アナザー・アクターズ   作:やーなん

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大分長くなりましたが今回が平成最期の更新で、一章のアナザーエピソード完結です。
今回の戦いは原作の戦闘をだいぶ意識してみました。


EX.ディストピアメイカー

『ヘンテ山奥地:山頂前魔法陣』

 

 

 これから女神の使徒へと戦いを挑むハグレ王国の面々を、古代の技術で作られた魔法陣の光が包み、体力を回復させる。

 

 

 ――””ボス警告 推奨Lv???~””

 ――この先での戦闘は、負けるとゲームオーバーになる戦闘です。ここで、セーブしておく事をお勧めします。

 

 ⇒はい (ピッ

  いいえ

 

「ところでティーティー様、あの使徒のことですけど、気付かれましたか?」

「福ちゃんもか? ああ、やはりそうなのか……」

 硬い表情をしている二柱に、敵の情報を求めていたローズマリーが尋ねた。

 

「お二人とも、何か気づいたことでもあったのですか?」

「ええ、あの使徒の異様な防御力のことです。

 あれは耐久力が高いとか、単純に防御力が凄いとか、そう言う感じでは無かったですよね?」

「え、いや、私達には普通に攻撃が効いていないとしか」

 彼女が仲間たちを見回すと、皆はローズマリーに同意するように頷いた。

 

「あれは、恐らく権能による守りだと思われますわ」

「権能、と言いますと?」

「今風にいうのなら、“チート”と言うやつですね。意味合いは少し違いますが。

 これは神が自分の眷属などに貸与する、特別なルールみたいなものです」

「あの怪物は自分より下位の存在により傷つけられない、というルールによって守られておるんじゃ。

 マルースの世界の人類が歯が立たなかったのも納得じゃな。

 あれはそもそも人間が戦って勝てるように作られておらん」

 だから、と二柱は言い辛そうに口籠った。

 

「つまり、俺達の世界の終末は試練でも何でもない、女神さまの決定事項に過ぎなかったと仰りたい訳ですか?」

 マルースは内心の見えない無表情で二柱に尋ねた。

 

「ええ、私が試練として人々に逆境からの逆転と成長を望むなら、あんな権限を付与しませんから」

「しかし、本来神々の権能とは嵐の神が嵐を起こしたり、癒しの神が治癒の力を齎すような専門技能のようなものじゃよ。

 だがお主の崇拝するのは叡智の女神じゃろう? ならばせいぜい知恵を授けたり魔法を後押ししたり、それぐらいが関の山の筈じゃ。

 下位の者からの攻撃をほぼ完全にシャットアウトする権能とは……一つの世界で唯一無二の神として君臨するだけのことはあるな」

「むしろ、その女神の加護を受けた物を持った人間にしか倒せなかったと言うのも納得です。

 同じ加護を持った者同士なら、攻撃が通じるのでしょう」

 二柱の考察に、今度はデーリッチが質問を投げかけた。

 

「じゃあ、デーリッチ達の攻撃は通じないってことでちか?」

「いえ、私とティーティー様が力を合わせれば、あの守りを一時的に引きはがすことは可能だと思います。

 ただ、その後に私達は戦闘で使い物にならないと思ってください。

 他の神の領分を無理やり奪うわけですから、かなり消耗するでしょうし」

「うむ、悪いがそうなるな」

「いいえ、気にしないでください。

 突破口があるのならそれだけで幸いです。ハオちゃん、お二人の護衛を任せてもいいかな?」

「分かったハオ。任せて!!」

 二柱の言葉を受けて、ローズマリーはハオに彼女たちと共に下がってもらうことにした。

 

「これで戦闘に参加できるのは十人か。

 あまり多すぎても戦闘に差支えるからいい塩梅になったが、ヒーラーがデーリッチ一人と言うのは痛いな」

「なるべくデーリッチの消耗を抑えるように戦わねばならんか」

 ローズマリーとマルースが作戦の修正を終えると、一行はいよいよ終末の使徒へと挑むのだった。

 

