アナザー・アクターズ   作:やーなん

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今回は新たにアンケート設置しますので、ご協力くださるとうれしいです。


23.拠点内会話その8

『 プリシラ成長日記その3 』

 

 

 ハグレ王国の拠点よりずっと南に行くと出る海岸線の先にある島に、港町ザンブラコは存在する。

 

 妖精王国の更なる飛躍のための拠点として港町で強い影響力を得るという計画は順調だ。

 いや、順調すぎるというべきか。

 

 プリシラ達がこの港町で店を出すために駆けずり回ったころが懐かしい。

 住人や商店の理解を得るために駆けずり回り、出店許可を貰うまで何度も何度も頭を下げて回った。

 俺は彼女らに舐めたことを言わないように後ろで睨みを聞かせたり、時には粗暴な振る舞いを見せプリシラに窘められるといった芝居をしたこともある。

 

 漁業以外何の取り柄もないこの港町だが、ここ最近はどうにも景気が良くない。

 何やら急に魚が取れなくなり始めたらしく、さらにはそれは俺たちの所為なんじゃないかと言われる始末である。

 とんでもない誤解である。

 

「で、実際のところどうなのよプリシラちゃん、おじさん怒らないから正直に言いな」

「なんであなたが私のことを信用してくれないんですかね?」

 妖精デパートの事務所でそんなやり取りを交わす俺とプリシラ。

 彼女はしかし氷の妖精らしく涼しい顔で俺の軽口を受け流した。

 

「我々に潮の流れを操作するような技術はありません。知っているでしょう?」

「だがどうするよ、将来的に船でここの海産物を輸出するって計画だろ? 

 今はこのデパートのおかげで採算は取れてるが、この小さな島じゃ限界がある。

 この港町の漁業が立ち行かなくなるなら撤退も視野に入れんとなくなるぜ」

「うーん、そうですね。どうせ撤退するなら、この店を有効利用してみません?」

 そう言って、プリシラは妖精そのものの可愛らしい笑みを浮かべた。

 

 

 それからというもの、プリシラはある方針を打ち出した。

 元々妖精デパートはこの港町では手に入れにくい品物などを販売することで利益を得ていたが、商店街などで売られている地元の特産品などを加工したり、妖精デパートで取り扱っていない種類の商品の仕入れと販売を店そのものを買い取って任せたりと地域密着型のデパートへと様変わりした。

 それまで妖精デパートに客を取られ、商店街の連中から悪魔のように嫌われていたプリシラは救いの天使へと変貌した。

 

「でもこれ、採算が取れるのかね? 

 利益率は明らかに落ちてるじゃなの」

 俺はプリシラの方針転換から前の業務成績を見比べ彼女に尋ねた。

 

「マルースさん、あなたは私たちの信用を勝ち取るのにだいぶ苦労したじゃないですか」

「あん? そうだな。信用は金で買えないからな」

「そうですね、信用はお金では買えません。

 そしてもちろん、自分の命や生活も。しかし今はそれがお金で買えるようになっている、そうは思いませんか?」

「おお怖ッ」

「最終的に、こんなデパートあげちゃっても構わないじゃないですか。

 商店街の信用を得て、商工会の理解を得て、この島を妖精王国の巨大な倉庫にしてしまいましょうよ。

 そうなれば、この程度の利率低下でどうこう言う必要なんて無くなる」

 俺は一瞬、ビルーダー様と会話を交わしているような錯覚に陥った。

 この妖精の少女は、見ている商売の規模が大きすぎる。

 そして短期的な損失を長期的利益でどうにでもしてしまうつもりなのだ。

 

「今はまだ私たちのやり方に反発する人たちもいるでしょう。

 だけど誰も、生活の困窮には勝てない。だって人は食べ物がないと生きていけませんからね。

 私たちはそんな彼らに手を差し伸べるだけでいいんです。ボロい商売ですよ」

 人は彼女を悪魔だとか天使だとかいうが、おそらくそんなものじゃないだろう。

 

 魔王だ。

 カネという魔族を支配し、人間を隷属させ、世界を征服せんと地上に君臨する魔王だった。

 ヅッチーはこんなとんでもない怪物を眠らせていたのかと思うと、思わず口元に笑みが浮かんだ。

 

「こいつは、俺が君たちを心配して手を貸す必要なんてなかったかな」

「まさか。妖精たちではできることは限られます。

 かなちゃんも言ってたじゃないですか、みんなと仲良くしろって」

 そう言って、プリシラは事務所にある神棚に祭られている木彫りのかなづち大明神の置物を見上げた。

 

「私は誰よりも、みんなとうまくやれるよう努力しているだけ。そうでしょう?」

 おそらく本心から、プリシラはそう言った。

 この女は悪魔と天使の心を内側に矛盾なく同居させている。

 魔性とはこのことを言うのだろうか。

 

「ところで、マルースさん。来週の日曜日の件は進んでますか?」

「ああ、妖精王国の建国記念日のパーティだろう? 

