『
「クウェウリちゃん、どうして一人でサハギン達と戦ったりしてたんだ?
それはマーロウの旦那の意志なのか? 教えてくれ……」
「…………」
マルースがクウェウリに尋ねたが、返答は気まずそうな視線だけだった。
「ダメだこりゃあ」
「これは手ごわいですね」
肩を竦めるマルースを見て、ローズマリーは困ったように小首を傾げた。
一行はメニャーニャの手配した船の中にいた。
デーリッチとエステルが船内を探索するという名目で探検している間に、他の面々はクウェウリの事情を聴きだそうとしていた。
「やはりここは神たる私が出ないとダメね」
「おう、見事なドヤ顔じゃ」
ずっと様子を見ていたビルーダーが自信満々に一歩前に出たので、ドリントルが道を空ける。
「クウェウリ、私にすべてを話しなさい。
大丈夫よ、私は貴女の行動を咎めたりはしないわ」
「──ッ」
ビルーダーは優しく声を掛けたが、クウェウリはびくっとして後ずさった。
「…………ティーティー様、何か落ち着ける香りを出してあげて」
「おおう、そうじゃな……ここでおぬしが普通に気遣うとはちょっと驚きじゃが」
「……ショックで像にちょっとヒビが入ったわ」
「あー、よしよし、良く顔にださんかったな」
ティーティー様がそう言ってビルーダーを慰めていると、室内はかぐわしい香りで満たされていった。
「思ったのじゃが、この人数で話を聞こうとするのも威圧的ではないか?」
「そう、ですわね。こういう時に国王様がいらっしゃれば心強いのですが……」
ドリントルが思ったことを口に出し、それをゼニヤッタが頷いた。
「クウェウリちゃん、よくは知らんがそっちはビルーダー様にいろいろとよくされたんだろう?
ありがたがりはすれど、我が神を恐れる理由はわからんのだが」
二人のやり取りを見たマルースが彼女に問うと、クウェウリは怯えた視線を彼に寄越した。
「…………」
「ど、どうした? 俺が何かしたか?」
怯えられる理由も思い当らず、困惑するマルース。
「やれやれ、こういう時こそデーリッチの社交性が羨ましいよ。
まあいいや。話したくなった時に話してくれればいいさ。みんな、今は一人にさせてあげよう」
クウェウリを保護していることに対する打算を脳内で働かせつつも、ローズマリーは気を使って彼女を独りにさせてあげることを提案したのだが。
「待って……あの、聞いてください」
ローズマリーの言葉に頷き、皆が部屋から出て行こうとすると、弱々しくクウェウリが皆を引き止めた。
「話してくれるんですね?」
ローズマリーは膝を折って優しく彼女に問いかけた。
「……私、怖かったんです。
新しく別の世界からやって来たハグレ達は、私たちを嘲っていました。
帝国のやり方に屈した、そんな軟弱な連中だって」
「なるほど、その彼らがマーロウさんと一緒になって帝国と戦争を起こすことが恐ろしかったってことですか」
「いいえ、違うんです」
ローズマリーの相槌を、クウェウリは否定した。
「そんな彼らが、ビルーダー様が現れて変わってしまった。
ビルーダー様がお許しになっただけで、略奪や戦後の取り分を楽しみにしていた彼らが、まるで教会の戦士のように振る舞い始めたんです。
私たちをあんなに蔑んでいたのに……私たち弱者を救うという大義名分に酔いしれている」
「ああ、なるほどな……」
ドリントルを初めとした数名は、クウェウリの恐怖を理解したように頷いた。
「人は大義名分があるだけでどんな残虐なこともできてしまうからな。
そのハグレどもは勝ち戦に乗るつもりで、恐らく戦って死ぬつもりなぞ毛頭無いはずだったのじゃろう。
じゃが、そやつらは今、大義名分の為に命を惜しまぬだろうな」
権力や権威が保証する暴力の恐ろしさを重々知っているドリントルが渋い表情でそう言った。
「そうなのでございますか?」
「ゼニヤッタちゃん、君もデーリッチにしんがりを任せられたら死ぬまで戦うだろう?」
「ええ、勿論でございましょう!!」
「そう言う風に、簡単に命を投げ出されるのは客観的に見て恐ろしいんだよ。
