アナザー・アクターズ   作:やーなん

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今回で記念すべき通算五十話目!!
原作の助けがあるとはいえ、半年もかからずここまで来れたことを皆様に感謝です!!


41.帝都商業区へ

 

『 帝都へと 』

 

 

「マリちゃん、各店舗や施設に対して手配は完了したぜ。

 とりあえず一週間を目途に俺たち抜きでも王国が回るように調整しておいたわ」

 俺はマリちゃんに頼まれた仕事を終えたことを報告していた。

 

「わかりました。

 予定では三日ですが、三日で終わるはずもありませんからね」

「ああ、戦後処理はあっちの仕事だが、負傷者の具合によってはもっと長引くだろう。

 ……そして、こちらに欠員が出ることもありうる」

 俺の言葉に、マリちゃんは目を閉じて手を握った。

 

「ええ、分かっています」

「ビルーダー様もおられるし、ハグレは頑丈だ。

 レベルもマーロウの旦那と共闘した時のあの人と遜色ないほど鍛えた。

 それでも死人が出るのが殺し合いだ。妖精王国の時と同じように行くと思ってはいけない。

 あれは幸運だったことを理解しろ。その幸運の天秤に乗せられた重りの重さを信用してはだめだ。

 成功体験に酔うな、そして死は当然だが、前提にしてはいけない。

 俺は君とデーリッチが参加すると言った戦争で、悲劇を見たくないんだ」

 俺はマリちゃんに己の経験からそのような薫陶を授けた。

 

 これから俺たちは、ハグレ王国は戦争に向かう。

 獣人連合軍がいよいよ本格的に動き出す時が来たのだ。

 

 先日お忍びでやってきたメニャーニャによって、俺たちは帝都への観光と言う名目で防衛戦の手助けを依頼された。

 ハグレ王国の方針は獣人連合軍の暴虐を止めると一致しており、その為の調整を今日まで行っていた。

 

「マルースさん、先日の異世界の件でたしかにデーリッチは助かりました。

 ハグレ王国の趨勢を占う、一つの分岐点の一つにはなったでしょう。

 ですが私は、それであの子の安全が確約されたと楽観視はしていませんよ。他の皆も同様だ、誰が死んだっておかしくはない。

 次の戦争でもしこの王国に欠員が出るのだとしたら、いったいどれだけの報酬をもらったってそれは釣り合わない」

「ああ、この国に湿っぽい葬式は似合わない。

 デーリッチは言っていたぞ。もし王国民の誰かが亡くなるのだとしたら、それは悲しみからではなく来世に盛大に送り出すものにしたいってな」

 俺はうちの小さな国王様にそれを尋ねた時のことを思い出して、小さく笑った。

 

「この王国の面々はそれぞれ寿命が違う。多くの別れを経験する者もいるだろう。

 だがそれを悲しいものにしてはいけない。マーロウの旦那をひっぱたいて、この大陸に平和を齎そうぜ」

「ええ、私たち以外のハグレが戦乱を巻き起こす者であっては肩身が狭いですからね」

 そう言って、マリちゃんは不敵な笑みを浮かべた。

 負けるつもりも、何かを失うつもりもない、頼もしい笑みだった。

 

 やれやれ、これならもうちょっとマリちゃんに真剣にアタックしておけばよかったかな? 

 

 

 

 §§§

 

 

 ハグレ王国一同はメニャーニャに発行された通行許可書で帝都の商業地区へとやってきた。

 

 この大陸で一番栄えている都市の商業の中心だけあって、人々で賑わっていた。

 帝都に来たことのない面々はおのぼりさん同然で周囲をきょろきょろしながら、エステルの案内で召喚士協会へと歩を進めた。

 その道中で総勢約三十人くらいの奇妙な団体がぞろぞろと歩いていく光景は周囲からギョッとされたが、特にハグレだからといって絡まれることも無く最初の目的地に到着した。

 

 召喚士協会に到着すると、メニャーニャが入り口の待合で待っており、彼女の気遣いで荷物を置いて行くことになった。

 俺たちが滞在を許された商業区を大雑把にみんなに説明し、各々予定の時刻まで自由に行動することとなった。

 

「プリシラ? 

