夜 秀知院学園 裏庭
かぐや「塀を乗り越えて夜の学校に忍び込むなんて、生まれて初めてです」
かぐや(少し楽しいと思うのは、不謹慎ですね)
承太郎「生徒会室に向かうぞ」
承太郎「早坂は生徒会室に入ってから体調が悪くなったと言っていた。『スタンドの石』があるとしたらそこだ」
かぐや「…いつも使っている生徒会室にそんなものが…」
承太郎「ここから生徒会室に向かうには…校舎の中を突っ切るのが速いか」カツカツ
かぐや(…夜の校舎って怖いのね…もしこの状況で一緒にいるのが会長だったら…)
かぐや(……)
かぐや「…ふへへ」スタスタ
承太郎(こいつ…なにかくだらねーことを考えているな)カツカツ
カツカツ スタスタ
カツカツ スタスタ
カツカツ カツーンカツーン
承太郎「ッ!? 止まれ四宮!」
かぐや「っ!」
承太郎「…スタンドだ」
仮面のスタンド「……」ドドドド
承太郎「…こいつは」
承太郎(仮面をつけた、騎士のような恰好をした女型のスタンド…。間違い、早坂のスタンドだ)
かぐや「目の前にスタンドがいるのですね…。わたしには見えませんが」
承太郎「スタンドはスタンド使いにしか見えない。後ろに下がってな」
承太郎「スタープラチナッ!」グォンッ!
承太郎(…早坂は今俺の家で眠っているはず。遠隔操作型のスタンドか)
承太郎(だが、なぜ早坂のスタンドが立ちふさがっている…?)
仮面のスタンド「っ!」
承太郎(右手の剣を構えた! 来るッ!)
スタープラチナ「オラァッ!!」ドゴォッ!
承太郎「ボディに入ったっ!」
仮面のスタンド「Ggggg…!!」ブジュゥアアアアアァ…
承太郎「……消えた」
かぐや「…倒したのですか?」
承太郎「……」
承太郎(おかしい…あまりにも手ごたえがなさすぎる)
かぐや「倒したのなら、先に進みましょうか」スタスタ
かぐや(スタンド同士の戦い…。スタンド使いでない人が見たら滑稽以外の何物でもないけど…そのことは黙っておきましょうか)
承太郎「……」
承太郎「四宮は白銀の事が好きなのか?」
かぐや「ふぇっ? な、ななななななにを吸にそんな素っ頓狂なことを!」
承太郎「いまさら隠す必要もねーだろ。バレバレだぜ」
かぐや(そ、そんなまさか…。私の隠蔽は完璧のハズ…。もし会長本人も感づいていたとしたら…今までの私って…)
かぐや「で…でも意外ですね、まさかあなたから恋バナが振られてくるなんて」
かぐや「いつも女の子を寄せ付けない態度をしてるからそういったことに興味がないのかと」
承太郎「俺のなんだと思っていやがる。俺は女が周りでやかましくなるのが嫌いなだけだぜ。仲間内とそんな話をしたりもする」
かぐや「まあ嬉しい。わたしのことを仲間と思ってくれていたなんて」
かぐや「ところで、騒がしい女の子が苦手なら、それこそ早坂はあなたと相性がいいですよ。あの子、学校ではあんなですけど、その本性は正反対ですから」
承太郎「…またその話か…。四宮はそんなに俺と早坂を付き合わせたいってのか?」
かぐや「ええ、まあ」ニコッ
かぐや(というか、会長の話をすると顔が赤くなるからやめてほしい…)
承太郎「…フン」スタスタ
承太郎「……」シュボスパー
かぐや「た……っ! ……未成年の喫煙は重罪ですよ…」
承太郎「不良のレッテルを貼られている男に自分の侍女を預けるか?」
かぐや「……」
かぐや「他人が貼り付けたレッテルなんて、その人の本質をなにも捉えていない、くだらないものですよ」
かぐや「わたしが懇意にしているある後輩も、物事の内面を見ようともしない浅はかな人たちによって不当なレッテルを貼られ、大切な青春を奪われました」
かぐや「わたしは愚かな人々とは違います。不良と呼ばれているあなたの内面を見て、早坂を託すに値する人物だと思いました。それだけです」
かぐや「あなたは――」
承太郎「四宮っ!」グイッ
かぐや「ひゃっ!」
スタープラチナ「オラァッ!!」ガキィイン!!