 場所も飾り付けも料理も手配したが、本当にケーキは用意しなくて良いのか?」

「ええ、私が自分で焼こうと思ってます。

 他の立派な料理や飾り付けからじゃ、見劣りしちゃうかもしれませんけど」

「いやぁ、プリシラちゃんが手作りってだけでヅッチーは喜ぶだろう。俺も楽しみにしてるよ。

 当日はローズマリーに言ってちゃんとヅッチーを連れ出すから安心しな」

 俺は彼女のそんな少女らしい一面を見てどこか安堵し、嬉しかった。

 そして俺は、ヅッチーが居る限り彼女は間違えないだろうと、どこか他人事のように考えていた。

 

「そうね、ヅッチー喜んでくれるかなぁ」

 花のように笑うプリシラを、俺は優しく見守っていた。

 

 

 ──だから俺は、愚かにも気付いていなかった。プリシラが魔王として君臨するこの世界に、ヅッチーは必要とされていないことに。

 

 

 

 

『拠点内会話 被造物の悲哀 』

 

 

「ほへ~。こうしてみるとブリちんって本当に機械なんでちねー」

 トゲチーク山地下の異常を解消し、正式にハグレ王国の仲間となったブリギットのメンテナンスをビルーダーは行っていた。

 

「そんなにじろじろ見るなよ、恥ずかしいだろ」

 四肢の関節を露出して力なく床に置かれているブリギットは興味深そうに彼女を見ているデーリッチ達にそう言った。

 

「駆動系に劣化がいくつか見られるわね。

 動力炉は異常なし、でもセンサー系は幾つか死んでるわ。これは部品交換しないとダメかしら」

「なあそのことなんだが」

 背中の開口部らしきものをパカッとあけて内部をいじっているビルーダーに、ブリギットは切り出した。

 

「使えなくなった機能は直さなくていいぜ。駆動系も油差してくれるだけでいいよ」

「えッ、どうしてでちか? ブリちんも体が治った方が良いんじゃないんでち?」

「いやだって、粋だろう? 人間だって年を取れば体に不具合がでるじゃないか。

 俺だって人間みたいに老いを楽しみたいんだ」

「なるほどなぁ、そういう考え方もあるのかー」

 デーリッチと同じく興味深そうに見ていたヅッチーがうんうん頷く。

 

「まああなたがそういうのなら私は構わないけれど」

 ビルーダーは特に彼女の願いを否定することなく、開口部を閉じた。

 

「それにしても、古代人も惨いことをするのね。

 機械に心を持たせて、それを番人として置き去りにするだなんて」

 彼女はブリギットの服装を整えると、今度は浮遊椅子の方を見始めた。

 

「別にそこまで寂しさとか感じなかったけどな。基本ほとんど寝てたし」

「またまたぁ、わざわざデーリッチ達を呼びつけるほど暇してたくせにー」

「外で子供と遊んでるカタちゃんと対抗心燃やしてたくせにー!!」

「ははは、煩いぞー、ガキども」

 煽ってくる子供たちを笑って流すブリギットである。

 

「それにこうして新しい出会いもあった。

 あんたのことも、ローズマリーから聞いたぜ。あんまり同情できる立場じゃないと思うけどな」

「……そうかもしれないわね」

「なあ聞いていいか? あんたの本体が最終的に自我を捨てて、その後のことをあんたとその分体に任せたんだろう? 

 つまり、知識を追い求めた果てってのは自分の知恵を捨てることにたどり着いたってことだろ? 

 それってなんだか矛盾していないか?」

 ブリギットの問いに、ビルーダーは静かに調整の手を止めた。

 

「ああいや、神々の人智を超えたお考えってことで言いたくないならそれでいいが」

「いいえ、知恵の女神の究極の答えが盲目白痴だというのは皮肉な話だと思うわ。

 本体が私たちに楽園を創るという命題を与え、あえて自分が得た答えとは違う心を持った不完全のまま分体を作ったのは理由があるのよ」

 ブリギットは気を使ったが、彼女は首を振ってそう口にした。

 

「それってあれだろ、全部自分と同じだと変化ないからだろ? 

