今、二次創作の神が舞い降りています!!(気のせい
『 二面作戦 』
一晩明け、早朝の会議室にはハグレ王国の全員が揃っていた。
王様二名がボロボロになっていることに首を傾げたローズマリーだったが、友情を深めあったという二人の言葉に納得することにした。
「敵の要求であるヅッチーの処刑はとても呑めるものではない。
よって、出来るだけ被害を少なくこの戦いを勝利することを最善とする」
それが今回の目標であった。
「仮にこの要求を呑んだ場合、圧力に屈して客将を差し出したとあれば、ハグレ王国を頼る者はいなくなるだろう」
「それに、同じように圧力をかければ屈すると思われてしまうわね。
デーリッチを差し出せと言われれば、そうするしかなくなる。それは国家の主権の問題よ。
主権の有さぬ国家が国家を名乗るなんてお笑いだわ」
「ええ、ですからこの戦いは負けられないでしょう」
ローズマリーはビルーダーの言葉に頷いて見せて、皆に配られた手元の簡易地図を見るように促した。
夜の間に敵軍後方から組み立て式投石器が輸送され、左翼に配置されるだろうと推察された。
使いなれない武器で訓練度は低いだろうが、まぐれ当たりでも厄介なので早急に始末したい、とローズマリーは作戦を提示した。
ヤエが投石器が左翼に展開されるだろう理由を問うと、彼女は南側にはプリシラが居て高く、その目が届かない場所では士気を保つための力の象徴が必要だからと語った。
ゆえに主力はプリシラ側に当て、投石器の方は少数で森を突っ切って小隊を攻撃する。
そういう作戦だった。
問題点は敵将のプリシラであり、その強さが不明瞭なことだった。
それに対してはヅッチーが彼女のことには一番詳しいと名乗り出た。
その意気込みをくみ取ったローズマリーはそれに頷いた。
「プリシラ側に特に策は無いが、おそらく正面突破が一番効果的だ。
元々好戦的な種族ではない。こちらの士気の高さを見せつけてやろう」
「ローズマリー」
「……ビルーダー様。なにか問題でもありましたか?」
ローズマリーはビルーダーに名前を呼ばれ、若干強張った表情で彼女へと向いた。
「士気の違い、練度の違い、装備の違い、それで数の差を覆すことは可能だわ。
しかしそれは兵士の個々の状況の伝達速度の差に依るものよ。
今回の戦争は小競り合いレベルの規模だけど、それだからこそ全員が主戦場の戦況を把握できる。
敵の大軍の瓦解は遠くの兵士や指揮官が、ああこれは負けるから逃げなきゃ、と思わなければできないのよ。
つまりいくら効果的でも、こちらの人数で正面突破はリスキーだということよ」
「下手をすれば消耗戦になりうる、ということですか?」
ビルーダーの指摘の意図を察し、ローズマリーは尋ねた。
「まあ、あなたの言うとおり好戦的な種族ではないということを考慮すれば勝算は高いわ。
でも美しくないわね。うちの使徒がちょうど拠点正面で睨みを利かせていたわね、それをうまく使って背後から包囲している連中に奇襲を掛けなさい」
「ご指摘、ありがとうございます。ビルーダー様」
「いいえ、こういうのは場数よ。でもまさか、キーオブパンドラがあってなお負けるようなら、我が失望を買うことを理解しなさい」
「は、はい……」
勝って当然と言わんばかりの女神のプレッシャーにローズマリーは思わずハンカチで額の汗をぬぐった。
その様子を見ていた他の面々は、容赦ねぇ、と内心思うのだった。
「ええと、キーオブパンドラを使って包囲の背後から奇襲で散り散りにし、前線が崩壊したら一気にプリシラまで迫るんだ。
彼女が指揮をとれる状況でなければ、妖精たちはすぐにでも無力化できる」
ということで、この二面作戦のメンバー分けをすることになった。
「私はローズマリーに付いていくわ、あなたの采配、存分に見せてもらうわ」
「奇襲作戦は慣れている私が指揮を執った方がいいだろう。
拠点防衛は短時間とはいえ少数でカタちゃんと一緒に妖精たちを相手してもらうことになるが」
ビルーダーと、ジュリアが各々ローズマリーにそう言った。
「わかりました、ビルーダー様は私やかなづち大明神と共に投石器攻略に参加。
