アナザー・アクターズ   作:やーなん

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38.女神の誤算

『 エステル、閃く 』

 

 

「マナさー、正直どう思うの? 

 デーリッチがこうして生き残った以上、マナが産まれてこなくなったわけじゃない」

 あくる日、エステルが一人でお絵かきをしているマナにそんなことを言った。

 

「それがね、博士に聞いてみたの。

 そしたら、別にそんなこと無いんだって。

 申し子じゃない私が産まれることも十分あり得るんだって」

「あ、そうなの? 

 それを聞いてホッとしたわ。せっかく死亡フラグを回避したらマナにしわ寄せがくるなんて嫌だもんな」

 エステルはマナの言葉に安堵の息を吐いた。

 

「そう言えばさ、つい先日後輩から手紙が来たのよ。

 あいつずいぶん出世してるみたいでさ。でも十年後は召喚士協会は無いんだろ? 

 じゃあメニャーニャのやつ、どうしてるのかなって」

「さあ、もっと出世してるんじゃないの?」

「なんだなんだ、素っ気ないな。もしかしてマナとメニャーニャって仲が悪いの?」

 エステルはこれまでの経験でマナは嫌いな人物の話題になると素っ気ない態度になるのをよく知っていた。

 

「知らなーい。あの人全然遊んでくれないし」

「まあ、子供と遊んであげるってタイプじゃないよな」

 つーんとした態度を貫くマナを、どこか可笑しそうにエステルは見ていた。

 そうしていると不機嫌になったのか、ぷいっとマナは顔を背けた。

 

「よしよし、悪かったって。

 それにしても髪の毛伸びたね、切ってあげようか?」

「いい、マリちゃんがやってくれるし」

「ふふふ、デーリッチみたいにツインテールにしてみたら?」

 そう言ってエステルがマナの髪型を弄り始めると、うん? と首を傾げた。

 

「(この髪の色、あの顔を背ける仕草、いや、いやいやまさか……)」

 既視感を覚えたエステルは試しにマナの髪型をツーサイドアップにしてみた。

 

「あ、ああ、ああ──!!」

「エステルちゃん、耳元で大声出さないでよ!!」

「あ、悪い悪い。ところで、マナって母親似だって言われない?」

「…………」

 マナにとってそれは不愉快な言葉なのか、彼女はだんまりだった。

 

「そっか、マナも将来ぺたんこか……」

「ち、違うもん!! 私は将来性があるもん!! ママと一緒にしないで!! 

 私はエステルちゃんみたいにぼんきゅぼんになるんだもん!!」

 エステルの憐みに反射的にマナは言い返したが、彼女はハッとなって口を両手で押さえた。

 

「あはは、もう遅いぞ~マナ。

 そっか、そうか、あいつ、そんなに偉くなるのか……」

 エステルは何だか後輩が遠いところに行ってしまったような感覚に襲われていた。

 

「それに、結局あの胸は成長しなかったのか……」

 そしてその事実にほろりと涙を流すエステルだった。

 

「ま、まああいつは素っ気ないやつだけどさ、そんなに嫌いになるほどか?」

「だって、ママ。いつもみんなと喧嘩してるし。

 マリちゃんやプリシラちゃんと税金の話でいつも怒鳴り合うし、パパが色目使うとすぐに不機嫌になるし喧嘩するし」

「あー、なるほどな……あいつ、あっちじゃ、うちらから税金取り立てる立場なのか」

「ねぇエステルちゃん、今からでも良いからパパと結婚してあげて。

 私、エステルちゃんがママの方がいいもん」

「こら、そんなこと言っちゃいけません」

 エステルがマナを小突くと、あうぅ、と彼女は小さく呻いた。

 

「だいたい、マルースさんは私を女として見てないじゃん。……改めてムカつくわ」

「でも早く結婚しないと、またママに先輩たちまだ独り身なんですかって煽られちゃうよ」

「あ、あんにゃろ~~!!」

 未来の後輩のドヤ顔を勝手に想像し、怒りに打ち震えるエステル。

 

