アナザー・アクターズ   作:やーなん

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今回と次回はオリジナルエピソードになります。
長くなったので二回になりました。



Another story ディストピアメイカー
EX.終末の使徒


『王国会議:主人公からの提案』

 

 

 その日、エステルが王国に身を置いて最初の王国会議が執り行われていた。

 各々の活動報告の後、探索場所の提案に移った。

 

 ――マルースからの提案。

 

「実はこの間、傭兵の仕事を探すのに知り合いと連絡を取ってみたんだけどな。

 何でも、召喚士くずれどもが集まって実験をするらしいからその護衛をしてほしいってな話しがあったらしい」

「なにそれ、どういうこと?」

「詳しくは知らんよ。だけど護衛を必要とするってことは何かを呼ぶんだろうよ。

 それがハグレか、魔物かは知らないがな」

 それを聞いて彼に尋ねたエステルは立ち上がった。

 

「その召喚士くずれどもがどういう集団かは知らないけど、生物を召喚するのは帝都では違法よ!!

 そんなのそいつらだって分かってる筈なのに!!」

「無法を通す理由があるのか、法を法とも思ってないのか……。

 しかしこうして傭兵を募集するくらいだから、こっそり悪だくみをしてるって感じじゃねえよな」

「違法行為をしようとしてるのにこっそりもおおっぴらもあるか!!

 今は協会とは距離を置いているけど、私は召喚士協会の一員よ、そんな倫理の欠如した行いを見過ごせない!!」

 エステルは怒りの声を上げるが、それをローズマリーは諌めた。

 

「まあまあ、まだ何をするのかもわかってないのに決めつけるのは良くないよ。

 しかし、気になるのも事実だ。万が一、ハグレの闇召喚が行われようとしていたのなら、ハグレ王国として止めなくてはならない。

 マルースさん、私たちもその護衛のお話に混ぜて貰ってもいいですか?」

「ああ、俺からは臨時の助っ人として話は通しておくよ。場所はヘンテ鉱山近くの山の上だそうだ」

「じゃあ、そこを探索場所に加えておくでち」

 こうしてマルースの提案が受理された。

 

 

 

『探索地:ヘンテ山奥地』

 

 

「ねぇ、まだ歩くでちか~」

 それから数日後、ハグレ王国の面々は他の護衛を依頼された傭兵たちと共に先導する召喚士くずれの集団に付いて山道を登っていた。

 

「あともう少しだって言ってただろう?

 もう少し我慢しなさい」

 不満をたらし始めたデーリッチにローズマリーが母親みたいにそう言い含めた。

 

「それにしてもローズマリーの姉御、傭兵を雇って進む道にしては魔物も全然襲ってきやしませんね」

「確かに、道中に難があるって感じじゃなさそうですねー」

 マッスルとハピコがそんな疑念を口にした。

 今日は召喚に感心があるのか、王国のハグレはほぼ全員参加していた。

 来ていないのは自分の店舗の準備をしてたこたつドラゴンくらいだ。ベロベロスは番犬としての役割を全うしている。

 自宅警備は任せるじゃん、とサムズアップしていたこたつドラゴンであったが、そう言われると不安しかないのであった。

 

「ねえ、マルースさん、あの召喚士くずれに見覚えのあるのは居るの?」

「ああ、あいつは昔召喚士協会で見たことが有る。と言っても下っ端だったがな」

 マルースとエステル後ろの方でこそこそと召喚士くずれの動向を観察していた。

 

「なあに、怪しい動きをしたらいつも通りとっちめればいいのさ」

「まったく、姉さんったらいつもそれだ」

 平常運転のジーナに溜息を吐くアルフレッドに。

 

「何だか妙な感覚ね。まだ召喚は始まってないのに。雪乃は何か感じない?」

「ううん、全然。ヤエちゃんは何か感じてるの?」

 分からないわ、と雪乃にヤエは返した。だが彼女は感じていた、胸騒ぎのような嫌な予感を。

 

「何だかこの森、イノシシとか居そう!!