仮面のスタンド「Gggggggg…」
承太郎(これは早坂のスタンド…っ! さっき倒したはずッ! だがさっきのスタンドとは仮面の形が違うな)
承太郎「遠隔操作に加えて群衆型でもあるのか」
仮面のスタンド「ッ!!」ブンッ!
承太郎「!? 速いッ!!」
スタープラチナ「!!」グォンッ!
承太郎「野郎…っ! さっきよりも数段パワーアップしてやがる…っ!」
承太郎(この剣のスピード…、明らかにシルバーチャリオッツに匹敵しているッ!!)
仮面のスタンド「Gggggッ!」ヒュンッヒュンッ
承太郎(近づけさせないつもりか。こいつ…スタープラチナの射程圏を理解している…?)
承太郎「だが…」
承太郎「スターフィンガーッ!!」ズォォッ!!
仮面のスタンド「Ggッ!!」ボゴォッ!!
仮面のスタンド「Gggggggg!!!!」ブジュアァアア!!
承太郎「スピードは確かにシルバーチャリオッツに匹敵しているが、剣筋は足元にも及ばねーぜ」
かぐや「…もしかして、また早坂のスタンドが…?」
承太郎「ああ、どうやら遠隔操作型で、群衆型でもあるらしい。結構厄介な奴だぜ」
かぐや「そうですか…。あらゆる顔を持つ、あの子らしいスタンドですね」
かぐや「きっと、まだ立ちふさがってくるでしょうね、あの子のスタンドは」
かぐや「…でも、どうしてあの子のスタンドがわたし達と対峙するのか、それがわかりません」
承太郎「遠隔操作型は特定の法則によって自動的に活動することが多い。おそらくはそれだろう」
承太郎「…あまり時間をかけたくない。先を急ぐぞ」
かぐや「はい」
――――――――――
生徒会室前
かぐや「…いつも使っている生徒会室の建物も、深夜に来るとうすら寒いものを感じますね…」
かぐや「禍々しい吸血鬼の住む館のよう」
承太郎「………」
承太郎「行くぞ」
スタスタスタ
生徒会室までの廊下
かぐや「この生徒会室の建物もかなり歴史があって、生徒会室の中には戦争のために作られ、その後学生運動の拠点になった設備もあるんです」
承太郎「その設備の中に『スタンドの石』があるかもしれない、ということか」
かぐや「ですが、その設備の場所は把握してます。あの扉の向こうに行けば、きっとこの問題は解決できるでしょう」
承太郎「ああ、だが、そうすんなりとはいかないらしい」
仮面のスタンド「Ggggg」ゴゴゴゴゴゴゴ
スタープラチナ「……」ドドドドド
承太郎「四宮、後ろに下がってな。今までよりも遠くへ、少なくとも十歩は下がるんだ」
承太郎(明らかに今までとまとっている気迫が違う)
ゾゾゾゾゾゾゾゾ
承太郎(!? 扉から人影がすり抜けて出てきている…スタンドか?)
???「…フフフ」
承太郎「誰だ」
???「そのスタンドを本当に倒してしまっていいのか? ジョースターの血統よ」
承太郎「二度訊かせるんじゃあないぜ。俺は誰だと聞いている」
承太郎(こいつ、ジョースター家の事を知っている…?)