「博士みたいに、もう研究と結婚してますから、なんて言っちゃダメだよ」

「シノブぇ……」

 そして親友の未来にも涙するエステルだった。

 

 

 

『 帝都防衛キャンプへ 』

 

 

 事の発端はエステル宛に届いた手紙にあった。

 特務召喚士にして協会長代理として、エステルの後輩のメニャーニャが傭兵を募集している広告と共に応援要請を送ってきたのだ。

 彼女は若くして軍団を率いるほどで、その補佐をしてほしい、と。

 エステル曰く、この歳でこれ以上ないほど出世しているとのことだった。

 

 手紙には見たことのない魔物が急激に増えていて、帝都付属の村を無差別に襲っていると書かれていた。

 ゆえに拠点にしている砦を一掃するという作戦がその手紙に提示されていた。

 

 エステルはシノブのゲートが関与している可能性を含め調査したかったようなので、渡りに船の要請だったようだ。

 ローズマリーはハグレ同士で戦うことに難色を示したが、デーリッチはハグレ王国として悪者は懲らしめることが正義であると語った。

 その言葉を受けてローズマリーは頷き、話だけでも聞きに行こうということになった。

 それが先日の会議での話である。

 

「それにしても、エステルちゃんの後輩が協会長代理ねぇ。

 ウォレッシュの髭ジジイもいよいよ隠居が間近か」

 と言ったマルースの軽口もすぐに掻き消えるような事態となった。

 いつものキーオブパンドラのゲート移動で目的地付近に出てみると、一行はいきなりサハギン達に襲われたのだ。

 

「まったく、最近サハギン族による略奪が各地で起きていて大変だとは傭兵仲間から聞いてはいたが……」

「こいつらあれだろ、マーロウの旦那のお仲間ってことだろ? 

 本当に、つるむにしてももっと品のある相手はいなかったのかねぇ」

 ジュリアとマルースが連携して味方を守り、デーリッチ達後衛が魔法でサハギン達を蹴散らした。

 

「サハギンなんて所詮、人か魔物か分からないような連中だってことでしょう」

 そんなサハギン達を見て、ビルーダーがため息を吐いていた。

 そうしていると、召喚士協会員を引きつれたメニャーニャが現れた。

 旧交を温めているエステルと彼女だったが、メニャーニャは奇襲を阻止できたのはハグレ王国の先遣隊のおかげだと言ったのだ。

 その話に、一行は首を傾げた。

 ローズマリーがその先遣隊の斥候の存在を否定すると、メニャーニャも首を傾げてしまい、事実確認をすることと相成った。

 

「おい、エステル。あの子めっちゃ好みだわ。紹介しろよ」

「え、あー、うん。マルースさんが乗り気なようでちょっと安心したわ」

「あん?」

「ああいや、なんでもないの」

 マルースがエステルの腰を肘で突いてニヤニヤしながら催促すると、エステルはなんだか微妙な笑みを帰した。

 

「マルースさんって今、歳いくつだっけ?」

「32だけど? なんだ? 乗り気なのか?」

「歳の差は倍かぁ、でも、うん、まあ、とりあえずまた今度ね?」

「おう、とりあえずは目の前の面倒事を片付けてからだわな」

 約束を取り付けたからか、マルースはうきうきして足取りが軽くなったようだった。

 

「これもマナの為、なんだけど、うーん。

 なるほどなぁ、あの二人が掛け合わさるとああなるのかー。ある意味納得と言うかなんというか」

 エステルは遺伝子学の神秘に頭を捻るのであった。

 

 

 

 §§§

 

 

 ハグレ王国の斥候と思われていたハグレは、なんとマーロウの娘であるクウェウリだった。

 彼女は今、負傷して眠っている最中であった。

 何と彼女は奇襲をこの砦に告げただけでなく、自らも戦いに出たというからそれを聞いたデーリッチ達も困惑していた。

 とりあえず、ことの真相は彼女が起きてから尋ねるということでまとまったのだった。

 

