのない戦いをしていた。

 

 では何が心配かというと単純な事で、彼女が悩んでいるということが心配なのだ。昨日今日の付き合いではあるが、同じ食卓を囲んだ仲、明るい性格、SAO内で珍しい同性プレイヤーということもあり、個人的に好印象を持っているプレイヤーである。

 

「あー、心配して頂いてありがとうございます、アスナさん。大丈夫じゃないけど大丈夫です」

 

「ふふっ、なんですかそれ」

 

「お金がぁ……」

 

 がっくしと肩を落とすヤマトさんを慰めながら、少し前の会話を思い出す。

 

 

 

 そもそも、今朝ヤマトさんと出会った時から既にこんな感じだった。初めはなんとなく触れちゃダメかなーと思っていたが、道中にあまりに頻繁に溜め息を吐いていたので聞いてみると、どうやら昨日の食事会が終わった後、装備を揃える時にやらかしてしまったらしい。

 

「昨日、予備の短剣を買うときにNPC店で買ったんですけど、NPC店で買う時ってウィンドウでボタン押して数を調整するじゃないですか。

 

 あれで上と下間違えた結果、所持金で買える限界まで短剣を買う事になりました。

 

 ……今、残金23コルですよ。なんですか23って。所持してる短剣の本数の方が多いですよ。《シルバーダガー》87本とかどうするんですかマジで。いや、売ろうにも損ですし、武器として十分使えるので使い潰しますけど」

 

 幸いにも短剣を買ったのは最後らしく、ポーション類等他に必要な物はあらかた買い終わっていたので、ボス戦参加には支障が無いらしい。

 ちなみに28層で新たにショップに並ぶ様になった《シルバーダガー》だが、その耐久力がかなり高い事でつい最近話題になった。

 87本も使い潰すのにどれほどの時間が掛かるのか──それは考えないようにした。

 

「ほら、もうすぐ休憩も終わりですし切り替えましょうよ。ボス戦で稼ぎ直しましょう」

 

 リンドさん達が立ち上がり、周りのプレイヤーも装備を整え終わって集中を高めている。

 いよいよ、ボスとの戦いが始まる。

 

「頑張ります……

 

 蟹、ぶっころ」

 

 

 ────始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スイッチ!」

 

 ソードスキルを当てた反動で下がった私と入れ替わりに、ヤマトさんが後ろから飛び出す。鈍色の蟹が繰り出す横殴りの鋏を短剣でそらし、そこを起点に演舞のような戦いを始める。

 

 ────巧い。

 

 ポーションを飲みHPの回復を待ちながら思う。

 昨日、そして道中と見てきた戦闘でも理解していたが、ヤマトさんの戦闘スタイルを形容するならば『(たく)み』がぴったりだ。攻撃を受け流し、利用し、そして相手を翻弄する。

 その動きは時折アクロバティックで、一歩下がって見るとやはり美しい踊りのようでもあった。

 

「アスナさーん、そろそろ行けますかー」

 

 飛んで跳ねて屈んで回って這い蹲って飛び上がって。そんな激しい動きの中での間延びした声がなんとなくおかしい。

 自分のHPゲージを見ると十分に回復が終わり、ちらりとその下のヤマトさんのHPバーを見ても、やはり殆ど削られていない。

 それを確認し終わってから、私はヤマトさんに返答をする。

 

「行けますよー!」

 

「んじゃ、そろそろひっくり返すんでとどめお願いします、ねっ!」

 

 ヘヴィクラブの振り上げた鋏に合わせて打ち込まれたヤマトさん短剣によって、蟹はバランスを崩して後方へとひっくり返る。

 

 さらけ出された白く柔らかいお腹(弱点)に二人で同時にソードスキルを叩き込み、ヘヴィクラブをポリゴンへと変える。

 

「それじゃ、次の湧き出しまでまたボスの方に行きますか」

 

 先ほど倒したヘヴィクラブでひとまず取り巻きは全滅した。ボス戦開始時に加えてボスの5本あるゲージを一本削るごとに取り巻きが湧き出すこの戦いで、取り巻きを殲滅したのは3度目だった。

 

 AGI極振りのステータスを活かして走るヤマトさんを後ろから追いつつ、ボスの方へと向かう。

 

 ボスである《ザ・ブレードパニッシャー》のゲージは既に3本目の殆どが削られていた。また周囲を見る限り各パーティは上手く機能していて戦線は安定している。

 