石のスタンド「俺は『石のスタンド』それ以外に名前はない。つまり、俺はスタンドの石に宿るスタンド、ということだ」
承太郎「昔、ジジイに聞かされた柱の男達のような恰好をしやがって…、変態ってやつか?」
石のスタンド「究極の美とは、着飾る必要がないのだよ」
石のスタンド「それで、お前は今までのようにこの仮面のスタンドを自分のスタンドで打ち倒すつもりか? 俺はオススメしないがな」
承太郎「なんだと…?」
石のスタンド「今まで相手してきたのはどちらも言わば本体の分身ッ! あるいは変わり身ッ! スタンドの強さは精神の強さと言うならば、その強さなどたかが知れているッ!」
石のスタンド「だがッ! 今目の前にいるのはこのスタンドの本体の本性ッ! その強さは今までの比較にならず、そして与えられたダメージは本体にフィードバックするッ!」
石のスタンド「…そう、私がこのスタンドをそう設定したのだ」
承太郎「…そういうことか」
承太郎「『スタンドの石』は周囲の者にスタンド能力を与えると言われていたが、正確には少し違う。ただの隕石に宿ったスタンドの能力が、人間にスタンド能力を与える能力だということか」
石のスタンド「その通りッ! そして人間に与えたスタンドは私の支配下に置くことができる! つまり、私にとってスタンド能力を与えられた人間は、スタンドを動かすための養分にすぎないのだッ!」
承太郎「………」
かぐや(わたしにはスタンドが見えないし、スタンドが何を言ったのかわからない。でも、これだけはわかる。何者かがとても許し難いことを言ったこと、そして、空条くんがかつてないほど怒っていること)
承太郎「てめーは吐き気の催す『邪悪』だ」
承太郎「テメーの! テメーだけの都合で他者を利用し! 踏みにじりッ! そいつの心や時間を奪うッ!」
かぐや「………」
承太郎「テメーがやったのはそれだ! あぁんッ!? テメーは俺が許せねぇ事をしたッ!」
承太郎「だから、俺がテメーを裁く」
石のスタンド「フン! デカイ口をたたきおって。それならまずは、この仮面のスタンドをどうにかしてから、生徒会室の扉の向こうに来るんだな」
ゾゾゾゾゾゾゾゾ
仮面のスタンド「Ggggg!」ジャキ
剣を構えた仮面のスタンドが突撃してきた。
承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」
時が止まった世界の中で、スタープラチナは仮面のスタンドの剣持つ右手を掴んだ。
そして、時は動き出す。
仮面のスタンド「ッ!! Ggg…」グググ
承太郎(本体にダメージが入るなら攻撃はできねぇ…。だが、このパワーは…っ!)
仮面のスタンドの筋力は明らかに向上していた。あのスタープラチナが押されるほどに。
仮面のスタンド「ッ!!」
仮面のスタンドは身を翻し、スタープラチナのボディに重たい蹴りを喰らわした。
承太郎「ぐっ……!!」
承太郎は脇腹に重たい痛みを喰らい、廊下の壁まで突き飛ばされる。
かぐや「空条くんっ……!」
ポルターガイストのように吹っ飛んだ承太郎にかぐやは駆け寄ろうとする。
承太郎「近づくんじゃあねぇ! 四宮ッ! お前には見えてねーだろうが、敵スタンドはすぐ近くにいるんだぜ」
かぐや「っ!」
かぐやは硬直したように足を止めた。目に見えない外敵がいるという現状は、かぐやの精神を過剰にひりつかせ、彼女の頬に冷や汗を流した。
だが…っ!
かぐや(わたしはここまで、何も出来ていない…。確かにわたしはスタンド使いではないし、殴り合いの喧嘩だって生まれてこのかた一度もしたことが無い)
かぐや(でもわたしは…。空条くんに着いてここに来る覚悟をしたのよっ!)
かぐや(いつもわたしに寄り添ってくれる、大切なあの子のために…ッ!)
承太郎「四宮…。やっぱりここはお前のいるべき場所じゃあないぜ。あとは俺がやっておくから、このまま家に帰るんだ」
かぐや「……いいえ、それは出来ないわ」
かぐや「だって、わたしは早坂の主人だもの。ここで引き下がるわけにはいかないわ」
承太郎「そんなことを言っている場合じゃあ…ッ!」
かぐや「それに、今ここにいるのは早坂のスタンドなんでしょう?」
かぐや「だったら、勝機はあります」
かぐやは、承太郎が突き飛ばされた場所から仮面のスタンドの場所を予測して、その正面に立った。
かぐや「スタンドとはつまり精神の強さの具現化! そうであるならば、早坂の精神の強さの源は…ッ!!」
かぐや「わたし自身ッ!」
承太郎「待てっ! 今の早坂のスタンドは別のスタンドに操られているんだぜッ!」
かぐや「………」
かぐやは承太郎の言葉を意に返さず、早坂のスタンドに手を伸ばし…その甲冑に触れた。
仮面のスタンド「k…g…y…」
かぐや「スタンドはスタンドでしか触れることが出来ない…、でも、スタンドが意思を持って何かに触れる事は出来る」
