彼がこんなに活躍する小説はここだけ!!
『 強化イベント、あるいはテコ入れ 』
「さて、アルフレッド」
「はい、マルースさん」
「お前に必要なものはなんだかわかるか?」
マルースはつい先日拠点近くに建てられた大学にアルフレッドを呼び出していた。
大学と言っても現在は仲間たちのスキル教化や能力などを研究したりする場所で、ゆくゆくはハグレ王国の教育の場として発展させようということになっている。
これにはビルーダーも大変関心しており、近々講師を派遣するとローズマリーに約束し、既に蔵書も揃えていると彼女の肝いりであった。
「必要なものですか? これと言って特には思い当らないんだけどなぁ」
「はぁ~、これだからお前はダメなんだ。
まずは周りから意見を募って、自身の欠点を見つめ直すんだ!!」
「なるほど、確かにその通りだね。流石マルースさんだ」
ここで他の面々なら、じゃあ自分の欠点も見つめ直せばいいだろ、的な発言でブーメランが帰ってくるのがデフォルトのマルースをさらりと立てるところがアルフレッドのイケメンたる所以の一つであった。
「と言うわけで、方々から意見を求めてみました。
えー、地味だけど意外と使いやすい、決して弱くはない、せめて固有スキルに会心判定があればなぁ、等々」
「うーん、なんだろう、決して悪い評価では無いけど良い評価ではないと言うか」
「ぶっちゃけ特技タイプの面々って特技書次第でどうとでもなるしなー。
その点お前は自分の会心率上げるスキル持ってるんだから恵まれてはいるぞ。
だがなぁ、それでもやっぱりお前には足らない物がある!!」
「ずばり、それは!?」
「やはりそれは汎用性の高い高威力の会心技だろう。
その上アンデッドに有効なら個性も活かせているに違いない!!」
「じゃあ、そう言った技を開発すればいいんだね!!」
「そうだ!! 初期の頃のキャラだからと言って後半に加入するアタッカーのインフレに付いて行けない、なんて情けないじゃないか!!
今こそアルフレッド、お前の真なる有用性に人々が気付くべきなのだ!!」
と言うわけで、二人の特訓が始まった。
……
…………
…………チン!
「よし、完成したぞ、ついにお前の欠点を埋め長所を伸ばす対アンデッド用の必殺スキルが!!」
「おお!!」
「さっそくあの丸太に使って見せるんだ!!」
「はい、マルースさん!!」
二人は大学の外に丸太を用意し、さっそくアルフレッドの新技を試すことになった。
アルフレッドはヘルズゲートを放った!!
見よ、この燃える一撃を!! (炎/特効アンデッド/会心有り)
これぞゴーストハンターの究極奥義!!
「ははは!! 見てみろアルフレッド!!
ビルーダー様の加護とお前の技術の合わせ技で丸太が消し炭だぞ!!」
アルフレッドの放った新技でバラバラの木片と成り果てた丸太を指差し、マルースは大はしゃぎだった。
「あのー、マルースさん」
「うん? どうした、不満そうな顔して」
「この技、別にアンデッド特効要らなくないですか?」
ビシッ、とマルースの笑みが彼の指摘で凍りついた。
「アンデッドって基本炎弱点ですし、何よりこの技は室内や市街地での活躍を想定したゴーストハンターの技にしては危なすぎると言いますか……」
「ば、ばっか、お前、炎属性がメインだろ!!
エステルちゃんの援護とか乗るんだぞ!! 炎弱点の敵なんてわんさかいるんだし、会心判定がある炎属性高威力物理技ってだけで十分強みじゃないか!!」
「それは、そうですけど……」
アルフレッドもマルースの言葉に反論できない程度には彼の言い分を理解していた。
しかしそれがまかり通るなら、炎魔法使い全般が強い原作で彼女らが大正義ということが確定してしまうのである。
「だったらマッスルさんやベロベロスも炎物理技持ってますよね? これって個性って言えるんですか?」
「……」
一応炎属性物理技を持つ者の一人として、マルースは押し黙った。
「それを言うならお前の姉だって炎属性武器を持って敵を殴り倒してるじゃないか!!
