アナザー・アクターズ   作:やーなん

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ああー、ついに連休が終わってしまった。
頑張って一日で後半書いたよー。

今回の話は二次創作ならではの展開です。
どうせやるなら派手にって感じです。



20.文明の雷火 後編

『 惨劇の前触れ 』

 

 

 道中の脇道に陣取っていた人食い植物を難なく蹴散らし、俺たちは洞窟の前へとたどり着いた。

 山道に、というか冒険慣れしていない様子のミハエルはぜぇぜぇ言ってたが、ここで一旦の休憩へとなるようだ。

 

 今回の作戦は三方向同時突入の作戦であり、そのようにして一斉に洞窟内部の魔物を掃討する手はずとなっているようだ。

 そのための合図として狼煙を上げる必要があるのだとか。

 

 ……作戦の方向性は理にかなっていた。

 こういう作戦は打ち漏らしを無くす為に敵の出口を塞ぐ必要があるのだから。足並みを揃える必要があるのは当然の理だ。

 だから俺はこの時点で、何も言わなかった。

 

 俺は慣れない行軍で息を整えているお坊ちゃんを見やりつつ、狼煙を上げるの為高台に上るジュリアに興味津々でついて行こうとするデーリッチとエステル。

 

 その直前で、ローズマリーの調子が悪そうなことに気付いたデーリッチが声をかける場面があったり、お坊ちゃんがそれを見てマウントを取ろうとしたりといった場面を見ていたが、俺は周辺警戒をしていたのでスルーしていた。

 

「……この辺りはマナが薄いわね。

 ローズマリー、この間の血液検査の結果を伝えた時のこと、覚えているわね?」

「はい、もちろんです」

「無理をするなとは言わないわ。

 だけど私の手を煩わせることがどういうことか、あなたには言うまでもないことだと思うけど」

「わかっています、どうしても辛い時は言うので大丈夫です」

「なら、私から言うことはないわ」

 だから、デーリッチが高台に上った後、ローズマリーとビルーダー様がそんな会話をしていたことに気付かなかった。

 

 

 それから、程なくして。

 

「おい、ジュリアちゃん。作戦決行の時刻だぞ、狼煙は見えたか?」

「いや、まだだ、ほかの連中はこちらより大所帯だ。遅れているのかもしれん」

「そうかい。まあ隊長の判断は尊重するよ」

 俺は高台に上ってジュリアと共に狼煙を待つことにした。

 

「それにしても、先輩も相変わらずのようで安心したよ」

「あん?」

「わざわざ作戦決行の時間にこうして確認してきた。

 やはり他の傭兵たちを信用していないんだろう?」

「当然だ。あと十分経って何もなかったら出るぞ。

 俺たちはプロだ、足を引っ張るやつの足並みに合わせる必要はない」

「……そうだな。多少作戦に不備が生じるかもしれんが」

「俺たちの仕事に雇い主は完璧なんざ期待しちゃいないっての。

 貴族の坊ちゃんが輝かしい初陣を飾った、大戦果を挙げました、めでたしめでたし。俺たちも金が入りました。めでたしめでたし。それで十分だろう?」

 真面目ちゃんめ、と俺は内心吐き捨てた。

 そんな俺の心情を悟っているかのように、彼女は俺の顔を覗き込む。

 

「どうせ私のことも、ジュリアちゃんなんて呼んでいるのに内心子猫ちゃんとでも思っているんだ。

 先輩は表面上他の人たちを打ち解けているように見えて、絶対に一線を越えさせない。ハグレ王国の人たちもたぶん、まだそのように見える」

「妖怪かお前は。そんなこと無いっての、だいたいなんでそう思う」

「つい最近、鏡を見て驚いたんだ。

 ある激戦の後、多くの死傷者が出た戦いの後、浴室で血を洗って自分の顔を見てびっくりしたよ。

 自分の顔が先輩のしかめっ面にそっくりだった」

 ぺたり、とジュリアは頬に手を当てそう言った。

 

「人の死に慣れようとすると、人はこういう顔になるんだな、とそう思ったわけだ」

「俺はそんな感性になる前に適当な男を捕まえて引退してほしかったんだがねぇ」

 俺はため息を吐いてそう呟いた。

 こいつはこの若さでその域にまで達しちまったのかという、深い憐みだった。

 

