『拠点内イベント ローズマリーの帰郷 』
ハグレ王国の面々がデーリッチ救出に成功した二日後、皆の後押しを受けてローズマリーは実家に帰ることとなった。
その付添いとして、来なくていいと言われているのに何人かが無理矢理ついてきた形となった。
そして彼女の故郷の町にやってきて、彼女の実家にローズマリーはデーリッチを伴い帰ったわけだが。
「ローズマリー!! お前今までどこ行ってやがったんだ!!」
と言った怒声が外まで聞こえてきた。
「これは長引きそうじゃな……」
興味本位で付いてきたドリントルはそうぼやいた。
「まあ、無理もあるまい。
ローズマリーが家出して最低でも半年以上じゃ。普通ならどこかで死んでいたりしていても可笑しくあるまいしな」
と、話がこじれるかもしれないから、と心配して付いてきたティーティー様がそう言った。
「これではしばらく僕の出番も無さそうですね……」
信頼できる身内の取引先ができると期待して付いてきたベルも、ため息を吐いた。
「ま、父親なんてそう言うもんだろ」
「父親歴ひと月もないのに言うわね」
「ふん、父親のいない人間なんて居ないだろ。
ハグレは基本的に家族ともう二度と会えることが無いんだ。
マリちゃんだって、和解できるうちに和解した方が良いだろう? 親はいつまでも居ると思うなって言うし、気付いたら死別していたなんてなったら救われんしな」
何となく付いてきたらしいヤエに、マルースはそう返した。
「まあ、おぬしも偶には大人の男らしいことをしてやれたと思うぞ。
そうやって若者に道を示していけば、おぬしの評価も変わるじゃろうに……」
「学者を志した身と言えど、やっぱりそう言うのは性に合わないんでしょうね」
ティーティー様のお言葉にマルースは肩を竦めた。
彼は怒鳴り声の止んだ小さな薬屋の窓を見てみると、どこかやつれている男がローズマリーを抱きしめて涙を流しているのが見えた。
「父親、ですか……。
僕もいつかおじさんに恩返ししないとなぁ」
「ああ、あのたこ焼き屋の親父、すごいよな。
ハグレの子供を引き取って息子同然に育ててやるだなんて」
「うむ、マルースもあの男を見習った方が良いのではないか?」
「ティーティー様、なんだか辛辣ぅ!?」
ベルがザンブラコにいる親代わりのおじさんに思いを馳せている横で、マルースはティーティー様の刺々しいコメントに涙目だった。
「私も、指名手配なんてされちゃったし、一度でいいから両親に顔見せに行った方がいいかなぁ」
と、ローズマリーを心配して付いてきたエステルが暗い表情で呟いた。
「っていうか、何だかんだで大人数で来たなぁ。別に戦闘なんて起きないのに。
ってか、エステルちゃんはマジで親に顔見せた方がいいよ。俺だったら寿命が縮むぜ、家族が指名手配なんてされたら」
「そっかー、そうだよなー、なんか憂鬱……」
既に怒られることを想像してか、エステルはマルースの助言に俯いてしまった。
「……相互ゲートが完成すれば、いつか故郷の家族の元に還れるハグレも現れるのかしら」
「やめて、ヤエさん。ただでさえ憂鬱なのに更に憂鬱な案件を思い出させないでよ」
「……そうね。無神経だったわ」
肩まで落とすエステルを見て、ヤエは表情を変えずに謝罪を述べた。
「だけど十年後辺りは、もう別の世界と自由に行き来できそうよね」
「その辺の話はマナに直接聞いてないんだが、たぶん技術的にはそうなんだろうなぁ。
ただ、大勢のハグレが行き来してわいわいできている、って感じじゃなかったが。
未来のシノブちゃんは大きなプロジェクトに関わっている、とかマナは言ってたが実際はどうなんだろうな」
「どのみち、過度な技術の発展はビルーダー様が許さないんでしょう。
あの人、技術の取捨選択には煩そうだし」
「まあ、そうなんだろうな」
マルースはヤエとそんな会話をしながら、窓の向こうでデーリッチの話をちゃんと聞いてあげているらしいローズマリーの父の姿を見ていた。
彼は真剣な様子で、恐らくデーリッチが語るハグレ王国の話を聞いているのだろう。
「どうやら、向こうは何事も無く終わりそうじゃな」
「一先ず、一安心ってとこか」
「ベルくーん!! ローズマリーのお父さんがね、ぜひともベル君のお店と取引したいって!!」
ドリントルとマルースが安堵の息を吐いていると、薬屋の中からデーリッチが満面の笑みで飛び出してきた。
「あ、はい、わかりました。ちょっと詳しい話をしてきますね!!」
「ベル君、急がなくたっていいんだよ」
顔を上げて駆け出していくベルの姿に、実家から出てきたローズマリーが苦笑してそう言った。
「ああー、どうだった、マリちゃん」
「マルースさんの言った通り、たっぷり叱られましたよ。
あんなに怒った父を見たのは初めてでした」
そう語ったローズマリーは穏やかで優しげな表情をしていた。
「ここからじゃ見えなかったが、おふくろさんはどうだった? 和解できたか?」
「いえ、どうやら私が家出してすぐに離婚したそうです。
私が家出したせいで、夫婦間が険悪になったらしく……」
「……そうか、まあ気にするなよ。
きっと、遅かれ早かれそうなってたさ」
マルースの励ましに、ええ、と彼女は控えめに頷いた。
「それと、ちゃんと言えましたよ」
「うん? 何がだ?」
「酔ってて覚えていないんですか?