俺も、こっちの世界に来るまで気付かなかったがな」
マルースとゼニヤッタがそんなやり取りをしているのを横目で見つつ、ローズマリーはクウェウリを見やった。
「人は、信仰でこんなにも簡単に変わってしまうのか、って。
パパは彼らの信仰心を見て頼もしいとしか思っていない。それが恐ろしかった」
「なるほどね、把握したわ」
ショックから立ち直ったビルーダーは、クウェウリの独白を聞いて持ち直した。
「不遜ながら、我が神にお尋ねしたく存じます。
俺はこの世界で多くの紛争を渡り歩き、多くの悲劇を見てきました。
領主同士の利権関係での小競り合いで村々が戦火の犠牲となり、独裁者の身勝手が無用な争いを起こし恐怖と混乱が巻き起こったり。
戦争は、失い、憎しみ合うばかりで、何も生み出さない。俺はそう思いました。
御身は何故に戦争を肯定なさるのですか? 文明の進歩は、その災禍に見合うものなのでしょうか?」
マルースの真摯な問いかけに、皆の視線がビルーダーに集中した。
「少なくとも私は、戦争を積極的に推奨はしていないわ。
戦争が非生産的なのは同感だし、その進歩さえ私が与えれば良いだけの話だわ」
「では、なぜビルーダー様は彼らをたきつけるような真似を!?」
クウェウリはたまらず目の前の女神にそう尋ねた。
「我が信徒マルース、あなたは人を殺したことがあるわね」
ビルーダーは敢えてその質問には答えず、己の信者にそう言った。
「……ええ、あります」
「それはなぜ?」
「傭兵としての職責に従い、正しいと思った方に雇われ敵と戦ったからです」
「人を斬った感触は思い出せるかしら?」
「それはもう、鮮明に。忘れるはずもなく」
己の神の問いかけに、マルースは震えながら告白した。
その様子を、他の面々は息を呑んで見守ることしかできなかった。
「ならば、その行いが正しい限り、私はそれを許すわ。
無辜の人々の為に戦い、戦時に人の道に従っている限り、私は赦す」
「あ、ありがとうございます……」
マルースの目からは涙が流れていた。
仕事のためとはいえ罪悪感に苛まれていた彼の苦しみが、女神の慈愛によって解きほぐされていた。
「これが、私の想定していた
戦場でのこととはいえ、人を殺した罪悪感は一生その人を責め苛むわ。
私は“人間”の神よ。その罪悪感を理解し、赦しを与えることでその苦しみをやわらげてあげられる。
そう言う事をしていたら、私はいつの間にか戦争や侵略の女神よ」
マルースに赦しを与えた直後に身も蓋もない言い方だったが、ビルーダーの慈愛を非難できるものはこの場には誰も居なかった。
「……ビルーダー様、傭兵仲間に魔物との戦いの最中に気を取られ相棒を亡くして己をずっと責めている者がいる。
その人に言葉を掛けてやってはくれないだろうか」
やがて、ジュリアが室内の沈黙を破ってそう言った。
「ええ、構わないわ。これも仕事だもの、あとで相談所に寄越しなさい」
「助かります」
ジュリアは静かに彼女に頭を下げた。
その様子を見て、ビルーダーが時折口にする“仕事”という単語の重みを思い知る面々だった。
「皮肉な、いや矛盾じゃのう。
心の傷を癒そうとしておるのに、それが却って戦争で刃を研ぎ澄ませる要因になるとは」
癒しの力を持つ神として、その矛盾を理解できるティーティー様が遣る瀬無さそうにそう呟いた。
傷を負い、病に倒れる者が居なければ癒しの力が無意味であるのと同じなのだから。
「だから戦争を肯定する側、なんですね」
戦争を否定してしまったら、戦争でトラウマを負った者を肯定してあげられないからという理由に、てっきり戦争が好きだからなのかなと思っていたローズマリーは己を恥じたのだが。
「ええ、それに私は殺し合いは嫌いよ。
どうせやるとすれば一方的な蹂躙。敵が遠くから減っていくのを眺めるのが好きなのよ」
「そこはほら、もっとオブラートに包みましょうよ!!」
いい加減この空気を読まないスタイルの女神に物申すべきか、と考えるローズマリーだった。
『 孤高 』
「と言ったわけでして、出来ればご理解いただけると嬉しいのですが」