「ジュリアちゃん、この仕事が終わったらうちの王国に来いよ」

「うん? だがハグレ王国なのだろう? ハグレ以外が所属してもいいのか?」

「あそこにいるピンク髪のフレイム発射装置がいるだろう? あれもハグレじゃないから大丈夫さ」

「……そうか、その誘いは嬉しいな。前向きに検討させてもらうよ。

 さて、そろそろ時間だな、皆、そろそろ出発するぞ!!」

 ジュリアはそう言って、何やら嬉しそうに高台から降りて行った。

 

「普段は何考えているのかわかんねぇ面してるくせに、子犬かお前は」

 まあそれであいつがそれ以上踏み込まずに済むのなら俺も気が楽なんだが。

 

 

 ――ここから先、俺が居なかったらクソ真面目なジュリアの奴が待っていただろう三十分が、多くの人間の生死を分けるなどと、俺たちは思いも寄らぬのだった。

 

 

 

『 文明の雷火 』

 

 

 俺たちは灯りを持った者を中心に洞窟内の魔物を掃討しながら奥へと進んでいった。

 そうしている内に、奥の方から剣戟の音が聞こえた。

 

「あー!! やっぱり抜け駆けしてたんでちね!!」

 道中、もしかしたら他の傭兵連中が抜け駆けしていたかもしれないという話をしていたので、その予想が的中した途端デーリッチがぷんぷんと怒り出した。

 

「思ったより早くかち合ったな。

 向こうの進軍速度から考えて、抜け駆けしたとしても合流地点はこちらが先に着くはずなんだが」

「呆れた、報酬なんて大して変わらないのに、そんなに名誉が大事かよ」

 ジュリアとエステルがそんな風に見えない闇の奥を睨みつけながら言った直後だった。

 

 悲鳴が、断末魔の絶叫が、洞窟内に鳴り響いたのだ。

 

「なんだ、今の声……」

 ゾッとするような叫びに、この場にいる全員が硬直した。

 それからも、断続的に悲鳴や叫び声が戦闘の音と共に聞こえてきた。

 

「お、おい、ジュリア!! 

 この作戦、過剰戦力で楽勝なんじゃなかったのか!!」

 そして皆が我に返ったのは、恐怖に引きつった表情をしているミハエルの追及によってだった。

 

「その筈だ、その筈だった、が……どうやら私の認識が甘かったらしい。

 ただ、普段通りの魔物討伐の作戦のはずだった。

 だがどうやら、ここは思いもよらぬ怪物の住処だったのかもしれない」

 ジュリアは深くため息を吐いて、この後の作戦行動について思慮を巡らせているようだ。

 

「それで、どうするんだい? 救援に行くのか、それともしっぽを巻いて逃げるか」

「救援に行くでちよ!! 早く助けに行かないと!!」

 選択を迫るジーナに、デーリッチは思うままを口にする。

 

「……ミハイル。今ならまだ逃げられる、だれか護衛を付けるから拠点に戻るんだ」

「ば、馬鹿を言うな!! ここまで来ておめおめと逃げ帰れっていうのか!? 

 そう言うジュリアはどうするんだ!! 戻るならお前が僕を守るんだ!!」

「それはできない。私はこれから奥へ救援へと向かう。

 窮地に陥っている者たちを助けなければいけない、言い争っている暇は無いぞ。さあ、早く」

「…………」

 ジュリアの諭すような言葉を受け、ミハイルは彼女の覚悟を悟り震えた。

 

「で、出来るわけないだろ、そんなこと!! 

