アナザー・アクターズ   作:やーなん

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いよいよ今回で、オリジナルストーリー終了です!!
筆が思いのほか進んだので、前回から六時間もかからず投稿できましたよ!!
暗いままで終わるのもあれですしね、いよいよハグレ王国らしさを見せられますよ!!


EX.地の底の希望

『 ハグレ王国の戦いを 』

 

 

「緊急会議を始めるでちよ」

 そう宣言するデーリッチの声は、少し弱々しかった。

 

 再び町に宿を取ったハグレ王国の面々は、さっそく緊急会議を行うこととなった。

 

「みんな、無力感や悔しさもあるのはわかる。

 だけど今後の方針だけは決めないといけない。疲れているだろうけど付き合ってくれ」

 皆の士気は最低値だった。

 当然だ、頑張って守ろうとした町は崩壊し、気付けばすべて元通りになっていたのだから。

 この地獄は、まともではいられない場所なのだ。

 

「カタちゃんたちには、全く歯が立ちませんでしたね」

「あんなの、どうしろって感じだったしなぁ」

 悩ましげにため息を吐く福ちゃんに、肩を竦めるブリギット。

 

「戦うだけ無駄だとは思いましたが、まさかあそこまでとは」

「あの住人達が飛び降りてった先を見たか? あれがこの場所の本質ダ」

 メニャーニャは一つの結果を得てそう述べ、イリスはニヤニヤと笑っていた。

 

「本質、ですか?」

「そろそろ、お前もこの場所がどういう地獄か見えてきたんじゃないのか?」

「まだまだ確証の無いことですよ」

 思わせぶりな彼女の言葉に、メニャーニャは敢えてそう言葉を濁した。

 

「我々は全力で戦った。しかしそれが一切通用しなかった。

 そもそも三日程度の準備期間で、あれを押しとどめるには無謀が過ぎるでしょうな」

「そうです、逆に考えるべきです!! 

 もうあんなのと戦うべきじゃありません、逃げましょう!!」

 現実的な将としての意見を述べるマーロウに対し、雪乃は怖気づいてそんな主張をした。

 

「前回は我らは住人達の為に戦った。

 じゃが、それが出来ぬと悟った途端おめおめと逃げ出すのは虫が良すぎるじゃろう」

「だが、肝心の住人達は自分たちの命を神に捧げるのを何とも思ってない連中だ。

 私たちは何をしているんだろうか、何をすべきなのか」

 ドリントルもジュリアも、目的すら見えないこの状況に苦渋に満ちた表情をしていた。

 

「うーん、そうだ!! ハオ良いこと思いついた!!」

「はいはい、一応言ってみろ」

「あのねあのね、ティーティー様!! 

 みんなで逃げれば良いんだよ!!」

「じゃからそれは」

 ティーティー様がハオに苦言を呈そうとしたが、彼女はううんと首を振った。

 

「この町のみんなも一緒に逃げればいいんだハオ!! 

 戦ってもダメなら、そうするしかないんじゃないかな!!」

「その肝心の住人達が逃げる気が無いんじゃろうが」

「うん、だから、みんなも逃げたくなるように私たちでいっぱい考えよう!!」

「……」

 こんな状況でも底抜けに明るいハオに、ティーティー様も押し黙った。

 

「そうでち、どこまで逃げられるか分からないけど、もうこうなったら逃げるでちよ!!」

「デーリッチ、じゃあなにか案があるのか?」

 何やら名案を思い付いたのか、ぴょんと立ち上がりデーリッチがそう言ったので、ヅッチーが問う。

 

「この世界の住人達は、みんなビルーダー様の信徒なんでちよね、それを逆手に取るんでちよ!!」

「というと?」

 ずっと表情に陰りが見えていたローズマリーが、デーリッチの言葉に顔を上げた。

 

「名付けて、悪魔の誘惑作戦!!」

 そのデーリッチの思いつきがこの停滞していた状況を、ハグレ王国だけなく、この地獄の町を動かすなど、誰もが想像できていなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

「はーい、みなさーん。よってらっしゃい見てらっしゃい!!」

 エステルの掛け声に、奇妙な物を見るような表情をしていた住人達が何を始めるのか、と興味を引かれたように見た。

 

 教会から広場の使用許可を得たハグレ王国は、彼らの戦いをすることにした。

 まず、石材や鉄板、レンガなどを調達し、組み立てる。

 小麦を農家から調達しに行って、小麦粉を手に入れる。

 

 そしてクウェウリがパンを作り、広場で堂々と焼き始めた。

 住人達は嗅いだ事のない香ばしい香りに、釘付けとなった。

 

「ここにあるのは、遠くの方から伝わった女神の知恵!! 