ジュリアさんは奇襲作戦の指揮を執り、その後デーリッチ達と合流しそのままプリシラの部隊を攻撃するという流れでいいですね?」
「ああ、包囲を崩したら指揮権はデーリッチ達に戻そう。
奇襲作戦には敵を正面に釘づけにしてもらいたいので、ヅッチーが拠点防衛に居てくれると助かるのだが」
「わかりました、カタちゃんが居るので戦力はともかく彼女一人で防衛は任せられないので攻略の補佐にエステルを付けましょう。それでいいかい?」
「任せて、よく知った仲よ」
エステルの打てば響くような返答に、ローズマリーは頷く。
「そうそう、ローズマリー。軍事行動で最も重要視される要素が二つあるわ。
それを言ってみなさい、正解すれば我が祝福を授けるわ」
「…………索敵と、情報の伝達ですか?」
「正解よ」
汗だらだらのローズマリーにビルーダーが笑みを浮かべて頷くのを見て、皆はこの女神ほんとに容赦ねぇと思うのだった。
「ここにコンタクトクリスタルを私独自に改良した通信装置があるわ。
投石器攻略が済み次第、これで連絡するわ。それを機に奇襲作戦を実行しなさい」
「あ、祝福ってめっちゃ即物的なんでちね……」
デーリッチはビルーダーから着色された数種類のコンタクトクリスタルが内蔵されたカードのようなものを手渡された。
「これは音ではなく下の対応したボタンを押すと、色のついたクリスタルが対応した端末と共に光る仕様よ。ここに対応する端末があるから何度か試してみなさい」
「おおー!! 片方の赤いボタンを押したらどっちも赤いクリスタルが光ったでち!!」
デーリッチが一対の端末で遊んでいる間に、ビルーダーはローズマリーに目くばせした。
「では投石器攻略の残りのメンバーを決めるよ!!」
§§§
拠点が包囲されているといっても、それは正面玄関だけであった。
ビルーダーの使徒が睨みを聞かせているのもあったが、以前拡張した裏口から拠点の裏手の森に出れることは約束通りマルースは妖精軍に伝えてなかったようだった。
奇襲を掛けに投石器に向かったローズマリーたちは、道中で投石器の弾を輸送する部隊を見つけた。
「輸送隊に護衛なしとか、襲ってくれと言っているみたいなものよね?」
「ビルーダーさん、悪い顔悪い顔」
「おっと、私は叡智の女神。性格も顔も良いのよ」
「ついさっきローズマリーさんにめっちゃプレッシャーかけてたじゃないですか」
と言ったビルーダーとかなづち大明神とのやり取りを挟みつつ、一行は輸送隊を待ち伏せして投石器の弾を奪取することに成功するのだった。
「あははッ、聞いたかしらかなちゃん!!
投石の弾の代わりにお前たちの首をつめて投げてやろう、ですって!!
私好みの脅し文句だわ!! 実際にやってやりましょうよ!!」
「ビルーダーさん、隠して!! 本当はクソ性格悪いの隠してッ!!」
かなづち大明神の肩をビシバシ叩いて逃げる妖精たちを指さし大笑いする智慧の女神である。
「おほん、さて、両国の平和の為に妖精たちにお仕置きしに行きましょう❤」
「ごまかし切れてませんからね!!」
と言ったやり取りを挟みつつ、一行は高台の投石器が布陣してある場所へとたどり着いた。
そして投石器部隊の妖精たちは奇襲で混乱しつつも陣形を整え、戦闘中に不利を悟ると悪あがきのように投石器で拠点へと攻撃するといったこともして見せたが、戦闘でひるんだ隙に、ハグレ王国の奇襲部隊は彼女らと入れ替わるように投石器に取りつくことに成功したのだ。
投石器は頑丈だから簡単に破壊できないから睨み合っていればいいという妖精の部隊長に、ローズマリーは呆れてかなづち大明神に指示を出した。
彼女の意を汲んだかなづち大明神は投石の弾を崖の下へと蹴っ飛ばしてしまった。
弾の輸送隊を排除した以上、この投石器はただのでぐの棒だった。
完全に戦意喪失した投石器部隊に、ローズマリーが言う。
遠くにいる他人を石で潰すことはできてもナイフと剣で殺し合いは怖いのか、と。
それは想像力が足りてないんじゃないのか、と凄みながら。
それを聞いてビルーダーは手を叩いて大笑い。もはや本性隠す気無し!!