 ティーティー様!! 帰りに狩りしても良いハオ!?」

「やめんか!! ただでさえ目立っておるのに、騒いでどうする」

 ティーティー様を持つハオは食料庫に来たようにうきうきしていた。

 

「……このまま何も起きなければいいのですけど」

 そうして、不安を口に出す福ちゃん。

 このハグレ王国総勢十三名と、同じくらいの人数の傭兵、そして四人の召喚士くずれの合計三十人はぞろぞろと山奥の道を登っていた。

 やはりと言うかハグレ王国の面々は目立っていた。それはもう目立っていた。

 

「やっぱりこんな大勢で来る必要無かったんじゃないかなぁ。

 いつもどおり八人パーティで良かった気がするよ」

「皆、自分たちと同じような境遇のハグレが出んか心配なんじゃろう」

「そうですね。それにこうして召喚魔法の実験に立ち会えるのも後学の為になりそうですし」

 傭兵たちの、なんだこいつらピクニックにでも来てるのか、というような視線を受けて、ローズマリーとティーティー様がそんな話をしているとようやく頂上が見えてきた。

 

「お、やっと頂上でち!!」

 見どころの無い登山に辟易していたデーリッチが終着点を見つけて顔を綻ばせたところで、召喚士くずれ達が既にある程度整っている儀式場の前に出た。

 

「えー、皆さんは何故に我々が護衛を必要としたのか、疑問に思ったことでしょう!!

 我々が違法な召喚に手を染めようとしているのではないかと!!」

「我々が行うのは、従来の召喚とは全く違う代物でありますッ!!

 生物や物などを召喚するのとは違う、画期的な実験の目撃者としてあなた達を欲したのです!!」

「あなた方は選ばれたのです!!」

 と言う風に、彼らは大仰な身振り手振りと口上でそんなことを述べた。

 

「実験の立会人として傭兵を選んだってこと?」

「多分、他の誰にも相手にされなかったんだろう。だが、人も物も呼ばない召喚とはなんだ?」

 エステルとマルースがひそひそと話していると、デーリッチが相手の段取りを無視して口を開いた。

 

「生物も物も召喚しないのに、何を召喚するんでちか?」

「あー、えー、それは目に見えない物。即ち、異世界の叡智であります!!

 我々は偶然この場所で、異世界との交信を可能としました。

 そして、かの御方から大いなる叡智を授かる術を得たのです!!」

「なんだ、ウィルスでも呼ぶってオチかと思った」

 相手の話を聞いてローズマリーがそんな風にぼやいた。

 ウイルスなら生物とは言えないし、物とも言えないだろう。

 

「そんなとんちじゃないんだから……」

 エステルはそんなローズマリーの発想に呆れながらも、まあそれで金がもらえるなら楽なもんだ、と楽観視している傭兵たちをみやった。

 

「それでは召喚を始めます!! さあ、我らの偉業をご覧あれ!!」

 彼らは何やら熱っぽくそう言って、召喚の儀式を始めた。

 

「エステル、彼らのやってることはどうなんだ?」

「……驚いたわ。普通に高度な召喚魔法よ。召喚士くずれとは思えないし、むしろこの人数で可能じゃないはずよ」

「魔法を増幅する装置なども見当たらない。

 じゃあ何がこの召喚を可能としているんだ?」

 エステルと意見を交わし、ローズマリーは己の疑問に整理を付けると、彼女はもう一人の識者に尋ねようとした。

 

「マルースさんはどう思います――――」

「今すぐ止めさせろ」

「え?」

 ローズマリーは彼が震え、かすれた声でそう呟いたのを聞いた。

 

「あれだ、あれが来る、なぜ、どうして……」

「マルちゃん、どういたんでち?」

 彼の異変を感じ取ったデーリッチが心配そうに近寄った、その時であった。

 

 

「おお!! 交信は成った!!

 なんと、かの御方は我らに使徒を遣わし、直接指導なさると仰った!!」

「バンザイ!! おおバンザイ!!」

 召喚士たちは召喚が成功したのか、大喜びで喜びを分かち合い始めた。

 

「なによそれ、結局結果的に何かを呼ぶんじゃない。これはもうシノブに連絡して――」

 そんな彼らに冷たい視線を向けていたエステルがそう呟いた直後だった。

 

「バンザイ!! 異界の女神様、バンザイ!!」

「ああバンザイ!! 叡智の女神、ビルーダー様バンザイッ!!」

 手を上げて喜ぶ召喚士くずれが、ひとり消えた。

 その瞬間の目撃した王国や傭兵の面々は絶句した。

 

 彼は突如として現れた次元の裂け目から伸びた何かの中に、ばくり、とやられたのだ。

 そしてヒト一人を丸のみにした何かが、次元の裂け目から現れた。

 

 それは、醜悪な化け物だった。

 甲虫の甲殻と思しき外郭が有ると思えば、その内側はウミウシのような派手な色の軟体が隠れていた。

 それがいつぞやの巨大魔物みたいな図体なのだから堪らない。

 

 召喚士達はその怪物に抵抗することなく、ばくりと喜びに満ちたまま次々と丸のみされ食べられてしまった。

 その衝撃的な光景を目にした一同は、一様に顔が真っ青になった。

 

