翌日、秀知院学園
不良1「なあ俺たちこれから合コンあるからさぁ」
不良2「今日の掃除当番代わってくれよぉ」
男子生徒「え…いや、でも…」
不良1「いいだろ? 俺たち友達だもんな」
不良2「今度お前も合コンに誘ってやるからさ」
男子生徒「…そう言っていままで誘ってくれたことなんて…」
不良1「あ゛?」
ピーッ!
ミコ「こら! そこのヤンキー二人! 自分達の役割はちゃんと果たしなさい!」
不良1「あ? …ちっ」
不良2「誰かと思ったら万年落選の清き一票ちゃんじゃあないの。今日も元気に選挙活動かな?」
ミコ「見てわからない? 今日は取り締まりの日です。さあ、余計な話はいいから早く自分たちの掃除場所に戻りなさい」
不良1「えぇ~めんどくさいってのよォ~」
不良2「大体さぁ、俺たちって上流階級の人間じゃん? それなのになんで掃除なんて使用人の仕事しなくちゃなんないわけ? そんなのよォ、そこの混院にでもやれせればいいじゃん?」
ミコ「…はっ」
伊井野は鼻で笑った。
ミコ「上流階級? 立派なのはあなたの親や先祖だけでしょう? あなたたちはその親先祖の築き上げてきたものを蹴散らしていることになんで気が付かないんですか?」
不良1「あ?」
不良2「おいテメェ、ふざけたこといってんじゃあないぜ」
不良たちが伊井野に詰め寄る。伊井野は体の温度が下がるのを感じた。
承太郎「待ちな」
だが、不良たちの前に大きな男が立ちふさがった。
不良1「げっ…お前は…」
不良2「空条…」
承太郎「………」ゴゴゴゴゴゴゴ
不良1「なんでテメェがその女と一緒にいるんだよ!」
承太郎「成り行きだが、俺も昨日から生徒会に入ることになったんでな」
不良1「な…っ」
不良2「なにィ~~~~~~??」
承太郎「わかったらとっとと失せなッ! 目障りだぜ!」
不良1、2「ひ、ひょえ~~~~~」
踵を返して一目散に遁走する不良たち。
ミコ「ちゃんと掃除場所に行きなさいよー!」
不良1、2「はい~~~~!!!!」
承太郎「やれやれ…」ゴソッ
承太郎(…おっと、コイツの前でタバコを吸うのは流石にやめておくか…。ばれたら面倒くさいことになりそうだ)
大仏「空条先輩…。本当に生徒会に入ったんですね…」
承太郎「まあな」
ミコ「やったっ! いつもなら反抗されて終わりだったのに、空条先輩がいればわたしの注意も聞いてくれるわ!」
ミコ「ふふふ…駆逐してやるわ…。違反生徒を…一人残らず」フフフフフフフフ
大仏(ミコちゃんはそれでいいの…?)
承太郎「おい伊井野。あんまり連中を逆上させるようなことは言うもんじゃあないぜ」
ミコ「…なぜですか? わたしは正しいことを言っているだけですけど」
承太郎「忠告しておく、力のない正義に意味なんて無い、とは言わねぇ。だが、力のない正義は自分を危険に晒すだけだぜ」
ミコ「……、ご忠告どうも。でもわたしは、わたしの母親が紛争地域でワクチンを配っているように、自分の身の安全を守るために正義を捻じ曲げるような悪人にはなりたくありませんから」
承太郎「………」
大仏「…ミコちゃん」
ミコ「さあ、次に行きましょう。違反生徒はまだまだいるんですから」ザッザッ
――――――――
中庭
ミコ「これでブラックリスト入りしている生徒の見回りは大体終わったかしら」
大仏「やっとあと一人だね」
ミコ「でもいつもよりもかなり早く終わったわ」
ミコ「これは紛れもなく…空条先輩がいるおかげね…」
承太郎「………」
ミコ「さあ、最後の一人はどこにいるのかしら」キョロキョロ
早坂「……」スタスタ
ミコ「あ、いた! 今日も禁止のネイルにスカートまで短くして…」タッ
大仏「まってミコちゃん」
ミコ「なに?」
大仏「普通に取り締まろうとしてもいつもみたいにごまかされるだけだよ、ここは作戦を練らないと」
ミコ「作戦…? でもどうやって…」
承太郎「オイ、早坂を捕まえればいいのか?」
ミコ「はい。でも早坂さん、逃げ足が速くて、いつも捕まえようとしてもうまくいかないんです」
承太郎「……」
承太郎「そこで待ってな」
大仏「空条先輩、早坂さんを捕まえられるんですか?」
承太郎「さあな…。だが、自信はある」
承太郎(俺が今いるここから廊下を歩いている早坂のところまで走って5秒ってところか…)
承太郎(スタープラチナ・ザ・ワールドッ!)バァーンッ!!
