アナザー・アクターズ   作:やーなん

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長くなったので、今回は導入だけになります。



Another story スーサイドヘル
EX.女神の神域へ


『 女神の神域へ 』

 

 

 ──マルースからの提案

 

 

「獣人連合軍とのごたごたも済んだし、そろそろビルーダー様の神域に赴きたいんだが」

「ああ、そう言えばそんな話もありましたね」

 会議にて、マルースの提案にローズマリーもいつぞやのことを思い出していた。

 すると。

 

「みんなー、ビルーダー様の世界に行きたいか―!!」

 おおー!! と、多くのメンバーがデーリッチの手を挙げた。

 

「……お前ら、旅行しに行くんじゃないんだぞ。

 ってか、付いてくる気かよ、お前たち」

「だって、ビルーダー様は何人でも付いて行っていいよって言ってたし」

 デーリッチだけを借りて行くつもりだったマルースは、そんなことをいうハピコを呆れたように見やった。

 

「てか、ほぼ全員じゃないか。

 本当にいいんですか、ビルーダー様。こんな人数で押しかけて」

「構わないわ。どうせあいつら外の刺激に飢えているだろうし、歓迎してくれると思うわ。

 神域だなんて言っているけど、上位の位相に存在しているだけで大した場所じゃないし」

 と、ビルーダーはマルースに軽く返すばかりだ。

 

「召喚士としては、上位の位相と行き来出来るだけで既にとんでもない次元の話ですけどね。

 宗教によっては天国やら神の住む国やらと思われている場所ですし」

「でも理屈的には階段を跨いだ一階と二階みたいなものなんでしょう? 

 ビルーダー様もそう言ってるし、そこまで難しく考える必要なんてないんじゃない?」

「ヒトによっては生涯修行に捧げる人もいるのに、この人は」

 神の世界に行くことを対して軽い感じのエステルを見てメニャーニャはため息を吐いた。

 

「諦めてください、メニャーニャさん。

 ビルーダー様はさらっと次元が違うこと何でもない風にやるのが平常運転ですから」

「マジですか、そのうち感覚が麻痺しそう……」

 ローズマリーの言葉を受けて、肩を落として常識の違いにめまいがするメニャーニャだった。

 

「私も個人的に別の世界の天界に興味ありますね」

「福ちゃんたちなら別にいつでも招待しても構わないんだけれど……。

 まあ、誰かを招待するほどの場所じゃないわよ」

 興味津々といった様子の福ちゃんに、ビルーダーはそう言った。

 

「私たちの神域と下位の位相は時間の流れが違うから、みんな店を離れる必要は無いわ。

 むこうで一年過ごしても、こっちでは一日も経っていないでしょうし。

 この間の戦いでの疲れを癒す意味でも、観光気分で過ごせばいいわ」

「わかったでち、じゃあみんなが顔を合わせられる時間に行けばいいでちね。

 探索場所に追加しておくでち」

 

 女神の神域が探索場所に追加されました。

 

 

 

 §§§

 

 

「結局、全員じゃないか」

 準備をして集まった面々を見てマルースは呆れていた。

 王国の主要メンバー全員が集結していたのだ。

 

「大型馬車ツアーじゃねえんだぞ、お前ら」

「まあまあ、一度しか行けない観光地って言われれば行ってみたくなるものでしょうし」

「さらっと観光地扱いしてるんじゃねぇよ」

 おやつやら道具やらを確認しているベルに思わずツッコミを入れるマルースだった。

 

「それじゃあみんな、出発でちよー!!」

 デーリッチの号令と共に、ハグレ王国の面々は転移の光に包まれた。

 

 

 

「ようこそ、我らが領域へ」

 一同が目を開けると、そこは雲の上の世界だった。

 

「うわー!! 見てみてローズマリー!! 