 小麦を使ったパンという食べ物ですよー!!」

 これが、ハグレ王国の戦いだった。

 

「ねぇねぇ、早く焼けないでちか!!」

「ヅッチーもお腹空いたぞ!!」

 子供二人が急造のパン釜を前にして、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 

「ちょっと待ってて、二人とも。

 私もイースト菌無しのパンは初めてだから、焼き加減に気を付けないと」

「それにしても、小麦粉があったことは幸いでしたね。

 最悪、小麦を挽くところから始める必要がありましたから」

 クウェウリが子供たちを諌めているのを、メニャーニャは少し離れたところから見ていた。

 

「小麦粉を挽いてそれを女神に捧げるのをこの町の小麦農家は行っているらしいんです。

 恐らくですが、ビルーダー様はそうして生産した小麦粉を別世界に持ってって供給しているのではないかと」

「刑務所の刑務作業みたいなものでしょうか。

 道理で、この世界の住人には必要の無い食料が生産されているわけですね」

 ローズマリーの言葉に、メニャーニャは目の前に積まれた食材の山を見やる。

 そこにはお米や砂糖、塩といった食材が積まれていた。

 

「国王様、ローズマリーさん、お鍋が用意できましたわ!! 

 これより愛情おむすび本舗、異世界店を始めます!!」

「任せるでち、ゼニヤッタちゃん!!」

「おい、ゼニヤッタちゃん、こっちに炭の用意はできてるぜ!!」

 鍋を持ってきたゼニヤッタが、お米を洗って炭を用意していたニワカマッスルの元へと向かう。

 しばらくすると、お米が炊き上がる香りがしてきた。

 

「エステルさん、パンの第一号が出来上がりましたよ!!」

 ミトンを手にはめ、パン釜から焼き上がったパンを取り出しクウェウリが言った。

 

「おー、焼けたでち!! さっそく王様が一つ味見を」

「あ、ずるい!! 私にもくれ!! 

「どうぞ、二人とも」

 食い意地の張っている二人に笑みを浮かべて、彼女は焼きたてのパンを差し出した。

 

「はふ、はふ、熱い!! でもおいしい!!」

「無発酵のパンもぜんぜん行けるなぁ!!」

 二人は満面の笑みでパンを一つ平らげてしまった。

 

「やれやれ、あの子はこっちでまともな料理を食べたかっただけなんじゃないのかな」

「まあ、ここ数日あの丸薬でしたものね」

 これにはローズマリーもメニャーニャも苦笑気味だった。

 

「な、なあ、それ、食べれるのか?」

 やがて、見ているだけだった住人の一人が子供たちがパンを食べている様子を見てそう尋ねてきた。

 

「はい、今ならワンコインでお一つです!! 

 このパンはイースト菌が入ってないので、焼き立てが食べごろですよ!! これを逃す手はない!!」

「よ、よくわからないが、そう言うことなら一つ貰うよ!!」

 エステルの営業トークに負けたからではないだろうが、住人は初めてパンを手にして、パクリと食べた。

 

「なんだこれ、美味いぞみんな!!」

 彼の一声で、興味深そうにしていた住人達が次々と寄ってきた!! 

 

「ふん、こんな手であのクソ女神の思惑を潰せるのか」

「おや、自分が失敗した手ではイリスさんは不満ですか?」

「言ってろ、ここのバカな住人どもがこんなチョロいとは思ってなかっただけだヨ」

 おにぎり屋の準備をしているイリスとプリシラがそんな会話を交わしていた。

 

 

 

 

「食べ物で釣るぅ!?」

 デーリッチの提案した作戦の内容を聞いて、素っ頓狂な声を出すニワカマッスル。

 声に出さなくとも、似たような心境に者は多かった。

 

「そうでち!! 前にビルーダー様が言ってたでち!! 

 美食の前に人々は自分の声が届かなかったって!! 