シィーーーン…。
タッタッタッタ、ガシッ!
承太郎「…そして時は動き出す」カチッカチッ
早坂「!?」
早坂「空条くん!? なんで…? 警戒はしていたはずなのに…」
承太郎「悪いな早坂。お前も知っての通り、俺は昨日から生徒会役員になったんだ。伊井野曰く、その恰好は校則違反らしい」
早坂「……」
ミコ「空条先輩!」タッタッタッタ
ミコ「先輩すごいです! やっぱり先輩ってとっても足が速いんですね!」キラキラ
大仏「いやミコちゃん…。今のはどう考えても足が速いなんて次元じゃ…」
ミコ「ふっふっふ…早坂先輩…。昨日は審判の役目があったから何も言いませんでしたけど、今日は別。やっとその校則違反を正すことができますねぇ…、へっへっへ」ジリジリ
早坂「え…えーっと…」タラッ…
早坂「空条くん! マジ離してってば〜」
承太郎「………」
早坂「無視すんなしぃ〜!」バタバタ
ーーーーーーーーー
ミコ「空条先輩、ありがとうございました。それではわたしと大仏は一度風紀委員の方に顔を出すので、先輩は先に生徒会室の方にお戻りください」ペコッ
承太郎「ああ、わかった」
早坂「はあ…エライ目にあったし…」
ミコ「…早坂先輩。わたしは校則を守った今の姿のほうが可愛らしいと思います。特に、早坂先輩はその方が『らしさ』がある」
早坂「……ふんっ」プイッ
ミコ「……」シュン
ミコ(こう言えば自分から校則を守ってくれると思ったんだけどな…。柔軟になるってどういうことなんだろ…)
ミコ「…それでは空条先輩、また」クルッスタスタ
承太郎「ああ」
早坂「む〜…」
承太郎「お前も災難だったな、早坂」
早坂「9割くらい空条くんのせいだし」
早坂「はぁ…もういいや。それじゃあわたしも帰るから、空条くんもばいばい」
承太郎「……」
承太郎「いや、待て早坂。俺はお前にまだ用がある」
早坂「…?」
承太郎「場所を変えよう」
―――――――――――
校外 喫茶店
早坂「あたしに話なんてちょーめずらしぃ~じゃん。ってか、あたしこれからバイトあるから手短にしてよね~」
承太郎「…話の前に…、早坂、その演技臭い態度をやめてもらおうか」
早坂「……」
早坂「…は? なんのことだしぃ?」
承太郎「俺のスタープラチナは非常に精密な視力を持っている。昨日からお前の挙動を観察していたが、お前の仕草にはいくつかの違和感があった。…常人にはとても見つけられないレベルの細かさだがな」
早坂「すたーぷらちな…? 何言ってんのかまじ意味わかんないんだけど」
承太郎「…良いだろう」ドギャァァァン!!