そして彼女は勧告した、今だけは逃げることを認めてやる、と。
投石器と命を共にするか、恥を知り生き延びるのか、選べと。
すると、妖精の部隊長が降参を宣言した。
そして彼女は、全部プリシラの命令だったんだ、ハグレ王国に逆らう気なんてなかった、プリシラが怖かったんだ、と言い訳を並べだし、部下たちからそれは無いじゃないのって視線を向けられたのだが。
「あー、おっかしぃ」
大笑いしていたビルーダーが、急に冷めた声でそんなことを言うのだから、怒鳴って散らそうと思ったローズマリーは思わず彼女の顔を見た。
「次はあなたの無様な死にざまで笑わせてちょうだい」
そう言って彼女は部隊長を指さすと、彼女は真っ青になって部下たちと共に散り散りに逃げ出した。
「ビルーダーさん、怖すぎですよ。
しかし流石だ。ローズマリーさん、一人も死なせずに投石器を攻略してしまいましたね」
「いえ、甘いのはここまでですよ、これから少し辛い思いをしなければなりません」
そのローズマリーの物言いにかなづち大明神が首を傾げると、彼女はプリシラ本体に投石器を向けると言い出した。
彼女とビルーダーならこの投石器の動かし方がわかるだろう、と。
まさかの投石器乗っ取りに、かなづち大明神もにやりと笑った。
だが、いくら照準を合わせたからと言って、その下に誰も居ないとまでは保証できないと彼女は念を押すようにそう言った。
当然、ローズマリーはそれを承知の上だった。だが低い確率の直撃死の可能性を前に足を止めている暇話ない、と。
それはこちらの指揮官を選んだ時より覚悟の上だと。
「なら、私が弾道予測と着弾地点の被害を計算するわ。ちょっとした未来予測ね。
この愉快な快勝に、私が花を添えましょう。この最高の気分に、あなた達の表情が曇っているようでは楽しくないもの」
何やら暗い雰囲気の二人に、終始にやにやしていたビルーダーがそう言った。
「……ありがとうございます、ビルーダー様」
「気にしないで、これぐらいは助力のうちに入らないわ」
「こちらからも感謝させてください、ビルーダーさん」
「止めてかなちゃん、私がやりたいことがすべてなのよ。私の目を掛けた人間に勝たせたい、それだけなのよ」
その程度で感謝されるのが嫌なのか、若干照れくさそうにそっぽ向いてビルーダーは二人にそう言った。
「ええ、ローズマリーさんのような人に勝ってもらえれば妖精たちの未来は暗くないでしょう。
このまま戦後処理の方もお願いしますよ」
「はい。これで、あの子たちに道を作ってやれますね」
ローズマリーはそう言って、端末のボタンを操作した。
§§§
「ッ、端末が光ったでち!! ええとこれは、作戦成功の合図でち!!」
場所は戻って拠点の会議室、祈るように端末をぎゅっと握りしめて勝利を願っていたデーリッチは、端末が事前の打ち合わせ通りの作戦成功を示す順番に光り、飛び上がった。
「じゃあこのヅッチーが拠点正面の敵を引き付けるぜ。
デーリッチはとっておきの精鋭を編成してくれ、残りはこっちで引き付けをやるからな」
「まかせるでち!!」
デーリッチはヅッチーと頷きあって、戦いへ挑む準備を始めた。
「さて、先輩へ後輩の成長を見せつけてやろうか」
そして背面奇襲の指揮をするジュリアはにやりと内なる戦意を高ぶらせていた。
「お、出てきたな、予定通りだ!!」
拠点正面で待ち受けていた妖精たちの部隊が、ヅッチーやエステルたちがいよいよ登場してきたことに笑みを浮かべた。
投石の恐ろしさに籠城戦をあきらめるという、筋書き通りのようだった。
そしてヅッチーが前に出ていることに気付いた彼女たちが、これは楽に勝てると高をくくっているのを、マルースは後ろの方から呆れてみていた。
「兵士は勝てると思った瞬間が一番弱いってのに。
勝ち戦じゃ誰だって自分が死にたくないって思うもんだからな」
彼がそう呟いていると、ヅッチー達は拠点の正面でずっとこちらを睨んでいた使徒と共に突撃を始めた。