 ずーっと雲が広がってるでち!!」

 デーリッチが青空の果てを指差しながら、一面の雲海の美しさにはしゃいでいた。

 

「ああ、これはすごいね……」

 自分たちの住んでいる世界の大陸には雲より標高の高い山が無い為、ローズマリーを初めとした多くのメンバーが雲と青空の世界に見惚れていた。

 

「ティーティー様、あの雲、何だか泳げそうハオ!!」

「止めんか、馬鹿者!!」

 ハオもその世界を見てそんなことをいうほどであった。

 

「ああ、これはイメージよ。

 実際にこの位相世界は漠然とした無が広がっているだけ。

 神のいる場所だから空の上、みたいな感じにしているだけで、実際には何も無いわ」

「あ、そうなんだ。なんか夢が無いなぁ」

 ビルーダーの解説を聞いて、本物にしか見えないこの光景を改めてエステルは見渡した。

 

「で、あれがお前たちのホームなのカ?」

 景色に興味を示さなかったイリスが正面を指差す。

 そこには、巨大な城のような建造物が存在していた。

 

「ええ、みんな、そろそろ移動しましょう」

 一行はビルーダーの呼び掛けに、ぞろぞろと城の中へと入っていく。

 内部は見上げるほど天井が高く、大理石に近い未知の素材でできていた。

 中に入ると外見でさえ巨大な城なのだが、どこまでも空間が広がっているような錯覚すら味わうこととなった。

 

「受付係、客よ」

「ふーん……客ねぇ……客? お客さん!?」

「見てわからない?」

 受付のカウンターらしきところにいる女性は、ビルーダーの呼び掛けにハグレ王国の面々を眠たげな緩慢な動作で見渡すと、くるりとカウンターの陰にしゃがみこんだ。

 

「ようこそ、我らがメアリースの神域へ。

 貴方たちの来訪を歓迎いたしますわ」

 ほぼ一瞬で化粧やら身だしなみやらを整えて素晴らしい営業スマイルで受付係はそう言った。

 

「……貴女の仕事ぶりは統括に報告させてもらうわね」

「仕事って、この私の頭脳を機械でも出来ることで腐らせているだけじゃない……」

「じゃあ機械にも出来る仕事をこなせないあなたは再生産が妥当と言うことかしら?」

「…………ごめんなさい、廃棄は嫌です、許して」

 ビルーダーに勤務態度を見咎められている受付係が涙目になってきているので、ローズマリーが助け船を出すことにした。

 

「ビルーダー様、私たちは気にしてないのでその辺りで……」

「だそうよ。あなた、どうせ暇でしょうから彼女らを案内してあげて」

「了解です!!」

 しゅっと敬礼を返す受付係から目を話し、ビルーダーは王国の面々に顔を向けた。

 

「ここから先は貴方たちが自分の目で見なさい。

 私は案内とか面倒だから、先に人事部に話を通しておくわ」

 そう言って、ビルーダーはすたすたと先に行ってしまった。

 

「……はぁ、十年に一度あるか無いか程度の来客頻度で受付係なんてやってられるか」

 ビルーダーの姿が見えなくなると、受付係はつまらなそうに吐き捨てた。

 

「で、何の用なの? 案内しろとか言われたけど」

「ええと、一応観光ということになるのかな? 

 人事部の責任者に面会することが目的になるのだと思いますけど」

「……結構ふわっとしているのね。

 まあ、人事部の連中は多忙だから今アポを取りに行ったんでしょうけど」

 受付係は眠たげにローズマリー達を見やる。

 

「観光と言ったって、見ていて面白い場所なんて無いわよ。

 まあ、言われた仕事はするけど。付いてきて」

 そう言って、あくびをしながら受付係は先導し始めた。

 

 

 

「ここは園芸部」

 一行は数歩ほど歩いただけで周囲の景色が変わった。

 そのことに驚く間もなく、受付係は説明を始めた。

 

「滅ぼすべき世界を滅ぼすか延命させるか決める場所よ、以上」

「説明不足過ぎるわ!! もっとまじめに説明せんか!!」

 彼女の説明のどこに園芸要素があったのか結び付けられたものは皆無だった為、すかさずティーティー様がツッコミを入れた。

 

「えー、そこから? 