かぐや「わたしがこうしてあなたに触れる事が出来るということは、あなたはわたしを受け入れてくれているということでしょう?」
目に見えないその身体を撫でて、その小さな肩を通り、そのスタンドの仮面に指をかけた。
かぐや「例え誰かに支配されていても、あなたはその仮面を決して外さずに、わたしの事を支え、護ってくれる」
かぐや「いつもありがとう早坂。でももうその仮面を外して、休んでいいのよ」
かぐやはスタンドの仮面を外して、その身体を抱きしめた。
早坂のスタンド「………」
かぐやは騎士の腕から剣が落ちる音を聞いた気がした。
承太郎「……」
承太郎(やれやれ…。あのスタンドパワー…、そしてこちらから攻撃できないという制約…。あのままやりあってたら、流石にこっちもただじゃあ済まなかったかもしれん。四宮がいて良かった、と言ったところか)
かぐや「空条くん、ここは私にまかせて、あなたは先へ」
承太郎「ああ、そうさせてもらおう」
承太郎は立ち上がり、服の埃を払って、かぐやと早坂のスタンドの横を抜けて生徒会室の戸を開けた。
ーーーーーーーーー
生徒会室
カツ…カツ…カツ…
承太郎「………」
承太郎(見渡してみても石のスタンドもスタンドの石も見当たらねぇ…。やはり戦時中につくられたという隠し部屋か何かに隠されているというわけか)
承太郎(だが手当たり次第に破壊する事も出来ん…。破壊した物を直すスタンドでもあればいいんだがな…)
承太郎「スタープラチナ」
承太郎はスタープラチナに自分の背中を預けつつ、壁やカーペットの下を調べ、それらしきものを探していった。
承太郎「生徒会が日常的に使ってる食器や家具も、どれも価値のあるブランド品ばかりだ…あまり手荒には扱いたくないものだな…」
応接机、執務机、天井まで、調べて、最後に資料棚を残すのみとなった。
承太郎(あとはこの棚だけ…だが、スタープラチナの目で見てもこの棚にはおかしい所はない…)
承太郎(いや…)
承太郎(スタープラチナが何かを見つけたな。この資料棚からではない。この資料棚の後ろから僅かな塵が風にのって流れている)
承太郎は棚を横にずらし、その奥に石造りの登り階段があるのを見つけた。
承太郎「こいつが四宮の言っていた、戦争のために作られ学生運動の拠点になったという場所か。この登り階段におどろおどろしさ…。DIOの館を思い出すぜ」
承太郎はその冷たい階段の一段目に足を掛けた。
カツ…カツ…カツ…
承太郎(この階段…屋根裏部屋まで繋がっているのか)
承太郎は屋根裏部屋にたどり着いた。
そして、その部屋の中央に鎮座している仰々しい装飾の大きな木箱を見つけ、その前に立ちはだかる一体のスタンドに目を向けた。
石のスタンド「仮面のスタンドを傷つけず、俺の支配から解放したか…。フフフ、やるではないか、流石はジョースターの血統ということか?」
承太郎「なにを勘違いしてるのか知らねーが、俺は何もやっちゃいないぜ。あいつを解放したのは四宮だ」
承太郎(あいつの後ろにある木箱…、おそらくあの中に『スタンドの石』が入っているのか)
石のスタンド「四宮…。ああ、俺がこの国に来た時にそんな名前を少し聞いた気がするなァ…まあ、もはやどうでもいいことだが」
承太郎「ああ、その通りだぜ、なぜならお前は今ここで、俺に倒されるんだからな」
石のスタンド「…フン」
ドドドドドドドドドド
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
承太郎「……」
石のスタンド「……」
承太郎「…スタープラチナッ!」ドギューンッ!!
スタープラチナ「オラァッ!!」
スタープラチナの重たい拳が石のスタンドの顔面を狙う。
石のスタンド「……」
だが、石のスタンドはちょいと頭を後ろに引いただけ、その全く効率的で無駄のない動作だけでスタープラチナの拳をかわした。
石のスタンド「俺はスタンドを支配するスタンド。故に、俺はあらゆるスタンドの知識が頭に入っているし、初めて見るスタンドでも一目見ればその性能、能力を瞬時に判断することができる」
石のスタンド「ジョースターの血統…、いや承太郎よ。貴様のスタンド、スタープラチナの射程距離はせいぜい2、3メートルといったところか。そしてその能力は……時を五秒間だけ止める…、そうだな?」
承太郎「……」
石のスタンド「…フン。無言は肯定と受け取るぞ」
承太郎(野郎…。思っていたより厄介な相手だぜ…、まさかこっちの手の内が全部知られちまっているとは…)
あらゆる戦いにおいて、情報は弾丸よりも重要である。承太郎はかつてのDIOとの戦いの中で、自分の時を止められる時間が一瞬だけだと知られた時の焦燥感を、今思い出した。
承太郎(だがそれでも、勝機はあるッ!)