ほら、──私は父が正義を貫ける王国を作ったんだって、ね」
そう言ってデーリッチを見やるローズマリーは、とても誇らしげな笑みを浮かべていたのだった。
『拠点内イベント 分岐点 』
「なるほど、無事そちらのデーリッチさんを助けることができたのですね」
「うん、あのねあのね、私ビルーダー様の本体にお願いしてね、ばばーん!! ってみんなを援護したんだよー!!」
「そうですか」
未来のシノブはマナの満面の笑みに頷き返した。
「じゃあ私、マリちゃんにもあっちのデーリッチを助けられたって教えてくるねー!!」
「そうね、早く教えてあげた方がいいわ」
シノブはそう言って、研究室を去っていくマナに手を振った。
「でもさ、それってあっちじゃマナが産まれなくなっちゃうってことじゃないの?」
シノブと一緒に報告を聞いていたエステルが、首を傾げた。
「さて、どうでしょうか。
ビルーダー様は、人の役割は代替できると仰っていたわ。
あっちでは申し子としての役割を持たないマナが産まれる可能性は十分にあるわね」
「だとしたら、何だか腑に落ちないわね。
話を聞く限り、あっちの私とこの私の十年前の差異は殆どなかったわ。
私の努力が足りなかった、と言われればそれまでだけど、いったいどういう要因が重なってデーリッチを助けられなかったのかしら」
エステルは少し顔を顰めて疑問を口にした。
「エステル、分岐点がある道は左右に分かれているわよね?」
「え、そりゃあ、当たり前じゃないの?」
「そうね。それは歴史の分岐点にも言えることなのよ。
右もあれば左もある。デーリッチさんが助けられなかった世界もあれば、助けられた世界もある、と言うことなのよ、恐らく」
「はぁ!?」
シノブの推察に、エステルは椅子を蹴って立ち上がった。
「なにそれ!! それじゃあ、私たちがデーリッチを助けられなかったのは、初めからそっちの道を進むという結果に逸れていたってことじゃない!!」
「それが一般的に言う、運命と言うやつの正体なのかもね」
「ふざけんじゃないわよ!!
私たちは自分たちの道を選ぶこともできないってことかよ!!」
エステルは怒りのままに持っていた資料をテーブルに叩きつけた。
「私の気持ち、分かってくれたでしょう?」
「あ……」
儚げに笑みを浮かべるシノブを見やり、エステルは固まった。
「そっか、だからシノブはあんな……」
「歴史の分岐点、平行世界とはそういうものよ。
人間には無限の可能性がある、と誰かが言ったわね。
その人は一人の人間の生と死が未来に大きな影響を及ぼすだなんて想像していたのかしら」
シノブはそう呟いて、机の上に放り出されているキーオブクロノスを見やる。
「私たちとは違う、もう一つの分岐点を経たあの世界の私はビルーダー様の代行者になるのかしら。
いいえ、きっとなるのでしょうね。あの方は人の追い詰め方を熟知している。ともすれば悪魔のように、人間を知り尽くす人の女神なのだから」
「でもぶっちゃけさ、ビルーダー様の所為だよね。
シノブが地獄行き確定の大罪を犯しかけたのって」
エステルは顔を顰めたまま、シノブに険しい声でそう言った。
「それを言ったら、私がビルーダー様の誘いに乗ったのも過去の自分の行いの所為よ」
「だけど……」
「運命の理不尽に怒る気持ちはわかるわ。
だけどそれを言ったら、デーリッチさんとローズマリーさんが出会わなかった分岐点を経た未来も、私とエステルたちが出会わなかった分岐点を経た未来も、別の私たちが辿って同じ平行する時間を生きているのよ。
歴史と言う大筋の中で、私たちは無数のアレンジの中に生きている。それを否定することは、誰にもできないわ」
「…………」
エステルは何か言いたげにシノブを見ていた。
「それに、キーオブパンドラがデーリッチさんの手にある以上、私が大罪を犯そうとすることも無いでしょう。
それでも、私はこの事実に気づいてしまうのでしょうけれど」
「頭が良すぎるってのも考え物よね……」
やがて、エステルはため息を吐いてそう言った。
「分岐点は道と言うより川の流れのようなもの。
私たち人間はその上に落ちる木の葉のように、その流れは時間のように逆らうことはできない。
それでも、私たちは足掻くことぐらいできるわ。意志ある存在として」
「だけどその結果が、あれだもんなぁ……」
「もう、良いことを言っているんだからそろそろ昔のことは流してよ」
「そう簡単に笑って流してたまるか!! 私たちがいったいどれだけ苦労したか、その胸に聞いてあげようかしら!!」
