アナザー・アクターズ   作:やーなん

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これにてようやく一章が終わります!!
頑張った!!


12.エステル救援

 それから王国の地下遺跡にてゼロキャンペーンを行ったと言うエステルは翌日に帝都へと帰って行った。

 少なくとも彼女はデーリッチとローズマリーの信用を勝ち取ったようだった。

 

「それで、マルースさん。改めて召喚士協会でのことを報告をお願いしてもよろしいですか?」

「あん?」

 王国会議の最中、舟を漕いでいた俺は突然ローズマリーに話しかけられ、ハッとなった。

 

「うーん、えーと、問題なしであります!!」

「ちょっと、年長者が寝ないでよ」

 ヤエが呆れたように俺に言うので、俺は鼻を鳴らしてこう言ってやった。

 

「はん、馬鹿め。俺より年長者ならここに――」

「マルースさん、私の方を見てどうかしましたか?」

 ぽん、といつの間にか俺の横の空席に座っていた福の神様が俺の肩を叩いた。

 

「あ、いや、福の神様は出会った頃よりお変わりなく美しいなぁと!!」

 俺は咄嗟に取り繕うようにそう答えた。

 

「それより、何が問題ないと?

 私が他の皆からあなたが協会員に襲われたと聞いていないとでも?」

「だからわざわざエステルちゃんが帰ってから皆の前で問いただすのか?

 もう何日も前のことだから忘れちまったなー」

 俺はローズマリーの追求におどけて返した。

 

「エステルちゃんに訊けば良かったじゃないか。

 あんたらは都合が悪い事になったら暴力を振るうヤクザなのかって」

「おどけて、相手を挑発して、論点をずらしてうやむやにする。

 そのあなたのいつもの手管が、今更私に通用するとでも?」

「いやーははは、実は若いのに大きすぎず小さすぎないボインちゃんがこうして腕を前にして腰を折って頭を下げるもんだから、話の内容が頭に入らなくてさー」

「マルちゃん」

 俺が笑ってごまかそうとすると、上座に座るデーリッチが静かに俺の名を呼んだ。

 

「デーリッチは報告を待つと言ったでち。

 マルちゃんは傭兵として、デーリッチ達は雇い主としてきちんとした報告を受ける義務がある。違うでちか?」

「……失礼した、王様。マリちゃんもな、少しおふざけが過ぎた」

 俺は席を立って二人に頭を下げ、居住まいを正した。

 

「例の召喚装置の関係者は死亡しているようだ。

 製作者も協会とは関係ない非正規の召喚士らしく、再現性もほぼないと見ていいだろう」

「今後、似たような事例は無いと?」

「恐らくな。俺が襲われたのも、協会内の派閥争いのごたごたに巻き込まれただけだ。

 王国として腰を上げるようなことじゃねえ」

「では公式に抗議文を送る必要も無い、と?」

「男の喧嘩に口を挟むなんて野暮だぜマリちゃん」

 何度も確認をするローズマリーに、俺はまじめに返した。

 

「……わかりました。この件についてはこの報告を以って終了としましょう」

 俺は席に座り、残りの会議の流れを見守ることにした。

 

 

 

 §§§

 

 

 それから数日後、エステルから連絡用に渡された連絡用のアイテム、コンタクトクリスタルの定時連絡から緊急信号が発せられた。

 だがそれは本来、ここの地下遺跡が世界樹の時のようなトラブルが起こった時、こちらから発する信号なのだ。

 

 しかし彼女の発した危険信号は非常に切羽詰ったモノで、こちらも彼女と合流する意思を示した。

 ここでローズマリーはこの信号を罠である可能性を考慮し、帝都での情報収集を提案した。

 そしてその情報収集に名乗り出たのが、たまたまその場に居合わせたハピコだったのである。

 

「俺が行った方がよかったんじゃないかねぇ」

「つい先日、もめ事を起こしたあなたが行くのは得策じゃありません。

 ほとぼりが冷めてからなら、その選択はアリだったんですが」

「まったく、タイミングが悪いなぁおい」

 俺とローズマリーがそんな会話をしつつ、サムサ村でデーリッチと共に待機していた。

 以前の恩を返す為に偵察を買って出たハピコの献身に感動していたデーリッチもそわそわしている。

 

