アナザー・アクターズ   作:やーなん

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一応もう一度ここに書いておきますが、召喚士組は作者の推しです。三人とも大好きです。
それを踏まえ、本編どうぞ。



32.憎悪

『 ケモフサ村へ 』

 

 

「ケモフサ村ねぇ……」

 俺は今回、ゼロキャンペーンの依頼が舞い込んできたという村という話を聞いて、そう呟いた。

 どうやらハグレの村らしく、エステルの噂を聞いて依頼をしてきたらしい。

 現在ゼロキャンペーンは休止中らしいが、このお人よしは親近感がわいたとかで協力したいとのことだった。

 

 ローズマリーは他のハグレとの連携を取ることはとても重視しているようで、挨拶に向かいたいと言っていた。

 魔物退治ぐらいなら協力できるかもしれないと。

 

「なんでシノブちゃんじゃねーんだ?」

 俺は長年で培った傭兵の勘みたいなものが働いていた。

 仕事の依頼で、騙して悪いが、なんてしょっちゅうのことだ。

 報酬だって二回に一度は未払いだし、その上二回に一回は捨て駒だ。

 だから俺は仕事の依頼から疑ってかかる癖みたいなものがついていた。ジュリアの時みたいにな。

 

 ゼロキャンペーンを最後に行っていたのはシノブで彼女は現在失踪中、それまでは精力的にエステルが活動していたようだ。

 エステルが活動休止し、シノブが失踪するまでの期間はひと月程度でしかない。その間にどこまで彼女の名が売れているかどうかは不明だ。

 

 それにシノブに連絡が付かないからエステルに依頼したというのなら筋が通る。

 だが俺の喉元には言いようのない何かが絡みついていた。

 

 ハグレ王国が和気藹々としているだけで、ハグレの集落なんてどこも地図に載ってないし閉鎖的で交流は少ない。

 このお人よし軍団を良いように利用して魔物にけしかけるぐらいしても可笑しくはないのだ。そういうものだと前提に考える。嫌な癖だ。

 

 まあ、俺がちゃんと見ていればいいとは思うが……。

 

 

 

 §§§

 

 

「悪いけれど、今回は私、行けないわ」

「あれ、そうなんですか?」

 出撃直前、いつもは呼ばれなくても付いてくるビルーダーがローズマリーにそう言ったことは同行者の面々を少なからず驚かせた。

 

「今日、百万人に一人の難病の患者の手術が入ってるの。

 帝国の貴族の娘らしくてね、そっちに出向いてオペしないといけないの。彼らのコネを得ることも必要だけれど、純粋にあの子が憐れなのよ」

「はー、すごいでちねー、ビルーダー様。

 そう言うことならぜひともそちらを優先してほしいでち」

「ええ、私の影響力はもうすでに帝都中枢まで浸透しているわ。

 誰だって、家族や親戚、知人は健康で居て貰いたいものでしょうし。ねぇ?」

「うわッ、もうすでにビルーダー様の帝都解体計画がそこまで進んでいたとは……」

 怪しく微笑む女神を見て、エステルは反射的にのけ反るのだった。

 

「時々お忍びで高貴な方々らしき人たちが診療所に来ているのは知っていたけど、まさか最初からそれを込みで診療所を建てたのか。

 ビルーダー様の計画性には恐れ入るよ……」

 彼女の底知れ無さに寒気を感じながら、一行はケモフサ村へと向かおうとしたのだが。

 

 

「ねえねぇ、私も連れてって」

「え?」

「ケモフサ村に行くんでしょ? 連れてって!!」

 そのようにねだってきたのは、何とたまたま拠点を訪れていた未来少女マナだった。

 

「おいマナ、マリちゃんを困らせるな」

「お願いパパ!! あとでほっぺにチューしてあげるから!!」

「し、仕方ないなぁ。お前ら、こいつの面倒は俺が見るから連れてってやろうぜ」

「……順調にほだされているなぁ、マルースさん」

 最近になってようやく未来の娘と遊んであげれるくらいには現実を受け入れられるようになったマルースを見て、ローズマリーは少しだけ苦笑した。

 