 妖精たちも似たような顔してるけどさ、全員同じような考え方はしないしさ。

 全員が知恵を捨てちゃったら本末転倒だろうしな」

「おおー、ヅッチー頭良い!! 流石でち!!」

「だろだろー?」

「それも理由として大きいけれど、もっと大きな理由はあるの」

 子供たちが楽しそうに答えを口に出すが、ビルーダーは二人の解答に頷きつつも否定し、こう言った。

 

「恐ろしかったのよ。本体は」

「え?」

 と、小首を傾げお互いに可愛らしく顔を合わせる子供たち。

 

「本体は確かに叡智を極め、文明の最果てを見たわ。

 全知全能と称されることも不可能でもなかったでしょう。だけど、彼女は全知全能を否定したわ。

 仮にすべてを自由自在に知り、どんなことでも可能としたとして、それに意味を見いだせなかったの」

「えー、デーリッチはなんでもできるなら皆とプリンパーティーしたいけどなー」

「そうだよなー、もったいないよなー」

 そんな風に不思議そうにしている二人に、ビルーダーは優しく微笑んでこう言った。

 

「じゃあそのプリンも、パーティーに参加するメンバーも、自分が想像しただけで生み出したものだとしたらどうする?」

「えッと、それじゃダメなんでち?」

「そんなの妄想の中で生きているのと何も変わらないじゃない? 

 こたつちゃんが自分が変わりたいと思わず、家で引きこもっているのと同じよ」

「あー、それはダメでちねー」

 よくわかっていない様子のデーリッチに彼女は丁寧に説明すると、デーリッチは納得したように頷いた。

 

「それが恐ろしかった。何をするにも自分の行いが妄想と区別が無くなり、すべてを改変させてしまう。

 二人も、ローズマリーやプリシラが自分の都合のいいだけの存在にいつの間にか変わっていて、その区別がつかなかったら怖いでしょう?」

 ビルーダーがやんわりとそう伝えると、二人は怖くなったのかこくこくと頷く。

 

「だから、本体は自我を捨てたわ。そして私たち分体を自分の代行者として作り出した。

 私がいちいち本体から権能行使に対する承認を得るのも、それが理由の一つなの」

「なるほどなぁ、神様にもいろいろあるんだな。

 でもあんたは怖くないのか? そんな大きな力を預けられて」

「じゃああなたは都市の管理を任されたことが怖かったの? 

 私は楽園を創るために必要な機能を与えられ、それを行使しているに過ぎないわ」

「ああ、そうだな」

 ブリギットが頷くと、ビルーダーは浮遊椅子の調整をし始めた。

 

「だけど俺はいつか壊れて、この使命から解放される。いやもうそれも同然だけどよ。

 ビルーダー、あんたはいつまでそれを続けなきゃいけないんだ?」

 ブリギットの問いに、彼女は答えなかった。

 そんな彼女の横顔をブリギットは同輩として悲しみに満ちた表情で見ていた。

 

 

 

 

『拠点内会話 神々のお茶会その2 』

 

 

 定期的に開催される拠点内での神々のお茶会。

 最初はぎすぎすしていたり、おしゃべりをしていただけだったが、回を重ねるごとに変化が訪れた。

 

「福ちゃん、ちょっとこの資料見てみて」

「どうしました?」

「私の他の分体から送られてきた資料よ。

 昨今の流行に乗って異世界転生に理解を示す死者を別世界に恩恵を与えて転生させ、その世界が良い方向に向かうかという試みに対する記録よ」

「うーん、良が20%、可が30%前後、残りが不可ですかー」

「調子に乗ってだいぶやらかすパターンが多いみたいなのよねー。

 私も不思議なんだけど、身に余る力を他人から貰ったとして、どうしてその力を恐れないのかしら? 