 

 

『 終末に立ち向かう者たち 』

 

 

「それにしても、チートねぇ。

 私には理解できないわ。借り物の力を振るって、何がいいのかしら」

「それは持つ者の意見だな。

 お前が自分の能力に誇りを持っているのは分かるが、持たざる者はそれこそ魂を売ってでも自身が特別になりたいもんなんだ」

 ヤエとマルースの雑談が、戦いを前にした緊張した空気の中に伝わっていく。

 

「俺の世界では、それこそ女神の智慧を得る為に何でもする人間は幾らでも居たからな」

「その言い回しだと、貴方の世界の天才って神様に選ばれた人間ってことなの?」

「ああ、そうだ。女神の智慧を得た者は、神託を受けることができるらしかった」

「私はそう言うの嫌だなぁ、何だか自分たちの努力が神様に保障されてるみたいで」

「だが、マクスウェルみたいな身に余る暴走も殆どなかったぜ」

「ああ、そう言う側面もあるのかー……」

 エステルともそんな会話を交わしていると、いよいよ使徒の巨体が見えてきた。

 

 女神の使徒はまるで岩山のように身じろぎをせず、静かにこちらの姿を認めて目を開けた。

 

「ハオ!! 試しにいつもの奴を頼む!!」

「はいハオ!!」

 ティーティー様の言葉を受け、ハオは背負っていた投げ槍をいつものように使徒に投げつけた。

 先代式だと言う独特の投法にて投げ槍は相手の防御力を貫通する!!

 

 だがそれは使徒に触れるか触れないかといったところで、カンッと弾かれてしまった。

 

「駄目だお、まったく効いてないハオ!!」

「……なるほど、これは生物の常識を無視した守りの固さだ」

 ハオの必殺の投槍が通じないのを見て、ローズマリーたちは使徒の異常性を再確認したようだ。

 

「だけどこっちにも神様はバックについているでち!!

 先生、お願いします!!」

「それじゃあこっちが悪者みたく思えません?」

 デーリッチの気の抜ける頼み方にがくりとしつつも、あらかじめTPを溜めていた福ちゃんはティーティー様を持ったまま前に出た。

 

「ゆくぞ、福ちゃん!!」

「ええ!!」

 ティーティー様の支援を受け、福ちゃんはいつも背負っている大きな袋から黄金に輝く小槌を取り出した。

 それを掲げた福ちゃんが、女神の使徒へと振り落した。

 小槌は振り下ろされる過程でとんでもなく巨大化し、ずごん、という凄まじい音と共に使徒を殴り潰した。

 

「す、凄まじい威力でち……これはもう決まったんじゃないかな」

「こら、デーリッチ。そう言うこと言うと」

 黄金の小槌が消えると、多少外郭がへこんだ使徒が姿を現した。

 デーリッチのフラグを建てたからではないだろが、使徒は先ほどまでの静穏さが嘘のように怒りの声を上げた。

 

 ――ごおおぉぉぉ!!!

 

「どうやら向こうはこちらを脅威と認識したようだ。いくぞ!!」

 ローズマリーの号令と共に、戦闘が始まった!!

 

「デーリッチ、俺を前衛に常においてくれ!!

 この戦闘に限り、四つの遺品の力を解放する。戦況や相手の状態に合わせて、お前の判断で使ってくれ!!

 そして奴の装甲は硬いが、魔法ならそれを無視できる。相手の火力に気を付けて、攻めて行け!!」

「分かったでち!!」

「相手の最大の脅威はあの大口での丸呑みだろう。

 あの即死攻撃をヒーラーが少ない状態で受けるのはまずい、僕のデスガードを上手く使うんだ」

 仲間たちの助言を受け、デーリッチが采配を行う。

 

 彼の助言通り即死攻撃耐性をアルフレッドに付与して貰い、マルースとニワカマッスルが攻撃を加え、エステルが炎魔法を炸裂させる。

 

 ーーうごおおおお!!