 一方、エステルとメニャーニャは遺跡を改造して砦にしたこのキャンプの兵器貯蔵庫へとやってきていた。

 ずらりと並んだ大砲を見て、エステルがこんなの協会が保有してていいのかと尋ねると、彼女は正確な数を把握していないだろうから大丈夫みたいなニュアンスで返した。

 全部自分で作っているから、と。

 

 唖然としているエステルを、見せたかったのはそんなおまけではない、と彼女は奥へと招いた。

 その先にはさらにエステルを驚愕させる光景が広がっていた。

 幾つもの古代の魔導兵器が鎮座していたのである。

 

 驚くべきことに、これらはメニャーニャが地上で再現した代物なのだと言うのだ。

 彼女はマナエネルギーで動くこれらを全天候で戦わせる為のエネルギー供給の方法を享受してほしいのだと語った。このままでは雨でしか継続戦闘ができないのだと。

 それに対してエステルは慌てて自分を買い被りすぎている、と話した。

 そんな方法は知らない、と。

 

 しかしメニャーニャはマナジャムの実の存在を知っているようで、その販売ルートなどを彼女に尋ねた。

 それを開発したのをエステルだと勘違いして。

 どうやらエステルがマナジャムを配っているところを確認したらしく、それが誤解の要因となったようだった。

 

 エステルはマナジャムはシノブが開発して残していったものだと彼女に訴えた。

 それを聞いて、メニャーニャは他のぼんくらとは違うと思っていたらしいエステルに少しばかり落胆した様子で、マナジャムを譲ってもらえるのかと尋ねた、そんな時だった。

 

「ああ、なるほど……これは悪いことをしてしまったわね」

「誰です? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

 メニャーニャは保管庫の入り口から入って来た人物に目を向けた。

 

「あ、ビルーダー様。ああ大丈夫よメニャーニャ。

 あの人はうちの国に所属してくれている女神様で……」

「知っていますよ。あの空に浮かぶ小島を作った方だと。

 他にも帝国貴族にも懇意にしている方々がいるとか」

 エステルが説明するまでもなく、メニャーニャの方でも既に調べはついているようだった。

 

「そう、私こそは数多の世界を股にかけ、文明を見渡す叡智の女神。

 この世界ではビルーダーと呼ばれているわね。

 正直、驚かされたわ。メニャーニャと言ったわね? あなたが彼女にがっかりする必要はないわ。

 エステルは私が認めた才覚の持ち主よ。そしてあなたも、我が恩恵に預かるにふさわしい知恵と技術を持っている」

「と、言いますと?」

「この種を育ててみなさい。

 マナジャムの約五十倍のマナを保有する実が成るわ」

 そう言って、ビルーダーは小さな種を幾つか種をメニャーニャに差し出した。

 

「うえッ、五十倍!? マナジャムの!? そんな凄い植物の種を貰えるだなんて、すごいじゃんメニャーニャ!!」

「ええ、それは素晴らしい!! 

 ────ところで、その50倍のマナってどこから出てくるんですか?」

 エステルは後輩が女神に認められたことを無邪気に喜んでいたが、メニャーニャは騙されなかった。

 

「それ、その特徴的な種の形はナス科の植物ですよね? 

 ナス科にはその名もズバリ、悪の名を冠した問題児がいます。

 その繁殖力や棘だけでなく、地下茎を伸ばし分裂するおかげで駆除もままならないという厄介者が」

「…………」

「その種を撒くとどうなりますか? 

 土地からマナを枯らしつくしてこの大陸をその植物の棘が覆い尽くす、なんて私の捻くれた想像でしょうか?」

「賢い、ええ賢いわね貴女。本当に」

 ビルーダーは彼女の知性を褒め称えながらその種を引っ込めた。

 そんなものを無造作に渡そうとしたのを見てエステルはゾッとしたような表情をしていた。

 

「ええその通り、これは冥界由来の植物で、私が独自に繁殖力を強化した生物兵器なのよ。

 傲り高ぶった文明を滅ぼすのに、ひと月も掛からない」

「私が自身の技術に傲り高ぶっている、と言いたいんですか、貴女は」

「ちょ、ちょっと待ってメニャーニャ。

 悪ふざけ、ほんの悪ふざけでしょう? ね、ビルーダー様?」

 メニャーニャがビルーダーに敵意さえ向けているのを見て、エステルが間をとりなすように割って入った。

 

