アナザー・アクターズ   作:やーなん

10 / 59
アンケートご協力してくださった方はありがとうございます。
とりあえずあの質問は一章が終わるまで設置しておくので、引き続きよろしくお願いします。



10.巨人と凡愚

「一級召喚士? 君が?」

 俺は自分の半分も生きてないような少女の登場に、驚かずにはいられなかった。

 一級召喚士は人を使うそれ相応に責任のある立場なのだから。

 

「ふふ、初めて会う方は皆さんそう仰いますね」

 しかし彼女は特に不快に感じた様子はなく、少し微笑んで俺の対面に座った。

 

「ええと、そちらは……」

「ああ、俺はマルース。ただの傭兵だ」

「ではマルースさん。失礼ですが一体どんなご用向きでしょうか?

 私は協会長に貴方の対応をしてくれ、と言われただけでして」

「協会長直々の人選に期待させてもらおうか」

 俺は気を取り直して横柄な態度を示した。

 若き天才なんて初めてと言うわけでもないのに、何を動揺しているのだか。

 

「実は先日、ある辺境の村にてアンデッドがどこからともなく出没するから調査及び原因の排除を依頼されたんだが」

 俺はありもしない依頼をでっち上げ、彼女の反応を伺った。

 でっち上げだが、実際にヘンテ鉱山周辺の住人は買収済みだ。彼らには鉱山の一件を話し、もしかしたら被害が出ていたと煽り、俺は義憤に駆られ問いただしに来たという構図になっている。

 問題は起こっており、もみ消しは難しいと印象付ける為の俺とローズマリーの策だった。

 

「近くで戦争でもあったわけでもないのにアンデッドが溢れるのは変だろう?

 俺と仲間は周辺を調査し、その結果ヘンテ鉱山と呼ばれる廃坑の奥からアンデッドが次々と現れ出ていると結論付けた」

 事件のあらましを語る俺は、一応彼女の様子を見ながら話していた。

 どうせ彼女はあのジジイに対応を押し付けられただけの少女だと思っていた。

 

 だが、彼女はその話を聞いて目を見開き、僅かに驚いた様子を見せた。

 もしやこの一件、召喚士協会では周知の事実なのではないのか?

 組織ぐるみで隠ぺいする何かが有ったのでは? と俺は勘ぐった。

 

「それで被害の方は?」

 しかし予想に反して彼女は前のめりになって俺に尋ねた。

 意外に豊かな胸元が強調され俺の注意力を奪う。この女恐ろしい手を使う!!

 

「ちょうど滞在していた俺と仲間で何とか被害は出ずに済みましたよ。

 原因と思われる、アンデッドを自働に召喚される装置も破壊しました。これがその残骸です」

 俺は布に包んで持ってきておいた召喚装置の残骸をテーブルに出した。

 

「そうですか、よかった」

 俺の言葉に安堵したらしい彼女はホッとした様子で座りなおした。

 

「俺はこの装置が召喚士協会のものだと疑っています。

 この疑念を晴らす為に、そちらには誠意ある対応を求めたい」

 勿論この程度で協会が情報を漏らすはずもない。

 次に繋ぐ一手として強気でそう言ったのだが。

 

「これに関して、協会は関係ありませんよ」

「なんだって?」

 あまりにもあっさり断言するので、俺は疑いの目で彼女を見やった。

 

「……これは、父の研究の産物です」

 彼女の表情は強張っており、辛い出来事を思い出しているように見えた。

 

「君のお父上の? つまり、協会員の手によるものだと?」

「いいえ、父は非正規の召喚士でした。

 父は旧ポピー分社が研究資金を出す代わりにそこで研究員として働いていたそうです」

「……嘘では無さそうですね」

「父はここでの研究成果を学会に発表していますから、調べればわかることですし」

 これは、意外な展開になって来たぞ……。

 

「しかし、あの鉱山の奥はあの会社が証拠隠滅の為に封鎖させたと聞いていました。その際に父も……。

 まさかまだ装置が稼働していて、住人の皆さんに迷惑を掛けてしまうなんて」

「その鉱山は元々首無し幽霊のうわさが出てましてね。

 誰も居ないから、と盗掘者が封鎖の奥を掘り当てたんだと推察している。

 住人に被害が出なかったのは不幸中の幸いだった……」

 俺はさも幸運に感謝し神に感謝している風に手を合わせた。

 彼女が嘘を言っている風にも、演技をしているようにも見えない。

 

「それで、わざわざ召喚士協会にまでお越しいただいて、この件についてどうするおつもりですか?」

「それをこの協会の対応次第で決めるつもりでした。報酬も、村から頂いた分では到底足りない規模の戦いだった」

「でしたらどうか、この件は私に与らせてもらえませんか?