ダメージ自体はスキルに頼らず通常攻撃だぞ!! お前はむしろ姉を喰うぐらいじゃないと男としてどうなんだ!!」
「僕が、姉さんを喰う……!?」
「そうだ、デーリッチのように獣となるんだ!!
お前だってジーナちゃんのふとももとかにむしゃぶり付きたいだろう!!
……あれ、なんだか想像したら興奮してきたぞ!!」
マルースは急にニヤニヤしてこう語りだした。
「小さな頃より苦楽を共にしてきた姉と弟。
しかし弟は姉御肌の実の姉が成長し、女性としての魅力に目覚めてくることに意識してしまう。
やがて弟は気付いてしまうのだ。自分が姉に対して禁断の情欲を覚えていることを!!」
「僕ら姉弟で変な妄想しないでくださいよッ!!」
なんだかんだで意識をしてるのか、アルフレッドは顔を赤らめてそう言い放った。
「むっはっはっはっは!!
万が一そういう感じになったら俺に言えよな、俺は応援してやるぞ!!」
「あのー、マルースさん……」
「うん? なんだ?」
「後ろ……」
アルフレッドが指差す方を確認するよりも早く、マルースは宙に舞った。
「ぶげら!?」
「うちの弟で変な妄想するな!! このド変態!!」
お弁当の包みを片手に登場したジーナの蹴りで、マルースは星になった。
「まったく……はいこれ、お弁当」
「ああ、ありがとう姉さん」
その後、そんな微笑ましい姉弟のやり取りがあったのだった。
──アルフレッドが ★ヘルズゲートを習得しました。
『 魔女の館へ 』
「マルちゃん、お願いだから来てほしいんでち!!」
「うん? どうした、そんなに血相を変えて」
妖精王国をクビになったマルースは最近別の仕事を探しているのかいないのか、暇そうにしていたところを顔を真っ青にしたデーリッチに頼られ、付いていくこととなった。
「──権能承認!!」
マルースが連れて行かれた戦場は、想像も絶する強敵が待ち構えていた。
その恐ろしさはビルーダーが全力を出す必要があるほどであった。
「ぼえー♪ ぼええーん♪」
「くっそ、後衛にいるのにダメージが出そうなくらいヤバい歌声だ!!」
マルースは両耳を塞ぎながら、混乱して後衛に送られてきた仲間をビンタして正気に戻していく。
スライミーズと名乗った自称アイドルユニットのボーカルが放つ恐怖の歌声は、ただそれだけでパーティを壊滅の危機に陥らせるほどの衝撃を伴っていた。
と言うか一回敗走してきてガチガチに対策して再度攻略に掛かっている真っ最中だった。
よくもう一度挑もうという気になったな、というのがマルースの素直な感想だった。
「おいアルフレッド、ベル。お前ら大丈夫か?」
「は、はいー」
「……な、何とか」
恐怖の十ターンが終了し、まだ目を回しているベルとアルフレッドを揺すって正気を確認する。
「おーい、ヘルちゃーん、戻ってこーい。戦闘……いやライブ? いやまあ戦闘は終わったぞー」
続いてマルースは白目を向いて立って気絶しているヘルラージュを介抱し、オットセイみたいになりながら痙攣するデーリッチに応急処置を施す。
その間にローズマリーが何とかスライミーズを追い払ってくれたようだった。
「お疲れマリちゃん、史上最高に最低最悪だったな、あれ」
「うん、まったくだよ。もう二度と遭遇しないことを祈るよ」
と言ったフラグを設置しつつ、ローズマリーはビルーダーの方を見た。
「ビルーダー様は大丈夫でしたか?」
「…………え? ああ、ごめんなさい、こっちへの音声を切ってたわ」
「便利な体ですねぇ、石像なのに」
そんなことを羨ましがりつつも、ローズマリーは皆の態勢を立て直し先へ進むことへとなった。