 え、プリシラじゃないか!! こんなところでどうしたんだい?」

 俺はデーリッチ達と一緒にモグラ叩きがあるゲームコーナーへと足を運ぶと、なんとそこには見知った姿がありマリちゃんは目を見開いた。

 

「よう、プリシラ!!」

「あ、ヅッチー!!」

 一緒についてきていたヅッチーはプリシラと顔を合わせると、一緒になって両手でハイタッチしていた。

 その横でメニャーニャにローズマリーがプリシラ達を呼んだ理由について尋ねており、彼女は言葉を濁していた。

 

「そうですね、大通りでする話じゃなかったです」

 と、ローズマリーも彼女の反応を見て、これは自分たちと同じ用件で観光しに来ていると察していた。

 プリシラも用事があるらしく、モグラ叩きが終わると去って行こうとしたのだが。

 

「そうだ。マルースさん、後で時間は有りますか?」

「え? どうしたよ、急に」

 俺は若干顔を合わせづらかったので居ない振りをしていたのだが、当然のようにプリシラに声を掛けられてしまった。

 

「仕事の話です」

「……わかった、観光が終わってからだから、午後六時頃宿屋前でいいか?」

 そう言われては、俺は彼女に何か言うことはできなかった。

 結局金欠でこいつの元に出向いて仕事を貰っている身の上なのだから。

 

「ええ、ではそれで。

 じゃあまたね、ヅッチー!!」

 最後に俺にはまず見せない笑顔でヅッチーに手を振りながらプリシラは去って行った。

 

 

 

 バザーには悪魔コンビやクウェウリ達が売りに出されている商品を見て回っていた。

 

「オウ!! これが地上のフェスティバルデスねー!! 

 ワタシも屋敷の要らない物をタタキ売りしたいデース!!」

「許可を取れば誰でも売り出せるみたいですよ。あ、あのパン屋さんいい匂い」

「おいおい、一人で先に行くなよな……」

 鼻の良いクウェウリはパンの匂いに釣られて小走りでそちらに向かって行った。

 

「モチロン、許可を取ればワタシもオーケーなんだよナ?」

 イリスは意地悪な笑みを浮かべて振り返り、悪魔であることを隠そうともしない彼女を近くで監視していたシスターたちにそう話しかけた。

 

「おいおいイリスちゃん、あんまり挑発してやるなよ」

「ハハッ、無礼な視線を寄越したのはそっちサ。

 ちょっとぐらいからかってやったって構わないダロ?」

 シスターたちとの間に緊張が走ったのを見て、慌てて間に入った。

 このバザーは教会の敷地を借りて行っているのだから、そこにマジ物の悪魔が現れたのなら警戒もするだろう。彼女は邪気をあからさまに垂れ流しているし。

 

「すみません、彼女は私たちのツレです」

 ローズマリーも慌ててシスターたちに事情を話し始めた。

 イリスは自身が開かせた大会に本物の聖騎士団が参加するぐらい本物の悪魔である。

 それ故に教会に敵視されてはたまらない為、ローズマリーの説明も必死である。

 

 十数分ほどの説得の末に、自分たちがイリスを倒し彼女を倒し調伏させたことを理解してもらい納得させた。

 

「はあ、何とかわかってもらった……」

「イリスちゃん、真面目に働いている人たちをからかっちゃダメでちよ」

 残暑の日差しが差す中で説得を成功させたローズマリーが額の汗を拭うのを見て、デーリッチが腰に手を当ててイリスにそう言った。

 

「オーケー、ボス。今度から気を付けマース!!」

「イリスさんイリスさん!! 向こうで妖精さんたちがアイスクリームを売り出してますよ!! 

 妖精王国からアイスクリームの滑らかさを損なわずにどうやって運んできたのでしょうか!!」

 全く反省しているようには見えないイリスの元に、やや興奮気味のゼニヤッタがアイスクリーム片手に小走りでやってきた。

 

「ゼニヤッタちゃん、イリスちゃんを頼むな……」

「はい?」

 俺は無邪気にはしゃいでいる彼女を見て、心の底からそう頼んだのだった。

 このままではマリちゃんの胃に穴が空きかねん……。

 

 

 

 俺たちが最後にやってきたのは、召喚士協会だった。

 俺やエステル、案内役のメニャーニャは勝手知ったる場所だったが、エステルの奴は中を見回っていると知っている顔ぶれが殆ど居ないことに気付いたらしい。

 メニャーニャ曰く、今の召喚士協会は最近入ったばかりの新人によって構成されているらしいのだ。

 マクスウェルの不祥事によって召喚士協会は更なる不人気を被り、有望な人材の流失に歯止めが利かなくなったようだった。

 