 あなた達、文明レベルはどの程度の世界の人たちなの?」

「ええと、たしか49だと」

 ローズマリーがそう返すと、受付係は額に汗をたらし、そっぽを向いた。

 

「今のは忘れて。ここは園芸をするところよ」

「おいおい……」

 これは勤務態度を見咎められるわけだと、ティーティー様もあきれ顔だった。

 

「この宙に浮いている半透明の木はなんでち?」

 デーリッチはその場所の中央に映し出されているホログラフィを指差しそう言った。

 周囲には受付係と同じ顔の女性たちが難しい表情で作業をしていた。

 

「あー、うん、あれはどの枝を切るか話しているのよ、園芸部だもの」

「ん? もしかしてこれは」

 そっぽを向いたままの受付係の言葉を聞いて、メニャーニャは何か感づいたのかホログラフィに近づいた。

 

「これは木の幹から各枝への何かしらの流れを示しているんですか? 

 似たような図をどこかの遺跡で見たことがあるな。もしかしてこれは……」

「おい、どうしたよメニャーニャ。黙り込んじゃって」

 顔を顰めて口を閉ざしたメニャーニャを心配したのか、エステルが声を掛けた。

 

「これはマナの圧力、そしてどの方向にマナが流れるかの図解ですよ。

 この間見せてもらったシノブ先輩のメモの発展版です」

「へぇ~、神様が使う図の足元にまで及んでるとか、相変わらずシノブはぶっとんでるなぁ」

「重要なのはそれじゃあありません、あの部分、暗くなっているでしょう?」

「ホントだ、そうね」

 エステルはメニャーニャが指差す先の枝の先っぽが黒くなっているのを見て頷いた。

 

「あれはおそらく、何らかの要因でマナの流れが途切れたかどうかで壊死しかかっていることを示しているのでは?」

「え、じゃあつまり……」

 そこまで言われて、察せないほどエステルも馬鹿ではなかった。

 

「なるほど、人間の身の上でここに招かれただけはあるわね」

 受付係は自力でホログラフィの意味を理解したのを少し安堵した様子でこう言った。

 

「そう、すべての事象には寿命があるわ。

 それが宇宙だろうと、星だろうと、ね。あれはマナの枯渇や熱的死を迎えそうな文明や世界を表しているわ。

 その世界の維持によって全体の世界のマナの総量が減るから、その供給を断つかどうか協議して滅ぼすか延命するか決めるのよ。ここはそういう部署」

「スケールが大きすぎて具体的に想像ができないわね……」

 ある程度受付係の話を理解したのか、ヤエは首を振ってそう言った。

 

「ええと、滅ぼすってことはそこに住んでいる人たちはどうなるんでち?」

「それをどうするかも含めて協議する場所よ。

 まあ、たいていの場合過剰に発展した文明がエネルギーを食いつくして、滅んでいることが多いわね。

 無人無生物の世界にマナを流入させるなんて無駄だもの」

「そうなんでちか……」

 痛ましいものを見るように、デーリッチは黒ずんだ枝先を見るのだった。

 

 

 

「ここは統括部と営業部」

 次に案内されたのは、書類が積まれたデスクが規則的に並んだ場所だった。

 そのデスクに向かって書類仕事をしているのは、やはり皆同じ顔だった。

 

「営業部は主に新しい楽園候補の世界を見繕って、現住の神々や住人のリサーチとか交渉をするところよ。

 統括部は、まあ言うまでもないわね。全部の部署に指示を出したり管理したりするところよ。問題行動が多かったり、成績が悪い者の処罰とかも行うわね」

「なるほど、態度が悪い時はここに言えば良いんですわね」

「さ、ささ、ここも忙しい連中ばかりだから次に行きましょう!!」

 福ちゃんが釘を差すと受付係は慌てて場所を変えた。

 

 

 

「ここは研究開発部」

 その場所に移ると、一行の鼻孔にオイルや薬品の臭いが入り込んだ。

 