「それにしても、ゾンビ人形だっけか? あれ。
ここの主の魔女ってのも相当悪趣味だな」
事の発端は秘密結社に家畜の血が抜かれた死体が発見されるという事件が最近近くの村で多発しているというから解決してほしいと依頼が舞い込んできたことが発端だった。
デーリッチ達が館に侵入してみれば、どうやらその魔女が血を抜いているというのは事実らしく、探索をしている道中にスライミーズみたいな歩く音響兵器に出くわしたようだった。
「一応、僕の技が通用するからアンデッドのようだけど、どうにも趣味が悪いというのは同感だね」
「そうかしら? 私はこんなに趣味の良いネクロマンサーは初めてだけど」
「ビルーダー様のセンスが時々わからないでち」
アルフレッドの言葉に対してまたまたずれたことを言うビルーダー。
「だって死者の魂をわざわざ人形に込めて、特に魔法的強制力を持たせて使役しているわけでもない。
これは一種の供養のように見えるわ。死者と言うのは自分が死んだと認められないことも多いから」
「ああー、なるほど。そう言う見方もあるのか」
流石輪廻に携わる女神だと、ローズマリーは感心したように頷いた。
「だからこそ不可解よ。血を用いた魔法は最も原始的なものとはいえ、吸血鬼でもない限りこのレベルの死霊魔術師が周囲に被害をもたらしてまで血を欲するとは思えない。
魔法の術の構築にはその人物の性格が出るわ。だから道中に分析した魔女の人物像とその行動がかみ合わないのよ」
「つまり、死者の魂をゾンビ人形として供養する人物像と、付近の村から家畜の血を抜いて殺す行動がちぐはぐだということですね」
「ええ、だけどこの館の主人に会えばわかることだわ。
まあでも、私の経験上まともな相手だと期待するだけ無駄だわ。何か更なる悪事をたくらんでいるのか……まあ最悪の想定だけはしておくべきだわ」
そう警告をするビルーダーを、ヘルラージュは唇を噛み締め見ていた。
やがて、一行は人形が大量に並べられた部屋にたどり着いた。
ゾンビ人形の素体と思われる物を作成している場所のようだったが、ここをスルーするわけにもいかず一行が調べている最中だった。
突如として、包帯を巻いた人形に襲い掛かられたのである。
ローズマリーはその人形が道中で度々話題に上がったキャサリンだと見破り、戦闘になった。
すさまじい俊敏性で回避をする彼女を数で圧殺し、なんとか撃退し無力化することに成功した一行は館の主人である魔女と遭遇することとなった。
ランドセルを背負って小学校に通っているという、見た目が子供そのものでしかない魔女の正体はミアラージュ。ヘルラージュの実の姉だという。
彼女はローズマリーに家畜を誘拐して血を抜いている犯人かと言う問いに、肯定したのだ。
それは犯罪だというローズマリーに、死者に法は無いと魔女は語った。
そこで初めて魔女はヘルラージュの存在に気づき、会いたかったと笑みを見せた。
知り合いかと驚く面々をよそに、ヘルラージュは緊張に満ちた表情で小さな姉が生きていたことに恐怖を覗かせていた。
そんな彼女に、だから死んでいるだってば、と軽快に返すミアラージュ。
姉の方が小さく、妹の方が年上に見えるちぐはぐな姉妹に、デーリッチが首を傾げる。
彼女は言った。自分は死んでいるからもう歳は取らないのだと。
「やっぱり、死を経て彼岸を垣間見たネクロマンサー、いえリッチだったか。
道理で正気とは思えない行動をするわけだわ」
「リッチ!? 死後、死者として復活した魔法使いだって!?