「なるほど、そう言うことでしたか」
時間は少し進み、ローズマリーはメニャーニャに先ほど聞いた事情を説明していた。
「それは確かに責めにくい……」
「わかって頂けましたか」
「ええ、
魔法使いばかりとは言えど、荒事ができる者など皆無に等しかったので」
「ああ、なるほど」
メニャーニャの話を聞いて、ローズマリーも頷いた。
エステルを見ていると忘れがちだが、召喚士は本来研究職で、学者なのだ。マルースが目指したように。
戦うための技術を持ってても、それでハグレとはいえ人と殺し合うのはまた別なのだとローズマリーも理解していた。
そんなことを話していると、甲板からデーリッチとエステルが船室の廊下に大急ぎで駆け込んできてサハギンの襲撃がやってきたと皆に話し始めた。
沈めようと思えばすぐに船底に穴を開けられるのにそうしていないことに舐められているとメニャーニャは憤り、クウェウリも彼らを止める為に参戦を表明。
こちらもサハギンの襲撃を予期し、ヤエやヅッチーと言った雷属性を得意とするメンバーを用意しており、船内で蛮行に及ぶサハギンを撃退しながら甲板へと歩を進めた。
「これで、船内のサハギンはあらかた追い出したか?」
「そのようだ。船を沈めるより略奪を優先しているようだったな、浅ましい」
マルースとジュリアが背中合わせで甲板に飛び出し、周囲の敵影を確認してから下にいる仲間たちを上に招いた。
皆が甲板に上がると、先に上がっていた二人が甲板で警戒をしていた二人のサハギンとにらみ合いになった。
船内のサハギンを排除したことに焦り、やはり船を沈めなかったのは略奪の為だと口を滑らす彼らに、メニャーニャは良い笑顔で死刑宣告をしたのだが。
「まあまあ、落ち着きなさい両方とも」
あわや戦闘になろうとしたところで、ビルーダーが前に出た。
「真に賢い者は避けられる争いは避けるものよ。
勝敗はすでに決しているでしょう、今去るのなら追わないわ。退きなさい」
「なんだぎゃー!! 偉そうに!!」
ビルーダーが慈悲深い言葉をサハギン達に投げかけるも、彼らは返って憤り始めた。
それと同時に、タイミングが良いのか悪いのか、サハギンたちの援軍が次々と海中から甲板へと上がってきた。
「ははは!! 形勢逆転だぎゃ!!
そっちこそ降参するなら命だけは取らないだぎゃ!!!」
調子に乗るサハギンの指揮官の言葉通り、一行はサハギンに囲まれる形と相成った。
「ビルーダー様、これはもう戦うしかないのでは!?」
もはや交渉の余地なしとみて、ローズマリーが叫んだ。
「まあまあ、あなた達これを見なさい」
ビルーダーはそう言って虚空に淡く輝く己の紋章を映し出した。
「我こそは汝らを見守る神の現身。
汝らの蛮行、まことに許し難し。即刻我が前から消え去るのなら、今だけは見逃しましょう」
「おお、ビルーダー様がすごく女神さまっぽいことしてるお!!」
ハオが割と普段から彼女に対してどう思っているのか透けて見えるような感嘆の言葉を漏らしたが、状況が状況だったのでスルーされた。
「そ、その紋章はだぎゃ!?」
「わかったでしょう、これ以上の戦いは無意味だと」
「我らが母なる海の神を殺した、メアリースの紋章だぎゃ!!」
「あら?」
何やら雲行きの怪しい方向に行き始めたことにビルーダーは小首を傾げた。
「やっと、あの世界から自由に元の神を信仰できるこの場所にやってこれたぎゃ、と思っていたのに!!」
「なんでこっちでもあのクソ女神の紋章を見ないといけないんだぎゃ!!」
「悪夢だぎゃ、ここは地獄だったんだぎゃ……」
サハギン達はざわざわと各々様々な感情をあらわにした。
「うーむ、どうやら、ビルーダー様が獣人連合軍に現れ支援をした話はサハギン達には伝わっていないようですね」
その様子を観察していたメニャーニャがそう呟いた。
「…………わかったのなら、退きなさい。これは最終警告よ」
「馬鹿にするなだぎゃ!!」
表情を消したビルーダーの警告を、サハギン達は跳ね除けた。
「俺たちの一族は我らが神と共にお前と戦い、多くが倒れたぎゃ!!