 

「効いている、効いているぞ!!

 防御力は俄然高いままだが、それも見た目以上のものではない!!

 このまま魔法で攻めたてて……うん?」

 ローズマリーは敵の観察をしていると、使徒の軟体部分の色が赤く変色したことに気付いた。

 そして大口を開けた使徒は口から火炎を放ってきた。

 

「そうだった、奴は魔法攻撃を喰らったら同じ属性の耐性を上げ、その属性で反撃してくるんだ!!

 連続で同じ属性魔法は避けた方が良い!!」

「それ、もっと早く言ってくれない!!」

「だってあの四人はこの尖兵って呼ばれてる種類を毎ターンで十匹単位で屠ってたんだぞ!! 忘れてても仕方ないだろ!!」

「なにそれ、強ッ」

 反撃で食らった炎が服に燃え移って慌てて消しているエステルがマルースの返答に目を剥いた。

 

「では違う属性魔法でローテーションを行おう、次のターンはどうするか任せたよデーリッチ!!」

「任せろでち!!」

 ローズマリーの信頼を受け、デーリッチが次のターンの采配を行う。

 

 まずローズマリーが氷魔法を放ち、雪乃が味方に雪のヴェールを施した。

 

「大いなる我らが女神よ、かの者の刃に叡智の輝きを齎したまえ!!」

 弟と入れ替わって前に出たジーナにマルースは遺品に宿るスキルを使い、彼女のハンマーに魔力を与えた。

 一時的に魔法の武器と化した物理攻撃が相手の装甲を削る!!

 そのまま彼女は反撃の冷気攻撃をいなし、使徒の接近しての丸のみ攻撃を防ぐ!!

 

「よし、行ける、これなら勝てない相手じゃない。むッ」

 手ごたえをローズマリーが感じた直後だった。

 使徒の頭上の突起が光り、超高速で前衛を薙ぎ払う!!

 

「ローズマリー!!」

「大丈夫だ大したことない、これは牽制目的の速度重視の攻撃のようだ!!

 だけどスタン状態のような体勢が整ってない状態でまともに食らってしまうかもしれないな」

「え、それじゃあデーリッチのパンドラの後とかも……?」

「ああ、だから君の蘇生のタイミングや敵の大技に気を付けた方がいい!!」

「うへぇ!!」

 自分の最大の持ち味がメタられて、デーリッチは嫌そうな顔になった。

 

「しかしデーリッチは王道を往く者!!

 多少メタられても前に出ることを躊躇わないでち!!」

 デーリッチは雪乃とローズマリーを後退させ、自らヤエと共に前衛に出た。

 

「……ちょっとおかしいぞ」

「どうしたでち、マルちゃん」

「思った以上に攻撃が激しくないぞ。

 最下級の尖兵とはいえ、奴も女神の使徒。あの巨体故に素早くはないが、俺はあれが暴れる姿を見たことが有る。

 その暴虐はこんなものでは無かった筈だが……」

 先ほどから前衛で使徒と相対していたマルースは、違和感を口にする。

 

「もしかしたら本調子じゃないのかもしれんでち。

 調子を取り戻す前に一気にたたみかけるでちよ!!」

 デーリッチの号令に従い、他の前衛の三人も行動を開始する。

 消耗の激しいマルースは防御でTPを溜め、そんな彼に王は魔法で治癒を施す。

 殴る魔法攻撃と化したジーナがハンマーを叩きつけ、ヤエが不可視の力で使徒を押し潰した!!

 雷属性攻撃に対する反撃に大口から雷撃を放った使徒は、しかし特異な行動を見せた。

 

 使徒は誰も居ない場所に口を開け、食い千切るかのように空間を食い破った。

 その空間の穴から異界の空気がこの世界に流れ込む!!

