いよいよ帝都防衛戦です。
初見の時は本当に大変でしたけど、楽しかった思い出です。
『 帝都防衛戦 』
ハグレ戦争終戦記念日である今日は、本来なら王族も参列し弔辞を述べる催しも開催されるはずであった。
しかしながら、死者や犠牲者を悼む慰霊碑にはハグレの名は無い。
「帝国は間違えたわ」
本来なら会場に指定されていたはずの帝都の広場に、ハグレ王国の面々は並んでいた。
催しは世情故に中止され、帝都内は指示があるまで一般市民は外出禁止令が出される始末だ。
「召喚と言う技術の良し悪しについては語る必要もないでしょう。
所詮、手にした玩具を使わずにいられなかったヒトの幼さが招いたに過ぎないのだから」
皆がそれぞれ慰霊碑に哀悼を捧げている中で、ビルーダーは仲間たちに語りかける。
「間違えたというのは、その後の対応だった。
戦い殺し合うのではなく、手を取り慈しむべきだった。
それがいかに難しくとも」
「ま、十年前に殺し切れないってなった時点で懐柔策に切り替えなかったのはナンセンスだよナ」
ビルーダーは茶々を入れるイリスを横目で睨みつける。
すると、そっちだってそう思ってるだろ、みたいにニヤリと彼女は笑い返した。
「数ある移民問題が多くの不理解によって悲劇の火種となったのを私は見てきた。
この世界でもそれは避けられなかった。それでも、これ以上の悲劇を止めることはできるわ。
……デーリッチ、貴女からも一言お願いするわ」
皆の祈りが一通り終わったのを見計らい、ビルーダーは立ち位置をデーリッチに譲った。
「今日、デーリッチ達がここに来たのは手を取る為でち。
間違ったことをされた人たちが、それを間違っているって言うのに暴力に頼ってはいかん!!
分かり合えるはずなのに、あの人たちを間違わせてはならんでち!!」
デーリッチの言葉に応じるように、マルースが王国旗を掲げた。
「それじゃあみんな、ハグレ王国はハグレ王国の戦いを始めるでちよ!!」
おう、と皆が一斉に拳や翼などを空に向かって突き上げた。
……
…………
…………
決戦が近づいてきている……。
既に獣人連合軍は帝都の南と西に布陣し、召喚士協会の防衛部隊とにらみ合っているそうだ。
その情報を聞いてデーリッチ達は最適なパーティ編成をくみ上げる。
この臨機応変な対応が可能なのがハグレ王国の強みだった。決して行き当たりばったりとかではないのだ!!
「悪いが、俺は西門か避難誘導に回してくれ。
それとベロベロスは今回の戦いでどちらの方にも参加できない。気を付けてくれよ」
「え、どうしてベロベロスが不参加なんでち?」
マルースに言われてみればと周囲を見渡すと、召喚士協会の会議室にベロベロスは不在だった。
「それはまあ、あの子猫ちゃんが意外と脇が甘いところがあるとだけ」
マルースはメニャーニャを横目で見やり少しだけ苦笑した。
その物言いにデーリッチは小首を傾げたが、彼女は彼を戦闘の参加メンバーに選んだ。
「よし、任せろ。旗を振るだけが仕事じゃないことをみせてやるよ。
あと、ゼニヤッタちゃんの話はちゃんと聞いておけよ? 忘れるなよ?」
マルースの念押しにデーリッチはこくこくと頷いた。
「私は南門か避難誘導に回してほしいわ。
流石に、自分の信者たちとは戦えないもの」
「まあ、それはそうでちよね」
「……デーリッチ」
ビルーダーは静かに彼女の瞳を見定め、こう言った。
「獣人連合軍の大将は、何百年もかつての戦争を持ち出してハグレを貶めると言ったそうね?