その後、望まぬ信仰を押し付けられ、他の種族からは下に見られる日々を送ったぎゃ!!
今こそ同胞と我らが神の仇を討つ時だぎゃ!!」
「そう、分かったわ」
「いやいや、ビルーダー様、何だか結果的に相手が勢いづいちゃったわよ」
サハギン達の戦意に気圧され、ヤエがビルーダーにそう言ったのだが。
「今、メアリースと連絡を取ったわ。
貴方たちの神とやらは、人食いで生け贄を求めるような蛮神だったそうね。
彼女は悪しき風習を取り除き、間違った習慣を正しただけであなた達に信仰の押しつけなんてしていない、と言っているけど?」
「周囲に迎合しなきゃ生きていけなかっただけだぎゃ!!
それが信仰の押しつけじゃなきゃ、いったい何なんだぎゃ!!」
「死ねば良かったじゃない。
その神と共に殉じた方が、よほど潔い生き方だわ」
「そんな身も蓋もない言い方……」
ビルーダーの歯に衣着せぬ物言いに、むしろサハギンが憐れに思えるローズマリーだった。
「ところで、前々から思っていたのだけどサハギンって魔物なのかしらね?」
「あのー、ビルーダー様、あの人たちをあんまり逆撫でするのはよくないと思うんでちけど」
「ああ、魚だけに?」
「どッ!!」
「ローズマリー、空気読んで!!」
ビルーダーとのやり取りで急に笑い出すローズマリーにデーリッチは声を荒げた。
「こ、こいつら、どこまでも俺たちを馬鹿にして、もう許さんだぎゃ!!」
「そう言えばあなた、故郷にお嫁さんと息子が三人いるそうね」
「えッ」
今にも襲い掛かって来そうなサハギン達に向かって、ビルーダーはまるで世間話をするようにそんなことを言い始めた。
「そっちは恋人が、そっちには病気の家族が」
ビルーダーはサハギン達ひとりひとりを指差し、その個人情報を言い当て始めた。
「魔物なら、駆除しなきゃね。
私の言葉が分からない魔物なら、人に仇なす魔物なら駆除するしかないと思わない?」
戦意を高ぶらせていたサハギン達は、ゾッとしたように一歩引いた。
自分たちを見逃してやろうと慈悲を掛けていた時と変わらぬ笑みを浮かべる女神を見て。
「お、俺たちを脅しているんだぎゃ!?」
「脅す? なんで魔物相手に脅す必要があるのかしら?