「な、何なんだこの化け物は!!」

「おい、こっちに来るぞ!!」

「くそッ、戦え、戦うぞ!!」

 そして次の標的と見定めたのか、怪物はずるずると地面に粘液を残して這いずりながらこちらに向かってきた。

 それに応戦する傭兵たちだったが、まるで攻撃が通っていない。

 

「で、デーリッチ達も戦うでちよ!!」

「むッ、無理だッ、勝てない、あれには勝てない!!」

「マルちゃん?」

 デーリッチの号令で臨戦態勢に移ろうとした王国の面々だったが、一人恐怖に囚われ動けない者が居た。

 

「マルースさん、あなたアレを知っているんですか!!」

「いいから逃げろ、逃げるんだ!!」

 彼は一同にそう叫ぶと、自分は真っ先に山道へと飛び出していった。

 その姿に王国の面々も唖然とした。

 

「ああもう、土壇場で逃げ出す腰抜けは放っておきなよ」

「でも姉さん、傭兵たちの攻撃、まったく効いていないよ」

 頭を掻いてイラつくジーナに、弟は前方の戦いの様子を冷静に見ていた。

 いや、戦いにすらなっていなかった。

 

 怪物の頭上の突起から光が一閃し、着弾地点が爆発した。

 まるで相手するのが億劫になったかのように、一斉にビームで薙ぎ払われた傭兵たち。

 そうして倒れた傭兵たちを、ひとりひとり丁寧に怪物は丸呑みしていく。

 

「ううむ、これはちょっとやみくもに相手するのは得策とは言えんな」

「どうする姉御、逃げるなら今の内だよ!!」

 相手はかなり格上と見なしてティーティー様はそう呟き、ハピコが焦りを隠そうとせず指示を仰ぐ。

 

「……現状、彼らを助ける余裕はない。

 悪いがここは私たちの生存を優先させよう。総員撤退!!

 途中、マルースさんを回収して対策を練るぞ!!」

 ローズマリーがそう判断したのなら、あとの行動は早かった。

 

 怪物が傭兵たちに夢中の間になっている隙に、王国の面々はその場から逃げ去ったのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

「姉御、戻りましたぜ」

 ニワカマッスルは王国一行が隠れ潜む山小屋へと戻った。

 彼はハピコと共に怪物の動向を探っていたのだ。

 

「それで、どうだった?」

「一通り食い尽くして満足したのか、動きは見えませんね」

 ハピコの報告を聞いて、ローズマリーはホッと一息を吐いた。

 

「とは言え、あれだけの大食いがいつまでも満腹でいてはくれないじゃろう」

「生きている以上、仕方がないハオ」

 簡素なテーブルの上に置かれたティーティー様と彼女を見守るハオがそう呟いた。

 

「二人とも、偵察ご苦労。

 だが問題はここからだ。あれが人里に下りたらとんでもない被害が出るぞ」

「傭兵たちの攻撃、全然通じてなかったでちからねー」

 二人の労をねぎらうローズマリーは、未だ先ほどのショッキングな光景を引きずっているデーリッチを見やる。

 彼女は心配そうに、十三人が入って手狭な山小屋の角を見ていた。

 

 そこにはマルースが虚空に向かってぶつぶつと一心不乱に祈りを捧げていた。

 

「あれはいったいなんなんでしょう……」

「あいつらは使徒だって言っていたけど、そこのところどうなの?」

 震える雪乃の肩に手を置き、ヤエは祈りを続ける彼に問うた。

 

「……あれは、俺達は“虫食い”と呼んでいた」

 マルースは立ち上がり、祈りを終えるとそう呟いた。

 

「虫食い?」

「俺の世界に終焉を齎した怪物の総称だ。

 あれはヒトだけでなく、空間そのものを食ってまるで地図を狭めるかのように世界を縮めてしまう。

 俺の覚えている限り、あれによって俺の世界の人類の生活圏は二百分の一にまで減少した」

「二百分の一って」

 その説明を聞いて、ローズマリーは思わず絶句した。

 

「あれは人里に下りるまでも無く、数日でこの山を地図から消すだろう。

 俺は軍属の指揮官として、あの化け物と戦っていた」

「じゃあ、あの魔物の弱点とか分かるんでちね!!」

 その言葉に希望を見出したデーリッチだったが、彼は首を左右に振った。

 