本当なのかい、ヘルちん!!」
即座にその正体を見破ったビルーダーの言葉に驚き、ローズマリーはヘルラージュに尋ねた。
そして彼女はそれに頷いた。
更には実の姉が両親とかつて住んでいた村の人たち殺した復讐相手であるとも。
その事実に驚愕する面々に、もう何人も殺しているから油断してはいけないとヘルラージュは遣る瀬無さそうに語った。
そうして今度こそ、彼女を土に還すのだと、それが両親への供養だと彼女は復讐の相手を睨みつけた。
ミアラージュはそんな彼女を歓迎し、戦いの場所を奥に移すと去って行った。
また逃げるともっと多くの人が死ぬかもしれない、と言い残して。
§§§
ヘルラージュが語った彼女の半生は、それを聞いた者の顔を顰めさせるほど壮絶なものだった。
天才と称えられた姉を魔法の修業中の事故で無くし、その姉の代わりになろうと努力した妹。
しかし両親は姉の死を忘れられず、禁術に手を出し姉をゾンビとして蘇らせてしまったのだという。
そして日に日に増していく姉の血を欲する異常行動。ペット、村の家畜、礼拝堂の死体が消えていき、その骨は裏庭から見つかったらしい。
やがて、屋敷から人の死体が見つかった。
姉を止める為、両親は彼女に立ち向かった。
ヘルラージュは全てが終わるのを震えて待っていたのだという。
だが、勝ったのは両親ではなく姉だった。
狂気に顔を歪めた姉の姿を見て、ヘルラージュは逃げ出した。
姉だったからではなく、恐怖に駆られ自分は戦うことなく逃げたのだと。
秘密結社を立ち上げたのは、そんな姉に立ち向かう為だったようだ。
デーリッチやローズマリーが彼女の覚悟を聞くと、今度こそ逃げられない、とヘルラージュは決意を固めたようだった。
「ヘル。もしあなたに覚悟があるなら、これを使いなさい」
全ての話を聞いたビルーダーは、紫色の光沢を持つ短刀を彼女に差し出した。
「これは、なんですか?」
「我が本体の盟友、呪詛と復讐の女神が復讐の資格ある者に与える必殺の神器よ。
神の名の元に、その復讐が正当なものだと周囲に知らしめ、その復讐の達成の代償に持ち主の命を奪うものだけど」
「ちょ、そんな怖いの受け取れませんわ!?」
「恐ろしいと思うのなら、使わなければいいわ。
貴女にはこんな神器よりずっと優れた仲間がいるんだもの。
……手続きと申請はしておいたわ。まあもっとも、アンデッドの浄化は善行だから、これを使わなくてもあなたが地獄に堕ちるようなことはないと思うけど」
「……わかりました、お守りとして、覚悟の為にこれは持っておきます」
ヘルラージュはその紫色の短刀を手に取った。
とぐろを巻く尾を噛む蛇を串刺しにした、復讐の連鎖を止める意味合いのシンボルがその柄に刻まれているのを目に焼き付けながら。
「ふと思ったんでちけど、ビルーダー様的には死者の復活ってありなんでちか?」
「ああ、確かにそれは気になるね」
ミアラージュの元へ向かう道中、デーリッチとローズマリーがそんなことを口にした。
「人々が自分たちの技術として確立した死者の蘇生なら私は許すわ。
死者蘇生が文化の一部として存在する世界は数多とあるけど、大体は寿命や病死などでは蘇生ができないと言った制約も多いわね」
「そう言った世界なら、僕みたいなゴーストハンターなんて必要無いんだろうなぁ」
「いいえ、ゾンビは普通にいることも多いし、死んでから蘇生可能な時間にも制限があることが多いわ。
蘇生を行うのもその世界の教会の聖職者が大金を取っていることが大半だし、戦争でアンデッドが大量発生するなんていつものことだわ」
「死者の蘇生が叶ったとしても、人間は死から逃げられないのですね……」
色々と世知辛い異世界の死者事情に、アルフレッドもヘルラージュもため息しか出ない。
「まあ本当に人々が死から解放された世界があったとすれば、それは私が滅ぼすしかないのだけれどね」
今回ばかりは、そのビルーダーの言葉を理不尽だと思う者は居なかったのだった。
§§§
ヘルラージュは禍神降ろしを唱えた!!
アタッカーの皆さん、このターン頼みますよ!! (攻撃力二倍)
アルフレッドに古代の神の力が宿る!! (1ターン)
「いけッ、アルフレッド!! 今こそ炎アタッカーの新機軸を築くのだ!!
ここで活躍できなかったら出番はだいぶ先だぞ!!」
「うおおお!! 一言多いよ、マルースさん!!」
アルフレッドはヘルズゲートを放った!!
見よ、この燃える一撃を!! (炎/特効アンデッド/会心有り)
これぞゴーストハンターの究極奥義!!
クリティカル!! ミアラージュに五万ぐらいのダメージを与えた!!
ミアラージュを倒した!!