「ええ、悪ふざけだったわ。ごめんなさいね。

 流石にそれを受け取ったとしたら、その場で取り返していたわ」

 それを聞いて、エステルはホッと息を吐いた。

 

「どうしてそんな真似を?」

「私の叡智の女神よ、気に入った人間を試さずにはいられないの。

 ゆえに、貴女のその知性と機転を称えましょう。あなたもまた、我が代行者にふさわしい才覚の持ち主だわ」

 ビルーダーは最大限の賛辞を持ってメニャーニャを称えた。

 

「メニャーニャ、あんた本当にすごいのね。

 ビルーダー様にこう言わせるのはシノブだけだと思ってたけど」

「まあ、シノブ先輩の後を継げるのは私だけだと自負していますが、と言うことはエステル先輩も?」

「いいえ、この子に私の代行者は無理ね。才覚はあるにはあるんだけど」

「ああ、それとは別に頭の方が残念ですからね……」

「おい!! そこは先輩を立てるところだろぉ!!」

 エステルがそんな風に怒ると、二人は可笑しそう笑った。

 彼女のおかげで険悪な雰囲気はすっかり消え失せていた。

 

「うーん、だからこそ参ったわね。一人は無類の研究者、もう一人は片方が持っていない物を持って私の基準を十分に満たしている。

 二兎を追う者は一兎も得ず、とはこの状況ね。的を絞るか、或いは……」

 そしてビルーダーは迷うことはしない主義だった。

 全ては賽の目しだいか、とそんなことを考えながら、今は保留と言う結論を出したのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 メニャーニャとの協議の結果、彼女は砦の攻略ではなく兵隊を供給している相互ゲートを叩く方針に転換したようだった。

 クウェウリの処遇もハグレ王国に一任してくれるようで、帝国側とは思えないほど手厚い配慮をしてくれた。

 

「ああそうだ、今回は獣人たちとやりあう可能性は低いですが、彼らの危険性はここ最近で急激に増しています。

 どうにも妙に結束力がましているようでしてね」

「それだけ士気が高いってことでしょうか? 

 それほどの数をもうすでに相互ゲートから用意したとして、容易に結束できるとは思えませんが」

 メニャーニャの忠告に、ローズマリーが首を捻った。

 

「それがどうにも、何らかのハグレの神を崇めることで宗教的結束を高めているようでして」

 メニャーニャはそう言って、一枚の紙をテーブルに置いた。

 

「その神の名を特定することは残念ながらできませんでした。

 かく乱なのか、こちらで探らせたその神の名は少なくとも十数通りもありました。そちらのビルーダー様の名前もあるくらいですから、おそらく呼び方に意味は無いのでしょう。

 これが、彼らの共通の神のシンボルと思しき図です」

 彼女が提示した紙には、尾を噛む蛇の内側にリンゴがあるシンボルが描かれていた。

 

「こ、このシンボルは!?」

 その図を見たローズマリーは驚愕し、同じく驚いているデーリッチとエステルと顔を見合わせた。

 

「うん? みなさん、何かご存じなんですか?」

「ええ、ですが、確証を得るまで話すのは控えさせてもらっても良いでしょうか。

 何分、私たちも混乱しているので……」

「……そうですか。わかりました。

 どういう事情かは分かりませんが、一先ずは私は船の手配をしに行ってきますので、その間に話をまとめておいてくださいね」

 そう言って、メニャーニャはテントから立ち去った。

 ついでに人払いをしてくれる気遣いまでして。

 

「ビルーダー様、このシンボルは現在獣人連合軍の結束を促している、ある神の象徴らしいです。何かご存じありませんか?」

 デーリッチ達は外で待機していた面々を呼び寄せると、ローズマリーは開口一番にビルーダーに尋ねた。

 

「ご存じも何も、最近相互ゲートでこの世界にやってきたハグレのほとんどは私と他の分体の信者よ」

「なぜ、そのことをご存じなんですか?」

「私は自分の信者たちの動向ぐらい、把握しているわ。

 彼らがこの世界のハグレたちの為に戦うと言うのだから、私はそれを許したまでだわ」

 ローズマリーの追及に、ビルーダーは涼しい表情で答えた。

 

「うーん、それってビルーダー様の仕事ってことでちよね? 

