この世界には、世界樹が三本ある。
何を言ってるのか分からないと思うが、それが事実である。
神話では世界で唯一の巨木となっているらしいが、神話など所詮過去の出来事を抽象化した物語に過ぎないと言うことなのだろう。
俺たちは今、モジャーク大森林の中に位置する南の世界樹へとやってきていた。
先日の王国会議でサムサ村の一件と合わせてハピコから提案された、ハグレの巫女さんとやらが協力を要請していると言っていた場所だった。
問題は何を協力してほしいかと言う内容だったが、それを解読するのは俺も匙を投げたレベルなので直接伺いに来たというわけだった。
現在デーリッチとローズマリーの二人がその巫女さんに挨拶に行っている。
「ジーナちゃん、頼んでおいた剣、いい出来じゃないか」
その間に、俺たちは先日召致した鍛冶屋のジーナに注文しておいた武器のチェックしていた。
「ん、当然でしょ。パン屋のパンが出来が良いのと一緒よ」
と、基本こんな風に素っ気ない態度のクールな女性である。
「はぁ~、たまらないよなぁ、うし君。
俺はスレンダーな娘が好みだが、ああいう連れない態度の女が特別な相手にだけ見せる優しさとか表情とか、想像するだけで十分行けるわ」
「わかるわかる。ああいう金髪の飾り気のない服装の女性が、時折フッと見せる女らしさとか最高だよなぁ」
俺とマッスルはそんな彼女を見て意気投合していた。
ガードが堅い方が俺は燃えるタイプなので、俺は新しい楽しみを発掘した気分だった。
「それにしても、かれこれ30分ぐらいになるが、挨拶にそんなにかかるもんかね?」
「あんな手紙を寄越した相手だからねー、相手の話の内容をまとめるのに手間取ってるのかもよ?」
かくして、そのように言ったハピコの予想は大当たりだった。
「みんな、この荷物をそれぞれ持ってくれないか」
やがて、ローズマリーが小屋から大量の荷物を外に運び出してそう言った。
「何の荷物だ、これ?」
「この世界樹の飾り付けでちよ」
不思議そうに荷物を見下ろすマッスルに、同じく荷物を抱えたデーリッチが言った。
「あの、それで結局どういう話だったのです?」
一番気になっている所を、福の神様が問うた。
「ええと、なんでも、世界樹のお祭りが明日にまで迫ってるらしくて。
我々はその飾り付けの為に呼ばれたそうです」
「なんじゃそりゃあ……」
これには提案者のハピコも呆けてしまった。
「それでは皆さん、よろしくハオー!!」
そして最後に中から件の巫女さんが現れて元気に飾り付けの荷物を掲げた。
その見るからに野性的な格好に、ああ巫女服じゃないんだな、と俺は思ったのだった。
§§§
「じーッ」
「ハオちゃーん、そんなにマッスルを見たって食えはしないぞ。
アイツは鍛えてるから肉は硬くて食えたもんじゃないだろうしな」
「えーッ」
何やらマッスルのことを非常食としか見えていないらしい彼女に、俺は友人を守るためにそう言った。
うーむ、こういう健康的な子は嫌いじゃないんだがなぁ。
「ほら、牛タンって舌先は良く動かすから硬いだろう?
アイツは普段から全身鍛えているんで、きっと食えんよ」
「そ、そっかー……」
俺の懸命な説得に、がくりとハオは肩を落とした。
ついでにマッスルも安堵の息を漏らした。
「じゃあひき肉にすればよくない?」
「あ、そっか!! ナイスアイディアハオ!!」
「お前何言っちゃってるのぉ!? しかもメチャクチャ残虐なことナチュラルに言ってるぅ!!」
しかしすかさずハピコが彼をいじるもんだから、マッスルは生命の危機を感じて叫び声をあげた。
「いつもこんな感じなの?」
「ええ、まあ」
そんなやり取りを眉ひとつ動かさず見ていたジーナが横を歩くローズマリーに尋ねると、彼女は苦笑交じりにそう答えた。
「まあ賑やかなのがうちの良い所ってことで」
「しんみりしててもつまらないでちからね!!