 

 そしてターンの終わりに牽制のビームが前衛を薙ぐ。

 

「あれが、世界を縮めるという空間の捕食行為か。

 聞くだけと実際に見るのとはまるで違うな、恐ろしい……。

 しかし、なぜこのタイミングであんなことを」

「マリー!! あれ、目に見えるほどはっきりしてるけど、魔物の空気穴よ!!

 魔物がこの世界に出現する為の通り道そっくり!!

 もしかしてあいつの行動が鈍い理由は、呼吸が出来なくて弱ってたってことじゃ」

「なんだって!!」

 ローズマリーはエステルの慌てたような声を聞いて驚愕した。

 

「しかし、納得したぞ。あれだけ高スペックな生物だ。

 活動に大量のマナを消費するのも道理だな。それが補充されたと言うことは、より攻撃が激しくなるぞ!!」

「デーリッチ、魔法攻撃が激しいと感じたら破魔の祈りを使え。

 こっちの消耗も激しいが、しばらく魔法は気にせず済む」

「じゃあ早速頼むでち!!」

「いや、待て。あれは……」

 使徒は次のこちらの攻撃を意に介さず、空間の穴に口を突っこみゴクゴクと何かを飲み込んでいる。

 

「マズイ、奴もやるのか。おい、注意しろ。

 とんでもない物理攻撃が飛んでくるぞ!!」

「ひえぇ、盾役は前に出て攻撃に備えるでち!!」

 マルースの忠告にTPの溜まったデーリッチとヤエは後ろに下がる。

 

「物理攻撃なら!!」

「私らに任せなッ!!」

 代わりに出てきたニワカマッスルが防御態勢を取り、ハピコが木の葉のように空中で体を揺らす。

 マルースはジーナと連携し、集中力を高める前に出て体を張って庇う体勢に入った。

 

 そして、十分に何かを溜め込んだ使徒が前衛たちに向き直る。

 彼らに向けて大口を開けた直後、無数の岩石や大きな木片などが土石流の如く吐き出された。

 

 その災害の如き破壊活動に、前衛たちはマルースに庇われていたジーナ以外は戦闘不能に陥るほどのダメージを受けて吹っ飛ばされた。

 

「くッ、すまねえ」

「必中攻撃かよ、くそッ、あんなの避けれるかってんだ」

「悪いハピコ、言いそびれた……」

 仲良く土砂のまみれになって倒れる三人。

 しかし即座にジーナと入れ替わったデーリッチがキーオブパンドラの力を解放する!!

 

「ああもう、休ませてもくれないか!!」

 大技の後で使徒も動けないでいたが、牽制のビームが全体蘇生の反動でスタン状態のデーリッチに直撃して、みぎゃー、と悲鳴を上げて彼女は倒れた。

 

「デーリッチ!!

 ああ、だが向こうの消耗も大きい!! 一気にカタを付けるんだ!!」

 デーリッチが倒れたことでもどかしそうにするローズマリーの指示が飛ぶ。

 

「さっきの大ダメージで俺のTPも溜まった、魔法職は前に出ろ!!

 今度は攻撃面でサポートするぞ!!」

「任せたわ!!」

 後衛で体を暖めていたエステルやローズマリー、ジーナが前に出た。

 

「大いなる我らが女神よ、盲目にして無知なる我らに叡智の光りを授けたまえ!!」

 マルースは自身の祈りとスキルの反動でスタン状態に移行するのも構わずに願った。

 その直後、技の対象に選ばれていたエステルの脳内が澄み渡るようにクリアになった。

 

「なにこれ、こんな魔法の使い方があったなんて」

 それはこの戦いの最中にも消えてしまいそうなほど儚いものだったが、エステルは今、究極の魔法の運用方法を体得していた。

 

 彼女は手にしていた赤い符を無数に使徒に投げつけた。

 それを張りつけ、魔法の弾道の誘導とするエステルの必殺技が炸裂する!!