「でも、どうしてケモフサ村に? 君の未来では存在しないのかい?」

「知らない。でもどうしても行かなきゃならないの。お願い」

 ぺこり、と頭を下げるマナに、どうしたものかと頬を掻くローズマリー。

 

「いいじゃないでちか。ヒールとか使えるし。

 戦闘後のこちらの負担が減るなら大歓迎でちよ」

「まあ、君がそう言うなら。マルースさん、彼女の面倒をお願いしますよ」

「任せろって」

 デーリッチの提言により、ローズマリーはマナの同行を許可した。

 

 

「そうか、もうすぐなんだ……」

 そう呟いた少女の言葉は、キーオブパンドラの転移の光で掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 一行はケモフサ村があるという座標の近くまで転移してきたのだが、それからが大変だった。

 

「ねー、パパー、歩き疲れたー。おんぶして」

「はいはい、パパおんぶしますよー」

 デーリッチ達は地図に載っていない村を探すために、その周辺を歩く羽目になった。

 

「マナちゃんいいなー、マルちゃん、デーリッチもおんぶしてー」

「おうおう、好きにしろ」

「マルースさん、あんまり甘やかさないでくださいね」

「私右側、デーリッチ左側ねー」

「オッケーでち!!」

 そうしてマルースは子供二人を背負う羽目になった。

 

「良かったじゃん、このロリコン親父」

「やめてくれエステルちゃん。最近俺も父性に目覚めたのか将来デーリッチと結婚して王国で一夫多妻制を採用させる計画をポイしたばかりなんだから」

「あなたはなんてことをしようとしてたんですか!!」

「いや別に、マリちゃんでも良かったんだぜ? むしろそっちの方が現実的だったし」

「あなたって人は!! 最初の頃に私を口説いた理由はそれか!!」

「ははははは!!」

 そんなこんなで騒がしい一行は、草むらが動いた音で即座に戦闘態勢に移った。

 

「む? こんなところに人が?」

 姿を現したのは、歴戦の風格を感じる獣人の男だった。

 

「あ、あんたは!!」

 マルースはその姿に驚き、彼を指差した。

 

「マルースさん、お知り合いですか?」

「ああ、奴は雷獣マーロウ!! ハグレ戦争時代に猛威を振るった猛将が、なんでこんなところに!?」

「ははは、懐かしい呼び名ですな。

 もしや当時を知る方ですかな?」

 ローズマリーの問いに震えた声でマルースがそう叫ぶが、当人はその異名に不釣り合いに見えるほど穏やかに笑ったのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「そうですか、あなたもあの戦争の経験者でしたか」

 その後、自分たちがハグレ王国であると知ると、彼は歓迎してケモフサ村へと案内してくれた。

 そして自宅に招き、こうしてお茶を出して当時の頃に思いを馳せるようにそう言った。

 

「まあ、当時帝国軍を震え上がらせていたあなたには、俺みたいな木端の使いパシリなんざ記憶に無いでしょうが」

「ええ、残念ながら」

「パパよわっちいもんね」

「うっさいぞ、こら」

 茶々を入れてくる未来の娘の額を小突くマルースの姿を見て、マーロウは微笑んだ。

 

「当時の戦いを敵味方として戦った者同士が、今ではお互いに子持ちですか」

「……ははは、まあそのようなものです」

「お互いに守るべきものが出来ても剣を捨てられない。因果なことです」

 そう言って、彼はため息を吐いた。他の面々は彼に子供がいることに驚いていたが。

 

「ええと、あそこでこっちをちらちら見ているのが娘さんですか?」

「ええ、正確には実子ではありません。つまり、養子ですな……」

 それを聞いて、エステルはこの話に深く立ち入ることを止めることにした。

 

「クウェウリ、そんなところで突っ立っているなら、入ってきて挨拶をしなさい」

 マーロウは奥の方で様子を窺っている獣人の少女に声を掛けるが、彼女は黙って面々の様子を見るだけだった。

 