「ここは、まあその名の通り、統治する世界ごとに必要な道具やら何やらを生産したりするところよ。

 全ての機械や魔道具が別の世界では使えないなんてことは多々あるから」

「この辺りは、神の領域でも大して変わらないのね」

 ミアラージュが図面を引いていたり金属の加工をしている同じ顔の面々を見ながら呟く。

 

「お、あそこにゲームの筐体があるぜ!!」

「あッ、本当でち!!」

 目敏い子供二人が団体から離れてゲームの筐体が並べられているところへと歩いて行った。

 

「ああもう、団体行動を乱しちゃダメだよ二人とも!!」

「あら、もしかして貴方たち、ハグレ王国かしら!!」

「えッ」

 二人を追おうとしたローズマリーは、横からいきなり話しかけられ面食らった。

 何せ、話しかけてきたのは溶接用の面を付けたままだったのだから。

 

「あなた達のデータは実に参考になったわ。実にユニーク!! 

 これからもそっちにいろいろと筐体を送るから、どんどん遊んじゃってね!! 

 私たちも面白いソフトをどんどん作るから!!」

「あ、どうも……」

「最近の流行はVRなのだけど、文明レベルが追いつかないうちはレトロ系でもっと行くしかないかしら? 

 それとも──」

 ローズマリーはものすごい早口で話しかけられ、困惑しながら頷くことしかできなかった。

 

「その、ええと、お任せします」

「任せて!! データは多ければ多いほど良いわ!! 

 私たちが開発した娯楽が人々に日々の疲れを忘れさせるのよ! 

 貴方たちはその手伝いをしているの、誇りなさい!!」

 彼女は終始ハイテンションのままそう言って、ローズマリーから離れて行った。

 

「さ、災難だったですね……」

 げんなりした様子で戻ってきたローズマリーを見てアルフレッドが彼女をねぎらった。

 

「ベル君、後であれで遊ばせて貰えるって!!」

「やったぜ、最新のゲームを遊ばせてくれるなんて太っ腹だなぁ!!」

 子供二人もにこにこした様子で戻ってきた。

 

「はぁ、私もこっちに配属されればよかったのに」

 と、受付係が愚痴りながら別の場所に移動となった。

 

 

 

「ここは資料室」

 次に来たのは、無限に続くかと思えるほどの本棚の壁のある場所だった。

 

「まあ、言うまでもなく資料を保管しているところね。

 私たちがこれまで行ってきた事業の全てや叡智が保管されている重要区画の一つね」

「はぁ、すごい」

 見たことが無いほどの膨大な量の本に圧倒されるハグレ王国の面々だった。

 

「受付さん、ここは見るべきところは無いでち、次に行くでち!!」

「そうだな!! 次に行こう次!!」

「この子ら、本が出てきた途端にこれだよ」

 本に拒絶反応を示す子供二人にため息を吐くローズマリーだった。

 

「あのー、思ったんですけど、質問いいすか?」

「ええ、良いわよ」

 ぶーぶー、言っている子供たちを横目に、ニワカマッスルが手を挙げ質問をした。

 

「ここにいる人たち、方々? は、なんで全員同じ顔をしてるんです?」

「私たちが本体の分体だとは聞いているわよね? 

 要するに、私たちは本体の写し身なのよ。あ、そうだ」

 受付係は良いことを思いついたとばかりに手を叩いた。

 

「どうせだから、見ていく?」

「見ていくって、なにをですか?」

 悪戯っぽく笑う彼女に、ヘルラージュが小首を傾げて尋ねた。

 

「私たちの本尊を、よ」

 

 

 

 そこは、これまでのように無限の広がりを思わせる空間の錯覚も、白亜の床も壁も無かった。

 どこか閉塞感すら感じる小さな部屋は、群青色の壁と床にはコードやモニターでいっぱいだった。

 

「これが、私たちの崇める“神”よ」

 受付係が顎をしゃくって、示した先にそれはあった。

 

