アナザー・アクターズ   作:やーなん

44 / 59
35.戦いのその後

『 過去へと向き合う心 』

 

 

 デーリッチの救出に成功したハグレ王国の面々はちょっとしたお祭り騒ぎだった。

 

 まだ戦闘時の能力が残っていたマナのゲート移動によって遺跡前の野営地に戻ってきた面々は、登山や戦闘の疲れも忘れてどんちゃん騒ぎだった。

 

 拠点の方から野菜や肉やらを持ってきてバーベキューしたり、以前ゼニヤッタの協力で作った氷室から冷えたプリンやお酒を持ってきたりして騒いだり、酔った男たちがデーリッチを胴上げしたりと、これまで散々前振りされていた絶望が消え去った反動ではしゃぎまくっていた。

 

「おーい、ハオちゃんがイノシシ狩ってきたぞー!! 

 まだまだ食い足りないやつは手を上げろー!!」

 熱した鉄板の前に立つニワカマッスルの声に、いえーい、と酒と勝利でテンションが上がった面々が手を挙げた。

 日はとっくに落ちているが、宴はまだまだ終わらなそうだった。

 

「やれやれ、夜通しやるつもりか、みんな」

 ちょっと離れたところで、ローズマリーが椅子替わりにしている丸太に腰掛け、自身もほとんどジュースと変わらない果実酒を呷った。

 

「やー、マリー、呑んでるかぁ~」

 そこに顔を真っ赤にしたエステルが彼女の横に座って絡んできた。

 

「おいおい、あまり飲みすぎるなよ。

 帝国の法じゃ君は成人してるけど、若い頃にお酒を飲みすぎるのはよくないんだから」

「マリーったら、今日くらいそんな堅いこと言わないのー!!」

 ぱんぱん、とエステルはローズマリーの肩を叩いた。

 

「まあ、今日くらいはかまわないか。

 お酒を飲んで忘れたいことだってあるだろうし」

「ああぁ、相互ゲートのことな。

 いくら楽観主義の私と言えども、シノブが地獄行きになるかもしれないって未来が現実味を帯びてきたことにはちょっと来たわ……」

 エステルは少しテンションを落として、果実酒を呷った。

 

「おう、二人とも、どんどん飲め。まだまだ酒はあるぞ!! 

 ゼニヤッタちゃんがキンキンに冷やしてくれたしな!!」

 そこにマルースが現れ、二人に酒瓶を差し出した。

 

「あ、どうも」

 二人は空になったコップに果実酒を注いで貰うと、マルースも酔ってるのか口元が緩んだ笑みを浮かべていた。

 

「今日はサイコ―な一日だ!! 

 今なら俺でもマーロウの旦那をぶちのめせる気がするぜ!!」

「たぶん絶対気がするだけなんだろうなぁ、あはは!! うける!!」

 やたら気の大きいマルースと、突然笑い出すエステルを見て、ローズマリーは苦笑した。

 

「なんだとー、こら。待機組にも聞かせてやった俺のハグレ戦争時代の武勇伝を聞かせてやろうかぁ?」

「それ、もう三回ぐらい聞きましたよ。さっきそこで話してたじゃないですか」

「ありゃ? そうだっけか?」

「大丈夫なのかな、このひと」

 すっかり出来上がっているマルースに、くすくすとローズマリーは口元を隠して笑った。

 

「マルースさんには感謝してますよ。

 それにデーリッチの事にあそこまで怒ってくれるなんて意外でした」

「当たり前だ」

 マルースはローズマリーの言葉に、酔いで赤らめた表情を真顔にしてそう返した。

 

「俺は昔から何をやろうとしても中途半端でよ。元の世界でも、どうせ俺の頭じゃビルーダー様の御許には行けんだろうってことはわかっていたのに惰性で勉強する日々だった。

 お前たちと出会うまでも、何もかも、やったり辞めたりで続かなかった」

 そう言って、マルースは酒気を帯びたため息を吐いた。

 

「傭兵をやっていたのは、弱者の為に戦って死ぬことが出来れば死後ビルーダー様に顔向けできるだろうと思ったからだ。

 俺の故郷は、まさに楽園だったんだ。あの使徒たちが現れるまでは、誰も病まず傷つかず、飢えも苦しみ争いも無いこちらのビルーダー様の理想とする場所に近いんだと知ったんだ」