「あれに弱点なんて無い。しいて言えば魔法ぐらいだが、あれの装甲を突破できる魔法使いはこの場に居ない。

 俺の故郷はあれとの戦いに全てを賭したが、結局あれを討伐できたのはたった四人の最高の英雄たちだけだった。

 その四人も、あの化け物の司令塔との最後の戦いで命を落とした」

「現状、打つ手はないって訳?」

「あれを倒すだけなら、可能ではあるだろう」

「ホント!?」

 エステルの表情に喜色が満ちた。これで親友を呼ぶ手間が省けると。

 

「ここにその四人の遺品が一つずつ残っている。

 俺の世界の全ての叡智を集結して作られたこれらには、持ち主に我が神の加護を齎してくれる。

 だが……」

「その神の加護を与えるって側が、あれを使役しているんでしょう?」

 ヤエは険しい表情で、彼の絶望を言い当てた。

 

「なぜわかった?」

「あんたの世界じゃ、唯一無二の女神とやらが居て、あの怪物は使徒だって呼ばれたじゃない。

 つまり、あんたの世界を滅ぼしたのはあの怪物を使役する女神ってことでしょう?」

 有りがちな展開だわ、とヤエは忌々しそうに吐き捨てた。

 

「……どうして、貴方の世界の女神は自分の世界を滅ぼそうと?」

「分からない」

 福ちゃんの問いに、彼は首を振ってそう答えた。

 

「あれはある日突然、俺の世界に群れを成して現れた。

 俺たち人類は連敗を続け、女神に救済を祈った。

 そしたら、俺の世界の女神の智慧を受けた指導者たちは口を揃えてこう言ったらしい。

 ――あれは女神の使徒で、女神は我々の滅亡を望んでいる、とな」

「あんなのが、いっぱい居たのか……」

 その光景を想像したのか、アルフレッドは苦い表情をした。

 

「それ以来、ほとんどの人類は抵抗を止めて殉教に走った。

 俺と四人の英雄たちは、まあ物好きな部類だ」

「殉教って、まさか……」

「あれに自ら食われに行ったり、あれの作った空間の狭間に飛び降りたり、まあ色々だったな。

 思い出しても笑えるわ。底の見えない穴に一人ずつ松明を持って老若男女が飛び降りて行くんだからな」

「ば、馬鹿げてるッ、神さまに滅びろって言われただけでその通りにするなんて、どうかしてるわ!!」

 エステルがその派手な色の長髪を掻き毟って声を荒げた。

 

「仕方ないだろう。この俺の身体も、思考も、魂も、知恵も育ってきた場所の文化も歴史も、この悲しみや絶望さえもかの御方に与えられたものだ。

 それだけじゃない、俺の世界の全てが俺たち人類に与えられたものでしかない。

 だから返せと言われれば、返すのが道理ってもんだろう」

「そんなの、母親が自分が産んだからって子供の命を奪うのと同じだろうが!!」

「エステル。そんなに熱くなっちゃダメだよ。

 文化の違い、常識の違い、世界の違いを否定してはいけないよ。気持ちは痛いほどわかるけど」

 興奮するエステルの肩を叩いて落ち着かせようとするローズマリー。

 

「だけど、あんたは戦ったんだろう?」

「俺はそんなつもりはなかったんだけどよ……」

 ジーナの視線を受けて、マルースは痛々しい苦笑いを浮かべた。

 

「本当は、学者になりたかった。学者になっていずれ神の身許に侍ることを許されるようになりたいって。

 だけどあの虫食いどもに人類は負けるにつれ、そうはいかなくなった。

 俺の家は裕福でな、士官として徴兵されていつのまにか俺以外が死んでいた。

 そうして俺はなし崩しで至高の四人を率いて、あれの司令塔に挑む羽目になった。

 その辞令が下る寸前までどの穴に飛び込むか悩んでたってのにな」

「それで、マルちゃんが生きてるってことは勝ったんでちか?」

「ああ。この終末を人類が乗り切れる試練だって立ち向かったバカ四人の付き添いとしてな。

 どいつもこいつも若いガキばかりだった。こいつらが終末に立ち向かう英雄だってよ、馬鹿馬鹿しい。

 結局俺以外、あの化け物の司令塔と相打ちになって死んでいったよ。何で何の対抗手段も持たない俺だけが生き残ったんだろうな、笑えるだろう!?」

 ヤケクソのように笑う彼に、誰もが何も言えなかった。

 

「そしてあの四人の言葉を真に受けて、試練は終わったから救済を願った俺の前に、かの御方は降臨なされた。

 どうしてこんなことをするのかと尋ねた俺に、あの方はなんて言ったと思う?