 みんなもおいしい食べ物を食べれば、こっちの話に耳を貸すでちよ!!」

 デーリッチの言葉に、各々顔を見合わせた。

 

「私は、やってみる価値はあると思います」

「ええぇー、マジかよ」

 エステルは後輩が賛成票を投じたことに、目を剥いて驚いた。

 

「この町の信仰では、知恵や教養を高めることは善行ですから。

 別の土地の文化を会得する名目で、生きる理由を作ってあげるという作戦はとても理に適っているように思えます」

「ある種の、前向きな現実逃避ってことか」

 この町の住人達は、命を捨てることを何とも思っていない。

 それは次がある、と信じているからだ。ここが地獄だとは知らずに。

 

「おあつらえ向き、と言ってはわかりませんが、この町では必要な食物の調達も可能でしょうし。

 なにより、私たちもあの丸薬ばかり食べていては気が滅入るでしょう?」

「そうだね、私も賛成だよ。

 少なくとも戦いの準備をして見込みのない賛同者を得るより、こちらの方が皆の士気を高められるしね。

 住人の考えを変えると言うのも、案外上手くいくかもしれない」

 と、ローズマリーも賛成の声を上げた。

 

「そうですね、マルースさんも以前帝都のお店で高級料理を食べた時、泣いて喜んでましたものね」

「やめろよその話は」

 プリシラが可笑しそうにそんなことを蒸し返すので、ムスッとなるマルースだった。

 そんな感じで、王国でも屈指の知恵者たちの賛同を得たこの作戦は、すぐさま実行となった。

 

 

 

「みなさん、自生してた木苺を集めてきましたよ!! これをジャムにしましょう!!」

「乳の出なくなった乳牛を頂けることになりましたわ!! 

 そのままじゃ捌いてもお肉は堅いでしょうけど、ハンバーグにはできますわ!!」

「こっちはとりあえず近くの川で魚を釣って来ましたよ!!」

 ベルが、ヘルラージュが、かなづち大明神が、次々と食材を持ってくる。

 

「うーん、これだけ食材が集まると、調味料不足が気になるなぁ」

 ここにある調味料は砂糖と塩だけなのだが、贅沢は言えないか、とローズマリーが不満を切り捨てる。

 これだけの材料が集まったこと自体が奇跡なのだ。

 

「ローズマリー、これを使いなさい」

「えッ」

 彼女が振り返ると、驚いて絶句した。

 なんと、ビルーダーが香辛料などの調味料が入った瓶を抱えて持ってきているではないか。

 

「び、ビルーダー様、ええと、良いんですか?」

「私も、ハグレ王国の一員として手伝わせなさいよ。

 人員が一人増えるぐらいの手伝いで、あっちに文句は言わせないわ」

「……そうですか。ありがとうございます」

「気にしないで。あなた達は本当によくやっているわ」

 それだけ言って、ビルーダーはエステルたちの手伝いに行ってしまった。

 

「ええー!! これ、作り方を教えて貰えるんだー!!」

 マルースがわざとらしく住人達に混じってそんなことを言った。

 それを聞いた住人達が、自分たちも教えてくれとエステルたちに詰め寄った。

 

 それを見たローズマリーは感じていた。

 希望の風が、こちら向きに吹いてきているのを。

 

 

 

『 真実 』

 

 

 それからハグレ王国は、三日の猶予を様々な料理を披露した。

 彼らだけでは全然手が足りず、料理を学びたいと言う住人の協力者を増やしながら供給量を増やし、運命の時を待った。

 

 そして、終末が間近に迫ってきていた。

 

「みんなー、聞いてほしいことがあるでちー!!」

 すっかりお祭りのような状態が続いている町の広場に設置された壇上に、デーリッチが立った。

 

「知ってのとおり、もうすぐこの町はビルーダー様の使徒がやってきて何も無くなってしまうでち!! 

 だけど、デーリッチ達はこれから別の町へと逃げて、こうしてみんなのように、料理の文化を広げていくんでち!!」

 ハグレ王国だけでなく、その言葉は住人達にも届いていた。

 

「だけどー、この町みたいに手が足りなくなることが予想されるでち!! 

 もしよかったらでちけどー、みんなも美味しい料理を広める手伝いをしてくれると嬉しいんでちよー!!」

 それを聞いた住人達の多くは顔を見合わせた。

 

「それじゃあ、しょうがないよな……」

「デーリッチちゃんたちが俺たちを必要としてるんじゃなー」

「俺ももっと美味い料理教えてもらいたいし……」

 と、いった光景がそこかしこで見られた。

 

「お兄ちゃん、私ももっと美味しい物食べたい!!」

「そうか、もっと美味い物食べような」

 マルースも妹がおにぎりを頬張り、母親がパンの焼き方を実践しているのを見て泣きそうになりながら微笑んでいた。

 