「あー、でも、滅ぼされたんでしょう? そっちのビルーダー様に」

「ああ。だが俺の故郷では殺人事件なんて俺が産まれてから一件も無かった。

 誰もかも満たされていて、ビルーダー様への信仰心を高めることにだけ集中できていた。飯はあの丸薬しかなかったけどな!!」

「あははは!! あれねー!!」

「…………」

 彼の話に手を叩いて笑うエステルと、口を結ぶローズマリー。

 

「だから、だからよぉ、お前たちと出会えて、ビルーダー様に間接的にとはいえ近くに侍ることが許され、俺は故郷の誰よりも幸せなはずなんだ。

 だけど、近くで直接話すことなんて無いにせよ、ビルーダー様の御考えを聞く度にわからなくなっちまう。

 俺たちは、そんなにも罪深かったのかって!!」

 彼の嘆きは、他の面々の大騒ぎに掻き消され、二人にしか聞こえなかった。

 

「初めは、この世界こそが地獄なんだと思った。

 俺がこの世界に導かれたのも、召喚なんて形でハグレがやってくるのもこの世界が地獄で、ハグレは本当は罪人なんじゃないのかって。

 ずっとどこかでそんな考えがあった。でも違った!! 

 デーリッチに出会って、ビルーダー様が現れて、そんなくだらないことは忘れていたんだ。

 だがビルーダー様の書籍にあるように、ここは希望と同時に絶望を与えられる地獄なのだとしたら……俺は八つ当たりだとしてもあの二人を赦せなかっただろう」

「……そうだったんですか」

「あの四人と、デーリッチだけだった。俺に目の前の現実から逃げるなって言ってくれたのは。

 ああいや、福の神さまもだっけか? ああもうわかんね」

「大丈夫ですか?」

 だいぶ酔いが回っている様子の彼に心配そうに声を掛けるローズマリーだったが、マルースは大丈夫と手を振った。

 

「とにかく、お前たちみたいな若いやつらだけは守らんといけないと思ったわけだよ。

 マーロウの旦那だって同じ気持ちのはずなのに、どうして、どうしてだよ……」

「まあまあ、あの人たちのことは帰ってから考えましょう」

 ポンポン、とテンションの上下が激しいマルースの肩を、エステルが叩いた。

 

 そう言えば、とエステルはローズマリーに彼女とデーリッチの接点や共通点が少ないよね、と言った話題を口にした。

 どういう経緯で知り合い仲良くなったのか、と彼女は興味本位で尋ねてみた。

 

 それを聞いたローズマリーは、それを話すには先に謝らないといけないことがある、と述べた。

 自分はハグレじゃないのだと、嘘をついてごめん、と。

 

 それを聞いた二人は顔を見合わせ、そうなんだ、と微妙なリアクションをした。

 

「あんまり驚かないんだね」

「だって、マリーがハグレを呼ぶとき“ハグレ達”って言うけど、“自分達”とは絶対言わなかったもの」

 だからこの子なんか隠してるな、ってエステルは思ったのだという。

 それを受けて、ローズマリーは自分も気付いていなかったようで、今後は気を付けるよ、と答えた。

 

「よく見てるなー、エステルちゃん。

 俺はまあ、何となくそんな感じしてたっていうか、長年の勘かな。

 ハグレか、この世界の人間かどうかは、いつも意識してたからな」

「……それで、ハグレじゃないことがデーリッチとの出会いに何か関係あるの?」

 マルースの言葉からハグレへの迫害の意識を感じ取ったエステルは、それを振り払うように彼女に尋ねた。

 

 それから、ローズマリーの身の上話が始まった。

 彼女の実家が薬屋だということ、幼い頃に母を亡くした彼女の元に、父親が新しい母親を連れてきたということ。

 その母親に懐かなかった彼女は疎まれていたこと、正義感故に腕はよくとも商売には向かない父親とそのやり方に理解を示さない二番目との母親との間に起こる日々の喧嘩に嫌気が差して家出したこと。

 父の手伝いで覚えた薬の知識は誰からも信用されず、持ち出したお金や食料はすぐに底を突きた。

 食うに困ったローズマリーは町外れにいたハグレの子に目を付けたそうだ。

 それがデーリッチであり、ローズマリーは彼女がかじっていたパンを横取りしようとしたそうだ。

 

「まあ、人が犯罪をするのは大抵の場合、それ以外の道が無いからだしな……」

 自分を最低だろう、と卑下するローズマリーにマルースは同情を見せたが、いいんだ、と彼女は首を振った。

 結局、彼女は取っ組み合いになってすぐに負けたらしかった。

 そして様々な自分の情けなさに彼女は蹲って泣いてしまったようだった。

 