 その姿に人見知りでご勘弁を、とマーロウは小さく頭を下げた。

 ローズマリーが苦笑して、大人しい方なんですね、と言うと、彼はとんでもないと首を振った。

 彼の娘クウェウリは気が強い方らしく、彼が彼女の気の強さについて語りだすと、奥の方から魔法が飛んできてマーロウの毛並みをちりちりにしてしまった。

 

 そしてお互いに自己紹介をしたり、連絡の不備について謝ったりしながら、この村の成り立ちなど聞きいた後、今晩は泊めてもらう事となった。

 

 

「おや、夜に外を出歩くのは危険ですよ」

 夜、マルースが外出から帰ってくると、マーロウがその様子を見てそう言った。

 

「ああ、悪い。ちょっと夜風に当たりたくてな。

 それよりマーロウの旦那。正直、昔のあんたの強さにはビビってたんだが、今思うと羨ましかったんだ。

 俺にもあんたみたいな強さがあればな、って」

「いやいや、あなたも傭兵として百戦錬磨と窺っています。謙遜はよくありませんな」

「そうかな? あんたにそう言ってもらえるなら嬉しいよ。

 これ、さっきお店で買ってきた酒だ。一緒に呑まないか? 昔の話をしながらさ」

「ええ、分かりました」

 そしてマルースとマーロウはその晩、軽く酒を飲んでお互い上機嫌になり、マルースはクウェウリに父親の武勇伝を聞かせてやろうとして二人一緒にちりちりにされるなどして夜を明かした。

 

 

 そして翌日、ハグレ王国の面々は案内役のマーロウを伴って仕事先の結晶洞窟へと向かった。

 

 道中、彼から村の世知辛い事情を聴いたりしながら、奥に湧いて出てきているクラゲの魔物を駆逐した。

 相談の結果、さらに奥の魔物との連戦はきつい為、ゼロキャンペーンの本領は翌日に発揮されることとなった。

 

 お互いに明日の約束を交わすと、今日は解散となった。

 

「いやぁ、あの雷獣マーロウと肩を並べて戦っただなんて光栄だったぜ」

「こちらこそ、お互いにこれからも手を取り合って上手くやっていきましょう」

 大人二人は手を取り合って握手を交わした。

 

「マルちゃん、感激してるのはわかるでちが、いつまでやってるつもりでち?」

「そうだよ、マーロウさん困惑してるじゃないか」

 デーリッチとローズマリーはいつまでたっても手を離さないマルースを見て、彼にそう言ったのだが。

 

「ああ、悪いな。ちょっと話したいことがあってさ、先に帰ってていいぞ」

「いやいや、帰りはゲートなんでちから、置いて行けないでちよ。

 デーリッチ達は村の入り口で待っているから、手短に済ませるでちよー」

 そう言って、デーリッチたちは手を振って村の入り口の方に歩いて行った。

 

「それで、話とはなんです?」

「──ここ、ゲリラ拠点だろ?」

 みんなが十分離れた頃合いを見て、マルースは率直に彼にそう言った。

 

「……何の事だかわかりませんな」

「だったら、武器の隠し場所ぐらいもうちょっと工夫した方が良いんじゃないのか? 

 どう見ても戦士のあんたが使うには多すぎる量だった」

 マルースが不敵な笑みを浮かべてそう語ると、彼は握っていた手を強く握り返された。

 

「昨日の夜、ですか」

「ああ、他の家々に挨拶してきたが、村の貧困さを抜きにしても今すぐここを廃棄しても十分な財産しか持っていないように見えた。

 こういう普通の村に偽装したゲリラ村に痛い目見せられたことが何度かあってよ」

「その嗅覚、ハグレ戦争時代から衰えていないと見える。

 なあ、──この放火魔め!!」

 ぎりぎり、とマルースの手を握り締め、犬歯をむき出しにしてマーロウは憎しみを吐いた。

 

「あの雷獣マーロウに顔を覚えてもらってるとは光栄だなぁ」

「貴様の所為で、数多の同志が炎に焼かれた!! 