もうメアリースには話を通しているわ。貴方たちの行動次第で、あなた達の故郷の同胞たちを一掃する駆除が始まるのだけど、魔物には私の言葉なんて通用しないでしょうね……」
ビルーダーはさも残念そうに首を横に振った。
「あー、お前たち、悪いことは言わん。
このお方はマジで実行するぞ。俺はお前たちが信心深い誇り高い一族だと知っている。
だからこの場は引いてくれ、な?」
マルースがビルーダーより前に出て、サハギンの指揮官にそう訴えかけた。
「く、くっそぉ~~!! お前ら、ここは一旦引くだぎゃ!!」
彼らの指揮官はそう叫び、瞳を海水以外の何かで濡らしながら海に飛び込んでいった。
それを見て他のサハギンたちも逃げるようにして甲板から海へと消えて行った。
「よし、丸く収まったわね」
「どこがじゃ!!」
ドヤ顔で一件落着を宣言するビルーダーに、ティーティー様のツッコミが入った。
「連中は略奪者よ、容赦してどうするのよ」
「それはわかっておりましたが、神様の悪魔さえ震え上がらせる手腕には恐れ入りました」
ゼニヤッタは言葉を選んで彼女にそのように述べた。
「まあ、ビルーダー様の言うとおりだわ。
この話が他のサハギンに伝われば、略奪も多少は収まるでしょうし」
悪人にはあまり容赦はしない主義のヤエはとりあえずそれで良しとした。
「あら、もしかして貴方たち、私が彼らの所業とは関係のない者達を虐殺するとでも思ったのかしら?」
「そ、そうでちよねー、ビルーダー様は慈悲深い女神様でちから」
「う、うん、私も分かってましたよ……」
デーリッチとローズマリーは棒読みな言葉と共に視線を逸らしながらそう言った。
「いえ、実際見事な手腕でしたよ、女神にしかできない場の収め方でした。私もあやかりたいものです」
「私の後輩が物騒な件について」
素直に称賛しているメニャーニャにエステルは遠い目になるのだった。
§§§
「ビルーダー様にお伺いしたいことがあります。
なぜ略奪者である彼らを見逃したのですか?」
マリネリス渓谷の船着き場に付いて相互ゲートを目指し始めた一行。
その道中で、メニャーニャはビルーダーに問うた。
「見逃したわけではないわ。私は彼らの死後、来世では略奪される側の人生を与えるつもりよ。
敢えて私の存在とスタンスを明確にして、その後の彼らの行動を抑制する方法を選んだわ」
「さくっと殺してしまった方が後が楽だと思ってましたが、なるほど神の視点というわけですか」
「……メニャーニャ、あんた、サハギン達がどうかしたの?」
エステルは後輩の不穏な空気を感じ、そう尋ねた。
「いえ、奴らはユーモラスな外見をしてますが、人に対しては容赦ないですから。
実際に何人も殺され、火を付けられた村もあります。
ハグレ王国の皆さんは強いですからわからないかもしれませんが、多くの人々にとって彼らは恐怖の怪物であるんですよ」
だから削っておきたかった、という内心を隠そうともせずメニャーニャはそう言った。
「気持ちはわかるけれど、無駄に殺す必要は無くない?」
「無駄? じゃあ誰がいつ殺すんです?
この女神様に祈って、彼らに神罰を与えてくれと願うとでも?」
「メニャーニャ?」
そこで初めてエステルは気付いた。
彼女がいつぞやのマルースと同じような目をしていることに。
「私たち現世に生きる者にとって、彼らの今の行いが問題なんです。彼らが死後どんな罰を与えられるかなんて少なくとも私は興味無い。
連中は増えた分だけ領土を主張する。当然、人間とぶつかる。
もう一度、訊きますよ? ──じゃあ誰が殺すんです?」
メニャーニャの問いに、話し合いで、と言えるほどエステルも子供ではなかった。
そんな二人をマルースやティーティー様は痛ましそうに見ていた。
「いっそ、神の怒りを買って滅ぼされた方がすっきりしたのに」
無言のエステルから視線を逸らし、そんなことをぼやくメニャーニャに彼女はやはり何も言えなかった。
後輩との見えない壁に呆然とするエステルの肩を叩き、マルースが前に出た。
「メニャーニャちゃんだっけ?
召喚士協会に君みたいな有能でかわいい子がいるなんて知らなかったなー。
俺も昔は召喚士協会の先兵としてハグレ戦争を渡り歩いたもんだ。
傭兵が足りないんだろう? 君の為ならいつでも雇われてあげるぜ」
「そうですか、それは助かります。
実をいうと、私は貴方と一度だけ会ったことがあるんですよ」
「え、マジで!? いったいどこで?」
マルースは大げさに驚いて見せて、メニャーニャを少し笑わせた。
「二,三か月ほど前に、召喚士協会に来ていたでしょう?