 そんな彼女に、デーリッチはパンを半分にして分け与えたのだという。

 半分こ、するでち、と。

 

 ローズマリーは思ったそうだ、こいつ馬鹿だなぁ、と。

 お人好しにもほどがあるだろう、と。そしてすぐに死んでしまうんだろうなぁって。

 

 だがそれはおかしくないか、と彼女は言った。

 優しさは本来美徳であるはずなのに、こんな簡単に騙されやがって、と後ろ指さして笑うのだと。

 お人好しであることが徳ではなく、他人の得になっている、と。

 

 そんな彼女を見て、ローズマリーは一時の気の迷いかもしれないが、と前置きしこう思ったそうだ。

 ──巡り巡って、この子が幸せになれますように、と。

 

 この子に優しさがちゃんと返ってくるようにと。

 それはこの世界では馬鹿げた発想だったかもしれないが、その理屈を彼女は通したいと思ったそうだ。

 そう考えた時、彼女はどうしてもデーリッチを生き残らせたくなったと語った。

 

 そんな話をエステルは、刺激的な出会いだなぁ、と驚いたように口にした。

 そしてローズマリーはその一時の気の迷いを一生の想いにしたいんだ、と言ったのだ。

 今、世界地図の片隅にそのお人好しの作った王国が成り立っている、と嬉しそうに。

 

 この国がどこまで行けるか、どこに向かうかをずっと見ていたいのだと。

 

「ローズマリー」

 彼女の話を聞いたマルースは、彼女の方に向き直ってこう言った。

 

「異世界から帰ってからでいい、一度でいいから君の親父さんのところに顔を出しなさい」

「え、だけど……」

「だけど、じゃない。君がそんな気の迷いを起こしたのは、君がずっと父親の後姿を見てきたからだ」

 酔っぱらっているからか、マルースは若干説教臭くそう言った。

 

「今の王国の忙しさや、先の見えない世情を理由にしてはいけない。

 君は一度、父親の元に戻るべきだ。そしてたくさん叱られたあと、こう言うんだ」

 マルースは唇を釣り上げて、こう続けた。

 

「私はお父さんが正義を貫ける国をみんなで作ったんだぞ、ってな」

「──ッ……」

 その言葉を聞いたローズマリーの胸中に、今までの様々な苦労が思い起こされた。

 そして幼い頃から手伝った父親の姿も。その不器用な優しさも。

 

 気付けば、彼女はボロボロと涙を流していた。

 そんな彼女の肩を抱くエステルと、酒瓶を直接呷って見ないふりをするマルース。

 

「親なんて、いつだって娘を心配しているもんだ。

 怒られるのが怖いなら、デーリッチや俺を連れて行けばいい。代わりに殴られるくらいはしてやるよ」

「……はい、ひっぐ、はい!!」

 マルースはその返事を聞きながら、この喧噪の中で疲れてぐっすり眠っている未来の娘を見ているのだった。

 

 こうして、ハグレ王国の異世界遠征は幕を閉じるのだった。

 

 

 

『 女神の策略、その一手 』

 

 

「これで、大分頭数が揃ってきたか」

 マーロウは獣人連合軍の兵員がだいぶ揃ってきたのを見てそう呟いた。

 彼はズブーブ大湿原の奥にある遺跡に設けられた相互ゲートが設置されている部屋にて、これで戦争が起こせると確信を抱いていた。

 

 彼らを自分たちの拠点に案内し、部隊として編制し訓練を行うことでようやく使い物になるのだ。

 

「シノブ殿、お加減は大丈夫ですか?」

 彼は相互ゲートの調整をしていた恩人に様子を尋ねた。

 

「……ええ、私のことなら大丈夫です」

 彼女はそう答えたが、彼はとてもそのようには見えなかった。

 無理もない、と彼は思った。彼女のような若い人間は、心の底からの憎悪を向けられたことなど無いだろうから。

 

「あの男の事なら、心配しないでください。

 私はあの男のやり口をよく知っている。物資や食料は分散させ、我々も所在をつかめないように細目に移動していますからな。

 その分、貴女には移動の負担を掛けさせてしまっていますが」

「いえ、お気になさらず。デーリッチさんが消えてからもうそろそろ一週間になります。

 彼女が亡くなっていると、判断するには十分な時間です。あちらから何らかのメッセージが無い以上、彼女は無事だったのでしょう」

「そして仮にキーオブパンドラで我々を邪魔しようとも、兵員は十分そろっている、と。

 他の種族とも同盟は済んでいる。あとは貴女の要望通り、この世界からの退去を望むハグレを受け入れるだけですな」

 そう言ってから、マーロウは自身の口からため息が漏れるのを禁じ得なかった。

 