 私が戦線に加わろうとボスに辿りつく直前、私は制動を掛けて後ろに跳ぶ。キチキチと気味の悪い声を上げながら、ボスが長さ4メートルはあろうかという鈍色のクレイモア(大剣)のような腕を振り上げた。

 振り上げられた右の腕の(そば)にいた大盾使いが前に出て、近くにいた他のプレイヤーは大盾使いに加えて大盾使いの後ろに一人を残して散開した。次の瞬間、振り下ろされた大剣は予定調和のごとく大盾へと吸い込まれ──

 

「っらァッ!」

 

 金属同士がぶつかった甲高い音を立てて弾かれる。

 

 裂帛の気合とともに発動された初級盾スキル《反撃の盾》と大盾使いへの僅かなHP(貫通ダメージ)を対価に腕を弾かれた蟹は、まだバランスを崩し切るには至らないが、体の右側が少し浮き上がった不安定な状態になる。

 そして盾使いの後ろから一人のプレイヤーが巨大な戦斧を引きずり、ソードスキルの燐光を纏わせながら飛び出す。目指すは一点、バランスが崩れた右側のクレイモア。

 

「よいしょッ!」

 

 振り上げと同時に発動された両手斧スキル《スマッシュ》がクレイモアに打ち付けられ、元々体勢を崩していた蟹はその巨躯をついに支えきれなくなり、大きな音を立てながらひっくり返る。

 

「かかれえええええ!」

 

 リンドさんの指示が飛ばずとも、散開していたプレイヤー達は弱点を剥き出しにしたボスへと斬りかかる。ジタバタと暴れる蟹が振り回す腕と脚、計10本の剣を避けながら、弱点へと攻撃が殺到する。残り僅かであった3本目のゲージは見る間に減って行き、ついに最後のドットが削り取られる。

 

 

 

 

 ──蟹の身体が跳ね起きた。

 

 

 

 

 まだ起き上がるには早すぎるタイミングだったため、蟹の身体の近くにはプレイヤーが多く残っていた。ギリギリで離れる事の出来た私を含む半数ほどのプレイヤーを除き、蟹の身体の上で攻撃を繰り出していたプレイヤー達は、蟹の身体に弾かれて吹き飛んだ。

 その中の一人が私の方向へと飛んで来ている。呆然とする思考の中でそれを把握するままら何もリアクションを取れない。

 その人は空中で身体を捻り、クルクルと綺麗に回って私の横に着地した。

 

「ヤマトさん! 大丈夫ですか!?」

 

「無事です無事です。ほら、HPバーは半分残ってますから」

 

 ヤマトさんがそう言って仮面と顔の間からポーションを飲みほすと、徐々に視界の端の《yamato》のHPバーが伸び始める。

 

「それよりもアレ、何でしょう」

 

 ヤマトさんが指すアレ、とはゲージが残り二本となったボスの《ザ・ブレードパニッシャー》だ。周りを見渡しても取り巻きは湧き出さず、ボスは身動きせずじっとしている。

 敵が動かないと言うことは、ダメージを与えるチャンスだろうか。先ほどの突然の行動を鑑みると、とても好機とは言い難い。むしろどこか不気味さを伴った、嵐の前の静けさの様に思われてならない。

 

 どう思うか、隣のヤマトさんに聞こうと再びそちらへ目を向けると──

 

「ヤマトさん……?」

 

 仮面は私の方でも、ボスの方でもない方を向いていた。彼女は仮面による視野の制限のせいか、どこかに目を向ける時に頭ごと動かすため、どこを向いているのか分かりやすい。

 ゆえに今回も、明らかにボスではない何かを見ていることだけは分かる。

 

「何が始まるかの情報はない! みんな気を抜くな!」

 

 その視線の先を追うよりも早くリンドさんから声が飛び、ハッとして私はボスの方を向く。視界の端でヤマトさんもすぐさまボスの方を向き直したのが見える。

 観察を始め周りが緊迫感に包まれる中、時間が過ぎる。

 すると突然、ボスの身体が急速に膨らみ始めた。鼓動のように一定間隔で身体が脈打ち、空気を吹き込まれる風船のように膨張を繰り返す。

 

 膨張が始まって、一秒、二秒、三秒が過ぎ────ボスの装甲(甲羅)が弾け飛んだ。

 