 

 クリティカル!!

 クリティカル!!

  クリティカル!!

   クリティカル!!

 

 無数の火炎弾が使徒に直撃した!!

 本来魔法攻撃ではクリティカルダメージは発生しないと言う常識は、奇跡の叡智の前では意味を成さない。

 

「いい加減、ここで決めるよ!!」

 ローズマリーの炎魔法の支援に続け、集中力を維持していたジーナはここぞというタイミングで炎に焼かれ苦しむ使徒に肉薄した!!

 

 ずがん、と戦車の装甲も魔法攻撃と化した今のジーナのハンマーは容易く突破するだろう一撃を受けて、使徒の強固な外殻を突き抜け、その柔らかい内部に致命傷を与えた!!!

 

 ――うごおおおおお!!!

 

 使徒は天に向かって何かを求めるように大きな口を開け、ずん、とその巨体を横たわらせた。

 

 

 

 §§§

 

 

「勝った……本当に、あの虫食いに勝っちまった」

 激戦を制したハグレ王国の面々を前に、マルースは己の常識では有り得なかった奇跡が目の前でなされたことに呆けていた。

 

「いやったぁ、デーリッチたちの勝利でち!!」

「あ、ああ、待って!! 知識が、頭が!!

 澄み渡っていた頭が曇って、知識が滑るように抜け落ちてく~~!!」

 勝利に浮かれるデーリッチと対照的に、エステルは自分に掛かっていた加護が消えたことに蹲ってしまった。

 

「くっそー、今ならシノブも驚かせられるような論文だって書けそうだったのに……」

「所詮は借り物の知識だよ、執着してもしょうがないさ。

 それより、使徒が空けた穴を閉じてくれないか?」

「ああ、うん、そうだったわね」

 エステルはあっさりと気を取り直して、ローズマリーに頼まれた通りに使徒の空けた空間の穴をふさぎ始めた。

 

 激戦も終わり、空間の穴も閉じて一息ついた面々。

 だが、その時だった。

 

 ぱちぱちぱち。……それは、乾いた拍手の音だった。

 

 

「ハオちゃん? ははぁ、デーリッチ達の活躍は拍手するほどのものだったってことでちね?

 いやぁ、照れるなぁ」

「いや、ちょっと待て」

 勝手に照れるデーリッチだったが、ローズマリーはぱちぱちと手を叩くハオに異様なモノを感じ取った。

 そう、彼女はあんな上から目線の笑みなど浮かべないと!!

 

「すごいわね、あなた達。あれは人間に倒せるように設定されてないのに。

 他の神の加護が有ったとはいえ、驚嘆に値するわ」

 ハオは、ハオの声で、ハオとは全く違う口調と雰囲気でそう口にした。

 

「……お主、誰じゃ。ハオをどうした」

 福ちゃんの手の上にいたティーティー様が、険しい表情でハオの肉体に乗り移った何かに話しかけた。

 

「我が名に、意味は無いわ。人々が叡智を求め、好きなように私を仰ぎ、名前を呼ぶ。

 今日も私を呼ぶ者が現れ、使いを遣わしたらあんな風にされているのだから驚いたわ」

「ハオをどうしたかと聞いている!!」

「安心しなさい、彼女とは合意の上で体を借り受けているわ」

 倒れ伏す使徒を流し見ながら、ティーティー様に投げやりに彼女は返した。

 

「も、もしや……」

 それにいち早く気づいたのは、やはりマルースだった。

 

「あ、貴女様は、叡智の女神ビルーダー様では!!」

「私をそう呼ぶのはどの世界だったかしら。

 こう見えて手広くやっているけれど、こんな下流の世界に私の信徒が居るとは思わなかったわ」

 自分の前に跪く者が現れたことに気を良くしたのか、彼女は笑みを深く刻んだ。

 

「ちょっと待ってください、貴女があの使徒をここに寄越したんですか!!」

「そう言っているじゃないの」

「ならなぜ、あんなことを!!」

「あんなこと?」

 彼女はちっともわかっていないのか、ローズマリーの言葉に小首を傾げた。

 

「貴方の寄越した使徒に、十七人も食べられている!!