「よし、よくやったアルフレッド、男を見せたぞ!! デルフィナ様も草葉の陰で喜んでるはずだ!!」
「はぁはぁ、でもこれ炎属性要らないでしょ……アンデッド特効しかダメージに乗ってないじゃないか」
「ツクールAecの仕様上、デフォルトじゃ一つの技には属性は一つしか設定できないんだから文句言うな。
二つ弱点を付ける属性攻撃をしたら、高い倍率の方を基準にされるのは仕方ないことだろ」
「これまでにないメタ発言を聞いた!?」
ついに原作ゲームの仕様にまで言及しだしたことに、アルフレッドは驚愕を隠せない!!
そんな二人をよそに、横ではドシリアスが展開中だった。
ミアラージュは負けたのがあなたで良かったと妹に向けて言い放っていた。
どうせ殺せないのでしょう? と嘲るように。
情や優しさに負けて犠牲者を増やし続けるのだと。
「ミアラージュ、と言ったかしら。
死者に法は無いと言ったわよね? それは現世での話よ。
今のあなたをあえて不浄とは言わないわ。だからそのつまらない物言いは止めなさい」
「ふん、だからってあの世に行ってやるものですか。せっかく長らえたこの命、みすみす取りこぼしてなるものか!!」
「待て!!」
ビルーダーの言葉にも耳を貸さず、ローズマリーの制止も聞かずに裏口に向けて背を向けるミアラージュ。
ヘルラージュはその手に怪しく光る短刀をギュッと握りしめた。
そして更にわざとらしくヘルラージュに挑発するような言葉を投げかけ、ローズマリーも歯噛みした。
だが、今度こそヘルラージュは逃げなかった。
姉も自分も逃げないのだと。とどめは自分がやるのだと。
ヘルラージュは復讐神の神器を振り上げる、──その前に己の中に生じた疑問を口にした。
自分が研究しているだろう弱点が明確な技でなぜ戦ったのか、と。
それはたまたまだと、ミアラージュは言った。
これで終わりだと、これ以上犠牲者を増やしたくなければ私を殺せと、彼女は言った。
どこか急かすように、妹を嘲っていたとは思えないほど切羽詰まった様子で。
そんな彼女に感じるものがあったのか、ヘルラージュは今度こそ神器を振り上げた。
その瞬間だった、先ほど人形部屋で対峙したキャサリンが両者の間に割って入って来たのは。
彼女は大慌てでみんなに訴えた。誰もミアラージュを殺す必要なんて微塵も無いと。
彼女はもう三日も経たず土に還るんだ、と。
彼女は語った。この魔女の館は、ヘルラージュが敵討ちを成し遂げさせるためにミアラージュが用意した舞台に過ぎないのだと。
全ては妹が復讐に囚われずに生きていくことが出来るようにと願った末のことだった。
だがそんなのは都合のいい話だった。
それを信じろ言うのですか、というヘルラージュの言葉にキャサリンは古びた日記を差し出した。
それは姉妹の母である人物の日記だった。
そこにはすべての真相が書かれていた。
全ては、血を欲しなければならないミアラージュを維持する為に、狂った両親が行った惨劇だったのだ。
これは地獄行きね、とビルーダーも額に手を当てて首を振るような狂った両親の、しかし家族愛に満ちた所業だった。
ミアラージュも観念して感情のままに叫んだ。
血を欲する自分の所為で両親は狂気に走ったのだと、すべては自分の為だったのだと。
だから、それこそ血を吐くような思いで彼女は妹に訴えた、自分を討て、と。
そして真相を知ったヘルラージュは、両親を殺したのはもしかして、と悟った。
姉は自分が止めるしかないだろう、と力なく答えた。
更には、今回家畜の血を抜いて回ったというのは全てキャサリンの所業だと彼女は白状した。
全てはキャサリンがミアラージュとほんの少しでも一緒に居たいがための行いだった。
全ての真相を知り、鬼火だった、とヘルラージュは自分たちの復讐の全てを語った。
結局優しすぎる彼女の復讐は、この世に存在しない幻に過ぎなかったのだ。
「ビルーダー様、この神器はお返しします。どうやら、私には必要の無いものでしたわ」
「そう、あなたがそう決めたのなら、私は何も言わないわ」
ヘルラージュが復讐神の神器をビルーダーに返却すると、彼女はそれをポイッと後ろに放り捨てた。
短刀は地面に落ちる前に、霞のように消え去った。
ヘルラージュは、その短刀が消えるまでじっとその柄のシンボルを見つめていた。
そして彼女は姉を赦した。両親が傍にいることは、二人は今でもあなたのことが好きなのでしょう、と。
恨んでもいない。ただ、もっと早く会いたかったと、彼女は涙した。
三日と言わずもっと長く、姉妹で居たかったと。
「なーに、諦めムードを漂わせてるんでちか!!」
そんな重くるしい空気を、デーリッチがぶち壊した。
彼女はやれやれと言わんばかりで、まだ三日もあるんだから何ができるか考えるべきだと主張した。
「こういう時こそ悪の秘密結社のマッドサイエンティストの知恵を借りるでち!!