スタープラチナ「……」ゴゴゴゴ
承太郎「見えるだろう? これが俺のスタンド。スタープラチナだ」
承太郎「お前は昨日のゲームの時も、スタープラチナがカップの中の紅茶を減らしているのを見ていたな」
承太郎「早坂…。お前はスタンド使いなんだろう?」
早坂「……」
早坂「……どうやら、あなたは何か知っているようですね。この幻覚について」
承太郎「それがお前の本当の性格…、というわけでもなさそうか。だが、そのほうがさっきまでよりも『らしい』」
承太郎「お前がいま、俺の背後に見ているこの人型の幻覚は、『スタンド』。いくつかの条件によって覚醒し、それぞれなんらかの超能力を持つ、人のエネルギーのビジョンだ。そしてお前の背後にも見えるぞ。不完全な形だが、仮面をつけた女のスタンドが」
早坂「これは、わたしがいま抱えている体調不良と関係あるのですか?」
承太郎「ある。スタンドは心の穏やかな人間に宿ると、逆に本体を蝕む毒になりうるからだ」
早坂「…このスタンドとやらを取り除く方法は?」ハァハァ
承太郎「おそらく、スタンドが発現した原因を倒せば解決するだろう…。早坂、いつからスタンドが見えるようになった?」
早坂「…昨日…生徒会室に行った辺りでしょうか…」ハァハァ
承太郎「オイ、大丈夫か? 顔色が悪いぜ、症状が酷くなっているようだ」
早坂「いえ、大丈夫です…。それより、そろそろ帰ります、バイトがあるので。続きは…明日にでも」ガタッ
承太郎「待ちな。フラフラじゃあねーか。今日は休んだほうがいい」
早坂「…そんなわけにはいきません」
承太郎「不思議だな。金に困っているというわけでも無いんだろう? そんなに働くのが好きなのか?」
早坂「…なんだっていいでしょう。ともかく、わたしはもう行きますか…っ」フラッ
早坂「……」バタッ
承太郎「オイッ!」ガタッ
早坂「………」ハァハァ
承太郎(…意識を失っている)
承太郎「そんな状態でバイト先に行ったって、迷惑になるだけだぜ」
承太郎「…やれやれ」ダキカカエ
早坂「……ぅ」
掠れた視界で早坂は承太郎を見上げた。
早坂(…お嬢様抱っこなんてされたの…初めてだな…)
承太郎に抱えられる感覚は、早坂の辛い身体を少しだけ楽にした。
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空条邸
ホリィ「承太郎!? その女の子は…?」
承太郎「学校の友人だ。客間を使うぞ」スタスタ
ホリィ「………」
ホリィ(まあ! まあまあまあ! 承太郎が女の子を連れて帰ってくるなんて! パパにも報告しなくっちゃ!)ニマニマ
客間
スタープラチナを使って布団を敷き、そこに早坂を寝かせる承太郎。
早坂「………」ハァハァ
承太郎「………」
承太郎(早いとこ『スタンドの石』を見つけねえと、被害が拡大し続ける)
承太郎(早坂の話を聞くに、『スタンドの石』は生徒会室のどこかにあるということか…。だとしたら、なぜ他の生徒会役員にスタンドが発現しない…?)
その時、早坂のカバンからスマホの着信音が鳴り響いた。
承太郎「………」
女子のカバンを開け、勝手に電話に出る事に一度躊躇ったが、非常時だとして承太郎はスマホの通話ボタンを押した。
承太郎「もしもし」
電話の女『……あなたは?』
承太郎「俺は空条。早坂のクラスメイトだ。お前は早坂のバイト先の人間か?』
電話の女『…はい、その通りです。それで、どうして空条さんが早坂の電話に?』
承太郎「緊急事態でな、早坂が体調不良で倒れた。そばにいた俺が対処しているというわけだ。悪いが、早坂は今日のバイトを休む他ない」
電話の女『……』
電話の女『…そうですか。それならば仕方ありません。こちらは問題ないので、早坂を充分に休ませて上げてください』
承太郎「わかった。…話のわかる奴で助かる」
電話の女『いいえこちらこそ。なんでしたら、早坂が元気になった後でも、二人でデートにでも連れて行って上げてください』
承太郎「フン…。馬鹿なことを言うんじゃあないぜ」
電話の女『いえいえ。…真面目な話、早坂にはいつも助かっています。彼女にはとても多くの時間をわたしに使ってくれている」
電話の女『早坂はそれでもいいと口では言っていますが、内心はきっと泣いているんです。あの子は本当はとても繊細で、寂しがり屋な子ですから』
電話の女『ですからどうか。ほんの少しだけでもいいですから、あの子に普通の女子高生らしい時間を与えてあげてください。お願いします』
承太郎「……」