 やがて、三時間ほど経ってから、サムサ村と帝都の間に有る大きな川を越えて情報収集してきたハピコが戻ってきた。

 彼女曰く、エステルとの接触はできず無事は確認できなかったそうだ。それどころか、彼女は世界樹の認定を取り消されるような魔物騒ぎを起こしたとして指名手配されていたと言う。

 それを聞いて、俺の頭の中で幾つかの出来事が点と点で繋がってしまった。

 

「おい、あのゼロキャンペーンの責任者の名前を知ってるか?」

 エステルの捜索と合流を決め、拠点へとキーオブパンドラで帰還した俺たちは真っ先にローズマリーに尋ねた。

 

「ええと、たしかエステルは自分と上司の二人でゼロキャンペーンをしてるとか言っていたね。

 その上司の名前は、ええとシノブとか言ったかな? ここに彼女の持ってきたチラシが」

 俺の剣幕に押され、緊急事態だというのに彼女は折りたたまれたゼロキャンペーンのチラシを持ってきてくれた。

 

「くそがッ!!」

 そのチラシを見た俺は、感情のままに壁を殴った。

 そのチラシにはデフォルメされた笑顔のシノブが描かれていたのだ。

 

「ど、どうしたんでち、マルちゃん!!」

「俺が召喚士協会の派閥争いに巻き込まれたのは話したな?

 その時にこのチラシに描かれた少女と会った。

 そしてその彼女の弱みを握りたい敵対派閥の主にもな!!

 そいつはその子を排除する為なら何でもしでかしそうな雰囲気だった!!

 その上次の標的は誰かも口走っていた!! まさかそれがエステルだったとは!!」

「マルちゃん、落ち着くでち!!」

「だがこれは俺のミスだッ!!

 帝都に帰った彼女が奴の計略に嵌ったのも事実だろう。

 俺がもっと早く気づいていれば……!!」

「そんなのは結果論ですよ、マルースさん。論争するだけ無駄だ。

 今は彼女を救う術を考えるのが最善。そうでしょう?」

「……ああ」

 俺はローズマリーに諭され、頷いた。

 心配そうにこちらを見ていたデーリッチにも笑いかけ、大丈夫だと言ってやった。

 

「マルっち、最近ちょっとらしくないんじゃないの?

 仮にも現場指揮官が熱くなってどうするのさ」

「らしくないと言えばお前もじゃないか。

 王国の為に金じゃなくて命を賭けるなんてな」

 二人が仲間の編成の為に居なくなった後、俺とハピコはそんな話をし始めた。

 

「お前は適当に稼いで、適当にどっか行っちまうもんだと思ったが、その気配も無い。

 この国はお前の命を賭けるに値するのか?」

「まあ、この世界の連中なんて幾ら騙したって何とも思いやしませんがね。

 でもここの連中は私と同じハグレの身の上だし、誰も私を騙そうとはしないしね」

「あのエステルって召喚士はハグレじゃないぜ。

 恩返しの為だって、帝都に単身行くかね?」

 帝都は法と体裁が有るとはいえ、俺のようにハグレは酷い扱いを受けることもある。

 ハピコのように人の姿から離れていれば尚更だ。

 

「そういうあんたこそ、さっきのことにもっと早く気付いていれば私の確認作業は必要なかったかもしれないじゃないか。あのお人好したちのことだから」

「どうかね。事実確認は大事だ。どのみち事態の把握に努めただろう」

「論点はそうじゃないだろ?

 あんたがここの連中を信頼しているかって話さ」

 ハピコが糸目を更に細めて言う。俺はそれがまるで睨まれているようで居心地が悪かった。

 

「あんたはデーリッチ達の為に命を賭けられるかもしんないけど、この国の為に命は張れないだろう?

 だからこの間の会議でも最低限のことしか報告しなかった」

「……」

「ああいや、責めてるわけじゃないよ?