 勿論、信用できないのならこの残骸はそちらで保管して頂いても構いません。

 いずれ、然るべき方法で世間に公表しますし、足りない分の報酬も私からお支払しますから」

「…………」

 なんだ、これは。

 俺は今何をしている?

 

 これじゃあまるで、父親を事故で亡くした少女をいじめて金をせびっているようにしかみえないぞ。

 お金は傭兵の仕事に説得力を持たせるためで、当然びた一文受け取るつもりも無い。

 

「お願いします、私にはまだやるべきことが有るんです」

 彼女は立ち上がり、頭を深々と下げてそう言った。

 

「……気が変わった」

「え?」

「本当は、どうでも良かったんだ。そちらの誠意だとか、報酬だとか。

 俺が気になっていたのは、かつて轡を並べたこの組織の真実だけだ、それ以外はどうでもいいんだ。

 君がどうしたいかも、どうするかも、興味なんて無い」

 そうだ。俺はこんな自分より半分も生きてないようなガキの自己犠牲など、どうでもいいのだ。

 

「俺はもう帰る、君も勝手にしろ」

 まったく、下らない時間を過ごしたぜ。

 てっきり召喚士協会の陰謀だとか裏側だとか闇だとかを期待していたのに。

 ふたを開けて底をあさって見れば不幸で健気な少女が頭を下げるだけだった。

 これじゃあ、ぎゃあぎゃあ騒いだ俺がバカみたいじゃないか。

 

「そのゴミ、もう要らないから捨てといてくれよな。そのゴミ処理代が今回の報酬の代わりでいい」

 俺は唖然としているシノブちゃんを尻目に、部屋から出て行った。

 

 

「……いかん、感情的になってしまった」

 どうにも俺は健気な少女というものに弱い。

 かわいい子にはいい感じに見栄を張りたくなる年頃なのだ。まったく。

 

「しかし、協会が関係無いのならジジイもそう言えばいいのにな。

 いくら関係者とは言え、シノブちゃんに押し付ける必要があるわけもなし」

 俺も何となく、彼女が全てを語ったわけでは無いことは察していた。

 だが必要なことは聞いた。深入りして誰かが傷つくのかもしれないのなら、踏み込まない方がずっといい。

 俺だって仲間たちに言いたくない事など、幾らでもあるのだから。

 

「おい、そこの傭兵。ちょっとこっちに来てもらおうか」

 俺がそうして協会の二階から降りると、協会員と思しき召喚士が数人立ちふさがったのだ。

 

 

「それで、俺に用が有るってのはそこの坊ちゃんか」

 俺は状況を知るために彼らに付いて行くと、別室に通されそこで待ち受けていた青年と相対した。

 

「わざわざ連れ出して悪かったね。

 早速だけど、用件だけ伝えるよ。シノブに見せた物を渡して貰おう」

「あん? 人にものを頼む時はどうやってお願いするのかママに教わらなかったのか?」

 俺はまず、このいけ好かない目の前の小僧を挑発してみた。

 

「ふん、勿論タダでとは言わないさ。10万ゴールド出そう、これでいいかい?」

「そもそもおたくは誰よ? 素性も知らない相手とは取引はしない主義でね」

 取引も何も結論は決まっているが、俺は交渉のテーブルに座ったと見せかけて相手の情報を引き出そうと試みることにした。

 

「まあいいだろう。僕はマクスウェル、一級召喚士さ」

「一級召喚士? お前が?」

 シノブに対して全く真逆のニュアンスで、俺はこの金髪の小僧を見やった。

 