 私たちも危うくあいつの腹の中に収まるところだった!!

 どうして、貴女を望んだ者にこんな仕打ちを!!」

「ああ、そう言うことね」

 そう言われて納得したのか、彼女はぱちんと指を鳴らす。

 すると死んだと思われていた使徒がむくりと巨体を起き上がらせた。

 

 それに警戒する面々だったが、使徒は大きな口を開け、ぺっぺと体内から丸呑みした人間たちを次々と吐きだした。

 召喚士くずれと傭兵たち、合計十七人ぴったり使徒は吐き出した。

 

「全員、脈はある。ちゃんと生きてるみたいだ」

 粘液塗れの彼らを調べると言う嫌な役を、アルフレッドは自ら歩み出て行い、そう判断した。

 

「彼らを殺していないのなら、なぜあんなことをしたんでち?」

「彼らは言ってなかったかしら? 私が使徒を遣わし叡智を与えるって。

 ああしてひとまとめにして教育した方が楽なのよ」

「ら、楽って……」

 皆の気になっていた疑問を問うデーリッチは、その答えに顔を引き攣らされた。

 そして皆は思い出す。あの召喚士くずれ四人は使徒に全く抵抗してなかったことに。

 

「ええとじゃあ、あいつに私たちに危害を加えるつもりはなかったと?」

「そうよ。でもどうしてかよく勘違いされるのよね。こんなにも可愛いのに。

 だから別に気にしないでいいわよ」

「あ、はい」

 ローズマリーは目の前に現れた存在のあまりの美的センスに思わず閉口した。

 

「相互の意思疎通に問題はあったとはいえ、よくぞ我が使徒を人の身で打ち破ったわね。

 貴方たちの戦いはずっと見ていたわ。その知恵と勇気に対して、褒美を授けましょう。なんでも言いなさい」

 それを聞いて、王国の面々は顔を見合わせた。

 

「マルちゃん、聞いてみたらいいでち」

「いいのか? かの御方の褒美ならそれこそハグレ王国千年の繁栄すらも約束されるんだぞ」

「それはデーリッチ達の仕事でち。

 向こうから来てくれるなんて、もうない事かもしれんでちよ」

「……わかった、恩に着る」

 視線だけでどうするか決まったのか、デーリッチが代表してマルースにそう言った。

 

「ああ、大いなる我らが叡智の女神ビルーダー様。

 どうかこの身に宿る疑念を晴らさせて頂きたい」

「言いなさい、どんな知恵も、技術も、貴方に授けるわ」

「では、何故に我が世界を、我が故郷を滅ぼしたのでしょうか?」

「はぁ?」

 マルースの問いに、なぜそんな質問をするのかと言う風にハオの体は小首を傾げた。

 

「私は故郷が滅びる寸前に、この世界に召喚された者です。

 貴女は目の前に降臨して仰いました、積み上がった積み木を崩すのに理由など無いと」

「それはそうでしょう?

 あなたはトランプでタワーを積み上げ、完成させた後そのままにしておくの?

 普通、崩すでしょう? 別の遊びをする為に」

 そのあんまりな答えは、一同を絶句させるのに十分だった。

 

「それはつまり、破壊は次の創造の為の前段階に過ぎない、そう言うことですか?」

「そうね。なんでそんな分かり切ったことを聞くのかしら」

 福ちゃんの確認に、彼女は当然のように頷いた。

 

「では、ではあの破壊に、終末に意味は無いと!!