 部屋の中心にあるカプセル状の透明なガラスのような何かで覆われた機械的なベッドの上に、一人の女性が眠っていた。

 美しい金髪、端正な顔立ち、均整のとれた肉体が手術衣のような薄い衣に覆われた彼女は、そこに安置されていた。

 

「この方が、ビルーダー様たちの本尊……」

 ごくり、とマルースが畏敬のあまり息を呑んだ。

 

「女神メアリース、私たちの生みの親。造物主にして破壊神」

 そして当然のように彼女は受付係と同じ顔をしていた。

 

「……眠っているハオ?」

「ええ、永遠の眠りよ。

 ここはサーバールーム。これが私たちの力の源にして、最重要区画。

 今も彼女は夢を見ているわ。自分が一番楽しかった頃の夢を、理想の楽園を作り上げた夢を見ながらね」

 ハオの言葉に、受付係はそんな風にぞんざいに返した。

 

「夢、ですか」

「なんなら、今なんの夢を見ているか見てみる?」

 頬に手を当てて思案している様子の福ちゃんに、受付係はモニターのスイッチを押した。

 画面に夢の中の光景が映し出される。

 

 

『きゃははははは!! 死ね死ねゴミども!! 

 私を必要としない虫けらどもは、体が腐れ落ちて化け物になるのがお似合いよ!!』

 ピッ、と受付係は無言でモニターのスイッチをオフにした。

 

 

「さ、次に行きましょう」

「おい、おいおいおい!! いま物凄いスルーしてはいけない光景が流れたぞ!!」

 ティーティー様が声を上げるが、受付係はそっぽを向いたまま黙秘を貫く。

 

「むにゃむにゃ、うひひ、もっと苦しめ……」

「ほら、本人もこんな寝言言ってるし!!」

 カプセル状のベッドの中から聞こえる寝言も受付係は知らんぷりした。

 

「勘違いしないでほしいわ。

 性格がクソ野郎なのは本体だけよ、私たちはそれを反面教師として学習しているもの」

「えぇ、本当ですかぁ?」

 ジト目でかなづち大明神がそんな弁明をする受付係を見やる。

 

「そう言えばあなた達、人事部に用事があるのだったわね!! 

 他にもいくつか部署はあるけれど、そろそろ向こうに話が通っている頃でしょうし、行ってみましょう!!」

 受付係はそのようにまくし立てて、ようやく本命の場所へと向かうこととなった。

 

 

 

「ここが人事部よ」

 そして彼らは今回の目的地へとやってきた。

 

「ここは主に私たちを崇める人類の死後の魂をその罪科に応じて転生させる場所を決めるところよ」

 受付係はそう言って、先ほどの統括部や営業部と大して変わらない書類の乗ったデスクが並ぶ光景を示した。

 

「あら、あなた達、どうしてこんなところにいるの?」

 ハグレ王国の面々の登場に、デスクに向かって仕事をしていた一人が顔を上げた。

 

「あ、もしかしてクリエッタ様ですか?」

「ええ、あなた達、私たちの神域にまで来るなんて何かあったのかしら?」

 彼女は以前、王国で講義をしたクリエッタだった。

 どうやら彼女はわざわざここまで来たことに対して心配しているようだった。

 

「ここの責任者である、ビルーダー様にお会いしに来ました」

「……そう、そうなのね」

 マルースが前に出て答えると、クリエッタは納得したように頷いた。

 

「一つ、忠告しておくわ。

 うちの上司は甘さとは無縁よ。きっと厳しい試練を与えられる。引き返すなら今よ」

「覚悟の上です」

「あなたに言っているんじゃないわ、後ろの面々に言っているのよ」

 クリエッタはマルースから視線を外し、ハグレ王国の面々に顔を向け直す。

 

「こいつらは付添いです、なぜこいつらに試練が!?」

「あなた達はそちらの担当に気に入られたのでしょう? 