「辞めて行った人たちは、今頃はただの魔法使いでしょうか。

 もしくは下水道とかにアジトを作って、闇召喚をやってるかもしれませんね」

「召喚の技術やノウハウの流出は組織として痛いな。

 そうなれば召喚士協会は召喚士たちを統括する組織の体を保てなくなる」

「ええ、ですから召喚士協会は風前の灯火寸前だったわけです」

「将来的に協会が無くなる可能性も高かったわけか」

 俺はマナから聞いた十年後の未来の可能性をそんなところで意識することとなった。

 

「メニャーニャ、冗談でも止めてよ。

 ヘンテ山でのこと思い出すじゃない」

「ヘンテ山ですか?」

「ああ、元召喚士協会の組員どもが召喚実験をしてたんだよ。

 まあ、いろいろあったんだ」

 エステルのげんなりした様子を見て首を傾げたメニャーニャに、俺は大雑把に答えた。

 

 しかしよくこれだけの新人が入って来たものだとエステルが感心していると、これは自分が作った流れだと誇らしげにメニャーニャは語った。

 彼女が活躍したおかげで、メニャーニャに憧れて入ってくる者達が現れたのだという。

 そのおかげで帝都での協会の人気もそこそこで、勝ち続けているうちは人気は落ちないだろう、と肩を竦めて話していた。

 

 なるほど、現状召喚士協会は改革に成功したも同然なのか、と俺は感心していた。

 新人たちもほぼ一枚岩で、次期協会長は自他共に認めている通りメニャーニャで確定だろう。

 

「ああそうだ、ついでに協会長にご挨拶でもしておきますか?」

「仮にも協会長なのに扱いが雑ですね……」

「まあ、あの人は殆どお飾りみたいなものですよ。

 召喚士協会設立当初から居ただけの人ですから」

 メニャーニャの辛辣な物言いにローズマリーも苦笑いを隠せなかったようだった。

 俺は先日の彼女の物言いを思い出さざるをえなかった。

 身内で役職を回しているだけのクズ召喚士ばかりだ、と。

 まあ、否定するつもりはなかった。実際その通りだったし。

 

「協会長、こちらがこの度帝都に観光にいらしたハグレ王国の皆さんです」

「うぉっほん、わしが協会長のウォレッシュである!!」

 ウォレッシュの髭ジジイは相変わらず偉そうにふんぞり返っていた。

 

「いつまでその椅子温めてる気だ、ジジイ」

「なんじゃい、お前さんも居たのか。マルース」

 ジジイは俺の姿を認めると、虚勢を崩して椅子にもたれ掛った。

 ……前に会った時よりも、やつれたように見えた。マクスウェルの不祥事の対処はそれなりに苦慮したのだろう。

 

「ああ、今じゃハグレ王国で働かせてもらってる。

 こうして再び帝都に招かれたのも、あんたが俺を召喚した縁なのかね」

「えッ、マルースさんって協会長に召喚されたんですか?」

「ああ」

 俺は驚いた様子のエステルに頷いて見せた。

 

「と言っても、当時のジジイは窓際の除け者だったがな」

「やかましいわい。召喚の失敗で呼び出されたとんだハズレだったくせに」

「失敗だと?」

「そうじゃよ。召喚寸前のイメージが急に乱れ、これは失敗じゃと悟った。

 召喚をキャンセルしようとしたらお前が呼ばれたというわけじゃ」

 ウォレッシュの髭ジジイはどこか懐かしそうにそんなことを話した。

 

「まあ、そんなハズレだとしか思っておらんかったお前が帝都や、ひいては召喚士協会の名誉の為に尽力してくれたことには感謝しておるがな」

「俺はそんなものの為に戦った覚えなんてねぇよ。

 人と人とが争って殺し合っている姿を見たくなかっただけだ」

 俺はその言葉を振り払うようにそう答えた。

 俺にとってあの戦争は名誉なものじゃなかったんだから。

 

「マルースよ、またお前に頼むことになるのは心苦しいが、お前がまだこの協会に思い入れが残っているというのなら、メニャーニャを頼むぞ」

「言われなくても、だ。

 理由はどうあれ、そしてあんたにどう思われていようとも、俺はこの世界に召喚されたことを感謝している。

 仮にも古巣が世間に叩かれ、無くなっちまうのは少しばかり寂しいからな…………さっさと隠居しろよ、爺さん」

「ふん、まだまだ現役じゃわい」

 偉そうにふんぞり返ってみせるジジイに、俺も鼻を鳴らして踵を返した。

 

