俺は二人が引っ張ってきた召喚士の尋問風景を遠巻きに見ていた。
エステルというそのピンク髪の召喚士がティーティー様とハオに面通しされ、世界樹に現れたのは間違いなくこの女だと言うことが確定した。
訳も分からず連行されてきたらしい彼女は最初は感情的だったが、周囲から世界樹の現状について説明を受けると、訝しげに話を聞き始めた。
ティーティー様は彼女が行っている魔物の湧きを減らすキャンペーンとやらの後、一時的に魔物はゼロになったらしいがしばらくするとまた多くの魔物が出てくるようになったと言う。
エステルはそんなはずはない、お金を払いたくないからそんなことをでっち上げるんだと言い放った。自分はちゃんと効果を確認してから帰ったのだと。
これは嘘では無い、と前置きしティーティー様は冷静にそのことで彼女は責めてるわけでもないし、お金も後で払っても良いとエステルに言った。
そこまで言ってから、エステルもようやく俺達が真剣に話し合おうとしていることがわかったのだろう、黙ってティーティー様の話を促した。
そして自分とハオだけでは死んでいたかもしれないほど有り得ないほど巨大な魔物が湧いた理由を、ティーティー様ははっきりとさせたいようであった。
彼女の行ったキャンペーンと巨大魔物の出現の関係性について心当たりがないか、と続けてティーティー様は尋ねた。
「……それ、本当なの?」
そのことに対して、エステルも寝耳に水だったのか、目を見開いて聞き返した。
ティーティー様はここにいる皆が証人だと述べ、にわかには信じられない、と返すエステルにローズマリーが自分たちに嘘を吐く理由など無いと説いた。
王国の建国から既に一か月以上経過し、商売の方もそれなりに上手く行ってきている。
彼女が一体いくらでキャンペーンとやらを施しているのか知らないが、こちらの長期的利益と比べればはした金だろう。
だが、それだけでエステルは自分がしてきたことを否定されまいと、決めつけるのはおかしいと主張した。
そのゼロキャンペーンとやらの効果は一時的に有ったのだから、巨大魔物は別の要因があるのではないのかと。
或いは同一例などが無いかと、早口でまくし立てた。
エステルの主張は尤もであった。もしこれが裁判なら、彼女は証拠不十分で無罪だ。
ローズマリーもそれは理解しているようで、他に例は無いと静かに返した。
ティーティー様も世界樹の認定が外され信仰をやや失っているぐらいの心当たりしかない。
しかしそれでは理由としては弱いのは、現職の召喚士たるエステルにも否定できないことであったようだ。
だからこそエステルの所為であるとの断言もティーティー様はしなかった。
そして一連の会話で、エステルが何も知らないとティーティー様は判断されたようであった。
ハオも尋問されているエステルに同情したのか、彼女の目は嘘を吐いていないとティーティー様に伝えた。
ティーティー様もこれ以上この女を尋問する意味も無いと感じ取ったのだろう。
仕方ないからエステルを解放しようとでも言いかけたのだが。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
――逆境でこそ燃えるこの女、エステルの真骨頂はここからであった。
「なによそれ!! 私が知らずに悪に騙されてる下っ端一号みたいじゃないの!! 冗談じゃないわ!!」
まるで着火剤に火が着いたかの如く、感情を燃え上がらせたエステルはそう声を張り上げた。
「関連性があるかどうかは、私にはわからない。
でも、私だって、本気でゼロにしたくて取り組んでるんだ、悪人になりたくてやってるわけじゃない!!」
この女は魂が太陽のように燃えている。その輝きに俺は思わずため息を漏らした。
自分が久しく忘れていた若さと熱意を、彼女はその身と精神と魂に宿していた。
主人公気質とはまさに彼女のことを言うのだろう、まったく羨ましい限りだ。
そして俺はこれ以上聞く必要は無いと感じて、その場から立ち去った。
もう一度チャンスを欲しい、とティーティー様たちに願うエステルの声を背に聞きながら。
§§§
あのエステルと言う女は不思議なもので、そのあとゼロキャンペーンとやらを行うという彼女をデーリッチ達に任せても大丈夫だと感じ、俺は先日完成したばかりの自分の店舗の運営の方へと移ることにした。
召喚士協会での出来事も、その後でローズマリーに報告すればいいのだから。
今は余計な情報を渡しても面倒なだけだ。
「よし、ノボリはこんな感じで良いかな」
「そうそう、そんな感じで」
俺はアルバイトしている雪乃と一緒にノボリ旗を設置していた。
「こんな怪しげなうたい文句で本当に売れるのかしら」
暇なのかヤエが雪乃の様子を見に来たようで、ノボリ旗の文字に懐疑的な視線を向けていた。