 忘れるものか、貴様の顔をッ!!」

「俺は物資だけを焼こうとしたぜ? 

 火を消そうと自分から炎に飛び込む馬鹿が多かっただけの話だろ」

 何食わぬ顔でマルースはそう嘯いた。

 

「昨日貴様と出くわした時、殺気を堪え、怒りを表情に出さぬようにするのに必死だったぞ」

「いや、その顔で怒りを出してないって無理なくないか?」

「やかましい!! 貴様がまさか、ハグレ王国に所属していようとはな」

「それはこっちのセリフだ。あんたみたいな猛将が敗残兵として落ちぶれてただなんて、知らなかった……」

「好きで、好きで落ちぶれたとでも!?」

「……これ以上は止めようぜ、今はお互いに娘がいる身だろう?」

 マルースはマーロウの肩越しに、不安そうに家の入り口から父の背を見ているクウェウリを見てそう言った。

 

「くッ……」

「俺は何も見なかった。このことは誰にも言わない。

 だからあんたも、馬鹿な真似はやめようぜ。きっと、きっとこれからハグレ王国との交流でこの村も豊かになるはずだから……」

「それは、勝者からの憐みか?」

 マーロウは鋭い眼光で睨みつけ吐き捨てるようにそう言って、マルースの手を振りほどいた。

 

「そうだよな、俺が何を言ってもそうとしか聞こえないよな」

 マルースは痛みの残る自分の手と彼の後姿を交互に見やり、そう呟いた。

 

 

「マルちゃん、何かあったんでちか?」

「……何でもない、何でもなかった」

「いや、どう見てもそんな風には見えないけど……」

 デーリッチとエステルは心配そうに彼に声を掛けたが、マルースは何でもないの一点張りだった。

 

「詮索は止めよう。きっと二人の間に、話したくない何かがあったんだよ」

 ローズマリーは二人にそう言って、マルースに向き直った。

 

「明日、辛いのなら拠点で待機でも構いませんが」

「いや……同行する。もう一度、俺はあの人と話さないといけない気がするんだ」

「わかりました。あなたの意思を尊重します」

「……悪いな、マリちゃん」

 マルースはどこかぎこちない笑みで彼女にそう言った。

 

「パパ……」

 マナはそんな過去の父の手をそっと握りしめるのだった。

 

 

 

 

『 憎悪 』

 

 

 翌日、マーロウは何事も無かったかのようにハグレ王国の面々を出迎えた。

 それでも彼はマルースと一度たりとも目を合わせることがなかったことから、両者の見えない溝をみんなは窺い知ることができた。

 

 そんな見えない緊張に包まれた一行が向かった水晶洞窟の奥で待ち受けていたのは、シノブだった。

 一足遅かった、と言って振り返る彼女に、エステルだけでなく全員が驚愕した。

 

 そしてこれが、マーロウに頼んでの策略であると彼女は明かした。

 彼女がわざわざこんな回りくどい真似をした目的は、キーオブパンドラにあった。

 

 キーオブパンドラが、彼女の目的には邪魔なのだという。

 彼女の目的はザンブラコにあったような固定ゲートを使った相互通行可能な次元ポータルを作ることにあった。

 

 ハグレたちはそれが完成することによって好きな世界を選択できるという。

 それは素晴らしいことではないのか、と驚くエステル。

 なぜ自分たちが反対するのか、という疑問にローズマリーが騙されるなと叫んだ。

 問題は何も解決していないと。

 

 相互通行可能ならば、向こうから入ってくるハグレはこの世界のパワーバランスを崩す要因になりうると彼女は主張した。

 この世界は、この世界の住人より圧倒的にハグレが少ないことによって成り立っているのだと。

 相互通行可能なゲートは、数の制限が不可能になることを意味していた。

 

 それは再び、ハグレ戦争の勃発を予期させるに十分な火種だった。

 