「行こうぜ」

 そしてみんなは俺に釣られるように、協会長の部屋を後にした。

 

 

「正直、意外でした。協会長があんな一面を見せたのは」

 部屋を出た後、ぽつりとメニャーニャがそんなことを口にした。

 

「昔読んだ召喚士が出てくるマンガにはさ、召喚士と召喚される側にはある種の絆みたいなのがあってお互いに助け合ったりするんだよな。

 それに比べてあんたら、全然素直じゃないのな」

 エステルが口角を少し釣り上げて俺にそう言った。

 

「どこが? 俺はどこまでも自分に素直だぜ」

 俺がそう答えると、デーリッチ達はやれやれと肩を竦めた。

 

 ……まあ、俺に爺さんが居たのならあのジジイみたいなのかもしれないが。

 

 

 

 §§§

 

 

 時刻は午後六時、その十分前。

 プリシラとの約束までもう少しだ。

 

「マルースさん、待ちましたか?」

 と思ったら、プリシラは時間より早く現れた。

 

「時間前行動は相変わらず徹底しているのな。普通の妖精なら三十分遅れても平気な顔をしている」

「今のうちにはそんな妖精はいませんけれどね」

「そうかい。ところで、ひとつ聞いても良いかい?」

「ええ、どうぞ」

「何で君、ドレスなんて着てるの?」

 俺は率直に疑問を尋ねた。

 

 今のプリシラはいつものラフな格好ではなく、白いカジュアルドレスを身に纏っていた。

 こうしてみるとこのメンヘラレズ悪魔も可愛らしい妖精に見えるから不思議だ。

 

「気に入りませんか?」

 プリシラはくるりと両手を広げて回ってみせた。

 ふわりとドレスのスカートが浮き上がり、どきりとさせられる。

 

「仕事の話だろう? デートでもしに行くつもりか?」

「私はどちらでも構いませんよ?」

「じゃあデートしながら仕事の話をしようか、お嬢様」

 俺は可能な限りキザったらしくみえる仕草をしながら彼女の手を取った。

 

「わかりました、じゃあそれで」

 まったく、すっかりすまし顔が似合うようになっちまって。

 まあだからこそ、小さかった頃を知っている分、背徳的な気分になるわけだが。

 

 

「どうしましたか、食べないんですか?」

 場所を変え、食事をしながら俺たちは仕事の話をしようとしていたのだが、俺は到底そんな気分になれなかった。

 

 俺の目の前には高級ブランドの子豚のローストが皿の上に芸術的に盛り付けられて置かれていた。

 そう、ここは帝都に住む者ならだれもが憧れる高級レストラン、シャルルブルゴーニュの店内だった。

 このメニュー、オマール子豚の贅沢ローストのお値段を知っているだろうか? 

 十万八千、10万8千、108000ゴールドである。この店で最も高いメニューである。

 これがいかにぶっ飛んだ値段なのか、先日のメニャーニャに協力した作戦の報酬が二万五千ゴールドであるというところを見ればわかるだろう。

 

「おいしいですよ?」

「この一皿で、俺が帝都の大学で通ってた時の一年分の学費が払えるんだが」

「ああ、大丈夫ですよ。食費はこっちもちですから」

 プリシラはくすりと笑ってそう言った。

 それはそれで情けないが、どうにも俺は目の前の皿の数切れの豚肉がかつて必死こいて戦場で殺し合った際の報酬の何割かになるなんて思えなかったのだ。

 

 試しに一口、ただでさえあまり量の無い豚肉の切り身をナイフとフォークで切り分け、口に運んでみた。

 ……美味かった。これが本当に豚肉なのかと疑問に思えるほど柔らかくとろける様に舌の上で肉の繊維が解けていく。

 肉に掛かった芳醇なフルーツ系のソースが口内だけでなく鼻孔をくすぐり、信じられないような旨味を引き立たせてくれる。

 

 俺は生まれ育った世界からこの世界に召喚され、初めて料理と言う概念を知った。

 動物を殺してその肉を食うだなんて酷く残虐な行為に思えたし、サラダなんて初めて見た時はその辺の雑草をむしり取って皿の上に放り込んだようにしか見えなかった。

 だがこの世界で少しずつ料理に触れ、その素晴らしさを知り、ついには自炊するまでに至った俺は食へのこだわりを思い知った気がした。

 