 私だってあんたと同じようにある程度距離を取りたいさ。だけどあいつら、そう言うの関係無しに近づいてくるからさ」

 ハピコは視線を俺から逸らし、どこか遠くを見た。

 きっと彼女はローズマリーにお風呂の世話や拠点の面々に自分が出来ない事をして貰っていることを思い浮かべているのだろう。

 

「だからマルっちも、こっち側に来いよ。

 一歩引いて物事を判断する立場じゃないだろ、あんた」

 そして、にかっと笑ってハピコは俺にそう言った。

 

「俺もそれが簡単にできるほど、若く純粋で単純であれたらな……」

 俺はその笑顔が眩しくて、思わず目を逸らした。

 

 

 

 §§§

 

 

 俺は当然、エステル捜索に志願した。

 世界樹が合流地点なので、そこの待機組を残して俺たちは帝都へ向けて徐々に探索範囲を伸ばして行った。

 

 そして俺が雨の中騒ぎを聞きつけ、エステルを見つけた時にはすべて終わっていた。

 デーリッチとローズマリーとヤエが、なにやら堅気とは思えぬ連中を捕縛して尋問している真っ最中だった。

 情報を一つ喋った刺客は逃がすと言って。

 

 そして最後まで残った愚図は殺す、か。痺れるねぇマリちゃん、マジで惚れそうだ。

 

「マリちゃん、落ち武者狩りなら傭兵の真骨頂のひとつだが?

 汚れ仕事の一つや二つ、俺に任せても良いんだぜ?」

「銃を持つ人間に人を撃てと命令した人間の手が汚れないとでも?

 心配しなくても、あんな連中に手を汚す必要はありませんよ、私もあなたも」

「そこは一応後ろから撃たないって約束を守るかどうか論じなさいよ」

 俺とローズマリーはヤエに呆れられながら、パンドラで拠点に帰還した。

 

 

 そんな感じでエステル救出はスムーズに行ったが、どうやら彼女の名誉回復もスムーズに行きそうであった。

 どうやらエステルの罪状は被害者の訴えがないと成立しない罪らしく、世界樹の関係者のいるこちら側にはそれを覆す手段は揃っていたようだ。

 それにしてもローズマリーもよくそんなこと知ってたよなぁ。彼女は弁護士としても十分やっていけそうだわ。

 

 相手がこうしてエステルの身柄を確保できない以上、でっち上げた罪という爆弾は相手に蹴り返すことが可能だ。

 後はこちらの基盤を固めて相手が自爆するのを待つだけでいい。

 シノブも彼女の名誉回復の為に動いているだろうし。

 

 そうしてエステルの身の回りが一通り整理できた後、ローズマリーは彼女にこんなことをしでかす相手について尋ねた。

 エステルは真っ先にあの小僧の名前を挙げた。

 

 何でも、あのマクスウェルという若僧は普段から手下を使ってシノブに嫌がらせしているらしい。

 あと金持ちだからあんな堅気じゃない者を雇いそうな雰囲気をしていると。

 

「俺もこの間、協会に出向いた時にそいつの手下に襲われたからな。多分そいつで間違いないんだろう。

 しかし、あの時奴が言っていた次の標的のゴリラ女が君だったとはねぇ」

「誰がゴリラ女よ!! あいつら昔の私の陰口まだ言ってやがったのか!!

 あの野郎次に会ったらフレイムぶち込んでやる!!」

 やっぱりゴリラやん、と俺は内心口にしない良心を見せた。

 

「って言うか、襲われたってなに!? あいつらそっちにまで迷惑かけてたの!! ごめんなさい!!」

「君が謝ることじゃないよ、エステルちゃん」

 自分のことでもないのに頭を下げる彼女にそう言うと、彼女は何かを思い出したのか顔を上げて何かのメモをローズマリーに渡した。

 これが彼女がここに匿って貰う以外にこちらに来たもう一つの目的だという。

 何でも、ここの地下遺跡の危険性について表したものだと言う。

 

 ……それを見て、理解して、俺は言葉を失った。

 そのメモを持ってきたエステルの中途半端な説明を聞いただけで、俺はこの世界でいかに無為に過ごしていたかを悟らされた。

 当然、デーリッチ達が巨大魔物の出現の危険性について話し合っていることなど、頭に入らなかった。

 

 ああ、これは、少なくとも俺はあの小僧のことを哀れに思ってしまった。

 

「よかった。その図、私の説明で分かってもらえたのね?」

「いや、分からん。半分くらいしかわからん」

「がーん!?」

「別に君の説明の所為じゃないんだ。

 ただここまで来ると、スゴイっていう感想より前に寒気を覚える」

 そう言って、ローズマリーはメモの図にもう一度目を落とす。

 

「マナの大小による圧力で召喚の流れを定義するなんて、どっからやってきたの?

 まるで何百年も先から来た発想のようだ」

「なぬ? そんなに凄いんでちか、この子?