「それで、渡す気になったのかい? あんたがヘンテ鉱山で手に入れたって物は」

「ははぁ、なるほど。お前さんはそれを使ってシノブちゃんを今の地位から引きずり落としたいわけか。

 彼女、若いのに優秀そうだもんな。目の前を遮るたんこぶは斬り落とすのに限るしな」

「お前には関係ない話だよ。それより、さっさと結論を出してくれないか?」

 シノブの名前を出されたからか、若干苛立ちをこもった声で彼は催促をしてきた。

 

「結論なら決まっている。否だね」

「はッ、理解が出来ないね。ただの紙束に10万ゴールド払ってやるって言ってるんだ。どうしてさっさと渡さないんだよ」

「渡すも渡さないも何も、あの資料はもう彼女に引き渡した後でね。廃品回収を頼んだ後だから、無い袖は振れないって話さ」

「はんッ、これだからハグレは。自ら好機をどぶに捨てるなんて馬鹿げている」

 そして既に俺の手元に何もないのを知ると、奴はとうとう俺を小馬鹿にする態度を隠そうともしなくなった。

 

「好機を棒に振ったのはそっちじゃねえのか?

 まあどちらにせよ、俺はお前か彼女のどちらかを選べと言われたら必ず彼女を選ぶさ」

「見る目が無いね。僕よりあんな奴を選ぶなんて」

「男の見る目なんざ、相手が男か女か見分けられりゃそれでいいんだよ。

 あんたも年下に嫉妬するくらいなら、口説き文句の一つでも言ってやればいいのに。案外そっちの方が効くかも知れないぜ?」

「見る目も無ければ品位も無いのかい?

 あんなのは化け物さ。あんなのより協会の上に立つのは僕の方がふさわしいと言うだけのことさ」

 それを聞いた俺は可笑しくなって、わざとらしく笑い飛ばしてやった。

 

「何が可笑しい!!」

「馬脚を現したな、小物め。

 未知の化け物が目の前に現れた時、凡人は恐れ遠ざける。

 真の賢者はその正体を見破ろうと頭を働かせ、戦いを避けるものだ。

 そもそも極まった魔法使いなんざ、誰しも化け物みたいなものだろう。あんな小娘にビビってるんじゃねぇよ、お坊ちゃん。それでも学者の端くれか?」

 俺の挑発に、お坊ちゃんは顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「僕は知っているぞ、お前が魔法の才能も無いハグレの分際で協会に入ろうとした大馬鹿だってな!!」

「俺の故郷ではな、知恵とは大いなる女神が一人一人に授けていただくもんなんだ。

 頭の良し悪しはそれぞれ女神が生きるのに必要な分を与えてくれたに過ぎないんだとな。俺がここに受からなかったのも女神の導きの一つに過ぎない。

 お前は自分の頭の出来に対して不相応の事をしようとしている、身の破滅には注意するんだな」

 お坊ちゃんは俺の忠告に、後悔するぞ、と吐き捨てるのを聞いて俺は部屋から出ていくことにした。

 

「あの、マクスウェルさん、この後はどうします?」

「あれがダメなら今度はあのゴリラ女を使えばいいだろ!!」

 と、後ろで怒鳴り散らす声が聞こえた。

 

「ゴリラ女……?」

 その意味不明な単語に首を傾げつつも、俺はとっくに目的を達しているのでさっさと協会から去ることにした。

 

 そして俺はわざとらしく裏路地の方へと入ってから、後ろを振り向く。

 そこには協会員、いやマクスウェルの手下らしき男たちが数人出口に立ちふさがっていた。

 

「これが欲しいんだろ?

 ハグレならどうしようと問題にならないと思ったのなら浅はかだぜ。

 マクスウェルのお坊ちゃんに伝えておきな、お前上に立つのに向かないってな」

「黙れ、さっさとブツを奪うぞ!!」

 俺がシノブに渡していない資料をチラつかせると、連中は一気に魔法の詠唱を始めたのでその素人臭さを鼻で笑うのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「それで、お前は余裕ぶっこいて数人相手にぼこぼこにされかけたと」

「勝った!! 勝ったから良いんです!!」

 そしてハグレ王国の拠点に戻った俺は、ティーティー様にヒールを掛けて貰っていた。

 だってあいつら、魔法が効かないと分かると一斉に殴りかかってくるんだもん。

 

「はい、これ絆創膏ハオ、ぺたりと」

「ありがとうハオちゃん……結婚しよ」

「え、ハオは狩る側だから、狩られたくないお」

「うぇーい、すごい振られ方されたー!!」

 絆創膏を貼ってくれるハオに思い切って告白したが、見事に玉砕する俺。

 

「それで、この件はどう落とし前を付けさせるつもり?