「どうかしましたか?」

「ああ、いえ、我々と彼らの意識がここまで開いているのか、と思いまして」

 新たにこの世界にハグレとしてやってきた面々と、以前よりのハグレ達の間に意識の差が生じていることに、彼は頭を悩ませていた。

 

「ええ、先ほども両者の言い争いを聞きました」

「それはお恥ずかしい所を見せましたな。

 しかし、それも仕方がないことでしょう。戦いには数が必要なのですから」

 そこまで言ってから、マーロウは自嘲気味に笑った。

 

「シノブ殿、あなたはもう十分に協力してくれました。

 手を引くのなら早めの方が良い。これは我々の戦いなのですから」

「どうして急にそのようなことを?」

「いえ、戦争とはいくつもの“仕方ない”で出来ているのだと笑ってしまったのですよ」

 彼は笑いをかみ殺して、こう言った。

 

「味方同士で言い争いをしても仕方ない、他の同盟種族たちが略奪に走っても仕方がない。

 そして、自分が育てた娘や孤児たちを戦争に巻き込むのも仕方がない、と」

「……そう、ですか」

 マーロウの言葉に、シノブは目を伏せた。

 

「あなたも薄々わかっているのでしょう? 

 どうせ我々が勝ったとしても、やってくる未来は大して明るくなどない、と。

 今より多少はマシか、ともすれば悪いかもしれない」

 だからと言って、止めるという選択肢は端っから彼には無かったのだから。

 

「現状維持に甘んじるよりはマシだと、私は思います。

 ですがマーロウさん、あなたは後悔しているんですか?」

「まさか。あのまま狭い村の中で機会を窺っていたところで、その機会はどうせ私が剣を握れる間にはやってこなかったでしょう。

 今より発展したハグレ王国が帝国の間に入り、我々はどちらも敵に回す結果になるだけだ」

 マーロウの想像を、彼よりずっと優れた頭脳を持つシノブは否定しなかった。

 

「彼らは少なくとも、自分たちの意志で協力してくれた。

 それは我々を憐れんでいたり同情や義憤ではないにしろ、機会をくれたのは彼らも同じだ。

 我々が勝てさえすれば、彼らにそれ相応の礼をすることができる」

「……わかりました」

 マーロウが彼らを同胞として見ている以上、シノブは彼に何も言うことはなかった。

 

 二人がそんな話をしていると、拠点の中がざわざわと騒がしくなり始めた。

 

「おい、どうした。何があった?」

「そ、それが、マーロウさんッ!!」

 近くを通りがかった獣人の一人を掴まえ尋ねると、彼は広場を指差した。

 そこには、最近新しく相互ゲートでこちらの世界にやって来たばかりのハグレたちが集まっていた。

 

「これは何の騒ぎだッ」

 彼がその謎の騒ぎを一喝しようとした、その時だった。

 

 空から一筋の光が舞い降りたのは。

 その眩しさから彼は腕で顔を庇うが、周囲は感嘆のような声が聞こえるばかりだった。

 

 光が消えると、その中心には石像がいつの間にか設置されており、その石像は独りでに人間のような質感を帯びて動き出したではないか。

 

「我が信者たちよ」

 呆気に取られているマーロウを尻目に、彼女は空中に紋章を浮かび上がらせた。

 尾を噛む蛇の内側にリンゴが描かれたようなその紋章を。

 それを見て、様々な名で彼女を呼んでいたハグレ達は一斉にひれ伏した。

 

「あなた達の誇りある戦いを、私は許しましょう」

 石像が、ハグレ達にそう告げた。

 

「奪われた尊厳や自由を取り戻す戦いを、私は許します

 あなた達との戦いで傷つき、倒れる者を私が慰撫しましょう。

 だから存分に殺しなさい。そして報われぬ者達の為に倒れたのならば、私がより良い来世を保証しましょう。

 あなた達の戦いを、私は見守っていますよ」

 まるで慈母のように、彼女は戦争や人々の残虐性を肯定した。

 全て自分が許すからという、甘い毒を与えて。

 

「これは、やられましたね……」

 呆然としているマーロウの後ろで、そんなシノブの呟きが聞こえたのだった。

 

 

 

 

「まずは女神様、我々の戦いへのご支援を感謝申し上げます」

 マーロウは目の前に佇む女神像に頭を下げた。

 彼女が信者に与えたのは言葉だけでなかった。

 