「美味いなぁ、本当に。

 どうせなら、あの四人と一緒にこれを食べたかったよ」

 マルースは見た。

 住人たちのほとんどが、ハグレ王国と主に次の町へ歩み出そうとしている姿を。

 命を捨てて来世に行くのではなく、どうやって生き続けようとしているのかを。

 

 

「ハグレ王国の皆さま」

 そして、これから移動しようとする皆の前に、彼らはやってきた。

 

「あなた達は、教会の?」

 ローズマリーは目の前にずらっと並ぶ教会のシスターや神官たちの前に立った。

 

「も、もしかして、私たちの邪魔をしに来たんですの!?」

「邪魔? なぜです?」

 威圧的な雰囲気にヘルラージュが勘違いするのも無理は無く、しかし先頭に立つシスターたちはその勘違いに小首を傾げていた。

 

「あなたはマルースさんの知り合いの方ですよね? 

 ……やはり、教会の方々はこの場所の正体をご存じですね?」

「なぜ、そう思います?」

「だってあなたは以前、マルースさんにおかえりと言ったじゃないですか、家族でもないのに」

「そういえば、そうでしたね」

 この世界の住人は、終末が繰り返される以前の記憶を持っていないことは検証済みだった。

 だから、このシスターがその情報を知るはずが無いのだ。

 

「我らが神、ビルーダー様がお待ちです。

 試練を超えたあなた方と、そして来世へと向かう皆様に良き旅をお祈りいたします」

 彼女が手を組んで祈りを捧げるのと同時に、周囲の景色が全てが崩れ去った。

 

 

 

 地獄の大地が崩れ、消え去っていく。

 それを見えない足場から見ていたハグレ王国の面々には、もう絶望は無かった。

 

「さあ、行きましょうか」

「その前に、一つ訊かせてくれないか、大神官長」

「えッ」

 目の前の見えない道を先導するシスターを呼びかけるマルースの言葉に、多くのメンバーが面を食らった。

 

「大神官長って、あの町で一番偉い人でちか!?」

「そうだ、そして、かつて俺と共に使徒の頭脳に挑んだ四人のうちのひとりだ」

 そう言って、マルースは遺品の一つである髪飾りを取り出した。

 

「私の髪飾り、まだ持っていたんだ」

 それを見やり、シスターは目を細めた。

 

「ずっと、死んだと思ってた。他の三人も、そうなんだな?」

「私たちは、ビルーダー様の駒に過ぎないわ。

 その役割を今回、皆さまが担っただけ。さあ、私のことなど良いから、行きましょう」

 彼女はそう言って、先導を開始する。

 皆はそれに、黙って付いて行くしかなかった。

 

 見えない階段を上っていくと、雲の上へとたどり着いた。

 そこまで案内すると、シスターは振り返り、微笑んで消えて行った。

 

「ビルーダー様!!」

 そしてその先は、この地獄に堕ちる前の場所へと戻ってきていた。

 

 マルースが駆け寄ろうとした時、女神の前に見知らぬ青年が立っていることに気付いた。

 他の面々も、マルースの元へとたどり着いた。

 女神と青年は、何やら話をしていた。

 

 

 

「■■■■さん、残念ですけどあなたは現世で命を落とされました」

「はい、存じています」

 男は女神を前に、緊張している様子だった。

 

「ええと、あなたはメアリース様でよろしいでしょうか?」

「そう呼ばれている者もいますね。

 私はビルーダー。あなたの信じる神のほぼ同一の別人と言ったところでしょうか。

 要するに担当部署が違うのです。ちなみに私の担当は人事部です」

「はあ、女神様にも人事部なんてあるんですね……」

 青年はやや驚いたようにそう言った。

 

「ふむふむ、どうやらあなたは19歳の若さで亡くなったようですね。

 生前どうやら大きな罪を犯したわけでもなく、善行に励んでいたようで感心です」

「そ、そうですか? 俺、メアリース様に認められるように頑張りました」

 青年は女神に努力を認められ、照れくさそうに頭を掻いた。

 しかし彼は女神が手元の資料を見て僅かに眉を顰めたことに気付かなかった。

 

「これならすぐに来世に転生できます。

 才能、容姿、周囲の環境、他にもいろいろと要望を聞き入れて転生先を選ぶことができます」

「えっと、それじゃあ次の転生先は剣と魔法の世界が良いなぁ。

 前の世界はファンタジーな要素とか全く無くて……女神様に来世は絶対ファンタジーの世界に転生させてもらおうって決めてたんです!!」

「わかりました、他には?」

 さらさら、と女神は青年の要望を手元のボードに書き加えた。

 

「ええと、出来れば勇者パーティの一員とかになれたら良いなって……あ、別にチートとか求めてませんよ? 