だけどそれは逆もあるのよ。
ヒトは戦争の熱さを忘れ、百年後にはあの時誰が活躍したとか、どんな戦術が使われたとか、双方にどれだけ被害が出たとか、そんなこと楽しそうに語り合うの。
実際に流れた血など想像せずに、かつての傷跡を賛美するわ。
覚えておきなさい、ヒトは良くも悪くも忘れることで生きることができる生き物なのだから。
それ自体は、悪とは言い難いのだけれど」
自分にはそうはならないでほしい、という願いを感じながらデーリッチは頷く。
「それをヒトは歴史と呼ぶけど、その歴史を教訓とする者は少ないわ。
ええ、本当に少ないのよね……」
§§§
デーリッチ達が西門にやってくると、既に召喚士協会の人員が布陣してあった。
ローズマリーが敵側の動きを尋ねると、相手側の宣戦布告があったのだと告げた。
それによると正午に総攻撃を仕掛けるらしい。
「向こうの陣営から炊き出しの煙は見えたか?」
「ええ、はい、見えました」
「じゃあ確実に攻めてくるな。腹を空かせて戦争する馬鹿はいない」
マルースが協会員にそのことを尋ねると、それを聞いた面々は硬い面持ちで頷いた。
彼が周囲を見渡すと、防衛用の塔の上に協会員の魔法使いと傭兵の射手が配置され、侵入経路を制限する防壁の前に傭兵も並んでいる。
「定石通りの良い布陣だ……」
「マルース殿!!」
その声に振り向くと、ローズマリーに小塔の役割を尋ねていたデーリッチがうげっとなった。
「お前は、確かリドリーだったか?」
「覚えていただき恐縮です!!」
マルースが振り返ると、そこには騎士団の騎兵隊が列を成していた。
「防衛戦に騎兵が必要ですか?」
「ふふ、防衛にも攻めを意識する時はあるんだよ。
その際に機動力は必要だ。俺がパーティの後衛に居る時、攻め時を見極め敵をかき回せる指示をさせられる。
あいつらに統率された騎兵の恐ろしさを教えてやるよ」
実戦経験豊富なマルースにそのように豪語され、ローズマリーもなるほどと頷いた。
「さて、お前たち」
クウェウリがマーロウの存在を協会員に尋ね終えるのを見て、彼は騎士たちの前に出た。
「ここにある防壁と城壁、これらはこの帝都を守る最終防衛ラインだ。
ここが突破されれば、今避難中の帝都の人々は奴らの刃に晒されることだろう。
そうだ、お前たちの家族や、友人や、親しくしていた人たちがだ!!」
マルースの呼び掛けに、騎士たちの表情が引き締まる。
「これらの壁は、所詮壁でしかない!!
お前たちこそ、瀬戸際なのだ!! この帝都を守る最後の防壁なのだ!!
ここにいるのは傭兵、召喚士、ハグレ、と境遇は様々だが、今は死線を共にくぐる頼もしい仲間たちだ!!
お前たちがこいつらに劣るところなど何一つ無い!!
だが帝都の市民は今の騎士団を軟弱だと思っている、お前たち、本当にそうなのか!?」
「では我らの暴威を以って、敵味方共に帝都に騎士団有りと知らしめて見せましょう!!」
「よく言ったッ!! それでこそ兵士だ!!」
マルースはそう言って一人一人騎士たちに肉食獣を思わせる笑みを浮かべ、彼らの名前を呼んで声を掛けていった。
「なるほど、先日とは顔つきが違う。
だいぶマルースさんにしごかれたようだ。これなら戦力になりそうだね」
彼は先日喧嘩を吹っかけてきた騎士団に自分達との仲間意識を芽生えさせ、危機感を共有させ、厳しくも優しく接している。
ローズマリーは指揮官としての才能をいかんなく発揮しているマルースを見やり頼もしく思うのだった。
そして、開戦の合図と共に戦争の火蓋が切って落とされた。
「砲手!! 敵はこちらの大砲を恐れて密集陣形ではなく個々の能力を生かした散発的な波状攻撃を行うようだ!!
お前たちはとにかく前衛が足止めした敵にだけ攻撃しろ!!
誤射さえしなければ外したって構わない!! 魔法使いは砲手のサポートを行え!!
弓兵は打ち漏らしに対処するんだ!!」
戦闘開始と共に、敵の獣人たちは一斉に防衛線に向けて走り出してきた。
それに合わせてマルースが指示を飛ばす!!