 さっきからマルちゃんが呆けているでちが」

「うん、デーリッチ一万人分くらいの脳みそ*1を持ってるね」

 さらりとヒドイことを言って返すローズマリーに、デーリッチがうがーと怒りを示した。

 

「しかしこれが正しいと、召喚魔法って名前はおかしいなぁ。

 吸引魔法じゃない。穴を空けて吸い込んでるだけだろう?」

 ローズマリーのたとえに、マッサージ屋みたいだと、笑うエステル。

 

「マルースさんはどう思いますか?」

「……正直、今まで幾つか疑問に思っていたことが氷解したよ。

 彼女は間違いなく、女神の智慧を得ている」

 俺はぼんやりとした気分のまま、ローズマリーに言った。

 

「女神の智慧?」

「ああ、うん、悪い、俺の世界の独特の言い回しだ……。

 要するに時代を引っ張るようなカリスマ的天才のことだ」

 俺はそう前置きして彼女に続けた。

 

「昔、マナの濃度差で飼育したネズミについての論文を思い出した。

 それによるとマナの濃い環境で育ったネズミは薄い環境で育ったネズミより長生きしたという研究結果が齎された。

 ハグレがなぜ、この世界の住人より強いのかもこれで説明ができる。

 俺達は基本的に、マナの濃い世界からこちらのマナの薄い世界に呼ばれるわけなのだから」

「なにその理解力……ちょっと本職として自信無くすわ」

「ははは……。エステルちゃんはそれでいいんだよ。

 君にはちゃんと君が生きるに十分な知恵が備わっているんだから」

 俺は力なく笑って落ち込むエステルを励ました。

 

「あの、何だか元気ないけど大丈夫?」

「悪いが、俺はちょっと行くとこができたわ。後は任せる」

 俺は心配そうにしている彼女をよそに、ふらふらと拠点から出て行った。

 

 ――その後、エステルはしばらく召喚士協会からの不信感から王国に滞在する事が決まったらしい。

 

 

 

「こんな落書きに、半端な知識な私が寒気を覚え、召喚士を志そうとして努力した人間が魂を抜かれたようになるとは……」

 残り二人が眠気で去り、一人になったローズマリーは思う。では召喚術に生涯を捧げた者たちは一体どう思うのか、と。

 

 彼女は思う。彼らは群れることで自分たちを必死に大きく見せようとしているのでは、と。さながら小魚の群れが巨大な魚影に移る様に。

 しかしそれは所詮、潮の流れさえ魔法で操る巨人の前には無意味なことであると悟っていた。

 

 小魚たちは必死になって次元の違う相手を見上げ、心折れまいと必死なって。

 そしてそんなことに歯牙に掛けず、巨人は海底に歴史と言う巨大な足跡を残すのだろう、と。

 

 

 

 §§§

 

 

「異世界にまします我らが叡智の女神よ、どうか我が愚昧をお赦しください」

 俺は相談所の奥にある小さな本殿の中で必死に祈っていた。

 

「私は召喚士協会に入れなかったのはあなた様の導きであったと勘違いしておりました。

 ですがそれは俺の愚かさゆえの失敗で、あなた様は間違いなく俺を彼女の元へと導こうとしてくださった……」

 俺は祈る。もはや俺の記憶にしかない女神様の像に。

 

「今度こそ、今度こそ、我が十年の苦難に答えを出して見せます。

 だから今一度、今一度だけ私に慈悲を賜して下さるようお願い致します……」

 俺は祈り続けた。

 

「どうか、どうか……お慈悲を」

 ずっと。ずっと。朝日が出るまでずっと。

 

 

 

 ……一章終了、アナザーエピソードに続く。

 

 

*1
より正確に言うなら、シノブの知力はデーリッチの十一倍である。逆に考えるんだ、むしろ十一分の一もあると……。





次回は原作にないオリジナルエピソード、つまりこの小説の主人公のマルース君のお話になります。

アンケートの結果は完全に一択でしたが、これをやらないと彼は真に王国の仲間になれないので悪しからず。
出来れば章の終わりに一回ずつ挟む形にしたいと思ってます。

ぶっちゃけ、私も早く二章の面々と絡ませたいです。
一章はまあ原作でも世界観への導入みたいなところもあるので、二章からはキャラ同士の絡みを増やしていきたい所存であります。
ではどうか、また次回!!

この作品で期待している今後の話しの内容は?

  • オリジナル展開
  • 原作の綿密な描写
  • キャラ同士の掛け合い
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