 いまどきチートで無双して女の子にちやほやされる展開なんてダサいし。

 でもそれなりに戦えるくらいの才能は有ったら良いなって」

「謙虚ですね、分かりました。要望を通しておきましょう」

「女の子との出会いもあるといいなぁ、でも出来れば生まれはそれなりに裕福だと嬉しいです」

「なるほど、分かりました。たぶん、全部大丈夫だと思いますね」

「えッ、本当ですか!?」

 青年はまさか自分の要望が全て通るとは思わず、顔をほころばせた。

 

「お、俺、ずっとつまらない現実から逃げたくて、でも本当は逃げたくなくて。

 きっと、きっと来世なら俺、逃げないで現実に立ち向かえると思うんです!!」

「ええ、期待していますよ」

 女神は青年に微笑み、ボードにどこからか取り出した判子をポンと押した。

 ボードのクリップに止められた用紙の枠組みに朱印が刻まれる。

 

「えッ」

 その直後だった、青年の足元の雲海が晴れ、真っ逆さまに墜ちて行ったのは。

 

 

 それは、幻だった。 

 その光景が幻影のように消え去り、女神が座っていた場所に資料だけがひらひらと足場に落ちた。

 

「……死因、来世を求めて自殺。地獄行き」

 その資料を手に取ったローズマリーが、赤丸で印がされていた場所を呟くように読み上げた。

 

「そう。あなた達はもう、あの地獄がどんな人間の為に用意されているのかわかったでしょう?」

 幻が消えたすぐ先に、女神はグラスに入った飲み物を仰ぎながら雲のソファーに腰かけていた。

 

「自ら命を絶った、自殺者が墜ちる地獄」

「ええ、その通りよ、罪人■■■■」

 マルースが至った真実に、女神は微笑んで肯定した。

 

「あなたはあの地獄に堕ちる前に、自ら命を絶った。

 私たちが楽園を創ると言う命題を掲げている以上、来世を保証することは避けられない。

 だけど、あなたのように信仰心が高い故に、来世に期待して自殺する間抜けが後を絶たない。

 ──バカばっかり、バカばっかりバカばっかりバカばっかり!!!」

 うんざりして、吐き捨てるように、女神はそう言った。

 

「信仰は、時として生物がリミッターとする死の恐怖を取り除くわ。

 だから私は地獄にて試練を与えた。死の恐怖と、信仰のどちらが勝つかを。

 いつまで経っても間抜けのままの大馬鹿を、私は切り捨てる。そんな間抜けの大馬鹿は、同じことを来世でも繰り返すもの。魂の消去が順当だわ」

「それが、あなたがあんな残酷な環境を与える理由ですか」

 ある種の納得と理解をして、メニャーニャがそう呟いた。

 

「私は、あの場所であなた達がどう行動するか見てみたくなった。

 あなた達はそこの彼をここまで導いた四人よりもずっと多くを短い期間で導いたわ。

 あの町で、あなた達と共に旅立とうとした者達は、全員転生を許すことにした。

 あなた達のことを、私は心の底から称賛するわ」

「ってことは、試練は終わりってことでちか!?」

 デーリッチの言葉に、ええ、と女神は頷いた。

 

「あなた達を試すためとはいえ、多くの負担を強いたことは謝罪するわ。

 あなた達の受けた罰や苦痛の分は、死後に減算しておくから安心しなさい」

「なんだか、得した気がしないなぁ」

 ハピコのぼやきに何名かがうんうんと頷いた。

 

「強欲は身を滅ぼすわよ。あなた達が味わった地獄以上の場所はいくらでもあるのだから」

「はッ、どうだか。お前の作った地獄は結構ワンパターンだったからナ」

 女神の物言いに、イリスも嫌味を返す始末である。

 

「それで、結局マルースさんは赦されたのでしょうか?」

「ああ、そう言えば」

 プリシラの疑問に、ヅッチーも彼の方を向いた。

 

「それは、保留ね」

「ほ、保留ですかぁ?」

「ええ、あなたこれまでどれだけ無茶をしても死ななかったでしょう? 