 しかしそれをどうやって止めるのかと問われたシノブは、止めませんよ、と首を振った。

 それが正しい姿であるのだと。モラルに目を瞑りメリットだけを享受してきたハグレ召喚こそが過ちで、それをただした結果滅びてしまうのならそれは運命であると。

 また戦争が起こるのなら、それは自業自得の結果に過ぎないと言うのだ。

 

「…………」

 マルースは罵倒が口から出かかったが、寸でのところで我慢した。

 まだ、もう一人の話を聞かねばならなかったからだ。

 

 ローズマリーは、今度はマーロウに問うた。

 世界の選択権は魅力だが、その引き換えに世界は滅茶苦茶になっても良いのかと。

 

 だがマーロウは、結構なことだと、シノブの言葉を肯定した。

 自分は世界の選択権を目当てにしているのではなく、こういった機会を村ぐるみでずっと窺っていたという。

 ハグレ戦争と言う言葉を聞くたびに、はらわたが煮えくり返っていたと。

 

 ハグレが一方的に悪で、粗暴で、どうしようもない存在にされているようであると。

 この世界の人々はこれから何百年経とうとも、その戦争を持ち出して自分たちを罵倒し、死んでいったもの達の心を踏みにじっていくのだ、と。

 

 彼は戦争を望んでいた。そのために、ハグレ王国を利用したのだと。

 

 

「ふざけやがってぇ!!」

 マルースは激怒した。

 相手の実力行使を待つまでもなく、彼は剣を抜いてマーロウに斬りかかった。

 

「てめぇが、てめぇで証明してやがるじゃねぇか!! 

 ハグレは粗暴で、どうしようもない存在だってなッ!!」

 マーロウは冷静にマルースの剣を受け止めると、つばぜり合いにもならずに押し返された。

 

「違うな、違うぞ放火魔!! 我々は誇り高き一族だ!! 

 それを奴らが一方的に踏み躙り、迫害され続けてきたッ!! 

 勝手に呼んでおいて、我々を家畜のような扱いをしてきた連中にだ!! 

 貴様は黙って我らは踏みつけられ、誇りを汚され続けろとでも言うのか!?」

「だったら他にやり方があるじゃねぇか!! 

 お前には娘が居るんだろう!! あんな可愛くて良い子を、滅茶苦茶になった世界に住まわせる気かよ!!」

「ならば我々が勝てば良いだけだ!! 

 そうして出来上がった新しい秩序の元で、私たちの子供たちが過ごせればそれでいい!!」

「お前の言っていることは、自分たちの子供たちの為に別の人間の子供たちを踏みにじるってことだろうが!! 

 ああそうか、村ぐるみと言ったな雷獣!! お前の娘はそうやってお前が踏みにじった子供の屍の上での平穏に喜ぶような雌犬だったわけか!!」

「貴様ぁ!! 言わせておけば!!」

 両者の怒りと怒りの爆発が激突し、ぶつかり合う!! 

 

「お前に、お前に何がわかる、この放火魔が!! 

 勝者の側に立った貴様と、敗残兵としてあの村に押し込められ、何をするにも制限され、やっとの思いで勝ち取った権利が踏み潰される我々の気持ちがッ!!」

「羨ましいか? だったらそう言えよ!! 

 生憎と、勝ったか負けたか程度でハグレの扱いなんて変わりはしなかったよ!! 

 俺がどんな惨めな戦後を送ったか、その出来の悪い頭に教えてやろうか!!」

 二人の剣が何度も火花を散らす。両者の怒鳴りあいが、ずっと続くかと思われたその時だった。

 

「ゲートオープン!!」

 シノブの策略によって封じられていたキーオブパンドラをどうにかして使用したのか、デーリッチが転移の光でこの場から消え失せたのだ。

 

「なッ、これは、ゲート移動だと!? 

