新しいアンケートの結果によっては更に伸びるかも。
『 妖精王国にて 』
「あんまり、余所さまのやり方に口を出すつもりはないのだけれど」
と、ビルーダーは前置きして目の前に正座する巨大な妖精に語りかけた。
「人だろうと妖精だろうと、与えられた新しい技術と言うのは使ってみたいと思うモノよ。
そしてそれは簡単に増長に繋がるものだわ。貴女が同胞の境遇を憂い、憐れむならなおの事その心情の変化に気を配るべきだったわね。
貴女だって美味しい料理を作る為に包丁を鍛える技術を与えたら、戦争で誰かを殺す武器を作るようになって悲しい思いをしたくないでしょう?」
「いやぁ、返す言葉もありません」
「せめて百年くらいかけて経過を見守りながら、少しずつ必要な知識を与えるべきだったわね。
貴女は他の妖精たちの同胞として振る舞っていたようだけど、私なら神としての距離感を保ってから彼女らを見守るわ。
そのあたりに関してどう思うの?」
「何分、私や大元になった妖精神も誰かの上に立ったことなどなかったもので。
ですが私も追い出されるまでそれなりに慕われてはいたんですよ。私にとってはそれが心地よい距離感で、多くの崇拝を集めるようなやり方は性に合わなかったんでしょうな」
「まあ、それならそれでいいわ。
どちらにしろ、神である貴女が責任を以って妖精たちの間違いを正すというのは、好感が持てるわ。私も協力しましょう」
「いやぁ、いずこの女神様かは存じませんが、それは心強い」
「ええ、だから――」
ビルーダーは慈悲深い笑みを浮かべてこう言った。
「一緒に、妖精たちを滅ぼしましょう」
「ええ、滅ぼし――って、ええぇぇ!?」
時はこの二人のやりとりの少し前に遡る。
デーリッチ達一行は、秘湯への道中でかなづち大明神を名乗る体長二m四十㎝の巨大妖精と出くわした。
その体格に驚き退避する一行だったが、その巨躯に見合わぬ俊敏さで彼女は追ってきたのだ。
そして彼女は意外にも理知的に、何者だと尋ねるデーリッチに妖精たちの現状について聞いてほしいと言いだした。
曰く、妖精たちが森から外へ出るようになったのは、別の世界の偉大なる妖精の影響を受けてのことらしい。
ある時、森の中に小さな次元の裂け目を見つけ、その先にいる進んだ文化と技術を持った妖精と通信することに成功したのだとか。
かの妖精は、この世界の妖精が外界に怯え森の中で縮こまっているのを知り、己の技術と文化をこの世界の妖精たちに伝えた。
それに啓蒙された妖精たちは、森の外へと出る力を身に付けたという。
そもそも、この世界の妖精たちが森から出られなかった理由が、この世界の慢性的なマナ不足によるものだった。
森の奥深くに住みつくというのは、植物の呼吸の際にマナの生産が行われるからであった。
そして地中にもマナは蓄えられており、それを大量に含んだ温泉を掘り当てることに異世界の妖精の導きによって成功したのらしいのだ。
その温泉こそが、妖精たちが隠す本命の秘湯なのだ。
そのマナ温泉の恩恵は妖精たちだけでなく、人間たちも同様に得られる物だったのだが。
本来すべての温泉は一般公開の予定だったが、マナ温泉を手に入れ力を得た妖精たちはそれを独占し始めたのだ。
彼女は異世界の妖精の教えを無視して暴走を始める妖精たちを止める為に、仲間に入れてほしいと頼んだ。
即断即決でそれを拒否した面々は、彼女自身の怪しさについて言及しだした。
かなづち大明神は、自分を人工の神様であると説明した。
異世界の妖精神の声を正確に拾う代弁者であり、縮尺をミスって大きくなったが、彼女の姿を参考にしてつくられた存在なのだという。
とりあえずの疑問が氷解した面々は、道案内を頼むため彼女を仲間に加えることとなった。
そしてその道中の会話が、冒頭に至るわけである。
「まあまあ、ビルーダー様。いきなり滅ぼそうってするのは如何なものでち。
今のところ妖精たちは何も悪い事してないでちよ?」
「だけど自分たちに恩恵を齎した恩人を追い出すなんて、相当な末期の筈よ。
私の経験上、そこまで人々が増長すると腐敗と退廃が蔓延しているわ、手遅れな程にね」
デーリッチが彼女を止めようと言葉を選んでそう言ったが、ビルーダーはそう断言した。
「負の連鎖が妖精たちの間に収まっている間に、全てを断つべきよ。
愛ゆえに、醜く心歪ませる力を消し去って、リセットすべきだわ」
「あー、ごほん。それに関しては私自身にも責任がありますから、まずは私に任せて貰えませんか?」