承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」
時が止まった。
すべての物質は動きを止め、思考を止め、魂の揺らめきすら止める。凍結した世界の中で動けるのは、『入門』を許された者だけ。
承太郎(五秒間だ…。2、3回呼吸をしただけで終わるこの時間のうちにカタをつける)
スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
スタープラチナのオラオラのラッシュが石のスタンドのボディに炸裂した。時が止まったままの石のスタンドは吹っ飛ばず、ダメージだけが蓄積される。
承太郎「ラッシュをきっかり五秒ッ! そして、時は動き出すッ!」
石のスタンドのボディにラッシュの衝撃が一万分の一秒の狂いもなく全く同時に炸裂した。
石のスタンド「…『バック・チャット』」
だがその瞬間、エレキギターを激しく弾き散らしたかのような莫大な轟音が響き渡った。そして、その音の波の向こうには、オラオラのラッシュを食らったはずの石のスタンドが何事もなかったかのように澄まして立っていた。
承太郎「!? スタープラチナのオラオラのラッシュをまともに食らって無傷だと…?」
石のスタンド「不思議か? そうだよなァーー。今まで連れ立ってきたボストンテリアが突然喋りだすくらい不思議に思うよなァーー」
石のスタンド「フフ…いい機会だから教えてやろう。俺はスタンドを支配することができる。……そして、それを完了するには時間がかかるが、俺は完全に支配しきったスタンドの能力を扱うことができるのだァ!」
承太郎「なにィ…?」
石のスタンド「そして今使ったスタンドの名は『バック・チャット』。俺はこいつを貴様が時を止める直前に発動した。その能力は…、食らった攻撃のエネルギーを一つにまとめて跳ね返すことだァー!」
その声と同時に巨大な拳の形をしたエネルギーの塊がスタープラチナに襲い掛かった。
承太郎(これは…ヤバいッ!)
咄嗟にガードしたスタープラチナのクロスした腕に巨大な拳が炸裂する。
承太郎「ぐっ…」
自分のスタンドと同等のパワーを食らい、承太郎は血を吐き、壁まで吹っ飛ばされて激突した。
石のスタンド「今まで俺が手中に収めてきたスタンド能力を披露する機会などなかなか無い。せっかくだ、……立て続けに行こうか」
石のスタンド「『セブン・シーズ・オブ・ライ』ッ!!」
青い色をした七頭の竜が承太郎を喰らおうとする。スタープラチナはそれを拳で叩きのめしたが、脇腹を噛みつかれた。
石のスタンド「『ストーン・コールド・クレイジー』」
エメラルド・スプラッシュを彷彿とさせる無数の氷の塊の攻撃が炸裂し、承太郎の骨をいくつか砕いた。
石のスタンド「『ハンマー・トゥ・フォール』ッ!」
動きを止められた承太郎の頭上から、石のスタンドが振り上げた巨大なハンマが振り下ろされた。
轟音とともに壁や床が破壊され、土煙が舞った。
石のスタンド「…死んだか」
石のスタンドがそう確信した声を漏らした。……だが、土煙が晴れた後のそこには、承太郎の死体は転がっていなかった。
石のスタンド「消えたッ!?」
承太郎「…後ろだぜ、盗人野郎」
咄嗟に振り替える石のスタンドの顔面にスタープラチナの重たい一発がめり込んでいた。
ドグゥンッ!!