 じゃあどうして、戦うことを止めなかったんでちか?」

 デーリッチが不思議そうに彼女に問うた。

 

「止める? どうして?」

「いや、どうしてって……ビルーダー様は自分の信者が戦争で死ぬのかもしれないのに、それでいいんですか?」

「彼らが選んだことだわ。私は戦えと指図したわけでもないし、逆に戦うなとも言わなかった。

 戦うと決めた彼らを、後押ししたに過ぎないわ」

 ビルーダーはエステルにそう言うと、やや陰りのあるため息を吐いた。

 

「でも、まさかあの子があんな兵器や大砲を隠し持っていると知ったていたら、流石に別のやりようを示したわ。

 私は戦うことは許したけど、別に積極的に死んでほしいわけではないのだから」

 それは、いつも笑みを浮かべたまま神としての決断をする彼女には珍しい後悔が入り混じっていた。

 その様子に、みんなは顔を見合わせた。

 

「……ビルーダー様、この間のクリエッタ様の講義で、デーリッチたちも王国法を作ることを決めたんでち。

 まだ草案段階で公布したわけじゃないけど、そのうちの一つに、みんなの為にならない嘘や隠し事はしてはならない、って条文を決めたんでち。

 もしビルーダー様が自分がハグレ王国の一員だって思ってくれてるのなら、うちの法律を守ってくれると嬉しいでち」

 やがて、デーリッチが真摯な態度で彼女にそう訴えた。

 

「……この私に、法を守れですって?」

 その言葉に、ビルーダーは激怒した。

 

「敷かれた法の正しさを証明する私に向かって、法を破るのかと問うの!? 

 この私が、自分の決めたルールを破ったとでも言うの!!」

「少なくとも、デーリッチ達に黙ってマーロウさんたちに接触したのは確かなんでちよね? 

 ビルーダー様に公私があるのはわかってるつもりでちけど、本当に何の後ろめたさもないんでちか?」

「…………」

「相談、してくれないほど、デーリッチ達は頼りないんでちかね……?」

 不安げに、怒れる女神の威圧を真正面から受けていたデーリッチは涙目で訴えた。

 

「よさんか、ビルーダー。大人げない。

 どうみても、今回はおぬしの負けじゃろう」

 ため息と共に、やれやれとハオの手の上に居るティーティー様がそう言った。

 

「そう、ね。悪かったわ。

 獣人連合軍に対するハグレ王国の方針が明確ではないのを良いことに、仕事とはいえ不義を働いたのは事実だわ。

 帝都解体の次善の策として、連中を利用しようと他の分体たちの世界からハグレを手引きさせるよう誘導させたのもね」

「そんなことをしていたんですか……」

「所詮は次善の策よ。彼らを止めるにしても、あなた達がそれを望むのならやりやすいように手引きするつもりだったわ。

 だけどまさかこんな風に直接的な帝国との関わり合いを持って敵対するとは私も予想外だった。

 特に、あのメニャーニャと言う子は私の計算をすべて狂わせた」

 ビルーダーは少しだけ忌々しそうにしながらも、口元にはなぜか笑みが浮かんでいた。

 

「以前、この世界の文明レベルは40から45程度と言ったわね? 