ハグレ王国の面々が戦場を駆け巡り、可能な限り獣人たちの攻撃に対処していく。
戦場に氷の花が咲き、体毛の割合が多く体温調整が苦手な獣人たちが次々と倒れてゆく。
そんな獣人たちを踏みつけ、氷漬けにしていく悪魔達がいた。
まさにこの戦いはゼニヤッタとイリスの独壇場だった。
彼女らをサポートするプリシラも活躍している。
「おっと、わらわも負けてはおらんぞ!!」
華やかに、華麗に、まるで踊るように。
ドリントルが麻酔弾を連射し、獣人たちを無力化している。
「敵にも騎兵がいるようだが、集団ではない騎兵など恐れるに足らん!!
お前ら、本当の騎兵の戦いを見せてやれ!!」
「お任せあれ!!」
ハグレ王国が正面から足止めする横を抜けようとする獣人たちを、騎士団の騎兵たちが槍を持って突っ込んでいく!!
これには身体能力が高い獣人のハグレもひとたまりもない。
「あ、あれは、た、大砲です!!
敵が大砲を持ち出していますッ!!」
そんな中で、獣人軍が大砲を持ち出して守備隊に直接攻撃を仕掛けようとしてきた。
「騎兵隊、側面に回って敵の砲手を挟撃しろ!!
大砲の射程に入る前に何としても撃破するんだ!!」
「こっちも騎士団の動きをサポートします!! 大砲は任せましたよ!!」
「了解です!!」
マルースの指揮にローズマリー達が大砲の進行をかく乱して阻止し、騎士団の騎兵が砲手たちを左右から蹂躙する!!
「よし、よくやった!! 大砲の無力化を確認!!」
最後にローズマリー達が魔法で大砲を破壊するのを見て、マルースはそう後方に伝えた。
その声に守備隊の安堵の雰囲気が見えるようであった。
そして長いようで短い、連戦の後に敵の指揮官が護衛を伴い襲撃にきた。
しかし彼はマーロウではなく、ケモフサ村で店を営んでいたオルグという青年であった。
当然クウェウリの顔見知りで、彼女は義父の居場所を尋ねていた。
心まで帝国の犬になったのか、と問うオルグに、ローズマリーはそのつもりは無いと返し、毅然とした態度で投降を呼びかけた。
クウェウリを人質として使うのか、という物言いに対し、彼女も自分の意志でここにいると伝えた。
親不孝は止めようという彼に対し、クウェウリは親不孝ではない、と。
家族だからこそ、間違っていると思ったら止めないといけないと返す。
自分たちの孤児に生物としての誇りを教えてくれたのだと、勝てば何をしてもいい、何を許容してもいい、そんなのは間違っていると。
エルフは金銭で戦いを止め、サハギンは誇り無く略奪を繰り返す。
それが自分たちの同志なのか、と彼女は訴えた。
異世界から来た獣人たちも最初はそうだった、今は大義に酔っているだけだと。
彼女は自分の理想の戦うのだと宣言した。
「結局、戦いは避けられんか」
「マルースさん、あんたも結局そっち側かい」
「うん?」
オルグの哀愁の漂う視線に、マルースも眉を顰めた。
「あんたは憶えてないかもしれないが、昔耳狩りをしようとしていた兵士たちをぶん殴っただろう?
俺はその場にいたんだよ」
「なんだって?」
「結局俺の耳はこの有様だがよ、あの場でまともだったのはあんただけだった。
因果なもんだねぇ、昔守ってくれようとしたあんたまで敵になるだなんて」
「だからどうした? 同情を引きたいのか?
守ってやれなくてごめんとでも言ってほしいのか?
やったらやり返される、それは当然の報いだ。だが無力な人々にまで暴力に訴えるのは筋が通らないだろうが!!
今も昔も、それが俺は気に入らねぇんだよ!!」
マルースは苛立ちと共に、そう吐き捨てた。
「あんたたちが戦争を仕掛けたせいで、戦う必要もなかった俺の仲間たちまで殺し合いの矢面に立つ羽目になった!!
