気付けば連休も最終日……長いようで短い休暇でしたね。
今回は長くなったので前篇後編に分けます。会話書くの楽しすぎるんご。
『 トゲチーク山岳地帯へ 』
「マルースさん!!」
「んがッ!? 寝てない、寝てないぞ」
今日も今日とて王国会議の時間。
俺は名前を呼ばれて取り繕うように居住まいを正した。
「まったく。この人は……マルースさん、あなたの意見を聞かせてもらえませんか?」
「おう、なんでも言ってみろ」
「……聞いていたと思いますが、アルフレッド君がトゲチーク山岳地帯での魔物討伐の仕事をジュリアという人から持ってきました。
他の傭兵団も動員され、かなり大規模のようです。とりあえず現地で話を聞いてから参加するかどうか決めるつもりですが、まずあなたの意見を聞かせてもらいますか?」
若干の棘の混じったローズマリーの質問に、俺は大きくうなずいてこう返した。
「なるほど、で、誰が隊長をやるって?」
「この手紙を書いたジュリアという傭兵のようですね」
「なるほど、ジュリアちゃんかー」
俺はその名を聞いて若干眉尻を下げた。
「アルフレッド君もそうでちたが、やっぱりマルースさんも知り合いでちたか」
「ほーう、世の中狭いもんだな」
「たぶん幼馴染みたいなものだった僕よりも傭兵家業の長いマルースさんのほうが付き合いは長いかもね」
「おう、なんだなんだ、弟君お前、ジーナちゃんみたいな姉さんが居てジュリアちゃんみたいな美人な幼馴染がいるだとー?
うらやましいねぇ、勝ち組だねぇ、おじさん嫉妬しちゃいそう」
「マルースさんッ、そういうのやめてくれません!!」
「もっと言ってやってくれよマルースさん、こいつ恵まれている自覚がないんだ」
「姉さんまで!!」
姉にまでいじられて顔を赤らめ否定しているアルフレッドの仕草を楽しんでいると、ローズマリーの咳払いが聞こえた。
「おほん!! それで、マルースさんは今回の依頼についてどう思いますか?」
「うんまあ、良いんじゃね? ただ……」
「ただ?」
「個人的にだが、ジュリアちゃんはやべー奴だよ」
「うん? 危険人物だってことですか?」
「違うよ、性格は傭兵にあるまじくクソ真面目さ。
彼女は盾役でね、仲間の危険に立ち会うと積極的に前に出るのさ。そうやって被害を軽減させ、生き残ってきた。
傭兵仲間の間じゃ、そうやって信頼を勝ち取ってきたみたいだな」
「それのどこがヤバいんでち?」
ローズマリーの疑問を代弁するように、デーリッチが小首を傾げそう言った。
「あのな、傭兵なんて信用のない職業さ。
真面目に戦わないわ、いざとなれば逃げるわ、盗賊に化けるわ、学も無ければ横柄で粗暴だ。
そんな連中の中で大した能力があるわけでもないのに仲間から信頼を勝ち取るなんざ、並大抵じゃないわけよ。
俺はあの娘のことを駆け出しの頃から知ってるが、そのうち依頼主か同僚に騙されてのたれ死ぬもんだと思ってた。
だが今も生き延びている。個人でやってる俺よりたぶん統率力も優れているだろう。隊長に推されてるくらいだしな。
小狡い立ち回りで生き延びてきた俺とは段違いさ。
だからあの娘とはあんまり共闘したくないわけよ、相性じゃなくてタイプが合わないというか、あの娘と一緒だと大抵ろくな目に合わないというか、割に合わないというか」
「それって単純にマルっちがそのジュリアって傭兵のこと危なっかしくてほっとけないから一緒に巻き込まれてるだけなんじゃないのー?」
「違うわい!!」
俺はニヤついているハピコの指摘に思わず向きになってそう返した。
「なるほど、とりあえず話を聞く価値があるということはわかりました。
マルースさんからそれだけの評価をされるのなら信用もできますし」
「俺はやめておいた方が良いと思うけどなー。
これは忠告だが、傭兵なんて奴を信用しちゃいけないよ、マリちゃん。他の傭兵団が参加するなら尚更ね」
「安心してください、私はマルースさんのことちっとも信用してませんから」
「そりゃあないよー」
俺はローズマリーにおどけてそう返したが、どことなく嫌な予感を覚えていた。
ジュリアの奴が悪いわけじゃないが、あいつと関わると大抵面倒事に巻き込まれるのだから。
§§§
「ええと、ジーナちゃんアルフレッド君、マルちゃんにエステルちゃん」
「国王様、わたくしも御供致します」
「おお、ゼニヤッタちゃんもでちか。デーリッチとローズマリー、向こうで隊長さんと合流するならこれで八人でちね」
「デーリッチ、私も連れて行きなさい」
当日、デーリッチが出撃メンバーを確認していると、ビルーダー様がそう仰った。
「この世界での集団的魔物退治の一部始終を観察したいわ。
私は何も口出ししないし、なんなら居ない物として扱っても構わないから連れて行きなさい」
「え、まあ、そこまでビルーダー様が言うなら」
少し困惑しながらも、デーリッチはそれを了承した。
「ええと、王国の神様。わたくしはなるべく視界に入らないほうがよろしいでしょうか?」
そこでゼニヤッタが恐る恐るビルーダー様にそう言った。
「私は他の面々と違って神として振る舞っているけど、この王国の神ではないわ。
それに私は悪魔だからと言って区別はしないわよ、所詮神も悪魔も、人間がどう認識するかの都合に過ぎないのだから。
あなたは何もできることがないと嘆いているかもしれないけど、今度お店をやるのでしょう?