石のスタンド「ゴアッ!!」
顔面のパーツをいくつか破損させて床に転がる石のスタンド。
承太郎「やれやれ…。まるで一度に何人ものスタンド使いと戦ってるみてーだぜ…」
承太郎は石のスタンドから目をそらして足元の木箱に目を落とした。
承太郎「こういう厄介なスタンドとのバトルに勝利するには一つの定石がある。……それは、本体を攻撃することだ」
スタープラチナ「オラァッ!!」
スタープラチナの蹴りが木箱を踏みつぶそうとする。
石のスタンド「馬鹿めっ! スタンドを熟知したこの俺が本体という弱点に対する対策を取っていないとでも思っているのかァッ!」
スタープラチナの蹴りを受け止めるスタンドがあった。それはスライムのような物質で、受けた衝撃に合わせて自身を凝固させるスタンド。そいつはスタープラチナの脚に絡めついて、酸のような液体を分泌した。
承太郎「ぐ、うぅぅ…ッ!!」
焼けるような痛みを脚に感じる承太郎。
石のスタンド「このままお前の体を焼き尽くし、お前のスタンドを支配してやるッ! DIOのザ・ワールドを倒したという、無敵のスタープラチナをッ!」
石のスタンド「そしてそれを皮切りにこの世全てのスタンドを支配し、奪い、利用し、俺はすべての人間の精神を支配する存在になるのだッ!!」
石のスタンド「貴様を倒せば後はもう取るに足らない家畜にすぎない。だから今ここで死ねッ! 承太郎ッ!」
承太郎「…野郎ッ!!」
石のスタンド自身の拳が承太郎に向かう。そして、その前に立ちはだかるスタープラチナ。その青い拳が猛烈な速度で振りかぶり、石のスタンドの拳とかち合った。
承太郎「テメェ…人の精神を、心を何だと思ってやがるッ」
石のスタンド「フン、何とも思ってはいないさ。例えば目の前に、実の父親によって行動や思考のすべてを制限され、氷のような顔の向こうで泣いている少女がいたとしても、俺はなんとも思わない」
石のスタンド「なぜならッ! 俺は支配する側だからだ! 人を使い、人から奪い、人を愛さぬ。支配者として君臨する存在だからだッ! だから他人の感情になど、何も興味はない」
拳をかち合わせたまま、石のスタンドは奪い取ったスタンド能力を発動させた。無数の剣が石のスタンドの周りに現れ、それらすべてがスタープラチナに襲いかかった。
承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」
時が止まった世界で、投げナイフのように空中で静止している剣をオラオラのラッシュで弾き飛ばした。
そして時は動き出す。
時の動き出した世界で、石のスタンドは不敵に笑っていた。
石のスタンド「かかったな、バカめッ!」
弾き飛ばしたはずの剣は、自動的に空中で翻り、全てスタープラチナの身体に突き刺さった。
承太郎「…ぐ…ぅッ!!」
石のスタンド「その無数の剣のスタンド能力は自動追尾性能を持っているのだ」
血塗れで片膝を付く承太郎。見上げる視界で石のスタンドが高笑いをしている。
石のスタンド「フハハハハッ!! 終わりだ、承太郎」
石のスタンドは脚を持ち上げ、承太郎の頭を踏みつけた。
石のスタンド「…俺がすべての上に立つ、支配者になるのだ」
承太郎「………」
承太郎「………」
承太郎「……フフ」
石のスタンド「……?」
承太郎「フフフ」
石のスタンド「なにを笑っている…? 頭がおかしくなったのか?」
承太郎「頭がおかいしのはテメーの方だぜ」
石のスタンド「なん…だと…? どういう意味だっ!」ゴゴゴゴゴゴゴ
承太郎「なぜならテメェは…」ドドドドドド
承太郎「自分が支配者であると勘違いしている、石ころのようにちっぽけな存在だからだッ!!」
石のスタンド「なん…ッ!」
ザシュッ!
石のスタンドの背後から一閃。一振りの剣が深く深く、石のスタンドの身体を袈裟斬りにした。
石のスタンド「ぐぁ…ッ! こ…これはッ! この剣はッ!!」
早坂のスタンド「………」
かぐや「………」
承太郎は、石のスタンド越しにかぐやと早坂のスタンドが立っているのを見ていた。
血が吹き出すのもそのままに立ち上がり、床に伏す石のスタンドを見下ろす。
承太郎「テメェは人への関心が無さ過ぎた。関心が無いから人のスタンドが、精神が、心がどれほど強いものなのかを知らなかった」
承太郎「だからこうして、支配していたと思っていた存在に足元を掬われるんだぜ」
石のスタンド「き…貴様ッ…!!」
承太郎「人の心は、完全に支配することなんて出来ないんだぜ」
かぐや「………」
スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
石のスタンド「グァアアアァッ!!!」ドシュゥーッ!!