する必要の無い殺しまでしてだぞ!!
お前の言う恩義とやらの為に、俺の仲間を危険に晒し、一生引きずるような経験をさせるようなことをしでかした!!
俺は無関係な連中まで巻き込んだお前たちの行いを許さない!!」
結局、両者の戦いは避けることはできなかった。
勝敗は最初から見えていた。多勢に無勢とはこのことだった。
「お前が理不尽を敷く側に回っちまったことだけは、俺も悲しいがな」
「くそ、同情されたかないよ」
そう言って、オルグは倒れた。
「敵影無し、西門の防衛は成功したと言って良いでしょう」
進行が止んで、偵察に出ていた騎士団の騎兵がそう言った。
すぐさまローズマリーは息のある者の治療を指示し、獅子奮迅の戦働きを目にした協会員や傭兵たち、騎士団までもがそれに従った。
「マルースさん」
「ああ、マーロウの旦那の姿が見えん。
十中八九、こっちは陽動でどこかに奇襲の為の別部隊が控えているはずだ!!
もしかしたらもう帝都内に侵入しているかもしれん。
俺は心当たりを洗う、お前たちはマーロウの旦那を探してくれ」
「わかりました、ではこの場に彼らを残して別行動をしましょう」
ローズマリーはマルースとそんなやり取りを交わし、騎士団に手を貸してほしいと呼び掛け帝都の中へと入って行った。
現場の者達に負傷者の救護を任せ、共に戦えたことを誇りに思うと本心からそう言ったローズマリー達に対し、神話の英雄を見ているようでしたと語る彼らの中には崇敬すら宿っているように見えた。
だが、空の様相はローズマリーの不安を示すように雨模様となり始めた。
§§§
時間は少し進む。
デーリッチ達ハグレ王国は、マーロウたち奇襲部隊の進行を阻止することに成功した。
その時であった。
空を覆っていた雨雲が晴れ、光り輝く紋章が青空の一面に現れたのだ。
それは、ビルーダーの紋章だった。それを見た彼女の信者たちは戦意を喪失。
彼女の信者たちは武器を捨て、次々と投降し始めたのだ。
これは戦争の勝敗は決した故の、神による戦いの終結を呼び掛けるものだったらしい。
これがビルーダー様の仕込みか、とローズマリーは内心で呟いた。
そして彼女は目の前へと意識を向ける。
そこでは、マーロウとクウェウリが親子の問答を繰り広げていた。
ローズマリーはなぜ帝国に味方するのかと悔しげに感情を押し殺しているマーロウに、力で弱者をねじ伏せる帝国の行ってきた愚策を止める為だと語りかけた。
自分たちは略奪や破壊以外の方法でハグレの未来をよくしたいのだと。
お互いに認め合い共存できる世界を目指していると訴えかけた。
だがマーロウはそれは理想に過ぎず、力の支配から逃れられたことなど一日も無いと叫んだ。
戦争の悲惨さを叫び、理想など慰めにしかならないと。
この戦争で勝たなければずっとハグレは虐げられるのだと。
子供たちの未来の為にも──!!