 ああ、これがビルーダー様が一つの世界を滅ぼした要因と語っていた美食という文化なのか。

 昔、高い霜降り肉を焼いて食べたことがあるが、どうにもあぶらっぽ過ぎて口に合わなかった。

 肉はやっぱり固くないとダメだよな、だなんて思っていた当時の俺をぶん殴りたい。

 この一皿に掛けられた手間暇がいったいどれほどなのか、想像もつかなかった。

 

「美味いな、これ……」

「……泣くほどですか?」

「ああ、これがこの世の不条理の味なんだなって」

「訳が分かりません……」

 プリシラは不可解そうに小首を傾げてこっちを見ているのだった。

 そして俺たちは食事を終わらせると、高そうな銘柄のシャンパンを飲みながら仕事の話に移った。

 

「ふーん、エルフとの交渉役にねぇ」

「ええ、私たち妖精とエルフは仲が良いですから」

「そりゃあほぼ同族みたいなもんだしな。

 エルフは妖精の末裔だって言われるくらいだし」

「マルースさんはエルフとかお好きでしょう?」

「うん、大好き!!」

 俺は酔った勢いで頷くと、彼女から軽蔑の視線が飛んできた。

 

「聞くところによりますと、何やらマルースさんはエルフたちとトラブルを抱えているとか」

「まさかとは思うが俺を交渉の席に同席させるつもりなのか? 

 止めとけ、この間門前払いされたばかりだ」

 俺の妖精王国の役割は警備や訓練だったが、プリシラの補佐のようなこともやっていた。

 

「まさか、いつもの手を使うのか? 

 あんまりリリィちゃんには通じないとは思うけどねぇ」

「手札は多い方が良いでしょう? 

 なにせ、帝都の存亡が掛かった大事な交渉なんですから」

「君が帝都の存亡に興味があるとは思えないんだが」

「そんなことありませんよ? 興味有り有りです。

 ……特に帝都の各地への販路、とか」

「おお、怖い」

 プリシラのことだからどさくさに紛れて帝都の販売ルートを横取りするくらいやりかねない。

 まあ、こいつはそんな恨みを買うやり方はしないだろうが。

 

「それで、こっちの取り分は?」

「今現在、帝国で発行している自国通貨の価値が暴落寸前なのは知っていますね? 

 もしかしたら今のうちにかき集めておけば以前の価値に戻るかもしれません。そのお手伝いをすると言うのは?」

「なるほど、やっぱりお前、悪魔だよ」

 こいつ、将来的に帝都の経済を乗っ取るつもりかよ。

 

「悪魔だなんてそんな、こんな可愛らしい妖精さんに向かって」

「可愛らしい妖精さんはこんな話持ちかけたりしねぇよ。

 まあ、儲かるのならなんでもいいさ……」

「勿論、ほどほどにしますよ? 私は帝都に物乞いを増やしたいわけじゃありませんから」

「その言葉をお前自身で信じられるのならいいんだけどな」

「ところで、マルースさん」

「なんだ?」

 俺はプリシラのどこまで本当か分からないようなやり取りとは違う声のトーンに変わったことに気付いて、彼女と視線を合わせる。

 

「今度の戦いは、私もハグレ王国と共に戦うつもりです」

「そうか、それは心強い」

「もしかしたら、こうして話すのもお互いに最期なるかもしれませんね」

「そうならないことを、祈るしかないな」

 俺はシャンパンを口に付けながら、プリシラが何を言いたいのか測りかねていた。

 

「あの時のこと、気の迷いだと思っています?」

「……」

「確かめてみますか?」

「…………」

 その日、俺は宿には帰らなかった。

 

 

 

 

 

 





とりあえず早めに三章を終わらせてアナザーストーリーに入る為に防衛戦をさっさとやるか、帝都観光の描写を一話掛けてやるべきか現在検討中であります。
これまで数多のアンケートを実施していたことから分かりますように、拙作は割と行き当たりばったりなのです。
実際のところビルーダーの設定は割と進行するにつれちょくちょく手直ししていますし。
がっちり設定が決まっていて変更が無いのが我らの主人公マルース君なのです。

と言うわけで、また次回!!
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