ビルーダー様は何だかこういう事例とかよく知ってる風だったし!!」
「まあ、よくもこんな不完全な蘇生術で死人を復活させようと考えたな、とは思ったけれど」
いつの間にかビルーダーは二人の母の日記を読んでいた。
「血を欲するのは要するに蘇生が不完全だからよ。
体内のマナの循環が生前に比べて圧倒的に遅くなっているからでしょうね。ありがちな失敗だわ。
正直、よくまだ正気を保っているのかと感心しているところだわ。こんなの常人に施したら普通精神が耐えられないわよ」
「ええとつまり、外部からマナを摂取しなければ常時酸欠状態みたいなものと言うことですか?」
「ええ、あなたの理解力には助かるわローズマリー。
厳密には違うけど、あなたのマナ欠乏症と似ているわ。処置も同様で十分でしょう」
ビルーダーがそう診断したことにより、一同は急遽マナジャムが大量に摂取できる妖精王国へと向かうこととなった。
§§§
「結局のところ、彼女は生きてたってことなんだろうか? でも対アンデッドの技も効いたし」
紆余曲折あったが、処置を終えたミアラージュはハグレ王国に参加することになった。
そんな時に、ぽつりとアルフレッドが口にした。
「別にそんなこと、どうでもいいじゃないか。細かいところを気にする男はモテないぞ」
「いやいや、これは職業倫理に関わる問題だよ。
ゴーストハンターなんだから、死者の魂を鎮める以外のことをするのは道理に適わないしね」
「生きてもいたし、死んでもいた。俺はビルーダー様の説明を聞いてそう思ったけどな。
親子の愛、姉妹の愛が生んだ復讐の連鎖、か。もしあの時、ヘルちゃんが疑問を口にしなかったら、すべての結果は真逆に終わってた可能性もある。
今度、マナに聞いてみるか。十年後のあの二人がどんな風なのか……」
マルースとアルフレッドは、妖精王国の事務所でそんな話をしていた。
「まあ、俺は好みの合法ロリが王国に来てくれるってだけで十分だけどな!!」
「この人はもう、まったく……」
アルフレッドはうきうきしているマルースを見て、苦笑を浮かべるのだった。
「そう言えばマルースさん、先日ヅッチーから私にプレゼントを買ったと聞きましたよ。
なんでも、すごく高価なものだとか。期待していますからね」
「えッ」
そんな会話をしているマルースの背後にスッと現れ、彼にそんなことを囁くプリシラに凍りつくマルースであった。
スキル設定
★ヘルズゲート 消費MP10 消費TP100
マルースがパーティにいる場合のみ使用可。敵単体を地獄に葬り去る!?
炎属性、対アンデット、会心有りのゴーストハンター究極奥義!!
あとがき
実は私、昔ざくアクのベースであるツクールAceに触ったことがあるんですよ。
一か月ぐらいで作ったちょっとしたRPGを作って読者の皆さんに公開したことも。
例えばマルース君のレディースガードですが、仕様上可能です。戦闘不能を無効にできる状態をそのターンのみ付与することで、HPがゼロになっても行動が可能と言う状態を作り出せるんですよね。
次回にはドリ姫が仲間になっていると思います。
あるいは、五層ぐらいから次元の塔もストーリー性が強くなってくるので、マルース君も次元の塔デビューで彼女が仲間になる経緯ぐらいはやるかもです。
では、まあ次回!!