せっかく観光名所に来たんでちから、みんなでわいわいしながら進むでち!!」
「そう、だねッ!!」
その賑やかさに惹かれるのか、世界樹の内部に巣食う魔物が現れ、その出鼻を挫くようにジーナは魔物をハンマーで粉砕するのだった。
……
………
…………
「しかし、本当に魔物が多いな」
俺は先ほどハオとデーリッチとローズマリーが話していた話しの内容を思い起こす。
「信仰篤き場所だと魔物は寄り付かないはずだが。
ハオちゃんの話だと、最近になって増えていると言う話だし。どういうことだ?」
俺たちは飾り付けを世界樹にしながらクモが巣食う遺跡部分などを超え、この樹の守護する神様がおわすというティーティー様の部屋の前まで来ていた。
道中、ハオの天真爛漫さにジーナの態度が軟化するという微笑ましい場面もあったが、それは後で思い返そう。
大勢で押しかけられるわけもなく、でちロズコンビと巫女であるハオだけが中に入り、仲間たちは周囲を警戒していた。
だがしばらくすると、中からハオが槍を片手に飛び出してきた。
「うわ!? どうした、ハオちゃん」
「うん、あのね、ティーティー様がお話があるから魔物掃除でもしてろって言ってたんだお!!」
「あー、何やら込み入った事情があるのは確定か」
神様自ら二人にだけ話が有るとは、余程の事情があるのだろうか。
「ああ、もしかしたらあの事かもしれませんね……」
「福の神様、何かご存じなんですか?」
「ええ、前の神様会議でティーティー様によく絡む子が言ってたんですよ。
この彼女が管理するここの世界樹の認定が取り消されたって」
「ええッ!? 認定が取り消されたなら、じゃあなんでお祭りの準備なんてしてるんすか!?」
福の神様のお言葉に、ハピコが目を見開いてそう言った。
確かにここが世界樹でなくなるなら、自働的にここのお祭りは立ち消えるはずである。
「そもそも、俺は世界樹の認定とやらが取り消される意味が分からないんですが」
「そこはほら、世界樹の認定をしている帝都の自然観光局の都合では?」
つい先ほど、この世界樹に来たばかりの頃にでちロズコンビが世界樹が三本あるのは大人の事情だと言っていたのを俺の記憶にも新しかった。
「信仰の対象を人間の都合で消すとか消さないとか、馬鹿げてる」
「それに関しては、私も複雑な気分ですね」
福の神様もその辺の事情に関して思う所があるのか、表情を曇らせておられた。
そんな会話をしている俺たちを尻目に、ハオは元気に槍をぶんまわして魔物を倒していた。
……
………
…………
かくして、ティーカップの中におわす手のひらサイズの神様、ティーティー様から俺たちにも事情が語られた。
ひと月前ほど、三つの世界樹の中で一番マイナーで経済活動が活発ではないここの世界樹がそれを理由に認定を取り消されたのだと言う。
世界樹は神話にひとつ。どうせ矛盾しているのなら、三つよりは二つの方が良いと言うことだ。
今回、俺たちを呼んで世界樹の祭りを行おういうのはほぼハオの独断らしく、これはティーティー様は自分たちの自己満足に過ぎなかったと仰った。
そんな二人に感化されたデーリッチとローズマリーは持ち前のお人好しさを発揮し、祭りを手伝うと宣言。そう言う事情なら、と俺たちも了承した。
道中、世界樹の認定がそんなに大事なのかと、デーリッチが疑問に思ったのを、ハピコが偽物だと儲からないから大事だ、と返した。
偽物と言う言い方に失礼じゃないのか、というデーリッチにティーティー様は自分はハグレの神に過ぎず、世界樹にはハオと一緒に住みついているだけなのだとか。
それからと言うもの、彼女の神徳なのかこの南の世界樹に人気が出たのだと言う。
行く場所の無かった二人には、この世界樹は俺にとって福の神様のような存在だったのだ。
しかし人気が出たことで、ティーティー様は世界樹を憂いていた。
葉をむしられ、枝を取られ、悪童に落書きされ、最後には捨てられる。
有名になったことを恨んでるのではないのか、と。
だがハオは、そんなことを言う祭神を、笑顔でらしくないと励ました。
そんな二人の光景に、俺もちょっと己を恥じた。
やっぱり神職の人間に情欲を向けるのは良くないよな、うん、反省。
そんなことを考えていると、突然デーリッチが大声で泣き出し始めた。
この世界樹に来た時、世界樹なんて三つもいらないから私だったら一つにしてやると軽く言ったことに対して、二人に感情移入しすぎて泣き出してしまったのだ。
こうなったら泣き止むまで待つしかない、とローズマリーも肩を竦める。
ハオに飴ちゃんを差し出されても、泣き止まないデーリッチ。
「よしよし、でち子。お前は何にも間違ってないぞ。
だがお前はややこしいのは止めて一つにまとめてしまえば良いと言ったんだ。
お前は本質をよく理解している。だから気に病む必要は無いぞ」
見かねた俺はデーリッチの頭を撫でて、ハンカチで鼻水を拭いてやった。
「世界樹が三つだろうと百あろうと、信仰の対象が別にそれぞれ違うわけじゃないだろう?