 ただ飽きたから、完成したから、次のゲームに移ったに過ぎないと!?」

 マルースは泣きそうなのか笑いそうなのか、よく分からない表情で彼女に問いかけた。

 

「意味の無い破壊なんて野蛮だわ。

 一つの世界を終わらせるのにはそれなりに理由はあるものよ。

 貴方の世界がどうしてそうなったのかまでは、私の知る所じゃないけど」

 彼女は、肝心の一番彼が知りたかったことを答えなかった。

 

「ええと、あの、よくわからないんでちけど、ビルーダー様はマルちゃんと会ったことがあるんでちよね?

 ならなんでそんな初めて会ったみたいな様子なんでち?」

「それは恐らく、彼女が本体ではないからじゃろう。

 ハオに乗り移っているのも、本体から切り離した意識のコピーに過ぎないのじゃ」

「そして貴方の世界を滅ぼしたのも、分体の一つに過ぎないわ。

 私の本体はとっくに自意識を失って普遍的な法則に成り果てたもの。私は本体がそうなる前に代行者として残されたうちの一人に過ぎない。

 だからどうしてあなたの世界の私が滅ぼしたのかは、そこの担当者に聞きなさい。私たちはそれぞれ、別々のアプローチで命題を遂行しているにすぎないのだから」

 彼女はティーティー様の言葉を肯定し、聞きたいことはそれだけかしら、と言った。

 

 その問いに、一同はシンと静かになった。

 彼女の視点が、余りにも人間からかけ離れすぎているからだった。

 彼女の言動は人の善悪や価値観を超越した、神の行いそのものだったからだ。

 

 やがて、福ちゃんが口を開いた。

 

「あなたの言う、その命題とやらがどういうモノかは知りませんが、自分の管理している世界を滅ぼすのに、躊躇わないのですか?

 心痛むことなく、ただ事務的に、そうするべきだからそうしていると?」

「神とはそういうものでしょう?

 だからこそ私は滅ぼすまでに多くのモノを与えるわ。

 食べ物、水、知恵、文化、統治者、思想、娯楽、そして滅ぼす時は苦痛が少なくなるように私を崇める宗教も。

 ――あなただって、そうでしょう?」

「違うッ!!」

 彼女の問いかけに、声を荒げて否定する福ちゃんに、皆は驚いた。

 福ちゃんがそんな表情をするのは初めてだったのだから。

 

「私は、貴女とは違います……」

「そう。ところで、あんまり長くこの体を借りるのは悪いわ。

 どこか私の依り代になれる現身はないかしら?」

「あ、ええと、一応あなた様の像なら相談所に……」

 マルースは二柱のやり取りに面食らいながらも、そう答えた。

 

「なら、そこまで案内して頂戴」

 

 こうして、多くの衝撃を伴いながらも、この一件は一段落したのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「まあ、これなら及第点かしら」

 ハグレ王国の拠点の東に有る、相談所の境内に以前マルースが作らせた女神像が運ばれた。

 

「あの、なんであの召喚士くずれや傭兵たちまで来てるんでちか?

 デーリッチの今の魔力じゃ三十人は結構大変だったんでちけど」

「まあ、付いて来たいと言うんだからしょうがないだろう?」

 女神像を値踏みしている彼女と、それを取り囲む集団をデーリッチとローズマリーは見ていた。

 二人だけではない。ヘンテ山に同行した面々もそのままその光景を見ていた

 

「さて、と。

 さあ、我が愛する信徒たちよ。我が奇跡を仰ぎ見よ!!」

 そう彼女が声高々に叫ぶのと同時に、ハオの体が崩れ落ちた。

 彼女の体を近くで受け止めるマルース。

 

 その直後、ただの石像だった女神像が輝きだす。

 それはまるで初めから人だったかのように動きだし、肌や髪の色、衣服までも柔らかな質感となった。

 ただの石像は、どこからどう見てもヒトにしか見えなくなったのだ。

 