 ――積み上がった積み木を崩すのに理由なんてあるのか、だとよ!!」

 彼は悔しそうに、何度も何度も薄い木の壁を殴った。

 

「そして俺の目の前で、あの虫食いどもに最後の大陸が食い尽くされようとした時、俺の目の前に召喚ゲートが現れた。

 俺は世界が滅ぶのを前に笑みを浮かべてみている女神さまの前から四人の遺品をかき集めて逃げたのだ!!

 その時の因果がこうして巡り巡ってここに来ている。だからもう、いいんだ」

 そして力なく項垂れる彼は、疲れ果てていた。

 

「かの御方が仰っているんだ。もうお前は自分の愚かさを思い知っただろうって。

 そしてあの時の試練ではなく審判を受けよと、こうしてお手を煩わせている。

 あれとは俺一人で戦う。だからお前たちは帰れ。それを以って我が趨勢を占おう」

 それが、彼の結論であった。

 独り出て行こうとする彼に、小さな溜息が漏れた。

 

「ホント、マルちゃんは大馬鹿でち。

 自分で分かっているくせに直そうとしないんだからなおさらでち」

 そう、我らが国王、デーリッチの呆れたような溜息だった。

 

「また、逃げるんでちか?」

「うるせぇ、子供は黙ってろ」

「自分の崇める神様から逃げて、またあれから逃げて……おやおや、もう二度も逃げてるでち。

 これは三度目の逃げでちかねぇ~。デーリッチにはマルちゃんが都合のいい逃げ道を勝手に選んでいるようにしか聞こえんでち」

「黙れっつってるだろ、お前に神の御心が分かるってのかよ!!」

「わかるでちよ」

 振り向いて、その小さな体に怒鳴り声をあげるマルース。

 しかし、その子供と大人のどちらが小さく見えるかは明白だった。

 

「福ちゃんはこのまま君を独りで行かせるわけにはいかないと思ってるでち」

「ええ」

「ティーティー様も、勝手な行動をされては困ると思ってるでち」

「うむ」

 デーリッチの言葉に、二柱は頷く。

 

「全ての前提が、全ての常識が、全ての生死が裏返った絶望はきっとデーリッチには分からんでち。

 でも夢と希望を失ったのは分かる!! マルちゃんが感化され、失った仲間たちのようにデーリッチたちを信じられないのもわかる!!

 そしてずっと崇拝してきた女神さまをまだ信じようとして、救いを求めようとしている事も!!」

「俺に、立ち向かえと言うのか。世界を滅ぼす絶望と。

 はッ、夢破れたことも無いガキが、希望を諦めたことも無いガキが、知ったように言いやがる。

 いい加減にしやがれ、そう言うの心底ムカつくんだよ、癪に障るんだよガキが!!

 俺は自分の生き方を簡単に変えられるほど若くないんだ!!」

「じゃあ全てを諦めるほど年老いているんでちか?

 全てを投げ出すほど頑ななら、なぜ救いを求めるんでち?

 ――言ってみろ、自分が本当に何をしたいのかを!! 都合のいい時だけ、神様を言い訳にするな!!」

 その二人の問答を見て、ローズマリーは思った。これではどちらが子供か分からないな、と。

 そして、自分が、自分だけが信じれた彼女の才能を見出せたことを誇りに思っていた。

 

「俺、俺は、俺は!!」

 膝を突き、拳を握りしめたマルースは震えた声で訴えた。

 

「俺は女神さまの真意を問いたい!!

 ずっと、ずっとその為だけに生きてきた!! 終末を齎した理由ではなく、動機を知りたいのだ!!

 そして本当の試練とは何だったのか、可能ならそれを乗り越えてあの四人を弔ってやりたい……」

「まったくもう、最初からそう言えばいいんでちよ」

 ようやく彼の本音を引き出し、デーリッチは微笑んだ。

 

「どの道、あれを倒すのに貴方の力を借りねばなりません。

 その四つの遺品はあなたがあの怪物の司令塔に戦いを挑む時にも機能したなら、きっと今までのように力を借りれる筈です。

 そしてそれを使用できるのはあなただけだ。使徒との対抗策も一緒に、働いて貰いますよ」

「……ああ、任せろマリちゃん」

 ローズマリーの言葉に頷き返したマルースは、手元の四つの遺品を見下ろす。

 

「我に全てを与えたもうた我が女神よ、今一度この身に試練を賜しくださいますようどうか、どうか道を指し示しください」

 その祈りだけは、届くような気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




そして彼はようやく傍観者からアクターへ。

では、次回をお楽しみください。

この作品で期待している今後の話しの内容は?

  • オリジナル展開
  • 原作の綿密な描写
  • キャラ同士の掛け合い
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