信仰すべきものが一つなんだから、それを間違わないようにしようって意見は間違いじゃない。
どれが本物か、どれが偽物かなんて関係ないんだ。俺の故郷でも御神体はいくつもあったが、誰も唯一無二の信仰の対象を見誤ったりしなかった。
まあ、今回の場合、大事なのは神話のじゃなくこの世界樹なんだろうけど」
「ひっぐ、ひっぐ、でもぉ」
「だから泣くなよ、な?」
……
………
…………
「……ああいうしっかりとした考えを持った人間が、どうしてああも女性に対してちゃらんぽらんなんだろうか」
彼がデーリッチを慰めている様子を後ろから眺めているローズマリーがぼやいた。
「あの、福ちゃんから何か一言ぐらい言って貰ったりできませんか?」
「むしろ、私が彼の女癖に対して何も言わなかったとでも思いますか?」
「ああ、そうでよね、すみませんでした」
彼女に即答した福ちゃんに対して、ローズマリーは素直に失言を謝罪した。
「しかし、信仰の対象に苦言を言われても直さないとは筋金入りですね……」
「うーん、それがですね。どうも違うみたいなんですよねー」
「え、違うとは?」
「信仰の対象ですよ。彼は私を神として最大限に敬ってくれていますが、それがどうも信仰の対象とは違うみたいで。
私たち神は信仰が自分に向いているかどうかぐらいは分かりますから」
「それってつまり……」
「まあそう言うことなんでしょうね。
彼の女癖も信仰心と同じぐらい身持ちが堅ければいいんですけど」
これには福ちゃんも苦笑いを禁じ得なかった。
「まあ、人間ひとつくらい欠点が有る方が可愛げがあるじゃろう」
話しの成り行きを見守っていたティーティー様が、彼と一緒にデーリッチを慰めているハオを見ながらつぶやいた。
「ああ、そう言えば福ちゃん。何だかごたついていて機会を窺っていたら挨拶が遅れてしまったのう」
「いえいえ、気にしないでくださいティーティー様。
うちはここのハグレ王国みたいにゆるい感じでやってるんですから」
「ゆるいって、まあ否定できませんけど……」
もうちょっと気を引き締めて取り組むべきか悩んだローズマリーだったが、意外に早く泣き止み始めたデーリッチを見やり、その考えを霧散させたのだった。
§§§
外のざわめきが、遠く聞こえる。
今頃世界樹の外では祭りで盛り上がってるのだろう。
しかし俺の思考は祭りではなく、この世界樹の頂上に有る会食場の惨状に向いていた。
このダンスパーティが出来るくらい広い会食場に、見上げるほど巨大な大型の魔物が現れたのだ。
祭りの準備の最中にこの頂上に到着した俺たちは、はむすけ&ドラゴンと名乗る小悪党と遭遇した。
会食場を物色していたそいつを懲らしめるべく、キックの届かないドラゴンの頭上の小動物に対して俺たちは魔法攻撃を連発して一方的に滅多打ちにしていたその時だった。
まるで虚空から現れ出でるように、その四足歩行の怪物が現れたのだ。
奴ははむすけ&ドラゴンを蹴散らすと、俺たちに牙を向けたのだ。
強大な敵だったが、大技の後に隙が出来るのを見破った俺たちは、その大型魔物を辛くも撃退した。
「ジーナちゃん、祭りに行かなくて良いのかい?」
俺は踏み荒らされてボロボロになった床を一人黙々と直しているジーナに問う。
「ああいう騒がしい雰囲気は得意じゃなくてね」
「またまたぁ、実は俺と二人っきりに――――ああ、ごめんなさい、何でもないです、ハンマー投げようとしないで!!」
クールに見えてわりと容赦のない彼女は持っていたハンマーを振り上げこちらに投げようとしていたので、慌てて訂正した。
あの大型魔物討伐で一番活躍したのは彼女の一撃だ。そんなものを喰らってはたまらない。