自ら行動を起こす者が卑屈になってはいけないわ。己の間違いを悔い改めようとするのなら尚更ね」
「はい、ご指導痛み入ります」
ゼニヤッタはビルーダー様のご威光に触れ、気品のある一礼をしたのだった。
さて、キーオブパンドラの光に包まれ、目的のトゲチーク山岳地帯へとやってきた俺たち。
何やら貴族のお坊ちゃんのような浮いてるガキがいたが、気にせず野営のテントへと向かった。
「ああ、あいさつはそちらでやってくれ。
仕事を引き受けないなら俺はジュリアちゃんの顔を見ずに帰るから」
「どうしたんでち、マルちゃん」
テントに入る直前に俺がそんなことをいうものだから、デーリッチが率直にそう言った。
「どうせ同業者で真面目にやって成功している年下の後輩にいろいろと顔合わせしづらいだけなんじゃないの?」
「うるせぇ」
俺はジーナのやかましい声にそっぽ向いた。
俺が同行しないとわかると、デーリッチとローズマリーは仕事を持ってきたアルフレッドを伴ってテントに入っていった。
が、すぐにアルフレットはうんざりした様子でテントから出てきた。
「どうしたよ、弟君」
「なんでもないです……」
どうせからかわれたのだろう。だから俺はあの娘に食い詰めても借りを作りたくなかったんだ。
だからだろう、アルフレッドと俺はなんだかお互いにシンパシーを感じたのだった。
ほどなくして、二人がジュリアを連れてテントから出てきた。
彼女は俺に一瞥をするだけで、部下たち引き続き拠点の警護を命じた。
ということは、二人は魔物退治の仕事を引き受けたということか。
俺が陰鬱な気分でため息を吐くと、ミハイルとかいう貴族の坊ちゃんがジュリアに調子づいたことを言い始めた。
なんだこの坊ちゃんは、という皆の視線に気づかず彼は出発の準備に戻っていった。
「おや、マルース先輩もおられたんですか、これは心強いな」
「先輩とかやめてくんない、ジュリアちゃん。
君に先輩面する勇気はないから」
「えー、後輩に先輩面するの結構楽しいけどなー」
そんなこというピンク髪を無視して、俺はジュリアを見やる。
「また、髪が伸びたな……ジュリアちゃん」
彼女の腰まで伸びた三つ編みに束ねられた赤毛を見て、俺はそう呟いた。
俺は彼女のその特徴的な赤毛は駆け出しの頃から伸びるのを見ていたのだ。
「先輩は女の変化には目敏いな、舐めるように私の腰つきを見回して……」
「生憎だがそろそろお前は俺のストライクゾーンから外れるんだわ。悔しかったら昔のままでいるんだったな」
「なるほど、だから昔私を酔わせて自分の部屋に連れ込んだんだな」
「ちょ、言い方!! 酒をお前に教えたのは俺だけどさ!! 勝手に酔い潰れたのはお前じゃん!!