 僕はいずれ父の後を継いで領主になるんだ!! 僕も付いていくぞ、決めたからな!!」

「わかった。ではみんな、行くぞ」

 ジュリアは彼の覚悟をくみ取り、俺たちは奥へと歩みを進めた。

 

 しかし、その覚悟をあざ笑うように、退路が崩落してしまった。

 だがそれを気にする余裕はなかった。

 剣戟の音が、悲鳴が、徐々にこちらに向かってきている。

 

「どうやら向こうは退却しながら戦っているみたいだ。

 これより、我らは彼らの救援へと向かうぞ!!」

 ジュリアの掛け声とともに、俺たちは洞窟の中を駆ける。

 

 その奥では、十数名の傭兵たちが魔物と戦っている姿があった。

 その周辺には負傷兵が転がっており、遠目にも息をしていない者も多かった。

 

「私は負傷者を診るわ、あなた達は敵を排除しなさい!!」

 ビルーダー様が声を張り上げ、負傷者の元へと駆け寄った。

 

「ミハイル、俺たちはビルーダー様の護衛をするぞ。

 近寄ってきた敵だけを倒せ、無理はするんじゃねぇ」

「わ、わかった!!」

 俺は王国の面々が魔物と戦うのを近くで見守り、背後ではビルーダー様が次々と負傷者の応急処置を終えていく。

 

 

「お前はグリフィスか? ざまあないな、抜け駆けして死にかけるとは」

「その声は、マルースか。へっ、まだ生きてやがったのかてめぇ」

「喋らないで、傷に障るわ」

 ビルーダー様が別の傭兵団で隊長をしていたグリフィスの野郎の傷口を消毒し、指でなぞるだけで縫合する。

 他の傭兵たちは王国の面々が魔物を排除し、デーリッチがヒールで治療を開始した。

 

「ああ、すまねぇ、仲間を助けてくれてよぉ」

「情けない声を出さないで、はい、これで無茶をしなければ大丈夫よ。

 息を止めてすぐならまだ私が蘇生できるから、心臓が止まっていても死体に見えても持ってきなさい!!」

 ビルーダー様の怒号に、皆は急いで死体も同然の負傷兵たちを運び始めた。

 

 彼女が治療をしている間、ジュリアは彼に話を聞き始めた。

 どうやら事前情報が間違っていたらしく、弱い魔物の中にとんでもない強さの魔物が紛れているようだった。

 彼ら傭兵団はそれから敗走してきたようだ。

 

 それを聞いたエステルがどうして狼煙を待たなかったのかと非難したが、足並みを揃えたかったら騎士団にでもやらせろとグリフィスは力なく笑ってそう言った。

 獲物は少なく、洞窟内の宝は取り放題、競争になって当然だと。

 

「そうだ、メイガス傭兵団はッ、早く救援に向かわねば!!」

「やめとけ。俺たちはこの合流地点で耐えながらあっちの様子を見てきた。

 あいつらは俺たちより早く突入したんだ、もう戦いの音すら聞こえないし、俺でも胃が空っぽになるぐらいの惨状だ」

 二人は退路の話になり、別の傭兵団の話になるとそんな話をしだした。

 もう一つの傭兵団の様子は絶望的のようだった。

 

 そこでデーリッチがもう退却以外道がないと悟ると、キーオブパンドラを持ち出し外に出ることを提案しだした。

 しかし彼女がその力を使用しても、このチートアイテムはうんともすんとも言わなかった。

 

 デーリッチは泣きそうになりながら祈るようにキーオブパンドラを掲げるが、やはり鍵は動かなかった。

 

「も、もしかして壊れちゃったのその鍵!? 

 で、でも、この間ビルーダー様がメンテナンスしたばかりだし……」

 エステルはいまだ懸命に蘇生処置を試みているビルーダー様を一瞥した。

 

 万策尽きたデーリッチはローズマリーに縋り付くが、彼女は何やら真っ青で尋常ではない様子だった。

 そして息も絶え絶えに、キーオブパンドラの使用に必要な豊かなマナがこの場所には無いと口にした。

 この場所は今、極端にマナが減っていると。

 その原因は、魔物が暴れているせいであると彼女は推察した。

 魔物が増えているか、強力な魔物が出ているかで、マナの消費量が急激に増えている、と。

 

「無理をするな、マリちゃん」

 俺は立っているのも辛そうなローズマリーを一旦座らせることにした。

 デーリッチが錯乱気味に彼女の不調を指摘すると、ローズマリーは虚弱体質らしく、マナが足りないと酷く堪えるようだった。

 呼吸も辛く、頭が回らなく、まともに助言もできないと弱弱しく語った。

 