「……それで、あのデカブツが出てきた理由は分かったの?」
「いいや、わからん」
俺は首を左右に振った。
彼女も期待していなかったのか、深くは聞いては来なかった。
「既存の召喚魔法の理論では説明が付かない。
あれだけ巨大な魔物を召喚するにはそれ相応の準備が必要だ。
なのに奴は前触れも無く唐突に現れた」
いや、前兆はあった。
ハオはあれが現れる寸前から邪気を感じていたと言っていた。
つまりあの化け物は俺たちが現れるより前から召喚の準備段階にあったと言うことだ。
では術者が俺たちが現れる前に召喚の準備をあらかじめしておき、自働的に召喚がなされるように仕向けられていたと言うのだろうか。
……いったい誰が? 何のために?
あの小動物とドラゴンにそんな技術を持っているとは思えない。
或いは他の世界樹がここの世界樹の認定を取り消させる為に?
いや、それだと遅すぎる。そもそも他の世界樹の経済効果はこことは比べ物にならない。陰謀論に過ぎない。
「ダメだ、やはり説明が出来ん」
ティーティー様は世界樹の信仰が失われてきたからと言うだけでは説明が付かないと言っていた。
俺にはそれも同感だ。信仰が無いくらいであんな化け物が現れるなら、そこら中が化け物だらけだ。
それに……。
「……まだ前日だと言うのに、もう100人超えてるんじゃないのか」
俺は思考の迷路に嵌った頭を冷やすべく、世界樹の頂上から地上を見下ろす。
誰も来ないと思われていたお祭りだったが、ハオはとにかく手当たり次第に手紙を出したらしく、ティーティー様の予想を裏切り既に祭りをするには十分な人数が集まっていた。
「馬鹿の考え休むに似たり、か。
俺も屋台の設営の準備とか手伝うかねぇ」
俺は、誰にも頼まれもしていないのに床の修繕をしているジーナに声を掛けた。
「おーい、ジーナちゃん。下で一緒に愛のかすがいを打ち込みに行こ――――げぶらッ!?」
は、は、は……過激だなぁ……がくり。
ちなみに、翌日の祭りは世界樹の最大動員数を記録するほどの盛り上がりとなり、認定が取り消されたことにより暇になったハオとティーティー様の二人はハグレ王国に参加する事となった。
それと同時に、半年前に派手なピンク髪の怪しい召喚士が来たという情報を齎して。
……俺もそろそろ、あの組織と向き合う覚悟を決めるべきなのだろうか。
今回はどこまで原作を端折るかでちょっと悩んで遅れてしました。
マルース君の某イベントの能力値はこんな感じ。
統率8 運動6 知力7 技術7 魅力6
6以下は無いけどどれも突出して優れてはない感じ。まさに器用貧乏。
警備隊長、参謀長、技術長、料理長は出来るけど、汎用性を重視する為どれにも最終的にどれにも選ばれないタイプ。いや、それぞれ優秀な面子が集まるってのもあるけど。
スキルは特技タイプ。
どんなスキルを持つかという設定は追々。
でもパッシブが多めで、本人の能力に依存しない珍しいスキルを持つ支援型。
次回はこドラが仲間になってます。
次元の塔は、基本主人公はあまり絡みません。そのあたりは次回で。
この作品で期待している今後の話しの内容は?
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オリジナル展開
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原作の綿密な描写
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キャラ同士の掛け合い