電話の女『…彼女を雇って、彼女の青春を食いつぶしている人間がどの口で言うんだ、という話ですけどね』
承太郎「…ああ、わかった」
電話の女『それでは』
そこで電話が切れた。
承太郎「……」
承太郎(いまの電話の声…)
承太郎(いや、それよりもまずは早坂を救う事が先か)
早坂「……ぅ」
早坂「……ここは…?」
承太郎「起きたか、早坂」
承太郎「ここは俺の家だ。お前が喫茶店で倒れたから、俺が運んできた」
早坂「……本当なら引っ叩いてるところですが…。そんな体力もありませんね…」
早坂「…きっとあの人達は、こんな姿のわたしを見て…呆れ…そして怒るのでしょうね…」
承太郎「…お前の雇い主は、お前のことを心配していたぞ」
早坂「…あの子のことではありませんよ」
早坂「……」
早坂「誰だって…自分を偽らなければ誰かに愛されることはない」
早坂「人は皆…親にも友人にも、自分の弱さを知られたくなくて、それを隠しているのです」
承太郎「だからお前は、学校でも常に演技をし続けて来たってのか?」
早坂「大切な人ほど…失いたくない人にほど自分の弱さは知られたくありませんから…。あなただってそうでしょう? いつもクールで厳ついキャラを作っていて、その内側には幼い弱さを持っているはずです」
承太郎「さあ、どうかな。だが、俺のかけがえの無い仲間達は、俺がどんな姿を見せようとも距離を置いたりはしなかった」
早坂「……」
承太郎「俺はお前の本当の姿がどんなものであっても、態度を変えたりはしない」
早坂「………」
承太郎「もう寝ておけ。そして、俺が帰ったら俺の一発芸を見せてやろう」
早坂「…一発芸?」
承太郎「俺は火をつけたタバコ五本を口の中に入れながらコーラを飲むことができる」
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空条邸 正門
承太郎「………」スタスタ
承太郎「…心配なら、上がって見舞いに行ってやれ」
かぐや「…それは出来ません。わたしがあの子の元に行ったら、あの子はまた、わたしのメイドという仮面を被らなくてはならなくなりますから」
承太郎「…そうか」
かぐや「…早坂の容態はどうですか?」
承太郎「はっきり言って、悪化している。ここが病院だったら、面会謝絶と言われていただろう」
かぐや「…やはり、『スタンドの石』の影響ですか」
承太郎「!? 四宮、お前、スタンドを知っているのか」
かぐや「詳しいことはよく知りませんが、かの石をフランスから日本に持って来た時、四宮家も一枚噛んでいたという記述を、家の歴史書で読んだことがあります」
かぐや「そしてその石は長く忘れ去られていたのですが、数ヶ月前、どこからか現れた、両腕とも右腕の老婆が学園全体に何らかの処置を施して、その中のどこかにある『スタンドの石』の効果を抑えていたとか」
承太郎「何らかの処置…?」
かぐや「あまり、非科学的な事は言いたくありませんが、『封印』と表現するのが適切だと思います」
承太郎「その両腕とも右腕の老婆の名はエンヤ婆という。おそらく、奴が死んだ時にその封印も解けたのだろう。そのせいで、このタイミングで早坂にスタンドが発現した」
かぐや「早坂の体調は治るのですか?」
承太郎「『スタンドの石』を見つけ出し、破壊すれば回復するはずだ。だから俺は今からもう一度学園へ向かう」
かぐや「わたしも同行します」
承太郎「やめておけ、危険だぜ」
かぐや「『スタンドの石』の件には四宮家にも責任の一端があるんです。行かせてください」
かぐや「それに、早坂はわたしの大切な人ですから、彼女が弱った時にこそ助けなくては」
かぐや「『スタンドの石』に関して、わたしは四宮家が持ち得るすべての情報を覚えています。この知識はきっと、あなたの役に立つでしょう」
承太郎「……いいだろう。だが、戦闘になったら後ろに下がってるんたぞ。お前自身がスタンド使いでないのならなおさらだ」
かぐや「はい、わかっていますよ」
かぐや「…わたしは少し、あなたが羨ましいです」
かぐや「あなたは誰にも靡かない、自分の中に強い信念があって、辛いことを我慢するのではなく、それに立ち向かう強さがある」
かぐや「きっと早坂の支えになれる人はあなたのような、黄金の精神を持った人なのでしょう」
かぐや「空条くん。あなたと早坂はまだただのクラスメイトという関係でしかないけど、わたしはあなた達の距離が縮まることを望んでいます」
かぐや「そうなればきっと、あの子は救われる」
承太郎「………」
承太郎「……やれやれだぜ」グッ