ついに石のスタンドはオラオラのラッシュをまともに喰らい、力尽き、煙となって消えた。
承太郎「……勝った…か」
承太郎「…ぐっ…」
安堵した承太郎は糸が切れたように再び片膝を付く。
かぐや「空条くん!」タタタッ
承太郎「俺のことはいい。それよりも、その木箱を開けて、中を検めてくれ」
かぐや「は、はい」
かぐやは支持を受けて木箱を拾い上げ、それを開けようとした。だが、その木箱は六面すべて釘で打ち付けられている。
かぐや「これ、開けられるところありませんよ」
早坂のスタンド「………」
そこに早坂のスタンドが近づいてきて、かぐやの膝の上から木箱を拾い上げると、得物の剣で木箱の一面を切り落とした。
かぐや「ありがとう、早坂」
承太郎「四宮…、スタンドが見えるのか?」
かぐや「いいえ、でも、スタンドが早坂の精神なら、わたしの周りのどこにいそうかなら、だいたい分かりますから」
かぐやは木箱から転がり落ちた、ソフトボールくらいの大きさの隕石を拾った。
それは少しの間、薄ぼんやりと輝いていたが、やがて力を失ったように輝かなくなった。
承太郎「そいつが今回の目的である、『スタンドの石』らしい」
かぐや「それでは…これで全部終わったんですね」
承太郎「ああ…、そして石のスタンドを倒したから、そいつによって呼び起こされた早坂のスタンドも、もうじき消えるだろう」
かぐや「……」
かぐや「…そう、ですよね」
承太郎「……」
かぐや「…不思議ですね。顔も見たことない、どんな姿をしているかもわからない相手なのに、親友との永遠の別れのように感じます」
かぐやはすっくと立ち上がり、仮面をつけていない早坂のスタンドの前に立った。
かぐや「今回の戦い、危険な目にも遭ったけど、わたしは着いてきて良かったと思います。だって、あなたに会えたから」
かぐや「あなたという、わたしの大切な人の心の底の片鱗を知れて、わたしは心から…安心できたから」
かぐや「だから…ありがとう。出来ることなら、あなたの姿を、わたしも見たかった」
早坂のスタンド「………」スゥウウウ…
早坂のスタンドが煙となって消えた。
かぐや「……消えてしまいましたか」
承太郎「…ああ」
かぐや「帰りましょう空条くん。早坂のいるところへ」
ーーーーーーーーー
空条邸
早坂「んっ…うーん…」パチッ
かぐや「早坂っ」
承太郎「起きたか」
早坂「空条くんと…かぐやさ…まっ!」
かぐや「早坂っ!」ギュー
早坂「かぐや様…急に抱きつかないでください…。く、苦しい…っ」
承太郎「早坂、身体のだるさはもう無いか? 熱や頭痛はどうだ?」
早坂「は…はい、おかげさまで。かぐや様のせいで息苦しいこと以外は大丈夫です」
かぐや「はやさかぁ…」
早坂「ほらかぐや様、そろそろ離してください。だんだんアホ化してきてますよ」グイー
かぐや「うぅ…」
承太郎「敵はもう倒したが、もう少し横になっていたほうがいい」
早坂「はい…」
早坂「………」
早坂「変な夢を見ていました」
承太郎「……」
かぐや「……」
早坂「わたしは首輪をつけられて、たった一人で暗いところにいました。そんなわたしに、頭の中で誰かが頻りに命令するのです」
早坂「わたしはその命令に従うのは嫌だったけれど、首輪をつけられているから、反抗できないのです。だから仕方がないと言い聞かせて、仮面をつけて、我慢していました」
かぐや「………」
早坂「そんなわたしの前に、空条くんが立ちはだかってくれました。そして、かぐや様が助けてくれたのです。その瞬間、冷たかったその夢は暖かい夢に変わりました」
早坂「この夢はきっと、夢ではないのでしょうね」
かぐや「……」
承太郎「四宮。お前はさっき、『自分に早坂は救えない』と言ったな」
承太郎「だかそれは間違いじゃあねえか。お前は確かに、早坂を救ったぞ」
かぐや「………」
早坂「それはあなたもですよ、空条くん」
早坂「あなたがいなければ、わたしはこうして起きてはいなかった。あなたがいなければ、わたしは病の正体もわからずに死んでいたことでしょう」