 親友にして腹心の参謀のその有様に、デーリッチは見ていてかわいそうになるほど狼狽えるが。

 

「マナは空気と同じようなものよ、彼女は今血中のマナが減っている。

 症状を緩和させる薬を処方させているから、落ち着いてそれを飲ませなさい」

「わ、わかったでち!!」

 傭兵たちを治療中のビルーダーの射抜くような声に、デーリッチはローズマリーの荷物を漁って薬を取り出し、水を持って彼女に飲ませた。

 

「こ、これで大丈夫なんでちね!!」

「いや、この薬はあくまで痛み止めのようなものらしい。

 根本的な解決にはマナの量が豊富な場所で安静にしろと言われているんだ。

 だから今は多少無茶でもこの場を脱さねばならない。それと、デーリッチ」

 薬のおかげか多少マシになったローズマリーは、デーリッチを見上げた。

 

「うろたえるな!! 君はハグレ王国の国王だろう!! 

 このくらいの窮地で、弱音を吐くな!!」

「マリー、無理するなよ。それぐらい、私が代りに言ってやっても良かったのに」

「それはさすがに悪いよ」

 エステルはロースマリーの肩を貸し、何とか立ち上がらせた。

 

「そ、そうでち、デーリッチは王様なんでち、こ、これぐらいで情けない姿を見せちゃいけないんでち!!」

 デーリッチも涙を袖で拭いて、親友の言葉に奮起する。

 

「負傷した傭兵たちを連れて、みんなでここから脱出して、ローズマリーも救うでち!!」

 またひとつ成長したデーリッチの姿を見て、ローズマリーもホッと胸を撫で下ろした。

 

「おい、そろそろあっちの道から多くの気配が近づいているぞ!!」

 俺はメイガス傭兵団の居た方の道を警戒していたが、どんどんとその気配がこちらに近づいてきていたので、皆に呼び掛けた。

 

「そろそろあっちの魔物どもが人を食い終わる頃か」

「グリフィスさん、下の道にあるんですよね?」

「ああ、敵はまだ残ってるけどな」

「しかしそうなると、参ったな。

 動ける人たちで動けない負傷者を運ぶとなると、明らかに手が足りないぞ」

 エステルがグリフィスに確認したが、アルフレッドが周囲の負傷者たちを見渡しそう言った。

 

 そうここで、負傷者たちが足枷となった。

 ビルーダー様の治療を受けても、負傷者の半数近くが意識がない状態だった。

 彼らを運びながら逃げるには、明らかに道中を護衛し戦闘する人数が足らない。

 

「……あまり、手を貸すつもりはなかったのだけど、私の治療した者たちが魔物の餌になるのは業腹だわ」

「ビルーダー様?」

「どうせ、いつかこの地を我が恩恵が満たすのだから、多少なりとも先に邪魔な害獣を駆逐するぐらい構わないわよね」

 治療を終えたのか、ビルーダー様は皆のもとへと歩みだした。

 

 その一歩一歩が、まるでレッドカーペットを歩む大女優のような神々しさを孕んでいて、見る者すべてを釘付けにする。

 そしてかの御方は、祝詞をハミングのように口ずさむ。

 

「嗚呼、暗闇に怯え、獣に怯え、洞窟に隠れ潜む哀れな人々よ。

 我が雷鳴を見よ、空から授ける一条の光を。

 そして燃える草木をその手に取り賜え。その炎こそが我が恩恵、汝らの知恵の兆しである」

 それは、俺が子供の頃何度も聞いた聖句の一説だった。

 俺は思わず膝を突き、かの御方に祈りをささげた。

 

「――権能承認。今こそ私は、ここに夜の闇を暴き、獣の脅威を取り除き、楽園の創生を始めましょう」

 その瞬間だった、薄暗い洞窟が昼間のように隅々まで明るく見通せるようになったのは。

 それはまさに神の奇跡であった。

 

「おお、なんか明るくなったでち!!」

「おいおい、あれだけ大層な前振りしたくせに、明るくなっただけかよ」

 素直なデーリッチと対照的に、グリフィスは何も問題は解決してないとそう吐き捨てた。

 