「うん? あいつら、なんで八人居ないんだ?」
ハグレ王国の戦闘メンバーは基本八名で、ヅッチー達はビルーダーの使徒で戦力を補うように全力で妖精の第一陣と相手をしていた。
「あ……あいつらまさか!!」
「キング参上ー!!」
マルースが振り向いた直後、ジュリアが先頭に立ちデーリッチと他六名を従え背面から突撃をしてきたのだ。
「やっぱキーオブパンドラってチートだろ!!」
マルースはいったいどういうやり方で背後からの奇襲が成されたのか悟り、剣を抜いてそう叫んだ。
「うわッ、なんだなんだ!! 後ろからハグレ王国が来たぞ!!」
「そんなッ、完全に入り口を見張ってたはずなのに!?」
陣形を保っていた妖精たちは挟撃に合い、乱戦状態に持ち込まれその持ち味を完全に封じられた。
「ほら、一旦逃げろ逃げろ~、こんな状態じゃ戦えんだろ!!」
マルースはとりあえず妖精たちに呼び掛けて、本陣に逃げるように呼びかけた。
「おや先輩、この戦力差で敗走かい?」
「こんな鮮やかに奇襲されてやりあう馬鹿は居るか!! ほら撤収、撤収~!!」
そう叫びながら、マルースは妖精たちを引きつれ後退していった。
「そっちの引き際だって鮮やかじゃないか、思ったより打ち漏らしたな」
ここにいたほぼ半数の妖精たちが気絶しているのを見て、ジュリアはため息を吐いた。
「よし、デーリッチ。追撃だ。
このまま散り散りになった妖精たちを突破し、プリシラ本隊へと向かおう!!」
「ガッテンでち!!」
士気を高めるようにそう叫んだジュリアに、デーリッチはウインクで返すのだった。
§§§
「ったく、使えん。どいつもこいつも散り散りに逃げやがって。
しかしあれはどういうことだ、こっちに向かって投石が来てやがるじゃねーか」
マルースは連れ出した妖精たちに落伍者を出しながらも、プリシラ本隊まで戻ってきた。
「おいおい、プリシラ。これどうなってるよ」
本陣はすっかり投石攻撃によって穴だらけになっており、野営のテントは幾つかが使い物にならない有様だ。
「マルースさん、あなたは何が言いたくて来たんですか? 持ち場はどうしました?」
「はぁ? なんでか知らんが投石がこっちに向いてるんだろう?
俺たちはその前にハグレ王国の部隊に挟撃に遭って戦線は瓦解、慌てて戦える奴だけ連れて逃げてきたんだ」
マルースはそのように彼女に説明したが、プリシラはなぜか冷ややかな態度だった。
「……おい、プリシラお前どうした?
後ろの連中、怯えているぞ」
彼はプリシラの背後に集まっている妖精たちを見て、そう言った。
彼女らは一様にプリシラの背を見て不安げで、怯えているように見えた。
「この投石、内通者の仕業じゃな無いかって誰かが言い出したの。
それはヅッチーに味方した誰かだったり、マルースさんあなたが裏切り者だって言い出したり」
「そりゃあ、なんでまた」
「あの投石器を動かせるのは限られるからよ。
あれは異世界の技術で作られた代物だからね」
「馬鹿馬鹿しい、いったい俺やみんなの誰が内通したって?
戦争すると決めてここに来るまでの時間で、そんな暇どこにあったよ。俺にはずっと監視が付いてたし、そもそも向こうにはその異世界の技術を伝えた張本人たるかなちゃんがいるじゃねぇかよ」
すっかり混乱している妖精たちの物言いに、マルースは心底呆れた。
「で、でも、使者としてハグレ王国に一人で入ったじゃないか!!」
「俺はハグレ王国にとって裏切り者だから一緒に入ったら殺されるかもしれんって言ったらビビって誰も付いて来なかったじゃないか。
それに俺は断じてこちらも、あちらの情報も守秘義務に則って伝えなかった。それが信用できないなら最初からこの戦争に俺を連れてくるんじゃねーよ」
「それは本当なの? 私は決して一人で行かせるなと言ったわよね?」
プリシラの氷のような視線はマルースではなく、彼を糾弾した前線の隊長に向けられた。
ひっ、と睨まれた隊長は怯えすくみ、へたりと地面に膝を突いた。
「どいつもこいつも!!