 これはどういうことですか!? ゲートは絶対に使えないという話ではなかったのか!?」

 その光景に、目の前の敵を忘れマーロウが驚愕の声を上げた。

 

「今だ、みんな逃げるぞ!!」

「ええ!! って、マルースさんも、ほら逃げるよ!!」

「先に行け、しんがりは任せろ。俺はこの二人とまだ話がある」

 マルースは仲間たちを先に逃がすと、唯一の出入り口に陣取ってマーロウとシノブを見据えた。

 

「どうする? デーリッチが戻った以上、すぐにでも応援が来るぞ」

「それはどうでしょうか?」

「なに?」

 マルースの挑発に、シノブはどこか困ったような笑みを浮かべ小首を傾げた。

 

「こんなマナの極端に薄い不安定な場所で無理矢理な転移をすれば、目的の場所に出られるとは思えません。

 もしかしたら、彼女はこの世界にはもう居ないかもしれませんよ。そうだとすれば、図らずとも目的を達成してしまったわけになるのですが」

「なんだと!?」

「私たちにかまっている暇はもうないと思いますが?」

 シノブの言葉に、マルースは顔を片手で覆って天を仰いだ。

 

「そうか、そういうことだったのか……。

 戦争で、てっきり戦争に巻き込まれて死んでしまうとばかり……」

「……マルースさん?」

 急に可笑しそうに笑い出したマルースに、異様なものを感じたシノブが彼を呼ぶが。

 

「なぁシノブちゃん。もしかして君は、自分は戦争になっても高みの見物で居られるとでも思っているのかい?」

「え?」

「もうちょっとそこのバカ野郎に言いたいことがあったが、もうどうでもいい。

 俺は大人として、君に自分が何をしようとしているのか教えてやるよ」

 くつくつ、とマルースは笑って顔を覆っていた手をだらりと落とした。

 

 

「──殺してやる」

 その表情は、笑顔なのに憎悪に満ちていた。

 

 

「君が我が神に選ばれたとかそんなことどうでもいい。

 君が今までどういう悪意をあの小僧から受けてきたかは知らないが、きっと君は誰かから憎まれたことなんてないだろう? 

 絶対に殺してやるよ。ありとあらゆる手段を尽くして、俺の全身全霊が及ぶ限りを尽くして、君が決して安眠できない日々をプレゼントしてやるよ」

 シノブは人生で初めて、人の純粋な憎しみを向けられ体が硬直していた。

 口の中が乾き、胃が潰されるようなプレッシャーを、たとえ相手が百人いようと自分には敵わない相手に与えられていた。

 

「これは宣戦布告だ。君が肯定した自業自得だ!! 

 たとえ俺が地獄に堕ちようとも、君だけは絶対に道連れにしてやるッ!! 

 俺が君と直接戦うと思うなよ。毎日毎日いったいどこから狙われるのかわからない恐怖と言うものを味わわせてやる。

 君が少しでも親しくした人間を八つ裂きにして、君の部屋の前に転がしておいてやろうッ。

 君が食べる物や飲む水全てに毒が入っているかもしれない日々がどんな世界か見せてやろう!! 

 やっとの思いで安全を確保したと思ったら、すぐにでも近くで爆音を鳴らしてやるよッ!! 

 君が泣き叫んで赦しを乞うたのならば、そのすべてを無視してやろうッ!! 

 どうだ、素晴らしいだろう!? これが君に対する俺の戦争だッ!! 君が正しいと言った世界のあり方だ!!」

 そこにあったのは、憎悪の果てにある狂気だった。

 シノブの常人よりよっぽど優れているはずの頭脳でも理解できない、理性の通じないおぞましい悪意だけが存在していた。

 

「せいぜい、デーリッチが無事であることを祈れよ。

 あいつの死亡が確認できたその瞬間から、戦争は始まるんだからな……」

 マルースはそう吐き捨てて、無防備な背中を晒しながら結晶洞窟の出口へと歩いて行った。

 

 彼の姿が見えなくなった後、マーロウは目に汗が入り、自分が全身に冷や汗を掻いていることを悟った。

 そして、後ろでどさりという音を聞いて振り返ると、シノブが尻餅をついて真っ青な表情をしていた。

 