「やめてぇ!!」
そうして二人が乳繰り合っていると、一人の男が疲れた様子でやってきた。
「楽しそうだな、お前たち……」
「あ、パシリ。そっちはどうだった?」
「誰がパシリだ!! パシリはどちらかと言うとお前じゃないか、エステル。
ふん、俺を誰だと思ってる。ちゃんと女神様のコネで貴族どもから金を絞り出してきたよ」
「よっしゃ!! これで毎日15ゴールドのかけそば生活から脱せる!! いよ、大明神!!」
その報告にエステルは狂喜乱舞した。
「お疲れ様です、ああ、これで滞っていた研究が進められる……」
「まったく、今のこいつらを見てるとかつての俺が情けなくなる……」
神に感謝の祈りを捧げているシノブやエステルを見て、彼はがっくりと肩を落としてため息を吐いたのだった。
『拠点内会話 フラストレーション 』
「はぁ……」
「どうした、先輩。ため息なんて吐いて」
あくる日、マルースは拠点中央の共有スペースでため息を吐いていた。
「ああいや、結局この間の会議で、シノブちゃんの生家の爆破は却下されたじゃん?」
「あー、あれか。まさか本気でやるつもりだったのか?」
「当たり前だろう。軍事力がそうであるように、やったらやり返されるって抑止力は必要なんだから。
あいつらは仮にも国家として体面ってものをわかってないんだから」
「なるほど、元軍人らしい意見だな」
この男がいざとなったら本当の意味で手段を択ばないことを先日思い知ったジュリアは、こんな提案をしてみた。
「たまに、戦意が空回りしている同僚を見かける。
先輩はおそらく戦いの矛先を失い、フラストレーションが溜まっているんだろう。
ちょっとぐらい発散してきたらどうだ? 他の傭兵たちも娼館などによく通っていたし」
「残念ながら、丁度手持ちの金が底を尽きかけてる」
「おやおや」
「これはもう、プリシラに拝みこむしかないか……」
「ほう、先輩の事だから普通に押し倒すのかと」
「仕事!! 仕事貰いに行くんだよ!!」
まったく、とマルースは楽しそうに笑みを浮かべているジュリアを恨みがましそうに見やった。
「まあ、俺は俺でフラストレーションを発散する方法を探してみるわ」
「そうしてくれ。私も先輩を性犯罪者として逮捕したくはないしな」
「そんな情けない真似するか!!」
「ははは!!」
マルースのそんな声を背に受けながら、ジュリアは去って行った。
ハグレ警察なら仕事は有り余ってるのに、と内心ぼやきながら。
そして翌日。
「ぐへ、ぐへへへ、むっははははは!!」
マルースは気持ち悪い笑みを浮かべながら、何やら紙に何かをひたすらに書いていた。
「あのー、マルースさん」
「うん? どうした、マリちゃん」
そんな彼の前に、ローズマリーが顔を顰めてやってきた。
「みんなが気味悪がっているんですけど」
「ああ、そうなのか? ちょっと楽しくなってな」
「ちなみに、いったい何を書いているんですか?」
「ちょっとした小説だよ。俺なりにこの間のフラストレーションを発散しようと思ってさ」
マルースはそう言って、数ページの紙束を示した。
「へぇ、マルースさんに文才があるとは意外でした。
でもその小説、いかがわしい内容じゃありませんよね?」
「気になるのなら読んでみればいいだろ。感想も欲しかったし」
「じゃあ、ちょっとだけ」
ローズマリーは若干警戒しながらも、紙束を手に取った。
『タイトル『真夏の夜の白昼夢』
第一章、第一節。
私は兼ねてよりの計画を実行することにした。
ここ最近、毎夜毎夜に彼女が廊下を通るのを息を潜めて待った。
一週間、二週間、それだけの時間を獲物を待つ狙撃手のように待ち続け、機会を待った。
そしてその時は訪れたのだ。
トイレに行った帰りだろうか、眠そうな目をこすって暗い廊下を歩く彼女を、用意しておいたプラズマバキュームを広げ、彼女の背後から覆い被せた。
突然のことに驚き、暴れる彼女も、抵抗できないと悟ると次第にしおらしくなっていった。
私は彼女を自室に連れ込むと鍵を掛け、ベッドに目を向ける。
そこには私の最愛のヒト、ツッチーがプラズマバキュームで縛り上げられている姿があった。
「プリスカ、だよな? どうしてこんなことを……」
「ツッチーが悪いのよ、いつまで経っても私の物にならないんだから」
「そんな、だって私たち、親友じゃないか。
こんなこと止めよう? 今なら無かったことにしてあげるから」
彼女の必死の訴えは、私の内なる欲望を燃え上がらせる結果となるだけだった。
ああ、ツッチー、ツッチー!!