それに対して、かなづち大明神は若干視線を泳がせながらもそう答えた。
「わかっているの? 言葉で相手が分かってくれない場合、実力行使になるのよ?」
「見ての通り、体を張るのは得意ですから。
それでも分かってくれない場合は、止むを得ません。彼女らから技術を返してもらいます」
「良いのね? その場合、恨まれるわよ。人は一度得た高い水準の生活に慣れると、二度と元に戻れなくなるものよ」
「その場合はまことに残念ですけど、彼女たちと、人間たちとの諍いの種になるよりはずっとマシでしょう」
「……わかったわ、実力行使の後、なおも耳を貸さないのならばそうしましょう」
その後も、二人は道中多くの意見を交わし始めた。
「ほッ、正直ビルーダー様が妖精たちを滅ぼすって言った時、びっくりしたわ」
「私もだよ。彼女らの町が、あの使徒に蹂躙されるのは見たくないからね」
エステルが胸を撫で下ろすのを見て、ローズマリーもそう口にした。
「ぶっちゃけさ、ビルーダー様の考えを聞くたびに、この人が帝都を見たらどう思うのかって考えちゃうのよね」
「と言うと?」
「私の子供の頃、召喚魔法って技術が存在する前から帝都は発展してたけど、他所の世界からいろんな技術や人や物が溢れるようになってから、なんて言うのかな、本来段階を踏んで進んで行く技術の進歩がさ、飛ばし飛ばしになっているって言うか」
「あー、なるほどね。しかもそれはハグレ達からの搾取の上で成り立っているらしいからね。
技術の貸与や発展、その責任に対してビルーダー様は怒るかもしれないと」
「そうなのよねぇ」
ハグレ達、という表現にエステルは若干首を傾げつつも、彼女はローズマリーに頷いた。
「あまり自分の故郷を悪く言いたくはないんだけどさ、ハグレ戦争の時の帝都の雰囲気はピリピリしてて怖かったわ。
そして些細な理由でハグレ達が迫害され、怒鳴られてるのも何度も見た。彼らからいろんな技術の恩恵を自分たちを得ているっていうのに」
「そうだね、今でもハグレ入店お断りってお店は結構あるらしいし」
「私の住んでた商店街にもそう言うお店はあったわねー。それを見る度に、何だか悲しいと言うか、情けなくなるって言うか。
近所の知り合いのお店の優しいおじさんおばさん達がさ、見た目がハグレだって分かる人が来ると険しい表情になって追い払うわけよ。子供心に、その人間の表裏が恐ろしかった覚えがあるわけ」
「……そうだね、別に悪人が悪意を持って排除しているわけじゃないのに、それが普通だと誰もが疑問に持たない」
自分にもチクリと胸の痛みを覚えながらも、ローズマリーは思わずにはいられなかった。全てとは言わないが、多くの人々が彼女のように善良で正義感に溢れていれば良いのに、と。
「マリー。ハグレ王国、上手く行くと良いわね」
「そうだね、ハグレ達だけでなく、この世界の人たちにとっても」
『 裏切りのマルース 』
「お前たち、止まりなさ~い」
秘湯への道を進む最中、妙に野太い猫撫で声が一行を遮った。
「ここから先は、妖精王国の領地だよ~。
許可の無い人たちは入っちゃダメなんだから~」
「何やってるんですか、マルースさん?」
一行を遮ったのは、緑の服と帽子を被り、バショウ科の植物の葉っぱを羽に見立てて二対背中に付けている知り合いだった。
「マルース? 誰それ? 僕ちんは妖精のマルちんだよ~。
ほら、マルちんマルちんくるりんぱ!!」
「ダメでち、マルちゃんが壊れたでち」
最早治療不可能と見たのか、デーリッチが首を横に振った。
「ええと、そのマルちんがどうして私達の道を阻むんですか?」
「我らが女王、ヅッチーがそう望むからさ!!
ここから先、一歩でも入ってご覧。お前たちは酷い目に遭うよ!!」
ちょっと困惑気味のローズマリーに、マルちんはそう言った。
「ああ、えーと、つまり、マルースさんは私達じゃなく、妖精たちに着くってことでオーケー?」
「マルース? 誰それ? 僕ちんはマルちんだって言ってるでしょ!!」
「あーもう、分かったからその気持ち悪い猫撫で声止めろって!!」
耳を塞いで険しい表情で叫ぶエステル。
しかしマルちんはにやにやと笑っていた。
「……マルースさん、いやマルちんでも良いですけど、それは契約違反では?
あなたは私たちの仲間で、傭兵として雇われている筈だ」
「ふーん、じゃあマリちゃんは見過ごせっていうのかな?」
「あ、一応取り繕うのは止めたんですね」
「僕ちんたち妖精さんが、人間さんたちに何をしたって言うのかな?