言っておくけど何もしてないからな!! 誘惑に負けそうになったけど何もしなかったからな!!」
俺はどちらかというと冷たい視線を送ってくるハグレ王国の面々にそう弁明した。
いやまあ抱きかかえた時の体の感触は堪能させて貰ったけどね。
「あーあー、あの頃のジュリアちゃんは朝俺の部屋で起きて真っ青になって、涙目で自分の着衣の乱れを確認する仕草とか可愛かったのになー」
「わかった先輩、ここは痛み分けと行こうか」
「つけ上がるなよジュリアちゃん、君は俺にとっちゃまだまだ子猫だ」
俺は気恥ずかしくてそんなイキッたことを口にした。内心とっくに追い抜かれていることに劣等感を覚えていたことへの裏返しだった。……情けない。
「わかっているさ。ところで先輩、見たところハグレ王国と行動を共にしているようだが」
「ああ、今こいつらに専属の戦術顧問として雇われてんの。
ところであのガキはなんだ? 仕事は引き受けるみたいだが、あんなのは聞いてないぞ」
「うーむ、それはだな」
ジュリアは今度は俺たちにこの魔物討伐の事の始まりについて語った。
あまりにも馬鹿馬鹿しい話だったので割愛するが、要するに貴族のメンツで、あの坊ちゃんは拍をつけるために寄越されたようだった。
ハグレ王国に協力要請が来たのは、彼の安全に対して万全を期すためらしい。
「先輩は要人警護を専門にしたと聞いていたから正直非常に助かる」
「俺に押し付ける気まんまんかよ」
「なに、適材適所というやつだよ」
「用心棒なんてとっくに廃業してるがね。まあいいや、そういうことなら引き受けてやるよ」
「……ところで、専属で雇われているということは懐具合は暖かいみたいだな」
「あん? そりゃあ、食いっぱぐれずに済んでいるからな。
つうかなんでそんなこと聞くよ、また俺に奢れって言いたいのか?
俺じゃなくてアルフレッド達と呑めよ、俺は付き合わないぞ。面倒くさい」
「いや、ちょっと前に傭兵仲間から先輩が仕事が無くて飲んだ暮れて、知り合いの女性のところに転がり込もうとして転々としていたと聞いたからな。
知り合いの落魄は聞いていてツラい、私に一言くらい言ってくれればよかったのに」
そんなことを言われた俺は、惨めな気持ちになって彼女を見返した。
「ああいや、今の言葉は忘れてくれ、無神経にもほどがあった」
俺の胸中を察したのか、ジュリアは目を伏せ先に歩き始めた。
「マルちゃん、顔が怖いでちよ……」
デーリッチに指摘され、俺は初めてあいつを睨みつけていたことに気付いた。
「あッ、いや、悪い、気付かなかった」
情けない、年下の成功に嫉妬するなんて。
何事も俺が中途半端なのが悪いのによ。
「さっきは悪かったな、ジュリアちゃん。
仕事が無いのは俺の甲斐性が無いだけだって話なのにな」
だから俺はすぐに謝った。
討伐に向かう目的地である洞窟への道中のことである。
「いや、こちらこそすまなかった。
実は先輩が雇われていた貴族の黒い噂は他の傭兵仲間から聞いていたんだ。
先輩以外に雇われていた何人かが失踪したという話も。本当に、先輩が生きていてよかったよ」
「俺も貴族の用心棒なら楽に稼げると思ったんだけどよ、世の中そんなに甘くないわな」
「だがそうして今ではアルフレッドやジーナと行動を共にしているのだから、世の中は案外狭いようだ」
「まったくだよ。二人と幼馴染なら案外俺も近くに居たのかもな」
そう考えると、人間の出会いは本当に数奇なものだ。
俺の故郷では人の縁すらもビルーダー様が定めたものだとされていた。
だがこうして本物のビルーダー様を間近で見ていると、そんなことは無いようにも思える。
俺は見極めねばならないのだろう。
何が神の意志で、何が違うのかを。
§§§
「ビルーダー様はどう思われますか?」
「何がかしら?」
ビルーダーはデーリッチ達一行が倒した魔物の一部を切り取り、試験管の中に入れたりするという作業をしていると、ローズマリーから話を振られて彼女に顔を向けた。
「ああ、何かしていたのなら邪魔をしてしまいすみません」
「構わないわ、ただの調査だから。それで、何かしら?」
ビルーダーが尋ねると、ローズマリーはたった今の会話を掻い摘んで伝えた。
いわく、エステルはここに住まう魔物を倒すのは人間のメンツに過ぎず、これだけの人数が嬉々として参加しているのはゼロキャンペーンをしている身としては複雑なのだとか。
ローズマリーもそれに、魔物は金銭や名声、戦闘訓練の為に人の営みに組み込まれていることは事実だとして、放置すれば害になる。
それがこの社会の仕組みで、魔物討伐は否定できるものではないし、人社会平和にゼロキャンペーンは理想であると励ましたのだという。
「ちょっと、マリー……」
「どうしたんだい、エステル」
何やらもやもやとした感情を発散できずにいたエステルが、急にしおらしくなってローズマリーに小さく声をかけた。
「そういうの、ビルーダー様に聞かないでよ。