 剣や弓、矢や鎧と言った物資や食料を惜しげもなく与えたのだ。

 これで黙って帰すほど、マーロウは落ちぶれてはいなかった。

 

「しかし、あなたは……」

 マーロウは口ごもって、シノブを見やった。

 

「ええ、あなたはハグレ王国の女神だったのでは?」

「それとこれとは関係ないわ」

 シノブの問いに、女神ビルーダーは微笑みながら出されたお茶をすすった。

 

「私は私に祈る者に等しく恩恵を与えるだけだわ。

 むしろあっちは私に何も望まないくらいだし」

「なるほど、ここ最近の召喚魔法の違和感の正体はあなたでしたか」

「どういうことですか、シノブさん?」

 どこか確信を持って言うシノブに、マーロウが問いかけた。

 

「私が相互ゲートで繋げた世界は全て、あなたの信者が存在する場所へと誘導されていたのでしょう。

 やられました。これで彼らを帰すという選択肢も我々は取れなくなりました」

「ふふふ、私が説明するまでも無いと言うのは楽で良いわ」

 みなまで言う必要の無い頭の回転の良さに、ビルーダーは笑みを浮かべた。

 

「でも安心しなさい、私は今、神として来ているの。

 あなた達を支援しようとしているのも本心からだし、このことは私の独断であり、仮に王国の面々に知られたとしてもこの決定を曲げることは無いわ」

「それは、どうして……?」

「だってあの帝都は醜いんだもの」

 マーロウの疑問に、ビルーダーは笑みを浮かべたままあっさりと答えた。

 

「私は文明を見渡す叡智の女神。

 ハグレから技術を奪い、利権を貪り、歪な繁栄を謳歌しているあの醜い都市をいかにして滅ぼそうかと、こっちに降り立ってからずっと考えていたわ。

 あなたも、そうでしょう?」

「…………」

 ビルーダーの言葉に、シノブは答えなかった。

 

「あなた達がやりたいと言うから、私は自分の信者に喝を入れて貸してあげることにしたわ。存分に使ってやりなさい」

「あなたは自分の信者を道具のように仰るんですね」

「彼らを見たでしょう? あなた達を嘲っていた彼らは、今では顔つきが変わってやる気に満ちている。

 彼ら、というより信仰そのものが道具なのよ。

 私はシステムであり、信仰はそのツールでしかないわ」

 女神の言葉を、マーロウはその真意の半分も理解できなかった。いや、理解したくなかった。

 

「あなた達が勝った後、世界の荒廃が気になるなら私に祈りなさい。

 私がこの大陸に新しい秩序を齎しましょう。少なくともあなた達ハグレやこの世界の住人との間に差別や迫害は許さないところにすることは約束するわ。

 私は等しく奪い、そして与えるわ」

「しかし女神様、そんなことをして、いったいあなたにどんな利益が?」

「っぷくく、あなた面白いことを言うのね。神が利益を求めるとでも? 

 火が燃えることに対して火に利益があるのか、とあなたは聞くのかしら?」

「し、失礼しました」

 機嫌を損ねたと感じたのか、マーロウは彼女に頭を下げた。

 彼は本能で、神として振る舞う彼女の機嫌を損なうことが一体どのような惨状を引き起こすか察していた。

 

「さて、ついでの用事はこれでおしまい。

 本命の用事について話しましょうか」

 ビルーダーはそう言って、シノブへと向き直った。

 

「ねえシノブ。私の代行者になる気はあるかしら?」

「え?」

 その突然の申し出に、シノブは驚いて目を見開き、答えを待つ女神を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 




これで異世界編は終わりですね。
次回に拠点内会話を挟んで、とうとうあの子の登場です。

以前、イリス様の口調に悩んでいた私ですが、最近もしかしたら柚葉の方が面倒なのでは? という以外でも何でもない伏兵に気付いた次第です。

アンケートの結果ですが、ほぼ満場一致だったのでもう締切にしておきます。
ビルーダー編を選んでくれた人、驚いただろうなぁ……。
三章のアナザーストーリーはマルース編を前提に話を作っていくことにしますね。
まあ、そっちの方が気になるっていうのはわかりますww 仮にも主人公ですし。

それではまた、次回をお楽しみください!!

三章のアナザーストーリー、どちらを先にやってほしいですか? 選べれなかった方が四章後になります。

  • スーサイドヘル(マルース編)
  • 報復の呪印(ビルーダー編)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。