 女神に気に入られるということは、恩恵と同様に試練を与えられるものよ。

 王様、小さな王様。あなたにとってそちらの担当はどういう存在なのかしら?」

 狼狽えるマルースを無視し、クリエッタはデーリッチに問いを投げかけた。

 

「勿論、大切な仲間でち!!」

「そう。ならば、それにふさわしい覚悟を示しなさい」

 

 

 

「──話は聞かせてもらったわ。次よ」

 

 

 

 一面が、雲海へと変化した。

 職場感が溢れるデスクの列から、青空と雲海だけの移動させられていた。

 

「あなたが、“ビルーダー”様ですね?」

 ローズマリーが、目の前のソファーの形の雲に背を預け座っている女神の分体に問いかけた。

 

「ええ」

 彼女は頷いた。

 その所作から、今まで出会ってきたどの分体よりも威厳を感じ取れた。

 

「よく、私の前に戻って来たわね」

 彼女は視線だけをマルースに向けて、どこか子供を慈しむような微笑みを向けてそう言った。

 それだけでマルースは確信した。

 あの日、あの時、目の前に姿を現した女神が彼女であると。

 

「我が神、ビルーダー様」

 マルースは一人前に出て、彼女の前にひれ伏し言った。

 

「恐れながら今一度、貴女様にあの時の問いを投げかけることをお許しください」

「ダメよ」

 だが、女神はバッサリと彼の願いを斬って捨てた。

 

「な、なぜ!?」

「なぜ、ですって? あなた達の担当は貴方を許したかもしれない。

 でも私は貴方を許した覚えはないわ。他でもない、貴方の担当である私が」

 ぱくぱく、とマルースは呆然として口を開閉させることしかできなかった。

 

「じゃあ、どうすればマルちゃんを許してくれるでちか?」

 一歩、前に出てデーリッチが気丈にも女神に問うた。

 

「それをこれから決めようと思うのだわ」

 くすり、と酷薄な笑みを女神は浮かべた。

 

 ぱちん、と彼女が指を鳴らす。

 すると、雲海の一部が開き、穴が空いた。

 

「その穴の先に、貴方の求めていた答えがある」

 女神はソファーから立ち上がり、雲の穴を指示した。

 

「だけど心しなさい、その先は地獄よ」

 地獄、と聞いて多くのメンバーの表情が固まった。

 

「多くの人間が三日も持たずに助けを乞い、泣き叫ぶ各地獄に繋がっている。

 罪ある者はそれに囚われるでしょうね。そして死を待たずして罰を受けるでしょう」

 女神は王国の面々の表情を楽しむように一瞥した後、更にこう言った。

 

「でもあなた達は生きているから、罪無き者の手によって罪科の責め苦から解放されることもできるでしょう。

 貴方たちの絆が本物なら、地獄から抜け出すことも可能だわ。

 ────さあ、どうする?」

 罪を恐れるか、絆を信じるか。

 残酷な女神の試練は、始まる前から開始されていた。

 

「ふーん、この先が地獄に繋がってるデースか」

 意外にも、最初に穴へと向かって行ったのはイリスだった。

 

「お前たちがどんなぬるい地獄を作ったのか、見てきてやるよ」

 彼女は女神に向かって舌を出し、両手を広げ背中から地獄の穴へと落ちて行った。

 

「イリスさん!? わたくしも行きます!!」

 続いてゼニヤッタも穴の中へと飛び降りた。

 

「おいおい、あの二人はマズイだろ。

 マルースさん、先に行ってるぞ!!」

 ニワカマッスルも二人の後を追って穴に飛び降りて行った。

 

「あー、マッスル!! あ、でもマッスルなら大丈夫か」

「それはどうかしらね。

 真に罪無き者などいないわ。罪科の重さが違うと言うだけで、地獄は様々な責め苦を見せるわ」

 それを聞いてギョッとしたデーリッチを見て、女神はくすくすと笑った。

 

「マッスルが行ったんだ。俺が引くわけにはいかんだろう」

「ははは、一人では行かせんよ、先輩」

 マルースも覚悟を決めた表情のまま、ジュリアと共に穴に飛び降りた。

 

「マッスルさん、マルースさん!!