早坂「ですから、かぐや様も、空条くんも、わたしの命の恩人です」
早坂「二人とも、感謝しています」
かぐや「………」
承太郎「………」
かぐや「……ちょっと待って早坂」
早坂「えっ?」
かぐやは再び早坂に抱きついてその耳元にささやく。
かぐや「なに感謝だけで終わらせようとしているの? こんな強くて見た目も悪くない男子があなたの為に戦って助け出してくれたのよ? いまこそアタックする時でしょう」
早坂「え…いや、なにを言ってるんですかかぐや様」
かぐや「あなた以前言ってたじゃない、自分も男友達が欲しい、普通の恋がしたいって。今目の前にあるそのチャンスを捨てるつもり?」
早坂「な…なんかいつもと立場が逆転してるような…」
かぐや「それとも、空条くんはタイプじゃないとか?」
早坂「え…いえ、体の大きな人は割りと…」
かぐや「じゃあ顔は?」
早坂「彫りの深い人って……」
早坂は初めて承太郎を異性として意識した。その瞬間、ドキッと胸が高鳴って、承太郎に助けられたこと、承太郎の家にいることを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。
かぐや「ではわたしは適当に席を外しますから、あとは若いお二人でごゆっくり」
早坂「同い年じゃないですか…」
かぐや「空条くん。わたし少し飲み物と軽食でも買ってきます。空条くんは早坂のことを見ていてください」
承太郎「わかった」
ガラガラ
早坂(…二人だけになってしまった…)
承太郎「本当にもう身体は大丈夫か? 早坂」
早坂「あ、はい…もう」
承太郎「そうか…。よかった」フッ
早坂「あ…っ」
承太郎「どうした?」
早坂「空条くんが笑ってるところ、初めて見たと思います」
早坂「あまり笑ってる印象がないから」
承太郎「そうか。だが俺も、自分で言うもんじゃあないが、結構笑うんだぜ。相撲を見てる時とか、仲間と馬鹿やってる時とかな」
早坂「………」
早坂「それは…、わたしの事を仲間と、心を開ける友達と認めているということですか?」
承太郎「…まあな」
早坂(そっか…)
早坂(わたしも、この人になら仮面を外してみようかな)
早坂(そして、もう少しだけこの人のことを知られたら…)
早坂「空条くん。…空条くんは、自分の気を許せる相手に使われていた呼び方とかってありますか? なにか、あだ名とか」
承太郎「………」
承太郎「そうだな、今ではもっぱら名前で呼ばれる事が多いが、少し前は別のあだ名で呼ばれていた事もある」
承太郎「俺は結構、そのあだ名が気に入ってるんだ」
承太郎「『ジョジョ』ってな」
早坂「ジョジョ…」
早坂「そうですか…ではわたしも、これからあなたの事をそう呼びましょう」
承太郎「…好きにしな」
早坂「はい。もう全部、わたしの好きにします。『まずは』友達としてよろしく、ジョジョ」
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四宮邸 夜
かぐや「なんだ、二人っきりのチャンスだったのに押し倒して既成事実を作らなかったのね」
早坂「…冗談言わないでください」
かぐや「冗談? わたしは本気でアドバイスしてるのに」
早坂「もしかして、いつもの仕返しですか?」
かぐや「でも実際、結構気になってるんでしょ? 早坂の好きな男性のタイプって、俳優で言うと誰だっけ?」
早坂「…クリント・イーストウッドですけど」
かぐや「ほら! 空条くんなんてまさに和製クリント・イーストウッドじゃない」
早坂「でもっ! ジョジョはそんなんじゃ…」
かぐや「ジョジョ?」
早坂「…はっ!」
かぐや「……」ニヤニヤ
かぐや「へぇ〜。もうそんなあだ名で呼ぶような仲になったのね」
早坂「もうっ。からかわないで下さい!」
かぐや「いいじゃない。わたしは応援してるわよ、あなたのその、始まったばかりの恋」
早坂「〜〜〜もうっ!」
早坂「こうなったらもう、かぐや様よりも先に彼氏作って、見せびらかしてやりますから!」
完