 この文明レベルは1上げるだけでも十年単位の時間を必要とするわ。

 だけどあの子は、つい先ほど個人でこの世界の文明レベルを私に49と再定義させた。

 古代の遺跡を解析したとはいえ、驚異的な頭脳よ。あの時見せた銃を渡せば、涼しい顔で量産して50の壁を突き破るでしょうね。

 きっと彼女と戦えば私の信者たちは全滅必至でしょう」

「なるほど、彼女はそれほどでしたか……」

 ローズマリーはビルーダーの話を聞いて理解した。

 つい先ほどまで目の前で協議していた自分と同年代の少女が、シノブにも勝るとも劣らない恐ろしい相手であると。

 

「私にとって、それはついでの用事に過ぎなかったわ。

 本命はシノブの勧誘にあったわ。そしてその目的を達成した今、獣人たちの前に私が姿を現す必要もなくなったのが幸いだったわ」

「それって、どういう意味ですか?」

「私は獣人たちに帝国と戦えるだけの十分な支援をしたわ。

 だけど文明レベルが再定義された以上、それに勝てる装備を渡さざるを得なくなるところだった。

 そうなったら双方の被害の数は跳ね上がるわ。それは私の望むところではない」

「でも、彼らに支援しないという選択肢だって」

「私は神よ。日の光は気に入らない相手には差さないのかしら? 

 私が一度支援すると決めた以上、途中で撤回するという自由は私には無いわ」

「……」

 エステルは彼女の頑なさや不自由さをどうしても理解できなかった。

 

「あなた達とシノブとの和解の機会も作ってあげられると思ったのだけど。

 本当に、私と言う神は私情を見せるとすぐやらかすのね」

「ビルーダー様……」

 遣る瀬無さそうに首を振る彼女を見て、エステルは言葉にできない感情が胸を渦巻くのを感じた。

 

「これで、私は全て話したわ。

 この件に関しては王国に帰ってから改めて協議しましょう。それでいいわね?」

「はい。話してくれてありがとうございます……」

「気にしないで。私も黙ってて悪かったわ」

 その言葉をビルーダーから引き出せて、ローズマリーもホッと息を吐いた。

 

「まあ、なんにせよ、ビルーダー様が全部丸く収めようと動いてくれていたってことが分かって安心したでち」

 そしてデーリッチも最終的に笑顔を浮かべてそう締めくくった。

 

「ああそうだったわ、我が信徒マルースよ」

「は、はッ!!」

 ずっとデーリッチ達とのやりとりを黙って見守っていたマルースは、急に己の神に呼ばれたことで上擦った声を上げた。

 他の面々も、彼女からマルースに声を掛けることなんて一度も無かっただけに、驚いた表情になった。

 

「そう言うわけだから、シノブへの一切の敵意を捨てなさい。

 私は彼女の全てを許したわ。その彼女を害すると言うのなら、分かるわよね?」

「はッ、すべては我が神の仰せのままに!!」

 マルースは感激した様子で跪いてそう叫んだ。

 

「そして彼女を我が代行者にできたのはあなたの功績も大きいわ。

 私としてはもっと手こずるとおもったのだけれど、よほどあなたが恐ろしくみえたのね」

「は、ははは……」

 その言葉を聞いて流石のマルースは複雑そうな表情にならざるをえなかった。

 

「その功績に免じて、私はあなたも赦すことにしたわ。

 獣人連合軍との一件が解決したら、“ビルーダー”を訪ねなさい。

 キーオブパンドラに一度だけ位相を超え我が神域に行ける権限を付与するわ。

 そこで、全てを彼女から聞くといいわ。話は私から通しておくから」

 ビルーダーのその言葉にマルースは硬直し、やがてゆっくりと頭を下げた。

 

「別に彼女と会うことから逃げても構わないわよ。

 その場合、私の顔に泥を塗ることになるけれど」

「ご安心ください、我が神よ。

 俺にはまた、信頼できる多くの仲間ができたのですから」

 その両者のやり取りを見ていた面々は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 




ようやくメニャーニャが出せました。
ナンバリングで50話ぐらいまでには三章は終わるでしょうか。
まあ本編が終わっても、原作ゲームではチュートリアル終了だとか折り返し地点だとか言われるでしょうけどね!!

この小説でもオリジナルの水着イベントとか考えた方がいいのでしょうか。
魔王タワーとかストーリーだけなら短いですし、今から構想を練っておきますね。
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