私の愛しい人!!
その細い手足も、小さな体も、私を怯えて見上げている可愛くて小さな顔も、全部全部全部食べてしまいたい、私のものにしたい!!』
「…………」
そこまで読んで、ローズマリーは紙束を置いた。
「なんですか、この内容……」
彼女は自分でも驚くほど感情の無い声で、今だ執筆を続けているマルースに問うた。
「クレイジーメンヘラサイコレズに付け狙われ、監禁されることになるとある妖精の話だ」
「どう見てもヅッチーのことじゃないですか!!
それにこれ、主人公はぼかされているけどプリシラさんのことですよね!?」
「登場人物は現実の人物や団体とは一切関係ありません!!
それっぽいかもしれないけど、全くの別人です!!」
「そう言うことを言ってるんじゃないんですよッ!!
これのどこがいかがわしくない内容なんですか!!」
そのツッコミどころしかない内容に、ローズマリーはそのように訴えかけたのだが。
「なんだ、まだ一ページも読んでないじゃないか。
犯罪小説なんて珍しくもないし、こういうのはいかがわしいんじゃなくて耽美って言うんだ。18禁要素は一切ないぞ。
見ろよ、犯人との語り合いで徐々にほだされていくツッチーの描写を!!
ここらへん特にこだわったの!! そしてプリスカが監禁部屋に出入りする度にキスを迫り、ツッチーはやがて監禁される自分を受け入れて行くんだ!!
そして、これから物語は部屋の中の二人から周囲の人間関係に派生してだな!!」
「く、普通に面白そうなのがムカつく!!」
いろいろなところを無視すれば普通に力作を書こうとしているマルースに、ローズマリーは拳を握って悔しそうな表情を浮かべた。
「ちなみに二章では、マンネンロウというロリコンの紳士を主人公にしようと思っててな。
彼は町の外で倒れていた少女を保護し、その仕草や肢体をつぶさに描写しようかと考えている」
「ああそうですか……って、マンネンロウって私のことか!!
なに人を勝手にロリコンとして出そうとしているんですかッ!?」
「だから似てるだけの別人だって、しかも彼は男性だぞ。
そして三章では彼がひょんなことから監禁されているツッチーを目撃し、その姿に一目で魅了され──」
「やめろー!! その先の展開が気になりそうな話は止めろー!!
と言うかさりげなく私のことをロリコン扱いしてないか!?」
この後しばらく、ローズマリーのツッコミは止むことはなかった。
結局、マルースの執筆活動はその後も続くことになり……。
「ちょっとマルースさん!! 私たちが異常な姉妹愛を持った二人として登場してるんだけれど!!」
「お姉ちゃんお姉ちゃんッ!! ツッチーが、ツッチーが、マンネンロウさんの助力で、一瞬の隙を見て監禁から脱したところでプリスカに見つかって、今大変なの!!」
「待って!! ちょっと待って!! そこまだ読んでないからネタバレしないで、ヘル!!」
いつの間にか読者が増えて、収拾がつかない状態になっていた。
「もうすでに五章まで執筆しているよ……」
書き始めてから一週間程度なのに、結構な量を書いているマルースにローズマリーは呆れていた。
「人間、どんな才能があるかわからんもんじゃのな……」
「えへへ、ティーティー様!! マルちゃんの小説に今度ハオも出してくれるんだって!!」
「そうか……」
一体どんな絡ませ方をされるのか想像して、ティーティー様は無邪気に笑うハオを見て遠い目になった。
そして、そんなこんなで異常な性癖や愛情を持った者同士の人間模様を描いたマルースの小説が刊行されることが決まろうとは、この時拠点に居る誰もが想像だにしていなかったのである。
ヅッチーにプラズマバキューム使うネタはいつかやってみたかったのですが、主人公が絡むと犯罪にしか見えなかったので、こんな風にしました。
いやぁ、しおらしくなるヅッチーがどんなのか見てみたいですねー!!
次回はもう一回間を挟むかもしれません。
あの後のシノブとビルーダーの様子を書かずに先には進めないので。
もう一つくらい何か別の話を考えておかないと、それでようやくメインストーリーが進む感じでしょうか。
それではまた、次回をお楽しみに!!