ノボリ旗にはこう書かれている。
――『世界樹じゃなくなっても、ご利益は変わりません!!』と。
「こういうのはちょっとぐらい胡散臭いぐらいで丁度いいんだよ。
占い師の館とかと一緒さ。そういうのが演出になるんだ」
俺は元世界樹の関連商品を販売所に運びながらそう言った。
「おおっと、悪い悪い。怪しげなのにちっとも売れてないスプーン屋さんとかも居たなぁ」
「うぎぎぎ……」
「いやさ、お前も超能力で未来予知とかやってみればいいじゃん」
「そうだよヤエちゃん、こんなに胡散臭いのに神様がバックにいるだけであっちに開店待ちしてるお客さんも居るんだよ」
俺はこの全く商才の無いサイキッカーに助言してやると、雪乃が元世界樹関連の商品を求めて開店待ちしているお客さんたちを示した。
「っふ、残念だけど、このサイキッカーヤエを以ってしても未来と言う不確定な要素を読み取るのは難しいわ。とっても疲れるもの」
「できねぇとは言わないのかよ。
いやいや、占いと一緒だって言ってるだろ。どうとでも取れる言葉を未来予知と称して言ってやれば気持ちでスプーンの一つぐらい買ってってくれるんじゃねぇのってことだ」
「そんな超能力を冒涜するようなこと出来るわけないじゃない!!」
「じゃあ一生閑古鳥相手に商売してろよ!!」
せっかく俺が助言してやってるのに、ヤエは向きになってそう返した。
「でもまあ、実演販売ってのは良いと思うよ。
ヤエちゃんって前も実演販売しながらスプーン売ってたんでしょ?」
「マジかよお前、王国に来る前からそんなの売ってたの?
俺以外に買う物好きいるのかよ、それ」
「勿論売れたわよ!! 数人くらいだけど……」
「やっぱりダメじゃん」
これには提案者の雪乃も肩を落とした。
「って言うか、マルースさんは買ったのかよ」
商品の運搬などを手伝って貰っていたマッスルがさり気なくツッコミを入れた。
「いや、まあね。こいつの店、時々雪乃ちゃんが店番してたりするもんだから、その度に上手い事乗せてくるもんだからついついね」
「それ、カモにされてないか?」
「マルースさんは優しくお願いするだけでいつも買ってくれるんで助かりますー」
「ほらやっぱりカモにされてんじゃん!!」
「ははは。そろそろ拠点の全員分に行き渡る頃かな……」
「しかも結構常連じゃねぇか!!」
あれヤエちゃんのところのスプーンだったのかよ、とぼやくマッスル。
「むむッ、デーリッチ達が雷属性を使える人間を欲している感じがするわ。ちょっと行ってくる」
そして話題の中心たるヤエは謎の電波を受信して去って行った。
「ま、まあ、王国に来た人たちが記念に買って行く人もそこそこいるんで、なんだかんだで赤字にはなってないんですよね~」
と、本人が居なくなってから厳しいフォローを入れる雪乃。
「あ、でも、ヤエちゃんが居なくなったら私がお店見ておかないと。
マルースさん、あの悪いんですけど……」
「ああ構わないよ、行っておいで」
「すみません」
雪乃も俺に一礼して去って行った。
「うーん、参ったな。あの様子だとティーティー様とハオもあっちに付いて行くだろうし。
元世界樹商品を売り出す日に元世界樹の人員が居ないとは。
マッスル、悪いけど売り子が足らんから拠点で暇そうな奴いたら呼んできてくれないか。出来れば女の子な」
「ういーっす。任せな」
マッスルは俺に背を向け、片手をあげて拠点へと歩いて行った。
売り子ぐらいなら俺がやっても良かったが、初日ぐらいは見栄えのいい人材に頼みたい所だった。
アルバイトを雪乃以外に雇ってなかったのは単純に初日だから人もそんなに来ないと思っていたのだが、元南の世界樹のネームバリューはそれなりにすごかった。
新たな独自商品を出すと宣伝しただけで開店待ちが出てくるとは。
これは気合入れねばならんな。
「マルースさん、手伝いに来ましたよ!!」
俺が販売所に商品を並べていると、アルフレッドがジーナの手を引っ張ってやってきた。
「まったく、私は暇じゃないってのに」
「まあまあ……さっきデーリッチ達の武器は新調し終えた後だから別にちょっとくらい良いじゃないか」
「おお、ジーナちゃんも来たか、助かる!!」
無愛想だが接客経験のあるジーナが居るのは大きい。
「ま、そっちの大工仕事の時は何かと懇意にしてもらってるからね、ちょっとぐらいなら良いか」
「そうか!! じゃあ奥に福の神様が居るから制服を着て店の中に入ってくれ。
弟君はこっちで棚卸しを手伝ってくれ」
「わかったよ」
「おーい、商品の残りを持って来たぞ!!」
今度は両手に商品を抱えたマッスルもやってきて、開店準備は大忙しとなっていった。
「いやぁ、弟君、よくぞジーナちゃんを連れて来てくれた!!」
「いえいえ、ここでゴースト被害の受け付けもしてくれるんですよね?