ぼ、僕も行きます!!」

ベルも勇気を振り絞り、地獄の入り口にその身を投げた。

 

「私も行くよ」

「ローズマリー……」

 踏み出す友の背を見て、エステルはローズマリーが穴に落ちていくのを見ていた。

 

「私も行くわ!!」

「ああもう、先輩!! 私も行きますよ!!」

 エステルが、メニャーニャが。

 

「ヘル」

「うん、お姉ちゃん」

 小さな姉が、震える大きな妹の手を取り、共に地獄に堕ちた。

 

「私も行こう」

「パパ、大丈夫?」

「無論だ」

 マーロウは精一杯の笑みを浮かべて、娘と共に己の罪へと向き合いに向かった。

 

「ま、私は大丈夫でしょ」

「はは、そうだといいね」

 ジーナと、アルフレッドも。

 

「地獄なんてへっちゃらだお!! レッツゴー!!」

「わぁ、急に走るでない!!」

 勢いよく飛び込むハオとティーティー様。

 

「あ、神々は地獄に行っても意味ないのだけれど、まあそれくらいのハンデは目をつむりましょうか」

「そうですか、なら万が一の時は私たちが助けないといけませんね」

「……そうですな。行きましょう」

 女神の呟きを聞いて、福ちゃんとかなづち大明神が皆に続く。

 

「ばうばう!!」

「もけ~」

 怖気づいている地竜ちゃんの背中を押し、ベロベロスも地獄へと赴く。

 

「私も行くぞ、地獄をヅッチーの輝きで照らしてやるぜ!!」

「キャー、ヅッチーかっこいい!!」

 ヅッチーとプリシラも、穴に底に吸い込まれて行った。

 

「わ、私も行きますぅ!!」

「雪乃、あんまり無理しちゃダメよ」

 雪乃とヤエも、仲間たちの元へと足を踏み入れた。

 

「ぶるぶる……」

「こたつちゃん、怖いなら待ってても良いんでちよ?」

「う、ううん、皆が行くんだから、私も行くよ」

「では共に行こう。地獄の魍魎に過剰防衛カウンターが通用するのか試してみるか」

「そ、そうだね!! 私たちコンビは無敵だし!!」

 こたつドラゴンのこたつの上に乗った柚葉も、恐怖の乗り越えに向かった。

 

「むぅ、出遅れてしもうた。

 死後にしか行けぬ場所に生きたまま行けると言うのに……さあ楽しみじゃ!! いざ参らん!!」

 そしてドリントルは勇ましく飛び降りて行った。

 

「やれやれ、私に地獄があるのか、試してみるのも面白いか」

ブリギットも浮遊椅子でゆったりと穴の底へと降りて行った。

 

「まったく、みんなして向こう見ずなんだから」

「ハピコちゃん、一緒に行くでち?」

「わかってるさ、ボス。まったく、ただの観光のはずだったのになぁ」

 最後に愚痴りながらハピコとデーリッチが地獄へと降りて行った。

 

 そしてハグレ王国の面々はいなくなり、女神だけがその場に残された。

 

 

「……意外だわ。まさか全員、本物の地獄に飛び込んでいくなんて」

「私の言った通りでしょう?」

「そうね、でも結果は出るまで分からないわ」

 女神はそう答えて、結果が出るまで仕事を続けることにした。

 

 

「次」

 手元に現れた資料を広げ、女神は次の案件を処理するのだった。

 

 

 




ついに第三章のアナザーストーリーになります。
今回は限られたメンバーか、それとも全員で行くかで悩んだのですが、やっぱり全員で行った方がわちゃわちゃしてて楽しいかなってことで全員にしました。
ハグレ王国には罪や罪の意識を持った面々が幾人かいますが、彼女らだけで行くのは不自然だったので、時間の流れが違うと言う設定を急遽生やした次第です。

何人かはカットする予定ですが、次回は地獄に身を投じた王国の面々の姿が描かれると思います。
彼女らがどうそれらを切り抜けるのか、お楽しみに。

次回こそ、『地獄巡り』の始まりです!!
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