もし、万が一この人にゼロキャンペーンは害悪だから止めろなんて言われたら私どうすればいいかわからないわ」
「いやぁ、そんなことないと思うけれど」
と言いつつも、それは確かにその通りかもしれない、とローズマリーは思った。
この女神はゼロキャンペーンの最終的な目標、人社会の平和を実現させ、文明の発展を是としている存在なのだ。
だがそんな彼女だからこそ、社会のシステムに組み込まれた魔物との戦いを無くすことを否定するかもしれない。
「ゼロキャンペーンに関して、私は何とも言えないわね」
「その曖昧な表現が逆に怖いんだけれど!?」
「ああ、ごめんなさい。言い方が悪かったわ、次元干渉に関する知識はこの世界の文明レベルからして私から説明できないのよ。
ただ、あなた達が魔物の空気穴と呼んでいるあれ、少し不自然なのよね」
「不自然、ですか?」
「どういうこと?」
二人は顔を見合わせ。
「空間の裂け目は、珍しいけど起こりえない出来事ではないわ。
最初私はこういう世界だと思っていたけど、これだけ数多の地域に無秩序に魔物の発生源が存在するのは作為的なものを感じるのよね」
「え、ビルーダー様から見て、それは異常な出来事なのですか?」
「そうね、私にとって多くの場合魔物とは人類に敵対的な原生生物のことよ。
発酵と腐敗が人にとって有益かそうでないかの違いのようにね。
定義など、世界によってそれそれだから今まで口にはしなかったけど、よその世界から魔物が流入するなんて私からすればちょっとしたバイオハザードみたいなものよ」
それを聞いた二人は、今度こそぽかんとした表情になって顔を見合わせた。
「ええと、つまり、どういうことだ、ああくそ、考えがまとまらない」
「ごめんマリー、私もちょっと自分の頭の処理能力を超えてるっていうか。なんだか喉元から何かが出かかってる感じで」
二人は混乱していた。
下手に頭が良かったり、知識がある人間が聞けばそうなるようなことを二人は聞いてしまったのだ。
誰だって、物は上が落ちるのが常識の人物に、なぜこの世界の物は下に落ちているのだと指摘されれば混乱するだろう。
「落ち着きなさい、それは水の中になぜ生命は宿ったのか思想を巡らすようなものよ。
答えの出ない問題を考える必要はないわ」
「あ、はい、そうですね……」
「私も余計なことを言ったわ。
話題を戻しましょう。そうね、魔物をゼロにしようという試みは正しいと思うわ。
私はヒトに文明の灯りを授ける者だもの。文明の発展に伴い外敵の排除は、人として普通よ。
ただ、文明の進歩には必ず痛みを伴うものだわ。それを忘れないことね」
「魔物がいなくなれば、それはそれで何かしらの問題が発生するってことなのかな」
切り替えの早いエステルだったが、なんだかんだでもやもやしたものが胸にたまる思いだった。
「進歩とは、歩みなのよ。
必ずそれに付いていけないが現れるわ。
その歩みが良い方向だろうと、悪い方向だろうと、ね」
「なんだか三人がまた難しいことを考えてるでちねー」
そんな三人を見て、デーリッチは小首を傾げて不思議そうにしていた。
「よくわからないでちけど、ビルーダー様。
歩く速さは人それぞれでちから、デーリッチは歩くのがゆっくりの人たちと一緒に歩くでち!!
ほら、デーリッチってばまだ歩幅が小さいから……」
「そうね」
三人の話の内容を全く分かっていない様子のデーリッチを、しかしビルーダーは微笑んでみていた。
「ローズマリー」
「はい?」
「よく、この子を見出したわね」
ローズマリーはビルーダーのたったそれだけの言葉で、いかなる美辞麗句や賞賛よりも嬉しく、心が温かく満たされた。
「期待しているわよ」
そんな彼女を見て、ビルーダーは慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
文明の進歩に伴う痛みや弊害など無い、誰もが恩恵だけを享受できる理想の楽園を思い浮かべながら。
今回はあとがきに書くことはないです。
しいて言うなら、今のアンケートは次回更新後までってことで。
次はなるべく早く書きますねー。
マルース君が相談所にアンケートを設置、結婚するならどの神様?
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1.福ちゃん
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2.ティーティー様
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3.かなづち大明神
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4.ビルーダー様
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5.某東の世界樹の女神