 その奇跡の光景に、既に彼女の信者と化していた召喚士くずれと傭兵達はひれ伏した。

 マルースもその奇跡にぽかんとしていたが、すぐに片膝を突いて頭を下げた。

 

「ええとあなた達、ハグレ王国と言ったかしら?」

「え、あ、はい、そうです」

 女神ビルーダーはそのままひれ伏す信者を無視してローズマリーの元へとやってきた。

 

「私はあなた達に興味が湧いたわ。

 あなた達はそれぞれ違う世界から来たみたいだけど、そんな常識や価値観が違う者たちが一つの国を作り団結している……。

 今後の私の命題遂行のモデルケースの一つになり得る可能性があるから、私もあなた達の仲間に入れて貰おうと思うわ。良いわよね?」

「ええと、その……」

 ローズマリーは目の前の強烈なキャラクターの持ち主から、思わずデーリッチに目配せしてしまった。

 

「勿論、構わないでちよ。

 ただ、その、ビルーダー様を国教として崇拝することはできないでちけど」

「構わないわ。私は過度に干渉しないし、この世界に干渉する権限が無いから、あなた達と同レベルの力しか発揮できないようになっているもの。

 他の神々のように一個人として扱ってくれても構わないわ。

 私はただ、あなた達の国の行く末を見たいだけだから。それが十年後か、百年後かは知らないけど」

「あ、じゃあ問題ないでち。ようこそハグレ王国へ、歓迎するでち!!」

 こんな強烈な相手に素直にそう言えるデーリッチが少し羨ましく思えるローズマリーだった。

 

「ところで、ビルーダー様。

 貴女の仰る命題とは、なんでしょうか?」

「ああ、それ?」

 ローズマリーの言葉に、彼女は笑顔で答えた。

 

「――楽園を創る事よ」

 

 

 

 一章アナザーストーリー、『ディストピアメイカー』 完

 

 ※ビルーダーがパーティ編成可能になりました。

 

 

 




なぜここにきて、オリキャラが増えるのか? という疑問が有るとは思います。
それはマルース君がこの物語の傍観者から一人のキャラクターとして独立して動くので、王国での視点で物事を判断するキャラクターが必要だったからです。
断じてこれ以上、世界観を損なう様なオリキャラは名前持ちを含めモブ以外登場しません。

今回登場した女神ビルーダーと共に、マルース君の2章以降の活躍をお楽しみください。
アンケートは一応設置したままにしておきますね。あと、以下は設定です。
また別のアンケートを考えておかないと。

ステータス設定
マルース 戦術顧問 女神の信徒
自身の信仰は深いが、ロリコンで女好きな傭兵。
後衛に居る時にだけ発揮するパッシブスキルを多く持ち、固有の装飾品で特別なスキルを使える。

今回出た遺品の設定
★武神の黒帯
あらゆる物を拳で粉砕すると豪語した武闘家の黒帯(攻撃力/防御+15%)
死してなお、彼女の闘志は燃え尽きぬ。(S:マジックエンチャット)

☆マジックエンチャット 消費MP6% 消費TP35
味方一人の物理攻撃とスキルを相手の魔法防御依存で軽減されるようになる。
これを使えば脳筋のあなたも魔法使い!!(5ターン継続)

★大賢者の学帽
幼くして大賢者と呼ばれ女神の智慧を得た魔法使いの学帽(防御/魔法防御+20)
何をする事もできずとも、その思考は止まらない。(S:ビルーダーコール)

☆ビルーダーコール 消費MP18% 消費TP100
2ターンの間、味方一人の魔法攻撃にクリティカルが発生するようになり、更にクリティカル率+30%!! しかし使用者にスタン付与。
女神の加護により究極の魔法運用方法を一時的に授かる。大賢者の異名も知識も、結局は女神に与えられた物に過ぎなかったのだ。


この作品で期待している今後の話しの内容は?

  • オリジナル展開
  • 原作の綿密な描写
  • キャラ同士の掛け合い
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