「えーと、あのー、楽園を創生するとか言ってたけど、マジなんですか?」

「私がこの世界で行使できる範囲での権能を、限定的に本体から承認してもらったわ。

 要するに、ちょっとだけ本気モードよ。神として何をするにも許可が必要な面倒なお役所仕事ってわけ」

「あ、そうなんだ、ただの呪文みたいなものなのね」

「エステルちゃんはビルーダー様を見習うべきでち。

 ああいうかっこいい呪文をこれからゼロキャンペーンをするときにやるんでちよ!!」

「悪かったわね!! まだ引きずるのその話!!」

 すっかり元気を取り戻してエステルをからかいだデーリッチに、彼女は向きになって言い返していた。

 

「おい、そんなのんきに話をしてる場合じゃ――」

 グリフィスがそう言った直後だった。

 左の道から魔物の群れがにじり寄ってきたのは。

 

「ほら、言わんこっちゃない……だろう……が……」

 彼がそう声を上げたが、それは長く続かなかった。

 ビルーダー様が虚空から銃を取り出すと、魔物の群れに向けて掃射した。

 一瞬で、魔物たちは蜂の巣になって血飛沫をまき散らした。

 

「はーい、これからこの対魔物銃を少しの間だけ、みなさんに配りまーす。

 使い方は敵に向けて引き金を引くだけ、簡単でしょ?」

 ビルーダーはそう言って、動ける者たちにその銃を配り始めた。

 

「こんなのぽんぽんと渡されたら、鍛冶屋として立つ瀬がないんだけどねぇ」

「ピンチの時に貸してくれるだけみたいだし、大丈夫じゃない?」

「すごいなぁ、この銃。魔物が一瞬で木端微塵じゃないか」

 ジーナとアルフレッドとジュリアは三者三様に銃を受け取った。

 

「はは、なるほど、魔物の脅威を終わらせ、剣と魔法の時代を終わらせるというだけはある」

 ローズマリーは原型を留めていない魔物の姿を見て頬を引きつらせた。

 

「ところでビルーダー様、動ける全員に武器を配るのはいいんでちけど、誰が負傷者を運ぶんでち?」

「誰がって、カタちゃんがいるじゃない」

「あッ」

 デーリッチはビルーダー様が使徒を召還して負傷者を体内に入れて運ばせる光景を見て、可哀そうなものを見る目になったのだった。

 

 

 それからというもの、撤退戦は射的ゲームに成り果てた。

 目につく魔物を一掃し、一行は洞窟の出口に向かう。

 傭兵たちの士気も高く、負傷者が居なければ鬱憤を晴らすべく他の獲物を探しに行きそうなほどだった。

 

 道中、ジュリアとグリフィスが今回の件について話していたようだが、俺は興味は無かったが、その後彼女はミハイルと何かを話していたようだった。

 他の面々は神の恩恵を試すのに夢中で、その銃声であまり会話が聞こえなかったのもあるが、お坊ちゃんの顔つきはだいぶ良くなったようだ。

 

「外でち!!」

 そして驚くほど早く、一行は洞窟の出口までたどり着いたのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 ここからは後日談になるが、あの窮地を切り抜けた俺たちは無事仕事を終えることに成功した。

 ビルーダー様の銃は洞窟を出ると霞のように消え去り、そんなに長時間の恩恵を授けることはできないようだった。

 おかげで、そのあとに現れた化け物の対処に苦労したが、傭兵たちは洞窟内の魔物どもを駆逐できないことを悔しがっていた。

 

 化け物が現れるより前に、何とシノブちゃんが登場し一悶着あったが俺たちはその化け物を撃退して退避することになった。

 その際に一人で――シノブ曰く古代種――を討伐に向かったエステルがキーオブパンドラで撤退する俺たちから勝手に飛び出して出て行ったことで、ローズマリーは大層お怒りだった。

 

 俺たちはシノブに聞かされた人の血の味を覚えた古代種たちの懸念を解消すべく、負傷者を置いて残る戦力で洞窟の入り口に急いで逆戻りしたが、もうすべて終わっている後だった。