それを聞いたクウェウリは、ようやく義父の戦う理由を理解し、前に出た。
それは父の主観に過ぎない、と。
自分の見たことも無い誰かを勝手に憐れんで、そのために戦っているのだと。
彼女は意気地なし、と義父に叫んだ。
自分は一度でさえ不幸だと言ったことはない。ずっと幸せだって伝えていたのだと。
自分を無骨者だと卑下しているマーロウに育てられたことを不幸だと思ってはいないのだと。
むしろクウェウリは、その彼の物言いこそに怒りを抱いていた。
オルグが彼の動機を知ったら泣くだろう、とクウェウリは声を荒げてそう言い放った。
そう、自分に育てられたことそのものが不幸だったような物言いこそ、自分や死ぬ気で戦ったオルグへの侮辱そのものなのだと感じたからだった。
自分たちが言っても無いことを、自分たちの言葉だと言って戦おうとするなんて情けないじゃない、と叫ぶ彼女の声には少しずつ涙声が混じっていた。
なぜなら、彼女たちの愛が育ての親に伝わってないことが分かってしまったからだ。
帝国から虐げられ、差別され、不便に感じてもクウェウリは不幸だと感じたことなんてなかったと訴えた。
そしてこれ以上彼を止めない、とも。
自分の言いたいことを理解してなお止まらないのなら、もう自分の言葉は届かないと彼女も分かっていた。
だからこそ、暴力よりも素敵な道があるはずだ、と彼女は伝えたのだった。
「もういいでしょう、マーロウ」
娘の言葉に愕然としている彼の前に、避難誘導や負傷者の救護の為に待機していたビルーダーが現れた。
ビルーダーの出現に投降した信者たちがひれ伏し始めた。
「今回の事で、あなた達を悪いようにはしないように手を回しておくわ。
この件で、帝国の面々も思い知ったことでしょう。もはやハグレ達と向き合うほかない、と」
「女神様……ですが」
「私は彼女たちを見て、信じたいと思ったわ。
この歪な繁栄を遂げた都がどのように変わるのか。
もしこの戦いで帝国という国家が本当に何も学ばないのだとしたら、その時は私が直接滅ぼすまでよ」
それでいいでしょう? と言うビルーダーの言葉に釣られ、マーロウはデーリッチ達を見た。
「……わかりました、投降しましょう。
私も、彼らの理想を信じたいと思います」
そう述べて力なく頭を下げたマーロウの姿を見て、クウェウリだけでなくデーリッチ達もホッと息を吐いた。
「パパ、帰ろう?
私、迎えに来たんだよ。
みんなで、また一緒にあの村で暮らしましょう」
「……ああ、そうだな」
だが、そんな親子の暖かい会話も長くは続かなかった。
「大変です、ハグレ王国さん!!」
騎士団の騎兵が一人、大慌てで馬を走らせやってきたのだ。
「どうしましたか!? こちらは大将のマーロウの投降を確認しました。
なにかあったのなら、それで相手に呼び掛けられませんか!!」
「ああ、それは何より!!
でしたら、それをすぐに伝えねば!!
そちらもすぐに召喚士協会前に来てください、爆弾を持った異国風の男がマルースさんを人質に!!」
「何ですって!!」
伝令にやってきた騎兵は驚愕するローズマリーを置いて馬を走らせていった。
「そんな!! まさか、正門が開くまで絶対に動くなと」
「内部に工作員を潜ませていたんですね!!
そうか、マルースさんはそれを察していてッ」
「と、とにかく、マルちゃんがピンチみたいでち、助けに行かないと!!」
「デーリッチ、落ち着くんだ。まずはゲートで様子を見れる位置に行こう!!」
「がってんでち!!」
そして、マーロウの態度から全てを察したローズマリーは、デーリッチ達と共に召喚士協会の近くへと転移するのだった。
§§§
その頃、召喚士協会前では緊迫した状況にあった。
「もぐもぐ……」
「あのー、柚葉ちゃん? 何してるの?」
「見てわからないか? 長期戦を覚悟し、腹を膨らませているのだ」
「……」
状況を整理しよう。
まずマルースは和国出身らしい男に背中から刀を突きつけられていた。
彼はもう片方の手に爆弾を手にしていた、地面に落ちればすぐにでも爆発する状態だった。
そんな二人の様子を油断なく窺っているのはベロベロスだった。
マルースはこの和国の侍の姿を宿で見かけ、ケモフサ村で顔を見たことがあると悟りベロベロスにその動向を監視させていたのだ。
そして彼が行動を起こす直前に取り押さえるべく行動したが、逃げ遅れた一般市民が人質になり代わりの人質を申し出たマルースが現在捕まっているという状況だった。
そして交渉役として買って出たのが、あんまり協調性が期待できない故に避難誘導を任された柚葉だったのである。
「おぬし、拙者を馬鹿にしてるでござるか?」
「ほら!! 神経逆撫でしてるじゃない!!」