 やっぱり流行だからって何でも試せば良いというもんじゃないわよねー」

「福の神としては、あまり直接的に力を渡して何かをさせようって考えは肯定できませんねぇ。

 福はその人間の行いによって集まるものなんですから」

「やっぱり人間性って大事よね、無作為に死者を選んで送り出すべきじゃないわよねぇ」

 福ちゃんの意見を聞いて、ビルーダーはテーブルの上に資料を抛り出した。

 

「なんだか、二人とも急に仲良くなってません?」

「うむ、ある意味喧嘩するより恐ろしいな」

 二柱が肩を寄せ合って資料を見ている姿に、若干戦慄しているかなづち大明神とティーティー様だった。

 

「それにしても、ビルーダー様の分体っていろいろなことをなさってるんですね。

 こっちの資料によると邪神として魔王を立てて人類共通の敵を作ってるみたいですし」

「私のように文明の興りから滅びまで口を出すのは少数派なのよ、ほとんどの分体は実験や開発、資料の管理とか私たち分体全体の統括とか、本当にいろいろなアプローチを試みているわ」

「このフロンティアスピリッツをどうしてもっと穏便な方向に使えないんでしょうか……」

 そんな風に福ちゃんはいろいろな資料に目を通していると。

 

「あら、これは?」

「ああそれは相談所の資料じゃよ。

 売店の売り上げやら相談件数やら、ゴースト被害の発生率とかな」

「なるほど、もう相談件数が500件超えていたんですね。千件の大台も見えてきましたね」

 福ちゃんとティーティー様が相談所の稼働状況に喜んでいると。

 

「ん゛ッ!?」

 ビルーダーが女神が出してはいけない声を出して、その資料の一部を目を見開てみていた。

 

「ど、どうしたんですか、ビルーダー様」

「これ、これ、なんてことなの……」

 かなづち大明神がビルーダーの持っていた相談所の資料を受け取って、その内容を見る。

 

「これはアンケートですね。なになに、『結婚するならどの神様?』ですって? 

 これ私まで選択肢に入ってるじゃないですか!?」

「ああ、それはマルースの奴が設置した奴じゃな。

 これぼかしておるがなんでポッコのやつまで選択肢に入っておるんじゃ。というかこいつに票を入れたの絶対マルースじゃろ」

「えーと、福ちゃんが38%でダントツ、次にティーティー様が29%、次にビルーダー様が14%ですか」

「じゃから、わしにどうしろと……」

 自分に大量に票が届いていることに遠い目になるティーティー様。

 

「そうよ、おかしいわ。なんで私が全体の14%で、二人が合わせて6割越えなのよ!!」

「まあまあビルーダー様、単純にこれは知名度の差では?」

「くぅ、ダントツ一位の余裕を見せてぇ!!」

 若干嬉しさを滲み出している福ちゃんに、ビルーダーは悔しそうに歯噛みした。

 

「そもそもこれ、結婚したい相手がアンケート対象じゃろう? お主とか結婚とか一番想像ができんぞ」

「私の本体はモテたいから頑張って神としての仕事を頑張ってたのよ!!」

「おい、叡智の女神おい!!」

「私だってたくさんの信者にちやほやされたいからずっと神として頑張ってるのに!!」

「お前さん、そんなに俗っぽくていいのかい……」

「はッ……!!」

 ティーティー様のツッコミによって、我に返るビルーダー。

 

「忘れて、お願い忘れて……」

「そ、そうだ、ビルーダー様も相談所に出ては? 

 診療所と兼任は大変かもしれないですけど、人々に身近に感じられるかもですし」

「やるわ」

「え……」

「私に休憩とか必要ないもの!! やるわよ、相談所!! 人々に直接我が知恵を授けましょう!!」

「えぇ……」

 食いつきが良すぎる女神に、かなづち大明神も引き気味だった。

 他の二柱も同様にドン引きだった。

 

「それでいいんですか、ビルーダー様……」

「黙ってなさいモテ女!! あの相談所は私の信者が作った私の神殿みたいなものよ、そこで私が一番崇められてないのはおかしいじゃない!!」

 すっかりヒートアップしている彼女に、福ちゃんが声をかけるも逆効果だった。

 

「絶対にこの世界を我が恩恵で満たして私だけを崇めるだけの場所にしてやるわ!!」

 そうして己の野望に目を燃やす女神に、ほかの三人もため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 




マルース君がヅッチーを建国記念日に呼んでくると言った瞬間、読者のみんなはこう思ったはず「あ、よかった」と!!
実際ここまで準備した彼が彼女を呼ばないというのは不自然ですしね。
ですがまあこの小説は原作沿いなわけで……読者の皆さんは二人のアクターが加わった二章の最後を楽しみにしていてくださると幸いです。
その話を書きたいからこの小説を書いたまである、印象に残るエピソードなので。


マルース君とビルーダー様のスキル設定や人物設定などを読みたいですか?

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