「大丈夫ですか、シノブさん!?」

「え、ええ……」

 シノブは頷いたが、両手は小刻みに震えていた。

 

 産まれて初めて、誰かに最大限の憎しみと狂気と呪詛を向けられた少女はしばらく体の震えが止まらなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

「それで、デーリッチは見つかったのか?」

 マルースがケモフサ村の前で待機している仲間たちに合流し、彼がシノブの推測を話した後のローズマリーの取り乱しようはなかった。

 急いで最寄りの村で馬車を手配し、拠点へ戻ってデーリッチを探したがその日彼女は見つからなかった。

 

 翌日になって情報交換をするため、拠点のメンバーが集まった時にマルースは問うたが、誰も芳しい成果は持ってこなかった。

 

「デーリッチは帰ってこないよ」

 そんなみんなの姿を見て、いつの間にか拠点にやってきていたマナがそう言った。

 

「どうせ、デーリッチは死んじゃうもん。

 私の時もそうだったよ」

「マナッ」

「デーリッチ、寂しかったのに、悲しかったのに、誰も来てくれなかったんだよ。

 わたし、覚えてるもん。失敗しちゃったって!! デーリッチ、最期にそう思ったもん!!」

「マナッ!!」

 マルースの二度目の怒声に、少女はようやく押し黙った。

 皆は彼女の言葉に何も言えなかった。

 これから想像できる未来から、デーリッチに責められているようで、何も言い返せなかったのだ。

 

「ううぅ、だからお願い。私は産まれてこなくてもいいから、デーリッチを助けてあげて」

 みんなが顔を上げると、未来からの少女は泣いていた。

 友達になったデーリッチともう会えないことに、デーリッチの苦しみの全てを知る彼女は泣いていた。

 

「おー、よしよし、泣くな泣くな。それで、お前ら全員、諦めたのか? 

 一つの可能性の答えを知った程度で、それをなぞることを良しとしたのか?」

 ブリギットがマナを抱きしめて頭を撫でて宥めると、彼女はみんなに向かってそう言った。

 

「こう考えようぜ。デーリッチは助からなかったかもしれない。その結果、マナに俺たちは会えた。

 だけどこの世界の俺たちはデーリッチを助けられた。二倍お得だということだ。どうだ、元気が出ただろう?」

 続けてそんなことをニカッと笑って言うものだから、みんなも釣られて笑みを浮かべた。

 

「ところで、こういう時はいつも平然と無茶を言う女神はどこですか?」

「確かに、そろそろ帰ってきても良い頃じゃな」

 福ちゃんとティーティー様がそんなことを言ってくすりと笑う。

 

「よし、こんな姿をビルーダー様に見せたら、やれやれ顔で失望したって言われるのは必至だ!! 

 みんな!! こういう時にあの人に頼るのは癪だろう!? あの方が帰ってくるまでにデーリッチを連れ戻して、遅かったですねって言ってやろう!!」

 ローズマリーの言葉に皆は拳を突き合わせ、おー!! っと声を上げ、奮起したのだった。

 

 

「……なんだか私、のけ者にされてる?」

 そんな声を、玄関にて帝都から帰ってきたばかりのビルーダーが聞いて涙目になっていることにみんなが気付いたのはすぐ後の事だった。

 

 

 

 




次回、いよいよ待ちに待った異世界編です。
原作をプレイした皆さんはこう思ったのではないですか?

デーリッチ救出メンバー、八人じゃ足らないと!!
私もその一人です。しかもあの場面でセリフ無いキャラとかいるし!!

じゃあこの小説ではどうなるかって? それは次回をお楽しみに!!

ちなみに、下のアンケートに答えてくださると、もしかしたらそんなIFが書かれるかもしれません。
※書き方が悪かったかもです、もしかしたら番外編でIFを書くかもしれないってことです。

異世界に迷い込んだデーリッチ。もしかしたらその先は・・・・・・。

  • あれ、ここってもしや十年後でち?
  • ここはハグレ王国じゃないでち(原作通り
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