ヅッチーの影がちらついただけで持ち場から逃げ出して!!
ちょっと考えればわかるようなことを次々報告して!!」
「プリシラ、気持ちはわかるが落ち着けよ」
マルースは連れてきた妖精たちまで怯えているのを見かね、魔力を高ぶらせているプリシラにそう言った。
「ここにいる奴、みんなだぞ、ここに帰ってきた奴全員そうだ!!」
「こいつらの身勝手に付き合わされていい加減我慢の限界なのはわかる。
俺だってこいつらが予想以上に使えんからむかっ腹が立ってきたところだ。
だが君が怒り狂って指揮を放棄してどうするよ」
マルースは物理的に周囲の気温が下がっているプリシラに近づき、背中をさすってなだめ始めた。
「自分たちに不都合が起きて、勝てると思った戦争が負けそうになった途端、相手にヅッチーがいるから!?
なぜ、私を、このプリシラを!! 自分たちで築き上げた妖精王国を信じない!! 自分たちで勝手に私を祭り上げたくせに!!」
「プリシラ……」
彼女の本音を聞いて、マルースは歯を噛みしめた。
「もういい、あんた達には今後一切の期待をしない。
そこで、指を咥えてみてろ。あんた達の信じるヅッチーが、私にボロボロにされる姿をな」
氷のように心を凍てつかせたプリシラを見て、彼はその背後にいつか想像した魔王の産声を見た。
「プリシラ、何言ってるんだよ、私はプリシラを……」
妖精隊長は何か言い訳しようと言葉を探ったが、何も出ないことに絶句した。
「もういい。もういいから……私が信じられないなら、黙ってみてろよ」
マルースは己の神に祈らずにはいられなかった。
どうか、この魔王を倒す勇者がヅッチーであること。
「……マルースさん、あなたは違った。そうですよね?」
だから彼はプリシラが小さく噛むように口の中でそう言ったことに気付かなかった。
§§§
ハグレ王国と妖精王国の戦争は最終局面へと移行した。
ハグレ王国の主力部隊が、プリシラ本隊へと到着したのだ。
プリシラはハグレ王国の精鋭を前に一人で戦うと宣言した。
自分を信じない仲間たちを後ろに追いやって。
彼女はヅッチーがボロボロになる姿を見れば、みんなを縛っているヅッチーの呪縛を解けると言った。
だがヅッチーはそんなものはない、あるとしたらただの幻だと切って捨てた。
しかしプリシラは応えた、その幻は無視できないほど大きいのだと。
そしてそれをここで自分が断ち切らねばならない、と。
ヅッチーは言った、彼女を縛っているのは自分ではなく、プリシラの腹の中にある膨らんだ理想像に過ぎないのだと。
その偽物を断ち切るのは本物にしかできないのだと。
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
女王の交代劇だと叫ぶプリシラ。
女王の座なんていらなかった、ずっとお前がふさわしいと思っていたと語るヅッチー。
自分が勝っているところなんて腕っぷしぐらいしかなかったから、すべてを任せてきたと。
そしてそれは、間違いだったんだと後悔を見せた。
だがそれとこれとは別、と言わんばかりにプリシラがいくら強くなっても自分の方が勝つんだと煽り始めた。
闘争心をむき出しにして、ほざけヅッチーとプリシラは独りで相対す。
戦いは熾烈を極め、プリシラは暴走寸前まで行ったところでヅッチーは一騎打ちを提案。
お互いにそれを了承し、戦いは仕切り直しとなった。
そんな展開に付いて行けないエステルは止めるべきだというが、デーリッチはそれがヅッチーの責任の取り方なのだから信じて待つのだといった。
ヅッチーが負けるわけがない、と!!