 洞窟の入り口は崩落し、死体が散乱し、山はえぐれ、すべて沈黙していた。

 

 こうして一仕事終えた俺たちは、エステルが帰ってきた後に激怒したローズマリーをなだめたり、ジュリアも俺と同様にうちで雇われることとなった。

 めでたしめでたし、で終わるところなのだが、俺はエステルから聞いたシノブの失踪したという話が心の奥に引っかかっていた。

 

 

 

 

 

「ビルーダー様、今回は本当にありがとうございました」

 エステルが帰還し、彼女に雷を落とした後のことである。

 ローズマリーは彼女が無事帰ってきたことで安堵し、彼女はようやく診療所で検査を受けながらビルーダーに改めてお礼を言えたのだ。

 

「気にしないで、私の仕事のうちとはいえ、私情を挟んだことに猛省しているところなんだから」

「私情、ですか」

「ええ。私にとって、神とはシステムであるべきなのよ。

 その究極が、私の本体なのよ。肉体を捨て、自意識を捨て、魔法の法則そのものになったのだから。

 マルースの持っている遺品のスキルも、本体から引き出した力なのよ」

「はぁ、道理で、どうやってあの魔法じみた力を扱えるのかと思ったら」

 それはまさしく、火や水を司るような自分たちが想像する神の形そのものだった。

 他の分体と戦う際にも機能するわけである。

 

「武器を貸し出すのも緊急措置として仕方なかったけど、やりすぎたわ。

 今回限りで、次からは期待しないようにしてね。私が使う分には構わないでしょうけれど」

「それはもちろん、あれはこの世界には過ぎたるものでしょうし」

「……よし、問題ないわ」

 話している内に、ローズマリーの検査は終わったようだ。

 

「症状を抑えるなんて回りくどい薬を渡して悪かったわね。

 エステルが持ってきたマナジャムのおかげで、私の中で文明レベルの再査定が行われたわ。

 おかげで今後、これと同等の薬を処方できるわ、体も特に異常なしよ、お大事に」

「ありがとうございます」

 ローズマリーが退出すると、ビルーダーは次の患者が来るまでマナジャムの実を弄んでいた。

 

「機械や魔法などの技術などではなく、植物的性質から創意工夫で体内のマナ不足を補うとはね。

 たった一人の天才が文明レベル全体を10や20引き上げるような発明をするのは稀にあるけれど、それはこの世界の歪な技術ツリーや知識の結果なのかしら。

 あの子、シノブとか言ったかしら、興味深いわ。要注意観察対象ね、ふふふ」

 極まった技術の果てを知り尽くしていても、ビルーダーの探究心や好奇心は留まるところを知らない。

 

 ああ、これだから、と彼女は思う。

 これだから、何度繰り返しても人間という生き物は飽きないのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 




ビルーダーのスキル設定

☆文明の雷火 消費MP6%
対魔物用の銃器を掃射し、敵全体を一掃します。(投擲)
権能承認状態のみ使用可能。魔法依存の物理攻撃。


あとがき
今回の話は原作では多くの犠牲が出る凄惨なストーリーとなっています。
キャラ同士の楽しい掛け合いや軽快なギャグで彩られていますが、ざくアクの世界が決して面白おかしいだけの世界観でないことを示しています。
今回彼らはビルーダーの協力によりランボーのごとく無双して切り抜けられましたが、結局大筋は変わりません。
でも作者として、世界観を演出する死者を少しでも減らせたらいいなぁ、という思いで今回は書きました。ビルーダーという女神はそういう存在を救う舞台装置なのです。
ですが彼女は決して、すべてをハッピーエンドにする機械仕掛けの神ではありません。そうでなければ、ディストピアメイカーなどという異名を設定しませんでした。
彼女の神としてのスタンスが、王国の面々を通じてどのように変わっていくのか、マルース君ともども今後を見守ってくだされば幸いです。
では、また次回。

マルース君が相談所にアンケートを設置、結婚するならどの神様?

  • 1.福ちゃん
  • 2.ティーティー様
  • 3.かなづち大明神
  • 4.ビルーダー様
  • 5.某東の世界樹の女神
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