どういう理由が有って、僕ちん達の領土を侵すの?」
「その口調もやめなさいよ……」
エステルは呆れ顔でそう呟いた。
「マルちゃん、デーリッチ達は温泉に入りたいだけでち。
よく分からないけど、妖精たちと知り合いならお願いしてくれないでちか?」
「ダメでち。温泉なんか知らんでち。ただこの先に通すなって言われただけでち」
「でちを取っちゃダメでち!!」
「まあまあ、デーリッチ抑えて」
ぷんぷん、と怒るデーリッチを諌め、ローズマリーが彼に問いかける。
「どうしても、ダメなんですか?」
「僕ちん、君たちを追い返したら妖精さんたちの仲間に入れて貰える約束なんだ~。
だから僕ちんただのメッセンジャー。それとも温泉に入らないと誰か死ぬの? それとも無理やり入るの?」
マルちんは煽るような奇妙な動きをしながら彼女に問いかける。
「そう言うことなら、私が」
「うお、でけぇ」
迷いが生じた面々だったが、そこにかなづち大明神が前に出た。
そして思わず素になるマルちん。
「追放された身とは言え、私は彼女らの関係者です。
私はどうしても妖精たちに会って話をしなければならないんです。
だからそこを退いて貰えませんか?」
「うーん、これはマルちん予想外。
妖精以外誰も通すなって言われてるんだよね~。
……ユーアー妖精?」
「イエスイエス、アイアム妖精ゴッド」
「オッケー、ひとまずこの場は通って良いわ。
僕ちんはヅッチーからこの後の対応を聞いてくるよ!! じゃあね!!」
すたたたー、と奥へと消えて行くエセ妖精もどき。
「なんだったんでち、あれ」
「ぷっふふ、あっははははは!!!」
呆然とその背を見送るデーリッチ達の耳に、何も言わず見守っていたビルーダーの笑い声だけが聞えていた。
§§§
「ヅッチーヅッチー!!
何だかよくわかんないけど、あいつらデカい妖精連れてたよ!!
ごめんね!! 勝手な事しちゃいけないと思って、通しちゃった!!」
「げッ、かなちゃんの奴、あいつらに味方したのか」
マルちんの報告を受け、妖精砲という名の迫撃砲の準備をしていたヅッチーが驚いた様子で顔を上げた。
「結局、ハグレ王国を追い返せてないじゃん、ダメじゃん!!」
「まあまあプリシラ、ちょっとぐらいの想定外でカッカするなって。
あいつらが射程に入ったら、こいつで追い返せばいいさ」
「でもヅッチー……」
プリシラは不信そうな目でマルちんを見ていた。
妖精の仲間になりたい、と妖精の格好までし始めた彼を、彼女は信用していなかった。
より正確に言えば、彼女の直感は語っていた。こいつは自分の敵だと。
「キャー、ヅッチー優しい!!
でもそれ本当にゴム弾だよね? 爆薬とかじゃないよね?」
迫撃砲の威力を知っているマルちんが、念押しのようにヅッチーに尋ねた。
「当たり前だろ。
まずは威嚇から入るんだ。それで帰ってくれれば御の字さ。
殺し殺され、恨み恨まれなんて面倒だしな!!」
「わーい、ヅッチー最高!!
惚れ直した!! ヅッチー大好き!!」
「はっはっは、そうだろうそうだろう!!」
「…………」
二人のやり取りを見て、プリシラは無言で口を尖らせた。
何だかヅッチーの右腕ポジションを取られたみたいで嫌だった。
そしてその後、やってきたハグレ王国一行とかなづち大明神たち。
神の教え通りに、皆と仲良くして平等に温泉を公開するように言うかなづち大明神に、ヅッチーは自分たちはちゃんとうまくやっていると言い返した。ただ一番良い所は自分たちがいただいているだけだと。
結局、両者の主張は交わらず、武力行使と相成った。
しかしヅッチーの操作する妖精砲の照準はぶれぶれだった。
迫撃砲の操作は慣れがいるので、横で自分が操作するというプリシラだったが、ヅッチーは聞かず楽しそうに砲撃を繰り返した。
「あー、ダメだねこりゃあ。のど元まで迫られちまった」
マルちんは素の口調で思わずそう言った。
「どうする? ここで迎え撃つかね?」
「くっそー……いいや、とにかくここは退くしかないか。
逃げるが勝ちって言うしな!! プリシラ、温泉まで下がるよ!!」
「じゃあ俺は時間稼ぎでもしておけばいいか?」
どうにも彼女らは温泉の隠したがっているので、正式に仲間になったわけでもない彼は気を使ってそう提案した。
「おう、恩に着るぜマルちん!!」
「お、お任せしますね!!」
「ああそうだ、プリシラちゃん」
一目散に撤退する二人の背に、マルちんが声を掛けた。
「なんですかー!!」
「悪いけど後でハグレ王国との違約金、都合してくれないかなぁ!!」
「ずこー!!」
そのあんまりな物言いに、思わずずっこけるプリシラだった。
『 対立する教え 』
「やっぱり、どうしても立ちふさがるつもりなんですね、マルースさん」
「当然だろう? 彼女達の行いに一体何が間違っているっていうんだ」
一行の前に、やはり立ちふさがるマルちん、いやマルース。
「彼女たちは間違っていますよ。
平等に、公平に、皆と仲良くすることが妖精神の教えなんですから」
前に出て説得を試みるは、かなづち大明神だった。
「生憎俺の信仰する神はただ一柱のみだ。
かの御方は仰った。技術や知恵は独占してこそ初めて価値が有る、と。
温泉ひとつぐらい、かわいいモノじゃないか。それとも持てるすべての技術を公開し、人々に広めろとでも言うつもりか?