 それってあの地獄から離れた故に与えた措置なのだけど、もう思い知ったことでしょうしそれはそのままにしておくわ。

 我が祝福として、寿命を迎え死ぬことを命ずるわ。そして死後、改めてあなたの罪科を問いましょう」

 以上よ、と裁可を終えた女神は目の前の罪人に改めてそう告げたのだった。

 

「次」

 次の裁可を行う女神は、あっさりと面々をこの場から追い出した。

 

 

 

『 来世を想う 』

 

「結局、マルースさんと一緒に戦ったっていう四人の英雄って何者だったのかしら」

 ハグレ王国の拠点に戻ってきた面々は、各々の生活へと戻っていく。

 とても観光旅行とは思えない過酷な行程であったが、各々がいろいろなことと向き合えたので不満のようなものは全く見受けられなかった。

 

「あれは使徒の一種よ」

「あの人も、ビルーダー様の使徒だったんですか?」

「より上位の、ね。私たちが死後、魂をリセットして転生させるのに惜しいと判断した人材を、当人の同意を得て契約し、色々なところに派遣しているのよ。

 生死の概念を超越した、ある種の精霊ね」

「ああ、つまりサーヴァ──」

「それ以上いけないわ」

 好奇心旺盛なエステルが危ないことを言おうとするので、ビルーダーはやんわりと止めた。

 

「ああ、やっぱり有りましたわ、自殺者地獄。

 自殺者が墜ちる地獄。どこかで読んだ覚えがあったのに、思い出せませんでしたわ」

 ヘルラージュが本棚からビルーダーの地獄に関する著書を持ち出してそう言った。

 

「そう言えばヘルちん、あのイメージの地獄の中から出てもぴんぴんしてたよなー」

「ヘルちんでちからねー、名前はヘルなのに地獄に似つかわしくない女!!」

「二人とも、それは褒めてませんわよね!!」

 子供二人におちょくられて、憤慨するヘルラージュだった。

 

「妹も、母さんも、良い来世に巡り合えただろうか。

 親父はもう居なかったし、ちゃんと行けたんだろうか」

 そしてマルースは、家族の行く先を心配していた。

 

「そう言えばマルースさん、あの妹さんの名前、マリだったんだろ? 

 これってローズマリーに妹のこと重ねてたってことか?」

「なんだよ、悪いのかよ」

 そんな彼もジーナにからかわれていた。

 

「何だか、色々と空回りしてたのを思い知った気分だ。

 ビルーダー様の仰る通りだった、また同じことをするって。

 俺はこっちに来ても、前世と同じことを繰り返そうとしてたんだよ。

 ……本当に、馬鹿で間抜けだった」

「まあ、滅多にない経験を得られたということで良しとしようじゃないか。

 あの町は確かに地獄だったが、毎日皆で料理を作るのは楽しかったじゃないか」

「そうだな、これまでの後悔をこれからに生かせばいいか」

 ジュリアに励まされ、マルースもうじうじするのを止めたようだった。

 

「と言うことで、さっそくメニャちゃんとのデートプランを組み立てるかー!! 

 ビルーダー様に命ぜられた通り、俺は精一杯人生を生きるぞー!!」

 そしてすぐにそんなことを始める彼を見て、呆れる皆であった。

 

 

 アナザーストーリー、『スーサイドヘル』 完

 

 

 




これにて、マルース編のオリジナルストーリー終了です。
今回は全編シリアスでしたが、マルース君本人よりその周囲に与える影響が大きい話となりました。
これにて彼に秘められた話は全て出しつくした形です。

ハグレ王国の面々は、はむすた氏のブログにも書いてあったとおり最終的に強くなりすぎてしまいます。
では力押しでは通用しない場面が出てきたら?
それが今回の、ハグレ王国の戦い方です。実際、四章でも力押しが通用しない場面が出てきますしね。
それらとは違って、今回は精神にダメージを与える方向性にしました。だから地獄にいる最中、みんな案外荒んでいます。

この後、後日談というかどんな光景を見たか語られたなかったペットたちやドリントル、ハオ、こたつちゃんの反応などを描写したり、マルース君とマーロウさんのやり取りなどを書き終えてから、四章へと行く予定です。

魔王タワー編は書かないでしょうし、水着イベント以降は書くかどうか悩んでいる最中です。
オリジナルの水着イベントでもいいのですが、まあその辺がおいおいで。
まだ四章と、その最後のビルーダー編や天界編が残っていますので。

それでは、ここまで人の選ぶ展開や長いあとがきを読んでいただき、ありがとうございました。
では、また次回!!

今回のオリジナルストーリーについてのアンケートお願いします。

  • 面白い!! 続きが気になる!!
  • シリアス描写がキツイ!!
  • キャラの掛け合いが足らん!
  • 設定をもっと掘り下げて!!
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