 弾け飛んだボスの装甲の破片は鈍色に燭台の光を反射しながら、ボスを中心に四方八方に飛び散り、私達に襲い掛かる。

 視界を覆い尽くし猛スピードで襲い掛かる破片を武器で時に切り落とし、時に弾き、時に回避する。弾け飛んだ装甲の破片は分厚い金属のようで、対処に失敗した破片に掠っただけでHPが少し削れた。

 

 突然襲いかかった嵐のような数秒が過ぎると、破片はもう飛んで来なかった。視界の端に安全圏を保った二本のHPバーが見えて、とりあえず一つ安心をする。そして十分に回復した視界には、先程とは似て非なるボスの姿があった。

 

 装甲が弾け飛んだせいか、サイズは今までよりも一回りほど小さい。

 そして全身は先程までの鈍色から一転、鮮やかな赤に染まっていて、しかし美しさは感じられない。それはまるで一つの彼岸花のように、見る者に不安を感じさせうる毒々しい赤。

 そしてそんな中で一際目を引くのは、弾けた腕のクレイモアの中から現れた巨大な刃。

 

 刃渡り2メートル弱の中華包丁のような見た目だが、刃は不気味に輝く銀色、そしてそれと対照的に刃以外は真っ黒な色合いをしている。

 しかし私には中華包丁よりも、その他の何よりも、ぴったりと当てはまる喩えが思い浮かぶ。

 形はまるで違うけれど、その腕は、その(やいば)は──

 

「ギロチン」

 

 その言葉を発したのは私なのか、あるいはヤマトさん、それとも全く別のプレイヤーからだろうか。

 

 

 ギロチンは十三世紀には既に存在しており、十八世紀以降、ジョセフ・ギヨタン、アントワーヌ・ルイ、トビアス・シュミットによって死刑制度に導入された。

 罪人に苦痛なく、そして貧富の差に関係なく確実に死を与えるという人道的な目的のために、首を落とす事だけを追求された処刑道具。

 場違いにも、頭の隅でボスの《パニッシャー(処罰する者)》という名前が腑に落ちた。

 

 しかしこのボスにおいて、あのギロチンは果たして本当に人道的と呼べるのか。

 あの腕は、あの禍々しさすら感じる(ギロチン)は、純粋すぎる殺意に満ちている。

 

 それを理解するとボスの身体の赤は、まるで溶岩のような熱と憎悪を込めた憤怒と返り血に染め上げられているように思えた。

 

 腕を大きく振り上げたあの姿は、さながら生き物となった断頭台。

 

『──────ッッッッ!!!』

 

 第二ラウンドを告げる悍ましさ溢れる声が、蟹の口から響き渡った。




ボスステータス
名前:ザ・ブレードパニッシャー
姿の特徴
モデル:オカガニ
《第一形態》
全身は金属のような鈍色。
脚は蛇腹剣の組み合わせ、ハサミの代わりにクレイモアの刃の部分のようなものが付いている。
お腹が弱点で、お腹の色は淡いクリーム色。
斬撃、刺突系の武器より打撃系の武器の方が効きやすい。
体長は横8m、縦6m、クレイモアは一本の長さが3.8m、幅2.0mの計2本。
蟹だが縦横に動ける。
HPのゲージが二本以下になった時に第二形態へと移行する。
《第二形態》
全身毒々しいほどに真っ赤。でも作中の表現とは違って作者の脳内では茹でガニのイメージで補完済。
脚は変わらず蛇腹剣だが、色が鈍色→赤色に変化している。
クレイモアは内部から弾けて、中から中華包丁のような形をした刃が出て来る。刃のカラーリング及びモデルは、ギロチンの刃。


UAが伸びるだけでニヤニヤして、お気に入りが増えるたびにドキドキしてます。もしかして……これが、恋?
とまぁくだらない冗談はこれくらいにして、とにかく読んでいただいただけでも嬉しいという事です。さらに言うならお気に入り登録は欣喜雀躍モノです。

一応、気を配っているのですが、誤字や言葉の使い方、文脈のおかしさなどがあれば報告をください。

残り25話くらいの短い付き合いになりますが、どうか今後ともよろしくお願いします。
次回投稿は未定。やっぱり黒猫団の末路も未定。本当にどうしましょう。

読んでいただき、ありがとうざいました。
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