馬鹿馬鹿しい、そうなれば妖精たちは第二のハグレさ!!
技術は取り上げられ、搾取され、森の奥地に逆戻り!! そんな不幸を彼女らに強いる為に、あんたは彼女らに知恵を授けたのか?」
「それは違います!!」
「人間は無慈悲な生き物だ。武力ではなく、権利や経済によって支配し、搾取する。
そちらの方が血は流れないが、より賢くより残酷だ。長く多くを奪い取れるからな。
あんな可愛らしい子たちを、そんな無形の暴力から守りたいと思って何が悪い」
マルースはそう語って、剣を抜いた。
「それともビルーダー様。
神に逆らった罰として、彼女らを滅ぼすと仰いますか?
ならば今度こそ、俺ごと彼女たちを滅ぼしくださいますようお願いします」
「いいえ、好きにしなさい。
私は智慧の女神。与えた知識によって争いが起こることなど承知の上。
そして何より、争いの中でこそ技術は高まるものよ。故に私は対立や諍いを否定しないわ。
それに私はどちらかと言うと戦争を肯定する側だし」
「ならば今一度、貴女様に刃を向ける我が愚をお許し頂きたい」
「好きにしなさい、と私は言ったわ」
割とどうでも良さそうに、ビルーダーは己の信者にそう下知を賜した。
「えッ、本当に戦うつもりなの?」
まさか本当に彼と戦うことになるとは思っておらず、驚くエステル。
「一体何がそこまで、彼女たちに入れ込む理由があるんです?
どうやらついさっき出会ったばかりのように聞こえたんですが」
「理由だって? 今話したばかりじゃないか」
理由をローズマリーに、マルースは笑みを浮かべこう返した。
「お前らもヅッチーを見ただろ? 可愛くて愛らしいじゃないか!!」
「ええぇ……」
「プリシラちゃんもいい感じだったなぁ!!
今までいろんな種族のハグレを抱いたが、妖精はまだだったからな!!
妖精王国は俺にとっての楽園、ティルナノーグなんだよ!!
それに妖精ってあのサイズで成長しないらしいし!! やっぱり妖精って最高だな!!」
「……」
ああそうだよなこの人はこういう人だよな、というローズマリーの冷たい視線が我らの主人公に突き刺さる。
「ビルーダー様、かなづち大明神、妖精たちはともかくこのロリコンはここで滅ぼしておきませんか?」
「「賛成」」
両者の神様は冷たい表情でそう言った。
「なぜだ!? 俺の全てはビルーダー様から授かったモノだ!!
そう、この湧き出る性欲さえも!!」
その彼の言葉に、皆の視線がビルーダーに集まった。
「えー、そのビルーダーは別の担当だから、私は一切関係ありません」
「そういう使い分け、結構ズルいと思いますけど、まあいいや!!
さっさとマルースさんを突破しますよ!!」
そっぽを向く女神像だったが、ローズマリーの号令と共に戦闘は始まった。
前回のアンケート結果ですが、思った以上に回答があって嬉しかったです。
とりあえず、こたつちゃんが一番で、全部やるが二番目だったので、要望通りこたつちゃんでちょっとした短編を書こうと思います。
他の質問項目も、ちょっとしたところで出したいと思うので、気兼ねなく今後もどうぞ。
あと、今回のマルース戦に発展するわけですが、その描写要ります?
必要ならビルーダーの性能とかが描写され、不必要なら後回しになります。
そんなに長くなる予定は無いのですが、回答してくださると幸いです。ついでに感想もくれるともっと嬉しいです!!
では、また次回!!
次回のマルース戦、描写は必要か否か?
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必要だ。オリキャラの性能とか見たい
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要らない、もっとテンポ良く