一騎打ちでヅッチーの取る戦法はシンプルだった。
自らを極限まで追い込み、決死のカウンターを狙うというものだった。
「デーリッチ、よく見ているんだ」
いつの間にかデーリッチ達の隣に立っていたマルースが、苛烈な攻撃にさらされているヅッチーと怒涛の攻撃を行うプリシラの二人を指さす。
「もしお前が理想を忘れた時、あそこに立っているのはきっとお前とローズマリーだ」
彼がそう言った直後だった。
すさまじい雷撃の光が、二人の決着を告げる輝きとなったのは。
§§§
ここからは後日談である。あるいはオチ。
結局責任は全員で取ることにするというヅッチーの発言により、妖精王国のみんなはお咎めなしとなった。
今回の戦争で妖精たちも痛い目を見たことにより、各々反省しているようだったのでなんだかんだで丸く収まった。
妖精王国よりハグレ王国に賠償金が支払われることとなり、死者は両王国共にゼロ。
拠点の損傷や物資の損耗以外、本当にただの喧嘩レベルの被害しか出なかったのがお互いが最終的に笑って許せた最大の理由なのかもしれない。
戦争の最中に逃げて行った妖精たちは半分は戻ってきたらしいが、もう半分は連絡がつかないとのこと。
結局、ヅッチーもプリシラの手腕に嫉妬していたと語っていた。
「なんだか寂しくなるよな」
俺はヅッチーの近くでプリシラの報告を聞いてそう呟いた。
妖精王国はプリシラが立て直すから、ヅッチーは引き続きハグレ王国で留学を継続することになるそうだった。
「あと、マルースさんも妖精王国を追放です」
「えッ、はぁ? なんで!?」
「だって傷心中の私にとんでもないこと吹き込んだじゃないですか」
「とんでもないことって、お前、あんなの寝物語じゃねぇかよ!!」
「とんでもないことってなんだ?」
何やら慌てているマルースを見て、不思議そうに小首をかしげるヅッチー。
「聞いてよヅッチー、この人ヅッチーを引き渡しされたらすぐに私が女王に即位して恩赦で処刑をうやむやにしようって言ったの」
「それのどこがとんでもないことなんだ?」
「でもヅッチーって一応王族の血筋じゃない? 野放しにできないから軟禁して二人で一緒にお世話しようって話になったの。
閉じ込められて卑屈な視線をお前に向けるヅッチーとか堪らないだろうって、この人本当にどうしようもない変態だよね」
「うわー」
これにはヅッチーもドン引きだった。
「ふざけんなこのメンヘラサイコレズ女!!
お前だってそれに賛成してたじゃないか!!」
「ごめんねヅッチー、私その時ひとりですごくさびしくて……」
「よしよし、やっぱりマルちんに誑かされたんだな。
私と初めて会った時に一目ぼれしたみたいに言ってたのに、まったく」
「もう知らん!! お前らなんか知らん!! 妖精王国も知るか!! あんなガキどもの国なんか!! 俺はハグレ王国に戻らせてもらうからな!!」
ヅッチーに慰められているプリシラにそう吐き捨てて、マルースはそこから立ち去ろうとすると。
「聞いていたわよ、マルースさん!!」
「やっぱり、女の敵ですぅ!!」
ヤエと雪乃のコンビが怒気を露わにして彼の前に立ちふさがった。
「何だお前ら、やめ、やめろぉ!!」
「今こそ成敗してやるわ、この変態!!」
「雪だるまに詰めて崖の下に蹴り落としてやるですぅ!!」
「なにやってんのみんな、追いかけっこならハオもまぜてー!!」
ヤエと雪乃、ついでにハオまで混じって、追い掛け回されるマルース!!
「やっぱり妖精王国に帰る~~!!」
その様子を見てヅッチーは呆れたようにため息を吐いて、プリシラは彼女に見えないところでこっそり彼に向かって可愛らしく舌を出したのだった。
今回で第二章終了となります。
好きに執筆できた充実した週末でした。
次回よりアナザーストーリーの導入に入り、そこからサブキャラの登場に合わせて王国会議や拠点内会話になります。
地竜ちゃんの加入は三章になってからにしようかなと思っていますのであしからず。
次回もなるべく早めに投稿しますので、少々お待ちを!!
では!!