僕もいつもここに居られるわけじゃないですし、正直依頼を探し回らずに済むのは助かりますから、持ちつ持たれつですよ」
「そうだな。こっちも凄腕ハンターの相談窓口があるってのも話題になるし、いずれは講義とかもできるスペースとか作りたいよな」
「ああ、それ助かります。ゴースト被害って素人が余計なことして二次被害とかすごくよくあるんですよね。
帝都の大学の講堂を借りようにも、ハグレの身の上じゃあなかなか……」
「分かるわー、俺も帝都に居た時は苦労したわ」
などと、俺がアルフレッドと会話をしながら準備も最終段階に移行していると。
「おい、これは聞いてないぞ!!」
奥の社務所からジーナが真っ赤になって戻ってきた。
「おや、ジーナちゃんどうしたんだ、顔を真っ赤にして」
俺は目を白黒させているアルフレッドを尻目に、にやにやと笑って彼女にそう言った。
「……ここまで来たんだからいい加減諦めましょうよ」
と、続けてハピコがテンション低めでこっちに歩いてきた。
「ハピコちゃんが似合っているんですから、ジーナちゃんも似合いますわよ」
そしてハピコに寄り添うように一緒に歩いてきたのは福の神様だった。
そう、ハピコは今普段の装いではなかった。
縁起の良い白と赤。
――巫女装束なのである!!
「ほほう、巫女ハーピーとか新しいなハピコ。新ジャンル開拓か?
馬子にも衣装とはこの事だな!!」
「…………」
「ははは、冗談だよ、似合ってるって。なあマッスル!!」
「うん? ああ、そうだな」
ぶすっとするハピコに、ジーナの巫女装束を期待して気が気でない様子のマッスルだった。
あ、なぜかマッスルがハピコに蹴られた。
「だいたいなんであんたは学帽にローブなのさ!!」
「ああこれ? 言ってなかったか?
叡智の女神を崇める俺の故郷じゃ学者や思想家、哲学者が神職みたいなものでね。
なんだジーナちゃん、学生服とかの方がよかったってのかい?」
「どっちにしろあんたの趣味じゃないか!!」
「それの何が悪い!!」
俺は開き直ってそう叫んだ。開店待ちの客たちも、そうだそうだと声をあげた。
「ハオちゃんは動きにくいから嫌だって言うし!!
雪乃ちゃんは土壇場で別のところ行っちゃうしさッ!!
せっかく神殿を作ったのに巫女さんが居ないとか有り得ないだろ!?」
「それが本音か!!」
「それの何が悪いッ!!」
俺は更に開き直ってそう叫んだ。
「お前はどう思うアルフレッド!!
お前は姉の晴れ姿みたくないのか!!」
「えッ、なんで僕に飛び火するの!?
……いや、まあ、姉さんは飾り気とか無いし、もっとオシャレを楽しんでも良いとは思うけど」
いきなり話を振られたアルフレッドはギョッとしたが、冷静になってそう答えた。
そう言われては、隠れブラコンに見えて全く隠れていないジーナは羞恥に顔を染めながらも社務所に戻って行った。もうヤケクソのようだ。
「ありがとう、弟君。後であの時の巫女さんは居ないの? みたいな声を無数にでっちあげてジーナちゃんに巫女服を着せようと計画していたが、最初の一回のハードルが高かった!!」
「う、うん……」
アルフレッドは複雑そうに笑みを浮かべていたが、やがてそれも仕方ないなぁという苦笑に変わった。
その後、巫女装束を着たジーナの登場に狂喜乱舞する観衆とマッスル。
衣装に慣れたら慣れたで仏頂面になるジーナとハピコ。
俺とマッスルとアルフレッドは御揃いの学帽とローブを着てみたりしたが、マッスルの違和感が凄くてハピコなどが爆笑したりと、元世界樹商品は初日ほぼ完売とかなり盛況であった。
後日もう一度ジーナに巫女装束を着て貰おうと頼んだところ、即座にハンマーを幾つも投げつけられたのを追記しておく。
ジーナさんとハピコって巫女装束似合うと思う。思わない?
できればこドラにも着せたがったが、マッスルやアル何とかさんが彼女を連れて来れるとは思えなかったので……。
いよいよ登場した我らがイケメンピンクですが、本格的に絡むのは次からでしょうか。
次はエステルの逃走劇をやります。
この作品で期待している今後の話しの内容は?
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オリジナル展開
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原作の綿密な描写
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キャラ同士の掛け合い