目の前で正座しておにぎりを頬張り、魔法瓶から味噌汁まで出してのんきに食事をしている柚葉を見て二人はこんな様子だった。
「もぐもぐ、見たところ同郷のようだが、何故獣人たちに味方する?」
「物を食べながら喋るなよ……」
「知れたこと、マーロウ殿たちには一宿一飯どころではない恩義があるでござる。
その彼らの大一番の戦での大役、果たせず死ねぬということだけ」
マルースのツッコミも空しく、和国の侍二人の会話は進んでいく。
「ではどうする? その大役、もうすでに果たすにはいささか難しいと思うが」
「…………」
「武士道は死ぬことと見つけたり、と言うが無駄死にでは意味もないだろう。
ほれ、一緒におにぎりでも食おう。味噌汁もあるぞ」
「……その手には乗らんでござるよ」
一応しっかり交渉役としての役割は果たしている柚葉だったが、何とも言い難い気分のマルースだった。
「召喚士協会の連中は全員出払っているはずだ。
今ここで爆弾で協会を破壊しても、何の意味も無いぞ」
マルースも彼にそのように呼び掛けたが、帰ってきたのは沈黙だった。
「であらば、この建物を利用するまで。
おぬし、この中までご一緒願うでござるよ」
「おいおい、立てこもる気かよ」
これは面倒なことになったな、と思ったマルースだったのだが。
「本当に人質事件が召喚士協会で起こっているんですか!?」
当然だが、周囲は避難誘導していた騎士団やハグレ王国の面々、妖精王国の妖精たちで包囲されていて人の壁になっていた。
召喚士協会の面々も戻ってきていたが、騎士たちの背後に守られ不安そうに事態を見守っている。
「私が交渉します、通してください!!」
そこに、騎士たちを押しのけメニャーニャが現れた。
「メニャーニャちゃん、危ない、来るな!!」
マルースがそう叫んだ直後だった。
「協会の悪魔とお見受けする、その命頂戴仕るでござる!!」
マルースの背後を取っていた侍が、なりふり構わず交渉に出てこようとしたメニャーニャに突貫したのだ!!
「させん!!」
しかし彼が自分を横切ることを、交渉役ゆえに無手であっても柚葉はさせなかった。
彼女は素早く侍の腹にすれ違いざまに一撃を加えた。
だが、その拍子に彼の手から爆弾が零れ落ちる。
「危ないッ────!!」
メニャーニャは見た。
騎士たちの叫び声、咄嗟に地面に侍を叩きつけ伏せる柚葉、そして目の前の落ちようとする爆弾。
全てがスローモーションに動くような感覚の中で、マルースが自分に向かって飛びかかって庇おうとした姿を。
爆音と共に衝撃に揺さぶられて地面に投げ出されたメニャーニャが気を失う前に最後に見たのは……自分を庇い、盾となった男と。
その彼の目を覆いたくなるような姿を見て、デーリッチ達と共に駆けつけてきたプリシラの絶望に染まった表情だった。
南門にスタメンのゼニヤッタを投入する為、西門のメンバー選定時に彼女に話しかけず、氷系使えるメンバープリシラしかいないと言うやらかしをした作者です。あの子、獣人の弱点が氷だって教えてくれるんですよねー。
さて、今回はいろいろと原作から大きくずれが生じています。
それにより、この後の展開が少々原作よりマイルドになります。
まず具体的には死者が大きく減ります。帝都の情勢やらメニャーニャの置かれる状況やらもですね。
この作品はあくまで原作沿いですが、原作通りではありません。でなければ二次創作の意味がありませんから。
とりあえず三章はズブーブ大湿原からアナザーストーリーに直行し、シリアスを処理したその後にいつもの和気藹々とした面々を見せたいと思っています。
三章のアナザーストーリーの間に何か挟んでもテンポ悪いですし。そう言うことですのであしからず。
さて、次回には我らが主人公のマルースくんがどうなっているのか、こうご期待!!
では、また。
この作品のヒロインと言えば?
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そりゃあプリシラじゃろ?
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いいやこれからメニャーニャの時代やろ?
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ローズマリーに決まってんだろjk!!
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いやいや、我らが王様だろう!!
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ぶっちゃけ、ヒロインとか要らんわ