その時、廊下ですれ違ったんですよ。私は見知らぬ男の人だったのですれ違った後、振り向いたらマクスウェルの手下に声を掛けられているのを見ました」
「ああ、あの時か」
「協会長からも、何かあったらマルースを頼れ、と。
あなたの事ですよね? まさかハグレ戦争に参加していたとは」
「まあな。ウォレッシュの髭ジジイにはそれなりの恩がある。
そういうことなら手を貸さんわけにはいかんな。いつでも呼んでくれ」
「ええ、頼りにしてますよ。ちょうど実戦経験の豊富な指揮官が不足していたところだ」
「任せろ。大砲なら俺の故郷にもあったから扱いはバッチリ頭に入っている。
──君の敵を、俺が殺そう。それが、俺の仕事だ」
身長差約三十センチの二人のやり取りを後ろから見ていたエステルは、なぜか二人の間にマナの後姿が見えたような気がした。
§§§
「エステルの奴、せっかくフォローしてやったのに」
その後、マルースはメニャーニャが特務士官になった経緯を横から聞いていて、エステルが何もわかっていない様子なのを見てそうぼやくのを堪えきれなかった。
戦うことのできない召喚士たちに代わってメニャーニャは戦うことを選ばざるをえなかった。
マクスウェルやシノブが失脚し、既に将来有望な召喚士は機会を見て協会を辞めて出て行ったそうだ。
彼女自身、他の召喚士のように辞める機会があると思っていたらしい。
だが彼女は思いのほか戦果を挙げた。挙げてしまった。
その孤高を、マルースだけでなくティーティー様やビルーダーも理解できていた。
他の面々も口には出さなかったが、メニャーニャの内なる苦悩をぼんやりと察していた。
「げッ、エルフ!!」
渓谷の奥地にて相互ゲートのあると思われている地点の前にある洞窟には、エルフの男女が門番として立ち塞がっていた。
「おいおい、聞いて無いぞ。
エルフとは今回出会わないんじゃなかったのか?」
「マルースさん、エルフと何かあったんですか?」
「ああいや、エルフとは昔、一悶着あってだな……」
「……ああ、エルフの女性ってマルースさん好みの体型ですもんね」
しらーっとした目線を向けるローズマリーや女性陣から、マルースは視線を逸らした。
「いやだって、エルフって最高じゃん!!
あいつら数百年もあの姿のままなんだぜ?
見た目も人間から見て美麗だし、そのほとんどがスレンダーだ!!
昨今の創作のエルフってのは肉感的過ぎてずっと受け付けなかったんだが、それに媚びないあの胸のなだらかさを見ろよ、素晴らしいと思わんかね!!」
「みんな、マルースさんは置いていきましょう」
「ではあのハグレの判別装置をどう突破するか……」
「ちょっと話を聞いて!!」
すっかり彼を置いていくこと前提で話を進めるローズマリーとメニャーニャ。
「よーし、見てろよ。俺が話を付けてきてやる」
マルースはそう言って、一人門番たちの元へと向かった。
そしてすぐに聞こえる蔑んだような男の声と女性の悲鳴。
一分足らずでマルースは戻ってきた。
「入所拒否された。護衛の仕事ならここで待っていろと言われた」
肩を落としたマルースが一行にそう告げて、彼の居残りが決定した瞬間だった。
「本当にこの人、大丈夫なんですかね……」
その様子を見てすっかり呆れているメニャーニャだった。
数時間後、彼を迎えに来た面々と共に拠点へと戻り、クウェウリはマーロウを止める為にハグレ王国の参入の意思を示したのだった。
今週は風邪でダウンしてました。皆さんも寒暖差による体調不良には気を付けましょう。
次回にはイリスの早めの参入と、クウェウリの話となります。
柚葉は、うーん、扱いに困ったのでアンケートで!!
それではまた、次回!!
この小説の柚葉さんのポジションは?
-
原作通りの残念美人系
-
これはダイミョーですわ。格好良い系
-
お願い会話して、な不思議ちゃん系