 仮にも仲間をフクロにされたんだ、例の召喚士を捕まえてカチコミに行くかい?」

「なんでジーナちゃん、時々そう脳筋なの!! もう少し穏便に行こう!!」

 アルフレッドが来てから大分雰囲気が柔らかくなったジーナが、壁にもたれかかれながらそんな過激なことをおっしゃる。

 

「もう、姉さんったら……でもまさか、あの召喚士が皆と因縁が有ったなんて知らなかったよ」

「対応したっていうのが、弟君だったんだってな?」

「うん、そうだよ」

 アルフレッドが頷くのを見て、俺は思案する。

 

 俺が拠点に戻る数時間ほど前のことである。

 何でも、以前世界樹で出没したというピンク髪の召喚士が拠点に現れたのだと言う。

 それの対応に出たのがアルフレッドで、怪しげな訪問販売みたいな調子だったので責任者のデーリッチとローズマリーが不在なのでお帰り願おうとしたらしい。

 しかしそこは訪問販売員がドアに足を挟めるが如く、彼女らが帰るのを待つと言いだしたらしい。

 

 そしたらアルフレッドは、先日ヤエが空けた地下の穴へ調査に出かけているので、いつ帰るか分からないと告げたらしい。

 これで帰ると思ったら、じゃあ私が直接会いに行ってきます!! と行ってしまったらしい。

 

「まさか一人で行っちゃうなんて……」

「バカアルフレッド、召喚士なんて門前払いすればよかったのに」

「だけど姉さん……」

「まあまあ、結果的に怪しい召喚士を引きとめることには成功したんじゃ。結果オーライじゃろう」

 好戦的な姉に縮こまる弟の二人を取りなすティーティー様。

 

「俺はてっきり追手が先回りしたのかと思ったがそう言う感じじゃなさそうだし、協会の対応は保留で行こう。今は王様も参謀も居ない事だし」

「それが良かろう」

「まあ俺としては穏便にするべきだと思うがね。

 必要な情報は得た以上、深入りは避けるべきだ」

「そ、そうです、報復なんて野蛮です!!」

 俺が言葉に同調するように、怪我して帰ってきた俺を遠巻きに見ていた雪乃が主張した。

 

「ま、怪我をした張本人がそう言うんじゃデーリッチもそうするか」

 せっかく武器が売れるチャンスだったのに、と言って店に戻るジーナ。

 

「姉さんも不器用だなぁ」

「ああいうところが可愛らしいよな、ジーナちゃんは」

 俺がそう言うと複雑そうにアルフレッドは笑った。

 その表情は姉に好意を向けてくれる男性が居るのは嬉しいけどこの人じゃ無ければなぁと物語っていた。

 

「さて、噂をすれば二人が帰って来たみたいだぞ」

 俺は玄関口の方で抗議を上げながら二人に連行されるピンク髪の女を目にするのだった。

 

 ――そしてまさかこのピンク髪の召喚士エステルとの出会いがなければ、今後この王国と召喚士協会、ひいては帝都の行く末が変わっていたことになるだろうとは、この時点では誰も想像できなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 




絶妙なところで核心には踏み込まないオリ主。
傭兵ゆえの用心深さか、臆病ゆえか。

正直、マクスウェルの今後の行く末はどうしようか迷っています。
そしてこうして考えると、設定資料集にもありましたがエステルの影響力って凄いですよねー。流石裏の主人公って感じです。

とりあえず、一章が終わるまでは駆け足で行きたいと思ってます。

この作品で期待している今後の話しの内容は?

  • オリジナル展開
  • 原作の綿密な描写
  • キャラ同士の掛け合い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。